とあるの日のDoodle Sphere。
「クロスってさー」
「なんだ?」
白い地面に腹這いになり絵を描いていたとき、インクが声をかけてきた。
インクはAUの守護者だ。すべてのAUを守ることが彼の仕事で、生きがいでもある。
AUの破壊者であるエラーとは対立しているが、今は休戦条約とやらを結んで休戦状態らしい。俺以外誰もいなかった世界で出会ったのがきっかけで、友人となった。今となっては古い友人だ。
「好きな人いるの?」
インクの口から放たれた、あまりにも意外な言葉。俺は目を丸くすることしか出来なかった。そんな俺に対して、インクは好奇心をその目に宿している。
猪突猛進で好奇心旺盛。彼は気になることはすぐに質問してしまう。例えそれが、あまり知られたくないことであろうとも。
「あっ、え、えっと、何だって?」
我ながら情けない声で言葉をつむぐ。
「だから、クロスって好きな人いるの?」
インクは俺の隣に座る。絵を描いていた鉛筆が動きをやめ、俺の手からころころと転がっていくのが見えた。
「あー……」
好きな人。そう聞かれた瞬間、脳裏に一人の姿が映し出された。黒い体に水色の瞳。AUのなかでも邪悪な存在で闇の帝王と呼ばれている彼の姿が……。
そう、ナイトメアだった。彼は俺の先輩の一人で、ポジティブの守護者であるドリームの兄。
でもあの人に抱いているものは……どちらかというと憧れなのでは?
「で? いるの? いないの?」
インクは好奇心で飽和された目をこちらに向ける。その口からは黒いインクが垂れていた。思わず顔が歪む。インクは興奮すると黒いインクを口から吐き出す。それを知らなかったあの頃は酷かった記憶しかない。
「いるような、いないような……」
俺は起き上がって体操座りになる。
「えー!? どっちなの?」
こいつ、何がなんでも聞く気だ。なんでこいつに教えないといけないんだ。さっさと忘れてくれないものか。インクは記憶力が乏しい。ついさっきまでしていた話を忘れるほとだ。
「うーん……。いる……かな」
「誰!? まさか僕だったりする!?」
「しない」
即答すると、インクは捨てられた子犬のような表情になった。まさか自分だと思っていたのか?
「お前のことが好きなわけないだろ……。好きだとしても『友人』として、だぞ」
「だよねー。そんな気がした」
インクはだらーんと足を伸ばす。だったらなんでさっき捨てられた子犬のような目を向けていたんだ。
「で、好きな人って誰?」
「言うまでそれを聞くのか?」
「もちろん」
ふざけんな。
「はあ……。最初に言っておくが、これは多分……憧れだぞ」
「へ? そうなの?」
「多分な」
好きというより、どちらかというと憧れに近い。あの人は俺とは違う。ソウルの数も、魔力の多さも……。
「で、俺の好きな人が気になるんだろ。俺の好きな人はな……ナイトメアセンパイだ。……多分」
ちらりとインクを見る。インクは口に手を当てたまま、硬直していた。
「……インク?」
「ナイトメアなの!? えっ、でも、そんな気はしてたよ!」
インクは俺の手をがっしりと掴む。というかそんな気がしていたなら聞くな。
「ちょ、何してんだお前……」
「ところで、告白したの?!」
「は? したわけないだろ……」
脳裏に顔を歪めるナイトメアの姿が映し出される。あの人はポジティブな感情が嫌いだ。憧れという感情は、彼からしたらポジティブな感情なのかもしれない。そんな考えが俺の行動を縛っている気がして、告白などできるわけもなかった。
「なんでぇ!? 二人ともお似合いだと思うよ!? もういっそのこと無理やり押し倒して……」
「ばばばば馬鹿かよお前!?」
両手が塞がっているので、咄嗟に俺は頭突きを食らわせる。鈍い痛みが頭をはしった。頭突きを食らったインクは俺から手を離して自身の頭に手をやる。俺は悪くない。きっと。
「いった!? 痛いよクロス!!」
「お前が変なこと言うからだろ!?」
お互いにパニック状態だ。どうしてこうなってしまったんだ。
「と、とりあえず帰る! じゃあなインク!」
「え、ちょ、待って! まだ話は……」
これ以上話をしていたら絶対ひどくなる。そう確信した俺は逃げるようにDoodle Sphereを去った。
「付き合ったら教えてね!」
「ざけんな」
お久しぶりです、花影です。
とりあえず、インクくんごめんよ。いろいろと。でもこんな旧友組が好き(ちゃんと反省しろ)
そういえばUAが800突破しました……ってマジ?
皆さまありがとうございます!
ちなみにタイトルの日本語訳は「好きな人はいますか」です。