5月のとある日。自分の家であるAnti-voidで、俺はクッションに埋もれながら電話をしていた。電話の主は、闇の帝王と呼ばれて恐れられているナイトメアだ。
『いやぁ、あのときのお前の顔と言ったらなあ』
スマートフォンの向こうから嘲笑うような笑い声が聞こえてくる。あのときの記憶が蘇ってきて、俺は顔をしかめた。
今から数ヶ月前のこと、俺はある人物に恋をしていた。自分とは正反対の立場なそいつに惹かれたからかもしれない。くだらないAUたちを守るそいつと何度も戦うたびに、心に咲いた恋の芽。
それは枯れることなく成長を続け、いつしか俺を困らせることとなった。思うたびに、考えるたびに苦しくなって、クッションを泣き濡らしたことだってあった。こんなことは人生で一度もなかったのだ。
そんな日々を送っていた俺は、何を思ったのかナイトメアに相談した。迷っていた俺に対して、奴は。
『募らせるのは苦しいだけだぞ。告白してみろよ。安心しろ、残骸はちゃんと拾ってやるから』
と、言ってきたのだ。そのあと、俺は心を寄せていた相手に告白した。まあこれが受け入れられて、晴れて結ばれたってことだ。
そのときの俺はナイトメアから見れば滑稽な表情だったらしく、相談した話が広まり、俺はしばらくの間いじられることとなったのだ。あの野郎、人の恋話を広げやがって。
『今でも記憶に残っているぞ。ぶっ……ふふっ……ハハッ!』
「ざけンナこのクソ野郎!! お前ガ広げタせいでコチとらいじらレルことになったンダぞ!」
『まあまあ、いいだろ? 晴れて守護者サマと結ばれたんだしな。そのまま末長くイチャイチャしてろよ、破壊者サマ』
くたばれやクソが。
「……てメェ、マジで覚えてロヨ」
『おー、怖い怖い。あー……そういえば、小筆に会ったか?』
小筆……。脳裏に、スカーフを巻いたとある守護者の姿が映し出される。インクサンズ、全AUの守護者。そして、俺の恋人。俺とあいつはいろいろ違う。価値観も、『設定』も……。
「いや……最近会っテねぇヨ」
最後に会話をしたのは確か……一週間前だったはずだ。最近は忙しいのか、インクはAnti-voidを訪れていない。まさか俺が出向けとか言うんじゃないだろうな。
『へぇ、恋人のくせに会ってねぇのか? 今頃どうなってるだろうな』
向こう側から伝わる不穏な空気。寒くもないのに背中がぶるりと震える。
「……んだヨそのいイ方。まさか、何カしたんじャないだろウナ!?」
『さあな? 気になるなら会いに行ってみればいいさ』
またしても嘲笑うような笑い声が聞こえてきたところで、俺は乱暴に電話を切った。
「インク!!」
Doodle Sphere。すべてのAUに繋がる空間で、インクの作業場所兼家。彼はここからAUへと移動している。久しぶりにここを訪れたが、柔らかな風も、ほんのりと光る地面も、何も変わっていない。
Anti-voidからグリッチを使ってここに来た。インクの名前を呼ぶが、反応はない。そもそもここにいるという確信はないのだ。クソッ、ドリームに聞けばよかった。後悔が生まれる。しかし、後悔に浸っている時間はない。
ナイトメアのあの言い方は、とても意味深だった。まさか、倒れていたりなんか……。その考えを頭蓋骨からはね飛ばそうとするが、否定はできない。あいつはAUを守るという役目がある。自分の生き甲斐のためなら体なんて惜しまないのだ。まったく、不死身は不自由なものだ。
ふわふわと浮く扉を勢いよく押して部屋の中に入る。筆やらスケッチブックやら散乱していた。部屋中に漂う匂いに、俺は顔をしかめた。この匂い、酒か。
酒に弱いのを知ってるくせにまた飲んだのかあいつは。忘れっぽいにも程がありすぎる。インクの頭に拳骨でも食らわせれば少しマシになるだろうか? なんてことを考えていた俺は、ベッドの上に横たわる物体を見つけた。近寄ってみる、予想通りインクだった。
「ありぇ~、えりゃ?」
呂律が回ってない。苦笑せざるを得なかった。
「久しぶリ……っテ挨拶してル場合じゃネェナ。なにしタんだよお前」
「見りゃわかりゅよ~」
いや、分かるけどさ。至るところに酒の瓶が落ちているのはどうなんだよ。
「えへへ~えりゃあ~」
淡い虹色に染まった顔で、インクは俺の名前を呼ぶ。こりゃ一杯飲んだじゃ済まされない。そもそも至るところに酒の瓶が落ちているんだ、一杯なわけがない。
顔が近づいてきたので頬を軽くつまんでみる(接触に対する恐怖はあるが、インクに触れることは平気だ)。インクはふにゃあと笑った。骨のくせに餅のように柔らかいのは気にしないことにする。……酒臭い。
「ん~きしゅしたい~」
「いイぞ」
ベッドに上がり、インクを押し倒す体制になる。そこから彼の首と後頭部に両腕を回し、顔を近づけると、カツンという軽い音が響いた。一週間ほど会っていなかったんだ、堪能しなきゃもったいない。
無防備に空いた口の間に舌を滑らせてインクの舌を絡めとる。少しばかりの甘い声、ソウルが甘く締め付けられたような気がした。インクも、弱々しいが俺の体に腕を回して応えてくれている。
それが嬉しくて、インクの頭を優しく撫でてやる。もともと酒で力が抜けていたんだ、口を離したころにはふにゃふにゃになっているだろう。
「はぁっ……えりゃあ……気持ちいっ……もっとぉ……」
口を離してやると、物足りないのか体を揺らしながらインクはそう言う。その目は蕩けきっていて、瞳孔には桃色のハートが浮かんでいる。改めて見ると、かなり色っぽいな。スカーフは首を隠せてないし、サスペンダーは片方外れてるし。きっと酒で体温が上がっているから少し外したのだろう。完全に誘っているようにしか見えない。
「もっとしてよぉ……はやくぅ……」
「欲しイのカ?」
「うんっ……欲しいのぉ……」
それが聞けて満足だ。もう我慢する必要もないしな。俺はインクのスカーフを引っ張り、彼の目にそっとのせて頭の後ろで交差させる。
「えりゃあ……好きぃ、好きだよぉ……!」
「俺もダ……。愛してル、インク」
インクの頬にそっと、キスを落とした。
酒なら小筆が『飲みたーい』とか言ってたから一緒に飲んでやっただけだぞ。まあ、あいつが先に潰れたけどな。byナイトメア
インクくん受けが美味しいですモグモグ
ということで一週間ぶりにどうもこんにちは、花影です。なんでですかね、エラインだとだいたいインクが誘ってるんですよねえ。メアインはメア様ががっつり攻めにいくんですけども。まあ美味しいから大歓迎なんですけどねモグモグ
※モグモグうるさくてすみません。
リクエスト(提案)箱つくったのであらすじに載せておきます。