ーー奇跡を目指していた彼女たちの通っていた場所を訪れたら、その輝きに少しでも触れられるんじゃないか、そう思っていた
降り立った駅から見える海は、どこまでも青く輝いていて、空の青さと境界線は曖昧に見えてくる。視点を変えみると、白く雪化粧した日本で一番高い山、富士山が見えた。自然豊かなこの光景を毎日見ながら、憧れのあの人たちはここから日本中のスクールアイドルたちの憧れの舞台にたったのかと思うと何とも感慨深いものがあるように思えた。
「と、いけないいけない。えと、ここからの行き方だけど……って、バス停もなくなってるじゃない!? え~これはちょっと想像外かも」
目的地まで走っているはずのバスは、学校の廃校とともに無くなっていた。バス自体は走っているものの、田舎だからか次の発車までは1時間近くはあった。元々衝動のままに此処まで来たとはいえ、これは手詰まりかもしれない、そう少女、御崎凪夢は思った。
「でもなぁ、せっかく此処まで来たんだから、やっぱり見てきたいよね。どうしよう、歩いて行けるのかしら」
凪夢はそう一人、呟きながらバスの配線図を睨みつける。うーん、と眉を寄せつつ考え込んでいると、
「ねぇ、お嬢さん。いったい何をしてるの?」
配線図を穴が空くのではないかと睨んでいた凪夢に、作業着を着込んだ女性が話しかけてきた。
「え~と、行きたいところがあったんですが、どう行けばいいか悩んでまして」
「ん?それってもしかしてだけど、浦女かな?」
「あはは、実はそうなんです」
作業着を着た女性は得心いったといった顔つきで、凪夢の顔を見る。
「結構いるのよ、浦女を目当てにくる子ってさ。ホンと、3年前は観光客の半分くらいはそれ目当てでさ。俗に言う聖地巡りっていうのかしらね、みんな同じように配線図見て茫然としてるのまで反応一緒なんだから」
そう言いながら、女性は誇らしげな、そして寂しげな表情を浮かべた。
「よし、せっかくだからお姉さんが浦女まで送っていってあげよう」
「え!?いいんですか!?」
「浦女に行きたいってことは、貴女もスクールアイドルを目指してるんでしょ?それなら内浦にいるものなら大歓迎だよ」
そういって、女性は近くに停めていた軽トラに乗り込むと凪夢のところまで車を回してきた。荷台には「内浦みかん」と書かれた段ボールがいくつか乗っており、仄かに柑橘類の香りがしているようであった。
「私は浦女近くにみかん畑を持っててね、近くまで行くついでに貴女も送っていってあげるよ」
「ありがとうございます、どうしたらいいか困ってたので、本当に助かりました」
「いいっていいって!……それに、浦女の名前をこうして残してくれたお陰で着てくれたんだ。あの時、彼女たちにそれを望んだ者としは当然のことなんだよ」
「それって、どういう…」
「あはは、気にしないで!ところで、お嬢さんの名前は何て言うの?」
「わたし、私は凪夢、御崎凪夢っていいます」
「凪夢ね、可愛い名前ね。私はよしみっていうの。短い時間かもだけど、よろしくね」
ーーーーーーーーーーーーーー
凪夢はよしみの運転する軽トラの助手席に乗りながら、彼女と色々な話をした。なんとよしみは元浦女の生徒であり、あのラブライブ!で優勝したAqoursのメンバーと同級生だったのだと話した。
「Aqoursはさ、私ら内女の在校生たちからしたら憧れで、アイドルで、そして廃校っていう現実に立ち向かう英雄みたいな存在だったんだよ」
「……英雄、ですか」
「そう、ただ廃校っていう現実に対してさ、本気でどうにかしようと抗っていたのは彼女たちだけだった。そして、あれだけ頑張ってたけど廃校の現実は変わらなくてさ。それでも千歌は、Aqoursの皆は浦の星女学院の名前を忘れてほしくないって私らの願いを、ラブライブの優勝って形で残してくれた」
よしみの言葉に、凪夢は黙ってその話を聞いていた。彼女たちを最初にみた時、何と楽しそうに歌って踊るのだろうと思った。彼女たちのようになれれば、空っぽな自分も変われるのだろうか、そう思って衝動のままに此処まで来た。
しかし、実際にAqoursの姿を間近で見ていたよしみの言葉は、輝きの裏に積み上げられた期待や願いを一心に背負っていた少女たちの苦悩を語っていた。
「だからさ、あの時いたAqoursの皆は内浦から離れてしまっているから、残っている私みたいなのが凪夢ちゃんみたいな子に伝えているの。うちらのスクールアイドルは凄いんだぞってさ」
そうはにかみながら、誇らしく語るよしみの顔を、凪夢は直視することが出来なかった。
車を走らせて20分ほどだろうか、凪夢を乗せた軽トラは目的地である浦の星女学院に辿り着いた。人の気配が無く、もの悲しさを漂わせるその光景を見た凪夢は、ズキッと心臓が握られたような痛みを覚えた。
「それじゃ、私はまだ仕事があるからさ。学校を見学してもう十分ってなったらまたスマホに連絡してよ」
「分かりました、よしみさん。何から何までありがとうございます」
凪夢の言葉によしみは笑顔で手を振ると、そのまま軽トラを走らせていった。それが見えなくなるまで凪夢は見送り、そして、校門に手をかけた。
「あれ?鍵、空いてるんだ。そうだよね、見学者が多いって話だし、施錠してないのかも」
凪夢はそう言うと、胸を押さえながら校門を開いた。手入れされてないからか、開きが悪い扉はその年月の経過を、廃校という現実を否応なしに伝えてきた。
凪夢は一人、校舎を歩いていた。いたって普通の校舎を目にして凪夢はAqoursがただの高校生だったという現実をこの時になってようやく気付いた。ただ、学校を守りたいという想いで、願って、頑張って、がむしゃらにやってきた果てに現実の壁にぶち当たりながらも、最後まであがき続けた彼女たち。
「私は、私にはきっと無理だよね」
無理だ。そんな強さ、自分にはない。ただ憧れに手を伸そうとしている空っぽな私にはきっと……
「……歌?」
落ち込みかけていた凪夢の耳に、聞き覚えのあるフレーズが聞こえてくる。何度も聞いた、あの曲だと。Aqoursがラブライの本戦で歌っていた、大好きな曲。
「……WATER BLUE NEW WORLDだ」
歌声は屋上から聞こえてくるようだ。中庭にいた凪夢は視線を上に向けると、人影らしき姿がチラリと目に入ったような気がした。
凪夢は歌声のするほうに走り出した。校門に手をかけたときとは違う、何かが始まるような期待に胸が高鳴るのを感じながら。
とりあえず構想についてはメンバー結成までは固まっているけど、その後については未定です。反応が良ければ定期的にあげていくかも。