新・刀使ノ乱舞   作:エクスカリバー!!

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伊豆行き列車 とある車両内

「いらい(痛い)……」

「いやホント……すまなかった、冨田」

真っ赤に膨れ上がる義勇の両頬。そして全力の土下座をする炎定。

その横では薬研や蜻蛉切、三日月たちがお互いの情報交換をしていた。

「なるほど~、それで俺たちと同じ列車に乗ってたわけか……」

「偶然……でしょうか?」

「にしては出来過ぎているな~」

「なんだよ三日月、まさか調査隊は本来の任務と別に何か意図があって伊豆に向かってるってことか?」

「そう考えるのが自然だろうな、黄瀬」

「なら俺が大将(審神者)にこの事を報告しよう」

「そうだな、主からの指示を仰ぐとしようか。そう言うわけだから、そこの2人、そろそろ良いか?」

「らいしょうふら(大丈夫だ)」

「うむ……そうだな」


その後、係員が逃げ遅れた客がいないか、その車両内を探したところ、誰もいなかったらしい。
 



伊豆での交錯 ①

 

 

「はぁっ!!」

 

ザシュッ!

 

『──────!!』

 

ミルヤの一撃が熊型の荒魂の脚を狙い、荒魂は大きくバランスを崩した。そこに上空へジャンプした呼吹と美炎の刃が捉えた。

 

「楽しかったぜ荒魂ちゃん!」

 

「これでっ!!」

 

ザシュ! ザクッ!!

 

『─────!!?』

 

 

ザシュ!

 

「これでFinaleデース、薫!」

 

「きえぇ~~~」

 

ドーーンッ!!

 

ムカデ型の大型の5本目の脚に切り飛ばし、荒魂がフラフラになる。そこにやる気の感じさせない薫の大太刀による重い一撃が、荒魂を一刀両断にした。

 

「あ~~~、疲れた……」

 

「ねね!」

 

 

 

数十分後…

 

「エレンさん、薫さんも!助太刀ありがとうございます!おかげで助かりました!」

 

荒魂を全て討伐し、ミルヤが処理班を要請し、荒魂と戦えて満足したのか、近くの地面に寝転がる呼吹。その間、美炎は助太刀に来てくれたエレンと薫に礼を言っていた。

 

「イエイエ、困った時はお互いさまデース!」

 

「オレは疲れた~……もう帰りたい……」

 

「それにしても、お二人とも強いですね!」

 

「それほどでもー!()()()()も中々良い腕してマスよ!」

 

「み、“ミホミホ”?」

 

エレンの独特の呼び方に少し戸惑う美炎に、薫の背後から“ねね”が近付いて来た。

 

「あれ、この子……」

 

「ねー!」

 

「オイコラ」

 

美炎に向かって、ピョーンと飛びかかろうとしたが、薫がガシッと尻尾を掴んで止めた。

 

「何してんだよ、ねね。美炎(ソイツ)に何かあるのか?」

 

尻尾を掴み、自分の元に引き戻す薫。それをエレンが

 

「薫!ねねの尻尾を掴んだらカワイソウデスよ」

 

「え?なにその子、もしかして荒魂!?」

 

「やれやれ……確かにコイツは荒魂だが、代々オレの家、益子家を護る守護獣だ」

 

「ねねー!」

 

そこに、処理班への連絡を終えたミルヤが合流した。

 

「益子家の守護獣……それなら聞いたことがあります。荒魂でありながら、人を襲わず共に暮らす希少な荒魂だと……」

 

つまり今回の荒魂は、このねねに引き寄せられた可能性が高いと、ミルヤは予想した。

 

「そうデース!ねねはHolyBeastなのデスよ!」

 

とは言え、このままねねを連れて彼女たちと行動を共にするわけにはいかない。

 

エレンたちはここで迎えの車を待つ事にした。

 

「ところでお二人はどちらに?」

 

「伊豆の方……まだまだ先が長いんだよな~……」

 

「ね~……」

 

ミルヤが2人の為に、車での最適ルートを調べようと目的地を聞くと、だるそうに答える薫とねね。

 

「え、伊豆なら私たちも同じ方向ですよ!スゴい偶然!」

 

「ハイ!VeryVery偶然デスね!」

 

「ところでずっと気になってたんですけど、その不思議な話し方は海外のどっかで育ったからですか?」

 

「NoNo、これはグランパ(祖父)の影響デス。大好きな大好きなおじいちゃんデスね!」

 

嬉しそうに語るエレン。その気持ちは、幼い頃から祖父に育てられたお祖父ちゃん子の美炎にはよく分かった。

 

そこに、避難誘導を終えたのか、知恵と清香が走ってやって来て、ようやく呼吹も起き上がる。

 

「あら、どうやら終わったみたいね」

 

「ハァ……ハァ……せ、瀬戸内……さん……速い、です……」

 

「ん、なんだお前、なにバテてんだよ?何のために来たんだよ?」

 

「七之里さん、そんな言い方はないでしょう?大丈夫、清香ちゃん?」

 

「は……はい……すいません、原宿で買った靴が合ってなかったみたいで」

 

「まだ履き慣れてないものね。いいから元の靴に履き直しましょ」

 

そうして清香が新しい靴から、元の靴に履き変えている間、呼吹が知恵に

 

「おい、何だよお前は」

 

「私?私はただのみんなのお姉さん、かな?」

 

「チッ……わけわかんねぇよ……」

 

 

 

「こちらは荒魂討伐に協力してくれた長船女学院の『古波蔵エレン』さんと『益子薫』さんです。それと、薫の守護獣の『ねね』」

 

「よろしくデース!」

 

「ども~」

 

「ねね~」

 

改めて知恵と清香に2人を紹介するミルヤ。

 

「よろしくね、2人とも(この2人が……)」

 

「は、始めまして……!」

 

「では顔合わせも済んだところで─────」

 

そろそろ移動しようとした、その時

 

『─────!!』

 

『────!』

 

「き、木寅さん!また荒魂がっ!」

 

「なにっ!?」

 

先ほど倒した荒魂とは別に、また別の荒魂がこちらに向かって来た。大型はいないが、小型が数体こちらに威嚇するように咆哮をあげる。

 

「くっ!調査隊、戦闘態勢っ!」

 

「「はい!」」

 

「うっひゃー!また会えて嬉しいよ荒魂ちゃん!」

 

「今日2度目だぞ……一体どうなってんだ?」

 

「いいから薫、ワタシたちもヤリマショウ!」

 

「あ~、面倒くせ~。とっとと終わらせんぞ!」

 

「ねね!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

義勇&薬研組Side

 

 

美炎たちが荒魂との二回目の戦闘を開始する少し前、義勇たち零課が彼女たちから離れた場所にいた。

 

『ふむ……おそらく舞草は衛藤さん、十条さんの実力をはかる為に、エージェント2人を向かわせたと思う』

 

薬研はスマホをスピーカーに全員に審神者の声が聞こえるようにし、彼からの情報を聞いていた。

 

「じゃあなんで調査隊も伊豆に向かってんだよ?あっちは舞草との繋がりなんて『瀬戸内知恵』だけだろ?」

 

善逸の疑問は当然だ。だが次の審神者の言葉で全員に緊張が走る。

 

『菊一文字から、親衛隊が伊豆へと動き出したと連絡があった』

 

「「っ!!」」

 

今まで折神紫から、ピッタリ張り付いていた彼女たちが遂に動き出した。紫直属の刀使となると、これまでのように上手くことを運べるか不安になる。

 

『現在菊一文字が機動隊に紛れて、親衛隊の監視をしている』

 

「なるほど~、つまり調査隊は親衛隊とエージェントが接触しないよう、瀬戸内が調査隊を誘導していると言うことか、主?」

 

三日月の推理に審神者は「正解だよ」と、返す。

 

「なら大将、俺たちはどうする?このまま各自の任務続行か?」

 

『そうもいかない。親衛隊の情報が来る少し前に時空の歪みも観測された』

 

零課にとっての“真の敵”がこの世界に入り込む時に発生する時空の歪み。それはここ最近頻繁に起こるようになったのは、皆知っている。

 

ただしあくまで小規模。一体や二体程度が折神紫に接触したぐらいだったが、今回は

 

『中規模の部隊、数十体がこの世界に入り込んだ』

 

「「なっ!?」」

 

数十体もの時間遡行軍がこの世界に入り込んだ。こんなことは初めてだ。そしてその狙いはおそらく

 

「衛藤可奈美と十条姫和を守る、セイバーたちか……」

 

『富田の予想どおりだろう……彼らは最初衛藤さんたちを狙うだろう。だが、おそらく本命はセイバーたち。数が少ないところから我々零課の戦力を潰していくつもりだろう』

 

「では、主。自分たちが」

 

『ああ、こうなったら舞草の思惑通り、衛藤さんたちの実力を見て貰おう。薬研と蜻蛉切はエージェントの監視を一時中断、速やかにセイバーたちと合流し時間遡行軍の襲撃に備えろ。義勇たちは引き続き調査隊の同行を追え。もし親衛隊がとセイバーたちと接触しそうになったら、これを阻止せよ』

 

「「了解!」」

 

「「はっ!」」

 

ブツンと、通信が切れ薬研と蜻蛉切は命令通り、直ぐさま先にセイバーたちの元へと向かうことに。

 

「じゃあな」

 

「皆さん、お気を付けて」

 

「2人もな」

 

「武運長久を祈っている!!」

 

「がんばれよ!」

 

 

薬研たちを見送った後、義勇たちも調査隊の監視に戻ることに。

 

そこに、義勇のスマホに審神者からメールが届いた。

 

追加の指令かと思いメールを開くと

 

『義勇へ

 先日の新宿の件については不問にする。幼馴染みを想う君の気持ちは尊重したい。だがあまり我々の存在を明かすようなことは控えるように。呼吸法の技しかり、そこから我々に繋がる可能性があるのだから。もし、君なりの考えがあるのならそれを尊重しよう。だがそうでないのなら、キチンと責任を取ってもらう。

                 審神者』

 

「………」

 

メールを読み終えた義勇は、スゥーとスマホから目を離し空を見上げる。

 

審神者の言うことは分かっている。

 

日輪刀の鍛造は江戸初期の頃から折神家によって禁じられている。それによりそれを扱う剣士は日に日に数を減らした。

 

今に残っているのはごく僅か。主に2つに分かれている。

 

杏寿郎の『炎の呼吸』は、炎定の一族が代々血筋に伝え教えていた。

 

義勇の『水の呼吸』や善逸と『雷の呼吸』は、それを会得し使い熟した者に血筋関係なく伝えていた。

 

零課では時間遡行軍と戦う時に、義勇たちは呼吸法の技を敵に見せている。そしてその時間遡行軍は管理局の長の折神紫と繋がりを持っている。

 

つまり零課に呼吸法の技を使う者がいると知っている。

 

無闇に管理局や刀使たちに呼吸法の技を見せれば、自分たちの存在を明かしていることに他ならない。

 

だから審神者から常々注意されていた。

 

「(分かっている……頭では分かっているが……)」

 

チャリっと、美炎たちと撮った写真が入ったペンダントに手が伸びる。

 

どうしても体より先に心が動いてしまうのだ。特に、美炎に何かあった時には……

 

「お~い、冨田!なにやってんだよ!俺たちも早く行こうぜ!」

 

「………ああ」

 

善逸の呼ぶ声で、義勇はスマホをポケットに入れ、彼らの元へと向かった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

調査隊Side

 

 

「ハァ~……ハァ~……やっと終わった~!」

 

「もう無理です~……」

 

「2人とも、お疲れさま」

 

ようやく最後の一体を倒し、張り詰めてた気を一気に緩ます美炎と清香。そんな2人に労いの言葉をかける知恵。

 

呼吹の方はまだ戦い足りない(遊び足りない)のか、残党がいないかキョロキョロ見回していた。

 

ミルヤは念の為に追加のノロ回収班を要請している。

 

エレンと薫の方は

 

(ちか)れた~~……ん、どうしたエレン?」

 

「ね?」

 

「おかしいデス。今日一日だけで、2度も密度の高い連戦をしたことはNothingデス」

 

「そう言えばそうだな……」

 

「ねね……」

 

薫も人使いの荒いおばさん(真庭学長)に現場から現場に回されることなんてよくあったが、何度も偶然に出くわすことなんて経験が無い。

 

そのエレンと薫の話を聞いていた美炎はそうなの?、と驚く。

 

「こんなにも戦わなくちゃいけないなんて、聞いてません……いろは学長も『赤羽刀を探すだけだ』って言ってたのに……もうイヤです……」

 

「アタシは大歓迎だぜ!こんなに楽しませてくれるなら、もっともっと出て来て欲しいぜ!」

 

「七之里さん!そんなこと言わないでくださいよっ!」

 

呼吹の不吉な発言に清香が半泣きになりそうになりながら注意する。ホントにこれ以上出て来たら、今度こそ泣き出しそうになっているからだ。

 

そして、彼女たちの言葉に美炎はそうなの?と逆に不思議がる。

 

「(私は年に何回かあったけど……もしかして私だけ?まさか私……荒魂との遭遇回数、普段から多い?)」

 

 

 

 

 

1時間後…

 

要請したノロ回収班と、伊豆行きのワゴン車2台が到着し、後処理を頼みワゴン車に乗り伊豆へと向かった。

 

1台はミルヤと呼吹、清香が。もう1台を美炎と知恵、エレン、薫に分かれ乗っている。

 

その道中、連戦で疲れたのか、美炎はウトウトしそのまま寝てしまった。その隙に知恵は後部座席のエレンと薫の方に話しかける。

 

「ちょっと良いかしら、エレンさんと薫さん」

 

「ハイ、なんですか?」

 

知恵は改めて美炎が起きていないことと、運転手に聞かれない程度の小声で話す。

 

「単刀直入に聞くわ。あなたたちは真庭学長の指示で衛藤さんたちの元に向かってるのよね?」

 

エレンはWow…と驚き、薫は初めて本気の目を見せた。

 

「それに親衛隊もこの伊豆に向かって来てるらしいわ。あなたたちは鉢合わせになるとマズいんじゃあないかしら?」

 

「お前……何を知ってる?」

 

ギロリと睨みつける薫。しかし知恵は冷静に答える。

 

「長船の『源流』たる地のこと。真庭学長の指示で、あなたたちのサポートを命じられている。これで良いかしら?」

 

「なるほど、Understandingデス。お仲間でしたか。ではこちらも質問にお答えシマス」

 

エレンも彼女たちが聞こえる程度の声で返した。

 

エレンと薫も、知恵と同じく『舞草』の指示で伊豆に向かっていること。そこで新たに仲間になる『衛藤可奈美』と『十条姫和』の実力を試すこと。更に以前から協力関係を結ぼうとしていた()()()()()のメンバーの実力もついでに見てこい、と。

 

「そんなわけで、親衛隊と鉢合わせはごめんデース。もしかして、もう伊豆に?」

 

「衛藤さんと十条さんへの追っ手としてね。でも、もう伊豆に着いているかは分からないわ。とにかく、そっちは私たちが引き付けるから、あなたたちは舞草の役目を果たしてちょうだい」

 

「言われなくても」

 

「ねね!」

 

「恩に着るのデスね」

 

「それともう一つ。その()()()()()のメンバーって……どんな組織で、誰が所属してるか聞いてるかしら?」

 

「Oh……残念デスが私たちも全く知らないデスよ」

 

「エレンの爺さんと“朱音様”は知ってるみたいだが、オレたちには全く教えてくんねぇんだよ……」

 

「そう………」

 

 

 

その後、一行は途中下車し、それぞれ自分たちの目的地へと向かって行った。

 

「皆さーん、またお会いしまショーウ!」

 

「じゃ~な~」

 

「ねね~!」

 

 

 

エレンと薫たちともそこで別れた。調査隊はそこからは歩きで山中へと向かった。

 

「そう言えばエレンたち、こんなところに何しに来たんだろうね?ちぃ姉何か聞いてる?」

 

「ごめんなさい、私も聞きそびれちゃった」

 

「2人とも、私たちも日が暮れる前にせめて宿にだけでも着きましょう」

 

そして調査隊一行は歩き出した。

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……けっこう歩きますね……」

 

「大丈夫、清香ちゃん?」

 

「ホントにだらしねぇな……」

 

そう言うが無理もないと思う。だんだんと山道は坂の舗道されていない道へとなっているので、慣れていない者には辛かった。

 

「そうですね、少し休憩に……いえ、それは後にしましょう……」

 

何かの気配に気付き、御刀へと手を伸ばすミルヤ。

 

「木寅さん、もしかしてまた……」

 

知恵がそう聞くと、ミルヤはコクリと頷く。

 

「(一匹や二匹だけじゃない……しかし囲まれている……)」

 

グルリと見渡すと、先ほど戦った荒魂より更に小さい。虫型の荒魂。ミルヤの感じた通り、数は数匹ほど調査隊の周囲を囲むように飛んでいた。

 

「どういうこと?まだ向こうはこっちに気付いていないだけど……」

 

「あ、あの……先ほどの荒魂となにか関係があるのでしょうか……?」

 

「それより、民家の近くじゃなくてラッキーだよ。しかもこっちに気付いていないなら、今のうちに────」

 

倒せばいい、と美炎が言おうと時、呼吹がそれを遮った。

 

「バカどもが、()()()()()()()()()()

 

「えっ、七之里さん。それどういうこと?」

 

「うっさいな、なんでもないってんだよ」

 

ぶっきらぼうに言い、御刀を抜く呼吹。しかし、口元はニヤニヤと笑っていた。

 

「なるほど、コイツら親衛隊の荒魂か……おもしれぇ……」

 

その時ポツンと呟いた呼吹の言葉に、知恵だけは反応した。

 

「(七之里さん、今……()()()()()()って言った?つまり親衛隊はもうここに来てる……?)」

 

それもそうだがその前に、“親衛隊の荒魂”と言った。つまり、折神紫直下の刀使が荒魂を使役していると言うことだ。

 

一体どういう事かと考えてる時間は無さそうだった。

 

「とにかく……調査隊、各員抜刀!荒魂が民家に向かう前に殲滅する!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

可奈美&姫和Side

 

 

調査隊がエレンたちと別れた数分後…

 

可奈美と姫和はずっとベンチでセイバーの言っていた事を考えていた。

 

「セイバーたちの言ってたこと……本当のこと……だよね」

 

「そうだろうな……」

 

 

『かつて……何十、何百と、この手で斬り捨てた(殺した)ことがある……』

 

 

『セイバーほどじゃねぇが、俺もだぜ。俺もずいぶん人を斬ってた時期があった』

 

 

「それってやっぱり……セイバーたちは人を……」

 

可奈美はそこで口をつむぐ。言いたくなかったからだ。2人が人を殺したことがあると。

 

確かに警察官なら、任務中に被疑者を殺してしまうことは稀にある。テレビでもそんなニュースが流れるのを見たことがある。

 

だがセイバーたちは1人や2人殺した訳では無い。何十、何百と言っていた。

 

そして、それには自分たちが想像出来ない程の覚悟を持っていることを。

 

「覚悟……か……」

 

「………」

 

覚悟なんて、最初っから決まっていた。だがそれをセイバーに否定された。自分の覚悟は覚悟なんかじゃないと。だったら

 

「私は……どうすれば良かったんだ……!」

 

ギュゥッ…と拳を握り締める。

 

そこに──────

 

「見つけたデース!」

 

「「っ!?」」

 

カタコトの日本語で話す長船の刀使が2人に向かって斬り掛かって来た。

 

可奈美は直ぐにベンチから離れ、御刀を抜き長船の刀使から距離をとる。 

 

姫和の方はベンチから立ち上がると同時に御刀を抜き、彼女の攻撃を受け止め、逆に斬り返す。

 

しかしそれをヒョイッと身軽そうに交わし、距離をとった。

 

「ヒュウ~♪中々ヤリマスね~。美濃関学院中等部の『衛藤可奈美』と平城学館『十条姫和』デスね?」

 

「そうだけど……」

 

「貴様、追っ手の者か……」

 

「YES!長船女学院高等部1年、『古波蔵エレン』デース!」

 

そこに、ふぁ~とあくびしながらエレンより小柄でありながら、その2倍以上の御刀を背負う刀使が現れた。

 

「長船女学院高等部1年……『益子薫』……ねみぃ……(_ _).oO」

 

「折神紫に刃を向けた不届き者、覚悟するデース!」

 

「「っ!」」

 

「(あれ、そう言えば、ねねのヤツどこ行った?)」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

セイバーSide

 

 

「いざ、勝負デース!」

 

「くそめんどくさい……」

 

 

少し離れた場所で可奈美と姫和が、長船刀使2人組との激突が今にも始まりそうだった。

 

それを見守る予定だったセイバーと和泉守。だがそんな2人のスマホのレーダーに、反応があった。

 

刀使4人の元に向かう反応が多数。荒魂でも親衛隊でもない。零課がずっと戦ってきた()()()()

 

「主の言う通りだったな」

 

「出来るだけ、彼女たちから離れて対処するぞ」

 

そんな2人の元に、シュタッと薬研と蜻蛉切が合流した。

 

「遅くなって悪いな、2人とも」

 

「いや、ナイスタイミングだったよ薬研」

 

「状況は?」

 

「向こうで長船刀使と衛藤、十条が戦ってる。それともうすぐ()()()が来る」

 

チラリと、薬研と蜻蛉切もその方向を確認する。

 

現場では、エレンの体術と剣術を合わせた攻撃と、薫のリーチの長く重い攻撃のコンビネーションで、可奈美たちを圧倒していた。

 

「おいおい、大丈夫なのかあの2人?」

 

「これくらいで終わるなら、その程度だってことだよ」

 

だが、そうではないとセイバーは確信している。可奈美たちはあの2人に遅れをとるようなことは無いと。

 

「向こうは向こうで任せよう。ところで………薬研、()()()()()?」

 

「ねっ!」

 

「「えっ?」」

 

薬研の頭の上、そこにはいつの間にか小さなリスのようなものが乗っていた。それは薫と一緒に居たはずのねねであった。

 

「……え、なにコイツ?」

 

「……あ、荒魂……でしょうか……?」

 

「い、いつの間に……!」

 

和泉守、蜻蛉切、薬研とそれぞれ驚いてねねをじっくりと見る。

 

「もしかして君は、噂に聞く益子家を守る特異な荒魂かい?」

 

「ねねっ!」

 

セイバーがそう尋ねると、元気よく答えた。どうやら「そうだよ!」と言っているようだ。

 

「つか、なんでそんなヤツが薬研の頭に乗っかってんだよ?」

 

「自分も、全く気付きませんでした……」

 

「っ!みんな、今はそれどころじゃなくなってきたぜ……!」

 

この中で1番索敵能力が高い薬研が、目標の気配を感じ取った。そしてそれを聞いたセイバーたちは、それぞれの得物を抜く。

 

薬研も腰の刀を抜こうとしたが、「おっと」と頭の上のねねを地面に下ろす。

 

「ここは危ねぇから、お前さんはサッサとご主人さまのところに帰れ」

 

「ね?」

 

「安心しろ、向こうの戦いに水を差す無粋なヤツらをぶっ倒すだけだよ」

 

さあ、行けと、ねねを薫たちの元に行かそうとするが、ねねはその場を動く気は全く無かった。

 

それを見て薬研はやれやれ(┓( ̄∇ ̄;)┏)……と思い、とりあえず近くの茂みの中にねねを隠した。

 

「ここから絶対出るなよ、良いな?」

 

「ね!」

 

「薬研、そろそろ……」

 

「ああ」

 

ようやく薬研も得物を抜いたところで、セイバーたちの目の前に、人とは思えない異形の者たちがぞろぞろと歩いてきた。

 

『グルル…………』

 

黒い瘴気のようなものを身に纏わせ、頭に唐傘のようなものを被る、刀を持った者。

 

『キシャーーッ!!』

 

骨だけの体を持ち、口に短刀を咥え、上空に浮かぶように飛ぶ蛇のようなもの。

 

『…………』

 

戦国時代の甲冑と黒い瘴気を纏い、太刀を持つ者。

 

この異形の怪物たちが、セイバーたち公安零課の本来の敵。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

殺気を高める異形のものたちに対して、セイバーは不可視の剣を構える。それに続くように、和泉守たちも自身の得物を構え、殺気を更に高める。

 

「悪いが、ここから先は通行止めだぜ」

 

「可奈美たちの元には行かせない。お前たちの狙いは私たちだろう」

 

「だが残念ながら、自分たちはここで倒されるつもりは無い!」

 

「覚悟しろよ、(なまくら)共っ!!」

 

薬研、セイバー、蜻蛉切、和泉守。それぞれが異形の者たちに斬り掛かる。

 

「死力を尽くすがいい、時間遡行軍っ!!」

 

『『ガアァァァーーー!!!』』

 

セイバーの言葉が開始の合図となり、異形のものたちも、一斉に彼らに襲い掛かる。

 

宙を飛ぶ蛇のようなものが真っ先に咥えた短刀で斬り掛かる。だが、セイバーは不可視の剣を下段に構え、一気に横に振るった。

 

すると、風の刃が横一閃に広がり、蛇たちのほとんどを真っ二つに切り裂いた。すると、蛇たちはボロボロと灰のように身体を崩し、そのまま消えていった。

 

「おいおい、俺たちの分の獲物ぐらい、残してくれよセイバー?」

 

「なら、残りは全部和泉守に任せようか?」

 

「えっ?」

 

「そりゃ良いな!俺っちも構わねぇよ」

 

「いや、それはちょっと────」

 

「何を言うか、お二人とも!流石に和泉守どのお一人ではキツいでしょうが!」

 

「蜻蛉切~(涙)」

 

「我ら三人で短刀の残りを。あとは全部和泉守どのにお任せしましょう!」

 

「この裏切りものーー!!短刀なんてあと二体ぐらいじゃんっ!!」

 

『グァァーー!!』

 

「のはっ!?」

 

ガキンッ!

 

ちょっとよそ見をしている間に、唐傘をかぶった怪物が和泉守に斬り掛かり、慌ててそれを受け止める。

 

グググ……

 

「こ……この……!」

 

つば釣り合いで押し合いながら、和泉守は体勢を整えて、刀に力を込める。すると、だんだんと和泉守の刀が怪物の刀を押し返して

 

「なっ………な~め~る~なーー!!」

 

バキンッ!!

 

『っ!?』

 

「オリャァー!!」

 

そのまま相手の刀をへし折った。だがそれだけは終わらない。和泉守の刀は怪物の左肩へと振り下ろされ、そこから斜め下へと怪物の身体を切り裂いた。

 

『ガァァーー!?』

 

断末魔をあげながら、唐傘も蛇同様、ボロボロと灰のように崩れていき、跡形も無く消えていった。

 

すると他の唐傘たちや、甲冑姿の怪物が敵討ちのために一斉に和泉守に襲い掛かってきた。だが、和泉守は何も動じていなかった。

 

一斉に斬り掛かる怪物たち。普通なら一人だけでコレを対処するのはキツい。()()()()

 

「へっ……てめぇら─────」

 

『『グォォォーーー!!』』

 

ダッ! 

 

ザシュッ! ザシュッ! グサッ!

 

「もう少し練度を上げてからかかって来やがれ」

 

『『』』

 

『ガッ…………』

 

ボロボロ……

 

和泉守の言葉にほとんどの者たちは答えることは出来なかった。その全てが和泉守の刃によって頸が無くなっているからだ。

 

そして、そのまま甲冑姿の怪物の首を貫いていた。

 

頸を無くした怪物たちは悲鳴すら上げられず、ボロボロと身体を崩して消えていった。

 

最後にこの甲冑から刀を抜くだけ───

 

グッ…!

 

「ん?」

 

グッ……グッ……!

 

『ガッ……ア…………!』

 

首から刀が抜けない。いや、抜けるはずがない。甲冑が自分の首に刺さっている刀を両手で掴んで離さないからだ。すでに身体は崩壊しかかっている。だが、それでも離そうとしない。

 

『グルァァーー!!』

 

狙いは和泉守の背後から斬り掛かるもう一体の甲冑姿の怪物だった。自分を囮に、和泉守の隙を作ったのだ。

 

「へぇ~、なかなかやるじゃねぇか」

 

しかし、当人は余裕な態度を崩さない。別に刀を抜く必要が無いからだ。

 

ズバンッ!!

 

『ガァッ!?』

 

ボロボロ……

 

背後から迫っていた甲冑姿の怪物は、一瞬のうちに真っ二つになり、灰と化した。

 

「油断大敵だよ、和泉守?」

 

「なぁ~に、お前が背中を守ってくれるから問題ねぇだろう、セイバー?」

 

そう言って、背中に立つ親友に笑いかける和泉守。

 

セイバーの方も、しょうがないなぁ~と言いながらも、存外悪くない顔をしていた。

 

 

 

「はぁ~、あの二人は流石だね~。俺たちいらなかったんじゃねぇかな……なぁ、蜻蛉切の旦那?」

 

ブシュッ!  バタリッ!  ボロボロ……

 

また一体、唐傘の怪物が灰と化した。その前には、片手で短刀をクルクルともてあそぶ薬研。

 

その近くでは、甲冑と唐傘の怪物の胴を一気に槍で貫いている蜻蛉切が。

 

薬研に言われ、セイバーたちの方を見ると、セイバーと和泉守の周りにはすでに怪物たちによって囲まれていた。だが、二人の表情から笑みは消えていなかった。

 

『『ガァァーー!!』』

 

「おらっ!」

 

「はぁっ!」

 

ザシュッ! ブシュッ! ザクッ!

 

ボロボロ…… 

 

囲まれ、一斉に斬り掛かられても、その怪物たちを次々と灰へと変えていくセイバーと和泉守。しかも、その動きは派手に見えるようで無駄が見えない。何より、背中合わせなのに、お互いに干渉しないギリギリを狙いながらも、互いのフォローを怠らない。

 

敵を一切寄せ付けず、勝利を勝ち取る、正に最強。

 

「ハハハ……確かにあの二人の組み合わせは、零課内でも最強ですからな。しかし、油断は禁物ですぞ、薬研どの」

 

「分かってるよ。言ってみただけ、おっと………新手だぜ」

 

スゥ……と構える薬研。蜻蛉切もそれを見て、薬研の視線の先を見る。すると森の奥から、確かに新たな気配が感じ取れる。それも数体。

 

しかもその中で、先ほど倒した怪物たちより強力な、気配を1つ感じる。

 

「(こちらが本命か……)セイバーどのっ!和泉守どのっ!」

 

蜻蛉切の叫びで、二人も新たな敵の気配を感じ取る。

 

そして、森の奥から姿を現したのは先ほどと同じ唐傘と侍甲冑の怪物。そして─────

 

「ん?…………なんだ、アイツは……?」

 

「和泉守どの……アレは一体……」

 

「お前らが見たことねぇなら、俺たちにもサッパリだよ。なぁ、セイバー?」

 

「あ、ああ……そうだね……(なんだ、一瞬胸がザワついたような……)」

 

セイバーたちも初見の敵。それは────

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

可奈美Side

 

 

タッタッ……

 

パーキングエリアから離れた森の中、可奈美たちとエレンたちの戦闘は続いていた。

 

「可奈美、まずは────」

 

「うんっ!」

 

姫和が一瞬の視線の交差で可奈美に第一目標を指示する。目標は大太刀を振るう薫に狙いを絞る。

 

まずは姫和が自慢の機動性で薫の視線を左側へと誘導し───

 

「(ここだっ!)」

 

姫和の背後、薫から死角になるところから、可奈美が彼女に刃を振り下ろした。

 

「させまセン!」

 

ガキンッ!

 

「なっ!?」

 

だがその前に、エレンが二人の間に入り込み、可奈美の一撃を受け流す。

 

「(ならばっ!)」

 

即座に狙いをエレンに変えた姫和は、直ぐさま彼女に刃を向けるが

 

「オット!」

 

それも織り込み済みだったのか、エレンの身体が金色になり、片腕であっさりと防がれてしまう。そして、エレンの口元がニヤッと笑うのが見えた。

 

「(金剛身っ!?しまったっ!)可奈美っ────」

 

「遅いデース!」

 

「きえ~~」

 

ドーンッ!!

 

シュンッ!と、迅移で可奈美たちの元から離れた。そこに気の抜ける掛け声と共に、薫の一撃が振り下ろされた。

 

パラパラ……

 

振り下ろされた一撃によって、地面がクレーターが形成し、頭上に土が舞い散る。

 

だが、その刃は標的を捉えることは出来なかった。

 

「あ……危なかった~~ 」

 

「ふぅ~………」

 

「避けたか……ちっ、今ので終わっとけとよ……」

 

「ヒュ~、なかなかヤリますね!」

 

悪態をつく薫と、素直に可奈美たちを賞賛するエレン。

 

『金剛身』。刀使の持つ能力の一つで、一時的ではあるが、身体を鋼鉄のように堅くし、防御力を高めることが出来る。

 

その金剛身と『タイ捨流』、そして体術のトリッキーな組み合わせで戦うエレン。

 

そして、一撃必殺を得意とする超攻撃的剣術『薬丸自顕流』を使う薫。

 

普通に考えれば、剣術だけでなく体術までも使うエレン相手には、距離をとって戦うのがベスト。だが、距離を開ければ、巨大な大太刀を振るう薫の一撃が襲い掛かる。

 

ならば、距離を詰めて薫を狙おうとすれば、エレンがフォローに入り、彼女のトリッキーな戦術の餌食になるか、距離を開かされる。そうなれば、また薫の攻撃が待っている。

 

まさにこの二人は、二人であって二人でない。二人で一人の刀使を思わせる。

 

「ダメだよ姫和ちゃん!この二人息がピッタリで……!」

 

「くっ……やっかいな……!」

 

「ヘヘーン!カオルとワタシはBESTなパートナーデスからね!」

 

「誰もパートナーになった覚えはねぇ」

 

「アレッ!?」

 

一見巫山戯ているように見える二人だが、その実力は本物。この二人とは、御前試合でそれぞれ戦ったことはある。

 

だがあの時は1対1での勝負。しかもエレンは体術を使っていない。

 

「(あの時は本気では無かったと言うことか……)」

 

逃亡中の身としては、このまま戦う必要は無い。隙を見て離脱するべきだが、彼女たちが素直に逃がしてくれるとも限らない。

 

ならここで仕留めるしかない。

 

「(だが、このコンビを討ち取るにはどうやって……)」

 

「姫和ちゃん」

 

「可奈美?」

 

「落ち着いて。確かにあの二人の息はピッタリ。隙なんて見えない」

 

「それは私にだって分かって────」

 

「じゃあ、なんで御前試合では勝てたの?」

 

「それは、本気を出していなかったから……」

 

そこでハッ!気が付いた。それを見た可奈美はニコッと笑う。

 

「大太刀の子の方は任せて!」

 

「良いだろう、任せた!」

 

ヒュンッ!と、迅移で一気に加速し、エレンへと迫る姫和。それを見たエレンは逆に刀を振るってきた瞬間を狙おうとし────

 

「あまいっ!」

 

「Whatッ!?」

 

ドカッ!

 

「Ouch!?」

 

刀を振るうと見せかけて、彼女の懐に体当たりで潜り込み、そのまま一気に可奈美と薫から離れた。

 

「ア~レ~……─────」

 

「なるほど……オレとエレンを引き離したか……確かにそうすればさっきみたいなコンビネーションは出来ねぇ……」

 

「そう。1対1なら、私たちの勝機は一気に上がる」

 

「ハッ、舐めんなよ……後輩っ!!」

 

「えっ、あなた中等部の1年よね?」

 

「………………」

 

薫の背丈は可奈美より、明らかに小さい。可奈美は現在中等部2年だから、自然と薫の年齢は可奈美より下に見えてしまう。

 

「…………ちだ

 

「え?なんて?」

 

オレは…………

 

プルプル……

 

「高等部の1年だぁーーー!!」

 

「えっ、ウソっ!?」

 

「ぶっ飛ばぁーーーすっ!!」

 

「あわわわ!?」

 

怒り心頭の薫は、とにかくブンッ!ブンッ!と御刀を振り下ろし、可奈美を狙う。

 

可奈美の方は、なんとかそれを避けて、隙を狙う。そして

 

「きえぇーーー!!」

 

今まで以上に振りかぶり、胴が大きく開く。

 

「(ここだっ!)」

 

「なんてな」

 

「えっ?」

 

「おりゃ」

 

薫の胴目掛け、仕掛けようとした時、薫は刃を振り下ろさず、ブーメランのように投げつけてきた。どうやら先ほどまでのは八割演技(残り二割はマジで怒ってました)。ワザと隙を作らせて、可奈美が攻撃してくる瞬間を待っていたのだ。

 

流石に予想外の攻撃に、可奈美は慌てて躱そうとして、バランスを崩し掛けた。

 

「しまった─────!」

 

やられる!そう思ったが────

 

「…………ヤベ、ねねがいるつもりで投げちまった……」

 

ポツンと立つ薫。それもそのはず、普段は“ペット”の手助けがあるからこそ、この戦法は使える。だか、当のペットが先ほどから姿を見せない。それなのに、ついいつものクセで投げてしまったのだ。

 

おかげで御刀は離れた場所で、木に刺さってしまい、御刀を手放したので写シも解けた。しかも

 

「えっと……さっきはごめんなさい!」

 

タッタッタッ……

 

可奈美には堂々と逃げられた。

 

「はぁ~………………アイツどこ行ったぁーーー!?」

 

 

 

 

「へぇ~、ワタシたちを引き離すなんて、考えましたネ~?」

 

「…………」

 

「でも、コレで勝ったと思わないで下サイよ?先日の試合では負けましたが、今度はどうでショウ~?」

 

「無論、また勝たせてもらうぞ」

 

「(ニヤリ)」

 

ヒュンッ!

 

今度はエレンから迅移で一気に姫和を間合いに入れ、刃を振るう。

 

「あまいっ!」

 

だか、それを予測していた姫和は逆にそれを弾き返し、がら空きになったエレンの胸元に突きを出す。

 

「どっちが!」

 

ガンッ!と姫和が突き出す前に、今度はエレンが金剛身を使い片腕でその刃を弾き返した。しかも、そこから片足を上げたと思いきや、そのまま姫和の横腹目掛けて蹴りを入れてきた。

 

「ちっ!」

 

なんとか迅移で回避し、距離を開けた姫和。あと一歩遅かったら、今の蹴りで写シを解かれていただろう。

 

「(それにしても、やりづらい相手だ……剣術だけならともかく、体術も使える刀使なんて聞いたことがない…………)」

 

「へぇ~、今の躱しますか……」

 

「お前、刀使と言うより格闘家だな……」 

 

「アハハッ、でも試合でやると怒られますけどネ~」

 

「(しかしどうする……なんとか1対1に持ち込めたが、長引けばこちらが不利に……)」

 

「姫和ちゃん!」

 

「来たか!」

 

そこに、薫を振り切った可奈美が合流し、これで2対1になった。

 

「カオルを倒しましたカ~……ならば、友の敵討ちデース!」

 

「いや、ただあの子が自爆しただけなんだけど……」

 

「問答無用デース!」

 

そう言って、また迅移で二人に向かって斬り掛かる。それに対抗するように可奈美も迅移でエレンの正面から迎え撃つ。

 

「(おバカさん、また金剛身で受け止めて、今度こそ決めマース!)」

 

可奈美が間合いに入る手前、全身を金剛身で強化し、可奈美の攻撃を受け止めようとした瞬間

 

「(ここだ!)」

 

ピタッ!

 

「アリャッ!?」

 

間合いに入る一歩手前、寸前で急停車をかけて、エレンとの激突を避けた。おかげでタイミングをずらされ、金剛身が解けてしまった。

 

そこに、姫和は今日一番の迅移で一気にエレンの間合いに入り、彼女の首元に刃を当て、王手をかける。

 

「お~いエレン、無事か~……って、んなわけないか」

 

そこにようやく御刀を回収した薫が合流するが、時すでに遅かった。

 

「今度は長船が刺客か。どうやってここが分かった?」

 

「エ~ト……実は─────」

 

エレンが話そうとした、その時─────

 

『ガアァァーーー!!』

 

「「っ!?」」

 

「なんだっ!」

 

森から唐傘の怪物が姫和たちに向かって襲い掛かってきた。慌てて全員迅移で距離を取ろうとしたが、怪物は一体だけでなかった。

 

『グルル………』

 

『ガァァーー!』

 

『…………』

 

同じような怪物や、侍甲冑を身につけた怪物たちがぞろぞろ出て来たのだ。姫和は胸元にしまっているスペクトラムファインダーを確かめるが、反応は無い。つまり、荒魂では無いと言うこと。

 

「おい、長船の!コイツらもお前たちの仲間か!」

 

「んなわけねぇだろう。オレたちにもサッパリだよ」

 

「SFの世界でしたっけ、ココ?」

 

「みんな、来るよ!」

 

『『ガァァーー!!』』

 

怪物たちは、何も語らず、ただ咆哮をあげながら可奈美たちに斬り掛かってきた。

 

流石にここで敵味方言ってる場合ではないので、仕方なく四人は共闘することに。だが

 

『グルァァーーー!!』

 

ガキンッ!!

 

「くっ……コイツら……強い!」

 

「姫和ちゃんっ!」

 

『ガァァーー!!』

 

「っ!このっ!」

 

ガキンッ!!

 

「(この化け物みたいなの、我流の剣だけど、相当練度が高いっ!)」

 

今まで荒魂と戦ってきた刀使にとっては、この怪物たちは異常であった。荒魂は意思は持たないただ襲い掛かる猛獣のようだが、この怪物たちは違う。対人戦に特化した剣士そのものだ。

 

しかも一体一体が練度が高く、簡単に倒せず、逆に追い込まれる。

 

そしてエレンと薫たちも

 

「ちょっとカオル~!こんなの聞いてマセ~ン!(涙)」

 

「オレに言っても仕方ねぇだろ!」

 

『ガァ!!』

 

「うるさい……デース!!!」

 

ザシュッ!!

 

『グォォーー……!』

 

ボロボロ……

 

「ホ、What……ッ!?」

 

「消えた……!?」

 

エレンがの御刀を振り下ろし、怪物を頭部から真っ二つにした。すると、解けてノロになるのかと思いきや、ボロボロと身体を崩し、そのまま消えていった。

 

やはりこの怪物たちは荒魂や人間とも違う、別の存在と言うことがハッキリ理解出来た。

 

「だったら────!」

 

加減をする必要は全くないということ。それならと可奈美は一気に攻めにかかった。すると唐傘の怪物も、対抗するかのように咆哮をあげる。

 

『ガァァーー!!』

 

「(我流で最初は動きが読みづらかったけど、よく見れば、動きは単調。なら────)」

 

ヒュンッ! スカッ!

 

『ッ!?』

 

「(ある程度の動きの予測が出来る!)」

 

唐傘が刀を振りかぶり斬り掛かろうとした瞬間、迅移で寸前で回避。それにより唐傘の動きが一瞬止まったところを、ズバッと横一線に斬り払った。

 

胸を切り裂かれ、唐傘は悲鳴をあげながら、やはりボロボロに身体を崩し、跡形もなく消えていった。

 

「よし!……みんなは……っ?」

 

「はぁっ!!」

 

ザシュッ!

 

『ガァァーー………』

 

ボロボロ……

 

どうやら姫和の方もなんとか一体倒せたようだ────

 

『グルァァー!』

 

ガキンッ!

 

「クソッ!?」

 

薫の方は、侍甲冑の怪物に押されていた。自顕流得意の一撃を放つタイミングをそう簡単に与えないよう、絶え間なく斬り掛かる侍甲冑。

 

おかげで薫は防戦一方。そして

 

『ッ!!』

 

ガキンッ!

 

「しまっ────」

 

ついに御刀を弾き飛ばされ、がら空きになった。

 

「カオルっ!!」

 

「(まずいっ!)姫和ちゃん、助けに行かないと────」

 

『『グルァァーーー!!』』

 

「ダメだ、コイツらが邪魔で─────っ!」

 

可奈美が薫の元に向かおうにも、他の怪物たちに行く手を阻まれる。そうしている間に、侍甲冑は無防備の薫に止めの一太刀をくらわそうとしていた。

 

『ガアァァーーー!!』

 

「(あっ、これ死んだな……)」

 

目の前に迫る刃。逃げようとしても、身体が言うことを聞かない。だが、何故か不思議と恐怖を感じない。いつも日々だるく感じながら生きていた。

 

面倒くさい任務、また任務、次も任務……

 

そして……

 

 

『カオル、今日はどこに行きマース?』

 

 

『カオルはもうちょっとやる気を出せば、スゴい刀使なのに、勿体ないデース』

 

 

『カオルは将来、何がしたいデスか?ワタシ?ワタシは……BerryGoodな男性と熱い恋愛がしたいデース!』

 

 

「(なんでこんな時、アイツ(エレン)との思い出が……)」

 

そんなの分かってる。

 

ここで死んだら、彼女はきっと泣くだろう。

 

そしたら─────

 

「泣き声がうるさくて眠れねぇーだろうがぁーー!」

 

『ッ!』

 

刃が迫る直前、身体を無理矢理動かし、刃を避ける。そして、弾き飛ばされない御刀の元に走ろうとするが、手前で躓いて転けてしまった。

 

背後には侍甲冑が再び薫目掛けて、刀を向けていた。

 

「(クソ……死ぬのは怖くない……でも、寝てる傍でワンワン泣かれるのはゴメンなんだよ!それじゃ、眠たくても眠れねぇんだよ!)」

 

こうなったら、白刃取りだろうとなんだろうとやってやる。とにかく、()()()()()()()()()()

 

『ガアァァーーー!!』

 

「カオルゥッ!!」

 

「コノォォーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風よっ!!」

 

「「!?」」

 

ブゥーーンッ!!

 

『ッ!……グルァッ!?』

 

刃を振り下ろした瞬間、突風が薫たちの前に吹き荒れた。その中でも侍甲冑は目を閉じながらも刀を振り下ろし、僅かに何かを切った感触を感じた。

 

だが、目の前には薫の姿は無かった。

 

「…………な、なんだ……?」

 

突然の突風で、薫も目を閉じていた。それをゆっくり開けると、同じくらいの背丈で、学生服のようなものを着た少年に抱き抱えられていた。

 

「ふぅ~……危なかった~!おい、一応助けたがケガは?」

 

「いや、別に…………」

 

「そうか……良かったな、お前のご主人、ケガは無いようだぜ?」

 

「ねねっ!」

 

ヒョコッと少年の肩から守護獣(ペット)の“ねね”が顔をのぞかせていた。

 

「ねね!?お前、今までどこに……てか、お前だれ?」

 

「ん、俺か?俺は、『薬研藤四郎』。とりあえず味方だ」

 

「そして俺たちなっ!!」

 

ビュンッ!と3人のかげが現れ、次々と可奈美たちが苦戦していた怪物たちを一掃した。それは

 

「大丈夫か、可奈美?」

 

「セイバー!」

 

「クソっ、意外と手間取った……!」

 

「和泉守!……と、お前は誰だ?」

 

「申し訳ない十条姫和どの。自分の自己紹介は後ほど……」

 

「ヘェ~、あの3人が……」

 

そこにセイバーと和泉守、そして可奈美たちは初見だが、蜻蛉切がようやく可奈美たちと合流した。

 

彼らの姿を見て、可奈美は嬉しそうにセイバーの元に駆け寄ろうとしたが、セイバーはそれを止めた。

 

「まず、助けが遅くなってすまない。それとこの怪物たちの相手もさせてしまい、申し訳ない」

 

「セイバー、もしかしてこの怪物のことを知ってるの?」

 

「衛藤、話はあとだ。一番厄介なヤツが残ってる」

 

和泉守がそう言い、刀を森の奥へと向ける。よく見ると、彼らも戦闘していたのか、ホコリだらけになっており、特にセイバーの格好はあちこち傷だらけになっていた。

 

「一体何が?」

 

「来るっ!」

 

すると、ガチャ……ガチャ……と足音が聞こえてきた。

それは─────

 

 

『A――urrrrrrッ!!』

 

 

全身真っ黒な瘴気に身を包んだ、黒い存在であった。

 

 

 

 

 


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