——空が近付いて来る。そんな不思議な感覚を覚えた日。ヒカリさんの力で遂に僕達は地上へと辿り着いた。でも、其処で見たのは死体、死体、死体の山……。
地上へと達したジャック達が見たのは夥しい迄の数の死骸の山。そして遥か上空に聳え立って浮かぶ巨大なる監獄塔の姿であった。その光景を見たのも束の間、処刑台少女と名乗る者達の強襲。圧倒的な暴力を前に脱獄して来た人々は瞬く間に惨殺されて行った。血式少女達は応戦するも全く歯が立たず全滅必至の状況に陥った。その直前、ヒカリが苦し紛れに全員を転移させた。しかし制御が効かずにバラバラに飛ばす事となった。その後、ジャックは黄金が煌く監獄塔の中で目覚めた。
——処刑台少女。彼女達は人の命をゴミ同然に扱ってそれこそ、掃除するかの様に殺して行った。赤ずきん、アリス、それに皆で立ち向かっても全く歯が立たなかった。メルヒェンやナイトメアなんか目じゃ無い……それ程迄に圧倒的だった。
ヒカリさんの力で何処かに飛ばされる形で何とか生き延びられた。けれど、皆の行方は全く分からない。幸い、僕はつう、人魚姫さん。ミチルさんと視子さん、そしてマモルとヒカリさんと合流出来た。でもくららも合流出来たけれど、重傷で輸血する事で何とか命を取り留めた。けど、ヒカリさんが無意識に何処かに転移させてしまった。多分、大丈夫らしいけど、不安は残る。
物資も残り心許ない状況。皆の行方も知れず……監獄塔の内部である状況、更にはメルヒェンやナイトメアも跋扈していると言う極めて危険な状況。
処刑台少女達が存在すると言う事は危険な状況が常に付き纏っていた。
ジャック達は監獄塔の袋小路付近にキャンプを設営して其処を一時的な拠点とした。
「……良し、無いよりマシだな。最も壊されたら終わりだから気休め程度にしかならねぇけどよ」
「こう言う時、サバイバルの知識があるマモルが居て良かったよ」
現在、ジャック達はキャンプ拠点の前にバリケードを設置していた。メルヒェンは余り来ないとは言え監獄塔の内部だ。決して安全とは言い切れないこの状況。それでも何もしないよりもマシだろう。
「ん?あ、ああ。でも、何でそんな事を知っているんだ?」
マモル。昔、隣の独房にいた近い年齢の少年だった。紆余曲折あっても知人の関係は続いている。それは『前の世界』でも今の世界でも、ある。
「あ、うーんと、色々とね」
「そうか……行くのならば気を付けろよ。その間、俺もキャンプの方を充実させておくからよ」
ジャック達の方針。物資も心許ない、危険な状況が続いている中での精神的なモノもクる。戦闘出来る者はつうと人魚姫の2人だけ。如何に血式少女と雖もこの人数だと危険である事も重々承知。その為、目下の目標は仲間達を探す事であった。
「うん。他の皆も無事だと良いんだけど……」
「お前が心配しちゃお終いだろ。確かに、あの連中を前にしてはヤバいってのは分かる……」
「ああ、全く歯が立たなかった。ヒカリが居なきゃ本当に全滅してしまっていたかも知れない……」
其処に用意を済ませたおつう達がジャックの元に来る。話の内容を聞いていたのだろう。その表情は多少、自信なさげであった。『前の世界』でも看過できない悲劇が発生した経験があったからである。
「……良し、行こう。2人とも、出来るだけ無理はしないで」
「ああ、分かっている。ヒメも無茶はしないで下さいね」
「うん。おつうちゃんも無理だけはしないで」
視子からも『状況は最悪に近い。だから無理だけはしない事。マズいと思ったら引き返して』とも伝えられている。
ジャック達はこの監獄塔を探索を開始した……。
——こんな事になるんなら、地上になんて来なきゃ良かったぜ‼︎ シャーロットと2人で地下に居りゃ良かったってのによ。そしたら、シャーロットが『人が居なくなったらご飯無くなるわよ?』と言われちまった……と言っても俺の存在感は無いに等しいから気付かれねぇけど。
——そうしたら、地上に出たら何なんだ、アイツらは⁉︎ 処刑台少女だか何だか知らねぇけど無茶苦茶殺しやがるし、黎明の血式少女達も瞬殺されやがった。全然、役に立たねえよ⁉︎ シャーロットはシャーロットで民間人を助けに入っちまう……そしたら、今度は光に包まれて知らない所に立っていたしよ⁉︎ 訳分からねぇよ、本当によ⁉︎ 誰でも良いから説明しろって……俺、気付かれないから無理でした、分かってたよ‼︎
——金綺羅、眩しいぜ。と丁度、近くに核あったからマッチ1本、投げ込む。代わりに戦って貰う奴がいないと困るよな、こんな時。……はぁ、あんなにあったマッチが後、こんなけしか無ぇや。一層の事、全部ぶち込んで俺の理想郷を作るか?でも、シャーロットは『無駄遣いは絶対にしちゃダメ』と言われちまった……マッチを使い切ったら俺は死ぬらしい。理想の中で死ねるんなら良いんじゃねぇのかとも思う……。
それは後にして、こんな所に居たく無ぇから移動する。流石俺。大半のメルヒェンがスルーしてくれるぜ。この俺の空気感半端ねー……と思ってたら、誰か倒れているのを見つけちまった。つーか、コイツってあのハーレム野郎の隣に良く居た奴じゃねぇか。その時、シャーロットと合流出来た!えーと、アリスとか言う奴と色々、あったけど……あったけど、シャーロットの胸にダイブ出来たのは俺得だった‼︎
それから穢れがあったから俺のマッチで最高にハイになれる幻覚を見せてやった……後悔したぜ。何、あの噎せ返る様な甘ったらしいイチャコラ空間は⁉︎ ハーレム野郎の甘過ぎる幻覚……。穢れやブラッドスケルターがヤバいのは知っている。それにシャーロットから『慎重に使う事、残り一箱になったら必ず言う事』とまで言われた。
メアリー。かつては地下監獄で空気レベルの存在感の無さから誰にも気付かれなかった血式少女。地上に出た後、ヒカリによってこの黄金が煌く監獄塔へと飛ばされた。其処でアリスと出会いシャーロットと運良く合流出来た。その後、タイヨウ教団の生き残りである千昭と数少ない地上の生存者である賀東と言う男性と鉢合わせる。そして、彼が設営するキャンプ拠点に到達しに至る。
「……改めて自己紹介しようかな?お嬢さん方。僕は賀東と言う。元々は別のコミュニティに居たのだが、壊滅してね……其処で血式少女やメルヒェンの研究をしていたんだ」
「あの、巨大な監獄塔は何なんですか?」
「その前にこの世界の事を少し話さなければ行けないかな。君達が見たであろうその巨大な監獄塔は『悪食の監隊塔』と呼ばれている」
「悪食の監隊塔……?」
「そうだ。ある日、突然現れたんだ。しかもアレは
「「「ッ‼︎‼︎」」」
——訳分からん話は全部スルーで、興味無ぇしよ。
「私達が見た事のある監獄塔とは規模が段違いだわ。それに監獄塔の上にはあるべきモノが見当たらなかった気もするわ……」
「故に地上じゃ危険と言える。逆に監獄塔の中の方が安全と言う訳さ。最も、メルヒェンやナイトメアが跋扈している中を安全と言うのはどうかと思うのだけれどね」
「……貴重な情報。ありがとうございます」
「何、此方も興味深い話をありがとう。それで、君達はどうする?流石に此の儘ではジリ貧になるのは当然だ」
「……私はジャック達を探します。それと同時に此処がよく分かって居ないから探索しつつ物資を確保しようかと考えています」
「そうね。私もアリスの方向性に同意するわ。動けるのは私達だけでしょうし、ね?メアリー?」
「え?あ、は、はいッ⁉︎」
「そう、良かった。探索と物資の調達は私達が行います」
「そうか、いや助かるよ。こう言うのは持ちつ持たれつと言うし……人間は減り過ぎた。助け合わなければやって行けないだろう。無理だけはしないでくれ……残念ながら僕にはメルヒェンに対抗出来る腕力は無くてね……君達が頼りなんだ」
「ええ。ジャック……無事だと良いのだけれど」
——あー、本当。コイツの頭はハーレム野郎の事で頭が一杯なのかよ。
——幼い頃の事は良く覚えて居ない。記憶が殆ど無いから……自覚があった時、目の前に3人の姉が居た。ギロチン姉さん、メイ姉さん、首吊り台姉さん。人を笑いながら殺せる処刑台少女。私はそんな処刑台少女の1番下の妹、名前は火あぶり柱。
——処刑台少女は『パパ』が作った組織。役目は人を殺す事、私達はその為の道具に過ぎない……ギロチン姉さんは良くその事を口にする。でも、私は人を殺す事が出来なかった。その事に関して良く姉さん達から詰られる……火あぶり柱だって、火あぶり柱だってやれば出来るんだから……‼︎
——ある日、パパから『アリスを連れて来い』と言う命令を受けた。アリス以外は全員、殺せば良い。でも、アリスって誰なのか分からない……ギロチン姉さんも其処に関しては頭を悩ませている様にも見えた、けど気の所為だと思う……。
——その途中で野外ステージと呼ばれる場所で人間が居た。見つけた人間は取り敢えず皆殺し……当然、姉さん達は襲い掛かって行った。その時、私はどうする事も出来なかった。こ、怖かった訳じゃない……あのヴラドって奴、唯一ギロチン姉さんに食い下がっていた。あんな奴は初めてだ。大概、処刑台少女に立ち向かっても即殺されているのが常だった。そんな時でも私は動けなかった。
——その後、パパの言う通り大きな穴から人間達が沸いて来た。その中にパパの求めるアリスの姿もあった……姉さん達は何時も通り皆殺しにして行った。その途中だった、突然、光に包まれて遠くの場所に飛ばされた。
「ねーねー、シラ〜。どうしたの?」
「ん……考え事?」
——色々な事が起こり過ぎて頭がどうにかなっちゃいそう……ラプ、ラプンツェルと眠り姫と一緒に行動する羽目になっちゃった。オマケに『シラ』なんて呼ばれ方もされる。本当に訳分からない、でも……姉さん達と一緒に居る時よりも……。
火あぶり柱。処刑台少女の末妹、そんな彼女の状況はと言えば姉である処刑台少女とはぐれてしまい、あろう事か敵である筈のラプンツェルと眠り姫と一緒に行動する羽目になっていた。
「な、何でも無いわよ‼︎ ほら、早く行くわよ、2人とも‼︎」
「あ、げんきになった……うんっ‼︎ はやくいこー‼︎」
「あ、コラ。ラプ、先走っちゃダメだってば‼︎」
心なしかシラはこんな関係も悪くないと思えていた。姉達の重圧に晒されなくてこんな感じの気安い関係が心地よくなっていた。
「……あれ〜?ねぇねぇ、なにかおちているよー」
走り出したラプンツェルがあるモノの前に立ち止まって様子を見ている。それは複雑な模様が幾重にも重なり合っている黒い箱であった。ジェイルの融合体の様には見えず、落ちて来て放置されている様にも見える。
「ん……箱?高い、所から落ちて来た……?」
「うーん。天井がないから、多分そうかも知れないわ。でも、こんな重そうなモノを落とす存在なんて……」
「……たべられないかな?」
「ちょ、ラプ⁉︎ こんなモノを食べようと考えているの⁉︎」
——メルヒェンとかもそうだけど、壁と飽き足らずこんな怪しさ全開の箱にも手を出そうと考えるとか、野生児って怖いわ。
「ラプ、シラ……‼︎ 離れてッ‼︎」
眠り姫は黒い箱が震えている事を察知した。嫌な予感がする事を理解し2人に下がる様に指示を飛ばした。
「な、何⁉︎ 何が起こるって言うのよ⁉︎ ま、まさか……爆弾……?」
黒い箱に亀裂が入り始めて破壊され——。
——人生、何が起こるか分かったもんじゃ無いっスよね。まさか、自分がジャックさんと同じ血液型で輸血された結果、自分にも浄化の力が出来るだなんて。グレーテルさんが言うには『輸血された人は性格が変わったり、何かしら変化が訪れる事がある』と言っていたっスけど、多分、自分もそうなんじゃ無いかと言う事スね。
一方、このライカードと呼ばれる地の別の場所にて行動を起こしているグループが居た。
「……くららがジャックと同じ浄化を有しているとはな。まぁ、ジャックならばやりかねんな」
「……それよりもヒカリの転移の力の方にも興味が唆られるわね。今度、調べさせて貰えないかしら……その為にもこの状況を何とか突破しないと行けないわね」
ヒカリの力で処刑台少女の猛攻から逃れたハーメルン、グレーテルは更に別の方から飛ばされて来たくららと一緒に行動していた。
「……物資も足りないからそれらの探索も行わないと行けないわね」
「うむ……他の者達も無事であれば良いのだが……」
「大丈夫っス。きっと師匠もジャックさん達も生きているっス‼︎ 絶対に絶対に合流するっスよ」
——その為にも、自分のやれる事をやるしか無いんス‼︎ 一先ず、慎重にすすみながら奥へと進むっス。他の人達、近くに居ないスかね……。
——僕には名前が無い。確かに覚えている事は3つ。『行方不明の妻が居る事』、『自分自身が血式少年である事』、そして『監獄塔である』と言う事だけだ。地下監獄には居ない、ならば地上に出て妻を探し出す。その為にも使えるモノは使うまでだ。
この銃は意識があった時から存在していた、使い方も理解している。血式少女の事も知っていた、何故かは分からない。自分を語る事が出来ないのだからな。
地上に出た途端、処刑台少女の猛攻に晒される羽目になった。黎明の血式少女達は成す術も無く蹂躙された。逃げ出す者達から殺している、逃げるか隠れるかの2択。逃げ出した途端に殺される事から打てる手は隠れる事だ。息を殺して気配を殺し切り耐え忍ぶ……その時、妙な事が起きた。身体が光に包まれた途端、この極寒とも受け取れる場所に飛ばされた。全く不可解な事だ……かと言ってこの状況は非常によろしくない。僕自身に戦闘能力は低いと言わざるを得ない……メルヒェンに遭遇した所で成す術もなく殺されるのが明白と言えるだろう。どうしたモノかと考えている時、2人の血式少女達と出会った。かぐや姫と白雪姫の2人の血式少女だ。しかし白雪姫は足をやられての重傷を負っていた。倒れていた場所は吹き抜けの場所で凍てつく風が吹き荒れる場所、その場所は危険なので移動させた後に応急処置を施した。
その後、どうやらかぐや姫の知っている人間(と言えるかは甚だ疑問だが)のキャンプ地に辿り着けた。妻を探す為にも戦闘要員である血式少女は外す訳にも行かない。それに情報も欲しかった事もある。最も、あの門脇とか言う奴は警戒している様だ。まぁ、その点はお互い様だ。ハルとか言う男は『似たような奴を知っている』と言われた。どんな堅物だ。
「……物資の確保及び探索を再開する」
「ナイトメアも居ますから無理は出来ませんね……」
「少なくとも処刑台少女と名乗る者達に比べればほんの僅かばかりマシとは言えますが……ね」
「……この極寒の環境下での長期行動は身が保たなくなる。出来るならば急いだ方が良いだろう」
——妻の行方が分かる手掛かりが見つかれば良い。無ければ別の場所へ探索へと赴くまでだ。
——寒い。最初に感じたのはその身を灼くかの様な寒さだった。
赤ずきんが目覚めた場所は極寒の寒さが支配する場所だった。その側にはクナイと言う黎明で雑用を行っていた職員(医務室にて雑用していた)。凍えそうな場所でたった2人。赤ずきんはその時、自信が持てなかった。理由は過去の博士の存在が心に影を落としていた事と、処刑台少女の強襲による一件。
——私は守れなかった。寧ろ、足手纏いになっていた。皆、次々とやられていく中、私は……何も出来て居なかった。
極寒の中、赤ずきんはクナイを守りながら進む。自信を失っていたのだが、クナイからは赤ずきんがどの様に見られていたのか語った。恐れを知らず、皆をリードして行く勇敢な姿。その時、暗闇が世界を包み込む……危険な存在、ナイトメアが赤ずきん達の前に現れた。
——暗闇を纏うナイトメア……つまり此処はジェイルの中と言う事……核を破壊していない中、立ち向かえる筈が無い。如何に血式少女と言っても、1人だけじゃ無謀過ぎる。そうでなくても逃げるしか手は無かった。
辛うじて難を逃れた先、親指姫とシンデレラの2人の妹達と運良く合流出来た。彼女達が設営したキャンプ拠点に到達。しかし、ある問題が浮上していたのだ。合流出来たのは赤ずきん、親指姫、シンデレラ、非戦闘員のクナイの4人。血式少女達にとって致命的な欠点であるブラッドスケルター化は愚か穢れを浄化する手段が無いと言う事。つまりこの3人の内、誰かがブラッドスケルター化すれば元に戻す方法が無い……そうなれば全滅は必至となる。
親指姫は穢れを浄化する方法はあるにはあると言うが、それは『睡眠薬』であった。グレーテルがジャックの血以外で浄化する方法が無いか研究していたらしく、完成とは程遠いが妥協案として作った物。しかしながら強烈な睡魔の副作用を有していた。メルヒェンやナイトメアが跋扈するジェイル、然も環境は極寒の寒さが支配する場所。そんな所で寝てしまえば、どうなるか分かり切っていた。その為、最終手段として使う事に決めた……数に限りがある為に乱用する訳にも行かない。正に極限状況。
「……私達は運良く合流出来たけれど、他の皆も心配ね。それに物資も心許ないからこの付近の探索、及び回収が必要不可欠ね」
「クナイさんはどうします?」
「……このキャンプ地に待機させる方が危険だよ。私達と一緒に行動した方がまだ安全。もし、私達が離れている間にメルヒェンに荒らされたら、その時は諦めよう」
「今は自分達の命が大事ですものね……」
「しかし、この寒さは堪えるわね。長期間の長居はそれはそれで危険な気がする……地下監獄でも此処までの寒さは無かったわ」
親指姫やシンデレラの黎明の制服は肌が露出している箇所が多い軽装の部類である。この寒さは流石に厳しいだろう。メルヒェンやナイトメアの脅威、更には穢れによる内心の侵食による恐怖、そして極寒の寒さによる環境。三重苦が赤ずきん達を苛んで行く。
——こんな場所に長居は出来ない。出来る限り急いだ方が良い。皆が凍え死ぬ前に脱出しないと……毛布の類が有れば何とかなるけれど、それでも寒いモノは寒い。
後が無い極めて危険な状況。赤ずきん達は極寒の寒さの中、探索に赴いた。行方不明の仲間達と生きて再開する為に……。
——ったく、道は曲がりくねっているし前か後ろかも分からねぇし……どうなってんだよ。と言うか彼方此方、キラキラ輝いていてウゼェ事この上ないしよ。
「…………」
「アリス。どうしたの?」
「今、何か音がしたわ」
メアリー一行は他の生存者、或いは物資の確保の為にこの黄金煌くジェイルの探索を続けていた。穢れは祓えるとは言え、回数に限りがある。その為、穢れを極力溜め込まない様に進まねばならない。
「ん?そういや、何か扉が開くような音が聞こえたな?勝手に開いたり閉じたり……どうなってんだ?」
——ま、まさか、メルヒェンが開けたり閉じたりしてねぇよな?間違って袋小路に来ちまった途端、鍵が掛かって閉じ込められる様な事にならないよなッ⁉︎
「メアリーも良く聞こえたわね。確かにそんな音が聞こえた気がしたわ……もしかしたら今迄開けなかった鉄格子が開いたのかも知れないわね」
金塊の様な壁、金貨を敷き詰めたかの様な地面。檻の鉄格子もまた黄金と、呆れる程に見た目のギラギラ具合を抜きに考えてメルヒェンやナイトメアが跋扈している事から此処はジェイルでは無いのかと考えられる。アリスの知識では地下監獄でも鍵が掛かっている鉄格子や扉も無くは無かった。中には外部の作動スイッチによる連動式の扉もあった。このジェイルもまたその様な仕組みなのだろう。
「でも、誰が?」
「……もしかしたら私達の様にジェイルを探索している人が居るのかも知れないけれど」
——こんなヤバい場所を平然と彷徨く奴、絶対に頭がヤバいか余程の馬鹿しか居ねぇだろうがッ‼︎
つい先程、閉じられていた扉の場所に改めて向かうと鍵が解除されて通行出来る様になっていた。原理は分からないが、奥へ進める様になったのは確かである。
「……ッ‼︎ アリス、メアリー止まって」
「シャーロット?どうしたんだよ?」
「シッ、静かにして……誰かが戦っている音が聞こえるわ……‼︎」
——ハァ⁉︎ こんな所でドンパチやらかすなよ⁉︎ と言うか俺達も道すがらメルヒェンを殺して来たけれどよ。絶対、碌な奴じゃないな‼︎
「ど、どどどどうするんだよ⁉︎ ソイツが俺達を襲うかも知れねぇだろ⁉︎」
「確かに……不用意に近付くのは危険かも知れないわ。アリスはどうする?」
「……もしかしたら、ジャック達の誰かかも知れない。赤ずきんさんやシンデレラさん辺りは普通に応戦していても不思議じゃないわ」
黎明の血式少女達ならばアリス達と同じように行動するだろう。その際にもメルヒェンと探索の為に戦闘をしていても不思議では無い。
「……一先ず様子を伺いましょう。違うのならば話が出来れば良いのだけど……」
——は、話が分かる奴なら丸投げして俺は引っ込んでおきたいッ‼︎
メアリー達は戦闘が行われている場所へ警戒しつつ進む。丁度曲がり角から小部屋がある場所に辿り着く。此処まで来れば激しい攻防が行われているのか激しい音が聞こえてくる。壁際に隠れつつ様子を見る事にした。
「……くっ、流石にこれ以上は……。状況は最悪に近ぇな……‼︎」
小部屋は丁度、袋小路。其処に複数のメルヒェンに追い詰められている少女が居た。色素が抜け切った白銀の髪、双眸が真っ赤に発光し片目から赤黒い炎が揺らめいているのが見える。だが、かなりの怪我を負っている為に息は荒く、これ以上の継戦は難しい様子が見て取れる。片目を閉じて槍を地面に突き刺して息を整えている。かなり追い詰められている事が分かる。
——うわっ⁉︎ 既にボロボロじゃねぇかッ‼︎ と言うか目から黒っぽい炎が噴き出てんだけど……何なんだよアイツゥ⁉︎
「……かなりピンチみたいね。メルヒェンは3体……此方に気付いていないわ」
「……私達と似ている? 今なら、強襲を仕掛けられるかも知れないわ」
——待て待て⁉︎ 眼から炎が出ている事にはスルーなのかよッ⁉︎
謎の少女を追い詰めているのは石のメルヒェンと土偶(頭に天秤が乗っている)、そして頭に粉砕器を付けた兎のメルヒェンの3体。
「……た、助ける気かよ⁉︎ アリス、お前の知り合いじゃないなら助ける理由あんのかよ⁉︎ アイツもアイツで見るからにヤバそうな雰囲気があるしよ⁉︎」
「確かに私は彼女の事は知らないわ。でも、此の儘、見過ごす訳にも行かないわ」
「……メアリー。今なら、不意打ちで楽に倒せるわ。行きましょう」
——お人好しが過ぎんだろ⁉︎
「わ、分かったよ。やれば良いんだろ、チクショォォォ‼︎‼︎」
「「「⁉︎」」」
メアリーの咆哮と共に背後から強襲。シャーロットが殴打し、アリスが叩き割り、メアリーが具現化させた人形で殴り倒す。不意打ち+背後からの強襲で瞬殺させる事が出来た。
「……誰⁉︎ 知らねぇ、連中だ」
謎の少女も突然、現れたメアリー達に驚きの視線を見せる。敵か味方も分からない状態、かく言う自分は消耗がかなり激しい状態。
「大丈夫?メルヒェンは倒したわ」
「危ない所だったわね……大きな傷、此の儘放置しては危険よ。応急処置するから楽にして」
「……え?ええ……。分かった」
メルヒェンを瞬殺し血式少女と思わしき人物の救援に成功した。偶然、通り掛かったとは言え死体を見ずに済んだのは僥倖であった。万が一の為に僅かばかりの包帯や止血剤を持ち歩いていた事が功を成した様である。
「ありがとう、危ない所を助けて貰って助かったわ。流石に本気で死ぬかと思ったぜ……万全の状態なら汚染動物の50や100は潰せるんだが……」
止血し包帯を巻いて貰った少女はお礼を言う。しかし喋り方にクセがあり、前半は女性口調だが後半は男性口調と随分と個性的な話し方をする。
「……自己紹介が遅れた、自分の名前はロンギヌス。貴方達、汚染動物の血を返り血を浴びて目がピンク色になっているからジェノサイド・ピンク?」
——はぁ?その呼び名はあのヤバすぎる面子の事を言うんじゃないのか?
「いいえ、私達は血式少女よ。その呼び名は、確か……ギロチン達」
「おい、あの連中の事を知っているのか⁉︎ 一体、何処……痛たたた……」
アリスが知るジェノサイド・ピンクとは処刑台少女達の事を示す言葉(本人がそう名乗っていた)。その言葉を聞いた途端、ロンギヌスは喰いる勢いで詰め寄ろうとしたが身体の傷が痛む為に引き下がった。
「うーん、どう言う事かさっぱりね。知らない内容でしょうし、ゆっくり話せる場で話しましょう。此処だと……ほら、辺りが暗くなって来た」
「うぇ⁉︎ ま、ままままマジかよ⁉︎ や、ヤバい、逃げようぜ‼︎」
「ナイトメアが来るッ‼︎ ロンギヌスさん、傷が痛むかも知れないけれど、我慢して‼︎」
「え?あ?どう言う事、説明……痛だだだだ⁉︎」
周囲が暗くなって来た事からメアリー達は一旦、ロンギヌスを連れてキャンプ拠点へと戻る事にした。
「……此処ならば一応、安全よ。と言っても気休め程度でしか無いけれど」
「ごめんなさいね。床に布を敷いただけで」
キャンプ拠点のテントの1つ。その中でロンギヌスは布を数枚敷いた場所に寝かせられていた。流石にすぐに動ける状態では無いからである。
「お気遣い、有難う。布がある時点でありがてぇ話だ。アリスさん、シャーロットさん」
連れて来た時に自己紹介はして置いた。女性口調と男性口調が入れ替わる。変わった喋り方だが、其処まで極端な変化では無かった。
「それで、貴方は何故、この場所に?」
「その前に私達の状況を説明させてくれないかな?」
ロンギヌスは自分達の状況を簡単に説明した。自分達はジェノサイド・ピンク、或いは処刑台だと人間達から呼ばれていた事。要約すればジェノサイド・ピンクとは地上で生まれた血式少女達の事を指す様であり、自分以外にもそれなりに存在していると言う。最も状況は余り宜しく無いそうだ。この点はアリスやシャーロットの知識と統合すると呼び方の違いくらいだと言う事で特徴は概ね一致する。処刑台と言うのも自分達の名前が処刑に関連性のある名前だったから言う事。いつしかそう呼ばれていたのだと。
問題は次であった。ロンギヌスには似た様な者達が5人居た。上空に聳え見える巨大な監獄塔を見た後、廃墟に居た所。ギロチン率いる処刑台少女と名乗る者達の強襲を受けたのだと。
「結果は惨敗。本当に一撃でのされちまった……擦り傷さえも負わせる事が出来なかった」
「…………」
全滅寸前、微かな意識の中、仲間の1人であるリッサの機転により物理的に遠くに飛ばされたと考えていると言う。結果的に気付けばこの地域にて目覚めたのは良いもの、重傷の最中でメルヒェンに襲われギリギリの状態で応戦していたと言う顛末である。
「そうだったの……」
「かく言う貴方達は?何故、ギロチンと言った連中を知っている?」
「似た様な理由よ。私達は地下監獄から地上に出て来た……その時にギロチン達、処刑台少女に襲われたわ。一方的だった……勝ち目が無い程にね。何とか逃げ出す事は出来たけれど……ジャック、私の仲間達と逸れてしまったの、その為、皆を探すのと物資を確保の為に探索しているの」
「成程。そうか……ジェノサイド・ピンクと血式少女か。似た者同士と言うよりも話を聞く限り同じ存在ね……。なぁ、自分もその道行に同行させてくれないか?」
「え?」
「……仲間と逸れている。処刑台少女の企みは分からんが、方向性は概ね同じ。私も私達の仲間を探しに行きたいわ。助けられた恩もあるしな……借りは返すぜ?」
——え?コイツ、正気かよ⁉︎ やっぱ地上の連中はどいつもコイツも頭、イカれてんのかよ⁉︎
「協力してくれるの?」
「ええ、1人でこの状況を打破出来る自信は無いし……ある程度の目的も一致していると思うわ。体調が戻れば直ぐに出れる、ダメか?」
「……そうね。一緒に戦ってくれるのならば良いわよ。だって私達も結構、追い詰められているような状態だから」
「見りゃ分かるさ、汚染動物……メルヒェンか。その存在が跋扈している状態で、寝ていられないわ」
メアリー一行にロンギヌスが加入した。本人もまたはぐれてしまった自分の仲間達の行方を探す為と言う理由だが、メアリー達に助けられた事もあった為に一緒に行動する事にしたのであった。
「……彼方此方に死体が転がっている」
「真新しい上にこの傷跡。鋭利な刃物で斬られている……と言う事はあの処刑台少女に殺された人だ」
「……ヒカリさんによって飛ばされたのは良いけれど、死んだ人達も……」
一方その頃、ジャック達もこの黄金のジェイルを探索していた。其処で人間の死体を発見した。それは解放地区に居た人間の死体。ヒカリによって四方八方に転移させられたが、死んだ状態の者か飛ばされた先で其の儘、力尽きたのかは分からない。
「ジャック……?」
「あった。少ないけれど、物資は貰って行こう……」
「ジャックさん……」
「……確かに良くない事かも知れない。でも、僕達は生きて行かなきゃ行けない。申し訳ない気持ちもある。それでも、前に進まなきゃいけないんだ」
「……確かにそうだ。せめて、弔う事はしておこう。手を合わせる事しか出来ないけれどね」
その後も鉄格子の扉を開いては奥に進んで行く。やはり連動式の鍵がある扉も存在しており、何処かの制御レバーを解除すれば開いたりもした。そうして奥へと進む。その時、人の気配を感じ取れた。
「……誰か居る……‼︎」
「ッ⁉︎ 待て、ジャック‼︎」
——ちょ、おつう……むぐッ⁉︎
生存者の存在を前にしてジャックは声を掛けようとした時、つうはその気配の正体を感じ取りすぐにジャックの口を押さえて隠れて奥の様子を見る。人魚姫もつうの様子が変である事を察して同じように隠れる。
「お、おつうちゃん?」
「ヒメ、静かに……隠れて……‼︎」
「全く……こんな簡単な任務だと言うのに妹達は役に立ちませんね。面倒な事です……‼︎」
倒れた柱の後ろに隠れて様子を見る。その先には地上に出たジャック達一行を襲撃した処刑台少女の1人、ギロチンが悠然と闊歩している光景だった。
「……な、何故……⁉︎」
「何か探しているみたいだ。此の儘、気付かないで行ってくれよ……」
「……あの忌々しい人外女の所為で、余計な事になりました。2度も逃げられては面倒ですので、次は脚の1つや2つ、斬り落とすべきですね」
ギロチンはそう物騒な事を呟きながら何処かへと歩き去って行った。その姿が完全に見えなくなったのを見計らってつうは顔を出す。
「ふぅ……生きた心地がしなかった……見つかったら、流石に勝ち目が無い」
「でも、どうして此処に居たんだろう?」
「流石に分からないかな」
「って、あ、ジャックさん‼︎」
「あ゛……‼︎」
其処でつうはジャックの口を押さえたままである事を思い出した。直ぐに外した後、ジャックは咽せたかの様に呼吸を整える。
「ご、ごめん。ジャック……」
「良いよ……あのまま飛び出していた時の方が危なかったから」
「う、うん。まさか、こんな所に処刑台少女が居るだなんて思っても居なかったよ……」
「見つかったら、どうしようかと思っていたよ……」
——おつうも人魚姫さんも、恐怖が浮かんでいる。あの時、圧倒的な力で打ち負かされたのが心に尾を引いているんだろう。確かに、あんな一方的にやられちゃその気持ちは出て来る。
「……今の僕達じゃ、勝ち目が無い。出来る限り見つからない様に進もう」
——もし、彼女達にキャンプ拠点を発見されたらそれこそ終わりだ。マモル、今は動けないヒカリさん、ミチルさん、視子さん……皆共々、瞬殺される。どうか見つからないでいて欲しい。
ナイトメアに加えて処刑台少女と言う理不尽な暴力の存在。ナイトメアは暗闇を纏っている事から視覚出来るのに対して処刑台少女はそうは行かない。危険な状況である事は変わらず寧ろ、危険性は増したと言っても良い。
——……少なくとも、処刑台少女は『マスター』と呼ばれる人物の指示で動いているのかも知れない。確証は持てず情報が足りない以上、分からない事だらけだ。あの空に浮かぶ監獄塔も、そしてこの場所も……アリス達の行方も分からないままだ。
落ちていた物資を回収しながら奥へと進んでいく。ジェイルの中では時折、菓子類や歪んでしまった武器類が見つかる事もある。核の擬態化能力の影響かも知れない。擬態化は基本的に無機物、有機物問わず巻き込んで変化を促す。また、ジェイルの細胞因子を用いて食糧を作れる事をタイヨウ教団は発見していた。ジェイルの中でも自然発生しても不思議じゃないかも知れない(最も、血式少女以外は有害である可能性を否めない)。
「……あ」
「ヒメ?どうしました?」
探索の最中、人魚姫が立ち止まり目を閉じて耳を澄ましている。何か聞こえたのかも知れない。
「うん。何処かで何かが開いた様な音が聞こえた気がして……」
「開くと言えば鍵が掛かっていた鉄格子かな。ジャック、閉じ切っていて此方から開けられなかった場所に行ってみよう」
人魚姫が『何かが開いた様な音』を聞き取った。レバーによる連動式の扉の存在もあった為にジャック達はどうやっても開かなかった鉄格子の場所に行くと独りでに開いていた。
「いつの間にかに扉が開いている……‼︎」
「勝手に開いている。いや、何処かのスイッチが作動されたのかも知れない。と言う事は何処かで誰かがこのジェイルを探索しているのかも知れない」
メルヒェンやナイトメアが態々、するとは思えない。となればジェイルを探索する者と候補が絞られる。そう、血式少女とか……。
「……と言っても、更に限られてくるよね。ナイトメアやメルヒェンが跋扈しているこの場所を探索しようとする人達は」
人間がメルヒェンを相手とるのは余りにも危険だ。小型のメルヒェンならば数人がかりであれば何とか倒せるが大型ともなれば難しくなる。
「となると、このジェイルの何処かに皆が飛ばされて来ているのかも知れない……‼︎」
「……ッ‼︎」
あり得ない話ではない。寧ろ、その方が筋は通る気がする。離れ離れになって心配ではある……それでも生きていると信じている。ともなれば希望は持つ事が出来た。
「おつう、行こう‼︎ まだ憶測に過ぎないかも知れないけれど……何処かで合流出来るかも知れない」
「ああ。絶対に生きて再会するぞ」
曲がりくねる様な場所を進み、奥へと進む。その時、曲がり角付近で砂利を踏み鳴らす音が聞こえてくる。どうやら、近くに誰か居るらしい……。
「……ッ⁉︎ おつう、人魚姫さん。誰か居る……‼︎」
「……処刑台少女だとしたらマズいな」
「ど、どうしよう……⁉︎」
「ヒメ、僕の後ろに下がって下さい。ジャック、隠れれる場所は無いか⁉︎」
又してもギロチンとエンカウント寸前の状態に陥ったのかも知れない。場所的には通路であり遮蔽物は見つからない。此処で見つかれば逃げ切れるか不安であった。地上で強襲を受けた時、あり得ない速度で間合いを詰められた。物理的な速度で逃亡は困難と言えるだろう。
「……ごめん、無い‼︎」
「もしかしたら、アリス達かも知れない。そうでは無かったら、様子を見よう。処刑台少女の誰かだった場合……全力で逃げる、良いよね?」
「それで行こう」
「……う、うん」
曲がり角から奥へと様子を伺う。その奥に居たのはかぐや姫を彷彿させる和装の装いを纏った小柄な体躯の少女だった。細身の刀剣らしき物を腰から下げているのが見て取れる。白銀の髪を後方で束ねて下げている。少なくともグレーテルでもかぐや姫でも無い。
「ぅむ………」
——かぐや姫、じゃないね。グレーテルでも無さそう……服装は黎明の制服に近いけれど、違う気がする。それでも処刑台少女じゃなくて助かった……。
「?処何……皆、もんゃち姉お……」
辺りをキョロキョロと見渡しながら周囲をウロウロしている。その動き方はまるで迷子の様である。
「……よだダヤはちっぼり独、しいし眩色金……」
「ジャック。あの子、どうやら迷っている様にも見えるね」
「……方向音痴なのかな。所で人魚姫さんは……?」
「……こんな所でどうしたの?」
「ッ⁉︎」
「って、ヒメぇ⁉︎」
気付けば人魚姫は小柄な少女に声を掛けていた。こう言う時は穏和な性格である人魚姫が居ると助かる。こうなっては仕方ないので自分達も視界に映る様に姿を見せた。そして、この場で話し込むのは危ないと判断して一旦、キャンプ拠点に戻る事にした。
「ジャック君。お帰りなさい、無事で良かったわ」
キャンプ拠点に戻るなり視子の所に向かった。確かに知らない人ではあり外見上は何とも無さそうだが、怪我をしている可能性があった。その為、診てもらう事にしたのだ。
「……ッ」
「大丈夫。ちょっと肌を見せてくれないかしら?(銀髪がデフォルトなのかしら?血式少女の娘達もジャック君もそうだけど、かなり個性的な髪色をしているしグレーテルも地毛が銀色だったわね)」
小柄な少女は借りてきた猫の様に大人しかった。こんな危険なジェイルで1人、然も刀を佩刀して彷徨っていた。もしやとも考えて視子は少女に血式少女かどうかの検査も行う事にした。
「……外見的な傷は無いわね。えーと、貴方の名前は?」
「……切髭……」
「切髭?」
少なくとも女の子に付ける様な名前では無い。童話とは関係ない名前なのは確かだが、それでもそんな名付けは妙なモノであった。
「う違……ん、ん」
「貴方、もしかして……声帯が……‼︎」
其処で視子は彼女の喋り方が異常である事に気付いた。特徴的な喋り方をする人間は存在はする。寡黙な喋り方も尊大な喋り方もある。しかし、目の前の少女は逆転して発音している。少なくともそのような喋り方は異常としか思えない。
「逆に発音しているのだとしたら……貴方の名前は髭切……‼︎」
——……血式少女となりうる名前は童話に関連していた。その為、私達は判別する為にも童話の内容を知らなければならなかった。その為、昔話を纏めた書籍や資料を集めれるだけ集めた。その中には『軍記物語』も少なからずあった。其処には髭切と言う銘の刀もあったわね。まさか、登場人物じゃなくてその物品の名前とは……。
「……ん、ん」
「髭切。ちょっとコレを飲んで見せてくれないかしら?」
「?」
確証を持つ為に視子は髭切にピンク色の液体の入った試験管を渡す。中身はお馴染みのメルヒェンの血液。血式少女はメルヒェンの血を浴びたり摂取すると双眸がピンク色に発光する。大量に浴びればジェノサイド化する。
「……」
訝しむ様子を見せた髭切は静かに中身を飲み干した。すると、軽い変化が起きた。
——紅く光った……少なくとも変色するのは確かね。地下監獄で発見された血式少女とはまた異なる変化ね。普通の人間はこうはならない、となると彼女も血式少女と見て良いかも知れないわ。地下監獄では発見されなかったから、少なくとも地上で生まれた血式少女……ジャック君達の話だと、この近辺のジェイルのメルヒェンの姿もまた違っているみたいだし……地域によって違うのかも知れない。まだまだ分からない事が多い、と言う事なのね。
「しかし、困ったわね。発声が逆転してしまうとなると……お互い意思疎通が難しくなってしまうわね」
——声帯の治療は流石に専門外。そうでなくても医療器具が足りないわ。それに専門の器具が必要になるでしょうし……麻酔も無い。
「……ぅにむ」
「視子。頼まれていた物、出来たぜ」
その時、キャンプ拠点のバリケードの補強を終わらせて来たマモルが視子に報告しにテントの中へと入って来た。
「ええ、ありがとう」
「と、その子は見ない顔だな。外で見つかったのか?」
「ええ。ジャック達が迷子になっていた所を保護したのよ。検査の結果、恐らくは血式少女だと思われるのよ」
「マジか……‼︎」
「多分、地上で生まれた血式少女……恐らくは童話とは異なる概念を元に擬態化された、と見ているわ。ただ、声帯……喉ね。上手く喋れないみたいなのよ……流石に今ある医療器具で声帯の治療は不可能……その為、意思疎通は難しくなってしまうわ」
一応、此方の言葉は理解出来ているみたいなのだが、髭切から周りに発声しても伝わり辛いと言う弊害を抱えてしまっている。
「……喋りにくいのか?」
「いえ、発声が逆転してしまっているのよ」
「…………」
「そりゃ、俺は馬鹿だから直ぐに理解は出来そうに無いぜ……そんな障害、あるのか?」
「……声帯絡みの病気や症状は声が枯れると言ったモノは聞くけれど発声が逆転するのは初めて見聞きしたわ。もしかしたら、血式少女特有の病気か……或いは」
「或いは……?」
「血式少女や血式少年が有する特有の行動や拘り……私達は『血式リビドー』と呼んでいる内容に関連するのかも知れない……。でも、彼女の名前とその事に関連付けれる概念は心当たりが無いのよ」
「……その血式リビドーか、本当に病気か障害かは分からない、と言う事なんだな?」
「ええ……見た感じでは特に外見的な異常は見られないわ。でも、やはりコミュニケーション能力の遅れは懸念事項ね」
「……ヒカリなら何とかなるんじゃないか?アイツの能力はイマイチ分からねぇけど……少なくとも発声の歪み位は何とかなるんじゃないのか?」
「……」
視子は考え込む。人々を宙に浮かせて浮上する。赤ずきん達の攻撃を歯牙に掛けなかった処刑台少女の動きを止める。剰え生存者を遠くへ転移させる。側から見れば超常現象のオンパレード……此処まで行けば、何でも出来てしまうのでは無いのか?と思う程である。皆を救いたいと言うヒカリの想いによって生まれた番外の『天使』。
「分かったわ……大変不本意ではあるけれどあの子の力を借りましょうか」
——力を使い果たして寝込んでいる所を頼むのは医者として非常に気が引けるわ。それに彼女が治療出来る能力があるかどうかさえも分からない……それにこの子の同意が必要……嫌がるのならば無理強いは出来ない。一応、ダメ元で行きましょうか。
視子はダメ元で寝込んだヒカリの世話もしているマモルのテントへと髭切を連れて行く事にした。テントの中ではヒカリが寝具の中で眠っている姿が見えた。やはり未だに目覚める気配が無い。
「……やはり、長い時間が必要なのね」
——上手く声が伝えられないと苦労する可能性があるわ。お互い意思が伝わらないとなると、不和が起こりかねない。
「……叩き起こすか?」
「流石にそれは、ちょっと……」
マモルの荒っぽい起こし方に視子は流石に辟易の表情を見せる。医者としても人としてもそれは無いだろうと考える。やはり無理かと思った矢先、髭切が気の抜けた表情で眠るヒカリの枕元にしゃがみ込む。
「いし欲てし治を声だん歪……」
『天使』に願いを告げる髭切。本来ならば叶わぬ願い、ヒカリは眠りに沈んだ中でも、その願いを聞き届けたかの様に身体の一部が光り輝いた。その光の粒がヒカリの身体が浮かび上がり髭切の喉元の方へと集まって行く。
「……ヒカリの奴、本当は起きてんじゃないのか?」
「少なくとも安静にはさせてはあげたいのだけれどね」
「……?」
「……あぅ?」
「え?」「ん?」
「……貴方、声が……?」
「……んにに?喋れ、てる……?」
「おお……‼︎ ちゃんと分かるぜ。ヒカリの奴、絶対……狸寝入り決めてるだろ……‼︎」
髭切の喋り方が逆転では無くて普通な喋り方となっていた。タドタドしい喋り方は眠り姫を彷彿させた。
「……一先ずは、何とかなったかしらね」
数時間後、再びジェイル内に出発したジャック一行。其処にはちゃんと喋れる様になった髭切の姿もあった。
「……やはりこの地域は私達の知るジェイルと良く似た構造をしているわね」
水辺の上に廃棄電車が積み重なる通路を渡りながら奥へと進むくらら一行。その最中、グレーテルは周囲を注意深く観察しながら考察を続けていた。基本的な構造、更にはメルヒェンの存在に加えてナイトメアの出没……少なくとも此処までは自分達の知る地下監獄のジェイルと然程、差は無かった。
「だけど、此処は地上……地下で見聞きしたジェイルとは異なる現象が起きても不思議では無いわ。其処の辺り、注意して進みましょう」
「り、了解っス‼︎」
「ふむ。ワレに係れば其処らの雑魚など造作も無いぞ‼︎」
「余り騒がない事ね。どうやら、面倒な事が起きているみたいよ……?」
グレーテルがそう呟くと同時に何処か遠くで破壊と破砕が伴う轟音が立て続けに鳴り響き始める。とても自然現象とは思えない程の激しい轟音であり粉塵が舞い上がる光景が見て取れた。
「な、何すかッ⁉︎ ま、まさかナイトメア⁉︎」
「……違うであろうな。ナイトメアは自分自身のテリトリーたるジェイルのエリアで破壊しまくる様な真似はせんだろう」
「ええ。ナイトメアが戦闘状態ならばその可能性は無くは無いけれど、彼処まで派手にやっているとなると……」
——暴走……ブラッドスケルター化ッ⁉︎ いや、確かにグレーテルさんが暴走していた時もメルヒェン相手に惨殺してまくって居たっすけれども……‼︎
「……グレーテル以外にも負傷しておった連中もおった。となれば、近くに仲間が暴走した状態で彷徨っておるのやも知れぬな」
「……可能性は無くは無いわね。或いは別の可能性も視野に入れるべきね」
「別の可能性っすか?」
近くにアリス達が居るかも知れない。しかしグレーテルは別の可能性を示唆した。
「……地下監獄でも10人の血式少女が確認された、地上であっても確かにジェイルが存在している。地理条件やメルヒェンの外見的な特徴に大まかな差異は確認されど、概ね共通項は見出せる。となると、地上でも血式少女と同等と呼べる存在があっても不思議では無いでしょう」
「なぬ⁉︎ 言われてみれば、確かに……そうかも知れぬな……視子も言っておったな」
「……私達の知らない血式少女が暴走して暴れて居る。と見る事も可能と言う事よ。あの暴れ方を見る限り赤ずきんやアリスの比では無さそうだけど」
粉塵の舞い上がり具合が徐々に増して行くのが見える。廃棄された電車と呼ばれる車輌が宙を舞っているのが見える……過剰気味な膂力を発揮するブラッドスケルター化でも彼処までの光景を目の当たりにするのは中々、稀であろう事が容易に想像出来る。
「……あ、あの状況の中……メアリガン、と言うか動きを止める事が出来るんすかね⁉︎」
もはや怪物が暴れ狂っていると思うしか無い光景。此処からでは遠い為に詳しくは見えないが、とても近付ける様な状況では無さそうである。
「……物理的な行為で動きを止めるのは少々、骨が折れるかも知れないわね。何方にせよ、私達は情報や物資が圧倒的に不足している。小さなモノであっても拾い集めなくてはならないわ。アリス達なら合流出来て良し、そうじゃないならば情報を得られるかも知れない」
「で、あるな。どの道、ナイトメアが徘徊しておる以上、隠れておる余裕もあるまい」
——って、2人とも向かう気満々じゃないすか⁉︎ こ、コレが血式少女隊……⁉︎ これは、気を引き締めないと身が保たないかも知れないっす‼︎
「……どの道、全員と逸れてしまっている。私達はジャックの血液が循環している貴方と一緒に居るから暴走の危険性は低下しているけれど、ジャックと合流出来ていない人は常に暴走の危険性が伴っている……合流するのは優先事項よ」
「そ、そうっすね……‼︎」
「良し、そうと決まれば征くぞ。貴様ら‼︎」
意見が一致した為に惨禍が巻き起こっているであろう場所に向かう。しかし、此処は細い通路が乱雑に重なり合う水辺の付近。車両の残骸が積もる場所、それ所か毒沼も散見されると言う環境。轟音の元凶も移動している為に簡単にかち合うとは限らないだろう。
「……ぬ、コレは……?」
スイッチと連動している扉を抜けた先、先頭を行くハーメルンが立ち止まる。その先に広がっていたのは多数のメルヒェンの死骸であった。
「……メルヒェンの死体ね。これは随分と特徴的な殺し方をしているわね」
圧殺。或いは撲殺と言って差し支えない殺され方をしていた。ハーメルンの記憶にある限り処刑台少女は鋭利な刃物による斬撃が中心。打撃と言ったモノは用いている様には見えなかった。そして、その光景はある光景を彷彿させる。それは地上に出た時に見えた積み重ねられた人間の死体の山……その光景を思い起こさせる。
「……こんな殺し方、明らかにヤバいんじゃないすかね……?」
「…………私は早々に気絶したから何とも言えないけれど今、この状況で処刑台少女に遭遇した場合……全滅は確実……此処まで惨殺出来るのはそうなれば自ずと候補は絞られる」
「……ぬ、ぬぅ」
「……随分と興味を惹く様な話をしているね。君ら」
「……ッ⁉︎ 何奴ッ⁉︎ おのれ、何処に居る⁉︎」
「……此処だ。此処」
唐突に声が聞こえくる。その方角へと視線を向ける、その先にはメルヒェンの死骸の山、その最上部に1人の少女が腰掛けていた。白く脱色した髪に前髪が片目を隠すが隙間から見える赤く煌めく双眸……グレーテルと同じく白衣を羽織った人物、リッサであった。
「……貴様……ワレを見下すとはどう言う了見かッ‼︎」
「探し人を探すなら高い所から見渡すのが常套手段と言うであろう?」
「成程……それでメルヒェンを駆逐して積み上げて擬似的に高い場所を作り出したと言う事ね」
——み、見た感じ……血式少女がジェノサイド化した風に見えるっす。となればあの人も血式少女、と言う事……あんな人、知らないっすからグレーテルさんの言う通り地上の血式少女、なんすかね?
「……して、つい先程、『処刑台少女』と言う単語を耳にしたのだが……?」
銀髪片目隠れのリッサはメルヒェンの死骸の山から飛び降りてくらら達の居る高さへと降りてそう問い掛ける。
「ええい、貴様自体何者なのだ⁉︎」
「……コレは失敬。申し遅れた、私はリッサと言う、どうぞお見知り置きを。して、有象無象の人間達は私達をジェノサイド・ピンク、或いは処刑台と呼ぶ」
「「‼︎」」
——ッ‼︎ しょ、処刑台少女⁉︎ な、何でこんな所に居るんすか⁉︎
「しかしながら、私達はその様な名称を自称した覚えは無い。ただ私達の名前と身内の
「……成程、私達が地上に出た時に遭遇した処刑台少女達とは姿が全く違うわね……」
「言われて見れば確かにそうであるな。彼奴等は肌は灰色であった上に問答無用で襲って来おった……似た様な雰囲気であったが、貴様とは似ても似つかぬな」
この中で真面に処刑台少女と遭遇してその姿を見ていたのはハーメルンだけ。その記憶通りならば目の前のリッサとは全く違う。
「……となると処刑台少女にも種類が存在すると言う事ね。呼び方は一緒でも中身は別物……同じ血式少女であっても性格も性質も異なる、興味深い事だわ」
「……君とは話が合いそうな気がするよ」
——な、なんかこのリッサと言う人。グレーテルさんと同じ眼をしている気がするっす⁉︎
「それで、貴方は処刑台少女と名乗った覚えは無い……して、呼ばれるだけならまだしも興味を引く程の事かしら?」
リッサが経緯を説明した。ジェノサイド・ピンクとは地下監獄で発見された血式少女達とほぼ同じ特徴を有する存在。負の感情を溜めれば暴走する事も同じ……即ち地上の血式少女と呼べる存在だとグレーテルは判断した。見た目の差異は多少あれど概ね同じだろうと理解した。
して、自分達は空に浮かぶ巨大な監獄塔を見た帰り、ある廃墟にて自らを『処刑台少女』と名乗る面々の強襲を受けたとの事。身体的特徴とハーメルンの記憶が一致する事から同一の集団である事が確定的となった。
「私達もそれなりに場数は踏んでは来たが……悔しい事に全く歯が立たなかった。唯一、ヴラドと言う脳筋君が最も食い下がったが押し負けた……殆どが一撃だったよ」
「……なんと……‼︎ 貴様らも奴らとやり合ったのか⁉︎」
「然も私達と大差ない負け方をしたのね」
「事実故に否定は出来ない。纏め役のジベットも撃沈した中、年下の者達も居たのだが殆ど瀕死体、残った半ば暴走寸前のヴラドが動けなくなれば全滅は確実……半ば賭けで戦線を離脱したが、その途中で逸れてしまってね」
「……だから探す為に擬似的に高い場所を作ったと言う訳なんすね?」
「そう言う事だ。こう言うのは自ら作る方が早い……逆に騒音を立てれば向こうから気付いてくれる可能性もある。最も、引かれて来たのが君達だったと言うオチに終わったがね」
——別にそう言う意図は無いんすけどね……。
「……事情は概ね理解出来たわ。貴方が処刑台少女と明確な繋がりは無いのであれば尚、良いのだけど」
「あるとすれば惨敗した借りを叩き返す事くらいだ。後、逸れた仲間を探さねばならん。あの連中の力は私の研究に関しては大いに役に立つ。簡単に失って良い程、安いモノでは無い」
「……貴様もワレらと同じような状態、と言う訳か」
「君らの話と類似点は多い事は否めないな。まさか、君達もあの連中とかち合っていたとは……」
「奴らの強さは何なのだ……?ワレらが総出で掛かっても簡単に押し負けた。並の強さでは無いぞ……」
「単純な力負けならまだしも、何かしらの原理が存在するのであれば幾らでもやりようはある。が、そう簡単には行かぬであろうな」
「…………ねぇ、目的はある程度は一致している。此処は1つ、提携しないかしら?」
其処でグレーテルはリッサに対して協力と言う言葉を持ち掛けた。その提案はお互いにメリットが生じると見越しての提案でもあった。
「提携……?」
——グレーテルさんにはグレーテルさんなりの考えがあっての事なんすね、多分。
「ええ。お互いに状況の差異はあれど、概ねの現状は合致している。貴方が処刑台と呼ばれているけれど、かの処刑台少女と同等の存在と見做されてどう思うかしら?(最もコレは地上に他の人間が生存していれば、の話だけれど)」
「……大変不服ではあるな。あんな連中と同列?我慢はならんよ。プライド高いヴラドもノコギリも敵愾心を隠すつもりはないであろう。第一、負け越して納得する筈もあるまい?」
グレーテルの言葉にリッサは納得の姿勢を見せる。本人も自身の力が全く通じなかった事に関して思う所があるらしい。曰く『理解はするが納得できるか』と。
「ええ、その通りね。私達も、この状況は大変見過ごす訳にも行かないわ。当初の予定が大幅に遅れる……コレは大変な損失」
「成程成程。君の提案は非常に魅力的だ……私の知る他のジェノサイド・ピンクとは一味違う、と言う事かね?」
「ええ。そう受け取って構わないわ。第一、あの処刑台少女とかち合って生存出来ただけでも違うと見做すのでは無くて?」
——な、なんか怖い会話になって来たっす‼︎ 例えるなら、そう……ヤバい人同士の邂逅とかそんな感じの‼︎
「グレーテルよ。貴様は早々に倒れたであろうが……」
「ハーメルン、黙ってなさい」
——ヒッ⁉︎ 何とも言えぬ悪寒がっ⁉︎
「……少なくとも並のジェノサイド・ピンク、良いや君らの表現ならば血式少女か。確かに連中の強さは隔絶していると見て良かろう……かち合った場合、ほぼ間違いなく瞬殺となるなるだろうね。ゴミ掃除と大差なく、な」
リッサの知識で知る自分達以外のジェノサイド・ピンクがギロチン率いる処刑台少女には太刀打ちは難しいだろうと確信を持って答える。ナイトメアなぞとは比べるのが烏滸がましい程の戦闘能力に差がある。
「……ふむ。グレーテルと言ったか?君の提案、謹んでお受けさせて頂こう。ちょうど、面倒かつ厄介なモノが見えてしまったから渡に船とも言えるが……」
リッサがグレーテルの提案を受けてくらら一行に加入を決めたその時、一際大きな轟音が鳴り響く。軋む音、砕ける音、崩壊する音が幾重にも重なりあって不協和音を奏でる。
「な、な、ななな、なんすかッ⁉︎」
「今までで1番、大きいぞ⁉︎」
「……随分と派手に暴れているみたいね。リッサ、心当たり、あるのね?」
「大いにね……見たまえ、薄らと見えて来たぞ」
轟音が鳴り響くその方角、暗く染まった空に浮かび上がる聳え立つかの様なシルエット。廃線となった列車が歪に繋がり伸びる。その列車にはピンク色に光る線らしきモノが張り巡らされているのが見える。此処からは距離がある為にその一部しか見えていないが、規格外の大きさである事は容易に想像出来た。
「……な、なんだあれはッ⁉︎ 巨大なメルヒェンかッ⁉︎」
「……ジャックに聞いた事あるけど、地下監獄でも通常の数十倍の超大型のナイトメアと相対した時があった、と。もしかしたらその類なのかしら?或いは監獄塔と融合したスナークの様に……核と融合した存在が……?いずれにせよ、面倒な事に代わりは無いわね」
ジャック達は地下監獄でも巨大なナイトメアと遭遇した事がある。しかし、その時はグレーテルとは出会っていなかった為に話でしか聞いた事が無かった。
——い、幾らなんでもデカ過ぎっすよ⁉︎ と言うか人間の力で立ち向かえるモノなんすかッ⁉︎
「……いやはや、墜落した先でさっそく合流出来て嬉しさ半分、面倒くささ半分と言った所かね」
「貴様、やはり知っておるのかッ⁉︎」
「ああ、アレの原因は十中八九、ノコギリか。一番最初に最も面倒くさいのと当たるとは……誠に運が悪い」
——アレ、1人の血式少女が起こしているんすか⁉︎ 無茶苦茶過ぎるっすよ⁉︎
「……推測するにブラッドスケルター化と言うのだけど……暴走しているのかしら?」
「……彼女もかなりの重傷を負ったのは確か。可能性は無くは無い……しかし、その状態になったら」
「元に戻せない、普通ならばね。でもあったりするのよ、ブラッドスケルター化したとしても元に戻す浄化の方法が」
「……何だと?それは本当かね?」
——と言う事は地上じゃ、暴走したら浄化する手段が無かった、と言う事なんすね。
「ええ。正確には非常に特殊な血液を用いれば血式少女の精神的な負荷、穢れと呼称するモノを浄化する事が可能なの」
「ふむ。汚染動物の血液を浴びて高揚し戦闘能力を飛躍的、向上させる。鎮静化させるものもまた血液、か。成程、そう言う理屈か。で?その血液とは?」
「……ええ、それが彼女、くららよ。正確にはジャックと呼ばれる血式少年の血液……その血液を彼女に輸血した後、血式少女の穢れを浄化する事が可能となったのよ」
「ほほう」
——あ、この人。やっぱりグレーテルさんと同類な気がするっす‼︎ 如何にも『興味深い研究対象だ』、みたいな顔をしているっす‼︎ み、身の危険を感じるっす……。
「……つまり、彼女の血液を暴走したジェノサイド・ピンクに何らかの形で摂取させる事が出来れば浄化、鎮静化させる事が可能、と言う事かね?」
「ええ、幾重にも実践成果が出ている事から確固たる事実よ」
「……貴様も当初は暴走しておって彼方此方のメルヒェンを虐殺しておったしな」
——あの時は本当に怖かったっすよ……。
「理屈は理解した。となれば、いきなりで申し訳ないがノコギリを元に戻す事を手伝って欲しい」
「ええ、貴方の地上での知識。是非とも聞きたいわ、色々と知っていそうだし……」
「アレを放置しておったら、この場所が保たぬ。タダでさえ不安定な場所だと言うのに、倒壊しては動けぬからな」
「助かる……」
「ちょ、ラプ⁉︎ こんなモノを食べようと考えているの⁉︎」
——メルヒェンとかもそうだけど、壁と飽き足らずこんな怪しさ全開の箱にも手を出そうと考えるとか、野生児って怖いわ。
「ラプ、シラ……‼︎ 離れてッ‼︎」
眠り姫は黒い箱が震えている事を察知した。嫌な予感がする事を理解し2人に下がる様に指示を飛ばした。
「な、何⁉︎ 何が起こるって言うのよ⁉︎ ま、まさか……爆弾……?」
黒い箱に亀裂が入り始めて破壊され雄叫びが響き渡り始める。
「「「ッ‼︎⁉︎」」」
——な、何⁉︎ この獣染みた声はッ⁉︎
「……ね、ねむねむ………‼︎」
「……ん。この殺気……‼︎」
ラプンツェルと眠り姫は破壊された黒い箱から生じる殺気を感じ取った。流石に処刑台少女程では無いがそれでも油断して良いモノでは無かった。
「……な、何か出て来る……‼︎」
壊れた箱の影から見える赤い色に発光する眼光。細い腕が箱の縁を掴んで押し倒してその姿が3人の前に姿を現した。脱色し切った白銀の髪、その頭頂部には赤黒く発光する複雑な構造を持ち王冠の様な意匠を成す歯車が浮かび、両腕には赤黒い筋、腕から垂れるは絲らしき発光部位が現れている。そして辛うじて胸や秘部を覆う赤黒い膜……。
「……ッ‼︎ ぶ、ブラッド、スケルター……‼︎ ボク達の……知らない……血式少女……⁉︎」
「……し、シラ……‼︎」
その姿は正しく、血式少女が持つ最も危険な状態、死亡するまで絶え間ない破壊、殺戮、自壊行動を只管繰り返す暴走化した状態『ブラッドスケルター化』……こうなってしまってはジャックの血液で浄化しなければどうする事も出来ない。そして、この場にはジャックは居ない状態……シラのゴアブラッドは穢れを浄化する事は出来たが、流石に暴走した状態の相手には無理であった。
「……な、ぼ、暴走……⁉︎」
「あ゛ぁ゛‼︎⁉︎」
ブラッドスケルター化した血式少女が両手を振るいながら発狂した咆哮を上げる。両腕から垂れる赤黒い絲は乱雑に周囲に飛散して行く。それらは周囲に転がっていた列車の残骸や、瓦礫、扉と接続され力尽くで引き剥がして血式少女の方へと引き寄せられ集まって行く。
「な、何よ……コレ……⁉︎」
瓦礫、列車、扉、残骸……それらが絲を介して次々と繋ぎ合わされて行く。歪な轟音を響き渡されながら形成されたそれは、幾重にも瓦礫の山を無理矢理組み合わせたかの様な超巨大な残骸のドラゴンを彷彿させるかの様な姿となった。列車の脚にコンクリート残骸の指の四足歩行、そして背中からは鉄骨やら列車を捻じ曲げて絲で繋ぎ合わせた歪な腕の様な翼が広がって見える。
「……お、おっきー……‼︎」
「ひ、1人のジェノサイド・ピンクが出来る内容じゃ無いわよ⁉︎」
——こ、こんなの聞いた事が無いッ‼︎ パパもこんな事を言っていなかったし、ギロチン姉さんもメイ姉さんも首吊り姉さんも、此処までの事は出来なかった‼︎
瓦礫腕が振り上げられシラ達へと向けて振り下ろされる。直撃として当たれば如何に身体能力が優れる血式少女や処刑台少女であってもタダでは済まない。何せ降って来るのは、巨大な列車其の物なのだから……‼︎
「……うう、流石にこの寒さは……洒落にならないわね」
「……そう、ですわね」
氷のような壁、冷気を纏う風が吹き抜ける通路、霜が降りた床……全てが牙を剥く極寒の世界にて赤ずきん達はクナイを連れた状態で奥へと進んで居た。こんな極寒の中であってもメルヒェンは存在し赤ずきん達に襲い掛かって来る。メルヒェンの攻撃に加えて冷気が傷口を抉る様に突き刺す。そして過度のダメージを受ければ穢れが溜まり最終的に暴走、ブラッドスケルター化と成る。
——……親指もシンデレラも肌が見える部分が多い……この寒さは厳しい……急がないと、暴走する前に凍死する……‼︎ それにメルヒェンやナイトメアも居る……そしてジャック達も居ない……‼︎ いや、迷っちゃダメだ……‼︎ 私が皆を守らないと……‼︎
「……あれ、さっき見た時この凍り付いた扉、閉じて居たよね?」
「そうですわね。独りでに開いたのでしょうか……?」
ジェイルには回廊となっている場所も無くは無かった。その為、一周回って戻って来る事もある。そして最初、見た時はどうやっても開かなかった扉が今は開いていた。
「……もしかしたら、私達と同じようにこの場所を探索している人達が居るのかも知れないわね」
「でも、いや……まさか……‼︎」
——皆がこの近くに居る⁉︎ なら早く合流しなきゃ‼︎
「……ッ‼︎ 暗くなって来ましたわ……近くにナイトメアがッ‼︎」
「……こんな時に……赤姉‼︎ 何方へ逃げる⁉︎」
「あ、う、うん。開いた方向へ行こう‼︎ どの道、奥へ進まないと何も始まらないし……‼︎」
暗くなり始めたと言う事は近くにナイトメアが現れた証拠。状況的にまともに相手している余裕は無い(そうでなくても核を破壊せねば倒せない)。遭遇する前にとっとと移動する事にして奥へと突き進む。そして突き当たりで上階へと続く階段を見つけた。
「……塔の形なのでしょうか?となると監獄塔なのかも知れませんわ……‼︎」
「今、知った所で状況は全く変わらないと思うのだけどね……」
上の階へと到達する。相変わらずこの近辺にもメルヒェンは蔓延っているのが直感で分かる。それから何処かで落雷の様な音も微かに聞こえて来る……。
「……上に行くと寒さも強くなりますわ……‼︎ クナイさん、大丈夫ですの?」
「は、はい。私は大丈夫です……‼︎ 皆さんの方が深刻な状態なのに……」
「大丈夫、と言いたい所だけど……やるしか無いのよ。こんな所で死ぬ訳には行かないんだから‼︎」
「なんで、なんで誰も見つからないの……?」
更に奥へと進む。その時、白や青の世界だけの世界の視界の隅に黒いモノが見えた気がした。
「赤姉、ちょっと待って‼︎ 何か、見えるわ……」
「……アレは……誰か倒れてるッ‼︎」
「ほ、本当ですわッ‼︎ こんな所で倒れて居たら凍死してしまいますわよッ‼︎」
黒い物体の残骸、その近くには1人の人間が凭れ掛かる形で倒れていた。遠目からでも深い傷を負っている事だけは分かる。漸く見えた自分達以外の生存者(?)を見て赤ずきん達は救助を試みた。
「酷い傷ですわ……クナイさん。包帯やガーゼを」
「は、はいっ‼︎」
「出血も酷いのもあるけどこの寒さの中での凍傷もしている……‼︎ 親指」
「ええ……分かっているわ‼︎」
近くで見ると分かる。大きく抉られた様な傷跡が生々しく残っており、凍て刺す冷気の環境の中で凍傷も負っていた。その為、急いで治療せねば力尽きるのは目に見えていた。幸い、浅い呼吸音が聞こえている為、まだ生きて居る。今なら治療すれば息を吹き返す可能性があった。
「……此処まで酷いとなると時間が掛かるわ。シンデレラ、その間、頼めないかしら?無理だけはしないでよ‼︎」
「分かっていましてよッ‼︎」
「クナイ、親指を手伝ってあげて、その間、私はシンデレラと防衛するから」
「わ、分かりました‼︎」
止血、治療している間にもメルヒェンは待ってはくれない。その為、親指姫とクナイが応急処置を行なっている間、シンデレラと赤ずきんが寄ってきたメルヒェンの迎撃を担当する事となった。
「大元の傷はこの辺りね……」
出血による血塗れな身体故に見え辛いが場所を特定した親指姫は指でその上をなぞるように動かすと白い魔法陣が傷口付近に展開された。
「……こ、コレが血式少女の特異的な力、なんですね。本当に絵本に出てきそうな魔法みたいです」
「まぁ、普段は見せないからね……専ら攻撃の為の魔術が大半だけどね」
得手不得手こそあるが魔術は基本的に血式少女は全員使う事が出来る。例えば親指姫は火炎や暴風と言った攻撃系、人魚姫は回復やリカバリと言った治癒系が得意な傾向にある。最も下手なのがアリスとシンデレラの前衛組であった。
「……でも、現実はそんなに甘くは無いわ。治癒魔術を掛ければ直ぐに回復だなんてモノ……それこそ御伽噺での話だもの」
だが、基本的に治癒魔術は精々、本人の自己治癒能力を高める事が本質の魔術。失われた血液を即座に増血する力は無いし抉られた皮膚と言った細胞単位のモノを生成する力も無い。多少の傷程度であれば急速に治癒されるが、本人の意識が失われる程の大怪我である場合は相応の時間が掛かる事になる。どんな重症人であっても治癒魔術を掛ければ直ぐに回復……と言う訳にも行かないのが実情であった。
「この体勢は血行の治りが悪いので布を敷いて寝かせましょう。出来るだけ無理の無い体勢で」
「脚の方は私が持つわ、クナイさんは頭の方を」
「はい」
クナイは雑用を良くして居たが救護班にも出入りして居た。視子が不在の時は医務室に待機していたから視子からは簡単な応急処置の仕方を教わっていたのであろう。流石にこの時にそそっかしい場面とは出会したくは無いが。
「……それにしてもどうして此処までの深傷を負ったのでしょう……?」
「余程、激しい攻撃の最中に遭ったのかしら?それよりも……あんまり見たくなかった光景を改めて見ると嫌になるわね」
黒い残骸の近くは崩落した壁、その先には荒廃と化した世界と乱立する監獄塔が見えた。その隅には不気味な肉塊の様な、地上に出た時に見えた巨大な監獄塔が見えた。
「……随分と高い場所みたいだから、ある程度は予想はしていたけど……此処、監獄塔みたいね。極寒過ぎてウンザリするから……違うと思いたかったのだけど」
崩壊した穴から見る限りこの場所から降りるのは無謀極まりない。落下すれば転落死間違い無しである。外壁自体も凍結しており滑り落ちるのが関の山と言える。
「……ッ‼︎ ぐ……?」
「あ、目覚めましたよ‼︎ 親指姫さんっ‼︎」
「早ッ⁉︎ 見た目こそは派手だけど、傷が浅かったのかしら?兎も角、アンタ……余り無理はするんじゃ無いわよ‼︎」
「おーほっほっほ‼︎ 私達にかかればこの位、余裕ですわッ‼︎」
「……寄ってきたメルヒェンは掃討したけど、親指。其方はどう?」
その時、迎撃に当たっていた赤ずきんとシンデレラの2人が親指姫の元へと戻ってきた。
「あ、赤姉。目が覚めたみたいよ」
「……痛ッ……あの野郎……‼︎」
重傷の身体を無理やり起こそうとした、流石に見過ごせなかったクナイは押し留めようとするが鋭い眼光に萎縮してしまい許してしまう。かと言って本人も傷の度合いが深刻故に動きが鈍く精々、黒い残骸に背を預ける事くらいの動きしか出来なかった。
「……見ない顔ばかりだな。つーか、此処何処だ……?」
倒れて居たのは少年であった。少なくともジャックよりかは年上に見える。と言っても自分達と大差ない年齢にも受け取れる。
「そんな事、私達が聞きたいよ……。アンタ、自分の事覚えて無いの?」
「……応急処置、か。成程、良く分からんが助かったのは確か、だな……。すまん、助かる」
「……第一、アンタはこんな所で倒れて何してたのよ?」
「何って……?あ゛……⁉︎」
どうやら彼、ヴラドはこの状況に陥った理由を明確に思い出したらしい。
「……処刑台少女、か……ギロチン。あの灰色肌の灰女め……今度逢ったら、タダじゃおかねぇ……‼︎」
——……ッ‼︎ ギロ、チン……‼︎
「あんた、それどう言う事⁉︎ 詳しく説明してよ‼︎」
「って、のぉ⁉︎ 身体、揺すんな⁉︎ 分かった、分かったから話す‼︎ 話すから、落ち着け、莫迦‼︎」
ギロチンの名前が出た事に赤ずきんは動揺してヴラドに組み掛かる。その様子にヴラドは驚きつつ離れるように叫ぶ。
「……な、なんとそんな事情が……私達と状況はほぼ同じですわね」
赤ずきんが落ち着いた後、ヴラドが自分の名前を名乗った後、事の経緯を説明した。処刑台少女と名乗る一団の強襲を受けたと言う事。自分達も相応に場数は踏んでいたのだが歯が立たなかったと言う事を。後、血式少女と地上の血式少女、地上ではジェノサイド・ピンクはと呼ばれる存在は同一の存在だと言う言う内容の話もあった。
「……それよりもジャック以外にも血式少年が居たなんてね」
「お前さんらの言う穢れの浄化ってのは残念ながら無理だ。放置すりゃ、暴走するのは知っているが……明確に阻止する方法の糸口は未だに掴めなくてな……よもやそんな方法があるとはな……。リッサの野郎が知れば興味を示しそうだな」
しかしヴラドの血液には穢れを浄化する作用は無い。その事はヴラド本人も理解していた。
「で、お前さんらもあの灰女……ギロチンの連中の襲撃を受けて惨敗した……で、バラバラになってしまった、と」
「「「…………」」」
ヴラドは唯一、ギロチンに食い下がったがそれでも敵わなかった。終始押されっぱなしと言っても良い程に劣勢だった。
「悪い、蒸し返す気は無かった。んで、今までは浄化の手段があったが故に暴走のリスクを下げる事が出来たが……今は無い。加えてこの檄寒な状況……肉体的精神的に追い詰められている……極限状況って訳だ」
浄化の手段が無いのにブラッドスケルター化は危険。一応、穢れをある程度取れる睡眠薬はあるにはあるが限りのある消耗品……その癖、こんな極寒な監獄塔で眠ってしまうのは自殺行為に等しい。
「……全くもってその通りだよ。こんなにも探しているのに他の皆も見つからない……生きているのかさえ、分からないんだ」
「……不安になるのは同意するサ、俺の所にも幼い奴が居たからな、心配にはなる。決して楽観視出来る状態では無いのも……あの連中と相対したから分かる。本当に死ぬかと思った瞬間だったからな……」
「あ、貴方はコレからどうするつもりなんですか?」
「……何って行方不明になった仲間を探さねばならない。んでもって、あの処刑台少女とか名乗ったか(人間達が俺達の事をそんな風に呼んでたっけか?兎も角、あんな連中と同類扱いだなんて我慢出来るかッ‼︎)……あの連中をブチのめさないと気が済まねぇ……」
「……その状態で動こうとするなんて、
身体も満足に動かない状態でヴラドは立ち上がろうとする。この様子だと1人で仲間を探しに行こうとしているのが見て取れる。
「寧ろこんなクソ寒い所で悠長にしていられる余裕も無い……。治療に関しては本当に助かったと思っている。誇張抜きで1回、死んでたかも知れないからさ……」
「あ、あの‼︎」
其処でクナイがヴラドに待ったを掛けた。つい先程まで萎縮していたが此処で止めないと本当に飛び出してしまいかねない、そんな気がしたからだ。
「……?」
ヴラドの視線は射抜くようで鋭い。それでも堪えてクナイが口を開く。
「貴方の状態は危険域ですっ‼︎ 今、無理に動けば……傷が開きますよ⁉︎ まさかと思いますが戦うなんて以ての外……‼︎」
「……俺の命だ。俺がどう使おうと俺の勝手だ、お前さんにどうこう言われる謂れは無い筈だ。それこそ、何処かで野垂れ死のうが勝手だろう」
「命を粗末にしないで下さいッ‼︎」
クナイの精一杯の叫び声。その声にヴラドが目を見開いた。まさかそんな大声が飛び出して来るのかとは思っても見なかったからだ。
「……命を、命を何だと思っているんですかッ‼︎ こんな状況で自分の身体を大事にしないだなんて、どうかしています‼︎」
「……そうよね。助かった命を投げ出そうだなんて……ジャックを思い出すわ。アイツ、私達の為なら命懸けな真似をする時あるし……それよりもタチ悪い気がするわ、アンタ」
「…………」
親指姫の援護射撃が飛来する。ヴラド本人はジャックと言う存在を知らないがどうやら身内に余程無茶する人物が居るらしい事は分かった。
「……私は今のアンタの気持ち、分からなくは無いかな」
「赤ずきんさんッ⁉︎」
「赤姉ッ⁉︎」
その中で赤ずきんだけはヴラドの行動を非難は出来なかった。何故なら、今の自分もそんな状態に近いと分かっていたからである。話を聞けば状況に差異はあれど、処刑台少女に立ち向かって歯が立たずその間に仲間達が傷付いた。仲間達と逸れ、一刻も早く合流せねばならないと言う焦りも見えて居た。
「……アンタ、今すぐにでも仲間を探しに行こうとしているでしょ?手遅れになる前に……」
「そうだと言った筈だ……。少々、心配になる奴が居るからな……」
——そりゃ心配にはなるよね。私だって、皆が心配……これだけ探しても見つからなかったら焦って来る。
「……だからと言って1人で行動するのは危険過ぎます‼︎」
スクイがそうこう言っている時、辺りの世界が暗くなり始める。どうやらナイトメアが近付いて来ている様である。
「ん?なんだ……この不自然な暗さは?」
「チッ……こんな時にナイトメアが来るなんて……‼︎」
『ゴォォォォォ……‼︎』
「も、もう、すぐ近くにまで来てしまいましたわよ⁉︎」
立方体の姿に苦悶の表情を浮かべた人間の顔が貼り付けられたその姿……この極寒の世界に徘徊するナイトメアが赤ずきん達の前に現れた。
「見た事ある汚染動物よりも醜悪な姿だ……。危険汚染動物って奴か……?」
「ナイトメアよ‼︎ 今の状況じゃ倒せない……‼︎ 今は逃げるしか無いのよ?」
「は?死なないって言うのか⁉︎ どう言う原理なんだよ、ソレ⁉︎」
どうやらヴラドはナイトメアに遭遇したのがコレが初めての様である。知らないのならば無理も無いだろう。
「その解釈で結構ですわ‼︎ ほら、逃げますわよ‼︎」
赤ずきん達はヴラドを引き摺ってナイトメアから逃れ一旦、キャンプ地へと引き返した。
「……幸い、メルヒェンに襲われては無いみたいだね」
「アンタは一先ず、寝てなさいよ。死に体の体で動き回って死んだら元も子もないじゃない」
「…………」
「取り敢えずどうなさいますの?」
「コイツは放っておいたら、勝手に出て行きそうな気がするけどね……」
ヴラドは単独行動が多い、そんな気がしなくも無かった。かと言ってキャンプ地に滞在させるのもまた危険な気がしなくもない。彼の目的は本人の口から伝えられてはいる、留まる理由は無いだろうから盗難の心配は無い。
「貴方の目的と私達の目的は概ねは一致している筈です‼︎ 此処は私達と一緒に行動した方が良いんじゃないでしょうか……?」
「お前さんらと……?」
クナイの提案。それは赤ずきん達と一緒に双方の仲間を探すと言うモノであった。
「…………闇雲に探し回るよりかは、マシ、か。『眼』は多い方が良いかも知れない……それに助けられた借りもある。分かった、此処は折れる。アンタ、意外に頑固そうだしな……」
ヴラドはなんだかんだ言いつつも髭切やジベット、リッサの頓珍漢な行動に呆れつつもその行動には乗ってはいた。クナイの様な直接的な言葉は初めて聞いた気がした、そしてクナイの提案も考えれば自分にも利はあると踏んだのだ。
「……ほ、本当ですか……?」
「焦っていた、心配になる奴ってのは……俺の目の前で灰女に斬られたからさ……俺の不手際が原因で……大怪我を負った……隙を晒した俺を庇う形で、袈裟斬りに斬られた」
「……!」
ヴラドの言葉。彼は処刑台少女達に襲われた事は話されたが、それは大部分なモノであり詳細なモノでは無かった。
「何時も姉貴面するし猫可愛がりして来てはウンザリはしていた……だが、死んで欲しいと思った事は1度も無い。……側からいなくなって初めて気付いたのさ。失ってからじゃ遅いってな……」
——だから、無理矢理にでも動こうとしたんだ……‼︎ 考えている事は私と一緒だ……私もあの時、足手纏いだった。
「大怪我を負って居たのなら……!」
「最悪、暴走……ブラッドスケルター化している可能性が高い……。アイツ、ジベットは怒ると滅茶苦茶怖いんだ……。アレだけは怒らせないようにしようと思っている程だ……」
その恐れようは『怖い姉……』みたいな雰囲気を持っていた。
「でも、今の私達にブラッドスケルター化を浄化する手段は無いのですよ……」
ヴラド本人にもブラッドスケルター化を浄化する手段も持ち合わせていない。暴走したジベットを止める手立ては無いだろう。殴って止まるようなモノでは無いのだから。
「……暴走する前に真っ先に見つけたい所だ。かと言って他の面々を放置して良いモノか……。俺は灰女に係りきりだったから良く見ていなかったが、悲鳴は聞こえた……タダでは済んでは居ないだろうな」
「アンタの仲間って何人なのよ?」
「俺を除いて5人だ。さっき言ったジベット。リッサ。ノコギリ。髭切。ロンギヌス……ジベットとノコギリはブラッドスケルター化したら洒落にならねぇだろうと思わしい」
「それ以前に誰が暴走してもヤバさは同じでしょ?」
「苦労しているんだな。お前さんら……」
「……さて、大分休んだ。そろそろ、出発しないのか?」
スクイの提案を理解して乗る事を決めたヴラドは赤ずきんにそろそろ探索に出ないのかと尋ねる。
「ちょ⁉︎ アンタ、まだ数十分しか立って居ないわよ⁉︎ どんな身体してんのよ⁉︎」
「……こんな状況で寝て居られるかよ。借りの作りっぱなしは性に合わないんだ。それに……腹が、減ってな……この前から全然食べてなくてよ……」
「……こ、こんな寒い所だとお腹も空きますよね」
「……君らの食糧に集る気は無い。何でも良い、それこそ汚染動物でも構わない、寧ろ其方の方が望ましい」
「汚染動物ってメルヒェンの事?」
「……君らはそう呼んでいるモノだ。地上だとそう呼ばれている。金具以外は喰そうだ……つか、意識が戻ってから本当に腹が……減った……」
その時、キャンプ地近くにメルヒェンが彷徨って来る。その姿を捕捉したヴラドは本能と言うべき行動の速さで左手を凍り付いた地面を握り潰す勢いで掴んだ直後、全身を前方に飛ばして勢いを付け飛び掛かる状態で右腕を振るいメルヒェンに襲い掛かる。ヴラドの飛びかかりの直撃を受けたメルヒェンは凍った地面を全て壁に叩き付けられ絶命した。
「ら、ラプラプみたいですね。野生児だったのでしょうか……?」
「寧ろラプンツェルよりも野生的ね……」
ヴラドは其の儘、殺したメルヒェンに喰らい付き捕食する。その光景はメルヒェンさえも喰らうラプンツェルと重なって見えた。確かにメルヒェンの血液を摂取したり舐めたりする事は血式少女では良くある事だが、流石に日常的にメルヒェンの肉を喰らおうとは思わない(赤ずきんは流石に問題あると見てラプンツェルにもう食べない様にと教えていた)。
「……少ないが無いよりマシか。って……おい、君らドン引きするのは止めてくれ」
「するなと言う方が無理よ。ラプンツェルと言う前例があるからまだ耐性があるけど」
「……そうか」
「……誰も見つかりませんし、せめて新しい発見が欲しいです〜」
「か、かぐやさん。出発してから其処まで経っていませんよ⁉︎」
その頃、銀髪の少年とかぐや姫と白雪姫は極寒の世界を探索していた。
「2人とも、こっちだ」
「何か見つけたんですか?」
その時、血式少年である銀髪の少年が進路方向の向きを変えた。
「ああ。この先に
そう手短に告げるや否や、即座に動き出してしまう。その後を白雪姫とかぐや姫が後を追う。
「あ、待って下さい〜!」
「ほ、本当にありました。何故、分かったんですか?」
銀髪の少年が立ち止まった小部屋。その中央には白雪姫やかぐや姫にとって見覚えのある物体が鎮座していた。血の色の様に赤く脈打つ株の様な存在……正しくジェイルや監獄塔の重要な器官である『核』であった。
「何となく、感覚で大凡の位置を把握しただけだ」
——コレばかりはこう答えるしかあるまい。他に表現する方法が無い。
「答えになっていない答えですね〜。兎も角、面倒ですが見つけちゃったモノは仕方ないので壊しておくに限ります〜。もうナイトメアに追いかけ回されるのもウンザリなので〜」
核とナイトメアは一心同体。核が存在する限り対応するナイトメアには無限とも言える栄養を常に供給され続けている。その為、ナイトメアに何度傷を付けても再生する不死性を有している。だが、核を破壊してしまえば供給源が失われて討伐が可能となるのである。
「そうですね。壊しておくに限ります‼︎」
「……となると、面倒ですが番人が出て来ますよね〜」
しかし、核は重要な器官。故にその核を守護するメルヒェンが番人の様に配置されている。コレまでも核を壊すには防衛するメルヒェンを先に倒す必要があった。
「……その様だ。無理はするなよ」
核の背後から両手が剣の様に変化した腕を持つ王子様の様な姿をしたメルヒェンが現れる。恐らくアレがこの核を守護するメルヒェンなのだろう。
「ではとっとと……」
「待て……何か来る‼︎ 退がるんだ、2人共ッ‼︎」
「今度は何ですか〜?」
いざ戦闘が始まろうとしたその時、銀髪の少年が叫んだ。その声を聞いてかぐや姫が文句を垂れつつも後退した。白雪姫も同じく後方に退がり様子を見ていた。
その時、天井が崩れてその真下にいたメルヒェンへと降り注いで圧殺した挙句、あるモノが落下して来る。
「ひゃあ⁉︎ な、なんですかッ⁉︎」
「……‼︎ 気を付けろ、どうやら厄介なモノが来てしまった様だぞ」
「この状況自体其の物が厄介事なんですが、更に厄介なモノが増えても——」
濛々と立ち込める煙の端から赤黒く細い羽の様なモノが見え始める。その煙が晴れた時、その姿が露わになる。この銀世界に溶け込む程の痛々しい迄に白い長髪の髪、赫く燦爛と煌く双眸……頭上には日輪の様な形状で赤黒く光っており、背中には赤黒い炎の様な翼が発光部位として伸びていた。全裸に近いが胸部には赤黒い膜が覆われている。そして……下半身たる両脚が
「特級の面倒事です〜‼︎」
「ま、ままさか……ぶ、ブラッドスケルター化ですかぁ⁉︎」
——よもや、よりにもよってブラッドスケルター化した血式少女と遭遇してしまうとはな。番人は圧殺されたから手間が省けたのは良いが代わりに面倒な奴が現れるとは……何とも厄介な事になった。
「おい、2人ともアレは知人か?」
「い、いえ……あの様なお方は知りませんよ〜。下半身が無くなる変貌は聞いた事がありません」
「た、確かにブラッドスケルター化すると見た目が大きく変わりますが……あの人は白雪も知りません……‼︎」
「成程……」
——地下監獄で黎明に知られずに過ごして来た血式少女が重傷を負って浄化出来ずに暴走した……か、或いは地上で生まれた血式少女……何方の可能性もある。一先ず、此処は彼女の暴走を鎮めるのが先決だ。ブラッドスケルター化した血式少女は見境なく暴れ狂う……敵味方関係なしに目に映る全てが攻撃対象……あんな兇刃を僕に向けられたら即死は免れまい……放置する事自体のメリットよりもデメリットの方が上回る。
「……一先ず彼女の動きを抑えてくれ。その間に浄化を試みる。彼女を此の儘、放置するのはナイトメアと同等のレベルで危険だからな」
——……何処と無く妻の雰囲気に似ている様な気がするが僕の妻はこんな狂った笑みは浮かべない。
「は、はいっ‼︎ 頑張りますッ‼︎」
「全く……何処の誰かは知りませんが、この貸しは高くつきますよ〜‼︎」
敵意に気付いたのか暴走した血式少女は赤黒く燃え上がる十字架を逆手に顕現してかぐや姫達へと矛先を向けて襲い掛かる。
——かぐや姫も白雪姫も何方も前衛には向いて居ない……何度も攻撃に晒されては耐え切れない。此処は短期決戦で決着を付けるしか無いだろう。2人が倒れれば、メアリガンを撃つ前に僕は彼女に惨殺される可能性が高い……タイミングを見極めなければ……‼︎
クナイの説得(?)によりヴラドが赤ずきん一行に同行する事となった。空腹を訴えていた彼は道中で襲って来たメルヒェンを返り討ちにしては捕食を繰り返している。その為か、赤ずきん達よりもヴラド1人が倒したメルヒェンの数が上回る様になっていた。
「……全ッ然、足らねぇ‼︎」
纏めて喰らう入れ食い状態。それでもヴラドは満足しなかった。一応、金属類までは食べようとしていなかった時点ではまだマシだろう、多分。
「呆れ返る程の暴食っぷりね。あれだけメルヒェンを食い殺しても満足しないなんて……」
「ラプラプもそうでしたが、お腹壊さないんでしょうか?」
親指姫とシンデレラはその光景を見てかなり引いていた。仲間であるラプンツェルもメルヒェンは愚か壁さえも食べる程の健啖ぶり……2人が揃った暁には何れは『健啖の悪魔』と恐れられるかも知れない。
「……あの様子だとその心配は無さそうですね。個人的には色々と心配にはなりますけど」
「あ、あんなに暴れて……良くない事が起こらないかな……メルヒェンが凶暴化したりとか」
「赤姉……」
形振り構わずに凡ゆる生命体を悉く喰らい尽くす勢いで片っ端から遭遇した小型のメルヒェンを捕食して行くヴラド。重傷かつ空腹であった為に無理はせずに小型から食べて行っている様である。
それでも敢えて言い換えるのならば貪食、暴食の概念が血式少年の姿となって擬態化された存在と言われても遜色無いだろう、それ程までの喰らいっぷりは凄まじかった。
「……私としては彼処まで食べて体型全く変化が訪れないのが不思議で堪りませんわ」
「シンデレラ……その事は白雪にだけは言わないであげて……後、彼奴にも言っておきましょうか。変な事を言ったら殺すって」
「…………」
量だけ見れば血式少女隊全員の普段の食事量の数十倍とも呼べるメルヒェンの質量を喰らい尽くしたヴラド。その頃には周辺のメルヒェンは殲滅されてしまった。赤ずきん達からすれば暴走の危険性が付き纏っている中、戦闘するリスクを避けられた為に願ったり叶ったりなのだが……素直に喜べなかった。何故かは分からないが……。
「いやー食った食った……」
「アンタどんだけ食べているのよ。まぁ、メルヒェンが居ればアンタは食事に困らなさそうね。掃いて捨てる程にメルヒェンは溢れ返っているし」
「………………」
「ヴラドさん……?」
「……何か悪いと思ってな」
「あーうん……」
——ヴラドの血式リビドーみたいなモノかも知れない。アレは切っても切れないモノだし……無理に押さえつけるモノじゃない。それに、今の状況は戦闘は出来るだけ避けたい……代わりにヴラドに負担を強いる事になっちゃてるから謝るのは私達の方だ。
なんとも言えない空気がこの場に包まれる。
「あ、あの‼︎ ヴラドさんも調子を取り戻した?みたいな感じですし……ほ、ほら……えーと」
「クナイさん。場を明るくしようとしてくれるのはありがたいですわ……‼︎」
「さてと、新参のアンタばっかりに任せては名折れって事ね。と言うか暫くは食い散らかす光景は見たくないわ」
「……む、善処する」
「私もしっかりしないと……病み上がりの奴に任せっぱなしじゃ……ダメだ」
捕食行為と言う行動の都合上、メルヒェンの返り血を浴びやすい。その為、時折ジェノサイド化したと思わしき光景を目の当たりにしている。そしてヴラドは気にしていないとは言え、赤ずきん達から見れば彼は傷口が完治した訳では無い病み上がりの状態である。
「……な、なぁ……親指姫だっけか……?赤ずきんって奴……随分と思い詰めている様な気がするのは気の所為かい?」
「話した通り処刑台少女の一件でね……考えるに考えてってのは赤姉らしく無いのよね」
「……邂逅して数時間しか経っていないからなんとも言えないが……そんな気がする。あの状態では調子も悪かろう」
「昔の赤姉なら、後先考えずにドンドン奥へと進んで行ったわ。その後を追いかけるのは苦労したのは良い思い出ね」
「……そうか」