っていうかバレンタインならその話書けよとか言わないでくださいどうしてもこの話が書きたかったんです許して許して……。
久しぶりに、帰ってきた。
ボクたち兄弟の、故郷に。
花束を持ったボクを迎えたのは、白い大地と切り株だった。この世界は、あの惨劇以来、ずっと放置されたままだった。一つだけ変わったとするならば、鉄の香りと、血の海がなくなった、ぐらいだろう。
ボクは切り株のそばまで歩いて、ひざまずく。この切り株は、もとは感情を司る木だった。しかし、あの惨劇の最中に切り倒され、それからずっとそのままだ。
その切り株の上に、三日月の形にくり貫かれた冠か置いてあった。まるで、誰かの忘れ物のように。ボクはそっと花束を置く。
アンモビウム。五月から七月に開花時期を迎える、白と黄色の小さな花。その花言葉は、永遠の悲しみ。
そっと両手を合わせ、ボクは目を閉じる。十年ごとに
『俺が出向くより、お前が出向く方がマシだ』
ボクの目を真っ直ぐに見つめて言ったナイトメアの姿が脳裏をよぎる。あの日以来、彼はここに一度も戻ってきていないという。彼にとってここは最悪の場所なのだ。
目を開いて、白い大地に座る。
「……ただいま、お兄ちゃん」
ボクは冠に語りかけるように口を開いた。もちろん、そこには誰もいない。だが、この声が伝わってほしい。
あの頃のナイトメアに。
「十年ぶりだね。元気にしてた? こっちはいつも通り元気だよ」
あの頃の記憶が蘇ってくる。まだ幼かったボクを、お兄ちゃんが抱えて帰った日。沈んでいく夕日がとても綺麗だった。あの夕日のように、ボクは眩しかったと思う。
「あっちのメアは戻るのが嫌なんだってさ。ごめんね、会話したかったでしょ?」
雨の日。外に出れないからと言って人生ゲームを取り出して君の部屋に突っ込んだボクを、不思議そうな目で見ていた君。結果的に遊んでくれたお兄ちゃんが好きだった。
「そうそう、いつも置いていたワッフルだけど……。今年は買いにいけなかったんだ。だから代わりに、これ」
ボクは赤いリンゴを冠の横に置く。
「リンゴだけど……口に合えばいいな」
喧嘩したあの日。あの日初めて、ボクはお兄ちゃんのことが嫌いと言った。悲しそうに俯いたお兄ちゃんの顔は、ボクの心に罪悪感という槍を突き刺した。
そのあと、ボクは謝りに言った。嗚咽混じりに謝るボクを、そっと優しくハグしてくれたお兄ちゃんが好きだった。
「あっ、そうそう! これ新しい衣装なんだけど、似合うかな?」
ボクは立ち上がってその場でくるりとターンしてみる。ふわりとスカートが浮いた。ターンし終えたボクはその場に座り込む。
「前の衣装も好きだったけど、今の衣装も好きなんだよね! お兄ちゃんが着たら似合うと思うよ!」
あの惨劇が起きた日。その日初めて、お兄ちゃんがいじめられていたことを知った。黒いリンゴの影響で頭蓋骨が割れ、目から触手が出てきて泣き叫ぶ君を前にして、ボクは何も出来なかった。
あの日、お兄ちゃんという存在は、ボクの前から消えていった。波にさらわれて流されていった砂の城のように。
虚しくなった。気づけば、ぽたりぽたりと何かが落ちてきた。ボクは反射的にそれを手で拭う。涙だった。ボクは泣いていた。
「……ご、めん。……ボクは……君を……守れなかったんだ……」
偽善者。そんな言葉がボクにはお似合いだ。大事な兄弟を助けられなかった。あんなに近くにいたのに。
拭っても拭っても、涙は溢れてくる。十年前もこんなことをしたような気がした。
これは、ボクが背負った罪だ。何度謝ったとしても、完全には消えることのない、大きな罪。
あの頃のお兄ちゃんは、許しているのだろうか。ふと脳裏に、にっこりと笑うお兄ちゃんの姿が映し出される。
君は許しているの? もし許しているのなら、許さなくていいんだよ。ボクは君を救えなかった。だからボクはこうなったんだ。
君が許していたとしても、ボクは自分自身を許せない。
「……ごめんね……」
嗚咽は、白い大地に吸い込まれていった。
泣かなくてもいいんだよ、ドリーム……。
ドリームが幸せなら、僕はそれでいいんだ……
ドリームくんが何故、妖艶な性格になったのかがこれで分かったと思います。
解説
兄のナイトメアを守れなかったドリームは、そのショックを隠すために身近にいた子どもの性格を真似するようになる。そして、妖艶でいた方がショックを隠すことができるだろうという結論に至ったドリームは、もとの性格から一変した。
しかし、故郷に戻って墓参りをするとショックを隠しきれず泣いてしまうようである。
ちなみにメア様が墓参りしなかったのは、自分よりもドリームの方が白メア様が喜ぶだろうと思ったからです。
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