大丈夫な方はどうぞ。
目が覚めた。そこは白い部屋だった。
何故かその部屋に、見覚えがある気がする。
それにしても、体が動かしづらい。俺は手を動かそうとするが、手どころか腕が言うことを聞かない。それに加えて、冷たい金属音が響く。俺は視線を落とした。
「ハ……? ナンだよ、コレっ……!」
俺の両手は、黒い手錠に繋がれていた。ぐっと引っ張るが、びくともしない。両足は、と思い自分の両足を見る。奇跡的というべきか、両足には何もついてなかった。自由なのは両足だけ、ということだろう。
しかし、どうしてこうなったのだろう。俺は記憶をさらう。確か、インクが遊びに来て、どうでもいい話をして、そこから……。何故かその先が思い出せなかった。
再び記憶をさらおうとした瞬間、俺は視界の端に何かを見つけた。それを見ると、紫色の太い線が一本引かれてあるだけだった。
この線と色、見覚えが……?やがてその一本の線が形を作っていく。…人の形へと。
それは、俺がこの目で散々見てきた奴だった。
イン「起きたんだ。おはよう、エラー。気分はどう?」
紫色の太い線から現れたのはインクだった。そうだった、あいつは背中に背負った筆でポータルを作ることが出来るんだった。
「……最悪ナ気分だ」
イン「そう」
インクは俺の前まで歩き、ひざまずいた。その顔面を蹴り飛ばしてやりたい。そう思ったところで、俺は気づいた。インクの声が、あまりにも平坦なことに。
「ナンのつもりだ?」
イン「君はまだ気づいていなかったの? 僕の愛情に」
俺を見つめる白い目。その目が現す、ひとつの答え。インクは今、ソウルレス状態だということ。
「コレが愛情ダト言うのカ?」
馬鹿馬鹿しい。俺が知っている『愛情』というのは、少なくとも
イン「そうだよ。それでしか、表現出来なかったんだ。『君への愛』をね」
インクは立ち上がる。その無感情な眼差しが、俺を真っ直ぐに射止める。
イン「君は気づかなかっただろうけど、僕は君のことがすごく、すごーく好きなんだよ。愛してる。だけど、これをどうやって伝えればいいか、僕には分からなかったんだ。だからね、こうしたんだよ」
溢れる愛情の先には、こんなことしか待っていないのか。馬鹿馬鹿しい。俺は鼻で笑う。
「愛してる奴ハ、コンナことはシネぇよ。言葉でハッキリ伝えルってモンだ」
イン「愛してる、だなんて言葉で伝えても分からないものでしょ? 言葉だけじゃなくて、行動でも示さなきゃダメなんだよ。そして、僕は今からそれを実行する。エラーに分かってもらえるように……ね」
インクはこちらに戻ってくると、俺の膝の上に乗ってきた。接触、俺が抱えた恐怖が悲鳴をあげる。
「乗ルな!!」
イン「全く、君は本当に触られるのが嫌なんだね。でも、体は正直なものだよ。例え本人が嫌がっていたとしても、体は喜んでいるっていうこともあり得るから」
俺の叫びに動揺の欠片も見せず、インクは片手で俺の両手を塞ぐ。手錠の上から、インクの手が当たる。恐怖が、芽生え始める。それは止まることを知らない。
インクはすっと顔を近づけ、俺の口に自らの口を重ねる。柔らかな感触に乗って、インクの舌が俺の口に当たる。
イン「はっ……。ダメだよ、エラー。ちゃんと口、開けなきゃ」
「誰がオ前ナンか……」
***
エラーの顔には警戒が浮かんでいた。その表情は、『お前の思うようになるか』と言っているように見える。
僕は顔を近づけ、エラーの口に自らの口を重ねた。冷たい金属音の後に、僕の胸に感じた感触。離してほしいだろうけど、僕は離したくない。
舌を出してみるが、エラーはのってくれないようだ。予想はしていた。僕はエラーのシャツの中に手を入れる。
肋骨の真ん中あたり。確かにその感触はあった。それが脈打つのが分かる。
エラーが何か言おうとして口を開けたその僅かな瞬間、僕は出しておいた舌を入れる。油断大敵とは、このことだろうか。
***
シャツの中にインクの手が入ってきて数秒後。すりすりと、ソウルが撫でられる。
「んッ……!?」
やめろと言おうとしたその瞬間、俺の舌が何かに触れる。それはインクの舌。完全に油断していた、どうしてこんなときに限って_。
「はっ……んッ…や、めろッ……!」
俺は手錠がかかった両手で、インクを突き飛ばす。接触の恐怖よりも、離したいという気持ちが勝った。インクは突き飛ばされたにもかかわらず、その顔には一切の表情を浮かべていない。ふと、何かがない気がして俺はシャツに手を当てた。
ない、ない。
俺のソウルが、ない。
イン「探し物はこれかな?」
インクの右手に、青いソウルがふわふわと浮かんでいる。それは、俺のソウルだった。あの間に取られていたのか……。俺は目を見開き、叫ぶ。
「何をする気ダ! 返セッ!!」
イン「やだね。さっきも言ったでしょ、『愛してる』なんて言葉で伝えても分からないものだって。今から実行してあげるよ。エラーに注ぐ、僕の愛情を……ね」
インクは平坦な声でそう言うと、俺のソウルを口へと運んでいく。その瞬間が、俺にはスローモーションに見えた。そのとき、記憶が弾ける。このあと、インクにされることが頭のなかで再生されていく。
あの痛みが、あの苦しみがまた__
やめろ、やめてくれッッッ!!!
あむっ。
「あ"あ"ア"ア"あ"あ"あ"ッッッ!!」
***
ソウルを口に運び、甘く噛みついた瞬間、エラーの悲痛な叫びが部屋に響いた。彼は身を捩らせ、のたうち回り始める。
ぐぷりと、口元で音がした。僕はそれを飲む。口に広がる鉄の味。血だった。
エラ「や"めろッ!! あ"あ"あ"ッッッ!!」
少し強く噛む。エラーの悲鳴がさらに大きくなった。
「痛い? 痛いだろうね。だって、君の心臓を噛んでるようなものだからね」
僕はソウルを口から取り出して、舐める。血の味が僕の舌に広がる。エラーの血をこうやって舐めるのは何回目だろうか。
君は気づいているの? この無限ループに。
***
イン「ごめんね、痛いでしょ? でも、僕は君のことをものすごく愛してるの。だからさ……全部、ちょうだい?」
インクは倒れた俺のそばにひざまずく。
イン「その声も、体も、このソウルも。全部全部、僕にちょうだい? 大丈夫だよ、ちゃんと壊れないように管理してあげるからさ…。それじゃあ……いただくね」
インクはまた俺のソウルを口に運ぶ。
この後の末路を、俺は知っていた。あのソウルは、インクの口によって、噛み砕かれる。
この無限ループはまだ続いたままだ。そして、抜け出すことは叶わない。
俺は叫んだ。
「やメろおおオオおおッッッ!!!」
***
「……エラー?」
僕はエラーの名前を呼ぶが、反応は返ってこない。最後の欠片を飲み込んで、僕は目を閉じたエラーの頬に触れる。氷のように冷たくて、彼はもう、反応することも、喋ることもなかった。
「……死んじゃったか。でも君は生き返ることができるよ」
頬を優しく撫でながら、僕は呟く。
「ごめんね、痛かったでしょ? 今度は優しくしてあげないとね」
僕はにっこりと笑った。
「愛してるよ、エラー」
2021年2月27日(土)
思いっきりつなげました。
とはいえ続きの後書きに書いてたことが気になるという方がいらっしゃるような気がするので一応載せておきます。
前回の更新から約一週間……どうも、はたまです。
続きの内容どうしようとか考えてたら約一週間経ってました(作者の事情も入っています)。
なんだろう…書いてて思ったのはヤンデレインクくんは怖いってことですね。そのうちヤンデレドリームくんとかヤンデレクロスくんとかメア様書くかもです。
いい加減マダキラとか書けよって言われそう((小声