テーブルの上のかごに伸ばされた手が、またひとつ
「おい」
俺は蜜柑を取った本人を見た。当の本人は不思議そうにこちらを見ている。
シャッタードリーム。本来生まれるはずのない存在。彼は俺の弟であるドリームではあるものの、彼とは別人らしい。体は黒く、俺とよく似ている。
シャタ「どうした?」
「それは何個目だ?」
呆れながらそう言うと、シャッターは自分の近くに置かれた蜜柑の皮を数え始める。
シャタ「七……八……九個目だが」
「食い過ぎだろ」
シャタ「そうか?」
シャッターは蜜柑の皮をめくり、千切って一つずつ口に運んでいく。テーブルの上のかごの蜜柑はもう片手で数えきれるほどに減っていた。
「そのうち黄色になって元に戻るかもな、お前」
俺は体を伸ばす。とても気持ちがいい。
シャタ「それはないだろうな」
蜜柑をもにゅもにゅと咀嚼しながら、シャッターは否定する。既に半分ほどが消えていた。
シャタ「たかが蜜柑ごときが、私を封じ込めることは出来ないだろう」
「そうだな」
俺も蜜柑を手に取り、皮をめくる。
シャッタードリームは黒いリンゴをドリームが食べた末路だ。彼にだけは俺のようになってほしくなかったのに、あいつは『分かち合い』と言って食べてしまった。
今頃、何をしているのだろう。
シャタ「それに、ドリームは『分かち合い』と言っていたからな。あいつは兄さんの痛みをよく知っていると思うよ」
兄さんと言われた瞬間、俺の顔が少し歪む。ドリームからは『メア』と呼ばれていたのに、シャッターは俺のことを『兄さん』と呼ぶ。
姿は変わっていても兄弟なのだから、ちゃんと名前で呼んで欲しいものだが、シャッターは恥ずかしいのか俺の名前で呼ぼうとしない。
「そうか……。ドリームは何をしているんだ?」
そう言うと、シャッターは服の上から自分の胸に手を当てた。
シャタ「……寝ている。私と意識を交換するまでは寝ていると決めたらしい」
二重人格みたいだ。シャッターは胸から手を離し、蜜柑をもにゅもにゅと咀嚼する。
シャタ「兄さんは?」
「俺か?」
俺も胸に手を当てた。眠る昔の俺の姿が脳裏をよぎる。
「俺も同じだ」
シャタ「そうか……。はあ、食べた食べた」
ようやく満足したのか、シャッターは静かに手を合わせた。
「何事も適度が十分だ。あまり食べ過ぎるんじゃないぞ」
シャタ「分かってる。少し寝るよ」
そう言うなり、シャッターはカーペットが敷かれた床に転がる。
「皮どうすんだよ」
シャタ「あとで捨てる。じゃ、おやすみ……」
すぐに微かな寝息が聞こえてくる。どんだけ寝つきいいんだよこいつ。俺が近くにいるからか?
「あとで捨てるってお前……」
どうせ忘れるだろ。この前、捨てるのを忘れて寝てたし。仕方ないので俺はシャッターが食べた蜜柑の皮をゴミ箱に捨てた。
眠るシャッターを見る。服装を見て、俺はハッとした。そういえば、ノースリーブだった。この真冬にノースリーブとは……。部屋が暖かいとはいえどうにかしている。
俺は指を鳴らしてタオルケットを出して、かけてやった。
「風邪引くだろ、馬鹿」
シャッターの頭を撫でながらそう言う。彼は穏やかに笑っていた。
また買いにいかないとな、蜜柑