【UT_AU】雲外蒼天【短編集】   作:花影

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33.The full moon night(ドリメア)

疲れた……。僕はベッドに沈む。僕は疲れてしまった。肉体的にも、精神的にも。火照る体は冷えることを知らない。扇風機を付けて体を冷やしてからベッドに埋もれるべきだった、なんて頭の隅で考えながらようやく1日が終わりを迎えたのだと実感する。

 

「お兄ちゃーん!」

 

目を閉じようとしたその時、ドアの向こうから声が聞こえてきた。と同時に、ドタドタと廊下を走る音。何か用でもあるのだろうか。正直、今はまともに聞ける自信がない。

 

そんなことを思っていても仕方ない。愛する兄弟の前で『まともに聞けない』なんて言えるはずがないのだ。疲労が溜まった体を起こしてベッドの縁に座る。

 

「入るよ?」

 

僕の返事を待つことなく勢いよく扉が開かれた。

 

星を表すようなレモン色の瞳。太陽のマークが入った黄色のマントは、エメラルド色のシャツの上から軽く羽織っているように見える。その全身から放たれる、幸せのオーラ。

 

ドリームだった。彼は幸福や希望の感情(つまりポジティブ)のガーディアンで、僕の弟。この世界のモンスターやニンゲンと仲が深く、いつも会話している姿を見かける。

 

「どうしたの?」

「満月が出てるよ! 見に行かない?」

 

ドリームは息を切らしながらもそう言った。満月、か。最後に見たのはいつだったか。あの日もドリームに呼ばれて満月を見に行ったような気がする。

 

ドリームは何故か星や月に興味津々で、僕の部屋にある本棚から借りては読み耽る。晩ごはんの時間を忘れてしまうほどに。

 

「うん、見に行こうかな」

 

ドリームに誘われたし、久しぶりに見に行くとしよう。ドリームは「先に行ってるよ!」と言って走って行ってしまった。僕は立ち上がり、部屋の電気を消してふと振り返る。月明かりがぼんやりと部屋に差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベランダを経由し、スライド式の窓を開けて庭へと出る。手すりに手をかけていたドリームがこちらに振り返った。その顔は少しむくれている。

 

「もうっ、お兄ちゃんったら遅いよ?」

「あれ、そうだった? ごめんね」

 

謝罪の言葉を口にすると、ドリームは太陽のように明るい表情に戻った。ソウルが少しだけぽかぽかした感じがする。これが幸福、なのかな。「早く早く」と急かされ、僕はドリームの隣に移動して空を見上げる。

 

黒い空に、忘れ物のようにぼんやりと光る月。その形は綺麗な丸型。その周りには小さく輝く粒たち。星だった。そういえば今日は雲ひとつなかったはずだ。そりゃ、綺麗な満月と星が見れるわけだ。

 

「綺麗だね」

 

同じように夜空を見上げているドリームが、呟くように口を開く。僕は「うん」と返事をしながらゆっくりと頷いた。こんなに綺麗な満月が見れたのは久しぶりのことだ。火照っていた体はいつの間にか冷えている。

 

「あーあ、ここに団子があればなあ」

「今から作ろうにも、もう遅いからね。食べるとしても、今度かな」

 

…………。会話が続かなくなった。まさか、寝てしまった? そう思った僕は、ドリームの方を見る。彼は何も言わず空を見上げ続けていた。しかし、その目は何だか悲しそうで。口角も、何故か下がっている。何かまずいことでも言ってしまったのかな、僕……。

 

妙な気まずさを感じ、僕は視線を自分の手に落とす。アザが増えている。ああ、見られたくない。僕は袖を伸ばして手を隠す。

 

「……ドリーム」

「っは! ど、どうしたの?」

 

一緒にいるのに、会話がないのは寂しくて。蚊の鳴くような声で呼んでみると、ドリームはびくりと体をはねさせながらこっちを見た。思わず僕も体がはねる。聞こえていたなんて思わなかったのだ。

 

「いや、何でもないよ。呼んでみただけ」

「……そっか」

 

出来るだけ笑顔を作ってみると、ドリームはまた悲しそうな表情を浮かべた。おかしい、今日はドリームが興味津々な満月と星が空に昇っているというのに。やっぱり、何かまずいことでも言ってしまったのかな……。ここにいてはいけない気がしてきた。部屋に戻った方がいいかもしれない。

 

「……ドリーム。僕、先に部屋に戻ってるね?」

「えっ……。うん、分かった……」

 

少し表情を変えたものの、やはり何だか悲しそうだ。こっちを向いたものの、視線は僕から外れている。スライド式の窓に手をかけたとき、背後から「お兄ちゃん」と、声をかけられた。振り返ったその時、暖かいものに僕は包まれていた。

 

……いや、違う。僕は……抱き締められている? ドリームに? そう理解した瞬間、波のように熱が押し寄せてきた。

 

「お兄ちゃん、ありがとう。大好きだよ」

 

僕に向けられる言葉。どこかの本で読んだことがある気がする。好きな人に愛の言葉を伝える、と。その本が正しければ、ドリームは僕のことが……。いや、それはきっと、兄弟として好きなだけなんじゃ。

 

「ドリーム……」

 

なんと答えればよかったのか、僕には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの表情の真相が知りたいような、知りたくないような……。




アンケート設置しました。ご協力していただければ幸いです。
なお、期間は6月1日までとします。

5月2日(日)19:46分 追記
UAが1400突破してました……。お礼書こうとしたら忘れかけてましたとさ。ちゃんと覚えておかないとダメですね。
改めまして、いつも見てくださってありがとうございます! 皆様のほんの僅かな癒し(?)になっていれば幸いです。これからもよろしくお願いします。
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