ノブを回して部屋に入る。部屋の奥、窓際に置かれた椅子に座る、もこもこのパジャマに身を包んだクロスの姿が目に入った。カーテンの隙間から外の景色が見える。
「あれ、起きてたんだ。寝てもよかったのに」
ボクは部屋の奥まで歩き、クロスの向かい側に座った。
クロ「ドリーム先輩が戻るまで起きておこうかと思ったので」
クロスはにっこりと笑いながらそう言った。ボクは「そっか」とだけ返して外を見る。白い雪が降っていた。
クロスは今、ボクの部屋(というか光AUの一部が暮らす世界)に泊まっている。それを提案したのはボクだが、クロスは快く受け入れてくれた。
窓の外を眺めるクロスを見ながらボクは思う。
クロスはこうやって泊まりに来ているが、そうなるまでに『先輩』とやらの許可が必要だったのだろうと。
彼は闇AUの一部が暮らす世界で、キラーと一緒に家事を担当している。そんな彼が快く受け入れたことに、驚いたのはボクだった。冗談半分で、このことを提案したからだ。
ふと、顔を歪めるナイトメアの姿が脳裏をよぎる。ナイトメアは今頃不機嫌になっているのだろう。何故なら彼はクロスのことを頼りにしているだろうし何より……。
そこまで考えたところでボクは顔を横に振る。渡さないよ、クロスはボクのだから。
クロ「……先輩は」
「ん?」
クロスが口を開けた。窓の外を眺めながら。
クロ「この時間まで起きているんですか?」
ああ、なんだそんなことか。ボクは時計を見た。壁にかけられた時計の針はまもなく十二時を指そうとしている。
「んー……普通ならもう寝てるかな。でも、今日はまだ起きていられるよ。……もしかして眠い?」
クロ「ええ……。ここまで夜更かししたことはあまりないですからね……」
クロスはごしごしと目を擦りながら小さく欠伸をする。その姿を見た瞬間、ソウルに痛みがはしり、ボクはセーターを掴んだ。なんて可愛いんだ。ナイトメアはこの姿を見たことがあるのだろうか。見たことがあるのだとしたらずるい。
「寝よっか?」
クロ「……そうします。すみません、先輩」
別に謝らなくていいのに。椅子から立ち上がるクロスを見て、ボクもそれに倣う。
「壁側と外側、どっちがいい?」
クロ「俺はどっちでもいいですけど……。先輩、どっちがいいですか?」
ボクは考える。もし仮にボクが壁側で寝たらどうする? 仮にクロスの寝相が悪かったとしたら、彼は高確率でベッドから落ち、床に叩きつけられるだろう。そんなことは絶対に避けたい。よし、ならば。
「じゃあ、外側でいいよ」
クロ「えっ、いいんですか? 仮に落ちても知りませんよ?」
「大丈夫だよ。ちゃんと対策はするからさ」
クロスは心配そうな眼差しをこちらに向けるが、「失礼します」と言って布団に入った。どうやら納得したらしい。ボクは部屋の入り口にあるボタンに触れる。
次の瞬間、部屋が暗闇に染められた。月明かりの青白い光が、ぼんやりと部屋を照らす。
クロ「うわっ、暗い!?」
「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても」
ボクは布団に入り、目を閉じた。
しばらくして。
クロ「……先輩、あの……」
背後から、囁くように小さい声が聞こえてきた。ボクは目を開いて体ごと動かして振り返る。青白い光が、クロスの顔を照らした。
「どうしたの?」
クロ「……なんだか、眠れなくって……」
慣れてないからなのだろうか。
「……おいで」
クロ「えっ?」
「おいで? ぎゅーってしてあげるからさ」
そう言うと、クロスの顔がほんのりと紫色に変わっていく。そういえば、クロスの血とかって確か紫色だったんだっけ。ボクは両手を広げるがクロスが来る気配がない。仕方ない。
ボクはクロスに近づき、ぎゅっと抱き締める。……やっぱり抱きやすい。
下から何かもごもごと聞こえるが、ボクは聞こえないふりをする。きっと『なにやってるんですか!?』とかそういうことを言っているのだろう。
「こうすれば温かくなるし、寝れるよね?」
ボクは胸に顔を埋めるクロスに話しかける。クロスは勢いよく顔をあげた。その顔は紫色に染まっている。
クロ「恥ずかしいです……!」
「この前、ボクにお姫様抱っこされたんだし慣れだよ、慣れ。じゃ、おやすみ」
クロ「え、ちょっと……」
何か文句を言われる前に寝てしまおう。ボクはまた目を閉じた。
ぎゅーってしたかったのは、ボクが満足したかったからだよ?
……なんて、クロスには教えてあげないけどね、ふふっ……。