娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない 作:丹波の黒豆
と、いうわけで鳴り物入りで地の領主、辺境伯ガンガロンさんの前に現れた俺たちは、そのまま前線でこの新兵器達の有用性を示すべく、さっそく実戦に加わる事にした。
「ひどいなここは。……獣で溢れかえってる」
ウチの誰かが呟いた言葉の通り。
今この場所は、とある理由から魔獣の数が膨大に増え、その危険度を増している。
今なおこの地の騎士達が獣と死闘を繰り広げている最中であり、多くを語る暇などなく。
ここに来るまでもう事前に激を飛ばしていた俺はその挨拶も省略し、皆に参戦を指示すると、無重力化した小舟を空へと浮かし、自分も続けて跳び上がって乗り込んだ。
「おう、こりゃあ不思議なもんじゃ。ジル坊や。いつから空の魔力を覚えたよ?」
「……唯の重力魔法の応用だ。乗れ、ガンガロン」
「くくく、こりゃあ面白ぇ経験が出来そうじゃわい」
そんな風に笑う気さくな爺ちゃんガンガロンさんを引き連れて、小舟を飛ばして空のドライブ。
上空から戦場を支配する気満々の俺である。
あ、ちなみにこの二人乗り程度の小舟。
ウチの切り札その2なんだけど、その構造は至ってシンプル。
①無重力魔法で船と乗り手を宙に浮かせ。
②重重力機関で船頭のプロペラを回して飛ぶ。
それだけの代物だ。
他の装備は風の魔石を使った風よけ魔法と遠距離通信、熱の魔石を使った熱対策と回転用の熱噴射のみというなんともお手軽なこの船は。
その実、この船程度なら常時無重力化しても堪えない伯爵以上の大魔力持ちにとって、車なんかより遥かに便利で、しかも簡単に作れる移動手段なんですよ。
風の魔石で風対策さえしっかりしておけば、正直車みたいに車体を軽くしすぎて横転とか、無重力で車が浮かんでタイヤが空転しない分、凄く効率がいい。
つまずく危険もない空だから、リミッターも解除ができて速度が車と段違いという。
そんな気球いらずのお手軽飛行船なのである。
こんなん笑うわ。
そうして空から辺りを見下ろせば、この地の岩石騎士たちの活躍が見て取れた。
「いつも通りだ野郎ども。
山猫や首刈り兎は穴に誘って埋めてやれ。森狼どもは壁に分断、壁ごと潰せ。
牙虎や大熊共は杭で足止めし、檻に閉じ込め刺し殺せ!」
うん、見事な罠捌き。
土魔法を使って即座に色々トラップが生み出せる彼らは、防衛戦のスペシャリストだ。
他の領地とは違い、岩石騎士団には上級貴族がしっかり組み込まれている事もあり、その防御力はまさに見事の一言である。
「焦るな。時間をかけて弱らせろ。被害を受けねば必ず勝てる!」
しかし彼らには攻撃力が欠けている。
この世界、回復の魔力は神殿の握る一族しか使えないから、とにかく怪我が恐ろしい。
『あいつらソレを一般的に公開してないから、実質存在しないのと同じなんだわ……』
だから投射系攻撃魔法ってすごく重要なんだけど。
土魔法ってその投射速度が遅いから、攻撃にはあんまり向かない系統なのよね。
決着に時間がかかる。
ま、ウチはその投射魔法がないけどな。
従って近寄って重力で足止めし、物理で殴るのが、これまでの重力魔法のやり方だった。
完全に脳筋スタイル。
……しかしこれからは違うぜ。
『遠くからバリバリ太矢を放って安全に戦う、最高に賢い時代の始まりなのだ』
今こそ、脳筋を返上する時である。
そんな我らが城塞車の活躍ぶりと言えば。
岩石騎士達が足止めした獣をバンバン射止め。
小さな獣をまとめて熱線で焼き払い。
通信魔法で連携力もバツグン。
さらに魔獣に体当たりを仕掛ける勇ましさよ!
……え、体当たり?
「地の騎士達よ、手を貸してくれ。この城塞には未だ敵への武器が足りない。お前達の力による工夫こそ必要なのだ」
「足場の整理も頼むわ!」
「心得た!」
嘘だろ。
車の前方に長いランスのような石の棘を作って貰って、相手を直接ぶっ刺し始めた。いや、そのまま地の騎士達を車に乗せて、いろいろ武装をその場で車に追加してやがる。
「はは、騎兵突撃こそが騎士の誉れよ!」
「足止め射撃、用意!」
魔獣に高速でツッコミながら土槍でぶっ刺し、その部分を土使いに切り捨てて貰って、次の獲物に向かうまでにまた生やすその彼らの戦いぶりは。
……の、脳筋と言わざるを得ない。
バリスタは主にその足止めと、足の遅い大型の魔獣相手に使われてるな。
……太矢故に弾速が速くないから工夫が必須と。
す、すまん騎士達、俺らのせいだわ!
「土使い達よ、我らが城塞の矢弾が足りない。どうか手を貸してくれ!」
「はは、了解だ。勇ましき城塞よ!」
しかも途中から土使いに、太矢を石で作って貰って補充しながら戦っていると。そりゃあ毎分60発も撃ってたら、すぐに弾切れしますよね。
……補給の重要性よ。
いやいや感心してる場合じゃないわ。
これ以上無茶させられん。
しばらくダンジョン側が仕掛ける本命に向け、その魔力を温存していた俺は、急遽戦闘に加わる事に。
「ほいじゃ、いこかいジル坊や?」
「ああ、中型以上を仕留めるぞ」
ガンガロンさんに地上の魔物に向かってひたすら槍状の石を大量に出して貰って、それを20倍の重力層にくぐらせて、雨あられと獣に叩きつける共同作業を開始した。
その圧倒的殲滅力に、目に見えて数を減らす獣達。
こ、これで彼らの無茶も減るだろう。
……そう考えた俺が馬鹿だった。
「城塞よ、命を賭けろ。牙虎を攻略するぞ。我らが主の教えを思い出せ。
全城塞、突撃ぃっ!」
え?
いや5m級の大型に、突撃したらダメだろ。
確かにアイツラ素早くて矢や槍の雨、避けるけど。
いくら後輪側に機関を置いて、前方は石の塊だからって、それは事故にしかならんでしょ。
『というか俺、何も教えてないって!』
そんな俺の苦悩も知らず勢いよく突撃した城塞車達は、剣虎達に自分から生えた槍をぶっ刺すと、同時に自分に魔力を纏い、そのままの勢いでぶつかって。
……そこで跳ね返って後方へと跳んでった。
あ、あれは。
俺が教えた対事故用の無重力防御術。
『無重力エアバックじゃあないか!』
……うん、そりゃあね。
重力魔法。あんだけバグがあったら色々調べるじゃない科学者として。
で、分かった事は重力操作と言いながら何故か質量操作もしちゃってるこの無重力化。
質量というその場に留まろうとする力が存在しない為、一切の力の流れに逆らえないんだ。
殴られたらその力が内部に伝わる前にぶっ飛ぶし、その後後ろに当たっても、同じくそこから飛び跳ねて空気抵抗で止まるまで動き続ける。
むしろ空気以上に軽いから、風の流れにすら逆らえないので、外でそれを使う場合は風よけの魔石が必須なんだよ。
で、皮肉にもこれが防御に使えたりする。
押しつぶされるか、締め付けられない限り、打撃における衝撃が、自身の外側の移動ベクトルに変換されて中身にはまったく影響を与えないからだ。
『それが無重力受け身って、騎士達なんかも知らずに使っていた技術なんだけど』
当然それ、事故の衝撃なんかにも適応されちゃうわけでして。中身は加速度による増加Gの影響を受けてる筈だけど、それって質量がないと負荷にもならないのよね。
質量×加速度Gが身体にかかる負荷だもの。
0に何かけても0なのよ。
そこら辺を意識して搭乗者と車内・機関もしっかり無差別化した無重力魔法で包んでやって、飛ばされ防止に身体を固定しておくだけというお手軽な対事故用の防御技。
それが無重力エアバックなんだけど。
『……突撃自損も事故扱いかぁ』
教えてた、なぁ。認めたくねぇわ……。
こうして飛ばされた彼らはもはや発射物。
その速度は発生源に依存するので、当たった速度になる訳だけど、こんな低質量で速度に上限があったならエネルギーなんてたかが知れてる。
空気抵抗での減速待ったなし。
跳ね返った先で減速した彼らは重力操作か、土使いのサポートで地面を操って貰い着地して、それからも突撃を敢行した。
それはもうどこぞの引っ張りアクションのようでして。彼らは立派にモンスターをストライクして行ったのだ。
いや、特攻野郎が過ぎるでしょうよ!
「かか、いやぁすげぇモンじゃなあの輪っぱはよ。しかもあの勇ましい益荒男達を、仕込んだってんだから恐れ入る。
実に見事。男を上げたのお前さん」
そんなウチの騎士達のあまりの
「いや、アレは彼らの手柄だガンガロン。……俺など彼らに危険を強いただけにすぎんさ」
とりあえず全否定。
うん、準備不足。あんな無茶な事やらせるなんて上司的にも技術者的にもNGですよ。
まだまだ想定が甘かった。
帰ったら3人バカ、いや領地の変態共も全員巻き込んで大反省会ですわ。
『あんな戦法、もう二度とやらせるか!』
そんな決意を俺が心に刻んだその時に。
戦場に変化が訪れた。
やっと
「うぉぉぉっっん!」
「さ、災厄級」
「フェンリルだと!」
森の木々を薙ぎ倒し、その奥から駆けてくるのはとびきり巨大な狼だった。
災厄級。まさに上級貴族にしか相手にできない神話的生物が出現した。
『ダンジョンは自分が奪った命の魔力を使用して、魔物を召喚する
これがあのゲーム内で魔法学園の教師から語られた何気ないセリフであり。そのヒロイン以外、全ての登場人物が知っていた常識である。
上級貴族のような大魔力持ちを喰らったダンジョンは、活性化して多くの魔物を呼び出す力を得て危険度を増やすが、その魔物を短時間で減らされ過ぎると、この場にいるだろう魔力持ちの命目当てに、大ボスを前線に送り込む。
これがガンガロンさんがこの場にいた目的だった。
こいつを倒してやれば、ダンジョン側の活性化が収まって一安心。
逆に押し切られたら一気にダンジョンが広がるという、まぁそんな感じの場所なんだダンジョンって。
本来ダンジョン内を探索して倒すボスなんだけど、ここのダンジョンもう国一つ飲み込んだ規模だから広大すぎてな。
正攻法なんてやってられない訳なのよ。
しかも今回は大物だ。
この場で昨今奪われた魔力が強大だったから、とびきり危険な犬っコロが出てきてる。
なかなかお目にかかれない
『しかし相手が下にいるのなら、コチラは投石するだけで楽に勝てるのでは?』
そんな風に思っていたから、罰が当たったんだろう。
「ガンガロン、速やかにアレを倒すぞ。
より大きな岩石を……」
「おい、ありゃあオメェ!」
「……いや、その槌を貸せ」
そこで気づいた。
あの狼が走りながら
『アレを吹かれたら、騎士達ではもたんぞ』
そう脳内で、何かが俺に強く警告してくる中で。
そのブレスの完成まで10秒切った。
地上ではブレス用の防壁を準備する土使いと、獣に突撃をかける城塞車たち。
あの距離では、……間に合わない。
そしてここはまだその300m上の世界。
これから移動し、石を作って投石では届かない。
だったらやる事なんてたった1つだ。
『アレは娘の未来を妨げる、敵なのだから』
執着により自分の魔力がどこまでも強まっていく中で、決意はとうに出来ていた。
俺は魔力を過剰に込めて、無理やり足場の小舟に定着させると、その獣に向かって加速して。
「ガンガロン、全力で俺を飛ばせ!」
「おうさ!」
大きな槌を肩に担いでその船から飛び降りると、老人が俺に放った攻撃魔法の勢いを利用して、自分と槌の重力を限界まで強くして再加速。
風の魔石で抵抗を殺し、更に速度を上げ続ければ。
流れいく世界の中で、もう獣は眼の前だった。
次は他者視点です。
今回も多くの方に誤字修正を頂きました。
いつも本当にありがとうございます。