娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない 作:丹波の黒豆
さて。ここで隣の領の力を借りて一気にウチの開発を加速させたい所だが。
どうにも俺の中の経験が、騒いでいる。
すなわち。
『借りられる時には目一杯借りて、資産を大きく膨らませるべし』
と、経営者脳がそのチャンスを伝えてくるのだ。
ここで言う借りるモノとはもちろん地の領、土使いである貴族達のその数の事。
彼ら本来の仕事の効率を引き上げれば、そんな交渉も可能となる。
では貴族のもっとも大事な仕事とは何なのか。
『それは防衛戦力に他ならない』
実はこの世界、大変危険な場所である。
ウチの領を見て貰っても分かる通りに、国以上の大きさを持つ森林型ダンジョンから常に大小の、現実世界のソレらを超える獣達がバカスカ湧いて襲ってくる場所なんて、もう危険以外のなんでもないし。
他にも魔龍や首なし騎士といった人智を超えた厄災存在の出現や、新たなダンジョンの発生により突然始まる魔物達の大行進。
精霊と呼ばれる不思議存在の暴走に、果ては人の行き来を狭める為に用意されたとしか思えない、世界各地の要所を塞ぐ神話級生物達の魔窟など。
挙げていけばキリがない。
この“夜明けのラプソディア”。
なんで乙女ゲーなのに、こんなにいらない部分だけファンタジーしちゃったのかと問いたいが、それはゲーム内のストーリーにも関わっている。
実際ゲーム本篇が始まる17年後。
ウチの南の大森林から魔獣達が異常発生し、国内きっての実戦経験を持つウチと地の領の貴族達は、……王都で起きた反乱騒ぎに一切関わる事が出来なかったし。
ゲーム開始の10年前には火のヒーローの住む赤の領は、封印から目覚めた魔竜の進行によって半壊し、彼の大きなトラウマとなった。
他にもイベントは様々あるが、そんな理不尽問題が次々起こるのがこの世界で。
それを普段誰が解決するかと言うならば。
『それは貴族達に他ならない』
そんな人を超えた存在の相手をできるのは、同じく人を超えた人間兵器達のみなのだ。
そう。この世界で貴族が偉くなったその訳は、単純に物理的に強いから。そんな理由が多くを占める。
力がなければ貴族じゃない。
この世界の常識の底には、そんな脳筋思想が確実に息づいている。
しかし、しかしである。
『科学で人の限界を引き上げれば、より少ない人数で領地は守れるようになる』
一般的な騎士達の魔法が拳銃から小銃程の脅威なら、それ以上の力を用意すればいい。彼らの移動手段が馬ならば、それ以上の乗り物を用意すれば対応範囲も引き上がる。
そんな兵器の開発を、俺が急がせてないかと言われれば。
もちろん答えは否だった。
そんな俺の切り札をここで1つ切る事にする。
『巨大バリスタ搭載・8輪石材装甲車』
この見た目はどこかの城塞の一角を思わせる無骨な石棺のような異形の一品。
その頭頂部にクロスボウのお化けこと城塞用の巻き上げ式バリスタまで装備されたコイツはつまり。
戦車、というか自動車だ。
いや無理だろ。
内燃機関もない中世でいきなり車とか。
ギアチェンジとかどう考えても高等技術。
再現できるか!
『と、思われた方は大正解』
それらを魔法の力で無理やり補って作られたモノ。それがこの戦車。通称城塞車なのである。しかしこんな事を言われても納得できないだろうから。
この戦車が出来るまでの経緯を、少しばかり振り返ってみようじゃないか。
・
「動力機関、なんとかしないとなぁ……」
この世界に来てすぐの事。
俺はオムツ開発の傍らに、自室で安定した動力機関の作成に頭を捻らせていた。
場所を気にせず機械を使うにはエンジンの燃料か、力を蓄える電池のようなモノが絶対に必要なのだが、どうにもこの世界には石油や石炭が見当たらない。
電気を生み出す為の酸の類いはあるにはあるのだが、工業用に大量にとなると、これも近場では得られずに、色々と足踏みを強いられていた。
『異世界名物ダメージ床こと毒の沼地が求める酸の池だなんて、可笑しな話だよなぁ』
それがあるのは青の領か、火の領で、それぞれ他の領を跨ぐから流通も難しい。
硫酸生成の為に硫黄なんかも欲しいから、火山のある火の領は早めに押さえたいんだが。
……技術流出などの色々な危険があって、他領との大規模取引にはまだ手が出せないと来たもんだ。
技術的にも内燃機関はまだまだ作れる気がしないから、早くモーターと電池をこさえたいんだけどな。雷魔法使えば、強力磁石なんて簡単にできそうだし。
まぁ手が出せないなら、他の手を考えるしかないけども。
『電池の代わりと言えば、使えそうなのは魔石だな』
虹七色に白と黒。それぞれの属性を溜め込めるこの不思議な石は、この虹の国の特産物で、使えば中の魔力が解放されて誰でも簡単な魔法を再現できる優れもの。しかも属性に関わる環境に置いておけば、中の魔力が回復していく。
最大で貯められるのはその大きさと純度に見合った量だけだけど、水の魔石なら水につけとけばそれを吸って回復するし、重力なら量こそ少ないが勝手に貯まる。
魔力使いなら直接魔力の出し入れもできるし。
出力こそ少ないが、キチンとした魔法さえ知っていれば、数を用意して中級程度の魔法も再現できるから、魔道具作成には欠かせない道具なんだけど。
正直電池の方が遥かに便利なんだよな。
『いっそ雷の魔石を買い占めて電池代わりに、いや予算が……』などなど。
そんな風に行き詰まってしまった俺は、取り敢えず気分を変えたくて娘の部屋へ行き、日課である娘との触れ合いで癒やされる事にした。
「さぁーて、セシリア。今日は新しい遊びを思いついたから、見てもらおうかな?」
「あう?」
その日の俺は、この世界に来てまだまだ慣れていなかった魔法を使って、セシリアに喜んで貰おうと考えていた。
使うのは重力魔法。というより俺は重力魔法しか使えない為、これ一択である。
重力魔法と聞けばファンタジーにおいてかなり強い属性のイメージがあるが、この世界のそれは一味違った。なんとこの重力魔法。
基本的に対象の重力を地面方向に軽くするか、重くするかしか出来ない。
後はその効果範囲と時間、そして操れる重力の限界のみが使用者の魔力量の多さで決まり、他には重力増加によって受ける衝撃に強くなる位しか利点のない、地味な魔法系統だったのだ。
その代わり重力操作といいながら操ったモノの質量まで変化しているのか、軽くしたモノをひょいひょいと持ち上げられるシンプルな使いやすさはあるが。
……地味すぎる。
「メアリー、セシリアを見ていてくれ」
「あの、公爵様。……あまりお嬢様を興奮させないで下さいね?」
「あうあー♪」
しかしこんな可愛らしい観客がいるのなら、俺はそんな地味魔法に工夫を凝らしてその笑顔を勝ち取らねばならない。魔法が地味なら本人の動きでカバー。
俺はそれまで抱いていた娘様を紫の魔力で包み、その重力を0にしてその場に浮かすと、側にいて微妙な顔をしていたメアリーさんに託しながら。
自分も軽くなってジャンプした。
これぞ31(予定)の娘可愛がり技のひとつ。
『三次元いないいないばぁ』である。
「とぅ、はっ、ほっ、ほぉあ!」
「きゃっ、きゃっ!」
「え、え、公爵様ぁ。それどうやって回ってらっしゃるんですか?」
この技は、メアリーさんが微妙な顔をしていた原因となった、この技の前にやらかした技。
とりあえず自分の重力を0にして俺がジャンプし、天井で手をついて、また地面に戻ってまたジャンプを繰り返す始まりの技術。
『公爵インベーダー』の発展型で。
ジャンプして天井にたどり着く前に、自分の上半身の重力を限定的に強め、質量差から生まれた空気抵抗を利用して天地を逆転。
また無重力に戻って足から天井に着地したら。
そこから飛んで、いないいないばぁ。
そしてまた同じ手法で下半身を重くし、天地を逆転させ、足から着地するを繰り返して。
様々な所から娘に『いないいないばぁ』が出来るという画期的な技である。
後にこの技。大人気なく火魔法まで操って高速で空を飛んで追いかけてくる、ぴんくのあくま事メアリーさんを振り切る為に極める事になった重力忍法もどきの基本となるのだが。
「きゃう、きゃあっ♪」
『しかしこの時、娘の可愛いすぎるその笑顔が、俺に奇跡の気付きをもたらした』
あ、あれ。
この重力魔法。動力源に利用できるのでは?
この天地逆転法。
空中で連続回転できるなら、間違いなく歯車か何かに仕込めるぞ。
そんな気付きが、俺にさらなる技を与える。
「もう、公爵様ぁ~。そろそろおやめ下さいませ。またお嬢様が眠れなくなってしまいますよぉ」
「ぅ、きゃ♪」
いやごめん、メアリーさん。
最後にこれだけ。
これだけ試させて下さいな。凄く重要な事だから。
『娘も喜んでるし(本音)』
言うが早いが、部屋の角に向かってジャンプした俺は、天地を逆転。
そこから壁を蹴って横に跳ぶと、下半身の重力を強め反転。無重力へ戻り。
その後は上半身を同じく反転。それを繰り返し。
斜めに少しずつ下がりながら連続してクルクルと空中を回るさらなる発展技。
『公爵大車輪』を閃いた。
やっぱり出来るじゃん!
「きゃう、きゃあぁ♪」
その興奮のままに、俺に手を伸ばしてきた娘を抱いて地面から着地すると、そのままクルクルと回って娘とこの喜びを分かち合う。
「すごいぞセシリア。お前のおかげで大発見だ!」
「きゃっ、きゃっ!」
「もぅ、しょうがないんですから公爵様は……。
うふふ」
自然と笑いが溢れる様な、そんな温かな空気の中で。
『世界を変える新技術のイメージが浮かび上がった』
その後、この理論を歯車に仕込めば、それは自重で落ちながら回転した。
右半分だけ重力増加。
左半分は重力軽減。
そうすれば、その差で生まれた重量差が落下速度を生み出して。
歯車は勝手に回り続けた。しかもその速度を生み出す加速度は、重力依存だ。
落ちれば落ちるほど、つまり時間をかければかけるほどその速度はどんどん増して、生まれるエネルギーもまた増大していく。
工夫すれば重力の魔石でも十分力を得られるだろう。
……そうなれば誰でも使える動力だ。
これが異世界産の新動力。名付けて重力機関。
その閃きが自動車への道の、いや。……あらゆる機械技術への道の始まりだった。
前回の後書きについて多くの方にアドバイスを頂き、本当にありがとうございました。
取り敢えずあの手の話は外伝化せず、頻度だけ調整して描かせて頂きますね。
書きたい量が増えたらその時外伝化させて貰います^^