新・刀使ノ乱舞   作:エクスカリバー!!

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私は最強の刀使だ


あの人がそう言った


どんな任務も、私なら難なく熟せるとも言った


そして今回も


なのに

 
何故勝てない?




村正VS村正

 

 

ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!

 

月夜の下、鉄同士の激しいぶつかり合いの音が響き合う。

 

練府の刀使、沙耶香の御刀と公安零課の刀鍛冶、村正の剣の剣戟が続いていた。

 

「ほぉ~、小娘のわりには良い腕をしてるな?」

 

「…………」

 

 

「いた、あそこっ!」

 

「彼女が、練府の……」

 

そこに、累の部屋から下りてきた可奈美やセイバーたちが到着した。

 

そして、二人の斬り合いがどうなっているか、ようやく確認出来た。

 

片手で剣を振るい未だに余裕の態度を見せる村正と、自ら無心状態になることで、迅移を持続的に使用出来る固有能力『無念無想』で斬りかかる沙耶香。

 

「実力はほぼ互角か。それにしても、あの迅移……持続的に発動させているのか……!」

 

このままでは、あの男は勝てない!そう思った時、可奈美が

 

「違うよ姫和ちゃん……あの赤髪の人の方が全然強いよ……!」

 

そう、可奈美の言う通りである。一見拮抗しているように見える。いや、()()()()()()()()()

 

村正はまだ本気ではない。沙耶香が、村正を持つ剣士に相応しいか見極めているからだ。だから、まだ本気は出せない。

 

下手をしたら、見極めるどころでは無くなるからだ。

 

「どうした、どうした?その程度か?」

 

「………」

 

無心状態なので、村正の挑発は彼女の耳には届かない。だが、彼の唇の動きから、挑発されていることは分かった。

 

「………!」

 

ならばと、沙耶香は一瞬一歩引き隙をわざとつくる。

 

もちろん村正はそれを見逃さない。距離を開けさせず、剣を振りかぶる。

 

「(ここ………)」

 

ガキンッ!!

 

「おっ?」

 

だが、それを待っていた。振り下ろされた村正の剣を、沙耶香は逆に弾き飛ばした。

 

剣を弾き飛ばされた村正は丸裸同然。沙耶香はがら空きになった村正に刃を向ける。

 

もちろん、背中の刀を抜かせる間など与えない。

 

 

「マズいっ!」

 

村正のピンチに、姫和は直ぐに御刀に手を伸ばそうとしたが、和泉守がそれを止めた。

 

まるで、黙って見ていろと言わんばかりに。

 

 

そうしている間に、沙耶香の峰打ちが村正の胴体に叩き込まれようとした時─────

 

「投影、開始────」

 

ガキンッ!

 

「っ!」

 

沙耶香の刃は、村正には届かなかった。

 

ギリギリ……!

 

「惜しかったな?」

 

村正の手には、いつの間にか双剣が握られており、沙耶香の刃を止めていたのだ。

 

先ほど弾き飛ばしたはずの白い剣と、まるでソレと対を成すような黒い剣の2本が、沙耶香の剣を挟むように止めていた。

 

そして、フンッ!と今度は村正が沙耶香を弾き飛ばした。

 

「…………」

 

写シは消えなかったが、だいぶ体力を失ってしまった。これ以上の戦闘続行は難しいかもしれない。

 

だが、沙耶香は退かない。

 

撤退は任務に入っていないから。

 

「…………」

 

「ほぉ~、まだ()るか?」

 

ならば闘う。任務遂行が私の存在意義なのだから。

 

 

そこから僅か1分近く、2人の剣戟は続いた。

 

 

沙耶香が村正の剣を、また弾き飛ばす。そして───

 

「投影、開始」

 

 

沙耶香が村正の剣を折る。そして───

 

「投影、開始」

 

 

沙耶香が村正の剣を叩っ斬る。そして───

 

「投影、開始」

 

彼の手に、同じ剣がどこからともなく現れる。それも際限なく。

 

 

「なんだ、アイツは………!?」

 

「凄い……マジシャン……じゃないよね?」

 

離れて見ている姫和や可奈美の方が、良いリアクションをする。

 

セイバーたちは、村正のことをどう説明すれば良いか迷っているようだった。

 

零課内でも、村正だけが持つ特殊な能力。果たしてソレをどう説明すれば良いのか分からない。

 

 

そうこうしている間に、沙耶香が18本目の剣を弾き飛ばす。そして今度は、互いに距離を開ける。

 

沙耶香も無理な深追いは得策ではないと判断したのだろ。

 

すると村正が

 

「なるほど……確かにこの腕前なら、村正がお前さんを選ぶ理由はなんとなく分かる。だが─────」

 

ポイッと、村正は片手に残った剣を放り投げる

 

「お前はまだ()()()使()()()()()()()

 

「…………」

 

「確かに刀なんて誰が使おうが、所詮肉切り包丁だ。だが、それで満足するならお前の実力はその程度で終わるし、村正も本当の意味でお前を主と認めない」

 

「…………」

 

「村正は………()()()はそんな事を想って打ってきたんじゃねぇ!」

 

 

「村正……」

 

「セイバー……あの人は……」

 

可奈美には、村正が何を言っているか分からない。

 

分からないが、何か怒っているようで、悲しんでいるようにも見えた。

 

そしてそれは、セイバーも感じ取っている。いや、共感している。彼も、前の主に対して強い想いがあるから。

 

 

「それを今から見せてやる」

 

そして、ようやく村正は背中の刀を抜く。その刀が月の光によって、その姿をその場にいる全員の目に焼き付ける。

 

「それ………」

 

 

「なに……っ!?」

 

「アレって……あの子と同じ?!」

 

 

「そうだ、コイツの銘は『千子村正』、てめぇと同じ村正だ。今から村正の本当の力を見せてやるから、その目ん玉よぉ~く見開いて見とけよ……」

 

チャキ…と静かに構える村正。

 

それに対抗するように沙耶香も構える。

 

そして─────

 

「っ!」

 

「…………」

 

勝負は─────

 

 

スパンッ────!!

 

 

一瞬で終わった。

 

パリンッと沙耶香の写シが消え、膝をつく沙耶香。

 

「どうして……」

 

「動きが単調だ、刀鍛冶に悟られるぐらいな。1から出直せ、たわけ者」

 

沙耶香の固有能力『無念無想』は迅移を持続的に発動出来る一見チートのような能力。だが、自らを無心状態にする必要があるので、どうしても単純な動きになってしまうのだ。

 

「さて……とりあえずこれで任務は────」

 

「まだ………」

 

「なに?」

 

「まだ……終わってない………」

 

ふらりと立ち上がる沙耶香、その眼はまだ妖しい光が灯っていた。

 

「お前、まさか────」

 

ガキンッ!

 

再び迅移で村正に斬り掛かる沙耶香。しかも、写シ無しで。

 

 

「なに、写シ無しで!?」

 

「なるほど……これは予想外だったな……」 

 

和泉守たち零課も、事前調査で沙耶香が無念無想を使える事は把握していた。だが、写シ無しでも使える事まで知らなかった。

 

 

ギリギリ……!

 

「くそっ……お前……!」

 

「任務を……果たす……それが、私の……」

 

「(さすがにこれ以上はこっちの体力が保たん……!)」

 

ただでさえ、()()()()()()()()()あまり長い時間戦えない。

 

「(仕方ない、こうなったら……最悪、腕の1本────)」

 

「待ってっ!」

 

「っ!?」

 

突如、2人の間に無理やり割り込む者が。それは

 

「お前は?!」

 

「………」

 

 

「可奈美っ!?」

 

「アイツ、いつの間に?!」

 

「………可奈美」

 

 

村正と沙耶香の間に割り込み、無理やり2人を引き離す可奈美。そして、村正の代わりに彼女が沙耶香の前に立つ。

 

「何してやがる、美濃関の!お前の出る幕じゃな────」

 

「お願い、ここからは私にやらせて!」

 

「何言って────」

 

「村正」

 

「セイバー……?」

 

いつの間にか隣で、静かに村正を止めるセイバー。そして、可奈美の方へと向き

 

「どうする気だい、可奈美?君が彼女を斬るのかい?」

 

「斬らない!!」

 

「何っ!?」

 

 

「「っ!?」」

 

 

可奈美のその一言に村正だけでなく、和泉守たちも驚きを隠せなかった。

 

ただ1人、セイバーを除いて。

 

 

フッ────

 

「っ!」

 

ガキンッ!

 

そうしている間に、目標を変えた沙耶香が可奈美に斬り掛かる。が、それを受け流す可奈美。

 

「(やっぱり……この子の剣、前の時(御前試合)と違う……)」

 

そして、斬り返しにくる刃を交わし、距離を取る可奈美。

 

「君がその気でも、彼女は本気だよ。それでも斬らないと?」

 

「そうだよ、私は……この子を斬らない!」

 

「……分かった」

 

「おい、セイバーっ!良いのか!?」

 

「責任は僕が持つ……」

 

「ありがとう、セイバー」

 

そう言い、沙耶香の方へと向き刀を構える。

 

そして、再び沙耶香が真っ直ぐ可奈美へと斬り掛かり、それを受け止める。

 

そこから沙耶香は突きを繰り出そうとする。

 

「そんな魂のこもって無い剣じゃ────」

 

だがそれを可奈美は、身をかがめ交わし沙耶香の御刀をガシッと掴み─────

 

「何も、斬れない!!」

 

バッと彼女の手から離し放り投げた。

 

「御刀を!」

 

「なるほど、コレならアイツは今度こそ本当に戦えない!」

 

そう、幾ら写シ無しでも迅移が使えても、それは御刀があっての恩恵。その御刀を手放せば、その恩恵が無くなり、今度こそ沙耶香は何も出来なくなるのだ。

 

「あ………」

 

沙耶香さえも予想外の行動に、唖然としてしまう。そんな彼女に可奈美は笑顔で話しかけた。

 

「こんばんは、覚えてるかな?御前試合の1回戦で戦った、『衛藤可奈美』。あの試合、スッゴく楽しかったよ。沙耶香ちゃんの技、ずっとドキドキしっぱなしだったよ!」

 

「………」

 

さっきまで斬り合いをしていた相手に、何を話しているのか。沙耶香にはまるで分からない。

 

()()()()()()()()()()

 

今はなんとなく彼女の言葉がよく聞こえる。心に届く。

 

そして、何故かその心が揺れるのを感じる。

 

これは、高津学長に初めて褒められた時に似ていた。

 

「(これは………)」

 

「ねぇ、良かったらまた試合してくれないかな?」

 

そう言って、沙耶香に手を伸ばす。

 

そして沙耶香はその手をジッと見つめ、僅かにその手に自分の手を伸ばそうとした。だが、上手く彼女の手まで動けない。すると

 

「なに、モタついてやがる」

 

と、村正が沙耶香の手を取り、可奈美の手に握らせる。

 

すると可奈美はしっかり彼女の手を掴み

 

「約束だよ!」

 

「……!」

 

可奈美のその笑顔と、村正の手の温もり。今まで感じたことの無い感覚に、沙耶香が戸惑ってしまうが、同時に心地良く感じていた。

 

 

「何なんだ、アイツは……」

 

「こうなると分かっていたのか、セイバー?」

 

「僕はそこまで万能じゃないよ……でも……」

 

セイバーの見つめる先では、可奈美が先ほどの村正と沙耶香との斬り合いの感想や、彼女の能力について興奮気味で話していた。

 

「可奈美なら、出来ると……信じてただけだよ」

 

 

「えっと……ど、どういう状況なの……これ?」

 

そこに、ようやく降りてきた累。

 

てっきりまだ、襲撃者との戦闘が行われていると思っていたが、何故かその襲撃者と握手をしながら楽しそうに(可奈美のみ)会話をしていた。

 

そこで和泉守が事の経緯を説明し、増援が来る前にこのマンションから離れる事になった。

 

 

 

それから数分後

 

増援が来る前に、可奈美たちは累の車に乗り込み、マンションから離れた。

 

その途中、公園の前に停まり、そこで村正と沙耶香が降りた。

 

「ごめんなさいね、こんなところで。あなたにはずっと守って貰ってたのに」

 

「別に構わねぇよ。セイバー、俺はコイツを近くの交番まで届ける。その後、また連絡する」

 

「ああ、頼むよ」

 

「えっと、ありがとうございました」

 

助手席の窓から顔をだけを覗かせるセイバー。とその後ろの窓から顔だけ出し、村正に頭を下げる可奈美。姫和も車内から彼に頭を下げていた。

 

「それが()の任務だからな。それと……」

 

村正は懐から、小さな小箱を取り出し、可奈美に手渡した。

 

「小腹用に作ってたヤツだ。道中にでも食っとけ」

 

「ありがとうございます!」

 

「それじゃ、行こっか。2人とも、気を付けてね」

 

「またね、沙耶香ちゃん。村正さんも」

 

「おう、お前らも達者でな」

 

「………」

 

窓が閉まり走り出す車、それを見送った2人は、車が見えなくなった後

 

「それじゃ、交番まで送る。それと……」

 

村正は車内でずっと没収していた沙耶香の御刀を彼女に返した。

 

「………いいの?」

 

「別に抜いても構わんぞ。()に勝てるならな」

 

そう言って彼女に背を向けて歩き出す村正。

 

隙だらけの背中、今なら勝てる。

 

いつもなら直ぐに抜いて筈の御刀が抜けない。

 

沙耶香は村正の背中を見つめながら、彼の後ろを着いて行こうとした時

 

くぅ~……

 

「…………」

 

「…………」

 

可愛い腹の虫の鳴き声。村正の腹の虫はこんな可愛い鳴き声はしない。となると

 

「………腹、減ったのか」

 

「…………うん」

 

「ハァ~……分かった、来い」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

累の車

 

 

村正と沙耶香と別れ少ししてから、車を国道に向かわせながら、累はセイバーの今後の方針について聞いていた。

 

とりあえず、セイバーたちはチャット相手に指定された合流地点に向かう事になった。それだけ聞くと、累もそれ以上は聞かなかった。

 

もちろん、審神者にも今までの経緯は報告済みだ。彼も念の為に、他のメンバーも向かわせると言っていた。

 

「ハァ~、それにしても、今頃私のマンションは大変だろうな~。この車も照合済みだろうし……」

 

当然だ。夜中とは言え、アレだけ騒いだら他の住人が通報しているだろう。

 

今頃マンションは警察でいっぱいになっている頃だ。

 

それだけでなく、あちこち検問所を設け、この車を血眼になって探しているだろう。

 

「って、言ってるそばから検問っ!」

 

累たちの目の前に、検問所が見えてきた。そこには既に幾つか他の車が止まっており、多くの警官が車内を調べられていた。

 

「あちゃ~、ごめんね。どうやらここまで────」

 

「いえ、このまま検問所に向かって下さい」

 

「えっ!?でも、このままじゃ検問所に……」

 

「いいから、セイバーの言う通りにしてくれ」

 

和泉守にも言われ、累は不安になりながらも、検問所へと向かって、車の列に並んだ。

 

それからたった数分だけだったが、可奈美や姫和には何時間かのように長く感じた。念の為、制服の上にフード付きジャンパーを着て、フードを深く被った。

 

 

そして、いよいよ累の車の番となった。

 

警官の1人が累の車のナンバーを照合し、他の警官の1人が、コンコンと運転席の窓を叩き、累は窓を開ける。

 

「は、はい……」

 

「申し訳ありません、とある事件の被疑者を捜索していまして。車内を改めても宜しいでしょうか?」

 

「え、えっと……」

 

チラリと、隣のセイバーにどうすれば良いかと、目を向ける。すると

 

「おい、待て。この車は……」

 

ナンバーを照合していた警官が、待ったをかけた。そして、ヒソヒソとその警官に耳打ちすると

 

「こ、これは大変失礼しました!()()()()()()()()()!」

 

そう言い、警官2人は累に敬礼をした。

 

「えっ?」

 

「「(っ!?)」」

 

累だけでない、後ろの座席に座っていた可奈美たちも驚いていた。任務とは、一体何の事かと?

 

そして、セイバーが一度車外に出て、警官に()()()()を見せる。

 

「そちらも、検問ご苦労さまです。引き続き、検問の方を宜しくお願いします」

 

「「はっ!」」

 

そう言い、セイバーが車内に戻ると検問所の門が開かれ、あっさり通してくれた。

 

その間、ずっとポカンとしている何も知らない女性陣。

 

そんな彼女たちの心境を知ってか知らずか、セイバーは累に、国道近くに向かうよう指示をした。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

村正&沙耶香Side

 

 

セイバーたち一行が検問所に到着した頃、沙耶香は公園内のベンチに1人、ちょこんと座っていた。

 

そこに、村正が両手にペットボトルのお茶を1つずつ持ち、彼女の元にやって来て隣に座る。

 

「ほら、お茶」

 

「………」

 

近くの自販機で買ってきたと思われるお茶を黙って受け取る沙耶香。その様子を見ながら

 

「(コイツ、ホントに感情を感じさせないな……)なぁ、お前家族は?」

 

「………いない。孤児、だから……」

 

「そっか、それは悪かった……」

 

「あなたは……?」

 

「俺も、生みの親はとっくの昔に死んじまってる。家族って、訳じゃないが。家族並に大切なヤツらはいる」

 

「………」

 

「ところでお前、甘いもんは好きか?」

 

「甘いもの……!」

 

無表情だった沙耶香の顔が、パァーと明るくなった。どうやら大好物のようだ。

 

「なんだ、そんな顔もするんだな。なら……」

 

ゴソゴソ…と懐からプラスチック容器を取り出し、中を開けると大福が2つ入っていた。

 

「アイツらの差し入れのあまりだ。食うか?」

 

「食べる……」

 

そう言い、村正から大福を両手で受け取り、モグモグと食べる。その様子はまるで、リスのような小動物に見えた。

 

「(可愛いな……)そう慌てるな、ゆっくり食べろよ」

 

「モグモグ……うん……モグモグ……」

 

「ほら、口元が汚れてるぞ」

 

そして、持っていた手ぬぐいで沙耶香の口元に着いた粉を拭き取った。

 

「(やれやれ……()はコイツの親かよ……)」

 

「……」

 

手ぬぐいで口元を拭き取られながら、沙耶香は村正の自分を見つめる目をジッと見ていた。

 

彼女は孤児だった。物心付いた時から孤児院にいて、中学にあがる前にあった健康診断で御刀への高い適性があることが分かった。

 

それをどこかで聞いた練府の高津学長が直々に彼女を引き取り練府に入学させた。

 

それからずっと、刀使としての訓練を続けていたので、家族の温もりと言うのは知らない。

 

だが、村正のその目や彼といるこのひとときに、それに近い何かを感じていた。

 

「ん、どうした?」

 

「………何でもない」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

逃亡組Side

 

 

国道近くの隅、累はそこで車を停め、可奈美たちが下車下。

 

「累さん、色々とありがとうございました」

 

「ううん、寧ろここまでしか出来なくてごめんね?これから大変だろうけど頑張ってね」

 

「はい」

 

そして、次にセイバーたちの方へと向き

 

「この子たちをお願いします」

 

「もちろん」

 

「心配すんなよ。それと、あんたのスマホにマップを転送した。そのルートを辿れば検問には引っかからないぜ」

 

「色々ありがとう。それじゃあ」

 

そして、累は車をUターンさせ、彼女たちの元から走り去っていった。

 

車が見えなくなった後、姫和が今後どうやって移動するか聞くと

 

「それなら大丈夫。もう手配してある」

 

そう言って、セイバーが指差す方向には

 

「アレは……高速バス?」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

村正&沙耶香Side

 

 

一方その頃、とある交番近くまで村正は沙耶香を送り届けていた。

 

「あそこの交番に行けば、管理局に連絡が取れるだろう……」

 

「………」

 

「悪いが俺は一緒には行けない。別に俺たちのことを話しても構わないが、どこの誰か特定出来るか保障はしないぞ」

 

「………」

 

「………だからさ……手を、離してくれないか?」

 

チラリと自分の左手を見る。村正の左手は沙耶香の右手がしっかり握られていた。

 

別に拘束するためのものでは無い。どちらかと言えば、子供が親の手を握る方に近い。

 

「えっとな……~~~!()はまだ仕事があるから、行かないとダメなんだよ。お前だって、管理局に戻らないとマズいだろう?」

 

「………」

 

やはり手を離してくれない。何も喋らずずっと村正の手を握り、彼のことをずっと見ている。

 

刀剣であった村正に、年頃の少女の対処方法など知るはずも無かった。

 

「………名前」

 

「はっ?」

 

「名前………」

 

やっと喋り出した沙耶香。どうやら村正の名前を聞きたいようだった。

 

「あ~~……悪ぃな、それは言えねぇ。とりあえず上の人間に聞かれたら適当に言っといてくれ」

 

「………じゃあ、お兄ちゃん」

 

「………は?」

 

今なんて、と聞こうとしたが沙耶香はその前に手を離し、交番へと向かって行った。

 

村正はその後ろ姿をポカンと眺めていた。

 

「………お兄ちゃんって……()そんな若造じゃねぇのに……」

 

しかし、やはり照れくさいのか、頭をボリボリとかきながらその場を後にした。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

数時間後 とある喫茶店

 

 

「う~ん……このコーヒーと言う飲み物も、中々良いな……」

 

「モグモグ……俺っちも牛乳たっぷり入れたヤツなら気に入ってるぜ。眠気覚ましにちょうど良いからな」

 

窓際の席に男2人組がモーニングを食べていた。

 

1人は中学生ぐらいの少年で、もう1人はがたいの良い青年。その2人の隣には、長さは違うが、何か細長いものを包んだと思われる風呂敷が置いてあった。

 

「ふぅ~、それにしてもアイツらホントに何してんだ?」

 

目玉焼きを飲み込みながら、双眼鏡で近くの浜辺にいる者達を見る少年。青年も釣られるように手元の双眼鏡を手に取る。

 

「う~ん……自分には、普通に遊んでいるようにしか見えないが……」

 

彼らが見ている先では、殆ど人がいない浜辺でビーチバレーをしている少女と、パラソルの下で寝ている少女がいた。

 

「ホントにアイツらが()()()()()()()()()なんだよな?」

 

「主からの情報では、そのように……」 

 

ふ~ん、とお代わりで頼んだ牛乳を一口飲む少年こと公安零課の『薬研藤四郎』。

 

「しかし、やはりどう見ても遊んでいるようにしか……」

 

そう言い、不思議がる青年、公安零課の『蜻蛉切』。

 

「しっかし、あの金髪の姉ちゃん、胸デカいな」

 

「///や、薬研どのっ!任務中にそのようなことを……!」

 

「でも蜻蛉切だって分かるだろう。あの姉ちゃん、年の割には良いもん持ってるって。しかし……何食ったらあんなにデカくなるんだ?」

 

薬研どのっ!と蜻蛉切は顔を赤めながら薬研から双眼鏡を奪う蜻蛉切。こんながたいの持ち主だが、女性にはめっぽう弱いのだ。

 

「別に良いだろ?折角人の体を得たんだから、これくらい」

 

「それはそうですが……」

 

「なのに……なんで蜻蛉切とかはデカくて俺はこんな……」

 

「気をしっかり、薬研どの。きっと、いつか、薬研どのもぐんぐん伸びていくでしょう!」

 

「うるせぇ、どうせ……どうせ……俺はいつまでもチビだよチクショー!!」

 

ズゥーンと自身の背丈のことで落ち込み、今ばかりは、理不尽な世界を恨む薬研であった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

一方、その浜辺では

 

 

「ヘーイッ!」

 

『ねねっ!』

 

ビーチバレーを楽しむ長船女学院の『古波蔵エレン』と荒魂の『ねね』。

 

「う~ん……日差しは上々……」

 

離れた場所で、パラソルの下で日差しを浴びる長船女学院の『益子薫』。優雅に日差しを全身に浴びながら

 

「へ、ヘックションッ!

 

盛大にくしゃみをした。それもそのはず、海にはまだ季節が早すぎる。ちょっと風が吹いただけで、全身がブルブルと震える。

 

あ~、もうちょっと後に来れば良かった……」

 

「オリャー!」

 

ピューン……ドガッ!

 

「フガッ!?」

 

そこに、エレンが打ったボールが薫を直撃し、地面に転がり込んだ。

 

「いてて……」

 

「ハハハ……ゴメンなさいデース。薫も一緒にやりまセンカ?」

 

『ねね~!』

 

「謹んで遠慮します」

 

そう言いながら、サングラスをかけ直し、再び寝転がら薫。そこに、エレンのスマホに着信が入る。

 

「ハイハーイ!あ、学長!」

 

相手は彼女たちの学長、真庭学長であった。どうやら任務のようだが、薫の方が

 

「知らん、こっちは休暇中だ。って、言っとけ」

 

「『知らん、こっちは休暇中だ』、だそうデース」

 

そう言い、この後の展開を読み、薫の耳元にスマホを近付けると

 

『オイコラ薫ぅぅーー!、ふざけんなコラァァーーーッ!!』

 

「うぎゃっ?!」

 

スマホからの怒鳴り声で、再び地面に転がる薫。

 

「いやいや、そうは言いますがね真庭学長様。オレ、今御刀が無い。宅配便で学園に送ったからな」

 

『それは問題ない。先ほど送り返した』

 

「へっ?」

 

その直後────

 

 

ドオォォーーーーー!!!!

 

 

大きな着地音と土煙で浜辺を揺るがした。

 

その正体は小型ロケットが彼女たちの目の前に突っ込んで来たからだ。しかもご丁寧に薫の御刀『寧々綺斬丸』が括り付けてあった。

 

「Wow……」

 

「税金の無駄づかいだろ、これ……」

 

『ねね……』

 

『では任務を説明する──────』

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

喫茶店

 

 

「な、なんと………」

 

ポタポタ…

 

「税金の無駄遣いだろ、アレ……」

 

ダラダラ…

 

「あの、お客様方……飲み物がこぼれてますよ?」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

逃亡組Side

 

 

セイバーが手配した高速バスに乗った一行は、少し仮眠を取ってから、セイバーたちの話になった。

 

高速バス内は、運転手除いてセイバーたち一行しか乗っていない。他の座席にはお客は誰もいなかった。

 

普通ならこんな高速バスは目立ってしまうかもしれないが、外からこのバス内はマジックミラーで見えないようになっているからだ。

 

「さてと……まずは何を話そうか」

 

「まずは、お前たちが本当に公安警察かどうかだ」

 

姫和にそう言われ、セイバーと和泉守はそれぞれ懐から黒塗りの警察手帳を出し、2人に見せた。

 

手帳には、それぞれ証明写真と警察の紋章。氏名、更に所属が書いてあった。

 

「すごい、本物だよ」

 

「確かに……公安零課とあるな……」

 

刀使も一応は国家公務員になる。そのため警察手帳には見慣れているので、本物か偽物かは判別出来る。

 

「あれ、けど名前が『セイバー』になってる……」

 

「こっちは『和泉守兼定』と……」

 

こんな名前の人物などいないだろう。だが

 

「残念ながら、それが俺たちの本名だ。もちろん偽名じゃないぜ」

 

「僕らの素性についてだが、申し訳ないがまだ話せない。けど、僕らの組織については少し話せるよ」

 

「えっと、じゃあ『公安』ってなに?」

 

「「………」」

 

「確かにあまり聞かないかもしれないけど……可奈美、君ちゃんと国家公務員だよね?」

 

「あははは……」

 

「えっとね、公安警察は警察庁と都道府県警察の公安部門を指す俗称で、正式には警備警察の一部門なんだ。主に国家体制を脅かす事案に対応する。つまり警察の中でも特殊な警察組織ってこと」

 

これで姫和の中の謎が1つ解けた。

 

今までのスムーズに逃亡出来ているのは、彼らが公安組織であったから、事前に公安傘下の施設に根回しをしていたからだと。

 

今も、この高速バスも彼ら公安が用意した特別なバスなのだと。

 

「ただし、僕らの『公安零課』は同じ公安組織でも知る者は殆どいない。()()()()に対して創設された存在しない公安組織……」

 

「だから、『零課』って名前なのさ」

 

「そのある事案とはなんだ?」

 

「1つは、君たちと同じように荒魂に関する事件担当。僕らは君たち刀使のように、荒魂を倒せる力があるからね。それと、荒魂を使って犯罪を犯そうとする者達を取り締まること。それと……」

 

「悪ぃが、ここからは先は俺たちの素性に関することだから、話せない」

 

「………」

 

 

そうして、彼らの話は一度終わり、バスの旅が続いた。結局は感じんな部分は聞けなかった。

 

 

数時間後…

 

 

目的地近くのパーキングエリアにバスが停まり、可奈美たちはそこで降りた。

 

ん~…!と座りっぱなしで硬くなった体を伸ばし目的地まで徒歩で移動することになった。

 

その前に姫和が

 

「可奈美、やはりここで別れよう」

 

「姫和ちゃん?」

 

「「………」」

 

「ここからは先は……無理だ。昨夜のことでようやく分かった。お前の剣と私の剣は別物だ。私は“斬る剣”、お前は“守る剣”。セイバーたちは両方を兼ね備えているように見えるが、どちらかと言えば“斬る剣”に近い……ここからは先は“斬る剣”しか必要無い」

 

「勝手に決めないでよ!セイバーたちだって私が一緒に来ることを許してくれたじゃん!」

 

「それはお前がこの件に深く関わってしまったからだ。だからお前を守るために同行を許した、そうだろう?」

 

「……まぁ、それに近いね」

 

「ならば、無理に行動を共にする必要は無い。この間の公安の宿泊施設のような所に匿えば良いだけだ。あのような施設は1つだけでは無いだろう?」

 

「十条の言う通り、少し離れたいるが一カ所同じようながある」

 

「ならば今すぐそこへ行け。そこでの一件が終わるまで匿って貰え」

 

「どうしてそんなこというの!」

 

短い間だったが、ここまでずっとみんなで頑張って来たのに、何故そんなことを言われるのか。可奈美にはまるで分からなかった。

 

「可奈美、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ!……写シ無しで……?」

 

「もしくは荒魂化した人を……」

 

最近では報告は無くなったが、嘗ては荒魂に襲われ、その身に取り込まれ荒魂化した人間はそう珍しく無かった。

 

そして当時の刀使たちは、その()人間だった荒魂を斬っていた。

 

「荒魂化した人はもはや人ではない。記憶が残り、多少話せるものもいるが、結局は人間じゃ無い。御刀で斬って祓う、それしかない。私たちは祖先たちの業を背負い、人々を守る巫女なんだ」

 

「………」

 

座学が得意ではない可奈美も、その事は学園で習った記憶はある。その時は深く考えていなかった。

 

「私がこれからするのは荒魂退治だ。だが限りなく人に近い荒魂だ。そして、それを阻む者達も容赦なく斬る。それも私怨に近い動機でだ……だがお前には─────」

 

「可奈美には斬れないってことかい?」

 

「セイバー……」

 

姫和の言葉に、セイバーが横やりを入れる。それからセイバーは静かに語った。

 

「十条さん、君の言うことは確かだ。可奈美は優しい、彼女の剣は確かに“守る剣”と呼ぶに相応しい」

 

「そうだ、だからこそ、ここから先はそれが邪魔に────」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「何故って……」

 

「確かに、“守ること”と“斬ること”では明らかに“守ること”の方が難しい。何かを守ることは自らを危険にさらすことになる。もしかすれば、命を落とすことも」

 

「「………」」

 

「だが、決して無駄じゃ無い。何かを守ることは、何かを()()()()ことだと、僕は信じてる」

 

「何かを……」

 

「諦めないこと……」

 

「“斬ること”は確かに簡単だ。だがそれは()()()()()()()()と同じなんだよ。そしてそれは、()()()()()()()()()()。十条さん、君はずいぶん強く語るが、結局逃げてるだけだ」

 

「なに……っ!」

 

セイバーのその言葉に、今にも彼に殴りかかりそうに、なるが、まだ耐えている。

 

だがいつまで保つか、分からない。和泉守はヒヤヒヤしながら、見守っていた。

 

「いや、現実逃避と言うべきか……君は刀使の()()()()()から目を背けてるだけだ」

 

「本来の……役目だと?」

 

「刀使は『祖先たちの業を背負い、人々を守る巫女』だと君は言ったが、それは違う。それは君の行動を正当化させるための言い訳に過ぎない。刀使は……人々を守るだけじゃない、荒魂たちを救う存在でもある」

 

「荒魂たちを……救う、だと?」

 

「荒魂だって、好きで暴れるわけじゃない。彼らはただ、誰かに何かを伝えたいだけなんだよ」

 

「何かを……伝える?」

 

「大半は人間への憎しみや怒りだろう。けど、中には寂しさや悲しさもあるんだよ。それらを受け止め、彼ら荒魂に人殺しをさせず、守り救う。そしてその想いを忘れず次に繋げる。それが刀使のあるべき姿だ」

 

「………」

 

可奈美はセイバーの言葉に感銘を受けていた。彼は刀使では無いのに、自分たち以上に刀使のことを想い、理解している。だが、

 

「お前もたいそう言うが、そういうお前は人を斬った事があるのか?」

 

「………ある。かつて……何十、何百と、この手で斬り捨てた(殺した)ことがある……」

 

「えっ……!?」

 

流石にこの返答は姫和も予想外だった。そして可奈美も言葉を無くしていた。セイバーは確かに言った、殺したと。

 

そして今度は横から和泉守が

 

「セイバーほどじゃねぇが、俺もだぜ。俺もずいぶん人を斬ってた時期があった」

 

「「………」」

 

ここに来ての2人の衝撃の事実。言葉を失った2人に和泉守が

 

「何かを斬るってことは、その命を、未来を奪うことだ。お前らにその覚悟があるか?」

 

「そ、それは……」

 

「そもそも覚悟ってどういうものか、よく考えろ。ただの言葉だけじゃないんだよ、『覚悟』は。今のお前の覚悟は言葉だけだ」

 

 

それからセイバーと和泉守は、飲み物を買いに行くと言って、その場を離れた。

 

残された2人は、とりあえず近くのベンチに座り、しばらく考えていた。

 

可奈美はこれからホントに彼らに着いて行くのか。

 

姫和は本当の覚悟とは何かを

 

 

「……ごめん、和泉守」 

 

「何でお前が謝るんだよ?」

 

彼女たちから離れた場所で、様子を眺めるセイバーと和泉守。

 

「いや……君にも辛い役目を……それに嫌なことも……」

 

「俺は親友だけに重荷を背負わせるような奴じゃねぇよ。それにしても珍しいな、お前があそこまで言うなんて」

 

「………あのふたりを()()のようにしたくなかっただけだよ」

 

セイバーの脳内に、とある王の姿が映る。

 

可奈美たちと変わらない可憐な少女が、人々の想いを背負い、輝く王になり、完璧な王となり、全てを失った。

 

そして、彼女はセイバーを手放した。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

鎌倉 練府女学院 学長室

 

 

「なんたる失態だっ!!」

 

今にも手を出しそうなくらいに怒りを見せ、怒号をあげる高津学長。

 

その目の前には沙耶香が。

 

村正と別れてから、沙耶香は交番から所轄に連絡をとり、つい先ほど戻って来たばかりだ。

 

管理局に報告を終えた後、高津学長に連れられ、現在に至る。

 

「申し訳………ありません………」

 

「敵の所在をようやく突き止め、奇襲をかけた筈が逆に奇襲を受け返り討ちに合い、あまつさえノコノコ戻って来るとは……どうやら貴女を過大評価し過ぎてたみたいね?」

 

ジロリと沙耶香を睨みつける高津学長。

 

彼女に取って御前試合など遊びの範疇。任務での実績や成功率の方が重要。

 

それだけが高津学長を満足させる。

 

「そのために貴女を育てたの、貴女の価値はそれだけなの!」

 

そう言い、沙耶香の御刀を抜き彼女に向ける。

 

「少しばかり、過保護に育て過ぎたかしらね……」

 

コンコン…

 

「開いてます」

 

そこにノック音がなり、高津学長は御刀を納めた。

 

そして入ってきたのは、親衛隊の夜見だった。

 

案外大した人物では無かったので、無視すれば良かったと思う高津学長。しかし次の彼女の要件で、その考えは改めることになった。

 

「紫様がお呼びです。直ぐに来るようにと……」

 

 

 

刀剣類管理局本部 本部長室

 

 

「練府学長、私は追撃を命じた覚えは無いはずだが……?」

 

「それは……」

 

愛しの紫に任務失敗の件で呼び出されたと思った高津学長だったが、どうやら紫の命令無しで動いたこと自体で呼び出されたようだったもの

 

「とある情報から、反逆者たちの居所を掴み、紫様の手を煩わせまいと────」

 

「それを判断するのはお前ではない」

 

高津学長の言葉をピシャリと止める紫。

 

「勝手な判断はするな」

 

「ですが……!わ、私は許せないのです。紫様に刃を向け、手の届くところでのうのうとしている反逆者たちを!何故、私にお任せして下さらないのです!?」

 

私なら貴女の役に立つ。

 

刀剣類管理局や親衛隊、この世の誰よりも。

 

「なのに……!」

 

「高津学長、お言葉が過ぎます」

 

「っ!貴様は黙っていろ!」

 

「雪那」

 

「は、はい!」

 

ようやく分かってくれたのか。そう期待した高津学長だが、紫から発せられたのは

 

「貴様は貴様の仕事をしろ。もういい、下がれ」

 

「は……はい……」

 

意気消沈とし、高津学長は渋々部屋を出て行った。

 

残された夜見は引き続き紫の警護任務に戻ろうとしたが

 

「夜見、お前には別の任務を与える」

 

「はっ」

 

「この者たちを連れ、ある場所へ向かえ」

 

そう言い、部屋の扉が開かれそこにいたのは

 

「紫様……この者たちは……」

 

()の協力者だ……」

 

 

『グルル………』

 

 

異様な雰囲気を漂わせる、異形の鬼剣士だった。

 

 

 

 




刀剣類管理局本部 食堂


ガヤガヤ……

連日忙しい管理局本部。その食堂は常に人がいっぱいだった。時間通りに食事を取れない者達が多いのだ。

「♪~♪~……」

その中で、鼻歌を歌いながら納豆定食の納豆をかき混ぜる鶴丸。

「調子が良さそうだな」

そこに1人の人物が鶴丸の前の席に座る。

「お、戻ったか村正」

「今から昼食か?」

「おう、俺の監視対象のお嬢ちゃんはずっとここにいるからな。他のヤツらより楽だぜ。その分驚きが無くて退屈だけど……」

「お前には丁度いいじゃないか」

「それで、練府のお嬢ちゃんはどした?」

「練府学長のお叱りを受けて、反省中のようだ。ったく、たかが任務失敗しただけで、メシ抜きとかふざけてんのか。1回の失敗でそこまでするのかよ練府のババァは」

「……驚いたぜ、お前がそこまで言うなんて……」

「別にいいだろう………ところで一文字はどうした?」

「ついに、親衛隊に動きがあるみたいだからな。それと主から。こっちもそろそろ本格的に動く準備をしろ、だと」

「そうか……いよいよ……」

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