新・刀使ノ乱舞   作:エクスカリバー!!

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隠れ家

 

 

セイバーたちが用意していた“隠れ家”に来てから2時間ほど経った。

 

1階フロアに大浴場があるのだが、姫和が断固として室内のシャワールームにすると言ってきたので、各自順番にシャワーを浴びた。

 

「ふぅ~、サッパリした~」

 

「前から思ってたけど、和泉守は髪が長いから大変だろう?」

 

「そうですよね。和泉守さんって、男の人なのにけっこう伸ばしてますよね」

 

「中々格好いいだろう?なぁ、十条」

 

「別に……(私よりツヤが良い……なんか悔しい)」

 

 

その後、部屋に運び込まれた夕食をいただいた。昨日の折神家の旅館ほど豪華ではないが、量も味も申し分なかった。

 

「うん、美味しいね、姫和ちゃん!」

 

「食事くらい落ち着いて食べろ」

 

「なぁセイバー、沢庵くれ」

 

「和泉守、結局みんなから沢庵貰うの?」

 

 

食器をさげて貰った後、姫和は御刀を抜き、精神を集中させる。

 

スゥゥーーーー………

 

「どうだ、十条?」

 

「ああ……まだそう長くはないが、写シくらいは張れそうだ」

 

「あ!その御刀、鋒の胸側にも刃があるね」

 

“元”対戦相手だった可奈美は御前試合ではよく見えなかったが、姫和の御刀が普通のものと違うことに気付いた。

 

姫和の御刀である小烏丸は『鋒両刃造(きっさきもろはづくり)』、別名『小烏丸造り』と呼ばれている。

 

「へぇ~……それで()()()、突き技だったんだね」

 

「あの時?」

 

「ほら、御当主様に止められたあの技だよ」

 

「「っ!!」」

 

可奈美は特に深い意味で言ったわけではないが、姫和やセイバー、和泉守は違った。

 

「……衛藤さん、君はあの技が見えていたのか?」

 

「っ!まさかお前たちも……!?」

 

「えっと……?なんとか?」

 

「……へぇ~、普通の人なのに、あの技がねぇ……」

 

参ったな……と何やら冷や汗をかいているような和泉守と、何か考え込むセイバー。

 

しかし可奈美の方は、姫和の剣術のことを思い出したのか、テンションをあげていき

 

「もちろんあの突き技も凄かったよ。あんな早い迅移見たことないよ!あと、他の新當流の技も見たかったな。特に金髪の子との試合で使ったのって─────!!」

 

目をキラキラと輝かせ話す可奈美。和泉守は少しその勢いに引いているが、姫和はホントに何者なんだと、彼女を見ていた。

 

それはセイバーも同じであった。

 

「(衛藤可奈美……か、少し調べてみる必要があるな……)」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

刀剣類管理局本部

 

 

既に日は落ち、外は暗くなった時間帯。しかし本部内はまだ局員たちはあちらこちらにいる。

 

清掃員も、彼らの邪魔にならないように端からモップをかけている。

 

「それにしても、手荒な事せんで欲しいなぁ……」

 

「そうですね……」

 

本部の中央階段を降りながら、羽島学長と五條学長は先ほどまでの紫との会話を思い出していた。

 

つい先ほど、衛藤可奈美と十条姫和の両名を確保ため、美濃関、平城の両学長は管理局本部にて、その協力を命じられたのだ。

 

つまり、しばらく学院には戻れず、ここにいる事になったのだ。

 

「そういえば、鎌府女学院が協力を申し出ているようです」

 

羽島学長がそう言うと、五條学長は更に頭を痛める。

 

「ハァ~……雪那ちゃんが絡むとなると、余計にややこしなるな~……」

 

どうなることやら…と本部の入り口を出た瞬間  

 

「羽島学長!」

 

「柳瀬さん?」

 

2人の前に、舞衣が待ち構えていた。

 

「あなた、もう取り調べは終わったんじゃ────」

 

「お願いがあります」

 

「「?」」

 

綺麗にお辞儀をする舞衣。一体何を?と思ったとき

 

「私に、衛藤さんの捜索の許可を下さい!」

 

 

「へぇ~……」

 

そして、3人の様子を本部内からガラス越しでこっそり眺める清掃員が1人。

 

「これは驚いたな……やるじゃねぇか、あの子」

 

これはあとで報告しないとな、そう思いながら怪しまれないように清掃を続ける鶴丸であった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ハァ~……何が悲しくてこんなむさ苦しい野郎どもと同室で寝なきゃならないのかな~」

 

「はっ、はっ、は!たまにはよいではないか。同じ任務についた者たち、交流を深める意味で」

 

「そうだな!たまにはこういうのも悪くないな!」

 

「暑苦しい奴と爺さん、それと無口の奴じゃなかったらな」

 

「………」

 

ブツブツ文句を言う善逸と、カラカラと笑う三日月、ワッハッハ!と笑う杏寿郎。そして相変わらず無表情の義勇。

 

現在彼らは赤羽刀調査隊監視のため、刀剣類管理局に少し近く小さな宿泊施設の一室にいる。

 

セイバーたちの“隠れ家”と違い、男4人には少し狭い部屋で、シャワーは部屋の中のものだけで、食事は自力で、というホントに軽い宿泊施設にいる。

 

「あぁーー!なんで俺たちはこんなとこで泊まることになったんだよ!?審神者が用意してくれた“隠れ家”は!?」

 

「それは言ったであろう善逸。我らが本来泊まる予定だった隠れ家は、たまたま改装工事中。主も全く知らなかったので、責めるのも御門違い。そうなれば、我々が自力でどうにかするしかない」

 

「そうして見つけたのがここだったと言うわけだ!なに、野宿よりマシだろう?」

 

「うぅ……確かに……」

 

「(付け加えるなら、俺たち全員、全然金を持っていなかったのもあるが……それは言わないでおこう……)」

 

「ん、どうかしたか富田?」

 

「何でもない」

 

 

その後、義勇が買ってきたコンビニ弁当の取り合いで、また部屋の中は騒がしくなった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

『舞衣お嬢様、先ほど送っていただいた音声データの解析が終わりました』

 

管理局本部近くに留めてある車の車内で、舞衣は実家にいる執事に先ほどの可奈美との通話記録を送り、発信元を調べて貰った。

 

『端的に申しますと、相手は我々が思う以上の者たちかもしれません』

 

「どういうことですか?」

 

『回線が海外のものを幾つも経由しており、ダミーも幾つかありました。ここまで周到な手を、衛藤様がするとは思えません』

 

執事の言う通りなら、確かに可奈美の仕業ではない。となると十条姫和か、もしくは────

 

『ですが、なんとか都内のある範囲までは特定出来ました。その範囲内で隠れられる施設は五カ所』

 

それから執事からそれぞれの場所の住所を聞き、更に父親のツテから警視庁の人間を数名、協力して貰うことになった。

 

執事との通話を切り、舞衣は運転手に五カ所のうち一カ所の住所を伝え、車を向かわせた。

 

「(可奈美ちゃん……待ってて……)」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

セイバーたち宿泊の“隠れ家”

 

 

時刻はもうすぐ22時を迎えようとしていた頃、セイバーや可奈美たちは布団を敷き眠ろうとしていた。

 

ただし、年頃の少女がいるのでセイバーと和泉守はテレビがある方の部屋で。可奈美と姫和は隣の部屋に布団を敷き部屋の電気を消した。

 

零課組の方は直ぐに静かになったので、もう寝てしまったのだろう。

 

刀使組は布団には入っているが、未だに夢の中には入っていなかった。

 

目を閉じてはいるが、まだ起きている。ただ黙っているだけ。

 

そんな時、姫和が口を開く。

 

「………ホントに何も聞かないんだな」

 

「何もって……?」

 

「私が折神紫の命を狙った理由」

 

「それが、姫和ちゃんのやり遂げなきゃならないこと……?」

 

「そうだ」

 

そっか…、可奈美はそれだけしか答えない。姫和としては、そうペラペラ喋りたい訳ではないので、それはそれでありがたいが少し調子が狂う。

 

「姫和ちゃんが話したいとき、話してくれれば私はそれで良いよ」

 

「あの2人以上に、お前も変なヤツだな……」

 

そして、ようやく2人は完全に目を閉じ、寝静まった。

 

 

「………確かに、俺たち以上に変なヤツだな、衛藤は」

 

可奈美たちが寝ている隣の部屋、セイバーたちの方は布団は敷いているが、その上に座り、タブレットの明かりだけで、今日の報告書を作成していた。

 

「そうだね。けど、彼女のような人間が1人くらいいた方が、楽しい」

 

彼女が起きないように、声を小さくして話す2人。

 

隣の彼女たちに気付かれないように静かに報告書を作りながら、2人は明日は如何するかを相談しようとした時

 

「「っ!!」」

 

部屋の扉の外に気配を感じる。和泉守は刀を手にし、可奈美たちが眠る部屋の前にササッと移動し部屋を守る。

 

セイバーはゆっくり扉の前に立ち、覗き窓から外を見る。そこには旅館の従業員が部屋の前に立って、ノックをしようとしていた。

 

コンコン…

 

「夜分遅くにすいません、お客様。少し宜しいでしょうか……?」

 

「………」

 

セイバーは和泉守に視線で問題無いか?と、尋ねると和泉守は可奈美たちの部屋の襖に耳を当てる。そして、コクリと頷く。

 

どうやら彼女たちは起きていないようだった。

 

それを確認したセイバーは静かにドアを開ける。

 

「どうした?」

 

「はい、この施設を逆探知しようとした者がいたので警告を」

 

従業員の言葉にハッと、布団を敷く前に鶴丸からの報告を思い出す。

 

可奈美の同級生の『柳瀬舞衣』が可奈美捜索を学長に頼んでいたことを。恐らく彼女の仕業だろう。

 

「……ここの場所がバレたか?」

 

「いえ、それは無いかと……ですが、ある程度範囲は絞り込まれたかと……」

 

となると、明日にはここに来る可能性は高い。だが、ここに宿泊していることは()()()()()()()

 

だが、もうここには居られないだろう。元々この“隠れ家”には長くは居るつもりはなかった。逆に丁度良い。

 

「分かった、明日にはここを発つ。一応“抜け道”を使わせて貰う。朝食は早めに持ってきてくれ」

 

「承知しました。もし追っ手が来ましたら、時間稼ぎいたしますので、その間に脱出を」

 

「助かる」

 

では…と従業員が部屋を去った後、セイバーは扉を閉め、和泉守にも話した。

 

「なるほどなぁ~、それにしても柳瀬舞衣の動きが早くないか?短時間で場所の特定はされていないが、範囲を絞り込まれてるし……」

 

「逆探知……電話……衛藤さんか……」

 

ここに着いてから、彼女はここの公衆電話を使っている。かけた先はその柳瀬舞衣に間違いない。

 

可奈美はここの正確な場所は知らない。舞衣が管理局に教えて、特定したのか。

 

それなら管理局に潜入している鶴丸や村正から『管理局に特定された』と一報があるはず。ならば彼女が自力で特定したのか────

 

「ん、柳瀬舞衣……柳瀬……柳瀬グループの人間か……」

 

「柳瀬グループって、あの大企業の柳瀬グループか?なるほど、確かにあそこなら納得がいく」

 

柳瀬グループは国内で一二を争うトップ企業の1つ。家電製品や車に日常品の開発や販売、ノロの研究等様々な分野に精通している。更に、警察や政治家にも少しではあるが独自のツテを持っているらしい。

 

「富田の実家より少し厄介なとこの人間がいたもんだな

 

「衛藤さんの友人となると、多分彼女が目的だろう。友人を見つけて連れて帰りたいとか……」

 

「なら、衛藤だけでも連れて帰って貰うか?」

 

「………」 

 

確かに良い機会かもしれない。これで彼女を今回の件から遠ざけることが出来る。だが────

 

「それを決めるのは、衛藤さん本人だ」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

公安零課本部 『本丸』

 

 

「…………」

 

本丸内で他より少し広く西洋風の部屋で1人、パソコンを眺める男性。

 

零課の指揮官で、セイバーたちの主『審神者』。

 

彼が眺めるのは、パソコンに写し出されている1枚の写真。1人の黒い制服を着た女生徒中心に、同じ制服を着た女生徒と、美濃関の男子用学生服を着た男子生徒とスーツ姿の若い青年、3人を無理矢理引き込み写真を撮ろうとしている写真。審神者がとても大事にしている1枚だ。

 

男子生徒はノリノリで女生徒の肩を組んでいる。もう1人の女生徒とスーツ姿の青年は鬱陶しそうに、困惑しながら引き込まれようとしていた。

 

審神者は中央の女生徒と隣の男子生徒の顔を見る。

 

「美奈都さん、貴女の娘さんはずいぶん貴女に似てきましたね。貴女に負けないくらいの剣術バカで、優しく強い……」

 

そして今度は、スーツ姿の青年の隣に写っている女生徒をアップする。

 

「……大丈夫、必ずあの子は守ります。何があろうと、僕の命にかけて、絶対。だから……どうか見守って下さい、篝さん」

 

パソコンに写し出されている女生徒の顔を優しく撫で、ギュッと拳を握り締める。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

翌朝  “隠れ家”

 

 

キキィー…と隠れ家の前に1台の車が止まる。中から2人の男性と舞衣が出て来た。

 

「他の宿泊施設には対象はいなかったようです」

 

「特定した範囲内で残っているのはここだけです」

 

分かりました、と返事する舞衣。他が空振りとなると可奈美たちはここにいる。そう信じて隠れ家に入る。

 

「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?」

 

「いえ、人を探しているんです。『衛藤可奈美』と『十条姫和』はこちらに泊まってますよね?」

 

そう言って、管理局発行の身分証明書を見せる毎日。これは刀使が持つ言わば警察手帳のような役割を持っている。

 

「『衛藤可奈美』と『十条姫和』ですか……」

 

受付は宿泊客の名簿をペラペラとめくり探す。そして

 

「そのようなお客様はお泊まりになっていませんね」

 

「そんなはずはありません。ちょっと名簿を宜しいでしょうか?」

 

「はい……」

 

そして舞衣は受付から半ば奪うように名簿を受け取り、2人の名前を探す。だが、確かに2人の名前は無い。

 

「……では、昨日の防犯カメラの映像を見せて貰えませんか?」

 

「は、はぁ……」

 

どうぞ…と受付に案内され事務室へと向かう。

 

部屋に入ってから昨日の受付の映像のビデオを提出して貰い、可奈美たちの姿を探す。しかし、何度見返しても2人の姿が映っていなかった。

 

「どういうこと……?じゃあ可奈美ちゃんはどこに……?」

 

すると、ハッと先ほどの宿泊客の名簿を見返す。

 

その中に“影の間”という部屋に宿泊している『公零』という名前に引っ掛かる。兄2人と妹2人の兄妹4人で宿泊している客たち。

 

御前試合で逃亡したのは可奈美と姫和、そして身元不明の人物2人の計4人。

 

「すいません、この影の間に宿泊している方々ですが────」

 

 

 

「こちらが“影の間”になります」

 

受付の人に案内されて来たのは、施設の一番奥の部屋。

 

コンコンとノックをすると、中から「はぁ~い」と男性の声が。

 

「失礼致します、お客様。旅館の者ですが、少々宜しいでしょうか?」

 

「はいは~い……」

 

「失礼っ!」

 

「ちょっ!?なんだ!?」

 

ガチャリと、ドアが少し開いたのを確認した舞衣は、連れ添っている柳瀬グループの2人にドアをこじ開けて貰い、中へと入る。

 

ドアを開けた青年が「何なんだよ!?」と、受付たちに怒鳴るが、舞衣はまっすぐ居間の方へと向かい、襖がガラッと開ける。

 

「可奈美ちゃんっ!!」

 

「うわっ!びっくりした!!」

 

「ちょっ、誰ですか、あなた!?」

 

「えっ……?」

 

部屋にいたのは、大学生ぐらいの女性2人。それと隣の部屋から寝起きなのか、寝癖がついたままの別の男性が出て来た。

 

「ん~?どうしたの~?」

 

「ちょっとこの子がいきなり入って来たのよ!」

 

「えっと、どちら様ですか?」

 

「あの……すいません、人を探していて……!」

 

直ぐさま舞衣たちは宿泊客たちに頭を下げ、事情を話す。向こうもびっくりしていたが、とくに咎めもせず、今度からは気を付けろよな?と注意され舞衣たちは部屋を出た。

 

「あの~、もう宜しいでしょうか……?」

 

「はい、すいません、ありがとうございました……」

 

そして、受付の人も仕事へと戻って行った。

 

「舞衣お嬢様、もしや衛藤さまたちは別の宿泊施設にいるのでは?」

 

「でも特定した範囲内にもう宿泊施設は無いぞ?」

 

お付きの人たちも訳が分からなかった。

 

とにかく他のお客の迷惑になるので、舞衣たちは施設を出て、街の方へと捜索に掛かった。

 

 

 

「行かれましたか?」

 

「ああ、行ったぞ」

 

舞衣たちが出た後、影の間にいた段階の1人が、受付に声をかける。

 

「お前たちもご苦労だったな」

 

「いえ……」

 

そう言って彼らは寝間着から従業員用の服に着替え、持ち場に戻った。

 

「悪く思わんでくれよ、お嬢ちゃん」

 

 

 

舞衣たちが到着する数十分前

 

 

「ごちそうさまでした~。朝食も美味しかったね、姫和ちゃん」

 

「まぁな……」

 

「ふぅ~、食った食った~」

 

「さて、朝食が済んだところ悪いが、直ぐに身支度をして欲しい」

 

箸を置き、切り出すセイバー。何事かと思う刀使2人に、ありのままを話す。

 

「衛藤さんの友人、柳瀬舞衣さんがもうすぐここに来る」 

 

「えっ、舞衣ちゃんが!」

 

「管理局にここがバレたのか!?」

 

「いや、管理局にはバレていない。それにあくまでこの辺り一帯の範囲を特定された。だから今、柳瀬さんは此処らの宿泊施設を片っ端から回っている」

 

「ならば直ぐにここを出ないと!」

 

「落ち着け十条。もちろん直ぐにここを出るぜ。だがその前に────」

 

「衛藤さん、君はどうする?」

 

「えっ……?」

 

いきなりのことで、一瞬ポカンとなる可奈美。だが、セイバーは続けた。

 

「最後のチャンスだ。我々と共に来るか、このまま柳瀬さんと一緒に帰るか」

 

このまま逃亡者となり逃げるか、今回の件から手を引くか。普通なら後者を選ぶだろう。だが

 

「帰らないよ。私がみんなの足手まといになるかもしれないけど、それでもやっぱり姫和ちゃんをほっとけない。セイバーたちの手助けをしたいの!」

 

「……この先、命の危機にさらされても?」

 

「大丈夫!私けっこう強いから!」

 

フン!と胸を張る可奈美。そして改めてセイバーの方へと向き直り

 

「お願いします、私も連れてってください」

 

「……了解した」

 

姫和も流石にここまで言われては、帰れ、と言いにくくなってしまった。

 

さて、そろそろ舞衣がここに着く頃だろう。

 

「さぁ、脱出の準備だ!」

 

それから可奈美と姫和は寝間着から制服に着替え、上にパーカーを着る。セイバーたちも既に服を着替えており、2人を待っていた。

 

「それで、旅館の裏口から出るのか?」

 

「いや、“抜け道”を使わせてもらう。和泉守」

 

「おう!」

 

そして和泉守は布団が仕舞ってある押し入れを開け、下の段の壁際に手探りで何かを探す。

 

「何をしてるんだ?」

 

「まぁ、見てて」

 

「え~と……確かこの辺りに……あった!」

 

壁の一部がパカッと開き、レバーのようなものが見える。和泉守はそれを下に引くと、押し入れの隣の壁がスライドし、地下へと続く階段が現れた。

 

「すごいっ!」

 

「おい、ここはただの旅館じゃないのか!?」

 

「申し訳ないが説明は後回し。和泉守、君が先に行ってくれ。2人とも、彼について行って」

 

セイバーに急かされ、姫和は渋々和泉守の後に続き、可奈美は驚きこそしたが、アトラクションみたいとワクワクしながら階段を降りていった。

 

2人が階段を降りた後、部屋に旅館の従業員が入って来る。

 

「状況は?」

 

「はい、先ほど管理局の刀使が到着しました。現在受付で時間を稼いでいます」

 

「では、後処理をお願いします」

 

「はい、道中お気をつけて」

 

そしてセイバーも、階段を降りていき、従業員がレバーを元に戻すと扉は再び閉まり、ただの壁になった。

 

 

 

数分後

 

 

「けど、ごめんね……私のせいで……」

 

「衛藤が謝ることはねぇよ。どちらにしろ、あそこには長くはいられないからな」

 

「それにしても、あの旅館はなんだ?何故あんな仕掛けがある?」

 

「今言えるのは、あそこは僕たちの組織につながる施設ってことだけだよ」

 

階段を降り、そこから長い一本道を歩いて数分。一応蛍光灯がついており暗くはないが、ただひたすらまっすぐの一本道が続いていた。

 

それから歩き続けることまた数分後、目の前にエレベーターが見えてきた。

 

「よし、これで地上に出るぞ」

 

「一体どこに繋がっているんだ?」

 

「それは見てのお楽しみだよ、十条さん」

 

一行がエレベーターに乗り、和泉守がボタンを押すと、エレベーターは静かに上へと上がる。

 

チーン…と到着音がなり扉が開かれると、今度は短い廊下が。その先には別の扉が見える。

 

和泉守が先に扉に向かい、扉を少し開け、外の様子を見る。

 

「………よし、いいぞ」

 

和泉守が手招きし外に出ると、そこはどこかのデパートの駐車場だった。

 

「それじゃあ僕は少し用事があるから、和泉守と行動してくれ」

 

「はい」

 

「用事ってなんだ?」

 

「ちょっと情報収集さ───」

 

 

 

セイバーと分かれた後、和泉守がさてと…とスマホの地図アプリを起動させる。

 

「とりあえず移動するぞ。えっと、この辺りで人が多い場所と言えば……」

 

「あ、それなら私知ってるよ!」

 

可奈美が任せて!意気込むので、とりあえず可奈美に任せて、彼女が知る場所へと向かった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

とある喫茶店

 

 

チャリン…

 

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

 

「いえ、連れが……あ、いた」

 

一方、少しレトロな喫茶店に入ったセイバー。店内をぐるりと見渡し、目的の人物を見つける。

 

カウンターの一番端の席、紅茶を飲む白髪で白いスーツ姿の青年。彼の隣に座り、コーヒーを注文する。

 

店内はまだ午前中の早い時間なので人はあまりいない。だが、コーヒー豆の香りやレコードの音色でいっぱいになっている。

 

そして、セイバーの前にコーヒーが置かれた時、隣の青年が口を開く

 

「驚いたぜ、思ってたより賑やかのようだな?」

 

「僕も驚いたよ。まさか決勝戦の対戦相手まで連れて行くことになるなんて」

 

だよな~、と紅茶を一口飲む白髪の青年、鶴丸。

 

「柳瀬舞衣は?」

 

「車で移動しながら探してるよ。安心しろ、車に発信機は付けてる」

 

そう言いながら、鶴丸のスマホの画面には舞衣の乗る車の位置情報が表示されている。

 

現在和泉守たちが居る場所とは反対方向にいる。だが、いつこちらに来るか分からない。

 

「次の“隠れ家”の準備は?」

 

「主が手配中だ。昼前には確保出来るはずだぜ。それともう2つ」

 

「?」

 

「まず1つ、練府が動く」

 

「捜索隊を出したのか。数は?」

 

「いや、1人。学長様のお気に入りが」

 

練府学長のお気に入り、それは御前試合にも出ていた。その名は

 

「『糸見沙耶香』か……」

 

「正解。今、村正の爺さんが見張ってる」

 

「もう一つは?」

 

「主からだ。『衛藤可奈美』も『十条姫和』同様に保護し護衛せよ。だとさ」

 

「衛藤さんも?何故……」

 

「主は、いずれ話すってさ」

 

う~ん…と少し引っ掛かるが、命令ならば仕方ないと了承するセイバー。

 

それからそれぞれ飲み物を飲み終えたので、2人は喫茶店を出た。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「衛藤……まあ確かに人は多いが……」

 

「お前な……観光に来たわけじゃないんだぞ!」

 

「え~?だって、私が知ってるのここだけだったから……」

 

姫和が叫んでいるのは、都内の有名な繁華街。確かに人が多く身を隠すには丁度良いかもしれないが。しかも今日は日曜日。よく見ると、可奈美や姫和ぐらいの年頃の少女や、学生たちもそれなりにいるので、目立つことは────

 

「あ、あの……もしかしてモデルの方ですか?」

 

「え、おれ?」

 

「うわー、スッゴく格好いい!」

 

「もしかして、俳優さん!?」

 

「すいません、写真良いですか?」

 

「いや~、参っちゃうな~」

 

キャーキャーと、和泉守の周りに集まる女性たち。

 

「……えっと……姫和ちゃん?」

 

「………アイツが一番目立ってどうする……(-_-#)」

 

 

和泉守を引っ張り、一行は自然に振る舞うためあちこちを見て回り、いつの間にか普通に楽しんでいた。

 

だが姫和だけは、周囲の警戒を解かなかったが

 

「あれは……!?」

 

「どうしたの、姫和ちゃん?」

 

「なんかあったか?」

 

姫和が足を止めた先には、アイスクリーム店が。鹿も何やらキャンペーンをしているらしく、限定味のアイスを出しているようだ。

 

「なんだ、アイス食いたいのか?」

 

「べ、別にそんなんじゃ……」

 

「そんじゃ、行くか────」

 

いや、寄っていこう!今後の話をする必要もあるから。是非とも寄っていこう!

 

「「は……はい……」」

 

姫和の謎の勢いで一行はアイスクリーム店によりそれぞれアイスを購入(和泉守の奢り)し、近くのベンチで並んで座って食べる。

 

可奈美はオレンジ味、和泉守と姫和は期間限定の抹茶オーレ味と──

 

「へぇ~、姫和ちゃんチョコミント味好きなの?」

 

「そ、そうだな……比較的、口に合うほうだな……」

 

可奈美に指摘され、ちょっと恥ずかしがる姫和。

 

「けどな、チョコミントって正直言って、歯みが───」

 

「歯磨き粉ではない!!」

 

ドカッ!!(右ストレート)

 

「ぐほっ!?」

 

和泉守が言い切る前に、姫和の右ストレートが和泉守の頬に綺麗に入り、和泉守はベンチから吹っ飛ばされた(アイスは無事)。

 

「チョコミントこそ至高!それがあるか無いかで人生の全てが変わると言っても過言ではない!!」

 

「ひ……姫和ちゃん……?」

 

「てめぇーー!!その前に俺が『歯磨き粉』って言う前に『歯磨き粉って言うことは、お前も薄々歯磨き粉の味だって思ってる証拠だろうが!?」

 

「歯磨き粉ではない!!そもそも、チョコミントからミントを抜くなど、アイスコーヒーからコーヒーを抜くようなものなのだ!!」

 

「やかましい!!」

 

いてて…とベンチに座り直り、死守したアイスを舐める和泉守。

 

「たくっ……(こういうところ、ホントそっくりだな……)」

 

 

 

それから1時間ほど経ち…

 

 

天気が曇り、雨が降りそうに。そこに和泉守はセイバーと連絡をとり、目立たない場所で合流し、用意された新たな“隠れ家”へと向かうことになった。

 

「それで、これからどうする?」

 

「また昨日みたいなところに泊まるの?」

 

「そうなるな。そろそろ────」

 

セイバーとの合流時間のはず、とそこに突如

 

キィィーーーー……

 

「な、なに!?」

 

「十条!」

 

「ああ!」

 

和泉守に言われ、姫和は直ぐさまスペクトラム計を出す。すると中のノロが強く北西の方向を差していた。

 

「反応してる……もしかして荒魂が?」

 

「この反応だと近いな……」

 

「ああ、数は分からないが、そう多くは無さそうだな……」

 

よし!と!可奈美はスペクトラム計が指す方向へと向かうとしたが、姫和だけは違った。

 

「あれ、姫和ちゃん行かないの?」

 

「いや、放っておこう。今はそんなことしている場合じゃない」

 

「なに……?」

 

「えぇ!?ダメだよ、直ぐに退治しないと被害が……!」

 

「管轄の刀使たちがもう捕捉しているかもしれない。もし鉢合わせでもしたらマズい」

 

「でも……」

 

「彼女たちにはスペクトラムファインダーがある。発見にはそう時間は掛からない。それに私たちだけでは退治出来てもノロは回収出来ない。散らすだけだ」

 

「それはそうだけど……」

 

姫和の言うことも一理ある。散らすだけでは、いずれ他のノロと結合してまた荒魂化するか、他の荒魂に吸収されてもっと強い荒魂になるかもしれない。

 

それに逃亡の身である自分たちが下手に動く必要も無い。だが、それでも可奈美は納得は出来ない。そしてそれは、彼も同じ。

 

おい、十条

 

「「っ!?」」

 

突如、今まで聞いたことない和泉守の太く低い声。そして全身を凍り付かせるほどの()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だと?」

 

「「………!!」」

 

静かに言葉を発する和泉守だが、一言毎に、殺気が増していくのを感じる。可奈美や姫和は、何も言えないどころか、体が動けずにいた。

 

「てめぇ、それでも刀使か!それでも、剣士かっ!!戦うための刃を持っておいて何もしねぇだと?ふざけるのも大概にしろ!!確かに捕まったら元も子もねぇよ。けどな、それで人が傷付くのを見過ごす理由にはならねぇだろうが!!」

 

「そ……それは─────」

 

「敵を目の前にして、刃を錆び付かせるのは臆病者がすることだ。ましてや、それを知っててなお、刀を抜くつもりがねぇなら、剣士を名乗る資格も無い!俺が今ここで、御刀を叩き折る!!」

 

姫和の目の前で拳を握り締める和泉守。その目は脅しでもなく、本気で姫和の御刀を叩き折る気満々だった。

 

だが、次の瞬間フッと和泉守から殺気が消え

 

「それに俺はお前らの護衛が任務だ。もし追っ手と鉢合わせても俺がキッチリ守ってやるよ!それと……お前の刀と、お前の本心も、ホントは違うだろう?」

 

「………私は………」

 

「姫和ちゃん」

 

「衛藤……」

 

「行こう!」

 

「……あぁ!」

 

 

 

そして同じ頃、街中で可奈美たちを捜索していた舞衣も荒魂の存在を感知し、現場へと向かった。

 

 




『隠れ家』
・全国に多数ある公安組織用に用意された宿泊施設。主に任務中や事件の被疑者、重要人物を一時的に匿う為に利用される。普段は普通の宿泊施設として稼働しているが、公安からの要請があれば、隠し通路がある専用の部屋を用意し、あらゆる痕跡を残させず、外部に情報を漏らさせない。従業員のほとんどが、公安を退職した人間や公安の裏処理担当の者たちで構成されている。
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