メアリスケルター ボツネタ集   作:夢現図書館

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その2

 

 

その日、悪夢の種が降ってきた。

 

 

 

 星空が浮かぶ夜空に一筋の光の線。『流れ星‼︎』と小さな子供が空に向けて指を示して笑った。その声に周囲の人々も釣られて夜空へと視線を向けると大きな流れ星が夜空を横切っていた。今夜は空気が澄み、星のよく見える夜だった。

 流星はほんの数秒しか見えず早々ゆっくり見られる事など滅多に無い事なのだが、今回見られた流星はそんな滅多に無い夜だった様だ。

 

 星は十秒ほども流れた後、高い空の上で粉々に砕けるようにして消えた。

 

「あー、消えちゃったー」

 

 小さな子供の残念そうな声を合図に、空を見上げていた人々はその視線を地上に戻し、其々の日常へと戻って行く。

 

 もう、二度と戻って来る事は無い日常へと。

 

 

 

 

 

 高高度、上空にて砕け散った星。少なくとも、人々が見て『流れ星』だと見ていたモノ。その残骸の隙間、いいや残片から小さな粒らしきモノがこぼれ落ちて行く。この場に人間が居れば何かしらの植物の種だと思う事だろう、少なくとも見る機会があればの話ではあるのだが。

 その『種』は大気中の気流の流れの煽りを受けつつも重力に従って舞い降りて行く。ゆっくり、そして確かに地上へと落ちて行く。

 その『種』は人々の住むとある街へと落ちた。その種は水を与えられた訳でも無く、すぐさま根を張った。その時、侵食は唐突に始まった。

 

 種は爆発的にその根を伸ばして行き範囲内に捉えた有機物、無機物を問わず、触れたモノ全てに寄生し始めて行く。

 根は触れたものの内部に侵入し、内側からその構成組成を書き換えて行く。あるモノは歪み、あるモノは罅割れ、あるモノは溶け、あるモノは合成されて行く。根に寄生されたモノは様々にその外見を変容させ、『世界』は急速に歪んでいく。異常に気付いてその侵食範囲から逃げようとした人々も、その多くが根に追いつかれ、寄生されて行った。

 ものの数分で、世界は書き換えられて行く。侵食させて行く根は街全体を覆い尽くして行きその範囲を急速に広げて行く、時間が経てば経つ程、その根は太くなって行きその胴体から更なる根が生えて行き街全体を覆い尽くして行く。

 

 侵食が街全体に及び『種』が落ちた場所を中心にして凡ゆるモノが寄生されてその姿を不気味な異界へと変えて行った後、根の成長と侵食は徐々に収まりを見せた。混乱していた人々はその程度の状況では落ち着く事は無かったが、

 

 観光名所の建物も、聳え立つビル群もその全てが根によって寄生されて異常なる変貌を遂げており不気味に歪められその姿を変容させていた。

 

「……コレは酷いな」

 

 その変異を聞きつけ現場へ急行した自衛隊、警察官、消防官やレスキュー隊はその光景を見てそう告げた。その変貌は人目見て常識的な光景とはとても言い難かったからである。

 

「……班に分かれて突入する。生存者を捜索し安全圏へと誘導。こんな光景だ、何が出るか分からない。気を引き締めて事に当たれ‼︎」

 

 隊長格の男性が部隊の隊員達に向けてそう檄を飛ばす。明らかに常識を越えた光景。それは、直ぐに発現した。

 

『此方F班ッ‼︎ 正体不明の怪物と交戦中‼︎ 至急、救援、がぁぁ⁉︎‼︎』

 

『……此方、B班。俺以外、全滅した。隠れているが周囲に童話に出て来そうな怪物に囲まれた上に脚を負傷した。逃げきれそうに無い』

 

『此方G班‼︎ 救援、救援をッ‼︎ あぁぁぁぁ‼︎⁉︎』

 

 次々と届けられる悲鳴染みた声。それは救援を請う無線ばかりであった。自衛隊が脚を踏み入れた途端、見た事も無い異形の怪物達が立ち塞がり襲って来たのである。銃弾を撃ち込んでも簡単には死なず、力も生命力も強い連中ばかりだった。

 

「クソッ、何なんだコイツらはッ⁉︎」

 

 突入した自衛隊は壊乱。正体不明の怪物達に進路を阻まれ戦闘状態に突入。しかし自衛隊は確かに自衛出来る程の部隊であったが戦闘行為其の物は慣れて居ない者達も多いのが実情。その上に相手が人間では無い常軌を逸した存在、それこそ二次元や童話に出て来そうな怪物が相手ならば尚更だった。

 出動した自衛官の半数以上が犠牲となり残りは街外へと撤退した。幸いにも怪物達は異界化した街の外にまでは出て来なかった。

 

「一体、アレは何なんだ⁉︎」

 

「分からない……ただ、この世の成らざるモノであるのは確かだ……‼︎」

 

「止めろ、縁起でも無いッ‼︎」

 

 

 

 異界化した街の探索任務は見事失敗に終わった。多数の自衛官が犠牲となり出来た事は街を封鎖する事だけであった。その後、国は異形化した街を封鎖しつつも調査を続けた。だが、その行動を嘲笑うかの様に『異界化』は進行を続けて行く。それは近隣の街をも飲み込んで行く……正にそれは侵食とも呼べる光景であった。

 

 そして、一人の博士がいた。

 

 博士は侵食が始まった時からずっと、種や寄生体の事を調べ、この現象がいったい何なのかを暴こうとしていた。

 研究の結果、博士はいくつかの仮説を立ててこの現象に名前を付けた。  種に寄生された有機物や無機物を総称して、『擬態』。

 中でも生き物が寄生されて単独で動く擬態を、『メルヒェン』。

 そして、種に寄生されて今もなお成長を続けている、地獄と化した街を。

 博士は、こう名付けた。

 

 生ける監獄、『ジェイル』と。

 

 

 

 

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