娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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2)最初の開発計画

 現在この国のおむつは、貴族でも絹とコットンを貼り合わせたとても分厚い代物であり。正直これで子供のおもらしを全て解決することは、できないのではなかろうか。

 多い日には不安しかない。

 

 ぜひ娘の清潔を保つ為にも、至急の改善を要求したい。

 

 しかしここでジルクリフの経験から閃き奔る。

 

『ウチの領の貴族は興味のある事以外、ポンコツである』

 

 この世界、魔法を使えるのはほぼ貴族のみ。

 当然魔法が関わる組織は彼ら主導になるので、開発に大きく関係するのだが。

 

 このアーディン公爵家が治める紫の領。

 その下につく貴族達は、その名の通りの紫の重力使いがほとんどで、ジルクリフと同じような“執着”する人や物以外にまったく興味のない、いわば趣味人の集まりなのだ。

 

 それ以外の事となると実力を発揮出来ない残念集団相手に、元々子供をあまり大事に扱わない中世的なこの世界で、オムツ開発を命じてもこれはもう失敗あるのみ。

 

 いきなり難題にぶつかってしまったが。

 

『ウチで何かをする時は、同分野でより興味を引く案件を見つけるべき』

 

 と更に的確な経験則を見つけたので、ならばと選んだ題材が。

 

 あの女性の味方、生理用品のナプキンだった。

 

 それらは同じく吸水性が要の逸品。

 関わる人はおむつの比でない世界の半分。

 

 さらにこの世界。

 

 ①子は両親の持つ魔力量の平均と、

  その片方か両方の魔力属性を必ず引き継ぐ。

 ②引き継げるのは自分の子供3人まで

 

 という謎の世界法則が存在するので魔力持ちの数は貴重であり、割と貴族社会では女性が仕事をしている為に興味を持つ人が多かろうと言う結論で、即採用と相成った。

 

 ちなみに上の法則に。

 

 ③貴族の爵位はほぼ魔力量で決まる

 

 が加われば見事、自由恋愛など許されない社会の出来上がり。

 今の爵位を守る為に、魔力の合う相手としか結婚できなくなるからな。半分授与制なんだ貴族って。

 人間兵器の魔力使いに与えられる、ね。

 

 こんな世界観で乙女ゲー作ったらそりゃあ鬱乙女ゲーになりますわ。恋愛自体が罠だとか完全に頭がおかしい。

 

 貴族のモラル試され過ぎ問題よ。

 

 しかもこの時代。

 

 女性のソレを担っていた道具はこう、ふんどしに近い一枚布で。

 それをベルト状のガードルで止めただけの簡単な道具だけで、彼女らから出るお月の物を全て受け止めていたという話で。

 

『ああ、そんなモンを使う必要があったから、女性達はスカートを履いていたし、洋の東西問わずその文化が育ったと考えると趣深い。女性の服が筒状なのには、しっかり意味が有ることなんやな』

 

 と、逆に納得してしまったのだが。

 

 その布がたまに地面へ血まみれで落ちて、血を媒体に流行り病などを呼ぶものだから。

 女性全体が“不浄”の者として、差別というより迫害されているらしい。

 

 これはもう、なおさら娘の為にもオムツを完成させざるを得ない。

 

 史実においてそんな経緯を払拭し、女性の社会進出の原動力となったモノのひとつが、間違いなく生理用品の発達であり、さらに一つを加えれば、なんとこの時代の苛烈な男尊女卑すら解決できうる品なのだ。

 

 少なくとも俺は将来立派な淑女となるだろう娘に、そんな理不尽な環境で暮らして欲しくはないし、今も吸いきれないオムツの不快さをかかえる彼女を、このままにはできない。

 

 そんな思いを執務室にて、この身のこなしに隙がなさすぎる執事長に対して熱弁すると、

 

「おお、お嬢様がお生まれになって、更に大きな目をお持ちになりましたな旦那様。

 私、感嘆を禁じえません」

 

 と普段ポーカーフェイスが売りの爺様にメチャクチャ驚かれる事になった。

 ……まぁあの方、妻以外誰でも見下す傲慢魔王だったので仕方ないですよね。

 

 しかし世の中普段の行いが悪いヤツが普通以上の事を言い出せば、何かと過大評価されるように出来ている。

 それがジルクリフ程のダメ人間であったなら、その効果はバツグンなのだ。

 

「お任せ下さい旦那様。全て手はずを整えてみせましょう」

 

 その後颯爽と立ち去って、オムツに関する準備から、他にも色々思いついた提案の、その全てを漲るやる気で持って圧倒的な早さで用意してくれた濃い紫髪の老人に感謝である。

 

 流石は公式チート・セシリア様のお師匠様。

 手際の良さに容赦がない。

 

 “夜明けのラプソディア”において家の後ろ盾がなかったセシリア様も、流石に1人で賢くなったわけじゃない。

 それを授けたのが彼であり、彼女の最期の時まで仕えて見せた忠義の執事とメイドこそ、彼の家族達だったりする。

 

『あ、コイツの師匠でもあるんだ』

 

 彼らの血筋の執着はウチの家。

 本来侯爵家である彼らは隠居後、()()で執事をやってくれたり、若くから住み込みメイドしてくれたりするという公式公認のお助けキャラだ。

 

 ある意味ウチの領の貴族の在り方を体現した人達である。

 

 実は美人メイドなメアリーさんもその一人。

 その娘がセシリア様の片腕に育つんだから、ハーティー家には全く頭が上がらない。

 

 しかしそこは鬱乙女ゲー。

 そんなセバスとメアリーさん、原作開始時にはしっかり故人となっている。

 

『それは困る。とても困る』

 

 娘を強力に世話してくれる人材を、無為に死なせる訳には行かない。理由は知らんがとにかく医療にメス入れだ。

 取り敢えずオムツの準備が整う間。

 

『領主の仕事は最初の枠組み作りであり、仕事はできる奴に任せるモノ』

 

 そんな頭の経験に従って、他にも足りない技術は山ほどあるから、口だけ番長を発揮していく。

 

 医療は馬鹿な真似を止めさせて、解剖から始めないと…。

 それに、動力機関のアレコレに、その前提技術、絡繰り品の収集とか指示して……。

 あと、オセロとかオモチャで荒稼ぎしたいよな……

 

 あ、書きにくい。

 ボールペンはまだ無理だからガラスペン。あと羊皮紙じゃなくて植物紙が欲しいし…。

 あとは石鹸にシャンプー・リンス、あ、歯ブラシとか絶対いるしな……。

 あといずれ娘に必要な女性用品よ。ブラもなきゃ、ハンドクリームもいい加減。おしろいなんて水銀入りだし……

 

 これが後にあんなに自分を追い詰める事になろうとは、夢にも思わない公爵だった。

 

 そんなわけで全ての準備が整ってナプキン開発開始。

 俺はその開幕の挨拶に向かったんだが、

 その会場内を見て驚いた。

 

『あれ、意外と男が多いぞ?』

 

「おお、領主様。この度は我が愛しの姫君の為に大変素晴らしい気付きを与えてくれました」

「絶対に私は妻の為に成し遂げてみせますよ」

「どのような手段を使っても健やかな暮らしをあの人に贈ってみせます」

 

 そこにいたのは女性に混じって恋人や奥さんの為に集まった紫頭の男たち。

 その全体的の髪の色からその地位の高さが伺える。

 

 皆さんキラキラしていらっしゃる。他にも。

 

「ついに領主様自ら大々的に吸水素材の開発に取り組んで下さるなんて。私は今感無量でございます。

 早速無重力調合からの均一性素材を試しましょう」

「私はこの次元転移理論を使った浄化術式を提案しますわ。

 ふふ、これで長年の夢が叶うのよ……」

 

 と、もろに趣味人たちが混じっていた。

 あ、なるほど。色々例外だらけなんだなこの領は。

 

 執着するモノに対するこの熱量よ。

 

 その後。基本的に自分の好きな事をやりに来たこの人達の恐ろしいモチベーションで、勝手に開発が進んだ事は言うまでもない。まぁ暴走も色々あったけど。

 

 こらそこ、マネキン使うの面倒だってメイドさんの口にスカートの端を咥えさせてパンツを脱がせるのはやめなさい。

 

 それは俺に効く。

 貴族のモラルに厳重注意!

 

「え、元々女になんて興味ないですから問題ないのでは?」

「はぁ、なんて素敵な殿方なのでしょう。このように繊細に私達女性を思って下さるなんて……」

「そうか、考えた事もなかった。

 そういう紳士は妻に受けが良いかもしれん。流石は我らの第一人者よ……」

 

 この後、新しい流行を作るんだって騒ぎになって、なんだか凄く疲れました。至急、娘分を要求する。

 

 そんな彼ら・彼女らが、この世界に伝わる魔法や薬、錬金術に魔物素材、果てはやエルフ・ドワーフ・獣人達の秘技、そして冒険者達の知恵に至るまで調べ上げたナプキン素材の栄光を勝ち取ったのは。

 

 なんとあのスライムさんだった。

 

 とある赤髪の冒険者が自分の村の民間伝承的に使っている乾燥剤だと言って持ってきた、この乾燥スライムの粉こそが、もっとも優れた吸水性を誇る素材であったのだ。

 

 この世界では水辺をうろうろし、貴重な水源から多量の水を奪うだけの迷惑生物が、多くの人の役にたつ無二の存在へとその価値観を変えた瞬間である。

 

 これをスライムポリマーと名付けよう(適当)

 

 このスライムポリマーは彼等の持つ性質通り、少量で多くの水分を吸い取れる為、これとすでに開発し終えていた植物紙を使った試作品は、それまでの生理用品では考えられない薄さを実現し。

 試しに使用感を見て貰ったうちの使用人達からは、泣いて喜ばれる結果となった。

 

 やっぱみんな苦しんでたんやなって。

 

 後日。領内の水道沿いに冒険者達を使って大規模なスライム牧場を作り、彼等を計画的に増やす事と、その加工工場を作る事が満場一致で可決。

 

 技術の特許についてもフリーで他領、他国も使えるように伝えた。

 もう面倒になってきたから、が本音なのだが、

 

「こういう生活必需品に関する技術は、どこかで囲い込むより開放して少しでも安くなった方が、世の女性と子供達の為となるだろう」

 

 と体面を気にしてインテリぶったら公爵株爆上がり。なんか後に他領・他国問わず色んな女性達を招待し、大規模スポンサーを得る為の一大説明会を開く事が大決定。

 

 曰く“女性の為の発表会”

 その開催まで3ヶ月。

 

 準備の為に目まぐるしい日々を送る事になろうとは、この親バカの目を持ってしても気づけなんだわ。

 

 それを聞いたウチの執事様が止めに一言。

 

「ほほ、それは良い手ですね旦那様。

 上手くいけばあの神殿を黙らせるよい材料になるかもしれませんね。」

 

 なんて言い出した。

 

 え、あの黒髪ってだけで悪を浄化するとか言って神の名を騙って殺した挙げ句に、お布施まで要求する国を跨いだ大権力理不尽宗教を止められるの?

 

 どうやったらナプキン使ってそんな事できるのよ。

 流石の内容に絶句してたら。

 

「流石旦那様。最早完全に私の上を行かれましたな」

『いやいや、全然何にもわからんけども』

 

 なんて言うから、そう返したつもりなんだけど。

 口から出たのはこんな言葉で。

 

「かいかぶるな。まだまだ俺など知らぬ事ばかりよ」

「ほほ、これはまた頼もしい。では私も負けてはおれますまい。早速失礼致します!」

 

 満足そうに颯爽と去っていく執事長の背中を見ながら、娘の元に癒やされに行こうと思った俺は、きっと悪くない。

 ……この身体、言語機能とかジルクリフ依存だからなぁ。貴族口調は感情が高まるとこんな誤爆を招くのよ。

 

 まぁ娘相手にゃ普通にしゃベれるからいいけど。

 

『まぁセバスなら悪い事にはならないだろう』

 

 そう経験が告げるので、取り敢えずいつも通りできる奴におまかせする事にした。

 

 そんなこんなで転生から3か月、凍える季節を通り過ぎ、春の日の暖かさが降り注ぐ今日この頃。

 早速娘を連れ出した俺は公爵家の屋敷の側だ。

 

「今日は温かいなぁセシリア」

「あうあ!」

 

 本日親バカは、娘に大人気の重力魔法を使ったお遊戯である、公爵31の可愛がり技の一つ“スーパー高い高い”に挑んでいた。

 

 俺の腕の中、今から娘様は大興奮。

 温かい日差しを受けて薄着になった彼女にはちゃんとあのオムツが装備されていて、今日は白いふわふわワンピースでしっかりおしゃれさん仕様である。

 

 娘の為に一定温度を保つ火の魔石と、風よけの空の魔石、その他様々な機能が盛り込まれたそれはもちろん俺が頼んで作らせた一品物だ。

 

「公爵様~、お嬢様を連れ出してどこにいかれたのですか~」

「あ、やばい。セシリア、メアリーに捕まる前に今日もひとっ飛び行くぞ」

「きゃう♪」

 

 いやぁ最近、俺が構うと娘が興奮しすぎて寝付きが悪いって言われて結構責められてる公爵です。

 でも娘様が喜ぶから仕方ないね?

 

 とりあえず、捕まる前に、大じゃーんぷ。

 

 飛ぶ前にかけた重力魔法によって、身体を紫の魔力が包み込み、お互いが無重力状態になっているからそれはもう、高く高く飛べるんだ。

 

「あい、きゃん、ふらーい」

 

 屋敷のサッシなどを更に蹴りつけ、ぴょんぴょんぴょーんと飛び上がれば、

 

「ほーら高いたかーい!」

「きゃっ、きゃっ!」

 

 この領地を見渡せる、絶景高い高いが完成する。

 

「ああ、何時見ても綺麗だ……」

「ふぁ、きゃ!」

 

 そこに広がるのは美しき()()()水の都だ。

 

 ジルクリフの祖父が【風呂好きの嫁の為に】、西の山脈にダムを作って貯めた大量の軟水を、この領まで引っ張ってきたのが始まりのこの街は。

 

 ジルクリフの父の時代に、【美術好きの嫁の為】に、多くの美術建築と、建物一つ一つに計算された彩りが与えられ。

 

 ジルクリフが、【清廉で民思いの妻】の為に誰もが健やかに暮らせる様に、更に清潔に、その治安を徹底する事で完成した、この国に例外的に出来上がった地中海風文化都市。

 

 それがウチの領都である。

 

「なぁ、セシリア。

 この領の、あの葉脈みたいに通った用水路、あれ、ここの排水と元の川から引いて作った人工の運河なんだってさ。とんでもないよなぁ」

「ふぁ?」

 

 ほら、娘も驚いておられる。

 もうね。全部、変態な嫁バカ達と、この国の趣味人達のやりすぎ気質の仕業ですよ。

 

 正直この街がなければ、最初の開発は衛生問題とか、お風呂問題とかそういうのになってたわ。

 

 原作のファンディスクの中に収録されたセシリア様の前日譚にのみ登場するこの素晴らしい都は。

 

 原作開始時の17年後。

 ジルクリフが妻を失い、やる気をなくして管理されなくなってから、色んな貴族が入り込んで来て。

 好き放題荒らされて。

 

 衰退するってんだから。

 

 本当にこのゲームは救われない。

 そんな皮肉がどこにでも仕組まれているのが“夜明けのラプソディア”って言うゲームである。

 

 でもそんな幻の水の都は、まだ無事だった。

 だからこそ、進められた。

 これだけ豊富に水の流れがあるんなら、それを利用して歯車が回せる。

 電気がなくとも機械化が出来るんだ。

 

 そうして産業革命に繋げれば。

 

 女性達は、単純な肉体労働だけの世界から解放されて。

 生理用品と合わせて。

 

 いずれ男尊女卑から解放される。

 

 そりゃあまだまだ、先の話だけどさ。

 

「お、凄いぞよく登れたな~」

「わぅわ!」

 

 重力が軽くなった身体で俺の身体をよじ登り、そのてっぺんに到着してみせた娘様は、満足そうな顔をしていた。

 こんな顔を見たらどこまでも頑張れちゃうね。

 

「公爵様~。またこんな所に登ってぇ!」

「あ、やべ」

 

 そんな空気を切り裂くように、メアリーが重力魔法と火魔法を両立させて高速でこちらに向かって来るのが見えた俺は。

 

「赤鬼さんがきたから、ひとまず退却だぞセシリア!」

「あい!」

「もう、またそのような事をお嬢様にお教えになって~!」

 

 無重力状態を解除しながら、風の魔石を起動。

 一時的にその空気圧を無効化させて、自由落下で地表に向かうと、またも重力軽減した後、屋敷を蹴って逃走開始。

 負けると分かってる戦いを挑むのだった。

 

「反則なんだよなぁ、無重力と火の複合魔法!」

「きゃっ、きゃっ!」

 

 どこの爆◯さんやねんって飛び方よ。

 まぁどうせ後で捕まるし、怒られるのが怖くて娘を可愛がれませんよ。

 

 すでに達観の公爵である。

 

 さて次はアレだ。

 アレしかない。

 娘がハイハイの後に迎える盛大なそのイベントの為に、俺は準備してきた、この国一番の大問題にとりかかる。

 

 つまり。

 

 この国のメシは、まずい。

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