「お断りよ、帰りなさい」
3人を半目で一瞥すると、紅葉はそう言い放った。小柄な体躯に真っ赤なサイドテールが特徴なその少女は、その体格には見合わぬ鋭い目つきで3人を睨みつけた。
「何でですか! 私たちはスクールアイドルをやりたいんです!」
拒絶する紅葉に対し真っ先に異を唱えたのは光莉だ。しかし、そんな光莉の言葉に対し、紅葉は小さく嘆息する。そして、諦めたような、投げやりになったような表情を浮かべながら再度、拒絶の言葉を口にする。
「迷惑なのよ、お遊び気分で来られても。半端な気持ちでやるものじゃないの」
「あら? それはどういう意味で言っているのかしら?」
「素人がいくら集まろうと時間の無駄だって言っているのよ」
紅葉はそう言って小馬鹿にするような口調で白音に告げた。その言葉に、白音の眉毛がピクリと反応し、光莉は怒りに髪を逆立てた。そんなピリピリした空気にすっかり飲まれてしまった凪夢はあわあわと慌てているも、どうする事が出来ない。
「ふーん、素人ね」
「なによ、何か言いたいわけ?」
「いえ、地区大会にも出た事の無いような弱小スクールアイドル部の部長がやけに上からものを言うものだって感心していたのよ」
「は? 今なんて?」
「あら、聞こえてないのかしら? 背が低いと頭も悪くなるのかしら? 弱小部の部長が偉ぶっていて、恥ずかしくないのって言ってるのよ」
白音の紅葉を挑発するような言動に対し、紅葉はカッと目を見開くと、白音を鋭い眼光をもって睨みつける。そんな紅葉の雰囲気をまるで気にした様子もなく、涼しい顔をして白音は受け流した。
「上等じゃない、なら勝負しようよ」
「勝負?」
紅葉は口角をぴくぴく震わせながら、挑発するように白音に話しかけた。それに対し興味深そうに白音は紅葉を見た。
「ええ、スクールアイドルなんだから、勝負は歌と踊りで決めようじゃない」
そういうと、紅葉は壁に貼ってあったポスターまで近づくと、振り返りながら壁をバンッと音を立てて叩いた。
「来月にね、この地域のちょっとしたイベントがあるの。開港祭っていうんだけど、そのイベントで対決してみようじゃない」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私たち、まだ出場できるような実力は———」
「良いわ」「良いじゃない」
「へ?」
慌てて断ろうとする凪夢に対し、好戦的な顔を浮かべる白音と光莉。二人は紅葉の言葉に対して挑みかかるような表情を浮かべる。
「鼻を明かせてやるわ」
「その喧嘩、買おうじゃない」
「ふ、二人とも?」
紅葉の言葉にすっかり頭に血が上ってしまった二人は売り言葉に買い言葉で勝負を受諾してしまう。そんな二人の様子に凪夢は頭を抱えて狼狽する。
そんな状態の二人をみて、紅葉もまさか受けるとは思わなかったのか、驚いた表情を浮かべる。しかし、すぐにその顔を引き締めて再度、二人を挑発する。
「あとで謝っても知らないわよ」
「「上等よ!!」」
「待って、ねえ、待ってよ! どうして、なんでこうなるの~!?」
互いに視線を逸らすことなく睨み合う三人に対し、悲しげに声を上げる凪夢を気に掛けるものは誰も居なかった。
部室を出た3人は、校内の中庭に移動すると横一列にベンチに座った。そして、しばらく沈黙したかと思うと、光莉が白音を睨むように問いかけた。
「んで、どうするのよ」
「……悪かったわよ。でも、光莉だって怒ってたじゃない」
「わ、私はまだ冷静だったし」
「———二人ともだよ。光莉はともかく、白音さんもこんなに気が短いなんて思わなかった」
「「ご、ごめんなさい」」
自分は悪くないとでも言いたげな白音と光莉に対し、凪夢は呆れた表情を浮かべながら二人を見た。その視線に耐えられなかった二人は揃って凪夢に頭を下げた。
「それにしても、どうしたものかしらね」
「挑発受けて勝負を決めた人間のいうことじゃないな」
「何よ、あの時は貴女だって」
「少し黙って」
「「ご、ごめんなさい」」
凪夢は冷たい瞳で二人を睨みつけた後、ふぅと小さくため息をこぼした。
「やっぱり、勝負はやめにしてもらうよう頼みに行こうよ」
「やだ」「いやよ」
「なんでよ!?」
凪夢の言葉に二人は息もピッタリに返答する。さっきまでいがみ合っていた筈なのに、こういう時ばかり気が合う二人に対し、凪夢は頭を抱える。
「私たち、まともに練習もしたことないのに勝負なんてできるわけないよ!?」
「やってみなきゃ分からないよ」
「というよりも、あの女に頭を下げるのが嫌」
「なんでこういう時に限って強情なのよ……」
頑として勝負を諦めようとしない二人に頭が痛くなる想いの凪夢。どうしたものかとため息をついた彼女に「ねえ、お困りのようだけど」と声が掛けられた。
「なんだか暗い顔をしているから気になったのだけど、どうかしたの?」
その言葉に凪夢は声のするほうに顔を向ける。その先に居たのは校章を見る限り、上級生というのは分かる。誰だろうかと凪夢が小首を傾げていると、目の前の少女は慌てたように答える。
「ごめんね、部室棟から凄い声が聞こえてきた時から気になってさ。もし、何か困っていることがあれば相談に乗ろうかと思って」
そういって、梶浦美々湖は笑みを浮かべた。心底困っていた凪夢はダメで元々と経緯を美々湖に話した。ふむふむと頷きながら美々湖は話を聞き、そして
「————なるほどね。そういうことならお姉さん、力になれると思うわよ」
と、自信満々に美々湖は答えた。その言葉に胡散臭そうな目を光莉と白音は向ける。
「ホントですか? だって、私ら素人ですよ?」
光莉の言葉に凪夢は「ならなんで勝負を受けるのよ……」とこぼすが、光莉はその言葉に気まずげな顔を浮かべて視線を逸らした。
そんな様子を気にすることなく、光莉の言葉に対して美々湖は
「もちろん! なんといっても私はダンス部だからね! 少なくとも踊りについては任せなさい!」
と、胸を張りながら答えた。その言葉に三人は顔を見合わせる。しかし、これからどうするのかの宛もない彼女たちは顔を見合わせると、誰からという事も無く息をぴったりと合わせて「よろしくお願いします!」と頭を下げて、美々湖の申し出を受ける事にした。
そんな三人の様子を生徒会室から雫は寂しげに見つめていた。視線に気づいたのだろうか、美々湖は生徒会室に顔を向けると苦笑交じりに頷いてみせた。雫の口から零れた「ごめんなさい」という言葉は誰の耳にも聞こえる事は無かった。