「逃げて! さっちん!」
行かないで。
「ここは私に任せて先に行け。なに、安心しろ。そう簡単に沈まないさ」
置いて行かないで。
「おねーちゃん、短い間だったけど、ありがとうね」
ボクを置いて行かないで!
「…………」
また、あの時の夢を見た。
布団から出て、グッショリと濡れたパジャマを脱ぐ。
「……今日はいよいよ、か」
タオルで全身を拭きながら壁にかかったカレンダーの日付けを確認する。
2020年11月9日。今日はこの新設された鎮守府の司令官となる人物が赴任してくる日だ。
本来なら11月1日から赴任してくるはずが、諸事情で1週間遅れての着任になったらしい。
「……嫌だなあ」
初期艦に選ばれてしまったからには覚悟を決めるしかないんだろう。
大本営が決めたことには逆らえない。けど、こんな落ちこぼれのボクなんかを初期艦にしたことに文句を言っても良いと思う。
だって、ボクは戦えないのに。
「――――っ!」
あの夢の光景を思い出して、何かを吐き出しそうになる。
慌てて口を押さえて蹲る
制服を着て、新しい司令官を迎えるために玄関へ向かう道すがら、寝間着とタオルを洗濯機に放り込む。
玄関に到着して壁にかかった時計を見れば時刻は〇八四五。司令官が来るのが〇九○○だったから、ちょうど良い時間に来た。
『嬢ちゃん、大丈夫かい?』
「……なんの事?」
『いやさ、ずいぶんと足が震えていたもんだからさ』
いつのまにか妖精さんが足元で心配そうにボクを見上げていた。
「……大丈夫だよ。ちょっと緊張してるだけ」
『それならいいが、無理はすんなよ?』
妖精さんを抱き上げて、モチモチな柔らかいほっぺたを弄る。
『や、やめろー!』
イタズラに怒ったのか、ボクの腕から飛び出した妖精さんはそのまま廊下の向こうへ走り去ってしまった。
……………………大丈夫。ボクはちゃんと出来る。初期艦として、艦娘として、立派に人類の為に戦える。
沈んだ友だちの分まで。ボクは頑張らなくちゃいけないんだ。
「……よし」
決意を新たに前を見据える。外の門から純白の軍服に身を包んだ男の人が歩いてくるのが見えた。
ボクはすぐに駆け寄って敬礼する。ボクより頭2つくらい背丈だ。敬礼したまま司令官の顔を見上げ――
「はいどうもはじめまして。提督です」
――めっちゃ顔が怖い人がいた。
「新人なのに新設鎮守府を任されることになりました。なんでや」
どうしよう。何か怒ってるみたいだ。ボク、いきなり何か粗相してしまっただろうか。
いや、そもそもこの人は本当に司令官なのか? ボクが知っている軍人さんはもっとニコヤカで、優しく話しかけてくれる人たちばかりだった。
「それでキミが初期艦の皐月くんだね? 新人どうし仲良くやろう。どうぞよろしく」
もしかして、この人は偽物? 司令官を騙って鎮守府に侵入してきた悪い人?
だとしたら、ボクがどうにかしないといけない。艦娘なんだから、この不審者を何とか撃退しないといけない。
でも今、兵装は工廠に置いてある。何か、変質者を退けられる道具は――
「…………?」
――あった。先週、司令官に先駆けてボクと一緒に着任した憲兵さんが渡してくれた防犯ブザー。
「提督殿からセクハラや何か無理強いをされたらすぐに鳴らしなさい。私がすぐに駆け付けよう」って言ってくれた、あの防犯ブザー。
「お、ちょっとマティーニ」
手に取った防犯ブザーを見て、目の前の不審者が慌てる。
やっぱりコイツは司令官じゃない! 疚しいところがなければこんなに慌てるはずがない!
ボクが! 艦娘として! この鎮守府を守るんだ!!
ブツッ
「変質者ぁぁぁぁぁぁ!!」
「違う! 違います! やめて止まって逃げないでぇ!?」
大声で叫びながら憲兵さんのところまで全力で走る。
見ててね。水無月、長月、文月。みんなの分まで、ボクが立派に艦娘として戦ってみせるよ!
シリアスにするか、コメディにするか。
毎回悩む。
皐月ちゃんの一人称視点
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いる
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いらない
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ツルハシ