■こちらは前編に当たります
■○○しないと出られない部屋のお話です
以上が大丈夫な方のみどうぞ。
目が覚めた。周りは白く、殺風景な光景が広がっている。頭を振りながら身を起こした俺は、隣に黒い物体が横たわっていることに気づく。
「……センパイ?」
センパイ、もといナイトメアは俺の上司にあたる。俺は声をかけるが反応がない。まさか死んでる……なわけないよな。ナイトメアは俺よりも強いし、そう簡単に死ぬわけない。
「センパイ、起きてください」
パーカーに包まれた肩を揺さぶると、「うぅーん……」という唸り声が返ってきた。やがて、力をなくしていた手がピクリと動きだす。
うつぶせになっていた体がゆっくりと動いて、頭がこちらを向いた。シアン色の瞳が俺を映す。
「……クロス?」
「おはようございます」
ぺこりと頭を下げると、「あぁ、おはよう」という声が返ってきた。ナイトメアは立ち上がり、辺りに視線をさ迷わせている。俺も立ち上がった。
「ここはどこなんだ?」
「分かりません。気づいたらここに……」
四角い空間。もしかしたら部屋なのかもしれないが、部屋だったとしたらソファーや机ぐらい置かれていてもいいはずだ。視線をあちこちにさ迷わせていた俺は、扉があることに気づいた。そこに向かって歩く。
「何か見つけたのか?」
後ろから声がかけられる。部屋の白と同化していて分かりづらかったが、そこに確かに扉はあった。
「扉を見つけました。出られるかもしれm……」
ノブに手をかけて引く。しかし扉はガチャガチャと音をたてるだけで、開く気配がしない。首をかしげた俺は何度も引いてみるが、やはり開かない。
「……どうした?」
いつの間にか、ナイトメアが腕を組んで隣に立っていた。……びっくりした。
「いえ……開かないんです」
「力無さすぎだろお前」
ナイトメアは嘲笑するかのような笑みを浮かべて俺を見てくる。俺は顔をしかめた。
「力ぐらいあります! 本当に開かないんですよ!」
「そうなのか? ちょっと退いてろ」
言われた通りに退いてみると、ナイトメアは扉の前に立った。何をする気なんだろうか? そう思っていたとき、彼の背中から触手が飛び出し、扉に向かって放たれた。木製の扉が壊れていくかのような音がしばらく響く。俺はない耳を手でふさいだ。
「……ダメか」
扉から触手を引き抜いたナイトメアがそう呟いた。横に彼が退き、扉が目に飛び込んでくる。そこで俺は目を見開いた。扉には何一つ傷がついていない。彼の鋭い触手は傷をつけるに値しなかったらしい。耳をふさいでいた両手がだらりと下がる。
「これは本当に扉なのか? 材質を疑いたくなる」
ナイトメアは扉をまじまじと眺め始めた。
「俺のナイフでもダメですかね?」
「そう……だな。お前でも傷はつけられそうにない」
「いや、もしかしたらいけるかもしれません。センパイ、ちょっと退いてもらっていいですか」
そう言うと、ナイトメアは不思議そうな表情を晒しながらも退いてくれた。……キャラ、行くぞ。心の中でそう呟き、俺は指を鳴らした。自分の周りに、血のように赤いナイフが出現した。扉に向かって放つ。
………………!
弾かれた。ナイフは床で消える。じゃあ俺が……! そう思って扉に向かって走った俺はナイトメアの「ストップ」という言葉で止まる。
「なんですか」
「ガキの投げナイフでもダメなら、お前自身がやっても無理だろ」
「そう言えないかもないじゃないですか」
「いや、無理だな。触手でもナイフでもダメなら、どうしようもない。やるだけ体力の無駄使いだぞ」
そう言い放ったナイトメアは俺の横を通って行く。何か見つけたのだろうか? 彼の背中を眺める。
「それよりも、これを読んだ方がいいんじゃないか」
振り返ったナイトメアの手には、小さな紙が握られていた。
「手紙?」
俺はナイトメアの近くに行く。そこには小さな丸テーブルが置かれていた。いつの間に。
「ああ。お前がナイフ投げただろ。そのときに見つけたんだよ」
ナイトメアは綺麗に折り畳まれた手紙を開いた。しばらくして、ナイトメアの表情が険しくなった。辺りに漂っている空気が重たくなった気がする。
「あの、センパイ……。それに何が書いてあったんですか?」
おずおずと声をかけると、ナイトメアは無言で手紙を差し出してきた。俺は首をかしげる。
「読んでみろ」
「……は、はあ。分かりました」
ナイトメアは何も言わず、パーカーのポケットに手を入れた。何かよからぬ気配がする。俺は手紙を開いて、文章を目で追った。
『どちらかを殺さないと出られない部屋』
手紙にはそう書いてあった。ソウルが凍った気がした。いや、これは、嘘だ。きっと、何かの冗談で……。手紙を持ったまま、だらりと立ち尽くす。
「センパイ、これって……」
「その通りにしないと出られないんだろうな。あれを見ろ」
ナイトメアは斜め先を指差す。指の先には電光掲示板があった。
『どちらかを殺さないと出られない部屋』
手紙に書いてあった通りの文章が右から左に流れていく。ぐしゃりと、手から音がした。手紙がぐしゃぐしゃになっていた。
「こんなの、何かの冗談、ですよ……。きっとs」
「そうなのか? 少なくとも俺は冗談に思えない」
なんとか否定しようとする俺の言葉を、ナイトメアはあっさりと遮った。俺はゆっくりと、隣に立つナイトメアを見た。その目は、いつものように濁っていた。
「……どうしてそんなことが言えるんですか?」
「……俺、夢を見たんだよ。白い部屋の中で閉じ込められて、お前に殺される夢をな」
ナイトメアは泣きそうな、悲しそうな、そんな表情を俺に見せた。
「そのときも、手紙と電光掲示板を読んだんだ。扉が開くような音もした。何から何まで同じなんだよ、夢の内容と」
「そんな……! 現実になってしまったってことなんですか!」
「そういうことになる」
俺はその場にへたり込んでしまった。
「……なあ、クロス」
ナイトメアが顔を覗き込む。彼の瞳に、俺の顔が映った。そして彼は口を開く。いつもの変わらない声で。
「俺を、殺せ」
すべての音が消え去った気がした。ナイトメアを殺せ? 俺が? そんなの…………できるわけがない。だって、彼は俺の上司でセンパイで……俺が大好きな人、なのに……。
「……です」
「ん?」
「嫌ですッ!!」
俺は勢いよく顔を上げた。ナイトメアは少しだけ目を見開いた……気がする。
「そんなの嫌です! 何があっても、そんなことできないッ……。そんなことになるぐらいなら、俺が死んだ方がm」
「バカなのかお前は!!」
怒号が空気を揺らす。ナイトメアの瞳に怒りが宿っていた。
「お前が死んだ方がいいだと? お前のソウルは一個しかないんだぞ? 俺ならまだしも、お前が死んだら帰ってこれないだろ!! そんなことも分からないのか!!」
「分かってますよそんなこと!! でもッ、センパイが死ぬのはおかしいじゃないですか! どうして俺が殺さなきゃならないんですか!!」
こんなのって、ない。
「こんなの、あんまりですよ……」
うつ向いた。もうなにも失いたくなかった。弱いと分かっていても、守りたかった。それなのに。また、失わないといけないのか……? 絶望がソウルを蝕む。
「……クロス」
さっきまでの怒号とはうってかわって、優しい声だった。視界に、ナイトメアの足が映る。次の瞬間、顔が上を向いた。
「俺は、お前のことが好きなんだ」
ナイトメアの口から放たれた意外な言葉に、俺は目を見開いた。言葉を発しようとした俺の口が、柔らかいものに触れる。近距離で、シアン色の瞳と目が合う。舌がぬるりと滑り込んできた。ああ、これは………。
舌と舌が絡み、その感覚に溺れていたとき、舌が引き抜かれる。と同時に、銀の糸がひかれた。
「酸っぱいな」
「俺の、ファーストキス……」
「奪ってやったんだよ」
ナイトメアはいつもの、黒い笑みを浮かべた。頬に何かが伝ったような気がして、俺はそれをぬぐう。薄紫色の液体。俺は泣いていた。
「……さっきも言ったが、俺はお前のことが好きなんだ。……お前はどうなんだ」
ナイトメアは探るようにそう言った。その目に、不安が宿っているように見える。
「俺も……好き、です」
「……そう、か」
ナイトメアは俺の体に手を回し、抱き締めてくれた。普段の彼とは、とても思えなくて。俺も答えるように体に手を回した。
もう、戻れない。好きとは言った。それでも。
また失ってしまったんだ。俺自身の手で。
すでに動かなくなってしまった彼を抱き締める。氷のように冷たい。涙が流れた。後ろで扉が開く音がした。
「ごめんなさい、センパイ……」
扉が開いてもなお、俺は泣き続けた。
ごめんなさい。好きです、愛しています……。
お久しぶりです、花影です。またしてもpixivに引きこもっていました。最近の推しが変わったことによりそちらをメインにして活動しているからです。待っててくださっていた皆様、すみません。次の更新もいつになるか分かりませんが、それまでゆっくり待っていただければ幸いです。「そういえばこんな奴いたな」程度で構いません。
それでは。