メアリスケルター ボツネタ集   作:夢現図書館

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その1

 

 

ハツカネズミがやってくるまで

少しお話をしようか

 

ちっぽけで、最悪なお話を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立血式高等学院。通称『血式学院』

 

 如何にも血生臭い略称のこの学院で、今日も多くの生徒達が勉学に励み、青春を謳歌している。と言うか半分以上が、血生臭い通り越して血塗れ連中な気がするのはきっと気の所為では無い。

 

 学院は西棟と東棟の2つ別れ、其々が『黎棟』と『昏棟』と呼ばれていた。同じ学院でありながらその方針が全く異なる姿勢を見せる。そんな学院内で一際、目を引く存在。血高のシンボル『監獄塔』が中央奥に存在している。捻れ曲がり聳え立いその先にコレまた不気味な『塔』らしきモノが聳え睥睨している。

 

 監獄塔の下で告白すれば永遠に結ばれるかだとか、昇天して1つになるかだとかと言った噂や、監獄塔の先、『監隊塔』の何処かに全く異なる世界と繋がっているだとか、学院長のヘソクリが隠されているのだとか数多くの噂が絶えない。

 

 色々な意味で異常な光景が散見される私立学院だが、誰でも門徒を広げている訳では無い。過去に何人もの入学希望者が望んだが悉くが不合格となった。理由は少し、通り越して明らかに異常極まりない能力を持った『童話』や『物語』の概念を持つ生徒達、血式少女や血式少年と呼ばれる者達のみが在籍が許されるのだから。

 

 数十年前に突如として出現の兆しを見せ始めた『メルヒェン』と呼ばれる化け物、それらを統率する『ナイトメア』。そしてそんな存在が跋扈する領域『ジェイル』と呼ばれる区域。人知を超えた存在である彼らに対抗する為に設立されたのが『血式学院』。『メルヒェン』や『ナイトメア』に対抗出来ると目されているのが『血式少女』や『血式少年』だけであるのだから。

 

 さて、そんな事情はさて置き……此処に、血式学院に通う血式少年の1人——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 も、も、も、も、無い。何処も彼処も書籍に関する概念で構成されるモノで埋め尽くされて居る……。コレはとても現実的とは思えない光景が広がっている。

 

 文字が飛び交う。が倒れて繋がろうとする。が隠そうとする。が消えようとする。が覆おうとする。その周囲に広がるのは真っ赤な鮮血なる血痕。それらが至極当たり前の様に蠢いている。

 

 コレは誰の血?コレは彼女の骨。アレはあの人の首の皮、ソレはあの子の眼……足元に転がる光景はそう、酷くあり触れた結末だった。

 

 

 咆哮が聞こえる。

 赫い空が広がり月まで届こうかと思う程のソンザイが見下ろしている。

 

 

 嘲笑が聞こえル。

 陳腐な抵抗を嘲笑うかの様に蹂躙している。圧倒的な力で捻じ伏せて行く。

 

 

 嗚咽が聞こエる。

 力無き存在は力のある存在により踏み躪られ葬り去られる。それは処刑するかの様に。

 

 

 悲鳴が聞コえる。

 理不尽なる存在が奏でる狂想曲。艶美で狂気なる憎悪に染まりし宴。

 

 

 

 それは人ならざる者達の『声』。それは呪いか、或いは怨嗟か。

 

——コレは、悪夢だ。どうしようもない程の悪夢だ。抗いようの無い……悪夢。

 

 

 

 崩壊した街並み、血の海に沈んでいる無数の死骸。そして、見覚えのある者達の成れの果て、そして——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………夢?」

 

 視界に広がって居たのは赫い空でも、文字が飛び交っている光景でもない。白い天井、調度品と言った机、そして壁掛け時計。正しく自分自身が良く知る光景である事を自覚した。此処は血式学院の黎棟の一角にある寮棟の一室。

 

——と言う事は、夢。かな?酷く、現実的で……異常な夢だった、気がする。まるで、自分がその場所に居たかの様な錯覚を覚える程の……。

 

 寝起きが良い、とは言えなかった。それに二度寝する気にもなれない。夢の内容の所為で心地よい微睡みとは言えない中、意識が覚醒したこの部屋の使用者である血式少年、ジャックはベッドから起き上がる。

 

「随分と嫌な夢を見たな……」

 

——真っ赤な空。不気味な程に巨大な塔の様なナニカがその空に浮かんでいた。それから、文字みたいなモノが彼方此方に浮かんでは消えていた。普通、夢なら曖昧なのに……此処までハッキリしているなんて。

 

『ジャック?まだ、寝ているの?そろそろ行かないと遅刻してしまうわよ?』

 

 その時、部屋の外から聞き覚えのある声が聞こえて来た。この声はジャックの幼馴染みであるアリスの声だ。どうやら中々起きて来なかったので起こしに来た様だ。

 

——時間は、うわッ⁉︎ もうこんな時間‼︎ 急がないと遅刻してしまう‼︎

 

 夢を見過ぎて居た所為かは分からないが時計の針は予想以上よりも進んでいた。そりゃ、アリスも心配になって起こしに来る訳である。現状を理解したジャックはそそくさとハンガーラックに掛けてあった黒い制服に着替えて『月と太陽』を模した紋章が描かれた腕章を腕に通す。

 

「……ジャック?そろそろ、起きないと……あ」

 

 着替え終わった直後、扉が開かれて迎えに来たアリスがジャックの部屋へと入って来た。黒髪に十字架を模した髪飾り(昔、ジャックがプレゼントした)を付けている。黒髪金眼の少女だ。彼女もまた、腕に月陽の腕章を付けている。

 

 

——あ、危なかった。流石に着替えている途中で見られたら、流石に……気不味い事になる所だった。

 

「起きていたのね。寝ていたら、起こせたのに」

 

——何か聞こえた気がするのだけど⁉︎

 

 しれっとアリスが小声で何か言っていた気が、少しだけして背筋が凍るジャックだった。

 

「……用意が出来ているかしら?流石に時間がギリギリになってしまうわ。遅刻するとシャーロットに怒られてしまうわよ?」

 

「う、うん。そうだね……先に行ってくれても良かったのに」

 

「……そんな真似する筈が無いじゃない」

 

 寮棟から出た2人は舗装された公道を歩きながら奥に聳える血式学院の本校舎へ向かう。血式学院の外観は正に巨大な城と表現しても良い。と言うか普通に城の様な形をした校舎である。内装は中世の様式に加えて外観を壊さない形で現代の様式を取り入れた新旧和洋折中と言った所である(内外共に童話の様式を取り入れた結果であろう)。

 この時点で普通の学校では無いと言う事がありありと伝わりその荘厳さに惹かれて入学希望者が存在するがやはり悉くが落選続きとなっていた。

 

 本校舎は『黎棟』からは黒く、『昏棟』からは白い外装となって見えておりコレまた『陰陽』と言う意味で特異的に映る。その校舎の奥には血式学院のシンボルである捻れ歪むように伸びる『監獄塔』、その頂上よりも更に上空には『監隊塔』が聳えていた。彼方此方に目玉があったり巨大な歯や筋肉の筋らしきモノが見えていたりと双方ともに不気味な光景であるがそんな光景も日常である為に気にする理由は無かった。

 

「……そう言えば今日。定期考査の返却日だったんじゃないかしら?」

 

「あ、そうだった。ハーメルンや赤ずきんさん辺りが絶叫しそうだけど」

 

「……かも、知れないわね。他にも居るでしょうけれど」

 

——あの2人、結構脳筋だしね。

 

 その様な他愛の無い話を交わしながら本校舎へと近付いて行く。そして城であるが故に玄関口は城門。その城門から約50m程、近付いたその時。本校舎7階程の階層の窓ガラスが甲高い破砕音を奏でて粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——夢の終わりは新たな夢の始まり。……誰かにそう言われた事は無いかい?

 

 コレは、運命の歯車が弾け飛んだ先にあるもう一つの世界(アナザーストーリー)。終焉の脱獄劇とは異なる本来ならば存在しない、世界のお話。

 

 ヨクボウと願い、その感情が幾重にも被さる形で擬態された世界のモノガタリ。

 

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