「なんで部活動登録できないのよ!」
部屋に大きな声が響き渡す。声の主は光莉だ。それに対し聞いている側の生徒会長、雪代雫は持っていた湯飲みをズズっと音を立ててすする。雪代雫はまさに生真面目という言葉がそのまま人間の形をしているような人間だ。左右に分けられた三つ編み、分厚い眼鏡、きっちりと着こなされた制服からその融通の利かなさを否応なく感じさせてくる。。
その反応が思ったものと違ったのだろう、光莉は苛立たし気に雫を見る。同じように、声に出さないものの白音も不機嫌そうな表情を浮かべている。逆に、戸惑うような慌てた様子なのは凪夢だ。それぞれの反応に右往左往し、どうしようかと困惑している。
「だって、同じような部活が二つあっても意味ないでしょ?」
当然でしょ、とでもいうように、雫は半目で光莉をにらむ。その表情に光莉はひるみかけるも、その言葉の意味を考え聞き返す。
「同じようなって、この学校にスクールアイドル部ってあったの?」
「……ええ、ありますよ。もっとも、部員は今は一人だけしかいませんが」
光莉の問いかけに対し、雫は無表情に答える。その言葉に対し、白音は眉根を寄せて雫を見るが、彼女はその視線を黙って受け流した。
「えっと、そのスクールアイドル部ってどこにあるのでしょうか?」
控えめに、しかし確かめるように凪夢は雫に尋ねた。
「部室棟よ。そこから先は自分で探しなさい」
そういうと、雫は話は終わりといわんばかりに目の前の書類仕事に取り掛かった。その様子に文句を言おうと光莉は声を荒げようとするが、凪夢が光莉の手をぎゅっと握り閉めた事で落ち着きを取り戻した。3人は雫に背を向けると生徒会室から出ていった。その後ろ姿を、雫が何か言いたげな表情で見つめていたことに気付かないまま。
「何なのよ! 生徒会長ってあんなに感じ悪い人だったなんて知らなかった」
腹に据えかねているのか、光莉が苛立たし気に言葉を漏らす。それに対し凪夢は考え込むように答える。
「あまり良くは知らないけど、そんな悪い評判はきいたことないんだけどなぁ。単に虫の居所が悪かっただけじゃないかな?」
「虫の居所? お腹に寄生虫でも飼ってるのかな……」
光莉の言葉に、白音が呆れたような、残念なもの見るような目を光莉に向けた。そしてため息をつくと
「……光莉は日本語を勉強し直した方が良いんじゃないかしらね」
と言葉をこぼした。凪夢はそんな白音に「光莉、頭は残念な子だから」と苦笑する。
「な、なによ、バカだって言いたいわけ!?」
「人があえて言葉にしなかったのだから、察しなさいよ、バカ女」
「なんだとー!」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてよ!?」
睨みつける光莉に不機嫌そうにそっぽを向く白音。そんな二人を見ながら凪夢はこんな調子で大丈夫かなと、不安に思うのだった。
そんな調子で騒がしく歩いていると、目的地である部室棟が見えてきた。3人は部室棟の案内図を見てみると、そこには部屋ごとに部の名前が書かれていた。その中には彼女たちが探していた「スクールアイドル部」の名前が書いてあった。
「本当だ……大瀬崎にもあったんだ、スクールアイドル部」
「光莉、貴方は水泳部だから何部があるかくらい知っておきなさいよ」
「だ、だって私はいつも直接プールや施設に行くから! それなら凪夢っちこそスクールアイドルになりたいなら知っているでしょ!?」
「わ、私は光莉に断られた時点で、諦めていたし……」
「あ~と、その、ごめん……」
「光莉……」
3人は部室棟案内の前でわーわーと騒ぎ立てた。その様子を周りもどうしたのかといった様子で見ていると、野次馬を間をぬうように一人の少女が3人に向かって近づいていく。そして腕を組み、仁王立ちに3人を睨みつけると大声で怒鳴りつけた。
「うっさいわよ、かしまし娘ども! 騒ぎたいなら他所でやんなさい!」
こうして3人は探していたスクールアイドル部の唯一の部員、渡瀬紅葉とファーストコンタクトに成功する。最も、出会いとしては最悪の印象になってしまったのは言うまでもない。
3人を怒鳴りつけた後、紅葉は真っすぐに部室棟に向かって歩いて行った。それを見送った3人の視線の先には、表札に手書きで書かれた「スクールアイドル部」の文字が目に入る。それを見て、3人は顔を見合せた。
「あの人、あの部屋に入っていったよね?」
「ということは、あの人が生徒会長の話していた……」
「スクールアイドル部の唯一の部員、ということね」
顔を見合せていた3人は大きく頷くと、真っすぐに目的地だったスクールアイドル部を見つめる。そして連れ立って部室へと足を進ませた。そして扉の前までいくと、代表して光莉が扉をノックして声をかける。
「失礼しま~す! 入部希望で来たんですけど!」
しかし、中から返事が返ってこない。光莉は同じように大きな音を立てながらノックをし、扉の向こうの相手に声をかけるもやはり返事はない。3度目の正直と言わんばかりにノックをし、大声で
「あの~入部希望で———」
声を上げようとした瞬間、扉が勢いよく開く。不幸な事に一番扉の近くにいた光莉は開いた扉に思いっきりおでこをぶつけて「あがッ」と女の子がだしてはいけないような悲鳴をあげた。あまりの痛みにおでこを抑えて涙目になる光莉を心配そうに見つめる凪夢と、呆れた表情を浮かべる白音の前に、目的の人物が顔を出す。
「うっさい! 聞こえてるし、あえて無視しているんだから気付きなさいよ!」
部室の中からそう言って、紅葉が3人の前に再度、姿を現した。
感想、評価をよろしくお願いします。