きっとこんな世界感のユグドラシルがどこかにあるはず 作:プロフェッサー餅
とある大通り。そろそろ日付が変わろうかという時間に、とっくに眠った街の中を歩く、2人の人物がいた。
「ふ〜!いやぁホントに打ち上げ楽しかったぜ、サンキューな戒斗。バロンのみんなにもよろしく伝えといてくれ。」
「フン、礼には及ばんさ。だが葛葉、お前はその無計画に腹に食べ物を詰め込んでしまう癖はどうにかならんのか?」
「しょ、しょーがないだろ?全部美味しそうだったし、美味しかったし・・・」
「作った側としては嬉しい言葉だが、それで動けなくなってどうする。まったく。」
ストリートダンスファーストリーグの、チーム鎧武の葛葉紘太と、チームバロンのリーダー駆紋戒斗だ。
彼らは先ほどまでバロンのベースで、ファーストリーグに昇格したチーム鎧武の祝いで打ち上げを行っていた。バロンのNo.3・ペコの姉の出す絶品料理に加え、リーダー戒斗の繰り出す絶品スイーツの嵐に、バロンメンバーも鎧武メンバーもメロメロ。両チームとも未成年しかいないためアルコール類がテーブルに並ぶことは無かったが、全員が笑い合う楽しい時間を過ごしていた。
ちなみに打ち上げ前のエキシビジョンダンスバトルはそれはそれは大盛り上がりを見せた。沢芽市だけに留まらずSNSのトレンドにも上がり、ペコがバロンのオフィシャルに上げた動画や裕也が鎧武のオフィシャルに上げた動画は、アップロード後3時間しか経っていないにも関わらず双方が既に10万回以上の再生回数となっていた。
しかし先ほどの2人の会話の通り、紘太は自分のキャパを考えずに食べすぎてしまい、彼のお腹が落ち着くまで休んでいたら夜遅くになってしまったというわけだ。各チームメンバーも疲れ切るまではしゃいでいたのもあり、ペコの姉に促されてとっくにこの2人以外の全員が帰宅していた。
苦しい中に1人で返すわけにも行かないとして、ベースを片付けながらも残って待っていた戒斗に、鋭い小言を言われても仕方がないだろう。
「まったく、お前の引越し先が俺の家に近かったからよかったものの、チームメンバーが近くに1人も住んでいないのは考えものだぞ。」
「しょーがないだろー?土地の再開発って言ってマンション追い出されて、空いてた部屋がほとんどなかったんだから。これでも空いてた部屋の中では鎧武のベースに一番近いんだぞ?」
「それでこの距離か・・・。バイクか何か買ったらどうだ?今では鎧武の収入もそこそこあるだろうに。分割なら大型だって無理もないんじゃないか?」
戒斗が呆れるのも無理はない。なぜなら紘太の住む新しい家は鎧武のベースから歩いて40分ほどかかるのだ。タクシーを拾うにもメインストリート近辺は信号が多いせいで結局高くつくし、それならばと言って紘太は歩いている。
裕也に「せめて自転車くらい買え」と少し前に言われていたのだが、紘太は下位リーグ時の貧乏性が抜けきっておらず、未だに大きめの買い物には多大な時間をかけがちなのだ。
「戒斗の言う通り収入も増えてきたから、正直バイク考えてる。原付のが安く済むけど、ファーストリーグチームのエースが原付移動はカッコつかねぇしな。やっぱユグドラシルのバイクかなー、高いけどモノが良いし。」
「確かにモノは良いが、ユグドラシル製にはあまり面白味が無いぞ。YAMABUKIなんてどうだ?大きな欠点があってこそ愛着が湧く。にしても、土地の再開発か。最近増えたな。」
「YAMABUKIは乗り心地がなぁ・・・。だな、俺らが子供の頃の景色も、ほとんど消えちまったな。」
沢芽市はよくも悪くも近代都市だ。ユグドラシルコーポレーションの影響もあり市民の生活は豊かになり、活気にも溢れ、手厚い支援も受けられる。控えめに言って暮らす上で魅力の溢れる「良い都市」であるだろう。
だがやはり、何かが良くなっていく分、必ず何かを失っていく。それは時であったり、金であったり、心であったり、想いであったり。人や場所によって様々だが、何もかもが良くなっていくことは有り得ない・・・・・・この2人にとっては、いったい何が消えてしまったのだろうか。。。
戒斗は目の前の水泳競技場を見上げた。
「昔はここに噴水のある公園があってな。タコを模した滑り台もあって、よく舞と遊んだものだ。」
「へぇ、そうだったのか・・・、ってことは舞の家も近くなのか。」
「いや、かなり前に引っ越している。初期の再開発でな。」
「そうだったのか。だからあの時・・・」
「他にも、あそこの曲がり角には古ぼけた駄菓子屋があったし、あそこの交差点はもともと無かった。そういえばあのビルの一階はゲームセンターだったな。」
「なんか、寂しいよな。そういうの・・・・・ん?なぁ戒斗、アレ・・・なんだ?」
紘太はそう言い、少し先の空中を指さした。
「ん?何を神妙な顔をして・・・な、なんだあれは??」
戒斗と紘太の前には、“空中に開いた大きなファスナー“ という、あまりにも現実離れした不気味な光景が存在していた。
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〜ユグドラシル本部〜
けたたましく鳴るサイレン、次々に飛んでくる現状報告。
ユグドラシルのヘルヘイム調査本部は今、発生した緊急事態の対処に追われていた。
「凌馬や光実に言われて予防線を貼っておいて正解だったな」
そろそろ日付が変わろうかという頃、夜勤として調査本部に出向いていた高虎は、昼の会議での話を思い出していた。
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「シドの得た情報から推測するに、以前の推測よりも事の進みが早い。これは早急に対処か、予めヘルヘイムの森に予防線を張る必要があるだろう。」
「そうですね、きっと早ければ今晩にも行動を起こしてくると思います。調査本部に在中しているアーマードライダーの黒影トルーパー部隊も増員しておくべきでしょう。」
「待てミッチー。話を聞く限りじゃ、増員したとしても黒影トルーパー部隊だけじゃあ不安だ。俺も現場指揮官として同行させてもらうぜ。プロフェッサー、念の為にドライバーとマツボックリエナジーの使用許可をもらいたい。」
「ふむ、確かに初瀬くんの言うことも一理ある。何を仕掛けてくるか分からないからね、ゲネシスドライバーとマツボックリエナジーロックシードの初瀬くんの使用を許可しよう。だが念には念だ、夜にもう1人調査本部にいて欲しい。もちろんドライバーとエナジーロックシードの使用も許可する。過剰戦力かもしれないが、足りないよりかは断然良いだろう。」
「ならば私が残ろう。妻には後で話しておく。」
「すまないね高虎。さて、僕と光実くんは例のパワーアップツールの開発を急ぐとしよう。」
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まさか、本当に今夜にしかけてくるとはな。
凌馬や光実の推測能力が高いのか、それともヤツらの動きが極度に早まっているのか。それのどちらも、なのか。
今は初瀬がゲネシスドライバーとエナジーロックシードを使い、トルーパー部隊とともにヘルヘイムの森に突入している。
初瀬がいるなら余程のことがない限りは大丈夫だとは思うが、防衛ラインを突破したインベスがオーバーロードだった場合は油断はできない。オーバーロードは黒影トルーパーが30人ほどで束になって多少どうにかできるか・・・というレベルだ。いくら初瀬でも厳しい展開になるだろう。最悪の場合はトルーパー部隊に死傷者が出てしまうかもしれない。
だがそれにしても戦極ドライバー、これはよくできている。ゲネシスドライバーやエナジーロックシードと違って安全に誰でも使える。ロックシードからエネルギーだけを取り出すこともできる。まさに夢のドライバーだ。
ゲネシスドライバーの半分以下の出力しか出せないのは少し考えものだが、まぁ戦闘は俺たちで大部分を補えば良い話だ。
「ゲネシスドライバー、か。」
俺は赤と黒で彩られた、小型のジューサーのようなモノがついたバックルを取り出し、眺めながら、ほんの少しだけ“あの時のこと“を思い出した。
“君たちは、自分たちがどんな道を選んだのかわかっているのか!!!!“
ふっ、懐かしいな。あそこまで怒りを露わにして、怒鳴った凌馬は見たことがなかった。
そういえば、凌馬が戦極ドライバーのパワーアップツールがそろそろ完成しそうだ、と言っていたな。
その設計を光実が行っていると聞いた時は驚きのあまり言葉を失ったが・・・だがあいつも呉島の男。いつかは私すら超える、素晴らしい男になるだろうな。
それにパワーアップツールが完成すれば、安全面に加えて戦極ドライバーでもかなりの戦闘力を得ることができる。出力はゲネシスドライバーには届かないものの、組み合わせによってはエナジーロックシードを使えるというのは大きい。
犠牲者を少しでも減らす為に、パワーアップツールが完成するまでは、出来る限り大事は起きてほしくないものだが・・・・・・
『ユグドラシル!聞こえるか!こちら初瀬だ!』
だがまぁなんというか、こういう時の私の“悪い予感“というのは・・・
『オーバーロードだ!しかも今までに確認されていない個体だ!メチャクチャに強い!!高虎さん、応援頼む!!』
当たってしまうんだよなぁぁこれが・・・・・・。
だがまぁ、
「すぐに向かう!!持ち堪えろよ初瀬!!」
とにかく、急いで向かうとしよう。