「あっつ~……」
手に持ったうちわでパタパタと扇ぐが、涼しいというには程遠い。目の前……というか僕の周囲にはたくさんのAUたちが浮いている。
僕の仕事はAUを守ること。手助けをしたり遊びに行ってみたり等々、のんびりと過ごしている。なぜAUを守るのかって?
そりゃ……守護者にはちゃんと対立する存在がいるんだよ? 破壊者が、ね?
「……これで扇いでも涼しくないなあ。あっ、そうだ」
僕は背中に背負った筆を取り、すっと筆で色をつける。僕なりの、移動の仕方。塗料さえあれば僕はそれをポータルにしてどこにでもいける。これを使って他のAUに行くのも容易い。
破壊者は……元気にしてるかな? 僕は塗料の中に入った。
塗料からちょっとだけ顔を出す。灰色のクッションに背を預ける彼の姿が見えた。振り返っていないということは気づかれていないのかな。僕は塗料からそっと抜け出す。
エラ「……何しに来タ」
あっ、バレてた。
「遊びに来たよ?」
僕は彼の隣に座る。露骨に嫌な顔をされた。この世界には彼とクッション以外なにもない……はずだったのだが、エラーの近くに小型の扇風機が置かれていた。いつ買ったのだろうか。でも、ラッキーだ。
エラ「嘘つケ。今日ハ暑いカラな。どうセ、涼もウとして来たンだろ」
「いいじゃんかー。うちわで扇いでも暑いんだしさー」
僕は頬を膨らませる。エラーは青いマフラーに黒いコートを羽織ったいつもの姿だが、暑そうに見えない。
エラ「だいタイ、なンで扇風機を買わなカったンだ?」
エラーはざまあというような表情で僕を見る。分かってるくせに。
「……画材買いすぎた」
僕は体操座りをして膝に顔を埋める。
エラ「ソレガ原因ダな。ま、自業自得ッテやつダ」
きっと、エラーは薄笑いを浮かべながら言っているのだろう。出来るなら画材を買い漁ったあの日の僕に説教がしたい。
だいたい暑くなるとか聞いてないし。僕は気まぐれな気温に文句を言う。
「ねえ、エラー」
僕は顔を上げる。これは賭けだが、当たるだろうか?
エラ「ナンだ」
「アイスないの?」
僕はアイスに賭ける。エラーはチョコレートも好きだがアイスも好きだったはず。あればいいのだが。
エラ「あー…チョッと待ってロ」
そう言うと、エラーはグリッチを出して手を突っ込み始めた。僕はわくわくしながら待つ。
しばらくグリッチに手を突っ込んでいたエラーが何かを取り出した。その手には白色の棒アイスが握られている。よっしゃ。
「あっ、あったんだね! ありがとうエラー!」
僕はその棒アイスに飛び付こうとしたが_
「……えっ?」
すっとかわされた。
エラ「確かニアイスはあル。だがナ……お前ニあげるタメのアイスではナイ」
「えぇそんなー! ずるいよー!」
僕は棒アイスめがけて何度も飛び付くが、エラーは腕を動かして僕の手をかわしていく。指先に棒アイスの包装が当たっても、握れなかった。
終いには、
「……酷い」
エラ「誰ガあげるッテ言ったんダよ」
「うぅ……エラーの馬鹿ぁ……。酷いよお……」
半分涙目になりながら訴える。すると。
エラ「ああア、もうウルセェな! あげレばいいンダロ、あげれば!」
痺れを切らしたのかは知らないが、エラーが戻ってきた。彼はクッションに背を預けると、包装を破り始める。
「え、いいの?」
エラ「あア。ただシ、一口ダケナ」
「やったー! エラー大好きー!」
エラ「ハァ!?」
大好きという言葉を口に出した瞬間、エラーは大きく体を震わせた。言い終えてからあることに気づく。これ、フリーズしちゃうのでは、と。
しかし、フリーズはしなかったようだ。エラーはため息をつくと、一口棒アイスをかじる。
そしてそのまましゃくしゃくと咀嚼し始めた。
「……ちょっと、まだー?」
もしかして、さっきのは嘘? そう思った瞬間_。
「んっ!?」
口を塞がれた。えっ、これって……。
突然のことで思考が回らず、僕は何をすればよいのか分からなかった。すると、
「んんんっ!?」
僕の口に何かがねじ込まれる。それはエラーの舌だと僕は理解する、してしまう。ないはずの心が跳ね上がり始める。
「んっ、んー!!」
舌と舌が交わる中で、冷たいものが僕の口に流れ込んできた。それを確認したのか、エラーは口を離す。銀色の糸が僕たちの口を繋いだ。
エラ「甘いカ?」
僕は咄嗟に俯く。さっきよりも体温が跳ね上がっている。熱でも出してしまいそうに。
エラーから渡されたアイスを僕はしゃくしゃくと咀嚼する。少しどろりとしているのはあまり気にしないことにする。
「……うん、甘いよ。でもさ……」
僕は顔を上げる。恥ずかしさよりも、怒りたかった。
「いきなり口移しする必要あったの!? 僕、すごくびっくりしたんだけど!!」
今思っていることを言葉にしてエラーにぶつける。エラーは腕を組みながら笑った。
エラ「お前がいきナリ大好きって言うノガ悪いんダよ。まあ……それを言わなクてもしてタと思うけドナ」
「……ばーか……」
そんなところも、僕は好きだよ。
なんて、とても言えない。
守護者のくせに俺のところにきて、笑って。
ちょっと悪戯をしてやれば、頬を膨らませて、怒って。
そんなところも、俺は好きだ。そして、お前は俺が好きだろ?
な、インク。