新・刀使ノ乱舞   作:エクスカリバー!!

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「ほら、みほのちゃん、こっちこっち!」

「まってよぉ~、ちぃねぇ~!」

とある公園。まだ幼い少女たちが鬼ごっこをして遊んでいた。

1人は赤みがかった黒髪の少女。もう1人は彼女より少し背が高い少女。

キャッキャ!はしゃいでいた時

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」

そこに2人より年上、中学生ぐらいの少女が2人に声をかけた。

『みほの』と呼ばれた少女は、すぐに『ちぃねぇ』と呼ぶ少女の背中へと隠れた。

「あ、みほのちゃん!」

「ふふふ、良いのよ。こちらこそ急に声をかけてごめんなさいね?私は『冨田 蔦子』って言うの」

「はじめまして、わたしは『せとうち ちえ』って、いいます」

「あさくら……『あさくら みほの』って、いいます……」

「宜しくね、ちえちゃん、みほのちゃん。実は2人にお願いがあるの」

「「おねがい?」」

「そう、実はこの子も一緒に遊んでもいいかしら?」

そして、蔦子は自分の背中にピッタリ張り付いている少年を2人の前に来させる。歳は2人の少女の中間ぐらいか?

「ほら、お名前は?」

蔦子に言われ、少年は2人に名乗ろうとするが、「えっと……」と言葉を詰まらせ、恥ずかしそうに俯く。

「ごめんなさいね……この子、けっこう人見知り激しくて……」

蔦子が苦笑いしながら謝ると、ずっと背中に隠れていた『みほの』が少年の前に来て彼に手を差し伸べる。

「わたし、『あさくら みほの』っていうの。きみは?」

すると、少年はゆっくり顔を上げて

「ぎ……ぎゆう……『とみた ぎゆう』……」

そして、『ぎゆう』は『みほの』と『ちえ』に恥ずかしそうに口を開く。

「えっと……ぼ、ぼくも……いっしょに……あそんでも、いい……?」

「……うん!それじゃあ、おにごっこしよ!」

「それじゃあ、あっちでジャンケンしよっか!」

「……うん!」

そして『みほの』は恥ずかしそうにする『ぎゆう』の手を取り、彼を引っ張る。『ちえ』もそんな彼女に続いて、『ぎゆう』のもう一方の手を掴む。

すると『ぎゆう』の表情が明るくなり、2人の少女と共に遊び始めた。

その様子を、蔦子が一番嬉しそうに眺めていた。

そして3人は日が暮れるギリギリまで公園で遊んでいた。
 
 


天狗と日輪刀

 

 

「あれ?」

 

ふと気が付くと、美炎は1人でいつも遊んでいたあの公園にいた。

 

いつもと変わらない公園。

 

ただ違和感があるとすれば、美炎ただ1人であること。

 

美炎はいつも通り、さっきまで知恵と義勇と一緒と一緒に遊んでいたはず。

 

なのに、いつの間にか彼女1人。

 

「あれ……ちぃねぇ?……ぎゆうくん?」

 

キョロキョロ見回しても誰もいない。

 

いや、()()()()()()()()()()()()()

 

まるで世界に自分以外、誰もいなくなってしまったかのように。

 

「みほのちゃん」

 

そこに、背後から声が聞こえた。

 

振り返るとそこには義勇が立っていた。

 

いつもと変わらない、ヒーローのプリントされた服を着ている幼馴染みの少年。

 

「あ、ぎゆうくん!どこいってたの?ねぇ、ちぃねぇどこいったのかな?いまはちぃねぇが、おにさんやくなのに────」

 

「ごめん、みほのちゃん」

 

「……ぎゆうくん?」

 

「ぼく、もうみほのちゃんとあそべない……」

 

「えっ、どういうこと……?」

 

「ぼくは……もう、みほのちゃんやちぃねぇといっしょに、いられない」

 

「……なんで……なんでそんなこと言うの!やっと……やっと会えたのに!!」

 

美炎は義勇に手を伸ばそうとするが、一向に届かない。

 

いや、彼との距離が縮まらない。むしろ段々と離れていっている。

 

「ぼくは……()は、お前たちとは違う」

 

「義勇くん……?」

 

「俺は、お前たちの知ってる俺じゃない」

 

そう言って、義勇は反羽織の姿で、片手に刀を握っていた。

 

「もう、お前たちとはいられない」

 

「待って………義勇くん………」

 

「さようなら、美炎」

 

「義勇くんっ!!」

 

そう言い、義勇は何処かへ行こうと足を進める。

 

 

直ぐに彼を捕まえないと。でないと、もう二度と会えない。そう思い、美炎は彼の元へと走る。

 

 

 

だか、やはり彼との距離は離れていくばかり。

 

 

 

 

幾ら走っても、幾ら呼んでも、義勇の足は止まらない。

 

 

 

 

 

そして、段々と彼の姿が見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

「いやだ………ダメ………行かないで、義勇くん!!待って!………待ってよ、義勇くんっ!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「義勇くんっ!!」

 

バッ!

 

手を伸ばして、布団から起き上がり目を覚ます美炎。

 

「今の……夢……?」

 

ハァ…ハァ…と、汗をかきながら周りを見渡す。

 

暗い部屋の中、美炎の他に知恵や清香、ミルヤと呼吹。

 

皆それぞれ布団でグッスリ寝ていた。

 

時計を見るとまだ午前2時過ぎ。

 

「ここは……そっか、結局青砥館に泊まったんだっけ……」

 

そう、調査隊一行は青砥館店主の陽司と娘の陽菜に押し切られ、一泊する事になった。

 

そしてここは、青砥館内にある、調査隊一行のために用意された和室。彼女たちはそこで集まって休んでいた。

 

ようやく記憶が戻った美炎は、額の汗を拭う。

 

「……すごい……ビッショリ……」

 

額だけでない、体中汗でグッショリだった。布団も彼女の汗で濡れていた。

 

「とりあえず……着替えよう……」

 

美炎たちは、陽司たちが用意してくれた寝間着を着ていた。しかし美炎のは彼女の汗で濡れてとても着れたものではない。

 

とりあえず制服のシャツでも着ようか、そう思い着替えようとした時

 

「美炎ちゃん……どうしたの?」

 

「あ、ちぃ姉……」

 

どうやら起こしてしまったのか、知恵が半分目を覚ます。

 

しかし、美炎の体が汗で濡れていたことに気付く。

 

「どうしたの、いやな夢でも見たの?」

 

「うん……ちょっとね……」

 

苦笑いする美炎。その表情から何か察した知恵は、自分の布団にもう1人分のスペースを空ける。

 

「ほら、おいで、美炎ちゃん」

 

「え、ちぃ姉?」

 

「小さい頃はたまに皆と一緒のお布団で寝てたでしょ?」

 

「いや、それは小っちゃい頃だったから────」

 

 

 

「それじゃあ、おやすみ美炎ちゃん」

 

「うん……おやすみ……」

 

結局知恵に押し切られ、彼女と同じ布団で寝ることに。

 

そして何故か美炎は知恵に抱き枕のように抱きかかえられ、頭を撫でられていた。

 

まるで、泣きじゃくる子供をなだめるように。

 

「大丈夫よ、美炎ちゃん。怖いものは何も無い。わたしやみんながいるから……大丈夫よ」

 

「……うん、ありがとう……ちぃ姉……」

 

そして、再び美炎は目を閉じ、静かに眠った。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「ありがとうございました、青砥陽司さん。昨日(さくじつ)は泊めていただいただけでなく、私たちの御刀の点検までなさってくださって……」

 

店の会計で話すミルヤと青砥館店主。

 

昨日、彼ら親子になんやかんやで押し切られ泊まることになり、更に食事に御刀の点検も嫌な顔1つせずしてくれたのだ。

 

その礼として、調査隊一行は朝から店の手伝いを精一杯行った(呼吹は最後まで渋ったが)。

 

「こっちだって、1年で1番忙しい盛りを手伝ってくれたからな、お相子様だよ。それと、『陽司さん』でいいんだぜ。そういやお前さん、仲間のこともフルネームで呼んでなかったっけ?」

 

「馴れ合うことは、役目ではありませんから……」

 

役目、そう言うミルヤに、陽司はやれやれだな…と思う。

 

「ま、ほどほどにな。だが俺のことは『陽司さん』、または『ヨージ』でも可だ」

 

では…とミルヤは試しに呼んでみようとするが、少し恥ずかしがり、結局フルネームで呼ぶことにした。

 

「(こういう時、()()が居てくれたらと、ついつい思ってしまいますね……)」

 

ミルヤの脳内に、とある綾小路の後輩がよぎる。

 

あの狐の面を頭にかけた、とある少女。

 

「さて……実はお聞きしたいことがありまして。『南无薬師景光(なむやくしかげみつ)』と言う御刀のこと、お噂でも構いませんので、聞いたことはありませんか?」

 

「それって……『南无薬師瑠璃光如来(なむやくしるりこうにょらい) 備前国長船住陰光(びぜんのくにおさふねじゅうかげみつ)』、だったか?確か……戦国の武将、『武田信玄』が富士山にある浅間大社(せんげんたいしゃ)に奉納した刀だな。オリジナルとその御刀も、江戸の早い時期から、長いこと行方不明になってるはずだが?」

 

「さすがにご存じですね。では、(うつ)しについても?」

 

もちろん刀使の『写シ』ではない。鍛冶職人が自らの技術を追求するために行う、()()

 

つまり、()()()()()()()()()のことだ。

 

「すまんな、写しが存在するのは知ってるが、そこまでだ。なにしろ、そいつが出て来たら、俺も一度くらい拝んでみたいものだな」

 

そもそも御刀も、ある意味『写し』と呼ばれるもの。

 

実在した歴代の名刀、名剣をモデルに鍛造されたものだから。

 

「あ、そうだそうだ!珍しい刀がこの間来てな、店じまい前に見せてやるから、仲間たち連れて後でここに集合な」

 

「珍しい刀、ですか?それは一体────」

 

「まぁ、見てのお楽しみってやつだ」

 

そう言われ、実は刀剣好きのミルヤは今日1番に興奮し気味になり、その後の店の手伝いをフルスロットルで終わらせたという。

 

 

* * *

 

 

「────てなことが、ついさっきあったわけだ。なんつーか、生真面目な娘さんだね?」

 

会計で先ほどのミルヤとの会話を話す陽司。相手は、知恵であった。

 

「そうですか……南无薬師景光。ありがとうございます、陽司さん。でも、なんの意味があって木寅さんはそんな御刀のことを………」

 

「それは俺にもさっぱりだな。それよりも、だ!知恵ちゃん、来るなら来るって、言ってくれよ。紗南のお嬢ちゃん(真庭学長)でも、『ファインマンの爺さん』でも構わんが。先に言ってくれりゃ、お・も・て・な・し、の1つでも出来たんだぜ?」

 

パチリとウインク(^_-)をする陽司。

 

それは確かに申し訳なかったが、元々ここに来るつもりはなかった。ミルヤと清香が来たがらなければ、原宿にさえ来なかった。

 

寧ろ、()()()()の活動が外部に漏れる可能性を考慮して、陽司たちとは接触は避けたかった。

 

「ま、そりゃそうだがな……それでだが、紗南の嬢ちゃんから連絡があった。お前さん宛に伝言を預かってる」

 

「伝言?」

 

 

 

『うちのエージェントの2人が伊豆に待機しているが、親衛隊が同じく伊豆に向かって、このままだとかち合いそうになる。それと、流石にあの2人じゃ“例の協力者たち”に追い返されるかもしれないから、後を追ってサポートをしってやって欲しい』

 

『面倒だと思うが、調査隊の連中には陽司から「赤羽刀の束が海岸から揚がった」とでも言わせて一緒に連れて行け』

 

『こっちもまだ交渉が掛かりそうだが、何とか“向こう”と協力関係を結べたら、少しは負担も軽くなると思うから、宜しく頼む』

 

 

 

「────と、言うことだ」

 

「相変わらず人使いが荒いですね、うちの学長は……」

 

ハハハ…と苦笑いする知恵。

 

「まあ、とりあえず今日も泊まっていけば良いさ。伊豆までのチケットは紗南のお嬢ちゃんが手配してるらしいからな」

 

「分かりました。では────」

 

「あ、ちょっと待てよ、知恵ちゃん」

 

「はい、まだなにか?」

 

 

 

「えっと、見せたいものって何ですか?」

 

昼からの店の手伝いをひと段落させ、店じまいの準備をしようとした美炎たちにミルヤと知恵が集合をかけた。

 

なんでも陽司から、店の手伝いをした褒美に、珍しい刀を見せてくれると言うことらしい。

 

長年この家業をしている陽司も、生まれて初めて見た珍しい刀剣とのこと。

 

「でも、良いんですか?その……お客さんのものなんですよね?」

 

清香が不安そうに聞いてくる。確かに客のものをそう簡単に見せびらかせて良いものかと?

 

「大丈夫だよ、その客からも許可は取ってる」

 

「おと~~ん……っ!持って来たで~~っ!!」

 

すると、店の奥から陽菜が重そうに、細長い木の箱を持ってきた。

 

「おう、あんがとよ!けどよ、無理せず台車に載せて来いよ?」

 

「おとんがこの間、台車を壊したんでしょ!!早く新しいの買ってよね!?」

 

よいしょっと、机の上に木箱をのせ、その周りに店主の陽司や、美炎たち調査隊が集まる。

 

シュルシュル…と木箱に結んである紐を丁寧に解いていく。そして、箱の蓋が開けられ、中を見ると

 

「えっ……コレって……」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

数十分前

 

 

第○○隠れ家 “陰の間”

 

 

昨日から審神者が手配した隠れ家に宿泊している義勇たち。現在は他の公安部署に赤羽刀調査隊の監視を任せ、一時休息を取っていた。

 

ハァ~~……このままダラダラしていたい……」

 

部屋の居間で、だらしなく寝転がる善逸。普段なら、杏寿郎が─────

 

「だらしないぞ、黄瀬よ!」

 

────と、言うが現在部屋には善逸の1人しかいない。

 

「三日月のじいさんはマッサージ……炎定の奴は旅館の手伝い……富田はどっか行ったから……好きなだけダラダラし放題ぃ~~!!」

 

ヒャッハー!と部屋の中を転がりまわる善逸。

 

だが、次第に勢いが弱くなり、止まってしまう。

 

「………ヤベ………めっちゃヒマ………寂しい

 

 

 

善逸が部屋で1人いる頃、義勇は館内の電話ボックスにいた。

 

因みに審神者への報告はすでに済んでいる(ちょっとお説教も受けた)。電話の相手は別の人物だ。

 

「では、()()は今新宿に?」

 

『ああ、所用でな……預けてた刀を取りに来た』

 

「先生(は刀をもう振ることは無いから壊すことは無いはずなのに)、壊したのですか?」

 

『いや、いつもの点検をな。ただ村正殿は任務中。“鋼塚”の奴はインフルエンザで倒れたらしい』

 

「(生粋の刀鍛冶)バカでもインフルになるんですね。(あの人も人間らしいところがあって)良かったです」

 

『そう言うことだから鋼塚が血涙を絞るように、()()()を紹介してくれたな』

 

文字通り、血の涙を流すようだったらしいが、そこではない。

 

「青砥館……ですか」

 

『どうかしたか?』

 

「(青砥館には俺たち零課の監視対象が宿泊しているが、先生にその事は伝えられない。だが先生の口から俺たちのことが洩れる心配も無いがやはり、)言えません」

 

『そうか……それと義勇。キチンと飯は食べているか?“真菰”が心配しとったぞ。「義勇は鮭大根しか食べてないんじゃないか」と。ちゃんとバランスよく食事を取っているか?』

 

「…………………はい」

 

『……ハァ~、まあ良い』

 

「先生………“錆兎”は?」

 

『彼奴も息災だ。今は中間試験の勉強で忙しいようでな』

 

「そうですか………」

 

『ではな、義勇』

 

ガチャリ…と通話が切れる。それから少し考え、義勇は旅館を出て行った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

数十分後

 

 

青砥館

 

 

「うわ~、綺麗な刀っ!」

 

「なんだこの刀?」

 

「刀身が水色とは……確かに珍しい刀ですね……」

 

「コレって………」

 

「………」

 

木箱の中に入っていたのは、水色の刀身の刀が1本。

 

清香はその刀身の美しさに見惚れ、あまり興味の無かった呼吹ももの珍しそうに見、刀剣オタクのミルヤは初めて見る刀をじっくり観察していた。

 

しかし、美炎と知恵だけは別の意味で驚いていた。

 

()()()()()()、彼が、義勇持っていたあの刀に。

 

色は義勇の方が深い青色だったが、あの刀に近い何かを感じた。

 

「青砥陽司さん、この刀は一体……?」

 

「おう、『日輪刀』って呼ばれる刀だよ。現代でも滅多に見られないレアな刀だ」

 

『日輪刀』、そう呼ばれる刀に皆がじっくり目に焼き付ける。

 

「さて問題だ、この日輪刀の材料には普通の刀に使われる材料以外に、『猩々緋砂鉄』と『猩々緋鉱石』って特殊な鉱石が使われているんだ。そこにもう一つ、あるものが使われているが、なんだか分かるか?」

 

陽司からの問いに調査隊の皆がう~ん…と考える。

 

通常、日本刀の材料はたたら操業によって得られた和鉄が使われる。この日輪刀にも使われているが、それ以外に使われる材料で、思い付くものと言えば

 

「う~ん……なんだろう?」

 

「けっ!刀は材料なんてどうでもいいだろう?」

 

「いえ、刀は使われる材料の産地によって、その切れ味や刀身の美しさに大きく影響します!たかが材料でも、その1つでも違えば様々な姿に変えるのが刀なのです!例えば─────」

 

ペラペラ…と刀について熱弁するミルヤに、少し引き気味に面倒くさそうに聞く呼吹。

 

すると美炎が

 

「もしかして……」

 

「美炎ちゃん?」

 

「お、分かったかい?」

 

「もしかしてですけど……“珠鋼”ですか?」

 

珠鋼は、刀使が使う御刀の材料。限られた地域しか採掘されない神性を帯びた鉱石。その神性があってこそ、御刀は荒魂を斬れるのだ。

 

「正解だ、美濃関のお嬢ちゃん!よく分かったね?」

 

「いえ、なんとなく……」

 

「しかし、何故御刀の重要な材料である珠鋼がこの刀にも?刀剣類管理局が、珠鋼は御刀の材料以外の使用を認めないと規定で定めたはずですが?」

 

()()ではな。けど、昔はそんな規定は無かったらしいぜ。確か……戦国時代には結構造られたらしぞ?」

 

「では何故────」

 

 

「折神家がある意味、日輪刀を使う剣士を恐れたからだ」

 

 

ミルヤの問いかけを陽司ではなく、別の人物が答えた。

 

店の入り口に誰かが立っていた。

 

水色の川模様の和服を着た────

 

「て、……天狗っ!?」

 

天狗の面を付けた男性。声と白髪を生やしているところを見ると、歳のいったご老人だと思うが、杖無しに真っ直ぐ立つところを見ると、まだ50代と言ってもおかしくなかった。

 

いや、天狗の面を付けてる時点でおかしいのだが………

 

「いらっしゃいっ!!お嬢ちゃんたち、この人がこの日輪刀の持ち主だよ」

 

「はぁ、この変なおっさんが!?」

 

「七之里さん、失礼よ!すいません……あの、何故そんな面を?」

 

「これか……………趣味だ」

 

「「趣味……」」

 

「それにしても、お早いですね。取りに来る時間はまだ少しあると思うのですが……?」

 

「昔から約束の時間より早く着くように癖付けているのでな。それとさっきの続きだが……」

 

「はい、日輪刀を使う剣士を折神家が恐れたと仰っていましたが、一体どういうことですか?」

 

「まぁ、少し長くなるが────」

 

 

・ ・ ・

 

 

『日輪刀』は太陽に一番近く、一年中陽の射すという『陽光山』という山で採れる『猩々緋砂鉄』と『猩々緋鉱石』という日光を吸収した特殊な鉄。そして『御刀』の材料でもある『珠鋼』が使われている。

 

そのため、この日輪刀にも神性が帯びているのだ。

 

故に、この日輪刀でも荒魂を倒せるのだ。

 

 

・ ・ ・

 

 

「(そっか、だから義勇くんも荒魂を……)」

 

これで謎の1つが解けた。義勇が刀使でもないのに荒魂を圧倒出来たのは、この日輪刀があってこそだ。

 

「だが御刀とは、決定的に違うものがある。それは、()使()()()()()()使()()()()()()

 

 

・ ・ ・

 

 

日輪刀は神性を帯びてはいるが、御刀のように持ち主に『写シ』や『迅移』などの能力を与えてはくれない。

 

その代わりと言ってはなんだが、この日輪刀は、刀使のように少女たちにしか使えない、と言う制限が無い。

 

剣の心得があれば男女問わず、子どもから大人まで、誰でも使えるのだ。

 

しかもこの日輪刀を使ってとある戦い方もあるのだ。

 

戦国時代には、刀使ほど多くはないが、この日輪刀を使って荒魂から人々を守る者達が存在した。

 

最初は刀使と共に協力関係を結び、荒魂と戦っていたが、歳を重ねる毎に適正が下がる刀使と違い、日輪刀の剣士たちはそんな心配は無い。寧ろ歳を重なる毎に、技に磨きがかかり、どんどん実力を増す。

 

そこに当時の折神家当主は恐れた。

 

このままでは、刀使の立場が無くなるのではないか?

 

刀使の権力が無くなれば、長年天皇家に仕えた折神家の立場も無くなる。

 

そう考えた折神家は、豊臣家の刀狩りで弱ったところを、江戸時代に入ってから幕府にも取り入り、珠鋼を御刀のみにしか使用を禁じた。

 

更に日輪刀やその剣士たちに関する資料や記録を破棄、日輪刀も没収、様々なかたちで、彼らを歴史の影に消す工作を施した。

 

そして、明治に入ってからは、すっかりその存在が消えてしまった。

 

 

・ ・ ・

 

 

「─────と言うことで日輪刀自体、残った数は微々たるもの。鍛造方法もほんの一握りの者達しか知らず、規則で鍛造さえも出来ない。故に日輪刀の存在は現代では滅多に見られないのだ」

 

「「…………」」

 

長い話を終え、天狗の男性は、陽司から鞘に納められた日輪刀を受け取る。

 

「あの、日輪刀の刀身はみな、そのような色なのですか?」

 

「ん?あぁ……これは儂が持ち主だからこの色なのだ」

 

「?どういうことですか?」

 

「日輪刀は別名『色変わりの刀』と呼ばれている。理屈は儂も詳しくは知らんが、日輪刀は持ち主によってその刀身の色を変える。この日輪刀も、最初はただの刀のような色合いだったが、若い頃、儂が手に入れてこの色になったのだ」

 

「なるほど……色変わりの刀……」

 

天狗の男性の手元に渡った日輪刀を、未だにじっくり観察するミルヤ。すると男性が「持ってみるか?」と聞き、ミルヤは2つ返事で、日輪刀を男性から受け取った。

 

「おぉ……!御刀よりも少し重いですね。ですが、確かに御刀を持った時の感覚に近い……!」

 

おぉ…!と未知の刀に触れ、感動するミルヤ。

 

その間に、美炎は男性の隣に立ち

 

「あの、すいません……その日輪刀って……他に誰が持ってるかとか、分かりますかね?」

 

「うん?そうだな……日輪刀の数はそう多くはないが、どこで誰が持ってるかまでは把握出来ないな……今は入手もかなり難しくなったからな……」

 

「そうですか………」

 

 

 

「ありがとうございました~!」

 

会計を済ませ、大きな風呂敷で刀を包み、紐で肩にかけれるようにして、青砥館を後にした天狗の男性。

 

もう歳だが、年頃の美少女たちに見送られるのは少しばかり気分が良い。

 

そんなことを考えていた時、ふと気配を感じる。

 

静かな水のように自然に溶け込んだ気配。

 

「腕を上げたな、義勇」

 

すると、電柱のかげから義勇が姿を現した。

 

「お久しぶりです、鱗滝先生」

 

「先ほど電話で話したばかりだろう?ともあれ、久々だな、義勇よ」

 

天狗の名は『鱗滝(うろこだき)佐ノ助(さのすけ)』。義勇の剣の師匠であり、義勇が公安零課に入るきっかけとなった人物。

 

「あの少女たちが監視対象だったのか?」

 

「すいません………」

 

「構わん、任務内容をそう他人に漏らす必要は無い。だがすまんな。少しばかり()()のことを話した」

 

そう言い、鱗滝は背負っていた日輪刀を見せる。

 

「あまり刀剣類管理局に、日輪刀の存在をほのめかすのは御法度だったな……」

 

「いえ、審神者はあくまであまり(おおやけ)にしないようにと言っているだけなので……我々のことを嗅ぎつけるほどでは無いかと……」

 

「そうか……そうだ、義勇よ」

 

「はい」

 

「お前、確か岐阜の方出身だったな……?」

 

「はい」

 

「……美濃関の刀使に知り合いはいるか?」

 

「…………はい」

 

少しばかり間が開いた返事。義勇の過去を知る鱗滝は何かを察したのか、それからは何も聞かず、駅まで義勇に送って貰った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

翌日  伊豆行き列車内

 

 

青砥館を後にした一行は真庭学長が用意し、陽司から渡された伊豆行きの切符を受け取り、その列車に乗っていた。

 

しかも中々良いものを手配したようで、清香や美炎は列車の窓から見える景色に興奮気味だった。

 

ただ呼吹の方は退屈そうであったが

 

「すごいです!窓が大きくて眺めも良くて!伊豆を走る列車にも特別なものがあるんですねー!」

 

「なんとかビューって言うらしいよ。そういえば、なんか『伊勢』と『伊豆』って似てるよね。海の脇を走る列車とか、『伊』の字が一緒とか、半島とかさ」

 

「そういえばそうですね……何ででしょう?七之里さんは何かご存じですか?」

 

「知るかよ、んなもん!あぁーー!まだ着かねぇのかよ!」

 

 

「しかし、集まるところには情報は集まるものですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、思ってもみませんでしたよ」

 

流石ですね、と青砥館の事を褒めるミルヤになんとなく同意する知恵。本当は真庭学長からだというのを知ってるのは知恵だけだからだ。

 

「(とりあえず、このまま黙っておきましょう────)」

 

その時

 

 

キィィーーーーー!!

 

 

「って、なに!?」

 

「これは……!」

 

「「キャアーー!」」

 

「のはっ!?」

 

突然の鉄同士が強い力で擦れる音と揺れ。そして列車はゆっくりと止まった。どうやら緊急停止をしたようだ。

 

一体何事かと、調査隊だけでなく他の客たちも騒ぎ出す。

 

まさか!と思い、ミルヤは急いでスマホを見ると、スペクトラムファインダーが反応していた。やはり荒魂が出現したようだ。

 

『お客様にお知らせします。現在線路近くに荒魂が出現したと報告があり、緊急停止致しました。機動隊が到着するまで現場には近付かず、係員の誘導に従い、迅速に列車の外に避難してください。繰り返します────』

 

「調査隊各員、我々は荒魂に向かう。準備をっ!」

 

「「は、はい!」」

 

「よっしゃー!待ってたぜ荒魂ちゃん!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

義勇組Side 別の車両内

 

 

キィィーーーーー!!

 

 

『お客様にお知らせします。現在線路近くに荒魂が出現したと報告があり、緊急停止致しました。機動隊が到着するまで現場には近付かず、係員の誘導に従い、迅速に列車の外に避難してください。繰り返します────』

 

「………とのことだが、どうする皆よ?」

 

「三日月……その前に………」

 

「この状況を何とかせねばなっ!!」

 

「(キュ~……)」

 

緊急停止により、上から三日月、杏寿郎、善逸、義勇と4段重ねになってしまい、動けなくなっていた。

 

特に1番下の義勇は、目をグルグルさせ気絶していた。

 

「と、とにかく……炎定……三……日月……早く……どいて……」

 

「しっかりしろ、黄瀬!冨田、大丈夫か!」

 

「(キュ~……)」

 

「あなや」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

同じ頃 また別の車両内

 

 

キィィーーーーー!!

 

 

『お客様にお知らせします。現在線路近くに荒魂が出現したと報告があり、緊急停止致しました。機動隊が到着するまで現場には近付かず、係員の誘導に従い、迅速に列車の外に避難してください。繰り返します────』

 

「Oh!ナニゴトデース!?まさか、荒魂デスか!」

 

「……みたいだな」

 

真庭学長からの任務で、同じ列車に乗っていたエレンと薫。車内放送で状況を理解した2人はそれぞれ御刀を持ち、外へと向かった。

 

「サクッと、やっちゃいまショウ薫!」

 

「面倒くせ~……しゃーない、行くぞ、ねね。オレたちの出番らしい」

 

「ねね~!」

 

やる気満々のエレンと、面倒くさそうな薫、正反対な2人は調査隊が出た少し後に、列車を降りた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

エレンと薫が列車を出た頃 また別の車両内

 

 

エレンと薫の監視をしていた蜻蛉切と薬研。

 

浜辺で遊んでいた2人がついに動き出し、その行き先にセイバーたちの向かう場所と判明。2人は審神者が急遽用意してくれた切符で2人の尾行を行っていた。

 

「荒魂か……薬研殿、我々も出るか?」

 

「落ち着けよ蜻蛉切の旦那。監視対象が出たようだ……俺たちまで出たら鉢合わせになる。ここは刀使さま方に任せようぜ」

 

「ならば、避難誘導を。おそらく係員だけでは事足りぬでしょう」

 

それもそうだな、と椅子から腰をあげようとした時

 

「あれ……蜻蛉切、アレって……」

 

「どうかなされたか……アレは……」

 

2人が目にしたのは

 

 

「冨田、しっかりしろ!目を開けろーー!!」

 

バシバシバシバシッ───────

 

「炎定よ、それ以上やると────」

 

「───────」

 

「良いよ三日月、止めなくて。アイツにはあれくらいで丁度良いんだよ(ニヤリ)」

 

気絶しているだろう義勇の頬をバシバシッ!と叩く杏寿郎と微妙な顔をする三日月。そして悪い顔をする善逸の4人がいた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「木寅さん、見えたわ!」

 

「えぇ……」

 

列車を降りた一行は、直ぐに現場へと向かっていた。そこには数体の荒魂が。中には大型もいる。

 

知恵たちは直ぐに戦闘態勢をとる。だがミルヤだけは

 

「(多すぎる……一昨日の原宿に今日、安桜美炎の話によれば鎌倉でも。この短期間で三度も……)」

 

刀使なら荒魂と遭遇する機会は多い。だが短期間に同じチームが遭遇戦を行うことなど普通はあり得ない。

 

何か、自分たちの知らない何かの力を感じさせる。

 

「木寅さん、どうかしたの?」

 

「いえ、なんでも……瀬戸内知恵さん、あなたは六角清香と共に避難誘導を!七之里呼吹、安桜美炎は私と荒魂討伐を!」

 

「分かったわ、行くわよ六角ちゃん!」

 

「は、はい!」

 

「ヨッシャー!楽しもうぜ荒魂ちゃん!」

 

「了解です!いくよ、清光!」

 

御刀を抜き、荒魂に斬り掛かろうとした時

 

 

「ヘーイ!ワタシたちもお手伝いシマース!」

 

そこに知恵と同じ制服を着た刀使2人が加わる。

 

「あなたたちは……?」

 

「長船の刀使ですか?」

 

「YES!ワタシは『古波蔵エレン』、こっちは『薫』!困った時はお互いさまデース!」

 

「サッサと終わらせんぞ~」

 

「あぁ?あの荒魂ちゃんたちはアタシの獲物だそ?」

 

「七之里呼吹、少し黙って。協力感謝します、この場は私の指示に従ってください」

 

「了解デース!」

 

「へ~い」

 

「では……これより、荒魂を殲滅する!」

 

 


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