メアリスケルター ボツネタ集   作:夢現図書館

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その4 現実篇版

 

『右のカタ、左のとかの御方様ャ』

 

『旦那様、新造様』

 

 

『レディースあんどジェンとるメーン‼︎』

 

 

 

 

 

 も、も、も、も、無い。何処も彼処も書籍に関する概念で構成されるモノで埋め尽くされて居る……。コレはとても現実的とは思えない光景が広がっている。

 

 文字が飛び交う。が倒れて繋がろうとする。が隠そうとする。が消えようとする。が覆おうとする。その周囲に広がるのは真っ赤な鮮血なる血痕。それらが至極当たり前の様に蠢いている。

 

——また、だ。また、変な夢を見た。

 

 視界に広がるは朽ち果てた廃墟、それは図書館の様なモノが見え色褪せたセカイが広がっている。地上は褪せている事に対して上空には赫い曇天が立ち込め2つ(・・)の塔が捻れ絡まり合う様に聳えて行く光景が見える。

 地上には不気味な残骸が散乱しており、朽ち果てた廃虚街は街と言うよりも壊れた監獄の様にも見える鉄格子が視界に入り込んで居る。

 

 

 

 

『よウこそ、世界。そシて、コンにちワ、世界。はたまた、お久しブり、世界』

 

『ハロー、はっぴ〜ワールど』

 

『トコロで、【セカイ】とハ何でスか?』

 

『とテモ良いクエスちょんデスね』

 

『結論カラ言ってシマエば、そレは誰ニモ分からナイのデス』

 

——不気味な、そして……何処か(・・・)で見た事のある人形達が。

 

 ゴスロリ衣装を纏ったそれで何処か破れている少年人形と少女人形が、カタカタと耳障りな音を立てて語りかける。それは、この【セカイ】を見つめる***へ。

 

『セカイと言う事象ハ、観測者にヨッテその定義は異なリ全て同じトハ限らナイもノなのデす』

 

『猫の箱デスね。何がアルか何が飛び出スか、分かラナい。正に【罪】の様デス』

 

『おー、パンど〜ラ』

 

『あー、何が残っテいたノカ〜開けテのお楽しミ〜♪』

 

『然、観測と言ウ行為がその存在ヲ、定義を、決メテしまうノでス』

 

『サレバ、畢竟、夢物語ノようナモノかも知れマせん』

 

——頭が痛い。夢なのに、酷いノイズを伴って頭に響き渡る。ヘッドホン、何処にやったかな……?

 

 捲し立てるかの様な声。それを防ぐ術は無く理解してしまう、聞こえてしまう、分かってしまう。

 

『可能性ノ世界。ソレは無量大数ノ如き。考えレベ考えル程、凡ゆル世界は存在シテしまうノです』

 

『……ソウ考えルと、あのウニウニ騒がシイ兇人(*1)ガ居なイ【セカイ】が存在シテも不思議デハナイ筈デス』

 

『いやはや、あの時ハ大変デシタ。よもや、あの様な【セカイ】(*2)にテ、思わズえんカウンとしてシマウとは……』

 

『エントロピーの法則、及びクロスおーばーを考案した存在ヲ怨みタクなる瞬間、デシた。アノ兇人は本当に何処ニでも現れル』

 

『止メテ。かノ飢えタ娘が這い寄ッて来まス。話題ヲ戻シテ、並行世界トハ可能性、及び不可逆性ノ象徴』

 

『お〜、三千世界ヨリも、数多ナぱらレル空間。即ち【セカイ】‼︎』

 

『グロてすくな程、増殖と消失ヲ繰り返シ冒涜的な矛盾ヲ生産し続けル。エラーなきコードは存在セズ、無諺ナキ生命もまた、存在し得ナイのです』

 

『正にありと凡ゆる現実、幻想に存在する全てガ未完成、無完結、欠陥品‼︎ 完成サレた事ノ無い貴方達が至高の存在(・・・・・)ニハなり得ナイのデショウか?』

 

——理解したくない。けど、正論と虚論がグチャグチャに混ざっててどれが【真実】か分からない。正論に擬態した虚論か、虚論に擬態した正論か……。いいや、真実なんて物……本当は何処にも存在しないのかも知れない。

 

『【セカイ】とは、荒唐無稽ナ存在で無意味かつ無駄なものでアリ申しマす。始まりは終わり、終わりは始まり……

 

『何処ぞノ青イ鳥が言いマシたね。夢の終わりは新たな夢の始まりでアルと』

 

『現実即ち夢想、何事も全テは突然、唐突ニ終わッテしまうノです。其処に人的要因ハ考慮サレませン。何故ナラ、チッポケな力でハ踏み躙ラレ許容さレル要因ニはナリえナイのです』

 

『諸行無常、力なキ正義ハ無力なのデス。暴力ニすらナリ得まセン』

 

『ダカラこそ、そンな貴方にクエスちょん‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方ノ真の願いは何デスか?』

 

 

 

 

 

 

 

『貴方のヨクボウを魅セテ下さイ』

 

『貴方ノゲンジツを壊しテ下サい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

——何時からあんな夢を見始めたんだろう。

 

 締め切られたカーテンの隙間からタイヨウの木漏れ日が入り込んで来る。ベッドのシーツは其の儘であり其処に人影は無い。ならば、何処に居るのかと言えば近くの椅子と机の其処に机に凭れ掛かる形の姿勢の少年がいた。

 

「……」

 

——最近、じゃない気がする。きっと、もっと前から見ていたんだろうかな。

 

「…………」

 

 部屋を徐に見渡す。ベッドや本棚、タンスと言った調度品は最低限なのに対して電子キーボードやギターケース、更にはドラムセットまで置かれた部屋。

 

「もう、こんな時間……寝落ちしたみたいだ」

 

——……彼女が見たら『風邪引いちゃうわよ』と言われしまうかも知れないな……変な所で心配掛けれないな。

 

 ヘッドホンを付けたまま机に凭れて眠っていた。耳に付けていたヘッドホンを外して机に置く。机の上には書き掛けの楽譜が置かれている。本当に途中で寝てしまってあの様な【夢】を見ていた様である。

 

「曲、作らなきゃ……今日中に作ろうと思っていたのに」

 

——余程、疲れて居たのかも知れない。頻度を減らした方が良いのかも……ッ⁉︎

 

『********ッ‼︎』

 

 そう考えた時、脳裏に衝動が駆け巡る。それは猛烈な勢い湧き上がり、思わず口元を押さえて噎せ返る衝動を堪える。

 

「……やはり、難しい、か」

 

——二度寝する時間も無さそうだ。仕方ない、準備を済ませよう。彼女が来ちゃうし……。

 

 着替える間も無く洗面所へと向かい洗顔する。そして目の前の鏡に写る自分の顔を見る。脱色したかの様に薄いが青みが残る髪はツンツン気味、青い双眸をした顔が写っていた。最も寝不足か少し隈が出来ていた。

 

「……ジャック?」

 

 この家には1人しか居ない。声を掛ける存在と言えば部外者しかいない。洗顔した後に振り向けば其処には1人の少女が鞄を持って立っていた。黒髪に赤い十字架を模した髪飾りを付けた金眼の少女。黒い制服を着ている事から高校生程の年齢と思われる。と言うか普通に無断侵入と言えるが其処の点を咎める者はこの場には居ない。

 

アリス……?」

 

「おはようジャック……って、また夜中まで作曲していたの?」

 

「うん。途中で寝ちゃったけど……」

 

「無理しないで頂戴。貴方が倒れたら困るわ……‼︎」

 

 アリスはそう言って少し悲しそうな顔をした。彼女は彼の事になると融通が効かなくなる。それは周りの人間から見ても分かる程に知られていた。それ程までに仲が良いと見られているのだ。

 

「う、うん。ごめん……」

 

「早く着替えて来て、遅れちゃうわ」

 

 そう言われて着替える為に一旦、自分の部屋に戻って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

『イヒヒヒ、希う【セカイ】を望む』

 

『アハハハ、シカシ、それは』

 

 

 

『本当に真実なのデしょうカ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——平穏な世界の定義って何だろう?現実と夢の境界線って何だろう?それ以前に【平和】って何?

 

『多発する連続押し入り強盗殺人事件。今月に入って既に16件目‼︎ 犯人の特徴は以前不明。時間帯は深夜か?』

 

『役目を決めて行う組織的なグループによる犯行と見られており計画的だと見做されています』

 

『標的となる家庭の共通点は見られず、無差別性が見受けられる事から』

 

 自分の部屋で着替えながら机に立て掛けたiPadにて流れるニュースを見ながらジャックはふとそう考えてしまう。誰も彼もが言う平和の言葉の意味を……今、何処でも常識と非常識が乱雑に犇めき合っている。日常の中でも犯罪と言う形で遭遇し得ないであろうと宣う非日常が転がり込んで来る。

 

——平和と平穏、恐怖と狂気の境界線は一体……?

 

 ジャックは通学している学校の黒い制服に腕を通して着替えて行く。

 

——考えても無駄だ。今生きている【セカイ】が現実なんだ。夢は夢、現実は現実。そんな事よりも想定していたよりも進捗が良くない。学校内で作曲の続きをしないと時間が足りないかも知れない。

 

 何時も使っているヘッドホン(機種は『SONYヘッドホン h.ear on 2(MDR-H600A)』、アリスからのプレゼント)を首から下げて部屋を出てリビングへと向かう。

 

ジャック。はい、お弁当」

 

 リビングではアリスが待っており、リビングテーブルの上には弁当袋に包まれた手作り弁当が置かれていた。

 

「うん……ありがとう、アリス

 

ジャック……?何か悩みがあるの?」

 

「え?いや、何でも無いよ?」

 

 アリスジャックの幼馴染であるが故に彼のほんの小さな変化も当然の如く気付いていた。

 

「嘘……!」

 

 アリスジャックに近寄る。その気迫に押されて後退するもその先は壁。その為、壁に手を付ける『壁ドン』の光景となり退路を失う。

 

「……え、いや……作曲のインスピレーションが浮かばなくて、はは……」

 

「……………」

 

——ちょっと、言い訳が苦しい、かな?

 

「……1人で抱え込まないで、寂しく思えるから」

 

 アリスは一言、それだけ告げて手を離した。その後、2人は家を出て学校へと向かう通学路を歩いて行く。その道中、特に語り合う事は無くスクランブル交差点に差し掛かる。多数の通学生や社会人が行き交う都会。大型ビルに掛けられた大型の電光掲示板には連日連夜ニュースが流れていた。iPadで見たニュースとは違うニュースが流れていた。

 

『令和のルパン。予告状を出し大英博物館に大胆不敵に侵入。展示品を堂々と盗み出した』

 

 電光掲示板には『令和のルパン』と銘打たれた窃盗犯のニュースを報道するニュースが流れている。本当に事件が尽きない様である。

 

「……ジャック。あの信号機、変じゃないかしら?」

 

「本当だ……」

 

 スクランブル交差点の信号機の1つの点灯がズレている様である。青信号が何方として正解なのだろうか?いいや、双方が正解なのかも知れない。

 事故に巻き込まれる前にスクランブル交差点を渡り切って通学路を通学している私立高校に到着する。

 

「こぉぉぉらぁぁぁぁ‼︎‼︎ 朝っぱらから、アンタって奴はぁあ‼︎」

 

「わははは〜ッ‼︎ 捕まえて見ろぉ赤ずきんよッ‼︎」

 

「待て待て待て待てェェ‼︎‼︎」

 

「あの2人、またやっているわ……」

 

 私立高校に到着するなりひと騒動が起きている事態を目の当たりにする。然も双方ともに知人である事から殊更、反応に困る。古めかしい学ランを羽織った褐色肌の銀髪の少女とフード付きの赤いジャケットを羽織った茶髪の少女が鬼ごっこしている光景が見えた。

 

「おお、ジャックアリスかッ‼︎」

 

「……ハーメルン。今度は何をしたの?」

 

「ぬ?ワレは何時も通りだぞ‼︎ 寧ろ赤ずきんの方が……」

 

「待てェェ‼︎‼︎」

 

「おおっと、ジャックとお嬢よ。また、後でなッ‼︎」

 

 嵐の様に現れては嵐の如くハーメルンは走り去って行った。その後を赤ずきんは追走して行く。恐らく今日1日は2人の騒がしい鬼ごっこが続いて行くのかも知れない。

 

「……相変わらず、みたいだね」

 

——なんて事の無い日常の光景。あの夢の中身が、本当の意味で夢であるかの様に夢は夢だと肯定する。

 

 日常は進む、登校して授業を受けて昼休みの時間帯になる。私立高校なので食堂エリアは存在している。生徒各位は基本的に其処で昼食を取るか、持ち寄った弁当で済ませる事になる。

 

「……………」

 

——……このフレーズはこうして、此処はこうする……この音とこの音を重ねれば。

 

 昼休み、ジャックは私立高校の屋上の影に足を運んで其処で弁当を食べた後、ノートパソコンを開いてヘッドホンを耳に当てて作曲作業に移っていた。時間が取れなかった為に、昼休みにその作業を充てる事にしたのだ。

 

「……此処は」

 

 その時、ドサリと言う音がジャックの直ぐ近くに響いた。その音に反応して思わずヘッドホンを外してその方向に視界を向ける。壁に背を向けている箇所は給水塔がある一際高い場所……恐らく其処から落下して来たのだろう。

 

「うに〜……」

 

——あ、アレって確か……。

 

 落下して来たのは真っ白な白銀の長い髪をした高校生にしてはかなり小柄な体躯の少女だった。大型の抱き枕を持った状態で寝返りを打ちつつ落下して来た様である(幸い、抱き枕がクッションとなった様である)。

 

「うにゅ〜……」

 

——何だ……オリンピアか……寝相がかなり悪いって有名だったんだ。

 

 落下しても尚も抱き枕を持った状態でゴロゴロと寝返りを打っている。と言うか普通に転がっている。何処まで寝相が悪いのかと思いたいがそもそもこの私立高校自体、アレな生徒が多いと界隈じゃ有名なので気にするだけ無駄である。

 

「……さてと、曲を作らないと」

 

 うにーうにーと言う寝言を言いながら転がり回るオリンピアを尻目にして作曲作業を続ける。

 

 

ジャック。今、何処にいるの?』

 

 その作曲作業中にスマホのチャットに文字が打ち込まれる。姿が見えなかったから探しているのだろう。

 

『屋上。今、曲を作っている途中だよ。目の前でオリンピアが、ゴロゴロ転がっているけれど』

 

『……大丈夫?確か彼女、寝相が凄く悪いって有名なんじゃ、寝相の悪さで蹴られたりしない?』

 

『大丈夫。そろそろ』

 

 そのチャットを流した直後、屋上の扉が開かれて音と足音が響き渡る。

 

「……転落する音が聞こえたと思えばそう言う事なのね……オリンピアちゃんが、ゴロゴロと転がっている……はしたないから止めなさいな」

 

——やっぱり来た。生徒会長のシャーロットさんだ。流石に見つかる訳には行かないかな、バレているかも知れないけれど。あの人……地獄耳と言うか千里眼と言うべきか。何でも知ってそうな気がするんだよね。

 

 屋上に訪れたのは生徒会長であるシャーロットであった。非常に高い身長であり非常に豊満な爆乳を持つお姉さん。その柔和な性格も相まって『優しいお姉様』として人気が高い。今、ジャックは彼女から見えない位置に隠れる様な場所に居る。

 

「うに〜」

 

「はいはい。お昼寝するのは良いけれど、危険な場所でお昼寝しちゃダメよ?屋上から転落したら屋上の立ち入りを禁止しなくちゃ行けないのだから。それからジャック君。君の事だから大丈夫だろうけど、授業中に作曲用のノートパソコンを弄っちゃダメよ?」

 

——やっぱりバレていた‼︎

 

 シャーロットは聞こえる様にそう告げた後、寝相の悪いオリンピアを抱き抱えて屋上から校舎の中へと戻って行った……。

 

 

 

 

 

 午後の授業も恙無く過ぎ去り放課後となる。ある者は部活へ、ある者は街へ、そしてある者は自宅へと帰る。その後、どの様な行動を取るかは個人の自由である。

 

「……」

 

——ダメだ。今朝見た夢の内容が頭から離れてくれない。前みたいに断片的だったから忘れられたけど、今回はかなり具体的な内容だった為か全然、離れない。

 

 廊下を歩きながら今朝見た夢の内容を思い出して僅かな苛立ちを隠せない。そのお陰か作曲作業が全然進んでいない事にも苛立ちに拍車を掛けていた。

 

——……アレは。

 

 その途中で生徒会長のシャーロットを見掛ける。校内掲示板に何かを貼り付けている様である。

 

「あら、ジャック君」

 

「……あの、何を……ってうわぁ」

 

 何をしているのか聞こうと思ったがその貼り紙の内容を見て察すると同時に引いた。何せ内容が内容だったからである。彼女が張り出した全校周知のお知らせの紙には——。

 

『扉を竹刀の代用品にしない事』

『無闇矢鱈と扉を破壊しない事』

『扉を爆破対象に指定しない事』

『扉を敷布団の代わりにしない事』

『扉をサンドバックの代用品にしない事』

『扉を鈍器の代わりにしない事』

『扉を盾の代わりに使用しない事』

『扉を投擲武器として使わない事』

『扉をミサイルの代用にしない事。その光景は余りにも異常です』

『扉の修理代は安くは無いので非常時以外壊さない事。そうでなくても器物破損報告が後が絶たないのです』

『扉は玩具ではありません。れっきとした備品です。尚、扉を用いた喧嘩は必ず阻止せねばなりません』

『だからと言ってお手製の扉を代用品として誤魔化す行為も禁止です』

『扉を開けたら必ず閉める事。最終入室者、最終退室者は必ず閉めた事を確認する事』

『扉は開けて閉める物です。断じてそれ以外の用法はありえません』

 

 取り敢えず生徒会はこの様な注意事項を定める理由を今一度考え直した方が良いだろう。どう考えれば此処まで酷い内容の注意事項が決定されるのだろうか。と言うよりも大半が扉に関係する内容は如何なモノなのだろうか。

 

「い、幾らなんでも……それは非常識では?」

 

「その非常識な行動を取る人が多いのよ。本当に困った子達ばかりだから……焼け石に水でしょうけど、先生達からどうにかしてくれと頼まれているの……話は聞いてくれるけれど、改善の余地は無さそうね」

 

——既に諦めモードだ‼︎

 

 どうやら生徒会長の彼女であっても問題児達を御しきるのは難しいらしい。と言うか常識的に考えて個性の塊とも言える彼女達を御し切れる者は存在し得るのかと考えたくもなる。

 

「……女の子相手だから、籠絡させるのは難しいし……ね?」

 

「何故、其処で僕に聞くんですかッ⁉︎」

 

——今、籠絡って言って無かった⁉︎ と言うか何する気だったの⁉︎

 

 これ以上、此処にいると何か取り返しの付かない事を言われそうだった為にそそくさと退散を選択せざるをえなかった。その後、特に寄って行く場所は無いので早急に帰宅。やはり作曲作業は自宅で行うのが1番である。

 

「……夜になる前に進めれるだけ進めよう」

 

——夜になる(・・・・)と歯止めが効かなくなる。今は僅かだけど、その内……侵食するかの様に広がる。そんな気がする……日常を、覆い尽くして非日常が日常と化す……そんな気がするんだ。

 

 椅子に座ってヘッドホンを弄り作曲作業を進める。其処には焦りも見えていた。自分の信じる【日常】に縋りつくかの様に、出来るだけ進めたいと希うかの様に。

 

『不可解な建物消失、人が消える、器物破損が頻発している。1日の内に消え去る不可解な怪事件』

 

 iPadにはまた別のニュースが流れていた。たった1日で建物や人が忽然と消え去り、又は倒壊や崩壊をしていると言う不可解な事件。倒壊や崩壊ならば轟音が発生し近隣住民が気付くのだが、その様な形跡も無く、本当に無音の中で事が進んでいると言う事態が常態化している事を報道するニュースであった。蜃気楼の様な出来事を前に警察庁もどうする事も出来ず、ただ深夜の外出や深夜営業は自粛するように呼び掛けるしか無いのが実情であった。

 

——そうだよね。当たり前の日常が脅かされるとその様な拒絶反応が生まれて来る。

 

『サァ、貴方のヨクボウを見せて下さい』

 

『ヨクボウこそが力、ソレは貴方ノ願イを振り撒ク力トなりマス』

 

——耳障りな声が脳裏に木霊して響いて来る。五月蝿い、五月蝿い……五月蝿いな。そう言うのは夢の中にだけにしてくれ。現実にまで入って来るな、来るな、来るな、来るなッ‼︎

 

『夢が現実か、その境界線は実ニ曖昧な事ナノでス』

 

『夢現とも言いまショウ。何方かであって欲シイと願っタ事はアリませんか?起きて夢カと泣き崩れた事ハありマセンか?』

 

『そのヨクボウこそが力を産み出スのでス』

 

「……五月蝿い……‼︎ 僕の中に、入って来るなッ‼︎」

 

——飲み込まれる。そんな恐怖が浮かんで来る……‼︎ 知らない筈のセカイに堕ちる、そんな恐怖が浮かんで来る。知らない、そんなセカイ、知らない‼︎

 

『誰もが信ジテイル。自分ダケは、真実を見ていると』

 

『誰もが勘違いシテイル。自分ダケは、安全ダト』

 

『肉の耳で聴こえる音には限りがアル』

 

『肉の目で見えるモノには限りがアル』

 

『眼を逸らシテはいけマセン。否定シテは行けマセン。言葉では幾ラでも取り繕ウ事が出来まス』

 

『貴方自身、高潔ナ存在でハ無い事をご本人が理解シテいる筈でス』

 

——今日はヤケに五月蝿い。夢と現実が曖昧になっている?あの光景は夢じゃない?現実、だとでも言うのか?と言うか、有り得ない筈の声が聞こえている時点で夢、じゃないのか?

 

 ジャックは耳障りな【声】が聞こえる時点で夢なんじゃ無いのかと考え始めていた。

 

「……夢なら、いい加減に覚めろよ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 締め切られたカーテン。網戸から夜風が入って来る。目の前にはブルースクリーンと化したパソコンの画面から青白い光を発して暗い部屋の中を拙く照らしている。

 

——夢、か。時刻は……深夜4時44分。また中途半端な時間帯に目覚めたな。

 

 ヘッドホンを外しながらジャックは締め切られたカーテンをズラして窓の外に広がる夜景を眺める。

 

——夢って本人の願望が形となって現れるって良く言うよね。時々、変な光景が混ざるのも本人の記憶が無理矢理繋ぎ合わせて出来ているから……夢って無茶苦茶だよね。

 

 ジャックの自宅の窓から見える夜景。その遠くに歪に捻れた(・・・・・)塔が幻覚の様に透けて見える光景が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
オリンピア(ウィキッド)の事

*2
『スネーク氏の潜入レポート調査』61話

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