魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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プロローグ
第1話 異世界は美少女天国なの


「我輩は猫である。名前はシロン……シロン・ガンニャールヴルだニャ!」

 

 広大な庭を有する大きな屋敷の前で、夕闇に暮れ行く空を見上げながら白い子猫がつぶやく。おかしなことを言っているように聞こえるが、その子猫は2本の足で直立し、流暢な日本語を喋っているのである。見た目も普通ではなく、赤いマフラーを首に巻いて、右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイという不思議な雰囲気を感じさせる。何故、唐突に自己紹介をしたのかという点も不明だが、そのような疑問など些細に感じられるほど存在自体が異様だった。

 彼は、見た目でも十分に分かる通り、只の猫ではない。信じ難いことに、とある事情によって異世界からやって来た猫であり、神様と呼ぶに相応しいほどの力を持っているのだ。見た目はごく普通の可愛らしい小猫だが、この小さな存在には奇跡を起こせる力があった。彼が望めば世界を破壊することすら可能なくらいに……。

 しかし、その瞳はどこか悲しげに揺らいでいた。彼は自分の意思でこの地にやって来た訳ではないからだ。故に、郷愁の念に駆られてしまうのも無理は無かった。

 

「今頃みんなはどうしてるかニャ~……。セツニャ・F・セイエイは、相変わらずガンニャムオタクなのかニャ~?」

 

 遠い世界にいる親しかった者たちを想う。彼が発する少女のような幼い声は、楽しそうでもあり、寂しさも感じられた。

 

「ロックオン・ストニャトスは街に繰り出してギャルのハートを狙い撃ってるだろうし、アレルニャ・ハプティズムはソーニャ・ピーリスと真昼間から乳繰り合っているだろうし、ティエリニャ・アーデはヴェーニャを使ってタダでネットサーフィンしてるんだろうニャ……改めて思うと碌でもない奴ばかりニャ」

 

 本人たちがいないのをいい事に言いたい放題である。平和を勝ち取るために共に手を取り戦ってきた仲間だというのに。

 でもまぁ、普段の彼らはしょーもない連中なので、そう思われてもしょうがない。ただ、そのしょーもないの中にシロン自身も含まれているのだが……。

 

「シロンちゃ~ん!」

「おや、この声はずずかニャ」

 

 物思いにふけっていると、シロンを呼ぶ声が近づいてきた。この屋敷の持ち主である月村家の次女、月村すずかだ。どうやら自分を探しているらしいので、こちらから出向くことにする。こう見えても彼は【王族】なので、常に紳士であることを心掛けているのだ。

 【魔法】の力で空中に飛び上がり、器用に前足を使って扉を開ける。すると、目の前の玄関ホールに当のすずかがいた。見ると、高町なのはとアリサ・バニングスも同行している。彼女たちは友人同士で、私立聖祥大学付属小学校に通う小学3年生である。3人共に美少女であり、将来がとても楽しみな逸材ばかりだ。

 

「あっ、シロンちゃん!」

「やぁ、愛しい少女たち」

「もう、勝手にほっつき歩いてんじゃないわよ」

「おっと、その言い方は間違ってるニャ、アリサ」

「え~? どこがよ?」

「我輩は飛んでるから、まったく歩いてないのニャ~♪」

「とんちか!」

「むほぉ!?」

 

 余計なことを言ったせいでアリサの怒りを買い、両頬をギュッと押さえ込まれた。思いのほか柔らかそうで、ムニュムニュと表情が変わる。

 

「相変わらずの減らず口ねぇ~、あぁん!?」

「にょにょ~!?」

「アリサちゃん、可哀想だよ~」

「やたらと頑丈なんだから、これくらい平気よ。うりうり~、どうだ!」

「にゅふふ、もし相手が大きなパイオツのお姉ちゃんだったら一溜まりも無かったニャろう。だがしかし、君のようなペッタン子では話にニャらんわっ!」

「えいっ!」

「うっぎゃー!? 愛が! 愛が痛いノォー!?」

 

 小学生相手にセクハラ発言をかまして更なる制裁を受ける。両腕を引っ張られて痛そうだったが、当然の結果なので同情は出来ない。

 現にすずかからもお叱りを受けてしまっているし……。

 

「もう、女の子にそんなこと言っちゃダメだよ?」

「はーい!」

「何ですずかに対しては素直なのよ?」

「決まっているニャろう? 我輩に三食昼寝付きの優雅な生活を与えてくれる偉大なお方だからニャ!」

「王子としてのプライドが全く無いじゃん!?」

「ふん、我輩はプライドよりフライドチキンを取る男ニャ!」

「かっこ悪い事をかっこよく言うな!」

 

 仲良くケンカする2人。内容はともかく、会話のテンポは良い感じなので、傍から見てるととても楽しい。

 

「にゃはは~、仲良しだね~2人とも」

「べ、別にそんなんじゃないわよ!」

「なんと、これが噂のツンデレか! 美幼女の心まで射止めてしまうとは、我輩も罪な男ニャ」

「調子にのんなっ!」

 

 くぎゅっ☆

 

「おほぉ~っ! 口とか下の穴から出ちゃいけないモノが出てしまふーっ!?」

「「あーん、シロンちゃんがー!?」」

 

 顔を真っ赤にしたアリサにベアハッグされて悶絶するシロン。見た目は胸元に抱きしめられているだけなので、人によっては実に羨ましい状態なのだが、身体の小さい彼にとっては少女特有の柔らかさを堪能している余裕は無かった。

 

 

 シロンのせいで話がこじれてしまったが、すずかたちは当初の目的を思い出し、グッタリとした彼をそのまま胸に抱きしめながら移動する。今日はなのはとアリサがお泊りに来たので、3人と1匹で仲良くお風呂に入ろうと決めていたのだ。

 因みに、普段のシロンはすずかと一緒に入ることがほとんどで、時々この屋敷で働いているメイドさんのノエルやファリンと入ったりしている。すずかの姉である忍とだけ入らないのは、彼氏から苦言を言われているからだ。例え猫だろうと恋人の裸を見せたくないらしい。

 まぁ、人間以上の知能があるシロン相手になら分かる気もするが、猫に嫉妬するなんて……。

 

「まったくもって、ちっさいニャ~」

「あっ、起きた!」

「よかった~」

「それはいいけど、ちっさいってなんのこと?」

「アリサのパイオツ」

「私の胸はこれからなのよっ!」

「そーですねっ!?」

 

 性懲りも無くセクハラ発言を繰り返してグリグリの刑に処せられる。さっきから軽妙なトーク合戦を繰り広げている2人だが、仲が良いのか悪いのか……。

 何はともあれ、騒いでいるうちに風呂場についた。脱衣所に入ると、少女たちは恥ずかしげもなく大胆に服を脱いでいく。その光景を優しく見つめるシロンも、首に巻いたマフラーと虹色に光る綺麗な宝石が付いた首輪を外す。シロンの手から離れた瞬間、宝石がきらりと輝いた。

 

「ほんと、すごい綺麗よね~。何度見ても感動しちゃうわ」

 

 目ざとく見ていたらしいアリサが覗き込んでくる。

 彼女の実家は、大きな屋敷に住んでいるすずかに負けないくらいの大金持ちだが、これほど素晴らしい宝石は今まで見たことが無かった。そして、それはすずかとなのはも同様だった。

 

「そうだね~。最初はオパールかと思ったけど、こんなに透明感は無いし」

「どっちかって言うとダイヤモンドかな?」

 

 2人の言う通り、オパールのようなはっきりとした虹色に輝くダイヤモンドという見方は正しい。ただ、実物はそれ以上の物であるように見えるので、ダイヤモンドをもってしてもその美しさを表現しきれていないのだが……とにかく、高価で貴重な代物だという事は良く分かる。

 ここで疑問なのは、何故そのような物をシロンが持っているのかという事だ。無論、趣味で持っている訳ではなく、偶然手に入れたものだった。

 しかし、これを手に入れたからこそ、シロンはここにやって来れた。

 

「コイツはな、我輩の相棒なのニャ」

「相棒?」

「そうニャ。コイツとの出会いは、摩訶不思議アドベンチャーの連続だったのニャ~」

「ふぅん」

「まぁ、話せば長くなるのニャが……」

「じゃあいいや。それよりお風呂に入ろう?」

「って、翼君もビックリの華麗なスルー!?」

 

 アリサはシロンの独白を軽く受け流すと、みんなを風呂場へ促した。確かに、真っ裸で長い話を聞かされるのは御免こうむりたいだろう。

 その意見にはすずかとなのはも賛成のようで、誤魔化すように話しかけてきた。

 

「シロンちゃん、今日は私たちが身体を洗ってあげるね」

 

 ツインテールを解いて印象の変わったなのはが、シロンを抱きかかえながら進言する。彼女も動物好きなので、可愛い(?)彼のことがお気に入りなのだ。

 

「すっごい気持ちよくしてあげるからね~」

「うむ。良きに計らえニャ」

「こういう時だけは王子様っぽいわね」

「どっちかって言うと殿様じゃないかな?」

 

 結局、シロンの思い出話は有耶無耶になり、その後は大人しく少女たちとの楽しいお風呂を堪能する。なのはとアリサに優しく身体を洗ってもらってすっかりご満悦である。

 

「どう? 上手いもんでしょ~?」

「美少女に身体を洗ってもらえるんだから感謝しなさいよね」

「へっ、そーいう事はブラジャー付けるようになってから言うんだニャ、小娘どもが!」

「もう、そんな酷い事言っちゃう悪い子は、少し頭冷やそうか♪」

「なんと!? 我輩の頭を押さえてナニする気ニャ!?」

「こうするのよっ! 食らえ、目にシャンプー!」

「ニャオーッ!? 目がーっ、目がーっ!!」

 

 余計な事を言ったせいで色々と台無しである。

 これらのやり取りも仲が良い証拠なのかもしれないが、将来的にエスカレートしていかないか心配である。なのはとアリサにはそう思わせる素質を感じるし……。

 

「おにょれー、紅の暴君め!」

「って、なにその二つ名!?」

「そっちの白い悪魔も覚えてろニャ!」

「えーっ、私は悪魔なのー!?」

 

 なのはとアリサにただならぬ気配を感じたシロンは、それぞれに合いそうな二つ名を付けた。両方とも年頃の娘さんに付ける名ではないので、当然ながら2人は不満げである。とはいえ、身体を洗いながら話を聞いていたすずかは、そこはかとなく納得できる気がしてしまった。勿論みんなには内緒だけど。

 

「ところでシロンちゃん。私の二つ名は無いのかな?」

「ンニャ? すずかには【夜の一族】とゆー立派な二つ名が既にあるじゃニャいか。我輩はそのアダルティな響きにビビッと「うわぁあああああ~~~~~っ!?」

「きゃっ! 急に大声出してどうしたのよ、すずか?」

「夜の一族とか聞こえたけど、なんのこと?」

「えっ!? えっと~、そうだ、シロンちゃんが使ってるハンドルネームだよ!」

「ん~? なに言ってるのニャ、我輩のハンドルネームは闇の炎王(ダークフレイムマスター)ニャほぉー!?」

 

 空気の読めないシロンが本当の事を言おうとしたので、慌てたすずかは彼の顔を胸元に押し付けた。余計な事を言われないように口封じをしたのである。今はまだほんのり膨らんでいるだけだが、将来巨乳になる可能性を感じる彼女の胸はとても温かくて気持ちよかった。もっとも、息が出来ないので堪能している余裕はなかったのだが。

 

「んがぐっぐ!?」

「あんっ、そんなところ触っちゃダメだよ~!」

「このエロ猫! なにやってんのよ!」

「にゃはは……自業自得っぽいけど、シロンちゃんも大変だね」

 

 遠ざかる意識の中、過去の記憶が走馬灯のように浮かび上がる。その中には、この世界へやって来る事になった経緯も含まれていた。

 それは、今よりそう遠くない数週間ほど前の出来事だった――。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 元々シロンがいた世界には、魔法と呼ばれる力を持った妖精猫ケット・シーが存在していた。

 ケット・シーは、猫の姿から耳としっぽの生えた獣人へと自由に変身出来る元人間である。遥か昔、魔法を使える事で同じ人間から迫害を受けた魔法使いたちが、人である事を嫌って、自分たちの姿を根源的な部分から変えた。それが妖精猫ケット・シーの始まりとなる。使い魔として愛でていた猫の因子をその身体に取り入れ、彼らは誕生したのだ。

 

 

 そのような経緯でこの世界に現れたケット・シーは、凶暴な人間と袂を分かつため大胆な行動に出た。彼らは、魔法と科学を融合した高度な文明を築くと同時に火星へ移住してその存在を秘匿したのである。人間を観察しつつも干渉せずに時を重ねる事にしたのだ。しかし、ある出来事を契機に歴史の表舞台へ姿を現すことになる。

 西暦2307年に勃発した太陽光発電の利権を巡る人類同士の最終戦争を止めるべく立ち上がったのである。

 化石燃料の枯渇に伴い、人類は新たなるエネルギー資源として太陽光発電システムを作り上げた。しかし、国力の違いによってエネルギー供給に不公平が生じ、その軋轢から憎しみと悪意を育て、ついには戦争へと発展してしまう。そう、24世紀になっても人類は未だ一つに成り切れていなかったのだ。

 そんな世界に対して楔を打ち込むべくケット・シーは武力介入を決意する。人類が実戦配備している人型機動兵器【モビルスーツ】に対抗するため猫型機動妖精【モビルアールヴ】を開発した彼らは、モビルアールヴ【ガンニャム】を有する私設武装組織【ニャーソレスタルビーイング(新たなる神)】を結成し、世界から紛争を無くすため民族、国家、宗教を超越した作戦行動を展開していく。

 彼らの攻撃は全て非殺傷魔法であり、武器だけを破壊して人命を守る事を徹底した。そのため想定以上の時間と犠牲を払うことになったものの、人類は開戦から数年の間に主だった武装のほとんどを失い、その圧倒的な力の前に屈服する。だが、それでも彼らは戦うことを止めようとはせず、中世のような刀剣を用いた血生臭い戦いすら始める始末であった。

 その悲惨な有り様を嘆いたケット・シーは最後の手段に出る。世界規模でチャーム(魅了)の魔法を使い、世界中の人々に【猫好き】という統一意識を持たせたのである。同じ猫好き同士なのだからもう戦う必要は無いのだと、全ての人類が真摯に対話し、分かり合えるように。

 それは苦渋の決断であったが、幸運にも功を奏す事になる。猫好きとなった人類は、ケット・シーの愛くるしい説得によって分かり合い、最後まで燻っていた闘争心までも失ったのである。

 そして、戦う力を全て失ったおかげでようやく気づく事が出来た。

 世界はこんなにも簡単だということを。

 武器が無ければ力の差も無く、只のか弱い存在でしかない。なればこそ、武器を失って空いたこの手を取り合えるのではないか……いや、取り合うべきだ。始まりの人類がそうしたように。自分たちの先祖がそうしてきたように。彼らに出来たのなら同じ人間である自分たちに出来ぬはずがない。そして、共に仲良く猫を愛でようではないか。

 

 

 こうして、地上の生命を滅ぼしかねなかった世界大戦は、致命的な被害を出す事も無く理想的な形で幕を閉じた。

 ケット・シーの技術供与によって半永久機関であるCNドライヴ(Cat Nucleus Drive)の簡易量産型が各国に行き渡るようになり、エネルギー問題が解決したおかげもあって、現在の世界情勢はとても安定している。それでも、完全に争いの火種が潰えた訳ではないが、地球に住まう者たちは束の間の平和を手に入れる事が出来たのだ。

 

 

 半ば敵対したにもかかわらず世界の安定に多大な貢献を果たしたケット・シーは、意外にすんなりと人類に受け入れられ、今では日常の生活に溶け込んでいた。各地に作られた転移ゲートを使って火星と地球を簡単に行き来出来るようになったので、好奇心旺盛な彼らはしょっちゅう遊びに来ているのだ。

 今も目の前に秋葉原から帰ってきた2匹のケット・シーがおり、手に入れた戦利品を手にホクホク顔である。

 

「素晴らしい収穫だニャ! あの混迷極める戦場(混雑したお店)から戦果を上げて生還するとは……ミスター・キシドーの名は伊達ではないニャ!」

 

 手に持ったガンプラの箱を掲げながらサムズアップを送ってくる白い子猫は、我らが主人公シロン王子だ。行動は幼稚な悪ガキそのものだが、容姿はケット・シーでもトップクラスの美少年である。

 そして、そんな彼が話しかけている相手は……

 

「お褒めに預かり恐悦至極。このグラハム・ニャーカー、栄光ある二つ名にかけていかなる万難をも排してみせよう!」

 

 この暑苦しい物言いの金髪猫は、自分で名乗っている通りグラハム・ニャーカーという。彼はケット・シーの王族に仕える近衛隊の隊長で、王子であるシロンを護衛している美青年だ。

 

「それより、王子こそやるようになったな。ウッカリ落としたエロ同人(ケモ耳美少女もの)が衆目に晒されたのにもかかわらず、全く意識を乱さぬとは。その心、まさに鋼の如し! このグラハム・ニャーカー、心の底から感服したぞ」

「ニャに、そのくらいあの地獄のような戦場に比べたら取るに足らんニャ……」

「フッ、それもそうだな。私の愛する空を汚し尽くした、あの忌むべき戦場に比べれば、な」

 

 2匹はガンプラとエロ同人を手に、今はもう過去の出来事となった戦乱の日々へと思いを馳せる。何を隠そう、彼らはニャーソレスタルビーイングの中心としてそれぞれの愛機を操り、人類との対話を成功に導いた英雄なのだ。気を抜いた今の姿からは全く想像できないけど。

 それでも、当猫たちは気にする事も無く、何かをやり遂げたイイ表情を浮かべながら、緑の多いのどかな八王子を歩く。火星にある家に帰るために、この先の山中に設置された転移ゲートへ向かっているのだ。

 

「しっかし、何でこんな僻地にゲートを作ったんだニャ? RPGで新しい町に行くくらい過酷な道のりなのニャ。毎日が大冒険ニャ」

「ええい、このくらいで弱音を吐くとは! 堪忍袋の緒が切れた! それでも王子か、軟弱者がぁ!」

「沸点低っ! ってか、これまで王子扱いしたことないよね? ずっとタメ口だったよね? すっげー友達感覚だったよね?」

「はっはっは、まぁ仕方があるまい。都心は何かと金がかかるからな」

「って、話し変え過ぎな上に世知辛いなぁオイ!」

 

 一応、CNドライヴの売り上げでかなり儲けてはいるが、必要以上の浪費は抑えなければいけない。それに、今はまだケット・シーの影響力が強いので、都心の真っ只中にゲートを作れば様々な弊害が起こる事が予想される。故に、この地にゲートを作った事は理にかなっているのである。

 

「それでも、これだけは言わせてもらおう……王子なめんニャコラッ!」

「こちらこそ、あえて言わせてもらおう。八王子をなめなるなと!」

「そうです、なめてはいけません。八王子にある高尾山は私のお気に入りなのですから」

「ほぅ、気が合うな。あの男らしい名称には私も惚れこんで……って、何奴っ!?」

 

 アホな会話に熱中していると、不意に後ろから声をかけられた。

 とても可愛らしいその声に反応して視線を向けると、そこには中学生くらいの小柄な美少女が立っていた。陽光に映える綺麗なベージュ色の髪をボブヘアにした少女が、こちらを興味深そうに見つめているのである。そこまでは只の嬉しい出来事なので問題は無い。しかし、少女の格好はあまりにも異様だった。彼女は、身体の細部が分かるくらいピッタリとフィットした白いパイロットスーツのような衣装を身に着けていたのだ。しかも、頭に猫耳、お尻にしっぽを付けるというかなりあざとい格好だった……というか、人間形態になってコスプレしている同族だろう。

 何にしても、よろしくない行動なので注意しておかなければいけない。

 

「お嬢ちゃん、コスプレしたまま出歩くのはマナー違反だぞ☆」

「その通りだ! 屋外で柔肌を晒すとは……破廉恥だぞ、コスプレ少女!」

 

 こう見えてもシロンたちは立派な社会人(?)なので、子供の過ちを優しく正す。だが、この少女は只の子供ではなかった。

 

「ご忠告痛み入ります。そのお返しと言っては何ですが、こちらも注意してあげます」

「注意とニャ?」

「ほぅ、一体なんだと言うのかね? 見目麗しいお嬢さん」

「それは……なめてはいけません、と言うことです」

 

 そう言い切った瞬間、少女は動いた。人間とは思えない高速移動でシロンを掻っ攫うと、身軽な動作で後方に飛び退ったのだ。適度な大きさの胸に抱かれながら強い力で締め上げられたシロンは、身体全体を包む柔らかさを堪能しつつも気絶してしまう。

 

「体はちっさいのに結構なパイオツをお持ちですね……ガクッ」

「王子!?」

「ほら言った通りでしょう? なめてはいけませんって」

「やってくれたな!? トップファイターであるこの私を出し抜くとは、気に食わんな!」

 

 予想外の出来事に一瞬戸惑ったものの、すぐに体勢を立て直す。グラハムはすぐさま人間形態に変身して本気モードになった。金髪碧眼で高身長のハンサムガイになった彼は、臨戦態勢をとってコスプレ少女を睨み付ける。

 

「これ以上の狼藉は、このグラハム・ニャーカーが許さん! いたいけな少女であろうと、私を謀った報いは受けてもらう!」

「……猫の姿も凛々しかったですけど、人の姿になっても素敵ですね」

「ほぅ、正直な少女だな。敵ながら好意を抱いてしまいそうだ。しかし、それとこれとは話が別だ。王子は返してもらうぞ!」

 

 グラハムは得意の飛行魔法で急接近すると、左腕を振るって鋭いパンチを放った。一見すると只のパンチだが、実際には強化の魔法がかかっているので、当たればあの上条さんでも一発でノックアウトできる。

 しかし、予想に反して必殺のパンチは防がれてしまう。オレンジ色に輝く粒子が彼女を覆うように展開して攻撃を食い止めたのである。

 

「なにっ!? CNフィールドだと!? 予想外にも程があるぞ!」

「良い攻撃ですが、まだまだなめすぎですよ……ハンサムさん」

「年端も行かぬ少女相手に、この私が圧倒された!? ええい、なんと無様な!!」

「怒っているのですか? そんなつもりは無かったのですが、お気に触ったのなら謝ります」

 

 そう言うと、本当に申し訳無さそうにお辞儀した。その様子を唖然としながら見つめていると、少女の身体が真紅に輝きだした。その姿は、ガンニャムに搭載されている機体性能を通常の3倍以上に引き上げる特殊システムに酷似していた。

 

「これは……トランザム!?」

「そうですよ」

「何故だ! 何故生身のままトランザムが使える!?」

「それは……私が【戦闘機人】だからです」

「戦闘機人、だと!? 妙な胸騒ぎを覚えるが……この感情、一体なんだというのだ?」

 

 聞いた事もない単語だったが、字づらから感じる嫌な気配が気になった。

 一瞬だけ戸惑いを見せるも、それはなんだと問い質すために口を開く。その直後、少女たちが光の粒子と化した。そして、一瞬のうちに数キロ先へと移動してしまう。魔力反応が感じられなかったので、あれは魔法ではない。では何だというのだろうかと疑問に思うものの、今はそれどころではなかった。少女は謎の瞬間移動をもう一度実行して行方をくらましてしまったのだ。

 

「逃がしたか! しかし、我らの探索能力もなめてもらっては困るな、コスプレ少女!」

 

 グラハムは、魔法で作った異空間に保管してあるストップウォッチみたいなレーダーを取り出して反応を見る。大丈夫だ、シロンの居場所をしっかりと示している。後は、彼が無事なうちに目的地を突き止めなければならない。

 早くしなければシロンはあの少女の餌食になってしまう。

 

「そうはさせるか! 王子の貞操は、このグラハム・ニャーカーがいただく!……もとい、守ってみせる!」

 

 さらっと危ない言い間違いをしつつも、すぐさま行動に移る。

 勿論、少女の目的はグラハムの思っているような事ではないのだが、シロンの身に危機が迫っているのは確かなので、その点で言えば彼の行動に間違いはなかった。

 

 

 のどかな風景をバックに突如起こった大事件。一応言っておくが、「ワイルドな八王子は危険が一杯だよ!」という訳ではない。この事件のバックには、もっと別の悪意ある存在が潜んでいた。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 不思議な能力を使ってグラハムを撒く事に成功したコスプレ少女は、気絶したシロンを胸に抱いて秩父山中までやって来ていた。何故ここに来たのかと言うと、彼女の帰る場所がここにあるからだ。

 人が立ち入らないような鬱蒼と茂った木々を抜けた先に、改造を施された多目的輸送艦が停泊していた。量産型CNドライヴを搭載して大気圏内での飛行が可能となっているこの艦は、とある目的のため日本に不法入国している最中だった。光学迷彩に加えて各種ジャマーを展開し、姿を隠しているのである。

 無論、コスプレ少女が所有しているものではない。この艦を運用している張本人は、艦内に作られた研究施設にいる白衣を着た男だった。

 艦に入ったコスプレ少女は、シロンを抱いたまま彼の元へとやって来て首尾を報告する。

 

「ドクター、王子をお連れしました」

「ほぅ、予想よりも早かったね。それでこそ私の最高傑作だ。良くやったね、【リニス】」




リリカルなのはの世界に行くのは、もうちょっと先となります。
まぁ、基本こんなノリで行くので、シリアスになる機会は余りないと思います。
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