新・刀使ノ乱舞 作:エクスカリバー!!
『───────!!』
「荒魂だっ!?」
「に、逃げろぉー!!」
「きゃあぁーー!!」
「は、早く刀使を呼べっ!?」
機械音のような虫型の荒魂の咆哮が、上空から鳴り響く。それにより人々は我先にと逃げていく。
「落ち着いて、慌てず避難しろ!ほら、あんた大丈夫か?」
「す、すみません……」
和泉守がなんとか避難誘導してくれているので、可奈美と姫和はパーカーを脱ぎ捨て、御刀を抜刀、写しを張る。
「わたしが仕掛けるから、姫和ちゃんは追い込んで!」
「了解した!」
迅移で一気に荒魂との距離を詰めながら、刃を振り下ろす。だがそれはあっさり躱され上空へと逃げる。
そして、構えて動かない姫和へと矛先を向け、下降しながら突進してきた。しかし姫和は動じない。ここまでは想定通り。
「ふっ!」
ガキンッ!
『─────!!』
スレスレを狙い、荒魂を斬りつける。それによりバランスを崩れたところにもう一撃を加える。それでも荒魂はもう一度上空へと逃げようとする。だがそれを見逃すわけにはいかない。
「可奈美っ!」
「うんっ!」
逃げようとする荒魂も背後を迅移で迫り、八幡力で身体能力を向上させ、荒魂の頸を─────
ボコッ……
「えっ─────」
『────────!!』
地面が盛り上がり、そこからモグラにクマが融合したような荒魂が出現した。
「地面から荒魂がっ!?可奈美っ!!」
「しまった!?」
可奈美は地面が盛り上がって出来た段差に止まることが出来ず、躓いて転んでしまう。
「マズい!」
『─────!』
「く……クソッ!」
直ぐに援護しようとするが、虫型荒魂が姫和に向かって再び突進してきた。なんとかそれは躱せるが、可奈美の元には行けない。
虫型荒魂も、姫和を向かわせないようにしているのか、長い脚と尻尾で姫和に襲い掛かる。
そうしている間に、モグラ型の荒魂は鋭利な爪を振り上げ、可奈美に狙いを定める。
可奈美の方は、まだ起き上がれずにいた。
「可奈美、逃『──────!!』」
姫和の叫びは荒魂の咆哮で掻き消される。そして、その爪は可奈美一直線に振り下ろされる。
「あ─────」
荒魂の爪が真っ直ぐ自分に向かってくる。
ほんの一瞬のはずなのに、まるで時間の流れが緩やかになったように感じる。
ならば直ぐに動こう、そうしようにも、やはり体もゆっくり動く。
もう、間に合わない。
自分は、ここまで──────
「ハッ!!」
ザシュッ!!
『──────!?』
「えっ……?」
「……良かった、間に合って」
可奈美に向かって振り下ろされるべき荒魂の爪は、その右腕の肘の部分ごと斬り飛ばされていた。
そして、それを為しえた人物は
「せ……セイバー……さん?」
「大丈夫かい、衛藤さん?」
ニコッと笑いかけるのは、セイバーであった。だが、その格好はスーツ姿ではなく、蒼と銀に包まれた騎士甲冑で、彼の手には
斬り飛ばした、ということは剣状のものなのは確かかもしれない。だが、
透明な何かで隠されているようだった。
「アイツ……荒魂を……斬ったのか?」
「遅ぇぞ、セイバー!!」
そこに和泉守が姫和の隣に立つ。彼もスーツ姿ではなく、紅い袴の上に浅葱色の羽織をマントのように羽織っていた。
「お前……その格好は?」
「説明は後だ。それより何してた、セイバー!」
「すまない、少し道に迷ってしまってね。この失態は、この荒魂を討つことで返上する」
「そうか……なら俺たちはコイツを仕留めるぞ、十条!!」
「仕留めるって……刀使で無ければ荒魂は────」
「十条、良いこと教えてやるよ……世の中には、自分が知ることが全てじゃあねぇんだよ!」
スチャ…と腰に差している刀を抜く。やはりそれは御刀ではないが、業物であることは確か。そして姫和はその刀身を見て気付く。
「兼定の刀……しかもそれは─────!?」
「ほら、よそ見してる場合か?」
上空を見上げると、虫型荒魂が再びこちらに目掛けて突進する体制をとる。
「よぉーし、いっちょやってやろうじゃねぇか!」
『───────!!』
和泉守に呼応するように虫型荒魂が彼に目掛けて突進してくる。そして和泉守はそれを迎え撃つように構え、荒魂のまっ正面から
「そらよっ!」
ガキンッ!
『──────!?』
刀を思いっきり上に振り上げる。そして、荒魂の左脚3本が斬り飛ばした。左脚を失い、完全にバランスを崩した荒魂はフラフラと空中をふらつく。
「なっ────!?」
「十条!!」
あり得ない光景で、一瞬呆けてしまうが和泉守の声で、意識を集中させ、ふらつく荒魂片翼を斬り落とした。飛行能力を無くした虫型荒魂は地面へと落下していく。
和泉守はそこに狙いを定め
「切って殺すのは─────」
『──!?』
ザシュッ!!
「───────お手の物!」
和泉守が刃を振るうと、荒魂の頸が空中へと飛び、そのまま地面に転がった。
『──────!』
モグラ型荒魂は、セイバーに対し後ずさりする。
突如現れ腕を斬り飛ばされたせいか、それとも別の理由か。どちらにせよ、セイバーに対して脅えていた。まるで、
「衛藤さん」
そんな荒魂の心境を知っているのか、そうでないのかはともかく、セイバーはいつもと変わらない態度で可奈美に声をかける。
「ここは僕が引き受ける。君は下がって」
そう言ってまた一歩、荒魂に歩を進める。だが、その背中は先日見た背中とは違う。まるで、寂しいひとりぼっちの……
「ううん、大丈夫だよセイバー。私は、戦えるよ!」
パンパン…と足についた埃を払いながら立ち上がり、彼の隣で御刀を構える。
「そうか……ならば、死力を尽くしていこうか!」
「うんっ!!」
『─────!!』
モグラ型荒魂は、逃げられないと判断したのか、それともやけになったか。どちらにせよ、残った片腕で2人に襲い掛かる。
「いくぞ!」
「うん!」
セイバーはまっ正面から荒魂の爪を不可視の剣で受け止める。その隙に可奈美は背後に回り込む。
だがモグラ型荒魂は、セイバーを振り払い、片脚を後ろに向けて蹴り上げる。
「ふんっ!!」
だが可奈美はその脚を足場にして、空中へと飛び上がる。しかしモグラ型荒魂は今度こそは、と爪で空中の可奈美に向かって突き出そうとする。
「ヤバッ!?」
「風よっ!」
セイバーが可奈美に向かって、剣を振るうと、可奈美の周囲に風が舞い上がり、彼女を更に上空へと舞い上げる。それにより、荒魂の攻撃は空振りに終わる。
「
セイバーの不可視の剣による不可視の斬擊が荒魂を斬り割く。だがまだ荒魂は最後の力を振り絞り、動こうとする。だが、ここまでだ。
「決めろ、
「っ!……うん!」
自由落下とセイバーの風により、勢いが増した可奈美の一刀はモグラ型荒魂を縦に真っ二つに斬り割いた。
「ハァ……ハァ……勝った……勝ったよ、セイバー!」
「ああ、見事な一撃だった」
頑張ったね、と肩で息をする可奈美に労いの言葉をかけながら、彼女の頭を撫でる。
ちょっと恥ずかしいが、嬉しく思う可奈美。そして同時に感じる、懐かしい感覚に。
「(あれ……この撫で方……前にどこかで……)」
「おーいっ、セイバー、衛藤!」
そこに和泉守と姫和が2人の元に駆け寄る。ただ、姫和の目はセイバーと和泉守を怪しむ最初の頃の目つきになっていた。
「何なんだお前たちは……何故、荒魂を倒せる。それにお前たちの剣は────」
「まぁまぁ姫和ちゃん、折角荒魂を討伐出来たんだし、それでヨシとしようよ?」
「そうだぜ十条。若いうちにあれこれ細かいことを気にしてると小ジワが増えるぞ?」
「やかましいっ!」
「ハハハ……さぁ、早く移動しよう。さもないと────」
「可奈美ちゃんっ!」
「……遅かったか」
セイバーが向く先には、ハァ…ハァ…と息切れをした舞衣が。
「舞衣ちゃん!?」
「美濃関の追っ手か……」
「(おいおい……鶴丸は何してんだよ……?)」
舞衣は可奈美の無事を確認すると、姫和たちに御刀を向ける。そして、姫和も対抗するように御刀に手を伸ばす。だが、セイバーがそれを止めた。
「十条さん、ここは僕が」
「……分かった」
「セイバー!?」
「大丈夫だ、衛藤。アイツにはアイツなりの考えがあるんだろう……(そうだろう、セイバー?)」
そして、3人を守るように舞衣の前に立ち塞がる。
「……民間人の避難誘導、並びに荒魂討伐へのご協力、ありがとうございます……」
「それなのに君は、我らに剣を向けるのか?」
「私は刀使であると同時に、可奈美ちゃんの親友です。ですから、可奈美ちゃんだけでも返してもらいます!」
そして、迅移で一気にセイバーに迫るが、ガキンッ!とセイバーは何事もないかのように不可視の剣で受け止める。
「っ!?」
「この程度か?」
舞衣をあっさり押し返し、逆に彼女を攻める。
不可視の剣相手で、しかも剣術の型が無いセイバーの攻撃を舞衣はただひたすら防御するしかなかった。
そしてなにより、セイバーの実力は親友を遙かに凌ぐ実力を感じさせる。まさに歴戦の英雄を相手にしているかのように。
ガキンッ!!
「くっ……!?」
「君の親友への想いはその程度か?」
「なんですって!」
「親友を助ける……君の行動は確かに素晴らしいことだ。だが、それを為しえるほどの力が君にあるのか?」
ガキンッ!! ガキンッ!! ガキンッ!!
一撃一撃、セイバーの攻撃は重く、鋭い。なにより、舞衣が持たない何かを感じさせる。
「それでも……私はっ!!」
ガキンッ!!
一瞬の間を狙ってセイバーの胴を狙う。だが、それはあっさり止められる。
「負けられないんです……羽島学長が約束してくれたんです……」
もし、可奈美を連れて帰れば、彼女の減刑を全力を尽くすと。無罪とはいかないが、それでも可奈美の為を思えば。
「だから、私は─────!!」
ガキンッ!! ガシャン……
次の瞬間、舞衣の御刀は彼女の手から離れ、地面に転がっていた。セイバーが彼女の御刀だけを弾き飛ばしたのだ。
「そんな………」
「……君に負けられない理由があるように、僕にも譲れない理由があるんだよ。そして僕には、それを為しえる力と覚悟がある」
「覚悟……」
「申し訳ないが、衛藤さんの身柄はこちらで保護することになっている。刀剣類管理局には渡せない」
「保護って……あなたたちは一体……」
「舞衣ちゃん!」
我慢出来なくなったのか、可奈美が2人の元へと駆け寄る。
「ごめん舞衣ちゃん。私も、まだ帰るわけにはいかないの!」
「どうして……」
「私見たんだよ!御前試合で、御当主様が姫和ちゃんの技を受けた時、何も無い空間から御刀を取り出して……その後ろに良くないものが……」
「良くない……もの……?」
「やはり、君にも見えていたんだね?」
セイバーの問いにコクリと頷く可奈美。だが、正直に言って今でも信じられないが、確かに可奈美は見た。
「一瞬だったけど……あれは、
「そんな!?だって、紫さまは……折神家の御当主で、大荒魂討伐の英雄────」
「違うっ!!」
舞衣の言葉を姫和は強く否定した。よく見ると、彼女の手はプルプル震えている。
「ヤツは英雄なんかじゃない……ヤツは、
そんな…とショックを受ける舞衣。それもそのはず、その大荒魂は折神紫によって倒されたと聞いている。だが実際はその折神紫が大荒魂だとなると、一体どれほどの人が騙されているのか。
そうなると、折神家だけではない。刀剣類管理局や伍箇伝も荒魂が支配していることになる。
だがそれを真っ正直に信じられるわけないが、可奈美と姫和、そしてセイバーたちの様子を見れば、それが嘘ではないと感じる。
「我々は、その事を以前から知っていた。けれど、物的証拠も無ければ、討伐するための力も足りなかった。けれど今は違う。我々は大荒魂を討伐し、このまま世界をあるべき姿に戻す!」
セイバーの目からは強い意思を感じさせる。言葉だけではない、確かな何かを彼らは持っている。それは、自分では到底及ばないほどに。
「そして今の刀剣類管理局に、十条さんと衛藤さんの身柄を渡すことは危険だ。だから柳瀬舞衣さん、衛藤可奈美さんは我々が責任を持って保護します」
「それに私も、姫和ちゃんやセイバー……この人たちを放っておけない!だから……お願い、舞衣ちゃん!!」
そう言って、舞衣に深く頭を下げる可奈美。
「……本気、なんだね……」
舞衣のその問いに強く頷く可奈美。ここまで必死に頼み込むことなど、以前に期末試験前に勉強を教えてくれ!と頼み込んだ時以来……
彼女の必死さと、純粋な願いに舞衣はいつも押し負けていた。そしてなにより、こうなった親友を止めれた試しが無い。
「……セイバーさん、でしたね」
「えぇ」
「約束してくれますか、私の親友を、必ず守るって」
「……必ずあなたの親友を全霊をもって守ってみせます。もし、彼女の身に何かあれば、この命で償います」
「本当、ですね……?」
「騎士王の名にかけて、必ず」
少し間をおき、ふぅ~と肩の力を抜く舞衣。そして写しを解き、御刀を納刀した。
「舞衣ちゃん……」
「分かってるよ。可奈美ちゃんのする事は、いつも本気だってこと。それと、決めたことは絶対に曲げないってことも」
そして舞衣は可奈美の元に行き、懐から彼女の“忘れ物”を渡す。
「これ……舞衣ちゃんのクッキー!」
それは、御前試合前に渡された彼女お手製のクッキー。しかも量が先日より増えているので、改めて彼女が補填してくれたのだろう。
さすがに他の私物は押収されたみたいだが、コレだけは渡したかった。
「ありがとう、舞衣ちゃん……」
「またね、可奈美ちゃん……セイバーさん、可奈美ちゃんをお願いします」
「お任せを」
そうして、可奈美はセイバーたちと共に、舞衣と分かれその場を後にした。
舞衣は可奈美が見えなくなるまで、ずっとその場で彼女たちを見送った。
「気を付けてね、可奈美ちゃん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ピピッ…ピッ
物陰に隠れていた鶴丸は、舞衣が可奈美たちを見送った後、ノロ回収部隊を要請している間に、通信機で連絡をとる。
「これで良かったのか、セイバー?」
『ああ、すまない鶴丸』
「別に構わねぇよ。しかし……お前にしてはずいぶん必死だったな?なんでそこまで
『……主からの命令でもあったからね』
「それだけか?」
『………柳瀬舞衣の監視を頼む』
それだけ言い、セイバーは通信を切った。やれやれ…と思いながらも、鶴丸は舞衣の監視を続行することにした。
「ま、俺も人のことは言えないかな……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1時間後…
雨が本格的に降り始めたので、舞衣と分かれた一行はとある廃工場を中に身を潜めていた。
その中で可奈美は、渡されたクッキーの袋を開け、1つ口に入れる。
「……美味しいよ、舞衣ちゃん」
「……さて、そろそろ話してくれないか。何故お前たちは荒魂を討伐出来るのか?」
入り口近くで外を見張っている和泉守と、その近くで腰をかけているセイバーに声をかける。
「さっきも言っただろう。『世の中には自分が知ることが全てじゃあねぇ』って。荒魂を倒せるのは刀使だけじゃ無い。刀使以外にも倒せる存在がこの世にはあるってことだ」
「お前たちの刀が御刀でも無いのにか?御刀には『
しかも、和泉守が使う刀はただの刀ではない。兼定の中でも名刀であり、とある人物が愛用した刀。
「『和泉守兼定』……何故お前が持っている。それは京都の『霊山資料館』に保管されているはずだぞ」
もし、彼が持っているのが御刀の『和泉守兼定』なら納得しよう。だが和泉守が持っているのは本物の『和泉守兼定』。それには珠鋼は使われていないはず。
「別に珠鋼無しでも、神性を纏うことはあるんだぜ?ただ、その方法は
「なら……セイバーもそうなのか?」
彼の持つ剣も、御刀でなく何らかの名刀なのか。しかしそれなら何故視認出来ないのか。
「僕のはまた違う理由でね。僕のは力が強すぎるんだよ。だからいつも封印を施してる」
「「封印?」」
「だからこそ、僕の剣は見えない。
一体何の事やらサッパリだ。セイバーたちは『まだ話せないが、いつか必ず話す』と言うだけ。
姫和の方は納得していないが、可奈美が自分の話を待ってくれているように、自分も大人しく待つ事にした。
「はい、姫和ちゃん」
そこに、可奈美がクッキーを1つ、姫和に差し出した。可奈美が舞衣から貰ったものだから断ろうとしたが、可奈美が『いいから』と、言うのでありがたく貰う事にした。
そして、和泉守にもクッキーを1つ渡し、セイバーには
「あれ、2つ?」
「うん、さっき助けてくれたのと、舞衣ちゃんを説得してくれたお礼」
「……僕は任務で君の身柄を渡すわけにはいかなかったし、荒魂討伐も僕らの組織の任務でもあるから」
「それでも、ありがとう……セイバー」
「………」
『ありがとう』
その純粋なお礼の言葉を久しぶりに聞いた気がする。たった一言なのに、こんなにも心が嬉しく感じるのは
「どういたしまして、衛藤さん」
「『可奈美』で、いいよ。さっきもそう呼んでくれたから」
さっきと言うのは、荒魂討伐の時か。セイバーは呼んだ覚えが無い。意識していなかったがいつの間にか呼んでいたのだろう。
「分かった……クッキー、ありがたくいただくよ可奈美」
「うん。……あれ?」
「どうした?」
セイバーにクッキーを渡した後、袋の奥にクッキーとは別のものが入っていた。恐らくクッキーを補填した時に舞衣が入れたのか。
取り出すと、メモ書きが1枚。
『もし困ったら、ここに連絡してください。
○○○-○○○○○-○○○○ 』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
刀剣類管理局 指令室
『逃走中の『衛藤可奈美』と『十条姫和』、その協力者の追跡中、渋谷区代々木神園町にて荒魂と遭遇。彼女らの協力を得て民間人を避難及び、荒魂を鎮圧。しかし、確保には至らず、逃げられてしまいました。申し訳ありません』
つい1時間前に、捜索にあたっていた舞衣から、逃亡者を見つけたことと、荒魂と戦闘になった連絡が届いた。
荒魂の方は無事に討伐。ノロも先ほど滞りなく回収されたと別の警官隊からの報告があがった。しかし、感じんの逃亡者たちの確保には失敗したらしい。
『それと代々木公園でも荒魂が発生したらしく、そちらは『赤羽刀調査隊』が倒滅しました。そちらは先ほど全てのノロの回収が終わったそうです』
「ありがとう柳瀬さん。居場所を特定出来ただけでもお手柄よ。ところで、その協力者の素性は確認出来たかしら?」
『申し訳ありません……マスクやサングラスで顔を隠しており、素性も……しかし、体格と声からすると、若い男性ということだけは確認出来ました』
「そう、ご苦労さま。あなたは報告もかねて、こちらに戻って来て」
『了解しました』
舞衣との通信が切れ、ふぅ~と椅子にもたれる羽島学長。感じんの確保には至らなかったが、荒魂による被害はゼロ。舞衣も怪我は無いと分かり、ひと安心したのだろう。
「それにしても、
「それは仕方ないだろう……事件発生から30時間、現在この件にはかん口令を敷いています。会場スタッフ、並びに御前試合出場者も調べましたが、共謀者はなく、おそらく逃亡者4名だけの犯行と思われます」
これだと、一体幾つの罪状がつくのか、想像するだけでも頭を痛くする美濃関と平城の学長たち。
更にそこに頭を痛くする人物が、指令室のドアをドンッ!と押し開け入って来た。
「一体何をやっている親衛隊っ!」
「「雪那(ちゃん)」」
入って来たのは、赤いスーツ姿で目つきが鋭い女性。鎌府女学院学長『
「反逆者の潜伏先が分かっているのに、何故機動隊を派遣しない!!」
「お言葉ですが鎌府学長。中等部とはいえ、戦闘訓練を受けた御刀を持つ刀使が2名。更に未だ身元は分かっておりませんが、試合会場から脱出した際の手際の良さと高い身体能力を持つ者が2名。所轄では────」
「ならば、お前たち親衛隊が動けばいいだろう!一体何の為の親衛隊か!?」
彼女に言われなくても、自分たちだって出撃したい。だが、折神紫の警護任務を、紫本人から出ている以上、無闇に彼女の元を離れる訳にはいかないのだ。
それを説明すると、くっ…と歯ぎしりをし、逃亡者たちが消失地点付近の防犯カメラ映像を要求し、高津学長は指令室を出て行こうとした時、最後に両学長に
「学生とは言え、紫さまに御刀を向けた
それだけ言い残し、高津学長は指令室を出て行った。
「あ~あ~、昔は『先輩、先輩!』って言って可愛かったのに……」
「いや、いろはさん確か結構雪那にセクハラしてましたよね?」
「そうやっけ~?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
指令室を出て行った高津学長に、部屋の外で待機していた銀髪の刀使が出迎えた。
「いいか、沙耶香。お前はこれから東京に向かい、潜伏中の逆賊共を討ち取るのよ」
「はい……」
そして高津学長は、彼女の頬に手を伸ばし、彼女の耳元でささやく。
「御前試合では敗れはしたが、あなたの評価は変わってないわ」
そう言いながら、優しくまるで洗脳するかのように続ける。
「あなたこそ我が鎌府女学院の最高の刀使。親衛隊のような
「………はい」
そしてその様子を、天井裏からこっそり監視する刀鍛冶の存在がいることを2人が気付くことは無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
???
薄暗い部屋。大きな長方形の机に審神者と堀川。そして向かいに誰かが座っていた。審神者の方はセイバーからの報告を受けていた。
「そうか、柳瀬さんが君に……」
『申し訳ありません。僕の独断で、彼女と接触しました。しかし、彼女は可奈……衛藤さんの信頼に置ける人物と判断し、我々の素性を隠したうえで、彼女の保護を伝える必要があったのです』
「分かっている。菊一文字からも、柳瀬舞衣が君たちのことは未だ伏せているそうだからね。彼女の口から我々のことが漏れる可能性は低い。だが鶴丸の監視はまだ必要だろうね」
『はい……それともう一つ。舞草からの接触がありました』
「ようやくか……」
『手紙と電話だけですが、どうやら我々を匿いたいと言っているようです。現在指定されたデパートの人気のない場所で彼女たちの近くに隠れ警戒にあたっています』
「そうか……罠である可能性はほとんど無いが、警戒を続けてくれ。もし舞草の者と無事接触し、潜伏先へと向かったらその場所の位置情報を送ってくれ」
『了解しました』
ピッ…と通話が切れ、審神者は携帯を懐にしまう。
そして向かいに座っている人物へと向き直り
「失礼した。部下からの定時連絡で……」
「別に構わねぇよ。相変わらず元気にしているようだな、お前の刀剣男子たちは」
「おかげさまで」
「堀川のボウズも、元気にやってるか?」
「はい、元気に兼さんの助手をしています」
「そうか~」
まるで親戚のおじさんのように話しかける人物。声からすると、男性で歳もそれなりにいっているか…
ガチャ…
「失礼、遅くなった」
そこにもう1人、若い男性が部屋に入り、審神者たちの向かい側に座る。
「
「鎌府女学院からの要請がうるさいよ。『逆賊共を捕らえるのに人員をよこせー』って。とりあえず、
「感謝します」
「
「今は出来るだけ情報共有を。準備が出来るまで、副総監たちを泳がせてください」
「わかってるよ、審神者のボウズ」
「ははは……相変わらず“ボウズ”扱いですか……」
「何言ってやがる、俺たちから見たら、お前や『いろは』、伍箇伝の学長たちはまだまだ青二才よ」
ははは…と笑う審神者の隣の堀川は少し驚いていた。自分たちの主だけでなく、伍箇伝の学長たちを青二才呼びするなんて。
「(さすが、
「はい、おしゃべりはそこまで。それでは、これからについてだ」
「先ほど、『衛藤可奈美』と『十条姫和』を保護した部下から連絡がありました。舞草から接触があったと」
「ようやく動き出したか、
「では……」
「はい。本格的に大荒魂こと『タギツヒメ』討伐の準備を始めるとしましょうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とあるデパート
可奈美たちは、舞衣から渡されたクッキーの袋に入っていた電話番号に連絡すると若い女性の声で
『これから言う場所で待ってて。なんとかこっそり迎えに行くから』
そう言われ、可奈美と姫和は指定された場所で待っている。セイバーと和泉守は念のため、近くで身を潜め、万が一には自分たちが殿役となり2人を逃がす手筈になっている。
それから数分…未だに相手が来る気配はない。
「(場所はここで合ってる……でも誰だろう?メモの字は舞衣ちゃんのじゃないし……電話の相手も聞き覚えないし……)」
「(
と、そこに袋を持った眼鏡をかけた女性が2人の元に近付く。
「えっと……あ、いたいた!あなたたちが『可奈美ちゃん』と『姫和ちゃん』?私は『
』、宜しくね。あれ?他にも居るって聞いたけど……」
「動くな」
「うわっ、びっくりした!?」
いつの間にか背後に立つ和泉守。そして恩田と名乗る女性だけ見えるように刀を見せる。
そこにセイバーも、可奈美たちを守るように彼女の前に立つ。
「失礼、少し身体検査を」
「別に危ないものは持ってないよ?」
そう言いながらも、恩田はセイバーたちの身体検査を受けてくれた。軽く調べたが、確かに妙なものは持っていないようだ。
持っていた袋も、中身は人数分マクド○ルドのバーガーやポテト、ジュースが入っていた。
「確かに、危ないものは持っていないようですね」
「警戒し過ぎだって~、それより君たち……結構格好良いね……」
「おい、セイバー……この人、良い人だぜ!」
「和泉守、ちょっと褒められたぐらいで調子にのるな」
「ハイハイ、早くしないと怪しまれるから、みんな私の車に乗って!」
恩田に言われ、セイバーと姫和は警戒を解かず、彼女の車へと乗り込み、一行はそのままその場を後にした。
『────』
だがその様子を、黒い瘴気に包まれた異形の存在が静かに見ていた。
ブゥーン…と走り出してから数分…
可奈美はもしかしてと思い、恩田に聞いた。
「えっと……羽島学長のお知り合いですか?」
「そだよ。私、美濃関の出身だからね。言わばあなたの先輩だよ。学長には昔から良くして貰ってね。電話であなたたちのことをお願いされたの」
そうなると、あのメモ書きは舞衣ではなく、羽島学長のものと言うことになる。彼女も2人には捕まって欲しくないようだ。
「僕らのことも、ですか?」
「そうそう。あ、大丈夫。あなたたちのことは詳しくは聞かないでって、羽島学長から言われてるから」
それから数分後…
車は大きなマンションへと到着し、一行はそのままエレベーターへと乗り、恩田の部屋へと向かった。
「うわ~…大きいですね……」
「でしょでしょ?あ、もうすぐ着くからね」
チーン…と到着音が鳴り、エレベーターを出た一行は恩田の部屋の前へと着く。そこでふと、セイバーは隣の部屋を見る。そこには他と違い、表札が無かった。
「………」
「おい、セイバー。部屋開いたぞ」
「ああ、今行く」
部屋に入ると、中は1人暮らしには少し広い1LDK。たがところどころ、ゴミ袋が置いたままになっている。
「美濃関出身とおっしゃっていましたが、あなたは……」
「うん、“元”刀使だよ。けど御刀はとっくの昔に返納してるけどね」
「まさか、刀剣類管理局の────!」
すぐに御刀を構えようとする姫和を、和泉守が止めた。
「落ち着け十条。もし刀剣類管理局の人間なら、俺たちはとっくに管理局の檻の中だ。わざわざ自宅まで連れて来る必要は無い。それに、ザッと見渡したが、監視カメラや盗聴されてる様子もねぇよ」
「凄いね、あなた。彼の言う通りだよ姫和ちゃん。私は今は管理局と折神家とは一切関わり無いから」
それを言われてハイそうですか、と納得するわけない姫和。だがセイバーたちが止めろ、と視線を送るので、とりあえず警戒を緩めることにした。
「ありがとう。それじゃ刀使組は先にお風呂入っちゃって。その間に着替え、用意しておくから」
恩田に言われ、可奈美と姫和は既に炊かれていたお風呂で今日の疲れを取ることにした。
「可奈美、御刀は持っていけよ」
「え!?流石に御刀も持って行くのは……」
「幾らアイツらが大丈夫だと言っても、警戒は怠るな。私は、持って行くぞ!」
「えぇ……?」
その間セイバーたちは、恩田の部屋の隅にあるゴミ袋を一カ所にまとめていた。
「幾ら1人暮らしとは言え、これは流石にないですよ。和泉守だって、ここまで散らかしませんよ?」
「ハハハ……ごめんなさいm(_ _)m」
「オイコラ、どういう意味だ?」
やれやれ…と言いながら、セイバーはゴミ袋を片付けながら、スマホでこのマンションの位置情報を審神者に送った。
「ギャアァァーー!?せ、セイバー!!」
「っ!?どうした、和泉守っ!?」
「ご……ゴキ○リがぁぁーー!?」
「あ、最近掃除してなかったからな~……」
「………可奈美たちが出る前に、軽く掃除しましょうか………」