メアリスケルター ボツネタ集   作:夢現図書館

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その3 『2』基準版

 

ジェイル——

 

 それは、突如世界に降ってきた、悪夢の種の萌芽。空から降ってきたその種は、根を張った大地を腐らせ、建物は歪み、生き物は飲み込まれてその姿を変えた。そうして地下深く沈んだ、太陽さえ奪われた街で、人々はジェイルが産み出した異形の化け物『メルヒェン』に怯えながら生きる事となった。

そんなジェイルの中で、人類が化け物に対抗するための組織である『黎明解放戦線』が生み出した、対メルヒェン用決戦部隊——

『血式少女隊』は、ジェイルからの脱出を目指し、自らの手を血に染めながら、監獄塔を登る。その先にあるタイヨウを目指して……。

 

 ジェイルの成長により地下洞窟へ通ずる通路が開けた。その地下洞窟へと侵入した血式少女隊は其処でずっと地下洞窟で生活していた『ハーメルン』と出会う。当初は殺し合いとも呼べる戦闘行為に陥ったが戦闘後に仲間入りを果たす。その後も地下洞窟の探索を進め予想通り『ナイトメア』を発見したのだがそのナイトメアは予想外な事に逃亡を繰り返していた。今まではナイトメアとの決死の鬼ごっこを演じて来たのだが今回に至っては逆にナイトメアを追い掛け回す事に。戦闘と逃亡を繰り返し追い掛けて行った先……其処で血式少女隊は思わぬ形で地上……都庁へと辿り着く。その都庁を登り逃亡を繰り返すナイトメアを追い詰めた時、そのナイトメアの正体が露見する。限りなく人間に近い姿のナイトメア……そして血式少女隊唯一の血式少年、『ジャック』との奇妙な共通点、そして決死の説得によりナイトメアが忘れていた『記憶』が蘇った。ナイトメアの正体は『前の世界』に飛び込んだ先の『つう』。『後の世界』で死んでしまった『人魚姫』を助けたい思いの一心で都庁の最上階に存在する『白い核』……ウィッチクラフトに願い10年前に飛んだ……そして、『前の世界』で最後の最後の結末を迎えた時、人魚姫から『遥か先の未来で会いたい』と言う願いを聞き入れ『後の世界』へと戻した……。

 前後の記憶は繋がらない……言わば無限ループ……此処でジャックが『記憶』を思い出さなければつうは永遠と前後の世界を行き来していたのかも知れない。

 

 記憶を思い出せたのはつうとジャックのみ。それ以外の皆は全く訳の分からない話について行けず置いてけぼりだった。つうが願うのは愛する『人魚姫』を生き返らせる事……その為の手段は半信半疑ながらも残されていた。一度戻り黎明の近く、人魚姫の墓から人魚姫の遺体を持って都庁の白い核、ウィッチクラフトの元へと到達。其処でナイトメア・つうは人魚姫の遺体と共に嘗て2人で核に飛び込んだ時と同じ様に飛び込んだ。『核は強い想いを受け止める』、誰よりもずっと、ずっと人魚姫の事を想い続けたつうの願い、そして奇蹟は起きた。

 

 ナイトメアだったつうは血式少女へと生まれ変わり幼い頃に死んだ人魚姫は成長した姿の状態で蘇生してウィッチクラフトの近くで待っていたジャック達の前に戻って来た。血式少女としてのつうと人魚姫……『前の世界』で遥か未来での再会を誓った2人は後の……本当の世界での再会を果たした。

 

 血式少女、12人。黎明で発見された血式少女はコレで全てだった。大きな遠回りをした……2人を迎えた血式少女隊は改めて監獄塔を攻略し、最後の戦いに挑んだ。

 

 ジェイルが生んだ最低最悪の悪夢……その悪夢を打ち砕いた時、ジェイルを覆っていた天幕が壊れタイヨウの光が差し込んだ。本当に久し振りに見る光、そしてその光を知らない者達もその光を見た——。

 

 

 

 

「長い長い夢。白くて……小さく孤独だった小鳥が願い苦しんだ果てしない夢。其処に小さな小鳥さんが寄り添ったの。仲良く一緒に……ね? でもね、逸れてしまって同じ所をぐるぐるぐるぐる……迷子の様に回っていた……その時にね? 青い鳥さんが寄り添って……逸れていた小鳥さんのいる所に案内したんだ。えへへ、きっとその先の方は楽しそうだもんね? ね、みんな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。身体検査はこれで終了よ。血圧、脈拍共に平常値よ」

 

 黎明解放戦線、通称『黎明』は新たに拠点を地上に移した。移した先の建物を見つけるのは困難かと思われていたが電力が生きている建物を幾つか発見する事に成功し其処を黎明の本部として置くことと決めた。その近辺はメルヒェンの出没も少ない為に新たな解放地区として機能する事となった。

 

 その黎明本部、医務室にて血式少女隊の皆は定期的に行われる身体検査を受けていた。

 

「ありがとうございます。視子さん」

 

「定期検診は必要な事よ。おつうや人魚姫も特に際立った異常は見られない……他の血式少女と比べても概ね相違は見られなかったわ」

 

「良かった……‼︎」

 

 この場には『悪夢』の中を彷徨い続けていた『つう』、『人魚姫』の姿もあった。2人の黎明の制服は白と青……ジャック達の着ている黒と赤とは真逆の配色だった。

 

「……此処での生活はもう慣れたかしら? ドタバタが続いているから何とも言えないでしょうけど」

 

「……慣れる慣れない以前に地上へ出られたんだから色々と行って見たいよね‼︎」

 

「うん。海……って所を見て見たいな〜」

 

「……未だにこの地域から出ていないモノ。つまりまだまだ未知の世界が広がっていると言う事に他ならないわ……本当に心が躍るわ」

 

「……そうですわね。確かに彼方此方にジェイルは広がってはいるでしょうけど……その程度でへこたれはいたしませんわ‼︎」

 

「はいはい。逸る気持ちは分かるけどね」

 

 視子はそう嗜めるが無理も無いかと考えている。ジャックやアリス達は『ジェイル』と言う監獄の中の世界しか知らない。海も太陽も空も一昔は当たり前に存在していたモノを見た事が無かったからだ。おつうも都庁生まれだがその外には出ていない(地下の方向へと行ってしまった為)のでその外部の光景も良くは知らない。

 

「……」

 

「……? どうかしたのかしら?」

 

「……相変わらず聡いわね。グレーテル」

 

 視子の表情に陰りが見えた事に気付いたグレーテルが好奇心から問いかける。亡き黎明の長にしてスナークでもあった博士の頭脳を継ぐと公言したグレーテル。知的好奇心は群を抜いている為に洞察力にも優れていた。

 

「……地下のジェイルから地上には出られた。だけど、20年の歳月が流れてしまっている……残されている資料はほぼほぼ役に立たないわ」

 

「世界は作り変えられてしまっているモノね。地形なんて丸ごと変わってしまっていても可笑しく無いわ」

 

「ええ。ジェイルが複数存在すると考えると彼方此方で監獄が多数、存在している。そうなればそれだけ派閥が出来ていると言う事に繋がるのよ」

 

「……ミコー? それ、どう言う意味?」

 

「……人間、色んな考え方がある。故にどの様な状況になっているかは想定は出来るけど断定は出来ないと言う事よ。外の世界へと飛び出すのならば尚更よ」

 

「……メルヒェンにもコミュニティって言うのが少なからず存在した。僕が中途半端なナイトメアだったから都庁を追い出されたかの様に……僕達が見た状況とは同じ様であるとは言えないって事だよね?」

 

 視子の言葉を補足する様におつうが繋げる。

 

「ええ。言い難い事だけど、かぐや姫、アリス、ジャック達の過去の様な状態が大規模な展開になっているジェイルもあり得るのよ」

 

「…………」

 

「それってつまり……?」

 

「……事例は複数存在していた。博士の言葉通りならば……ジェイルの種は博士が持ち込んだ。それが世界中に広まった……そして私達が『産まれた』………」

 

「……‼︎」

 

 グレーテルのその言葉にジャックは理解した。他にもジェイルは存在しているし監獄塔も存在していた。つまり——。

 

「……貴方達以外にも『血式少女』は存在しても可笑しくない。と言う事よ」

 

「……他にもジェイルに抗おうと言う意志の人間の組織が存在していても不思議では無いわね」

 

「……でも、それは憶測に過ぎないんじゃない?」

 

「ええ。状況証拠から憶測の域を出ないわ」

 

「……それで視子さんは何故、そんなに難しそうな顔をしたんですか?」

 

「ん…………ん………‼︎」

 

 他にも血式少女はいる。それは憶測の域なのだが其処を心配する視子を見て白雪姫と眠り姫は疑問符を浮かべる。

 

「……心配なのは血式少女達との争いが起きる事よ。聞けばハーメルンやおつうとも一度は戦い合ったのでしょ?」

 

「……う、うむ。そうであるな」

 

「……はい」

 

 ハーメルンとおつうは首肯する。確かに一度は血式少女隊と戦闘にまで発展している。視子からすれば血式少女同士での殺し合いだけは避けたい所。何が起こるか分からないし起こって欲しくは無い。

 

「人間だってそう。誰でも彼でも全員が全員、仲良くなれる訳では無いのよ。主義主張の違いから仲違いして啀み合う……そして最後は殺し合いになってしまう」

 

 その言葉を聞いておつうや人魚姫、ジャックは苦い顔をする。前の世界で親指姫はシンデレラを本気で殺そうと考えていたのだから。

 

「……血式少女もそう、じゃない。とは言い切れないのよ……全員が友好的である。と言う楽観視だけはしないで頂戴」

 

「「「…………」」」

 

「ごめんなさいね。折角、皆が待ち望んでいたと言うのに水を差すような事を言っちゃって……外の世界が必ずしも美しい面だけでは無い事を理解して欲しいのよ。醜い所だってちゃんとあるの……」

 

「う、うん……分かってるよ、ミコ」

 

 人間同士でも争い合う。それは仕方の無い事なのかも知れない。

 

「視子さんが私達の事を気に掛けてくれているのは理解はしています。必ずしも全員が敵では無い筈ですよ」

 

「そうね。そう、信じたいわね……あ、ジャック。この後、ハルくんの所に顔を出しなさい」

 

「あ、はい」

 

 理由は聞かなくても分かる。メアリガン……自身の能力であり皆の生命線であるメアリガンのメンテナンスを引き続きハルが行なっているのだ。きっとソレ関連の事でのお呼び出しなのだろう。

 

 

 

 

「……見た事も無い結果が出ているわね。地下のジェイルから脱したが故の影響なのかしら?」

 

 元東京大学の校舎群を改修して設置された黎明本部。この場所を黎明の拠点として設置し共同生活を送る事となった。この近辺、解放地区は現状知る限りの人類に残された最後の砦の様なモノであった。一歩外に踏み出せばその先に広がっているのはジェイルの群、何処も彼処も歪められた世界が広がっており多種多様のジェイルや監獄塔が乱立している。蔓延るは多数のメルヒェン、そして看守たるナイトメア……もはや途方も無いレベルにまでこの惑星は浸食されてしまっていたのである。

 

 それでも黎明を始めとした人類は生きている。故に生きてこの世界で生きるしか無いのである。コレまでもそうして来たし、そしてコレからもそうして行くのだろう。

 

 黎明本部、医務室。其処に現在の黎明の代表が普段其処にいる部屋。その部屋の一角にて多数の書類、いやカルテを見て黎明の現代表である上島 視子は興味深いと言う表情を浮かべていた。

 

地下監獄の頃の黎明では医療班の班長を務めていた。紆余曲折もあり内部間でのイザコザや監獄塔の作戦、そして前代表であり黒幕でもあった博士が『親子ゲンカ』の末に姿を消した。その為、消去法で視子が黎明の代表と言う大役を務める事となったのだ。

 

「……血液量やマクロファージの総量は変化している。けど、その他は此処まで変化が無いとは……」

 

 カルテの内容は血式少女達に関する内容であった。各地へと探索を進めるに連れて地上で産まれ落ちた血式少女達を見つける事に成功していた。紆余曲折あってか黎明に迎える事になった、赤ずきんに至っては妹が増えたと喜んでいたのを覚えている。ほぼ全員が未成年頃の年代(正確な年齢は分からない。肉体の成長具合での判断された憶測でしか無い。その為、実際の年齢は不明である)とは思われる。

 

「……普通、成長と言う形で肉体の変化は訪れる筈なのだけど、地下監獄から黎明に居る子達に至っては診断結果が全く変わっていない……いえ、コレは一体どう言う事なのかしら?」

 

 カルテの内容は当然ながらの内容だった。だが、視子からすればどうにも不審点が出て来る。内容が変わっていない……成長の比率など個人差は出る事は判明している。それが1人や2人ならば、別に問題は無い……だが、全員・・なのである。全員の基礎に関する健康診断の結果内容が一律、変化していないのだ。

 

「……血式少女、いえメルヒェンやジェイルに関する研究は未だに発展途上……ある一定にまで成長した場合、成長が止まるのかしら? いえ、そう言えばブラッドスケルター化した場合、肉体の成長が完全に停止するとかジャックが言っていたわね。それと何か関係が……? そう言えば過去にあの子の死体は……一向に腐らなかった……でも健康診断した時にはあの子達の穢れはジャックのお陰で正常値未満になっていた筈……」

 

 過去、幼い頃の赤ずきんがブラッドスケルター化した人魚姫を殺害してしまうと言う事故が発生した。その事実を赤ずきんは引き摺って心の奥に仕舞っていた……だが初めて地上へ出た時に発見した都庁にて出会ったナイトメアとの邂逅でその墓標を掘り起こしたのだ。其処には過去に殺してしまった人魚姫の姿。当時の姿と一切変わりの無い状態で白骨化は愚か腐りさえもしなかった……その後の事は詳しくは聞いていない。どうなったのかは本人達しか知らないのだ。

 おつうと言う血式少女も当時は訝しんだモノである。赤ずきん達もジャックを除いて知らないとも言っていた……事の全容を知っているのはジャックだけ、やはり彼は……彼だけは特別な存在の様である。穢れて暴走する血式少女達を浄化し止める事が出来るのは彼だけ、血式少女が増えればそれだけ彼の負担も増えてしまう……だがその事に対して彼は弱音は吐かない。故に痛ましく見えてしまう事もあるし気にかけてもいる。

 

「……ジェイルは観念的なモノも具象化する。あの子達は『童話』に込められた想いの……ハッ、まさか、そう言う事なの? いや、でも…………確証は無いし、コレばかりは証明する手段が無い」

 

 擬態化は観念的……『想い』さえも擬態する。血式少女や血式少年は『童話』の観念を以って擬態化された元妊婦の胎内から食い破って産まれた人間とは違う存在とも見て取れる。だが黎明の人間は彼女達を人間として育てた。

 

「…………童話は完結した物語……つまり」

 

——あの子達はその先に進めない。繰り返すと言う事なのかしら? 現実問題、黎明や解放地区の人々は地下監獄から地上へと脱出する事も出来た、コレはあの子達の活躍があってこそ成し得た。でも、あの子達の身体が人間と同じ存在に変化する訳では無い……。

 

「……気が滅入るわね。新しい血式少女も見つかったと言うのに私がこんな状態では」

 

「……考えても仕方ないわ。あの子達はあの子達に変わりは無いもの……」

 

 

 

 

 

「えーと、ハルさん。いるかな?」

 

医務室から退室し視子から伝言を受けたジャックは黎明の血式武器製造士であり整備班の纏め役のハルを訪ねに血式武器製造所の前まで来ていた。

 

「ハルさん‼︎ ジャックです」

 

『おー、来たか。入れ』

 

中からハルさんの声が聞こえて来た。ぶっきらぼうだけど面倒見が良くてメアリガンの事でも良くお世話になっている。後、顔に似合わずマメな人だ。あ、コレは本人の前で言わない方が良いかも……。

 

「よう、小僧……来たか。其処に座って腕を出せ。直ぐに装着してやる」

 

血式武器製造所は相変わらず工具類やらで沢山散らかっている……大半が拾って来たメルヒェンのパーツ類なんだよね……そんな事を考えながら促されるままに椅子に座り腕を出すとハルさんメアリガンを僕の腕に装着した。

 

「オーバーホールしたからな。針や止血剤。他諸々も異常無しだ……今後とも使って行かねばならないのだから扱いは大事にな」

 

「はい」

 

「んで、小僧。言っておきたい事がある」

 

「何ですか?」

 

「……博士、スナークの事だよ」

 

「…………」

 

その言葉を聞いて沈黙する。ハルさんは博士、スナークと腐れ縁の様な関係だったらしい。そして外の光景も大凡は予想付いていたんだ。だからあの時『出ても出なくても変わらない』と言ったんだ。アレがこの世界の真実だった……。

 

「……外の世界、興味あるんだろ? 例え外がジェイル塗れだとしても」

 

「……はい。地下監獄のジェイルの外……例えジェイルだらけだとしても」

 

「ふっ、止めろとは言わねぇさ。正直、俺もどう言う状況なのかは分かりはしねぇ……まぁ、お前達ならばやって行けるだろうよ」

 

あの過酷なジェイルの中を駆け巡った血式少女隊ならば今更な言葉である。それどころか更に増える可能性だってある。まぁ、そうなった場合……大変なのは言うまでもなくジャックだろう。天然ジゴロな上に血式少女のほぼ全員から好意を向けられている。ハッキリ言ってしまえばジャックはハーレム状態と言って良いからだ。見ている分には面白いが本人は大変かも知れない。

 

「……ま、あんま股を掛け過ぎると後が大変な事になるぞ? それだけは覚えて……あー、お前の場合は尻に敷かれるタイプだな」

 

「ハルさん……言い方に悪意がある気がするんですけど」

 

「……ま、精々搾り取られない様に気をつけるこった。ついでに嬢ちゃん達を泣かせるなよ?」

 

「……分かっています」

 

貧血で倒れたり、無茶をしたりして倒れたりと何かと心配される事を良くしでかす。

 

「……本当に分かっているのか? ま、その前に赤ずきん共に搾られるのが先か」

 

「………………………………」

 

「おい、ジャック……真顔だぞ? おい、まさか本当に搾られて居たんじゃ……⁉︎」

 

「な、何でも無いです‼︎ あ、メアリガンのメンテナンス有難う御座いました、ではコレにて‼︎」

 

ジャックは追求されまいと考えて早々に血式武器製造所から逃走し走り去って行ってしまった。

 

「…………割とマジで何かやらかしているのか? まぁ、今のご時世、身体を抱き合う事位でグヂグチ言わねえが、視子の場合は……ちと五月蝿そうだな」

 

大人しそうな顔して中々やるな、小僧。今度来たらちょいと鎌かけて見るか?

 

 

「……あ、危なかった」

 

搾られているとか股を掛けてるとか……ああいうのは面と向かって言われるのはちょっと……。

 

「……?」

 

あれ……急に白く狭くなって来た……?

 

「……ッ‼︎ コレは⁉︎ でも、如何して⁉︎」

 

真っ白な闇……‼︎ でも、此処は解放地区の、黎明の本部の建物の中‼︎ まさか、前の世界みたいに……‼︎

 

「早く、皆に知らせないと……ッ‼︎」

 

見られてる……‼︎ 明らかに廊下の奥の方から僕を見ている視線を感じる……悲しいかな、僕1人自身でナイトメアを相手にするのは無謀なんだ……。

 

踵を返して走り出そうとしたその時、跫音がジャックの耳に入る。もうすぐ其処までその存在が来て居たらしい。

 

「……ッ‼︎」

 

ジャックがその存在を目の当たりにした直後、血飛沫が飛び散る音と共にその視界が鮮血に染まった。その視界に映ったのは——。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? アレはグレーテルと赤ずきんだ」

 

一方、その頃……おつうは食堂の方へと脚を運んでいた。救護室を後にして少し小腹が空いた為に立ち寄ったのである。其処ではサイコパスガールであるグレーテルと脳筋突撃娘の赤ずきんが先客として訪れていた。

 

「そうね。やはり、此処は」

 

「えー、此方の方が挑みがいあるんじゃん?」

 

「やぁ、2人とも何を話し合っているんだい?」

 

「あ、おつうじゃん。実はね視子にコレを貰ったんだ」

 

赤ずきんはそう言いある物をおつうに見せた。それは地図。この地域周辺の地図だと言う……最も、数十年前の地図の上に現在では各地に根を下ろしたジェイルによって実際は書き換えられてしまってしまっている可能性が高いのだが。

 

「私達はまだ、この解放地区から外部へと出た事が無いじゃない? まだまだ見た事の無い光景が広がっている……楽しみで仕方がないのよ……その為、まず最初に何処に向かうのか話し合っていたのよ」

 

最も観光気分とは言えないのだが……解放地区でさえ彼方此方がスラム然としている為、環境としては悪い部類に入るだろう。外部のジェイルの範囲内はまだ調査し切れていない為に規模は不明、独房エリアと化している可能性も大いにある。少なくとも、この近辺での監獄塔たるジェイルだった都庁は役目を終えている為、関連するエリアは機能を停止している可能性もあるが。

 

「へぇ……一先ず、候補は上がっているのかい?」

 

「渋谷と池袋と言う土地の2つよ」

 

「地下のジェイルから脱したとは言え、物資も足り得るとは限らないからね。脱出出来た人達の食糧も衣類も確かに必要だしね。取り敢えず、物資の回収がてら探索する事にしたんだ」

 

「それで、渋谷と池袋……なのか」

 

「距離的には渋谷が一番近いわね。最も、どう言う構造へと変貌を遂げているのかは分からないけど……」

 

理由は概ね分かった。地下監獄から脱出した血式少女隊は外の世界に大いに興味を示していた。それが例えどの様な世界だとしても……。

 

「……おつうは何方が良い? 折角だし、アンタが決めなよ」

 

「うーん、そうだなぁ……」

 

まだ土地勘と言うモノは無いし……やはり近場から慣らして行くのが一番だと思う。

 

「渋谷からで良いんじゃ無いかな?」

 

「そう……ならそれで決まりね」

 

その時、黎明本部の近くで悲鳴の様なモノが響き渡った。

 

「ん⁉︎ 何の騒ぎ⁉︎」

 

「一瞬だけ、白い闇が見えた様な……?」

 

「本部内でナイトメアが現れたとでも言うのかしら?」

 

嫌な予感が一瞬にして走り抜ける。そう考えた赤ずきんはグレーテルとおつうを引っ張りながら悲鳴の聞こえた方角へと向けて走り出した。

 

 

 

 

タイヨウ教団は監獄塔での一件でゴタゴタに見舞われ相応の犠牲を払いつつも地上へと出る事に成功はした。スナークによって根差した物に擬態された大陽女ことミチルはと言うと不思議と其処に存在していた。理由は分からない、ただ生きている……と言う事は確かなのだろう。

 

結局、タイヨウ教団は陽司の弟と大陽女の姉の2人で切り盛りして行く事になった。地上も地上で凄惨な環境となってはいた。建物の大半は倒壊していたり歪んでいたりしている。しかし、誰もが待ち望んでいたモノは確かに存在した。タイヨウの光、である。地上の空は曇天と言った悪い天候が多い為に日光が差し込む時間は限られている。それでも確かにタイヨウは存在しているのは確かなのである。タイヨウ教団は黎明本部から少し離れた教会跡を改装、修理をして使い始めその場所を教団本部とした。

 

「わはは〜‼︎ 捕まえてみるが良いぞ‼︎」

 

「まてまてまてまて〜‼︎ あはははははは‼︎」

 

タイヨウ教団近くの広場では多数の孤児達に混じってラプンツェルとハーメルンが鬼ごっこ(遊び)で遊んでいる。

タイヨウ教団はもともと、人々がお互いに助け合うために身を寄せ合った、名もなき小さな集団だった。その設立は黎明よりも古く、弱者優先の炊き出しや社交場の他、親を亡くした子供達を引き取って皆で育てる孤児院のような役目を果たしていた。

黎明が出来てからは、連携を取りつつ互いの役割を特化させ、何方も解放地区にとってなくてはならない程の団体になっている。特に効率よく人々を守るために縦割り構造となっている黎明とは違い、教団は人々に横の繋がりを提供している。黎明は安全を、タイヨウ教団は安心を。

 

それは地上へ出たとしても変わる事の無い事実だった。変わったと言えば、環境くらいである。

 

「親指姫達か……来てくれて嬉しいよ」

 

タイヨウ教団の教会内。親指姫達三姉妹と人魚姫、4人の血式少女が足を運んでいた。少し前に話があると伝えられていたからである。その教団本部の教会内で陽司である千昭が親指姫達を出迎えていた。

 

「ちー、頼み事があるって聞いたけど……一体何なの?」

 

「私達にしか出来ない事なのでしょうか?」

 

「ん……ん…………」

 

久し振りに会う事になるのだろうか、少々食い気味である。

 

「もう、親指ちゃん達、彼が困っちゃうよ?」

 

「はは、気にしないでくれ。早速だが、要件を伝えたい」

 

彼女達のその反応を見て陽司は表情を和らげた後に依頼する内容に入る。元より自分が黎明に出向いて伝えるべきなのだが地上に出て間も無い為に離れるに離れられない状態だった。故に向こう側から出向いて貰う他無かったのである。

 

「依頼内容は物資の調達をお願いしたい。主に衣類や繊維、毛布類だ。教団員が増えた事もあるが地下監獄から使い続けていたからかなりボロボロになっていてね」

 

「成る程、地上で使えそうなモノが無いか探して来れば良いんですね‼︎」

 

「地上と雖も、この解放地区外はジェイル塗れだもの。外に出るのはどうも危険過ぎるわね」

 

血式少女隊の様な戦力はおつうやジャックの知る『前の世界』じゃなく『今の』タイヨウ教団は有して居ない。故に出歩くのは危険過ぎる。解放地区として利用しているこの周辺地域より外は例外なくジェイルの根が降りている。監獄塔たる都庁の機能が停止しているとは言え必ずしもメルヒェンが全滅しているとは限らないのである。何処かから流れて来ている可能性だってなくは無い。

 

「……そう言う事だ。頼めるかい?」

 

「ええ、今更水臭いわよ……ちー。その依頼、引き受けるわ。丁度、地上に出たから取り敢えず探索しようと赤姉達と話していたからね。序でに使えそうなモノが無いか探して来るわよ」

 

「うん。見つかると良いよね」

 

地下監獄、ジェイルでの血式少女隊の最終目標、ジェイルからの脱獄は達成された。地上に出た先では今の所、黎明の組織としての大きな作戦目的はまだ無い。その為、取り敢えず周辺地域を探索する事に決めていた。地上と雖もその様相は一変している筈であり全くの想像が付かない。

 

「助かるよ。使えそうなモノが見つかったら何時もの様に担当の教団員に伝えて欲しい」

 

タイヨウ教団には色々な要望を纏めている依頼所の様な場所がある。ほぼほぼ血式少女隊が依頼を引き受けて居るのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャックがその存在を目の当たりにした直後、血飛沫が飛び散る音と共にその視界が鮮血に染まる。沸騰するかの様な熱量と共に自身の身体から血が溢れ流れ出すのを感じた。

 

「……く、死んで……たまるかッ‼︎」

 

ジャックは有事の際、本当に有事の際に使うであろう為に上着の袖の裏に隠していた折り畳み式のメス(何故かグレーテルが持っていたのを渡された)を振るった。

 

「おっと、思わぬ反撃‼︎」

 

声が聞こえた。ナイトメアが話す様な区切れがある喋り方では無いハッキリとした声。ソレを聞いたジャックは出血による意識の混濁している中で相手はナイトメアでは無いのではないか? と考える様になった。

 

「はぁ……はぁ……一体、誰なんだ」

 

「普通なら死んでいる筈だぜ? 案外、お前はしぶとい奴なんだろうなぁ?」

 

白い闇の奥から気狂い場違い勘違いの三拍子揃ったかの様な声が聞こえ跫音と共に帽子やモノクルを掛けている事が特徴的とも言える1人の男がこの場に現れる。一言で言えば……『帽子屋』。

 

「……恨みも怨嗟も怨恨もありましぇぇん‼︎ と言う訳で死んでくれちゃってぇーよ?」

 

「ジャック‼︎」

 

意味が分からない。ジャックの心境はその一言に尽きる。その時、白い闇のジャックの後方から風を切るかの様に現れたアリスが大剣を持って振りかぶり帽子屋へと斬りかかった。

 

「おおっと、我らがアリス⁉︎ まてまてまてまてェ‼︎」

 

「ハァァァ‼︎‼︎」

 

アリスは何時もの超感覚(ジャックの事になると過敏になる)でジャックの元へと文字通り飛んで来た。そして白い闇を視覚した為に大急ぎで飛び込み目の前の状況を即座に把握した。即ち目の前の見知らぬ男は敵であると言う事。数刻前に視子から『必ずしも誰もが友好的では無い』と教えられたばかりの手前だが、今のアリスには関係が無い。一切、容赦が無い斬撃を受けた帽子屋は吹き飛んでゴロゴロと廊下を転がる。

 

「ジャック……ッ‼︎ 貴方、そんなに出血して……‼︎」

 

「あ、アリス……大丈、夫だよ……」

 

「大丈夫な訳無いじゃない‼︎」

 

アリスはジャックの状態を見て取り乱している。現状のジャックはかなりの血を流している。そろそろ失血死の危険性も考慮に入れなければならない状態に移行している直ぐに止血せねば危険である。

 

「何事だ‼︎ ぬぉ、ジャック、いかがした⁉︎」

 

「こ、これは直ぐに止血しないと危ないですわよ‼︎」

 

其処に騒ぎを聞きつけたハーメルンとシンデレラがその場に駆け付ける(ハーメルンはタイヨウ教団から先程帰って来た)。2人ともジャックの様子を見て彼が大怪我をしている事を直ぐに理解した。ジャック自身の身体能力で戦える様なモノでは無い事は周知の事実。2人はジャックを庇う形で立ち塞がる。

 

「おっとっと、想定外の上に想定外だぁなー? ちょっと、マズいか?」

 

「貴方、何者なのかしら? ジャックをこんな目に遭わせて……‼︎」

 

「おっと我らがアリス。俺を忘れてしまったのかい? このファンタスティックでクレイジーなこの俺様を」

 

如何に胡散臭いと言う表現が似合う男は先程までアリスの攻撃を受けてゴロゴロと転がっていた事を忘れたかの様に起き上がってそう宣う。

 

「生憎だけど、私は貴方の様な男の知人なんて居ないわ」

 

「お嬢はジャック以外の男性に興味は、ヒィ⁉︎」

 

ハーメルンが何かを言っていたが何処からともなく現れた殺意に怯んだ。

 

「完全に忘れたって言うのかよ〜? 仕方ないねぇ、俺は帽子屋ハッタ。ワンダーアリスエセ紳士会名誉会長兼アカデミーマッド賞受賞兼、ってうおおおおおお⁉︎」

 

「訳分からぬ事をグダグダ抜かすでないわ‼︎」

 

ハーメルンがウザいと感じた直後に右手に生み出された黒い火炎弾をその腕で振るい帽子屋ハッタに叩き込んだ。

 

「熱っちゃあァァァァ‼︎‼︎」

 

真正面から避ける事なく(前口上を言うのに専念していたのか)火炎弾をぶつけられた帽子屋ハッタは燃える身体で走り回っている。何というか滑稽である。

 

「お嬢‼︎ 此奴の言葉に耳を貸すでない‼︎ 耳が腐るぞ‼︎」

 

「その様ね。ただ、私にとって重要な事は……ジャックを傷付けた……だからこの男は私にとって敵よ‼︎」

 

「熱ちちち、其方のお嬢さんは、随分と刺激的だなぁ。うーん、今じゃ我らがアリスをマッド・ティータイムを招待するのは難しいか?」

 

服に広がった炎を払った帽子屋ハッタは減らず口を相変わらず叩いている。

 

「生憎だけど、貴方となんかとお茶会なんて開きたく無いわ」

 

「そんなつれない事を言うなよ〜、我らがアリス。うーむ、やはり其処の少年がいるからか……王子様の配役なんて一番最後に放り捨てればいい癖によ」

 

「……貴方の言葉、全く以って理解出来ないわ」

 

「ちょっと、コレはどう言う状況なのさ⁉︎」

 

「ジャックが倒れているわね……出血が酷いわ。すぐに止血剤を投与しましょう」

 

「アリス‼︎ それに皆も‼︎」

 

更に追加で赤ずきん、グレーテル、おつうがこの場に現れた。グレーテルはシンデレラと一緒に昏倒するジャックの応急処置を行い赤ずきんとおつうはアリスの横へと行き構える。

 

「おっとっと、ティータイムには定員オーバーだ。流石にちょっとこれ以上は持て成す自信は無いねぇ」

 

「赤ずきんさん、おつうさん、この男は敵よ」

 

アリスから敵であると断言されて帽子屋ハッタは白地に頭に手を当てて落ち込む動作をした。

 

「どうやら我らがアリスは随分と変わってしまったらしい……仕方がない。此処での招待は諦めて、Adiós‼︎」

 

帽子屋ハッタは華麗にお辞儀をした後に煙玉をばら撒いてスモークを撒き散らして姿を隠した後に逃亡した。どうやら白い闇と思われた空間は帽子屋ハッタが持ち込んで来た煙玉の煙だったらしい。

 

「待て‼︎ 逃げるなァァァァ‼︎ むぅ……逃げられたか」

 

「…………絶対に、許さないわ……‼︎」

 

「応急処置は施しましたけど、直ぐに救護室に運んだ方が宜しいですわよ‼︎」

 

「うん。出血が酷い……直ぐに運ぼう‼︎」

 

シンデレラが出血多量により昏倒したジャックを背負い直ぐに救護室へと急行しアリス達も付き添いで向かう事となった。

 

 

 

 

「…………」

 

黎明本部、救護室。集中治療室前に血式少女達が集まっていた。元々この救護室は存在していなかった、地下の黎明本部から多数の備品を持ち込んで改装している。そして部屋の広さも確保出来た為に何れは必要になるであろう部屋も新設した。それは治療室。寧ろ、地下監獄で黎明の人間の中で大怪我をする者が殆ど居なかった事自体が奇跡に値する事だろう。

 

「ジャックさん……大丈夫だよね?」

 

人魚姫のその言葉には二の句を継ぐ者はこの場には居ない。襲われた直後、応急処置は施したのだがそれでも夥しいまでにジャックは失血していた。如何に増血速度が速いと言っても限界と言うモノはある。

 

「アイツは何だかんだで生き残る……それにミコが診てくれている……きっと大丈夫だよ」

 

治療室には視子とグレーテルがジャックの容体を診てくれている。担ぎ込まれてから数時間は経過したその時、救護室の扉が開き中から視子が現れる。その姿を見たアリスは1人、一番早く行動を起こした。

 

「視子さん‼︎ ジャックは‼︎ ジャックは無事、何ですか⁉︎」

 

アリスは視子に詰め寄り捲し立てる様に問い掛ける。アリスのジャックに対する依存振りは黎明の中では最早、周知の事実。本人は自覚があるのかは分からないが少なくとも強い恋愛感情を有しているのは確かである。

 

「落ち着いて、アリス……今から、伝えるから」

 

視子は逸る気持ちに支配されているアリスを宥めているとその後から赤ずきん達も集まって来る。

 

「それで、ジャックさんの容体は如何に?」

 

「……落ち着いて聞いて頂戴。ジャックの傷は予想以上に大きかったわ。早急かつ迅速に応急処置で止血をしたのは功を成したのか、取り敢えずは繫ぎ止める事に成功したわ」

 

「取り敢えず、か」

 

「でも……失われた血液が余りにも多い。増血するのを待っては彼の身体が保たず失血死してしまう……この状況を切り抜けるには輸血するしか無いわ」

 

「輸血……其処までなの⁉︎」

 

「でも、知っての通りジャックの血はかなり特別。普通の人間の血液を使う訳にも行かないのよ。元々、輸血は対象者の血液型と適合出来る事が条件の1つ……」

 

「そんな……‼︎」

 

「……視子さん。私の血を使って下さい‼︎」

 

アリスがそう名乗り出る。此の儘、ジャックを見殺しにはしたくないのだ。

 

「アリス……ミコ、私のも使って良いよ。こんな形でアイツが死ぬだなんて認めるモノか」

 

その後、次々と血式少女達が名乗り出る。その様子を見て視子は悩む。

 

「……さっきも言ったけど血液型が合わないと拒絶反応が出てしまうのよ。確かに貴女達とジャックは血式少女や血式少年と言える、同じ存在と言えるかも知れないけど……」

 

「あら? なら試してみる価値はあるんじゃ無いかしら?」

 

視子が悩んでいる時、治療室からグレーテルが現れて何時もの笑みを浮かべてそう告げる。

 

「ジャックと私達は同じ存在。血式としての相互作用があるのならば適合出来る筈よ。ジャックの血で私達が癒されるのならば私達の血でジャックは癒される。確証はまだ無いけれど、あり得ない話では無いでしょう?」

 

「でも、もし万が一、何かあったら……」

 

「他に手が無くて彼を見殺しにするのかしら? 少なくともアリスは認めないでしょうね」

 

「…………コレは未だ試した事の無い試み……何が起きても可笑しく無いわ。最悪、彼は此の儘……死んでしまうかも知れない」

 

「……でも、此の儘何もしない状態もヤだよ‼︎」

 

ジャックが死ぬ。それは血式少女隊、延いては黎明全体を通して致命的な損失に繋がる。状況的にもそして彼女達の精神的にも……それ程までに彼の影響力は大きい所にまで発展していた。

 

「……分かったわ。確かに私も、目の前で彼が息を引き取る光景を見たくは無いわ……事前調査も無しに又してもぶっつけ本番になってしまうとはね……こうなってしまうのならば予め逆の実験も行うべきだったわね。本当に失念していたわ……」

 

視子はそう後悔するが後悔している暇は無い。

 

「……やはり彼にとって一番、安定するのがアリス。貴女ね……貴女の血をジャックに輸血するわ」

 

「……はい……‼︎」

 

一か八かの試み、微笑むのは何方なのだろうか?

 

 

 

 

失血量が多かったジャックに対してアリスが自身の血液を用いて輸血する事を決心し輸血が実行された。その後は暫くは安静と様子見と言う形となってから数日後。

 

「…………」

 

黎明本部、バルコニーにおつうは居た。普段ならば相変わらずの暗雲が立ち込めているが今夜に至っては多少は晴れており夜空が見える。現在の東京は明かりになるモノが少ない為に光害と呼ばれるモノが無い。その為夜空に浮かぶ星々の光がはっきりと見えていた。こんな日は流れ星でも飛来して来るかも知れない。

 

「こんな所に居たんだ。おつうちゃん」

 

その星空を眺めていると後方から人魚姫が歩いて来る。基本的に黎明本部の屋上には血式を中心に脚を運んで来ている事が多い。探し人が居るならば屋上から探した方が早かった場合もある。

 

「姫……」

 

「何か、考え事?」

 

「うん……あの帽子屋に付いて、少し考えていたんだ」

 

「ジャックさんが襲われてアリスさんが不安定な状態になってしまった原因の……人?」

 

その人物は『帽子屋ハッタ』と名乗った。明らかに今まで見た事のある人間とは違う……その姿を見た時そんな感覚を覚えた。普通の人間では無い? なら、自分達と同じ血式? と考えた程である。 そして何故かアリスに対して執着を見せている。一先ずその時の殆ど全員の感情は変態と言う認識だった。

 

「……目的がアリスみたいだけど……アリス自身には心当たりが無いみたいなんだ」

 

「そう、なんだ……少なくとも私達は地下に居たんだし地上の事は全く分からないモンね」

 

「少なくとも地下で会った事は無いと皆、言っている。となればどう言う事なんだろうか?」

 

余り言いたくは無いが……あの帽子屋は……いや言わないでおこう。自分自身にもダメージが入る……。

 

「ストーカー?」

 

「ぐはっ……」

 

人魚姫のさりげない一言でおつうは喀血しながら倒れた。本人は悪意は全く無い……が、さり気なくおつうにダメージが入ってしまった後、人魚姫が慌てるのは又、別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……血圧、脈拍も一先ずは正常値の範囲に留まっている。一先ずは安心ね」

 

「良かった……」

 

一方、救護室では救護室に呼ばれたアリスがジャックの容体に付いて視子から聞いていた。半ば危ない賭けとも言える輸血。取り敢えずは適合出来たらしく快方に向かっていると言う事を伝えられて安心していた。

 

「それよりもその『帽子屋ハッタ』と言う人物に対して本当に心当たりが無いの?」

 

「はい。見た事も聞いた事もありません」

 

「……そう、そうよね……あんなに目立つ言動ならば噂くらいで見聞きするわ」

 

視子はその名前が気になり少し調べた。血式達はほぼ全員が『童話』に関する名前を有している。そしてその事を本人達は知っていた。

 

そして『帽子屋ハッタ』……それは『不思議の国のアリス』に登場するマッドハッターの事を指している可能性が高い。【帽子屋の様に狂っている】と言う慣用句がモデルの登場人物……態々、この様に名乗る人物はそう居ないだろう。

 

「……その人物もある種の血式の存在かも知れないわね。地上も地上で血式少女か少年が生まれていても不思議では無いのだし」

 

「…………」

 

最もファーストコンタクトは最悪だった様ね。さてとその人物の目的は不明……ジャックを襲った理由も現状じゃまだ確証は持てない。だけど、その人物に此方の拠点がバレてしまったのは痛いと言った所ね。移転するにしても性急過ぎるし時間がかかり過ぎる。それに漸くある程度の落ち着きを見せている今の状態で移動させるのは宜しく無い。分からない事だらけね……。

 

「…………」

 

「あの時も言ったけど、誰もが味方とは限らないの。敵も存在すれば味方も存在する……それが世界と言うモノなのよ」

 

「……分かって、います」

 

アリスは自分自身の手を見た。その手は嘗ては数多くのメルヒェンやナイトメアを葬った事で夥しいまでの血で染まっている。平常心でも狂った時も殺して殺して殺して殺して殺して殺してまわった。どう言い繕うが自分達は『虐殺者』以外、何者でも無いのである。

 

「…………」

 

視子は悩む。血式とは雖も少女達に命懸けとも呼べる戦闘行為の連続を強いたのは他でも無い黎明の自分達である。彼女達は受け入れてはいるがそれでも心が痛む。本来ならば彼女達の年齢ならば学校と言った今ではもう存在しない場所で青春を謳歌するべきだった。だが、彼女達にはそんな一抹の時ですら……受け入れられない。

 

「……何かあれば何時でも言って頂戴」

 

視子は暫くは2人、一緒にさせて置こうと考えジャックとアリスを2人だけにして自分はその場から立ち去った。

 

 

 

 

暖かくて柔らかい。ジャックが最初に感じたのはその感触だった。自身に起きた事、覚えているのは謎の男性に襲われたと言う事。となれば此処は救護室と思われるのだが。

 

「んぁ……?」

 

眠気が覚め意識も覚醒したジャックはその正体が気になり視線を動かす。其処で一瞬だけ驚いた。今では見慣れた救護室の天井、それは良い。問題なのは自身の腕に抱き着くかの様に、ではなく抱き着く形でアリスが密着する形で眠っていたからだ。

 

——え? え? コレ、どう言う事ォ⁉︎

 

救護室にて少年と少女が同じベッドの上で寝ている。普通に考えてもコレは事案が発生していると思う他あり得ない。眠気が吹き飛んだジャックはどうすれば良いか考えるが此処で彼女を起こすと言うのも気が引ける。

 

「と、と言うか動けない……」

 

かなり強く抱き着かれている為に振り解けない(と言うよりも気が引けると言う感情が強い)。その為、彼女が自力で目覚めるまで待つしか無いのが現状。

 

「……ん、んん」

 

——耳元で寝言と寝息を立てないでぇぇ⁉︎

 

腕を絡めながら抱き着いている為に密着、然も顔が近いので寝息が聞こえる程。病み上がりの彼にとってはこれ以上無く耳に毒と言うモノ。然も着ている服も少しはだけているから目にも毒である。逃げ出したいが逃げられない、そう言う意味では早く起きて欲しいのだが……。

 

「ど、どうしよう……?」

 

ジェイルの監獄の頃からずっと一緒にいる訳なのだがこうして密着した状態と言うのは早々無かった。

 

「あら? ジャック、目覚めたのね……あらあら、お邪魔だったかしら?」

 

その時、視子が入って来て早々にそんな事を言われた。間違いなく誤解を生んでしまっている。

 

「あ、いえ、そう言う事じゃなくて……」

 

「良いのよ。今更、そんな事で文句を言うつもりは無いわ。だってアリスはずっと付きっ切りで貴方の目覚めを待って看病していたモノ……疲れて一緒に寝ちゃうのも仕方が無いわ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「お目覚めの所、悪いのだけど検査はしておかないとね」

 

まだ起きそうに無いアリスをベッドに残しジャックは検査を受ける事になった。目覚めたとは雖も曲がりなりにもアリスの血を輸血している。精神、肉体面での異常や悪影響が発生していないか健康チェックを行わなければならない。目覚めたから大丈夫と言うのは早計である。その為、入念な検査の為、丸一日潰れてしまう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻が過ぎた頃、黎明本部。食堂。

 

「いやぁ〜、ジャックが目覚めて本当に良かったよ。あのまま、ずっと眠り続けてしまうのかと心配したね」

 

「そうですね……白雪も安心しました」

 

食堂では血式少女達が集まって夕飯を食べていた。地上に出て時間が限られているとは言え漸く太陽の光が差し込む地域に解放地区を作っている。これまでの様に擬態化された食物を使わず野菜等を育てる事が出来る様になった(血式少女達には余り関係は無いかも知れないのだが)。

 

「うん。ジャックが此処でくたばる様な奴じゃないとは分かっていたよ。一応、検査の結果的に問題無さそうだから明日、辺りに退院出来るって視子が言っていたね」

 

「本当に良かったですわ。又、皆さんと一緒に探索に出られますわね」

 

「それで、おねえちゃん。ジャックさんの容体が安定する日取りと探索に出る日取りは決まっているの?」

 

「うーん、ジャックは病み上がりだし……3日位、様子見てからの活動開始と見ているよ。快方が早いと言っても、ね」

 

「赤ずきんにしては聡明な判断ね。最短かつ最良の選択よ」

 

「ちょっと⁉︎ 私だって何時迄も脳筋じゃないんだよ⁉︎」

 

「貴方は脳が筋肉で出来ているのだから仕方が無いわ」

 

やいのやいの騒がしい血式少女達の団欒。因みにアリスは一足先にジャックの元へ夕飯を持って救護室の方へと脚を運んでいる。1番心配していたのはアリスなのだから当然の行動と言えた。

 

カチリ、カチリと止まっていた秒針は再び動き出す。折れ曲がった時計の針が未来への時へと刻む。その先に見えるのは……。

 

 

 

ジャックが3日後、視子の診断から問題なく動ける状態と言う判断が降りた。その為、血式少女達は一度、研究室へと集まり方針を固めてから行動する事に決めたのだった。

 

「いやぁ、本当に一時はどうなるかと思ったよ〜」

 

「め、面目次第もありません……」

 

「でも無事に快復出来て良かったですっ‼︎」

 

「全く……心配掛けるんじゃ無いわよ……」

 

赤ずきんは失笑しながらもそう告げて白雪姫は心の底から喜んでいる。親指姫はキツい口調ながらも安心した様な笑みを浮かべている。

 

「アリスの血液を輸血したけれど、気分はどうかしら? 血式少女と血式少年の血の違いは確かに存在する筈だから……何かしら変化はあると思われる筈だけれど?」

 

「今の所は、大丈夫だよ」

 

「分かっているとは思うけど、体調が悪くなったら直ぐに言って頂戴。まだ病み上がりなのだから……探索中でも切り上げる事」

 

ジャック達の様子を見ている視子がそう告げる。動けるとは言え、ジャックの体内にアリスの血液を輸血している。この様な事は前例が無く何かしら異常が発生するかも知れない事を心配している。メアリガンの時もそうだがぶっつけ本番と言うのは本当に心臓に悪いのだ。

 

「そうだぜ? とまぁ、視子よぉ。ジャックの血液とかは問題無いのか?」

 

「ええ。今の所、アリスの血液と上手く適合出来ているわ……」

 

「そうか。メアリガンのメンテもそうだが……浄化の方は心配無いのか?」

 

「サンプルと参照してみたけど、違いは見られなかったわ。浄化出来る要因はまた別の箇所にあるのかも知れないわ……コレもまたぶっつけ本番になりそうね。頭が痛いわ……」

 

「な、何かと……すみません」

 

「いいえ、貴方が謝る事では無いわ。その時、その時まで襲撃に気付かなかった私達も悪いわ。警邏の方も全く気付かないレベルで彼処まで侵入されてしまうとは……情けない話だわ」

 

「あーもう、暗い話はもう終わり‼︎ それよりもコレからの事を話そうよ‼︎」

 

暗い話に傾き始めた為に赤ずきんが率先として話の方向転換を促す。元より研究室に集まったのもかねてより予定していた探索についての会議が目的であったからだ。

 

「そうだな。起こってからじゃ遅いって言うが……今、頭を捻くり回しても仕方ねぇ。それじゃあ、始めるとしようや」

 

 

議題としては探索先の方針。事前に赤ずきんとグレーテル、おつうと話し合って『渋谷地区』に行き先を絞っていた。他にも親指姫達はタイヨウ教団から物資の調達を依頼されていた。

 

「渋谷ね。都心部に位置する地域ね……QFRONTと言う商業ビルがある場所だったと思われるわ」

 

「……目の付け所は悪くないな。其処なら使えそうな物も放置されているかも知れねぇな」

 

「本当?」

 

「ああ、渋谷と言やぁ娯楽性のある商業の中心地点と言って良い。衣類の類の店を軒を連ねているだろうからな……調達するにゃ打って付けって事だ。もしかしたら生存者も居るかも知れねぇな」

 

「良し、やっぱり其処で決まりだね‼︎」

 

「外の世界、胸が高まるわね……」

 

「グレーテルが言うと別の意味になってしまいそうだよ……」

 

「ま、分かっているとは思うが……彼方此方にメルヒェンが闊歩していても不思議では無い上にナイトメアも居ても不思議じゃあない。地下の時とは勝手が違うからな……」

 

「ええ、心得ておりますわ」

 

「良し、なら行って来い。ジャック、お前は無理はするなよ……? 倒れたら嬢ちゃん達が泣くからな?」

 

「は、はい……‼︎」

 

「その様な事は二度とさせないわ。今度、あの男を見たら……」

 

「お、お嬢から凄まじいオーラを感じりゅ……るぞ……‼︎」

 

「ん……‼︎ ん……‼︎」

 

「あはは……(目の前に帽子屋現れたら……確実に死ぬぞ……断頭もかくやと言う勢いで首を刎ね飛ばしてしまいそうだ……‼︎)」

 

 

 

「此処が渋谷、なんだね……」

 

解放地区から出発した血式少女隊は目的地である元渋谷の地域に到着した。人の気配は無いに等しく完全なるゴーストタウンと化している。街中の彼方此方が異形化した巨大な植物に覆われており街と言うよりも樹海のような印象を受けた。

 

「……ほわーーー‼︎」

 

「彼方此方が巨大な植物に覆われているわ……荊、では無いみたいだけど……」

 

空は薄暗いが地下監獄程の暗さでは無く少し明るい程度の光景が広がっている。植物に覆われた街並みはジェイルの影響で地形が歪んでいたり溶けていたりと結構、グチャグチャである。まあ、この辺りは地下監獄で見慣れている為に然程、真新しいものではない。

 

「監獄と言うよりも迷宮化と表現する方が良さそうね」

 

「……同じ光景が広がってて迷いそうだよ〜」

 

「ヒメ、僕から離れないで下さいね」

 

「ラプもあんまり突っ走っちゃダメですわよ。逸れてしまいますわ」

 

「うーーー……」

 

「コレは森と評する事が出来そうね。植物の成長が著しいわ……最もジェイルの影響か本で見た写真とは大きく異なっているけれど」

 

血式少女隊の皆がこの光景を目の当たりにして口々にそう言葉を零す。彼女達は『森』と言うモノを見た事が無かったし異形とは雖も此処まで成長した植物を監獄塔以外、見た事が無い。

 

「一先ずハルさん達の言っていた『QFRONT』と言う建物を探そう」

 

「そうね。ちー達の物資の探索もしなくちゃ行けないしね」

 

「ん……ん……」

 

「良し、当面は其処を目指すとしよっか」

 

「うむ。やはり探索は目標がある方が良いな‼︎ では、行くぞ‼︎」

 

樹海の様な森に飲み込まれた渋谷。その街中を血式少女隊は探索を始める。何処を見渡しても植物やその根っこで覆われていた。その道すがらの建物の一部は倒壊し巨大な植物の根に飲み込まれている。

 

「……わーーおっきいねーーー‼︎‼︎」

 

「随分と捻れた大木ですね〜……木ってこんな形に捻れて伸びるモノなのでしょうか〜?」

 

「ジェイルも大概、捻れていたと思うけどね……」

 

倒壊した建物。その建物を跨ぐ様に伸びた大木。人間達の文明は過去の情景と言わんばかりの光景。それは比喩表現でも何でもなく正しく現実とも言えた。

 

「シッ‼︎ 何か音が聞こえる……」

 

その時、先頭を歩いていた赤ずきんが腕を伸ばして静止を告げる。何かしら物音が聞こえたらしい。

 

「どうしたのよ。赤姉……何か見つけたの?」

 

「メルヒェンが居るかも知れない……様子を見てみよう」

 

「別にコソコソ隠れる必要は無いであろう‼︎ 堂々とぶっ倒せば良かりょ……ろう‼︎」

 

「いいえ、この音は……戦う音ですわ」

 

ハーメルンが何時もの様に遭遇したメルヒェンをぶっ倒せば良いと言うがシンデレラは普通の音とは違う……即ち誰かが戦っていると言う音である事を告げる。

 

「戦っている……⁉︎ もしかして、生存している方がメルヒェン相手に⁉︎」

 

「初代の頃の大人達も小型ならば何とか倒せていたらしいよ。ミコの言っていた通り外の世界は外の世界で生き延びていても不思議じゃ無いよ」

 

「或いは……私達と同じ存在たる血式少女と言う可能性も充分あるわ」

 

グレーテルは別の可能性を指摘する。血式少女が他にも存在しても何ら不思議では無い。地下の監獄だけでも10人位は発見されている。他の場所にも地上でも血式少女が生き延びている可能性も無いとは言い切れない。

 

「……如何する? 戦闘に割り込むと敵視されるかも知れないよ」

 

「そうだね。ハーちゃんみたいな事になるかも知れないし……」

 

「ぐぬ……人魚姫よ。それは忘れてくれりゅか……」

 

「だからこそ、様子を見るんだよ。もし普通の人間が抵抗していて其処に乱入したらさ……攻撃されるかも知れないし血式だったらだったで敵意を持たれちゃうかも知れない……何方にせよ、向こう側は切羽詰まっている可能性があるんだ」

 

「赤ずきんにしては聡明ですね〜……」

 

「ええ、脳が筋肉細胞で出来ている貴方にしては最適解と言える判断かも知れないわ。成長したのね」

 

「ちょっと⁉︎ 2人揃って私をバカにするな〜‼︎」

 

「あはは……赤ずきんさん。確かにその判断は僕も同じ意見だよ。皆が皆、友好的……とは行かないからね」

 

「ジャック。うん……バレない様に近付いてみよう。此処からじゃ音しか聞こえない」

 

誰かが戦っている音が聞こえる方角へと向けて移動を開始する。戦っているのは人間か、それとも未だ見ぬ血式少女か……或いは。

 

 

 

街の奥へ奥へと進んで行く。植物の蔓に絡め取られた信号機、塗装やプレートが剥げ落ちた道路。壊れた自動販売機。奥へ進めば悲鳴と肉を斬り落とすかの様な音が聴こえて来る。

 

「貰った地図によればこの先はQFRONTと言う建物がある広場に出るそうよ」

 

「探す手間が省けたわね……もしかしたらその場所を拠点にしているのかしら?」

 

「商業ビル……と言ってましたし、何かしら備品の類はあるのでしょうから一理ありますわね」

 

「……逆に言えば行きにくいとも言えるね」

 

親指姫達はそう話すがおつうは逆に心配の声が出る。目的地であるQFRONTを避難民が拠点としているのならば物資の調達が難しいと言える。向こう側も向こう側で切羽詰まりメルヒェンの脅威と物資不足で極限状態。難しい案件と言えるだろう。

 

「取り敢えず行ってみよう」

 

悩んでも仕方なし。取り敢えず行くだけ行ってみると言う事になり其の儘、音の聞こえる方へと歩き続ける。道中でメルヒェンと遭遇する事はままある事であり地上でもメルヒェンは蔓延っている様な状態(ナイトメアの類は厄介極まりないのだが)、何時も通り惨殺して歩いて行く。そしてスクランブル交差点のある場所に出た。その奥に荒れ果てた窓硝子の殆どが割れ落ちたQFRONTの巨大なビルが聳え立っていた……。

 

「地図によれば、アレがQFRONTと言う建物ね。予想通りかなり荒れていそうだけど……」

 

「あ、皆。彼処、彼処を見て‼︎」

 

「え? あ、アレは……‼︎」

 

QFRONTの目の前、スクランブル交差点の位置に2つの影が対峙していた。片方は巨大な機械と人間の肉が無理やり繋ぎ合わせたかの様な奇怪な姿をした巨人の様なメルヒェン、いいや恐らくアレは『ナイトメア』なのだろう。そして対するのは小さく小柄な体躯をしている少女。白銀の髪にピンク色の双眸をした見るからにボロボロの状態の少女を見た、ジャック達は瞬時に理解出来た。アレは血式少女だと言う事を。

 

「ラプちゃんみたいな状況になってる‼︎」

 

「然もかなり押されておるぞ‼︎ やはり相手はナイトメアかッ‼︎」

 

「……素手の状態で何とか持ち堪えている、と言う状況ね。でも、かなり消耗している様だからあのままだと、マズいわよ」

 

人魚姫達はその様子を見てラプンツェルの時と同じ状態、いやそれよりも危険な状況だと瞬時に悟った。此の儘ではあの少女は殺られてしまうだろう。

 

「アリスと私とシンデレラは前線‼︎ ネムとかぐや、白雪、親指、グレーテルは遠距離から奴を牽制、おつうと人魚はあの子を守って‼︎ それからラプとハーメルンは被害が出ない程度に好きにして良し‼︎ そして、ジャック、アンタはあの子の浄化した後に後方に下がってて、おつう達はその援護‼︎」

 

状況を把握した赤ずきんは即座に全員に指示を飛ばす。全員の長所を理解した上での配置、理に適っている。相手は強大な為に連携は必要不可欠である。血式少女とナイトメアとの間に割って入り赤ずきんの指示による陣形を取る。

 

「近くで見ると随分と大きくて見るからに奇怪な姿ですわね……‼︎」

 

「やる事は変わらないわ……‼︎」

 

「核コアは未破壊よ。無理は禁物……隙を見て撤退を推奨するわ」

 

前衛のアリス達はナイトメアと対峙していた。肉と機械が融合した何時もの通り不気味な姿をしたナイトメア。核コアは未破壊、と言うよりも存在しているかどうかも疑問符が付くので無理は禁物だった為に隙を見て撤退する事を視野にいれておく。

 

「ッ‼︎」

 

「怖がらないで、僕達は君の味方だよ」

 

「ジャックさん‼︎ その子をお願いするね」

 

そして最後衛にはおつう、人魚姫、そしてジャックが応戦し暴走寸前の血式少女を庇う形の陣形を組んでいる。一応、彼女を警戒させない様に周囲には陣取らなかった。

 

「分かっているよ。ちょっと、ゴメ……うわっ⁉︎」

 

ジャックは自身の血を浴びせて浄化しようとしたがその少女は怯えか警戒かは分からないが身を翻してジャックのメアリガンの噴射を躱してしまった。ボロボロと雖も動きは意外と速かった。

 

「うーーッ‼︎ (#`o´)」

 

「威嚇してる……」

 

「髪の毛も逆立っているよ……どうしよう、警戒されちゃった」

 

 

「くっ、見た目通りの馬鹿力ですわねッ‼︎」

 

「3人がかりでも抑え切れないわ……‼︎」

 

「アリスッ、赤姉ッ、シンデレラ‼︎ 其処を退きなさい‼︎」

 

「重い一撃を喰らわせてやろうぞッ‼︎」

 

後方は後方で難儀している頃、前方ではナイトメアと応戦しており親指姫の言葉の直後、ナイトメアの胴体が爆撃が発生し後方へと後退しながら蹌踉めいた。

 

「チャンスですッ‼︎ 退きましょう‼︎」

 

「ジャックッ‼︎ って、浄化出来ていない⁉︎」

 

「ゴメン、躱されたんだ‼︎」

 

「こうなったら力づくで保護して逃げるしかない‼︎」

 

状況は混迷でも即断即決で行動を移し威嚇状態の血式少女を赤ずきんが抱えて(うーうーと呻いているが)ナイトメアの眼前から逃亡を果たした。

 

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