「クーロースー!!」
俺以外が消えた白い世界。地面に腹這いになって絵を描いていた俺は、名前を呼ばれて顔を上げる。そこには紫色のポータルから上半身を出して手を振るインクの姿があった。
またあいつか。俺は見るだけで何もせず、無視することにした。
「ってちょっと!? せっかく遊びに来たのに!」
ずるりという音がした。おそらくポータルから出てきたのだろう。俺は無視を決めて絵を描くことにしたので彼を見ていないのだが。
全身を描き終えたそのとき、灰色が俺と紙を覆う。顔を上げると、腰に両手を当てたインクが見下ろしていた。その頬は膨らんでいる。
「なんだ?」
「『なんだ?』じゃないよ! せっかく遊びに来たのに!」
「『せっかく』ってお前な……」
俺はため息をつきながらお父さん座りをする。インクは頬を膨らませたまま体操座りをした。
「昨日も遊びに来ただろ」
頬を膨らませていたインクは、こてんと首をかしげた。
「そーだっけ?」
何回この流れを聞いたと思っているんだ。これに関しては大きなため息を隠せずにはいられなかった。
インクはAUの守護者だが記憶力が壊滅的に乏しく、つい先程まで話していたことを忘れるほどだ。会話をしていて、『あれ、なんだったっけー?』という言葉を聞くたびに俺は殴りたいという衝動に駆られる。
暴力は望んでいないので我慢しているのだが、そろそろ一回ぐらい殴ってもいいのかもしれない。
「忘れすぎなんだよ、お前」
「えへへ、ごめんごめん……」
インクは頭に手を当ててあざとらしく笑った。まあこれがこいつのいいところか。俺はため息をつきつつもこいつのいつも通りのペースに安心を感じていた。こいつはAUを守ることに全力を注いでいる。
かといって一つのAUをサポートするのではなく、すべてのAUを守護しているらしい。例えそれが、俺の世界のように孤独で真っ白な世界だったとしても。
「しかし……お前、毎日来てないか? 話のネタなんてないぞ」
インクは毎日俺の世界に来ている。1日、2日ならまだいいかと思っていたのだが、ここ最近は退屈で仕方ないのか1日も来ない日はなかった。
「話のネタなんかなくても、僕はクロスといるだけで楽しいよ!」
「ちゃんと他のAUを見て回っているんだろうな?」
「当たり前だってば!」
インクは太陽のように眩しい笑顔を見せた。壊れかけていた俺の心が少しずつ直っているような気がする。こいつの笑顔は、人を癒せる。そんな気がした。
***
君は何も知らないね。微笑むクロスを見て、僕は内心で呟く。
僕はAUの守護者だ。それは僕でも知っている。だけど、守護者だからって人の幸せまで守るなんて誰も言っていない。
僕が必死にサポートしたとしてもそのAUの人々が死んでいく結末を、今まで腐るほど見てきた。中にはサポートしてもそれに気づくことなく死んでいったAUだってある。
そのたびに僕は壊れていった。いや、すでに壊れていたのかもしれない。AUの中の人たちなんてどうでもよくなった。
彼らの幸せなんて知ったことではない。AUさえ守っていればそれでいいじゃないか。
『なんで俺たちは不幸な道を辿っていんだよ! AUを守るのが仕事じゃないのか!?』
僕に向かって怒鳴る男の人。僕はそのとき、何も思わなかった。悲しみも、ごめんなさいと謝る気持ちも。
『確かにAUを守るのは僕の仕事だよ。でも、AUに住む人たちの幸せを守るのは僕の仕事じゃない』
男の人はそれを聞いて、目を見開いた。僕は続ける。
『僕はAUの守護者だから。君たちの幸せなんてどうでもいいの』
僕は身を翻した。すすり泣く声が後ろから聞こえてきた。それは悲しみ。それでも、どうでもよかった。
だからね、クロス。AUの中に住む人の幸せなんてどうでもいいんだ。AUさえ守っていれば僕はそれでいいの。
クロスの頬に手を添えて、そっとキスを落とす。嫌がる君を押さえて舌をねじ込み、あるものを飲ませる。
君は驚き、やがて瞼が下がっていく。目を閉じたクロスが、僕の体に身を預けた。僕はその体に手を回す。
飲ませたものは睡眠薬。最近疲れていそうだったからね、これでしばらくはお休みだ。ゆっくり寝ていてね。
ああ……君はどうでもいいかって? 安心してよ、君はとても大事な存在だ。どうでもよくないよ。
安心して……僕が守ってあげるよ。他のAUたちの幸せなんかどうでもいい。君は僕が幸せにしてあげる。
「大好きだよ、クロス」
うーん、よく分かんないなこれ。というわけで本日2回目の投稿、花影です。
初めてインクロ書きました……そのうちエラクロとか書くかもです。クロスくん受けはいいぞ。
……インクくんって光AUらしいけど正直グレーゾーnおっと誰か来たようだ。