ボクの右手に握られた銀の
雲一つない黒色の空に、満月が誰かの忘れ物のようにぽつんと浮いている。君は成功を教えてくれているのかな? 思わず笑みがこぼれる。
いきなりだが、ボクのお兄ちゃんはいじめられている。これはボクの考えなどではなく、あれこれと手段をとって得られた結果だ。
***
『最近元気ないね。どうしたの? お兄ちゃん』
『え? えっ……と……』
とある日のこと。晩御飯のウインナーを口に運びながら、ボクはいたって素朴な質問をしてみた。お兄ちゃんのことで、少し気になることがあったからだ。
お兄ちゃんは何か考えているのかボクから目を反らしている。何か隠そうとしているのだろう、予想がだんだんと形を得ていく。
『なんでも……ないよ?』
お兄ちゃんはきごちなくそう答えた。『なんでもないよ』。その言葉は嘘だと思った。なんでもないのならば、服に少し汚れの跡がつくわけがないし、顔に絆創膏を貼る必要もない。
おそらく、お兄ちゃんは……。
『ふーん……そっか。あっ、ごちそうさま』
考えるのはあとにしたほうがいいのかもしれない。ボクは胸の前で両手を合わせる。
『お皿、置いといてね』
お兄ちゃんは台所を指差して言った。その言葉を聞いて、表情が曇る。
『たまには洗わせてよー』
お兄ちゃんは皿洗いから洗濯まで、家の家事をすべて担っている。ボクも担いたいものだが、お兄ちゃんは『僕がやるから』と言ってボクにやらせようとはしない。まるで突き放されているようで、悲しかった。
『一番乗りのお風呂が嫌になったの?』
お兄ちゃんの手が止まる。お風呂はボクが一番乗り。それがいつものことになっていた。でも、物心つくようになってからはどうでもよくなった。
『んー……別に一番乗りじゃなくてもいいかなって。たまにはお兄ちゃんが先に入りなよ』
『ドリームが言うならそうするけど……いいの?』
『うん!』
笑顔を作ってみせる。作り笑い。
『そっか……じゃあ、お皿任せたよ。ごちそうさま』
お兄ちゃんは胸の前で両手を合わせた。それを見たボクは台所の細長いボックスに水を張って皿を入れる。スポンジを手に取って洗おうとしたとき、すっと手が伸びてきて皿がまた細長いボックスに沈んでいった。
『お願いね』
『任せてよ!』
お兄ちゃんはくすっと笑ってリビングと廊下を繋ぐ扉を開けていった。お兄ちゃんの姿が消える。それを見送ったボクはスポンジに洗剤をつけて皿を水から取り出した。
『あっつ……』
手を振って風を起こすが、これじゃたいしたものにはならない。ボクはベッドに沈む。熱気がボクの体にまとわりついてくる。水でも飲もうかな……。
ボクはベッドから降りて廊下に出た。その時__。
『ううっ……』
隣の部屋から弱々しい声が聞こえてきた。ボクは一瞬硬直する。隣はお兄ちゃんの部屋だ。お兄ちゃんに何かあったのだろうか。聞きに行こうかと考えたが、すぐにその考えを捨てる。
きっと誤魔化されてしまうだけだ。お兄ちゃんには悪いが、こっそり聞くとしよう。ボクはお兄ちゃんの部屋の前でしゃがみ、扉に頭をつける。
何かを剥がす音が聞こえてきた。一回しか聞こえてこなかったので、おそらく一枚剥がしたのだろう。何を剥がしたのかは言うまでもない気がする。
『……治って……ない』
扉の向こう側から、お兄ちゃんが何かを呟いている。治ってない? どういうこと……。この場から離れたい衝動に駆られる。なのに、ボクの頭は離れてはくれない。
『……が……悪いの? ……なんで、こんな……』
聞きたくない!! ボクはすぐに立ち上がって一階へと降りた。
***
あれから数日後。あれこれと情報を集めに集めた結果、ボクは一つの結論を出した。
この世界の住民を、消す。
いいよね。ボクは輝く銀の刃に問いかける。だって、お兄ちゃんはいじめられている。ナイトメアという不吉な名前と、ネガティブの守護者だからというあまりにも普通すぎる理由で。
ボクは知ってしまった。だからこうするしかないんだ。こうすることで、お兄ちゃんを守れるならそれでいいじゃないか……。
「行かなきゃね」
ボクはベッドから降りて扉を開けて廊下に出た。足音で起こさないようにそっと隣の部屋の扉を開ける。
その部屋は暗く、耳を澄ますと微かな寝息が聞こえてきた。もう時刻は日付が変わる頃だ、お兄ちゃんが寝ていてもおかしくはない。
足音を殺して、眠るナイトメアを見下ろす。その口角は上を向いていた。いい夢を見ているのかな。待っててね。その笑顔を、現実でも浮かべられるようにするから。
「愛してるよ、お兄ちゃん……。絶対に守るからね……」
ボクはお兄ちゃんの頬にそっとキスを落として、部屋を出た。
日付が変わった頃。赤い飛沫が飛んだ。何回も何回も。
ボクは沸き上がる衝動のまま、ナイフを何度も振り下ろす。そのたびに、返り血を浴びた。
喜んでくれるかな、なんて頭の端で考えながら、虚空に手を伸ばす馬鹿な住民に止めを刺す。その手は力を失って落ちていった。
動かなくなった何かを見下ろす。上半身を刺しすぎたせいか、ナイフの跡がいくつもできていた。
「まあ、これはお兄ちゃんが受けた痛みだから」
受けて当たり前だもんね?
「もう安心していいよ、ボクのお兄ちゃん……」
お久しぶりです花影です。
何か書こうか考えてたり考えたのはいいけど全然続かなかったりで投稿が遅れましたすいません(まあ作者の事情とかもありましたが)。
にしても光AUの闇堕ち率高くないですかね……イラストでもインクやベリーのヤンデレ多いですし……(もちろんドリームも)。
闇AUのヤンデレはあまり見ない……そろそろ書こうかと検討してます。
そろそろ干からびるかもしれないのでリクエスト待ってます(意味不明)。