新・刀使ノ乱舞   作:エクスカリバー!!

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運命の御前試合

 

 

大浴場

 

 

「ふぅ~……スッゴい広いお風呂だね!」

 

「うん、流石は折神家だね……」

 

可奈美と舞衣は折神家運営の旅館の大浴場で旅の疲れを癒している。

 

現在この旅館は明日の御前試合出場選手や、その関係者、スタッフ等が利用しているが、2人は少し遅めに来たので、ほぼ貸し切り状態になっている。

 

「そういえば……昼間に会った人って平城学館の人だよね。もしかして、明日の代表の人なのかな………」

 

不安そうに呟く舞衣。彼女も可奈美同様、美濃関の代表生だが、自分は可奈美のように強くないと思い、明日の試合が不安で仕方ないのだ。

 

そんな親友の心中を察したのか、そうでもないのか、舞衣の背中を流して上げた。

 

「あ……ありがとう、可奈美ちゃん」

 

「ううん、それにしても舞衣ってホントに綺麗な体してるよね~?」

 

「///ふぇっ!?い、いきなりどうしたの!?」

 

「いや~、こうして舞衣の体を見るとね……」

 

可奈美にジロジロ見られ、恥ずかしくなる舞衣。いくら女子同士でも、自分の身体がそんなに見つめられるのは流石に恥ずかしい。

 

だが、見た目は確かに可奈美の言う通り。舞衣は中学生とは思えない体つきをしている。特に───

 

「(う~ん……やっぱり舞衣大きいなぁ……)」

 

「///か、可奈美ちゃん?私の体がどうしたの?」

 

「何でもないよ!」

 

 

大浴場で体を流した後は、部屋で豪勢な夕食が2人を待っていた。

 

見たこと無いお肉や、刺身、鍋料理で2人は旅の疲れを綺麗サッパリ忘れられた。

 

「あ~……美味しかった!」

 

「うん、なんか温泉旅行みたいで楽しいね」

 

「なに言ってるの!ホントの楽しみは明日の試合だよ!」

 

「可奈美ちゃん、ホントに剣術が好きなんだね」

 

「うんっ!剣術も好きだけど、舞衣ちゃんのクッキーも好きだよ」

 

「うふふっ、ありがとう」

 

可奈美の屈託のない笑顔、だが、それでも舞衣の心にある不安と緊張が消していなかった。

 

その原因は、明日御刀での試合だ。しかも学校の代表として出場する身なんだから、緊張するのも不安になるのもおかしいことではなかった。

 

「よし!なら、今からちょっとだけ練習しようか!」

 

「練習?」

 

「うんっ!」

 

早く、早く!と可奈美に急かされ、御刀を持った2人は庭に出た。

 

互いの正面に立ち、抜刀する。

 

「千鳥……」

 

「孫六兼元……」

 

一呼吸置き、互いに精神を集中させる。

 

「双方……写シ!」

 

『写シ』、刀使が持つ能力の1つ。御刀を媒介として肉体を一時的に霊体へと変質させ、運動機能も向上させる。

 

これに使うと、痛みと精神疲労を代償に、実体へのダメージを肩代わりできる。それが刀使たちが持つ力だ。だが、それでも無敵ではなかった。

 

意識を失ったり、一定的なダメージを受けると、写シが解除される。また写シの維持は精神力と関わっているから、写シがダメージ受け続けるとその精神も喰らえる。故に、普通写シが強制解除された場合に一時に使用者が動かなくなる。

 

「「………」」

 

集中力を高め、御刀とリンクし、自らの体を霊体化させる。

 

2人とも、無事に写シを貼れることが出来た。

 

「よし!このまま1本やろっか?」

 

「今日はいいよ。本番は明日」

 

「えぇ~……」

 

ちょっと不満そうにした可奈美だが、舞衣に説得され、大人しく布団に入った。

 

「おやすみ、可奈美ちゃん」

 

「おやすみ」

 

正直、もう少しだだをこねるかと思ったが、それからはあっという間にぐっすり眠ってしまった可奈美。

 

「Z~……Z~…」

 

「(ホント、可奈美ちゃんはブレないな……)」

 

そして彼女を起こさないように、舞衣はこっそり部屋を抜け出した。

 

 

 

旅館内 エントランス

 

 

部屋を抜け出した舞衣は、他の宿泊客や従業員も居ないエントランスにやって来た。

 

誰も居ないエントランスは静かすぎて少し不気味だが、1人になるには充分だった。

 

「明日……か……可奈美ちゃん、本気で戦ってくるよね……」

 

ふとエントランスの端にある大きな時計を見る。

 

時間はまだ夜中の11時過ぎ。まだ日は跨いでいない。

 

「………」

 

コツ…コツ…と針が動いているが、今の舞衣にとっては、いつも以上に長くも短くも感じてしまう。

 

「(緊張し過ぎかな……でも、このままじゃ眠れない……)」

 

飲み物でも飲もうか、そう考えた時────

 

「飲むか?」

 

「えっ!?」

 

1人だけだった筈なのに、いつの間にか目の前に誰かが立っていた。

 

浴衣を着ているが、自分よりも年上で白髪の青年。

 

そして手には、2本ジュース缶があり、1本を舞衣に差し出していた。

 

「驚いたか(ニコリ)?」

 

「えっと……ありがとうございます。お金は───」

 

「いいよ、俺が勝手にお前さんの分を買っただけだ」

 

そう言って、白髪の青年は舞衣から少し離れた椅子に座り、ジュースを開ける。

 

舞衣も渡されたジュース缶を開け、一口飲む。

 

冷たいオレンジジュースが舞衣の喉を潤す。

 

そして、そのジュースを渡した青年をチラリと見る。見た目は高校生……いや、もしかしたら大学生かもしれない。

 

現在この旅館には明日の出場選手と大会スタッフしか宿泊してないはず。

 

いや、そう言えば簡単な仕事を行うスタッフをバイト募集をしていたと聞いたことがある。彼もその1人か?

 

「お前は明日の試合に出るのか?」

 

「えっ……は、はい。美濃関代表です……」

 

いきなり声をかけられ少し驚く舞衣。チラチラ見ていたのがバレたのか、少し恥ずかしい

 

「そうか……だが、夜更かしなんてして大丈夫なのか?」

 

「えぇ……ちょっと寝付けなくて……あなたは大会スタッフの方ですか?」

 

「スタッフ……まあ、一応……」

 

一応、と言う事はやはり正規のスタッフではなく、バイトの方なのだろうか。

 

「ただ俺は同室のヤツのいびきがうるさすぎて眠れないだけだ……」

 

今頃グッスリ眠っているだろう同室のヤツ(村正)に腹を立てる青年(鶴丸)

 

「まぁ、緊張し過ぎで眠れないお前さんの方が辛いよな?」

 

「えっ……どうして……」

 

「驚くこともないだろう、そんな深刻そうな顔をしてたら誰だって分かるぜ」

 

そこまで分かりやすい顔をしていたのか?そう思うとまた恥ずかしくなってしまう。

 

「確かに大きな戦を前に緊張するなって言う方が無理だよな……だから、お前さんのその気持ちは正しい。だがな、何時までもそんなんだと、対戦相手もそうだが、共に戦ってくれてる刀にも失礼だろ?」

 

何故だろう、初対面の筈なのに、彼の言葉には重みがあると言うか、説得力を感じる。

 

「本気で試合に出たいなら出れば良い。だがもし、本当に無理なら辞退すればいい。お前さん自身の選択でありお前の人生だ。好きにすれば良い。だが、()()()()()()()()

 

「後悔……」

 

「選択は自由だ、だが後悔だけはするな。その道を選んだのは、間違いなく自分なのだからな」

 

「………」

 

何故だろう。彼の言葉はまるで自分にではなく、別の誰かにも言っているような気がする。

 

「おっと……見知らぬヤツに言われてもしょうがねぇか……」

 

恥ずかしそうにポリポリと頬をかく青年は空になった缶をゴミ箱に入れると、自分の部屋に戻ろうとした。

 

「あの……!」

 

「ん、どうした?」

 

「ありがとうございました!」

 

そう言って、舞衣は青年に頭を下げる。青年も頑張れよ、と最後に一言言って去って行った。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

翌朝 折神家本家

 

 

「………」

 

長い髪をなびかせ、凛々しい顔つきを持ちながら、強者の威厳を感じさせる女性が1人、折神家本家の山奥、洞窟内に造られた社に1人立っていた。

 

その名は『折神 紫』。既に年齢は30代だと言うのに、現最強の刀使の名を持つ。

 

そして、祭殿に舞を奉納を終えた紫は御刀を2本差し、社を出ようとした。その時

 

「何の用だ……」

 

足を止め、出入り前にいる者を睨みつける。

 

『ナアニ、オ主ノ様子ヲ見ニ来タダケダ』

 

そう言う者は異常としか言えなかった。

 

まず全身が黒い瘴気のようなものに包まれ、鎧甲冑を着ているが、人間の2倍近の巨体を持ち、顔は鬼そのものであった。

 

「くだらん要件なら、斬り捨てるぞ……」

 

『マァ、ソウ邪険ニスルナ……我々ハ、目的ハ違エド、今ハ同志デアロウ。ナァ折神紫……イヤ、ソレトモ別ノ呼ビ方ガ良イノカ?』

 

「好きにしろ……それより、お前が言っていた『零課』という組織だが……未だに掴めない。本当に存在するのか……?」

 

『アァ……我々ハソノ零課と敵対シテイル。勿論、オ主ノ味方デモ無イ。早ク見ツケ出シ、始末シタ方ガ良イ』

 

「まあいい……引き続き情報を集める。その代わり────」

 

『アァ、何時でも我々ハ力ヲ貸ソウ。全テハ、我々ノ望ム世界ノタメニ……』

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

御前試合会場内 受付近く

 

 

いよいよ御前試合当日となり、普段はそこまででもなかったのに、今日は様々な人でいっぱいになっている。

 

試合出場の各学院の代表生徒たちとその関係者。

 

試合に使われる備品を運んだり、出場の受付、他の部署に連絡をまわす会場スタッフたち。

 

試合審判員や、刀剣類管理局の高官や、警察関係者など様々な人が見える。

 

それぞれ慌ただしく動いていたり、立ち話をしたりしていたが、その中でまるで人形のように、隅で誰かを待っている者がいた。

 

周囲は彼女を見てヒソヒソ話している。

 

それもそのはず、彼女の着ている制服は伍箇伝のどれとも違う。

 

焦げ茶色に近い制服、それを着るのを許されているのは、彼女を含めてたったの4人だけ。

 

大会などで優秀な成績を収めた者の中で、特に優秀で折神家への忠誠心のある者達。それが『折神紫親衛隊』であり、彼女がそのうちの1人、『皐月(さつき) 夜見(よみ)』である。

 

感情を読めない無表情の彼女は一体誰を待っていたかというと─────

 

「夜見さん!遅くなってしまってすいません!」

 

彼女の姿を見つけ駆けよって来たのは、スタッフ用の制服を着た白髪の青年。

 

「いえ、私も今し方来たところなのでお気になさらず」

 

まるでデート前のカップルのような会話をする2人に、周囲の者達は更に驚く。

 

「こちらこそ、会場スタッフのバイトを引き受けてくださり、ありがとうございます。()()さん」

 

『菊一』と呼ばれる青年はいえいえ、と答える。そもそも彼も、()()()()()()()()()()()()()()

 

「まあ、親衛隊の皆さんの仕事と比べると大した仕事ではないですが……」

 

「いえいえ、菊一さんたちスタッフの方々が頑張って下さるからこそ、私たちも親衛隊の仕事を十全に果たせますし、御前試合も無事に行えます」

 

「そう言って貰えるとありがたいです。あ、そうだ……」

 

菊一は持っていたランチボックスを彼女に手渡す。

 

「これ、ちょっとした差し入れです。休憩している真希さんたちにもこれを渡してくれ」

 

「お忙しいのにありがとうございます、獅童さんたちも喜びます」

 

そう言いながら受け取るも、その表情に変化が見えない。

 

相変わらず無表情だなぁ…と思いつつも、彼女らしいとも思う菊一。

 

「では、僕はそろそろ仕事の方に戻ります。真希さんたちによろしくお伝え下さい」

 

「分かりました」

 

そして、菊一が去って行くのを見送り、皐月も自分の持ち場に戻りながら、菊一から受け取ったランチボックスを大事に、嬉しそうに胸に抱えた。

 

 

 

ブゥ~ン…ブゥ~ン…  ピッ

 

「はい、もしもし」

 

『俺だ、和泉守だ。用事は済んだのか?』

 

「はい。これから持ち場に戻ります」

 

『ホントに親衛隊のヤツらと仲良くしてんだな……大丈夫なのか。今回の件でお前は────』

 

「和泉守さん、覚悟なら出来てます。たとえ彼女たちと刃を交える事になっても……たとえ彼女たちとの縁が切れようと……僕は、彼女たちのために、戦います」

 

そう強く、まるで自分に言い聞かせるように電話相手に宣誓する菊一こと、菊一文字。

 

『そうか……悪かったな、余計な事言って……こっちは少し会場内を調べる』

 

「了解しました。お気を付けて」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

御前試合 決勝戦会場

 

 

「うわー!凄ーい!広ーい!」

 

立派な日本庭園のようにも見える会場を見た可奈美は昨日大きな正門を見ると同じ反応をする。

 

「流石、御前試合の決勝戦会場だけあるね」

 

「よーし、ここを目指して頑張ろうね、舞衣ちゃん!」

 

「うんっ!」

 

「そこのお嬢様方」

 

決勝戦会場を見て、新たに決意する2人に、1人の青年が声をかけた。

 

「申し訳ないが、お手洗いの場所を教えて貰えないかな?会場が広くて……」

 

黒スーツの青年が申し訳なさそうに2人に尋ねた。

 

確かに地図が無いと、この広い会場ではトイレを探すのも一苦労だろう。

 

「構いませんよ。えっと……お手洗いは武道館に入って右奥の廊下の先にあるのと、2階の廊下にそれぞれありますね」

 

会場内の構造はあらかた覚えていたが、一応会場スタッフから渡されていた地図を見せながら舞衣が青年に丁寧に教えた。

 

「ふむふむ……なるほど、ありがとう。助かるよ」

 

「いえ……可奈美ちゃん、どうしたの?」

 

先ほどから黙っている可奈美。いつもの彼女なら、舞衣と一緒に青年にトイレの場所を探してくれるはずなのに。青年の顔を見て、ずっとぼぉーとしていた。

 

「ん?私の顔に何か付いているのかい?」

 

「あの……前に私と会ったことありませんか?」

 

「いや……今日が初対面のはずだけど……?」

 

「可奈美ちゃん……?」

 

「…………」

 

何故か分からない……だが、この蒼い瞳を……この人と……知ってるような気がする。

 

「では、私はこれで」

 

そう言い残し、青年は武道館の方へと行ってしまった。

 

「可奈美ちゃん、あの人と会ったことがあるの?」

 

「分からない……でも、どこかで……まあ、いいや!さあ舞衣ちゃん、私たちも行こっ!」

 

「あっ、待ってよ可奈美ちゃんっ!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

武道館内 自販機エリア

 

 

ガタン…

 

「はぁ~……やっぱ、会場内の警備はしっかりしてるみたいだな……」

 

自販機の取り出し口から緑茶のペットボトルを取り出す和泉守。

 

先ほどまで会場内を廻り、どのような警備体制が敷かれているか確認していた。

 

流石は折神家。御前試合会場と言うこともあるが、本家もあると言うことで、全ての出入りは多くの警官と警備員でガッチリ守られている。

 

監視カメラも至る所にあるので、下手な行動は出来ない。普通ならば。

 

「(現代ってすげぇな……こんなもんで監視の目を誤魔化せるとは……)」

 

そう思いながら、チラリとポケットに隠し入れてる小さな黒い四角形の物を見た。

 

和泉守は会場内を周りながら、幾つかの監視カメラにこの四角形を取り付けていたのだ。

 

「(さて……仕掛けも済んだ事だし、そろそろセイバーと合流────)」

 

「っ!」

 

「おっと!悪ぃ……な……」

 

「いや、こちらこそ」

 

ペットボトルを握りつぶし、ゴミ箱に捨てようとした瞬間、誰かとぶつかりそうになった。

 

何とか躱し、一言謝ろうとその人物の顔を見たとき、和泉守の心臓が止まりそうになった。

 

その相手は平城学館の制服を着ており、長い黒髪で、鋭い目つきの少女。

 

「(コイツが、『十条 姫和』か……)」

 

ペットボトルをゴミ箱に入れながら、チラリと姫和の方を見る。

 

姫和は和泉守の事はまるで気にせず、自販機に売ってる飲み物を選んでいた。

 

例の少女に何の前触れも無しに出会い、驚いてしまったが、何とか自然に振る舞うことが出来た。

 

「(それにしても、よくよく見ると可愛いな……見た目は母親似だろうが、どことなく父親の面影がある……)」

 

まぁ、そんなことよりも、仕事をしないと。そう思い、和泉守はサッサとその場を後にした。

 

そして彼女の方はと言うと…

 

「………チョコミントジュース……無いなぁ……」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

武道館内

 

 

準決勝戦まで行われるこの会場内。

 

その中心、折神家の紋章とトーナメント表が大きく飾られている場所の近く。

 

試合全てを見渡せる場所で1人の刀使が会場全体を見渡していた。

 

平城学館であるが、親衛隊第一席でもある『獅童(しどう) 真希(まき)』である。

 

彼女の姿が見えると、平城以外の刀使でも、彼女の姿に興奮してしまう。

 

彼女はこの御前試合に2連覇という偉業を成し遂げ、親衛隊第一席の地位を獲得したのだ。

 

「今年は中等部の年少者の方が多いですわね」

 

その後ろから声をかけたのは、親衛隊第二席『此花(このはな) 寿々花(すずか)』。言葉遣いだけでなく、名家の令嬢なのだ。

 

「御刀の適性率は年少の方が高いと聞く。次世代になったと言うことさ」

 

「あら、前世代は2連覇を成し遂げた真希さんが終わらせたとでも?」

 

「僕はそこまで自惚れてない。寧ろ───」

 

()()()()を見るとそう感じられずにいられなかった。

 

『結芽』と言うのは、親衛隊の最後のメンバー。第四席の『(つばくろ) 結芽(ゆめ)』。親衛隊では一番最年少でもあるが、第一席の真希さえも凌ぐとされるまさに『天才』。

 

そんな彼女も今は、美味しそうにサンドイッチを頬ばっていた。

 

「ん?()()()()()()?」

 

「はい、真希さんもどうぞ」

 

そう言って、真希にもサンドイッチを手渡す寿々花。もちろん彼女の手にも自分の分があった。

 

武道館内は一部を除いて飲食禁止。もちろん彼女たちも例外ではない。

 

真希も注意しようとしたが

 

()()()()からの差し入れですわ。夜見さんが預かっていたそうです」

 

()()()()?」

 

ならば仕方ない。せっかく自分たちのために作ってくれた差し入れを無下にするわけにはいかない。

 

なにより、()()()()()()()()()()

 

「じゃあ、1つ………美味いな、このカツサンド」

 

「あら、こちらのベーコンレタスサンドもいけますわよ?」

 

「えぇ~、このイチゴサンドだよ~?」

 

「いえ、このツナマヨサンドが一番です」

 

いつの間にか集結し、どのサンドイッチが一番か話していた親衛隊。こうしてみると、年相応の少女たちに見える。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

「礼っ!………双方、構えっ……写シ……始めっ!」

 

定刻通り、開会式は行われ、一試合ごとに試合が始まった。

 

流石は伍箇伝代表に選ばれただけあって、皆その実力が高い者ばかりであった。

 

刀使たちは写シを張るだけでなく、短時間のみ、外の時間から切り離され高速移動出来る『迅移』、一時的に筋力を向上出来る『八幡力』などの技を使い戦う。

 

 

そのため、迅移を使い短時間で決着をつける者。

 

 

八幡力で力押しする者と様々のあった。

 

 

 

そして、時間はあっという間に過ぎ、準決勝戦まで進んだ。

 

既に1人は決まっていた。平城学館代表の『十条姫和』。

 

もう1人はこれから行われる。その対戦は同じ美濃関同士のぶつかり合い

 

可奈美と舞衣の対戦である。

 

「あ~、可奈美と舞衣の対決か!」

 

「今までの試合の中で一番ドキドキするよ!」

 

「可奈美ー!舞衣ー!どっちも頑張れぇー!」

 

応援に来てくれた仲間たちの声がよく聞こえる。

 

彼女たちの言う通り、舞衣も今までの試合の中で、これほど緊張し、同時に心が落ち着いた言葉無い。

 

相手は親友である可奈美。今まで勝った事は片手で数えるくらいしか無いが、彼女との対決は全て覚えている。

 

彼女の戦い方、クセは全部分かってる。

 

だがそれは可奈美も同じ。舞衣とは練習試合だけでなく、ずっと辛い稽古を共に乗り越えてきた。

 

美濃関での代表戦だって、ギリギリ勝てた。彼女の実力も相当のもの。

 

だからこそ─────

 

「「(絶対に負けたくないっ!!)」」

 

「礼っ!………双方、構えっ……写シ……始めっ!」

 

審判の合図と共に、少しの間、2人は微動だにしなかった。

 

「(可奈美ちゃんは強い……特にここ最近は私なんか足下にも及ばないくらい……)」

 

「(舞衣ちゃんの明眼はそう簡単に崩せない……誘いをかけて、技を打ち込んだところを狙うか……)」

 

「(私の手の内は全部知られてる……けど、()()()()()─────)」

 

スゥ…

 

「えっ!?」

 

「(可奈美ちゃんが知らない、私が可奈美ちゃんへの秘策っ!)」

 

舞衣が御刀を納刀したかと思いきや、両膝をつき、居合いの構えを取った。

 

それは対戦相手の可奈美だけではない、美濃関の仲間たちや、他の刀使たちも驚いた。

 

居合いを使う刀使なんて歴史上居たかもしれないが、滅多に居なかったのだ。

 

「(これが……舞衣ちゃんが私への切り札……)」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

観客席入り口付近

 

 

「ほぉ~……居合いか……中々思い切った事するねぇ~……」

 

スタッフ用の制服を着た青年、鶴丸が壁に体を預けながら、試合を見ていた。

 

そこに、スーツ姿のセイバーがやって来た。

 

「珍しいね、鶴丸が刀使の試合を見るなんて」

 

「驚いたか?……セイバーこそ、こんなとこに居ても良いのか?」

 

「会場内はもう見て回った。後は決勝戦を待つだけさ。ん……彼女たちは……」

 

そこで、セイバーは準決勝戦に誰が出ているのか分かった。トイレの場所を教えてくれた美濃関の刀使たちだった。

 

「2人とも、いい目をしてるな……何時の時代も、女の子は強い子ばかりだな……」

 

「それは経験談か、セイバー?」

 

「まぁね……」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「(やっぱり舞衣ちゃんは凄いなぁ……ホントにいつもドキドキさせてくれる!)」

 

「(私は、私のやり方で可奈美ちゃんに追い付くっ!)」

 

居合いの舞依に対し、可奈美は御刀を振り上げ、上段の構えを取る。

 

それからは、また2人だけの睨み合いが続く。

 

そして────

 

「っ!!」

 

「(来るっ!)」

 

迅移で真っ正面から斬り込む……と見せかけ、一気に背後に回り込む可奈美。

 

だが、それは舞衣は予想出来た事。

 

可奈美が刃を振り下ろす前に、彼女の胴を一閃しようと、即座に振り返り御刀を抜刀する。

 

「(早いっ!!)」

 

「(取ったっ!!)」

 

この勢いなら、可奈美の刃より舞衣の刃が早い。

 

この勝負、舞衣の────

 

「(でもっ!!)」

 

バシッ───!

 

「なっ!?」

 

寸前のところで、可奈美は舞衣の手を掴み、刃の勢いを止めた。

 

 

 

「ほぉ……」

 

「へぇ~……やるじゃん、あのお姉さん……」

 

 

 

「終わったな……」

 

「ああ、あの子の直感能力は相当のものみたいだな」

 

 

 

「(くっ……!)」

 

「(ごめん、舞衣ちゃん。私だって勝ちたい……勝って、決勝戦であの子(十条姫和)と戦いたい!)」

 

そして、可奈美は真っ直ぐ舞依に刃を振り下ろした。

 

 

「────そこまでっ!勝者、衛藤可奈美!」

 

「……決勝、頑張ってね。可奈美ちゃん!」

 

「うんっ!!」

 

 

 

試合が終わり、決勝戦まで少し時間が開く。

 

可奈美から居合いに関する質問攻めから何とか逃れだ舞衣は1人、武道館の端の廊下にいた。

 

「(あ~あ……負けちゃった……)」

 

今日まであの居合いの腕を高め続けてきた。

 

欲を言えば、もっと鍛錬をしておけば良かったと思うところだが、不思議とそんな考えは出てこなかった。

 

逆に、先日からのモヤモヤが綺麗に無くなり、スッキリしていた。

 

「なんでだろう……ホントは勝ちたく無かったのかな……」

 

「それは違うぜ」

 

突如声をかけられ、その方向に向くと、缶ジュースを放られ、慌てて受け取った。

 

そしてその缶ジュースは昨夜と同じオレンジジュース。そして先ほどの声は─────

 

「貴方は……」

 

「よっ。さっきは残念だったな」

 

スタッフ用の服を着ているが、間違いなく昨夜出会ったあの青年だった

 

「お前さんは間違いなく勝ちたかった。試合に出て、とっておきの居合術を使って勝ちたかった。その選択を選び、全力でぶつかった。だから今、驚くくらい清々しい気分なんだろう?」

 

そうだ。ホントはまだ完璧じゃ無い居合い術を使うべきか、選択に迷っていた。

 

だが青年のおかげでその選択を選んだ。

 

それでも可奈美の実力の方が勝っていた。

 

でも、おかげで少しは彼女に近付けたかもしれない。何故なら────

 

 

『舞衣ちゃん、居合いなんていつ覚えたのっ!?私ビックリして力抜けそうになったよ!それに全然使いこなせてたし、一瞬負けるかと思ったよ!』

 

 

可奈美のあの反応を見れば、それはそれで成果はあった。

 

「そっか……だから私……」

 

「それに負けは負けだが、結構格好良かったぞ」

 

「/////っ!!」

 

そう率直に褒められて、舞衣もついつい顔を赤く染めてしまう。

 

「それじゃ、俺は仕事に戻る。サボってると叱られるからな……」

 

主に、相方(村正)を怒らすと後が怖い……

 

「あ、あのっ!」

 

その場を立ち去ろうとする青年に、舞衣は声をかける。

 

「ありがとうございました」

 

「どういたしまして」

 

そうして、青年はどこかへ行ってしまった。

 

不思議な人であったが、会えるならまた会いたい。

 

そう思う舞衣だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

御前試合 決勝戦会場

 

 

会場内は多くの刀使たちや刀剣類管理局関係者でいっぱいになっていた。

 

そして、その決勝戦に出る可奈美に、美濃関の仲間たちからの激励を受ける。

 

「ここまで来たら優勝だよ!」

 

「頑張ってね!」

 

「可奈美、勝ってね!」

 

「ありがとう、美炎ちゃん。みんなも……頑張るよ!」

 

その時

 

「見て、紫様よ!」

 

「御当主様だわ……」

 

「相変わらず凛々しくて素敵ね……」

 

試合場から真っ正面、貴賓の観覧席となる御殿の奥から折神家当主、折神紫が出て来たのだ。

 

二十年前、荒魂が引き起こしたある災厄を沈めた英雄の登場に会場内は静かに興奮を高めた。

 

「うわ~!御当主様の前で試合するんだね、可奈美」

 

「ヤバい……すっごく緊張してきた……!」

 

「「今さら、何言ってんの?」」

 

「あれっ!?」

 

 

平城学館側では、代表の1人は折神紫の登場に興奮していたが、もう1人は

 

「十条さん、紫様だよ!」

 

「えぇ、そうですね……(折神……紫……)」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

御殿から折神紫が姿を現し、会場内の陰に隠れているセイバーは注視する。

 

 

「彼女が折神紫か……『大災厄』の英雄か……」

 

ピピッ…

 

『こちら和泉守。折神紫を確認した。そっちはどうだ?』

 

「こちらセイバー、僕も確認した。決勝戦出場者2名も見えてる」

 

『確か十条姫和と……衛藤……衛藤可奈美だったか?』

 

「そう。衛藤可奈美の方は特に注視しなくても良いだろう。問題は十条姫和の方だ」

 

『分かってるよ。願わくば、普通に試合して欲しいな……』

 

「確かに……そろそろ試合が始まる。準備を……」

 

『了解』

 

ブツンッ…

 

「さて……任務開始……」

 

 

◇ ◇ ◇  ◇ ◇

 

 

「これより決勝を始めます。選手は前へ!」

 

「「はい」」

 

審判の元、可奈美と姫和は会場の中心の試合場に立つ。

 

可奈美は今まで危ない勝ち方をしてきているように見えるが、咄嗟の判断力と反射神経で勝利をものにしてきた。

 

一方姫和は小回りの効いた動きと相手の隙を見逃さない観察眼で確実な勝ち方をしてきた。

 

「(この勝負、長引くかも……けど、絶対負けないっ!)」

 

「(ようやくここまで来た……)」

 

「お互いに、礼っ………構え………」

 

「「………」」

 

お互いに頭を垂れて相手に向き、抜刀し、構える。

 

可奈美は真っ直ぐ姫和を見ているが、心なしか姫和の方は別の何かに意識を集中しているように感じる。

 

「写シ……」

 

写シを張る可奈美は決勝戦のドキドキと同時に、妙な胸騒ぎを覚える。

 

「(なんだろう……ワクワクとは違う……)」

 

「始めっ!!」

 

審判の合図と同時に、姫和は重心を落とした『車の構え』をとる。

 

それに対し可奈美は、臨機応変を身上とする『無行の位』。

 

互いに古流とされる剣術の構えだが、あり方は真逆だ。

 

そして─────

 

 

会場全てに衝撃が走る─────

 

 

姫和の姿が試合場から──────

 

 

消えた────

 

 

ガキンッ!!

 

 

「────それがお前の()()()()()か?」

 

 

「────っ!?」

 

 

次に姫和の姿を現した場所は折神紫の前。

 

彼女に刃を振るい、それを防がれていた。

 

「(ならば、もう一度────)」

 

「させんっ!」

 

ザシュッ!

 

「くっ……!?」

 

もう一度、紫に斬り掛かろうとしたが、今度は背後から真希に斬られ、写シが消えてしまった。

 

そして今度は、自分が真希に斬られそうになり、目を閉じようとしたその時

 

ガキンッ!

 

「迅移っ!」

 

「……っ!」

 

可奈美が2人の間に割り込み、それを防いだ。

 

それと同時に、姫和は迅移でその場を離脱。可奈美も後に続いた。

 

夜見が後を追おうとするが

 

「構わん、追うな」

 

夜見、真希、寿々花は指示に従ったが、1人だけ違った。

 

「アハハ!」

 

「なっ!?待て、結芽!」

 

結芽だけは、2人の背後から回り込み、2人の正面に立ち御刀を抜く。

 

「私とも遊ぼうよ?」

 

「(くそっ!)」

 

「(やるしか……!)」

 

戦うしか無い。そう判断しようとした時────

 

「どりゃぁっ!!」

 

 

ドォーーーン!!

 

 

今度は別の何者かが3人の間に割り込むように刀を地面に叩き込んだ。

 

すると、その衝撃で会場全てが土煙で覆われた。

 

「ゴホッ……ゴホッ……な、なん────」

 

「ほら、ボサッとすんな!行くぞっ!!」

 

「なっ!?お前はだれ────」

 

何者か問う前に、ガシッと脇に抱え込まれてしまう姫和。

 

「いいから、逃げるぞっ!!」

 

「ま、待って!私もっ!」

 

何者かが姫和を抱えて会場を抜け出したのを感じた可奈美も、その後を追った。

 

そして、結芽も

 

「もぉ~、逃がすと思う?」

 

「悪いが逃げさせて貰う」

 

「ん?」

 

3人の後を追おうとした結芽の前に、別の誰かが立ち塞がっていた。

 

まだ土煙でよく見えないが、蒼銀の騎士甲冑がうっすらと見えた。

 

「誰よ、あんた?」

 

「通りすがりの騎士だ」

 

すると、蒼銀の騎士は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、今度は突風が舞い上がり、結芽の目を閉じさせた。

 

「この……っ!?」

 

風が止み土煙が晴れると、もう彼等の姿は煙のように消えていた。

 

 

 

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