【UT_AU】雲外蒼天【短編集】   作:花影

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酸素オーツー様のリクエストです!(一部変更しています)
何故かお名前を間違えるとかいう痛恨のミス。焼き土下座してきます。

ワンクッション
■奇病の一つ、花吐き病です。
■花吐き病の性質上、嘔吐描写(言ってもそこまでないです)があります。描写注意。
■タイトルオチ。

大丈夫な方はお進みください。

花吐き病の説明はpixiv百科事典様より引用させていただきました。


53.銀百合の花弁は吐けず(メアクロ)【☆】:*

「はーん……お前さんは花を吐いているのか?」

 

渡された紙袋の中身を見ながら、白衣を纏ったSansは興味津々そうに言う。その態度と言葉から滲み出る好奇心に顔を歪ませながら「そうだ」と返した。

 

諸事情で、俺は今サイエンスのところを訪れている。といってもサイエンスと俺は完全な初対面で、話すのは今日が初めてだった。あまり外に出向かない俺がなぜここいるのかというと。

 

花を吐き出しているから。それだけのことだ。

 

 

人間が嘔気に晒され吐瀉物を吐き出すのと一緒で、花を吐き出すことはあまり気持ちのよいことではない。吐き出すものが違うだけで、それ以外はすべて一緒だ。吐き気を催すのも、何かが喉奥から込み上げてくるのも、全部。

 

こうなったのは一ヶ月ほど前、自室ですることもなく寝転がっていたときのことだった。何かむず痒いものを覚え、口を押さえた次の瞬間、口内から手へと落ちてきた『それ』を見て、俺は目を疑った。

 

それは花だった。紛れもない、正真正銘の。

 

ネガティブの俺が触れても、その花は枯れることなく咲いていた。気持ち悪いと思えるほどに。思わずそれを握りつぶした感覚はまだ覚えていた。こんなの、誰にも言えるわけなかった。考えてみろよ、俺が「花を吐いた」って言って、まともに信じる奴がいるか? いるとしても、あの青二才(クロス)ぐらいだろうな。

 

そのあとも花の嘔吐は止まらず、いよいよまずいのではと思った俺は記憶の限りAUを渡し歩き、ここへとたどり着いた。そして今に至る。

 

「で、何か分かったのか?」

 

手にゴム手袋をつけて花をまじまじと眺めているサイエンスに向かって口を開く。俺が吐き出したなんて考えると気持ち悪くて仕方なかった。

 

「いんや、何もわからんな」

 

サイエンスは花を持ったまま首を横に振った。

 

「使えない奴だな」

「無茶言うなよ。花を吐き出す事例なんて見たことも聞いたこともないんだ。俺が何でもかんでも知っていると思わないでほしいな」

 

そんなに珍しいものなのか。下手したら花じゃなくて俺の体を検査されそうだな。

 

「……そういえばお前さん、最近『変なもの』を食べたとかないか?」

「お前の言う『変なもの』を食って、口から花が出てくるものなのか?」

「それも分からない。とにかく情報が足りないんだよ。変なものを食べて花が吐き出されたケースはあり得なくはない」

 

なんとも無茶苦茶だが、何か分かるならと俺は目を閉じる。昨日、一昨日、一週間前と遡ってみるが、原因らしきものを食べた日がない。目を開け、ため息をつく。

 

「変なものを食べた記憶もないし、飲んだ記憶もないな。おやつの中にもそれらしきものはなかった」

「なんだお前さん、おやつ食べるのか?」

 

サイエンスは目をぱちくりさせながら半分笑い気味に言う。それに対して顔が歪んだ。

 

「悪いかよ。で、変なものを食べたことで花を吐き出したと言う仮説はどうなったんだ」

「今ので否定されたよ。となれば病気かもな……確か珍しい病気の本があった気がする……」

 

サイエンスはぶつぶつと呟き始める。これは少し待たないといけないのか。そんなに暇を持て余しているわけじゃねぇのにな。体を上に伸ばし、進展を待った。

 

「ちょっと待っててくれよ。たしか棚にだな……」

 

そういうとサイエンスは紙袋を手にしたまま扉の向こうへ消えた。

 

 

 

手持ち無沙汰になって三分ほど経過したと思う。来客を待たせすぎやしないか、最初はなんともなかったがだんだんイライラしてきた。いま俺は研究室らしき部屋にいるのだが、机の上には高く積まれた書類やなんとも言えない色を晒した三角フラスコなどが置かれている。それを見るだけでも、全部床に落としてやりたくなる。

 

「よう、待たせたな」

 

背中から触手を生やそうとした瞬間、サイエンスの声が空気を揺らした。顔だけ動かしてその方を見ると、片手には分厚い本、もう片方の手には紙袋を提げたサイエンスが扉から姿を表していた。

 

「遅い。もう少し遅かったらコイツらが犠牲になっていたところだったぞ」

 

びしっと机の上を指さすと、サイエンスは眉間に皺を寄せた。

 

「それは悪かったな。謝るよ」

 

パタパタとスリッパを鳴らしながらサイエンスは俺の近くに来た。鼻を鳴らすと、サイエンスは手に持った分厚い本を渡してきた。

 

「なんだ、これは」

「さっき言ったはずだぜ。『珍しい病気の本があった気がする』ってな。探したらあったんだよ。お前さんが花を吐いた原因が分かった」

 

俺から本を取り上げ、紙袋を床に置くとサイエンスは本を開いてページをめくり始める。最初から該当するページを開けばいいものを。サイエンスはとあるページで止まり、満足げに頷くとまたしても本を渡してくる。

 

「これを読んでみろ」

 

そう言われ、俺はそのページに書かれている文章を目で追っていく。

 

花吐き病

別名『嘔吐中枢花被性疾患』

はるか昔から潜伏と流行を繰り返してきた。片思いを拗らせると口から花を吐き出すようになる。それ以外の症状は確認されていない。 吐き出された花に接触すると感染する。 根本的な治療法は未だ見つかっていない。ただし両思いになると白銀の百合を吐き出して完治する。

 

「これは……」

 

俺は言葉を失う。

 

「……口から花を吐き始めた。そして、花吐き病は花を吐く以外の症状は確認されていない。今のお前さんだ」

 

サイエンスは静かにそう言った。

 

「俺は……病気だったっていうのか?」

「ああ、そういうことになる。しかも、花吐き病はそれに書いてある通り治療法は見つかっていない。ただ、両思いになると完治するらしいから、俺が考えた治療法は一つ」

 

サイエンスは人差し指を立てる。

 

「片想いの相手に告白する。これしかないだろうな」

 

足元から鈍い音がした。本が滑り落ちたのだ。サイエンスは顔を歪め、「落とすなよ」と呟きながら本を拾い上げる。

 

絶句した。生まれてから約五百年、恋愛というものに微塵もかかわらなかった俺が経験することになるとは。今まで、ニンゲンに想いを伝えていたニンゲンをたくさん見てきた。でもそれは俺にとっては忌まわしいものだったのに……。

 

「マジかよ……ありえねぇ、まさかこんなことになるとは」

「この病気になった以上は、片想いの相手を突き止めて告白する必要がある。そうじゃなきゃ、死ぬまで花を吐き続けるだろうな」

「そりゃ勘弁だ」

「なら、片想いの相手を突き止める必要がある。お前さんの片想いの相手は誰だ?」

 

割と真剣に言われるが、いきなり片想いの相手と聞かれても分かるはずがない。

 

「相手って言ってもな……検討つかねぇよ」

「そうか? よく思い出してみろ。お前さんが今までかかわってきたなかで、何故か追いかけたくなる奴はいなかったか?」

 

俺は目を閉じてみる。生まれてから今までに出会ってきた奴らの顔を思い浮かべる。思い描いては消して、また思い描く。何度も繰り返すうちに、一人のSansに行き着いた。

 

血のように目が赤く、白と黒の制服を見に纏ったやつ。そいつを思い浮かべた瞬間、衝撃がはしった。まるで雷に体を貫かれた、そんな感じの衝撃が。

 

正直、嘘だと思いたい。あいつと俺は上下関係が存在していて、恋愛なんてそんなものは……。しかしソウルがなぜか暖かい。なぜだ、なぜなんだ? 飲み込もうとしない脳は否定を続ける。無駄だと知っていても、受け入れることを許さなかった。

 

あいつの笑顔はポジティブにあふれていて、気持ち悪いと言えばそうなのだが、嫌とは言えなかった。いつも従順で、おっちょこちょいな一面もあるにはある。けど、普段は真面目で、気づけば俺は……。諦めた俺は目を開く。

 

「辿り着いたか?」

 

サイエンスは俺の顔を覗き込むようにして言った。大きなため息をつき、口角を上げながら言ってやった。

 

「ああ、一人いた」

 

 

 

紙袋を提げ、『家』に帰ると、とっくに夜だった。外に出た時は昼だったというのに、今は暗い黒の色が空を覆い尽くしていた。それほどサイエンスのところにいたことになる。時間とは速いものだ。永く生きていて、嫌でも実感する。

 

紙袋をベッドの下に押し込み、ベッドに埋もれようとした瞬間、コンコンと扉がノックされた。不思議に思いながらも「入っていいぞ」と声をかけると勢いよく扉が開く。

 

「センパイ!」

 

そこにいたのはクロスだった。何故か肩で息をしている。

 

「クロス……?」

「もうっ、どこに行ってたんですか!? 急にいなくなったものだからあちこち探したんですよ!」

 

クロスは若干、頬を膨らませながら早口で喋る。肩で息をしているのは俺を探してあちこち走り回ったからなのだろう。ご苦労なことだ。

 

「はは、すまん。ちょっと用事があったんだよ」

「出かける時は声をかけてほしいものですよ。……まあ、いいです。ご飯置いてますから降りてきてくださいね」

 

そういうと、クロスは扉を閉めようとする。

 

「おい待てクロス」

 

伸ばした触手が、ドアと壁の間に挟まる。クロスは「はい?」と首をかしげた。……くそ、ちょっと可愛いって思っただろうがこの青二才。

 

「飯が終わったらお前を呼ぶ。……分かったか?」

「はあ……分かりました」

 

触手を引き抜くと、ぱたりと扉が閉まった。ベッドの下に視線をやる。これを長引かせても意味などない。こういうのは早い方がいいだろうしな。俺はパーカーのポケットに手を突っ込んで部屋を出た。

 

 

「失礼します」

 

扉が開き、クロスが姿を現した。これから起こることに予想もついていないらしく、彼の目には疑問が浮かんで見える。……正直、こういうのはグイグイいくものなのか、疑問に思えてきた。

 

「よく来たな。座れ」

 

クロスは扉を閉めて俺の足元に座った。ここまでは、いつもと変わらない。違うのは、この先のことだった。

 

「それで……いったい何の用なのですか」

 

彼が上目遣いで見てくる。ソウルが跳ねた。表面が平常を装っていても、ソウルは平常を装いきれない。

 

「……お前に、言わなければいけないことがある」

 

目線が思わずそれてしまう。それでも、クロスが息を呑んだことがはっきりと分かった。

 

「驚かないで聞いてほしい。クロス、俺は……病気を患っているんだ」

 

そういうと、クロスの目が大きく見開かれた。何か言おうとして開いたであろうその口を指で塞ぐ。

 

「別に、余命宣告なんかじゃないさ。その病気にはおそらく致死性はない。ただ、症状がかなり特殊なものでな。なんでも、口から花を吐き出す。吐き出す花はいつも違っていて、それにはなんの規則性もない」

 

もうここまで言ってしまったら隠すわけにもいかないよなぁ。ベッドの下から今までずっと隠していた紙袋を取り出す。

 

「そして、このなかに今まで吐き出した花が入っている。触れるなよ、感染するからな」

 

そういって、紙袋の中身を見せる。クロスの表情がだんだん曇っていく。唇を真一文字に結び、不安の表情を隠そうともしない。

 

「センパイ……」

「俺は花を吐くという病気を患ったんだ。花吐き病、嘔吐中枢花被性疾患ってやつだ。片想いをこじらせると発症するが、その根本的な治療法は見つかってない。ただ、両思いになると白銀の百合を吐き出して完治するらしい。……なあクロス」

 

紙袋をベッドに置き、深く息を吸っては吐くを繰り返した。そんな俺をクロスは心配そうな目で見てくる。そんな目をしないでほしいものだ。

 

「……俺は何百年も生きてきた。そのなかでたくさんのSansやらモンスターやらに出会ってきた。だけどな、全部どうでもよかった。ただのてごまでしかないからな。……でも、一人だけ違ったんだ」

 

クロスは何も言わない。それが怖かったし、嬉しかった。

 

「そいつはいつも俺に従順なんだ。赤い目や傷も綺麗で、気付いたら俺は其奴(そいつ)を追いかけるようになった」

 

ここまでくれば分かるよな。何かを悟ったのかクロスの目が大きく見開かれていく。

 

「それはお前なんだよ、クロス。俺はいつの間にかお前しか追いかけてなかった。こんだけ生きてきて、はじめてのことだったよ。だからクロス……俺と、付き合ってくれないか?」

 

言えた。謎の達成感に布団に篭りたくなる。クロスは視線を彷徨(さまよ)わせながら何か考えるような素振りを見せる。

 

たっぷり二分ほど静寂に包まれた。焦りが身を焦がす。早く答えが欲しかった。クロスは何かを決めたのか、口を開いた。

 

「……すみません、お断りします」

 

それを聞いた瞬間、部屋が凍りついた気がした。口をあんぐりとさせた俺を、クロスは今にも泣きそうな顔で見てくる。

 

「分かってます、『何言ってんだ』って思ってるのは痛いほど分かってますよ。……でも、俺じゃセンパイとは釣り合わない。そもそもの生まれもそうだし魔力にしろ体力の差にしろ、センパイがずっと上です。天秤にかけなくたって分かることです。……俺が今よりもずっと強くて、センパイと肩を並べられるくらいだったら、受け入れていたと思います。……ごめんなさい」

 

そういうと、クロスは力なく立ち上がり、扉に手をかけ、足早に廊下へと出て行く。

 

「おい、待て!!」

 

俺の言葉も虚しく。

 

***

 

足早に自分の部屋へと戻り、ベッドへと埋もれる。

 

まさかセンパイから告白されてしまうなんて……この人生のなかで予想にもしなかったことだった。脳裏にナイトメアの表情がよぎる。口をぽっかりと開け、言葉を失った彼の姿が。

 

ソウルが締め付けられるような気がした。彼からすれば俺は恋愛対象だった。でも俺は釣り合ってないのが怖くて断ってしまった。弱い恋人なんて必要ないんじゃないか。そんな思いがぐるぐると頭を回っては支配して……。あの人の制止も知らない顔して、逃げてしまった。

 

「ごめんなさい……」

 

届くわけもない謝罪の言葉が、静かに吐き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今もなお、花は止まることを知らない。




というわけでリクエストでした。日を跨ぎながら書いたり書きたいところ書こうとしたら5500ほど書いていました。ちょっと長すぎた。
リクエストありがとうございました!

2022/01/24
誤字訂正しました。
2022/01/30
少し変えました。
2022/03/08
文章追加等しました。

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