娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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リメイク後の再リメイクです(1/13現在)


第1章
1)ネタ公爵の覚醒


「おぎゃあ、おぎゃあ」

「あらあら、どうされましたお嬢様? どうか泣き止んで下さいな」

 

 ある日。日本で大学生をしていた筈の俺が目覚めると、赤ん坊が泣いていた。

 目を開けて辺りを見れば、メイドにしか見えない格好をした若い鮮やかな桃色ヘアの美人さんが、丁寧にその子をあやしている姿が見える。

 

 背後にはどこかの異国の大金持ちの部屋としか思えない、豪華な調度品で飾られた、天蓋付きのベットがある寝室が見てとれた。全体的に古い時代を感じさせるデザインだったが、それら自体はどれも真新しい物だとすぐわかる。

 

 やがてだんだん意識が覚醒してきた俺は、この髪がようやく生え揃ってきた頃の赤ん坊の名前が、セシリアである事。そして俺の名が、ジルクリフである事を()()()()

 思わず顔をしかめた。

 

 あ、コレ俺が姉ちゃんにやらされた魔法学園ファンタジー系の皮をかぶった鬱乙女ゲー“夜明けのラプソディア”の世界ですわ。

 憑依転生という奴か?

 

 思わず頭に流れ出す“真実の愛を探しましょう”と言うありふれたキャッチコピーを明るく歌うゲーム主題歌。そんなみんなのトラウマソングを振り切って、まずは自分の顔を確認してみよう。

 

「公爵様、お嬢様が泣いているのにイキナリ手鏡を取り出してどうしました?」

「いや、俺の顔が怖く見えたのかと思ってな」

 

 それだけ言ってメイドさんから軽く笑われるも、確認終了。

 鏡の中にはまだ二十を過ぎた辺りの筈なのに、無駄な迫力を宿した魔王じみた顔つきの、黒に近い程に濃い紫ロン毛のイケメンがハッキリと映っていた。

 

 なんで俺がゲーム内でも1番人気の“悪役”令嬢、セシリア様の人生を狂わせた元凶で、育児放棄上等の虐待系クソオヤジ。ゲーム内害悪ランキング1位の、ジルクリフになってんだよ!

 

 嫌われすぎて多くのネタ動画の素材として使われて、逆にネット界隈で変な人気が出たというこの生粋のネタ公爵が、この俺だと。

 

(軽く、死にたい)

 

 思わず放心していた俺は、改めて赤ん坊を見つめる。

 つまりこの子がセシリア様。

 

 母の忘れ形見として生を受け、この国で両親の不貞の証とされる黒髪を持って生まれた少女。

 それを理由に父親に虐待され続けても、それでもいつか認めてもらえる事を願って、正しく生きると“不屈の魔力”に誓った、あの悲劇の悪役令嬢なのか。

 

 彼女は普通の悪役令嬢ではない。

 多くの“夜明けのラプソディア”ファンイチオシのキャラであり(もちろん俺も)、

 ゲームの鬱要素の8割を被る被害者だ。

 

 婚約者の夢である“腐った国を救う”為に、悪役を演じ続け。その婚約者に捨てられても。自分と共に悪党どもを、自分を追放したヒーロー達に討たせてみせた、不屈の淑女。

 

 言葉通りの“悪役”の令嬢なのである。

 

 ちなみにこのゲーム、ヒロインやヒーロー達は皆、無自覚クズか無能か真正クズ揃いという問題作なので、プレイヤーから事実上の主役認定を受けているのが彼女だったりする。

 しかしそんな事実がわかるのはゲーム中盤の悪役令嬢・学園追放イベント以降。それまでは隠されていて、普通の乙女ゲーにしか見えないという畜生ゲーである。

 

 そ、それはともかく。

 

(そうだ、虐待!)

 

 原作において俺はこの子の髪の色を理由に、虐待を続けてるんだ。

 この虹の王国に伝わる虹7色の魔力属性。それぞれの色に関わるモノを操る魔力という力は、必ず親から子へと引き継がれ、その髪の色と性格を決めつける。

 

 例えばジルクリフなら紫の重力使いで、執着の性格を持つ紫髪と言った風に。

 そして魔力が高い程、その性格と髪はどちらも色濃くなっていく。

 

 そんな国で彼女は、両親とは違う黒髪に生まれついた。

 

 この王国において、両親との繋がりを示せない為にそのどちらかの不貞の証とされる、悪魔の色。異端の“黒の魔力”を持つ者として生まれたんだ。

 

 魔力が示す性格的にも妻に強い“執着心”を持っていて、誰よりも妻に尽くしてきたこのジルクリフは、ソレ故に“妻の側に不貞があるのでは”と考えてしまう。

 そして初めて妻を疑ったこの男は、その怒りと妻を亡くした悲しみを、妻の遺した子供に全てぶつけ始める。

 

 結果。それがセシリア様をあんな“悪役”にしてしまうのだから、コイツが害悪である事は疑いようがない話だ。

 

 いや、しかし待て。

 

 その時。自分の記憶を映画か何かのように手早く確認した俺は、まだ間に合うと確信する。妻が死んだ事で臥せっていたこの男が、ようやく娘を目にするのが今日のハズなのだ。

 

 ン?

 

 このタイミングで俺がジルクリフに成り代わるって、それって本人。……セシリア様を見たあまりのショックで、お亡くなりになったとかしてない?

 ……少なくとも人生投げやがったなあの野郎。

 

 ザマァ!

 

 それにさっきから色々脳内で確かめてたんだが、どうやらお前の知識やら記憶に経験全部、俺が扱えるようになってるし、後の事はまかせて成仏してくれ。

 

 おかげで普通の工業科の大学生だった俺でも領地経営のイロハが分かるし、頭の回転までそっち基準で上がってるとか、どういう仕組みだよ。助かるけども。

 

 まぁとりあえず今はいいや。

 推しの事を優先しよう。

 

 改めて今メイドがあやそうと奮闘するその娘、未だグズるセシリア様の方を向いて今の状況と向き合おう。

 

「……抱かせてくれるか」

「ええ、お抱きになってあげて下さい。抱き方はですね……」

 

 美人メイドさんことメアリーさんにレクチャーされながら、彼女を自分の手で抱き上げるパパ一年生。いや自分が前世は童貞だった事を考えれば、むしろ俺はあの救世主を産んだ聖女様さながらの奇跡の存在。

 “処女妊娠”に等しい神聖なアレ。

 言うなれば“童貞パパ”と呼べるのではあるまいか。

 ……なぜだろう。

 意味は近いハズなのに、このあり得ないほどの残念感は。

 

 ……。

 

 俺はそっとソレ以上考える事を辞めて、セシリア様へと集中する。そのお顔を窺うと、なんと俺を見て今までぐずっていたその顔に、パッと咲き誇るような笑顔が浮かびあがったではないか。

 

「あぅ、ばぁ♪」

 

 腕の中で分かりやすく、その喜びを全身で表現してくれている我が娘さま。

 ……控えめに言って天使かな?

 

 え。

 まじで。

 

 こんなくぁわいい子を虐待とか、マジなんなの。

 死ねよ俺。……死んだよアイツ。

 はは、ありえない。もうね。この瞬間俺はわかっちまったよ。どんな事が起ころうが、この子は俺が守るべきだって。

 

 あぁコレ。

 

 ……きっとこれが、魔力による性格の強制力だ。

 俺の魔力の重力が与える強い執着心って奴なんだ。

 今ね、…俺。少なくともこの子に望まれれば。

 なんでもやれるって思えるし。

 

 命だって、投げ出せるって、素直に思えるもの。

 

 これは俺の想像なんだが。

 例えばこのジルクリフって、妻のミリアに同じように執着してきたから、彼女が生きてさえいれば実際に娘が不義の子だろうが呪われてようが、彼女に一言“愛して”って言われるだけで、文句すら言わずに受け止められたんじゃないかって思うのよ。まぁ実態は、自分の実の子を虐待してたゴミクズだけども。

 

 ともかく。執着の魔力に囚われてる奴って、自分の判断基準を完全に外に置いているみたいで。執着対象以外の事はホント、どうでもいいって価値観なんだ。

 

 今の俺。完全にセシリア様以外、どうでもいいって思えてるモノ。

 

「あぅ、ぱぁ」

 

 彼女を抱いているのが嬉しすぎて、思わず笑みが溢れてしまって。それを見て娘が、笑顔で返した瞬間。俺の覚悟は定まった。

 

「かわいいな。……この子の為ならなんでもやれる。そう言い切れる」

 

 そんな新人パパさんの決意を、メアリーさんに微笑まれながら、考える事は言葉通り。なんでもだ。なんでもやらないとならない。

 

 この娘を不幸になど、させるものかよ。

 

 虐待など間違ってもしないし、貴族が腐りきってて領民が泣いているのが普通なこの国で、彼女を育てたいとも思わない。彼女を幸せにする為に邪魔になるというならば、貧困だって、国だって、世界だって俺の敵だ。

 

 そう。抗う為に。

 俺はなんだってやってやる。

 とりあえず、まず成すべき事は。

 

 不意に。娘の履いていたいかにも吸水性の悪そうな、絹ごしらえの分厚いパンツが目に入る。

 

 ……。

 

 まずは、おむつから始めよう!

 




皆様、誤字報告ありがとうございます。
相変わらず間違いだらけな作品ですので大変助かっております。


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