エピローグの内容は、各シリーズのダイジェスト的な話を加えた後日談となっております。
ユーリとマテリアル娘の話がどうしても作りたかったので、13話から大活躍(?)します。
因みに、残りの話数は全部で10話程度を予定しております。
とまぁ、情けない感じになってしまいましたが、最後までお付き合いしていただけたら幸いです。
第10話 あれからもう10年か……【無印】
ミッドチルダの首都クラナガン近郊に建てられた立派な邸宅。ここは、シロンたちがミッドチルダで活動する際の拠点として使っている場所だ。いわゆる秘密基地的なものなのだが、表向きは新進気鋭の実業家が住むお屋敷として通っている。管理局にいる伝手を最大限に活用して、8年前にこちらの世界で起業したのである。
ケット・シーの技術とこちらの技術を掛け合わせた製品はとても性能が良く、今では多くの管理世界で快く受け入れられていた。ただ、それは表向きの話で、実際はその会社が齎す旨味を隠れ蓑に裏で色々と暗躍している。この世界の【ソレスタルビーイング】として、管理局の歪みを断ち切るために。
とにもかくにも、そういう訳有り邸宅な訳だが、その一室では猫形態のシロンと2人の金髪美幼女がのん気に会話を楽しんでいた。
「……それがフェイトとの初めての出会いニャ」
「へぇ~、フェイトお姉ちゃんって子供の頃は暴れん坊だったんだね~」
シロンを膝に乗せて彼の語る昔話を聞いていた金髪碧眼の少女は、優しいお姉さんの意外な過去に関心を寄せる。あのお淑やかなフェイトにそんなバイオレンスな過去があったとは、今の彼女からはまったく想像できないからだ。とても仲が良いシロンとフェイトがかつて敵対していたなど少女にとっては寝耳に水だった。
もちろん全ては事実であり、否定できない過去である。しかし、【暴れん坊】という言葉に納得できない人物が隣にいた。彼女と同じ背格好の少女、高町ヴィヴィオだ。とある事件の後になのはが娘として引き取った少女なのだが、なのはと同じくらいフェイトが大好きな彼女は、プンプンと怒りながら反論してきた。
「フェイトママは暴れん坊なんかじゃないもん! たぶん、その時は恥ずかしかっただけだよ!」
「え~、恥ずかしいからってカミナリ落としちゃうのはおかしいんじゃないかなぁ?」
「おかしくないもん! 【魔導師にとって魔法は言葉なのよ】ってなのはママも言ってたもん!」
「なんという肉体言語! 確かに、ボールは友達とか言いながら無慈悲に蹴っ飛ばす感じでスターライトブレイカーぶっ放してるもんニャ……」
2人の少女たちの会話を聞いていたシロンは遠い目になる。彼自身もなのはのお話(魔法攻撃)をフェイトやユーノと共に幾度となく食らっていたから手に取るように実感できる。軽い気持ちでガンダム化計画という名の猛特訓を完遂したことをちょっとだけ悔やんでしまいそうだ。
それもそのはず、あれから【10年経った】今、高町なのはは名実共に次元世界最強の魔導師となって【管理局の白い魔王】とまで言われるようになってしまっていたからだ。あろう事か、一部の高官でさえ【なのはさん】と敬語を使うようになる始末である。
シロンとグラハムらの手により子供の頃から適確な訓練を受けた彼女は、成人を前にして最強の魔導師に成長していた。本来の歴史で大怪我をするはずだった事件も無傷で切り抜け、現在も完璧な健康を維持しながら戦技教導官として日々精進している。恋人のユーノも激しい訓練につきあわされて、最近では苦痛がカイカンになっているとかいないとか。仲は良いんだけど、2人の行く末が若干心配である。
しかも、そんななのはの子供となったヴィヴィオもまた、彼女と同様に武闘派の道を歩み始めていた。魔法の腕前はまだまだ母親に及ばないが、とりあえず考え方はソックリになってきているようだ。
「とにかく、なのはママとフェイトママは暴れん坊じゃないの! ちょっぴりやんちゃなだけなの!」
「う、うん、そうだね……」
ヴィヴィオの力説を隣で聞いているもう1人の少女【アルマ】は、苦笑いを浮かべながらうなずいた。
彼女は6年前に生まれたグラハムとリニスの愛娘で、ほぼ同い年のヴィヴィオとは親友の間柄だ。リニスの子供を生み出す部分は生身のままだったので、アルマには戦闘機人としての機能は一切受け継がれず、純粋なケット・シーとしてすくすくと育っている。
「(アルマは母親似でホント良かったニャ~。ちゃんと空気というものを読めているニャ。父親と違って)」
シロンは、そんなことを思いながら彼女の親を思い浮かべる。
かなり早い段階からグラハムに惚れていたリニスは当初から積極的にアタックしていたが、彼女が本腰を入れるようになったきっかけはフェイトとの出会いだった。10年前、温泉に行った際に2人は初めて出会うことになったのだが、その時にリニスの【前世の記憶】が蘇ったのである。かつて、家族のように接していた頃の記憶を。
なぜそのような超常現象が起こったのかと言えば、世界の仕組みに理由があった。
3次元世界を構成するための記録媒体である虚数空間は、それぞれの世界で死亡した存在を再利用できる因果情報として全て記録している。ようは著作権がフリーになった状態なのだが、その情報に目を留めた上位存在によって死亡した存在が別の世界で生まれ変わることがある。それが輪廻転生の仕組みであり、今のリニスはシロンのいた世界に転生してきた存在なのだ。そして、奇跡とも言えるような偶然が重なって元の世界へと戻ってきたリニスは、縁の深いフェイトに認識されることによって世界自体からも転生前のリニスと誤解され、それをきっかけに過去の因果情報が流れ込んできた。魂と呼ぶべきものが同じなので、このような奇跡体験が起きたのである。
こうして、リニスはフェイトたちとの縁を取り戻したのだが、そのせいで母性が更に強くなり、グラハムに対する愛が異様に高まってしまった。それが功を奏して、当のグラハムもガンニャム並に手強い存在となったリニスに惚れこんでしまい、3年ほどのお付き合いの後にめでたくゴールインとなったのである。その際グラハムは――「よもやこの私が撃ち落とされようとは。あえて言わせてもらおう、君こそトップファイターであると!」――なんてことを言って褒め称えたとか。やっとまともな恋愛をするようになったかと思ったら中身は相変わらず微妙だった。そんな彼にぞっこんなリニスも、やっぱりどこか変わっているのかもしれない。
そういえば、一見まともそうなユーノもフェレットに変身して女性を騙す趣味を持った(?)淫獣だし……この少女たちの将来に一抹の不安を覚えずにはいられない。
「うむむ……改めて考えると、この子たちの親は変人ばかりニャ。となれば、良識人である我輩がしっかり教育せねばなるまい! 主に保健体育的な方面で!」
「って、ナニを教える気なのよ!」
「どきりんこ!?」
シロンは、怒気を含んだ言葉を不意にかけられて驚いた。誰かは声で分かっているものの、一応目視で確認してみると、やっぱり魔王……もとい、高町なのはだった。彼女の長いサイドポニーが強大な魔力で生き物のように揺らいでいるように見える。その様子を見ているうちに、子供用の半ズボンを華麗に着こなすマッチョな彼を思い浮かべてしまう。
「なのはさんがゴンさん化!?」
「よく分からないけど、とっても侮辱されてる気がする……というか、ゴンさんって誰よ?」
腕を組みながらプンプンしているなのはは、10年経ってもネタの引き出しが尽きないシロンに呆れた視線を向ける。そんな彼女の傍には、親友のフェイトとその使い魔のアルフ、そして、先輩ママさんのリニスがいて、みんなで仲良くヤレヤレといったような表情をしていた。
これから子供たちと買い物に出かける予定なので、4人とも素敵な私服でめかしこんでいるが、そんなことなどお構い無しに普段通りの会話を進める。
「アルマ、シロンお兄ちゃんに変なことされなかった?」
「ううん、大丈夫。シロンお兄ちゃんは優しかったよ?」
「おいしいお菓子をくれたし、とっても【しんしてき】だったよ」
「実際は変態という名の紳士ですけどね」
「コラ、そこのママさん。しょっちゅう子守させるくせに、あらぬロリコン疑惑かけないでくれる!?」
シロンは、すっかり母親が板に付いたリニスに文句を言う。戦闘機人である彼女の身体は年をとらないので今でも15歳くらいの少女に見えるが、中身は立派なお母さんとなっていた。
現在彼女は、とある事件で確保された戦闘機人の少女たちを更生させるために管理局で働いている。そのため、同僚とも言えるなのはたちと行動を共にする機会が多くなっていた。特になのはとは同い年の娘がいることもあってかなり親しくしている。今日も、子供たちの服を買いに行くためにわざわざ休日を合わせていた。別の用件で休日を取っていたシロンがヴィヴィオらの世話を任されていたのは、リニスたちの準備を待っていたからだ。まったくもってとんだ災難である。
子守と言えば普段はアルフのお仕事なのだが、今日は久しぶりにフェイトとお出かけできるという事でかなりはしゃいでいるらしく、不貞腐れてるシロンのことをからかい始めた。
「やーい、ロリコン! 変態紳士ー!」
「ええい、我輩はおっぱい党だから貧乳なんかに興味はない!」
「そんなしょーもないことを堂々と言うな!」
「へん! てめぇがロリっ子になったからってムキになってんじゃニャーよ、バーカバーカ!」
「うがー!! なんてムカツク奴なんだ!?」
逆襲とばかりに子供の姿をしたアルフをからかうと、案の定つられて怒り出した。彼女は外見年齢16歳の姿で誕生した使い魔だが、主であるフェイトが管理局で働きだしてからは彼女の魔力負担を軽減するために子供の姿でいることにしたのである。まぁ実際の年齢が12歳なので、今の姿の方が正しいとも言えるが。
「あーもう、フェイトからもガツンと言ってやってよ!」
「そうだね、子供たちの前では変なこと言っちゃダメだよ、シロン?」
「はーい、ごめんちゃい☆」
「ふふっ、良い返事ですねー」
素敵なおっぱいを持つ彼女には逆らうことなどできないので素直に謝る。そんなシロンに機嫌を良くしたフェイトは、彼の身体をぎゅっと抱きしめた。彼女にとってシロンは自分と家族を救ってくれたヒーローであり、愛しい想い人でもあるので、このくらいのスキンシップは望む所なのだ。
嬉しそうに微笑んだフェイトは、恥ずかしさで頬を赤く染めながらも豊かな胸で優しく包み込む。19歳になった彼女の胸はシロン好みに大きく育っており、素晴らしい魅力に満ち溢れていた。
だがしかし、猫形態のシロンにとってその美しい双丘は凶器でもあった。正面から抱きしめられると、ほぼ完全に頭が埋もれて息ができなくなるのだ。
「(お、溺れるぅ~! 幸せに溺れて昇天しちゃうのぉ~!!)」
「えへへ~、シロンは温かいね~♪」
「シロンお兄ちゃん、なんかピクピクしてる~」
「彼は今、幸せを噛み締めているのよ……」
なのはは、ヴィヴィオの頭をなでながら生暖かい視線を送る。デンジャラスなこの光景は、割と日常茶飯事に起きていることだった。なのはと共に管理局へ入局したフェイトは次元航行部隊所属の執務官となったが、シロンが絡むとごく普通の恋する乙女になってしまうのだ。
「あー死ぬかと思った!」
「ごめんね、シロン。また調子に乗っちゃって……」
「なーに、いいってことよ。会うたびに死に掛けてるからもう慣れたニャ!」
「ある意味最強のマゾだよね……」
「おっと、そんな褒め言葉を言ってるヒマがあったら早く出かけたほうがいいぞ? 時は金なりと言うしニャ」
「うん、そうだね……って、さりげなくマゾってこと認めてる!?」
「ふっ、過ちを認める勇気もまた必要なのだよ。人が前に進むためにはな」
「カッコイイセリフだけど、内容はしょっぱいですね……」
かなりしょーもないシロンの告白にドン引きしつつ、なのはたちは揃って表に出て来た。ここからはリニスの所有しているワンボックスカーで中心街まで移動することになっている。しかし、リニスが車庫へ向かおうとしたところでシロンが待ったをかけた。
「リニス、車は必要ないニャ」
「えっ? どうしてですか?」
「それは、アイツに頼めばいいからニャ」
そう言ってシロンは、庭に生えている木のてっぺんを指差した。一見すると何も無いが、よく目を凝らしてみると、身体がボンネットバスのような巨大なネコが木の上に立っている姿がうっすらと見えた。
「「「ネコバスだー!」」」
大人と違ってはっきりと姿が見える子供たちがその正体をズバリ言い当てる。
彼女たちの言う通り、彼はとなりのトトロに出てくるネコバスだ。例の、異世界の猫と出会える願い――【猫召喚】は10年経った今でも健在であり、最近では来て欲しい存在を強く思い浮かべることである程度コントロールすることができるようになっていた。
因みに、ネコバスは本来なら子供にしか見えない存在だが、同じようなメルヘン存在である魔導師にはかろうじて見ることができる。大人になっても恥ずかしげもなく変身できる理由がそこにあった。でなければ、19歳で魔法少女と名乗れるはずがない。まぁ、なのはたちには面と向かって言えないことだが……。とにかく、そのような理由で、彼女たちもネコバスに乗ることができた。
「さぁ、コイツに乗って買い物を楽しんでくるといいニャ!」
「「わぁーい、やったー!」」
「あ、あたしは別に嬉しくなんかないぞ?」
シロンの提案は、当然のように子供たちに受け入れられた。ちびっ子2人は嬉しさのあまり、近くに下りてきたネコバスの顔に抱き付いて頬ずりする。アルフも口では否定しているが、子供たちと一緒にネコバスを撫でているので、それなりに興味があると分かる。しかし、お姉さんたちには不評だった。
「えー、この子で行くんですか?」
「ヴィヴィオたちはいいけど、私たちだと半透明だからちょっと落ち着かないんだよね」
「そうだね。下から覗かれちゃうかもって思うと恥ずかしいし……」
「なに言ってるニャ。ミニスカバリアジャケットで空戦してる君たちは既にパンチラしまくってるから、今更気にすることでもないニャ」
「えっ!? あ、あれは水着みたいなもので、見せてもいいものだし……」
「ええい、グダグダアフアフ言ってんじゃねえ! 女は度胸だってモデルやってた我輩の婆ちゃんがよく言ってたっつーの!」
「あれ、シロンにお婆ちゃんなんていたっけ? ……って、ちょっ、なにするの~!?」
いつまでも煮え切らないお姉さん達に業を煮やしたシロンは、パパッと人間形態になるとフェイトをお姫様抱っこして強引にネコバスへ乗せた。銀髪オッドアイの彼は19歳の青年に成長して更にイケメン度が増しており、彼に抱かれているフェイトは嬉しそうに顔を赤らめる。そんな恋する乙女をやれやれといった視線で眺めていたなのはたちだったが、油断していた自分たちにも刺客が送り込まれる。
「さぁ、子供たちもママさんズを押し込むんだ!」
「「おおー!!」
「ちょっ、ヴィヴィオ!?」
「さぁさぁ、早く乗っちゃって~」
「もう、アルマまで」
「えへへ~、ごめんね、ママ」
なのはとリニスもそれぞれの娘たちに背中を押されてネコバスに乗り込んでいく。口では文句を言いつつも2人の表情は楽しそうだ。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
「おみやげ買ってくるねー!」
「あいよー、エリオたちにもヨロシク言っといてニャー」
「うん、分かったー」
シロンは、目的地で待ち合わせしている知り合いへの挨拶をみんなに頼むと、ネコバスにも声をかける。
「みんなを頼んだニャ、ネコバス」
「ニャオーン!」
ネコバスは、シロンの言葉に答えて一声鳴くと、風のような軽やかさで駆けだした。猛スピードでご近所の家の屋根に飛び乗ったかと思うと、すぐさま別の屋根に飛び移っていく。そして、あっという間に見えないところまでいってしまった。
手を振って見送ったシロンは、一息ついて邸宅へと戻っていく。急に静かになって寂しさを感じるものの、これでようやく自由になれる。
「さて、お出かけする前に研究室に顔出ししときますかニャ」
一応用事はあるが急ぎではないので、もう少しのんびりすることにした。
今この邸宅にはシロンのほかに3人いて、地下に作った秘密の研究施設でとある艦船の設計を行っている。出かける前に彼女たちの進捗状況を確認してみることにした。
シロンは、書棚の裏に作られた秘密の入り口を通って地下施設にやってきた。ホラーゲームに出てくるような薄気味悪いものではなく、アニメに出てくるかっちょいい基地みたいな作りだ。そこにはいくつもの部屋があり、シロンはその中の一室でお茶とお菓子を用意すると、一番大きいメインルームに向かう。
セキュリティを解除して中に入ると、3人の女性が空中に浮かんだたくさんのデイスプレイやコンソールに囲まれて忙しそうに作業をしていた。1人は幼馴染とも言える間柄の月村すずかで、彼女は地球の大学に通いながらシロンの手伝いをしているのである。友達としての親切心ではなく、惚れてるシロンに尽くしたいという乙女心があってこその行動だ。
「おーい、みんな! 少し休憩して我輩とお茶しようぜ!」
「あっ、シロンちゃん!」
シロンに気づいたすずかは嬉しそうな笑顔を浮かべる。彼女は子供の頃のクセが抜けず未だに彼の事をちゃん付けで呼んでいた。
そして、すずかに続くように他の2人も顔を向けてきた。彼女たちはフェイトの家族であり、シロンたちと共に行動しているソレスタルビーイングの仲間でもあった。
「シロンちゃんは気が利くね~。よし、私と結婚しよう!」
「あー、さりげなく抜け駆けするのは反則だよ!」
「ふふっ、チャンスは最大限に生かす、それが私の流儀だよ!」
調子のいい事を言ってすずかと揉め始めたのは、フェイトの姉であるアリシア・テスタロッサだ。現在はミッドチルダにおける最高学府に通っており、母親譲りの優秀な頭脳を生かしてシロンたちの仕事を手伝ったりしているインテリ少女だ。同時に、好意を寄せているシロンに対して積極的にアタックするほどのバイタリティを持った活動的な娘さんでもある。
そんな感じで元気一杯な彼女だが、実は一回死んだことがあるという有り得ない過去を持っていた。5歳の時に36年前に起きた事故で命を落とした彼女は、10年前にセフィの力で生き返ったのだ。そのため実年齢は15歳となっているのだが、戸籍上は4歳年上であるフェイトの姉となっている。フェイト自身も彼女のクローンだったりして色々とややこしいのだが……そんな複雑な状況を作った張本人である母親のプレシア・テスタロッサは、幸せそうな表情を浮かべて立派に成長した娘を見つめていた。
「アリシアも逞しくなったものね」
「あんたの血を受け継いでるからニャ。40過ぎでその美貌は驚きものニャ。これが美魔女ってヤツか!」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。今夜はサービスしちゃおうかしら?」
「「って、何する気なの!?」」
「マダム、あまり美しいと美人罪で逮捕しますぞ」
「あら、生意気なこと言っちゃって、可愛い坊やね」
「ちょっと、そこ! なにやってんの!?」
「それ以上のおさわりは禁止です!」
小娘たちの喧騒を他所に、意味深なことを言ってシロンの腕に指を這わせる仕草がとても艶かしい。
彼女は10年前に不治の病に侵されていたのだが、セフィの力で健康的だった年齢に戻した結果、30代くらいまで若返ってしまった。現在は40代を超えているが、それでも若々しさを十分に保っている。どうやら、魔導師というヤツはイノベイターと同じく老化が遅くなるらしい。
因みに、イノベイターとはCN粒子を浴びることで覚醒する新人類のことで、寿命は普通の倍近くあるビックリ人間だ。これまではケット・シーの中からしか出現しなかった存在なのだが、CNドライヴの普及に伴って地球人類にも現れるようになってきた。
もちろんそれらはシロンの出身世界での話だが、なのはのいる世界でも発生する可能性があるので、アンチエイジングに興味があるアリシアが熱意を向けて研究している。
また、寿命が延びるという事実が世界に影響を及ぼした結果、長期間の航海を強いられることになる外宇宙へ強い意識が向けられるようになり、現在シロンたちは連邦政府の依頼を受けて【外宇宙航行艦スメニャギ】の基礎設計を進めていた。特に次元世界で最高峰の頭脳を誇るプレシアの知識は、進捗状況に多大な貢献を果たしている。そして、大学生活が落ち着いてからプレシアに弟子入りしたすずかは、彼女のサポートをしながら着実に技術を学んでいた。
とにもかくにも、ここにいる連中は根っからの理系女性ばかりだが、3人ともに生き生きとしていた。
「思えば、不思議な話だニャ」
「なにが?」
「ここにあんたたちがいることがさ」
「ふふっ、そうね……」
プレシアは、シロンの言葉を受けて過去を思い出す。10年前に自分が起こした、愚かな事件を……。
☆★☆★☆★☆
今より10年前、プレシアは自分の起こした事故で死なせてしまったアリシアを生き返らせるためにジュエルシードを使ってアルハザードへの道を作ろうとした。彼女が求めたものは何でも願いを叶えてくれる秘術であり、それはシロンが偶然手に入れてしまったセフィのことだった。特殊なクローン技術による再生に失敗したプレシアは、管理局の【最高評議会】と呼ばれる幹部が秘匿していたアルハザードの情報を盗み出し、理想郷が実在していることを確信していた。そのため、無謀とも言える行動に打って出たのだ。
【時の庭園】という巨大要塞に引きこもって戦力を整え、計画に必要なロストロギアが発掘されたという情報を掴んだところまでは計画通り上手くいっていた。しかし、死が迫って焦っていたせいか輸送船からの強奪に失敗し、地球の海鳴市にばら撒いてしまった後もシロンやなのはの妨害にあって必要な数を揃えられなかった。小規模次元震を感知してのこのことやってきた時空管理局のリンディ提督やクロノ執務官たちと仲良く喧嘩しながらジュエルシードを回収しまくったからだ。
それに激高したプレシアは、時の庭園を直接転移させて管理局の次元航行艦【アースラ】を強襲するという暴挙に出た。強力な電撃魔法で推進機関を破壊して艦の動きを封じると、今度は傀儡兵と呼ばれる無人兵器を投入してジュエルシードを強奪しようとした。
「ヤックデカルチャー!? ゴル・ボドルザーのお出ましだー!!」
「よもや巨大要塞が出て来ようとは、予想外にもほどがあるぞ!」
禍々しい巨体で迫り来る機動要塞にビビる一同。まさしく危機的状況であり、普通に考えれば管理局に手をかすべきところだった。だが、別の思惑があるシロンたちは、その混乱に乗じて独自の行動に移った。
クロノ率いる武装隊がアースラの防衛にかかりきりになっている最中、管理局よりも先にプレシアを確保するべくなのはとフェイトの協力を得て時の庭園に突入したのである。グラハムやリニス、フェイトの使い魔であるアルフも一緒に突入し、新開発のデバイスによって魔法少女ならぬMS少女となったシャイニング・アリサとすずか・エックスの力も合わせた結果、ほぼ無傷でプレシアを確保することに成功した。
最後の悪あがきで使おうとしていたジュエルシードも没収し、アリシアの遺体が入った保存容器を抱きながら呆然としていたプレシアをみんなで取り囲むと、ようやく観念したのか全ての事情を素直に語りだした。フェイトを作り出したことも、ジュエルシードを求めたことも、全てはアリシアを生き返らせるためだったのだと。普通に考えれば正気の沙汰ではないし、地球を犠牲にしようとしたことは決して許される事ではない。しかし、大きな犠牲を出さずにその願いが叶うのならやってみてもいいのではないかとシロンは考えた。自分も無理やり生み出された存在なので、もし生き返ったアリシアに怨まれたとしてもその罪を背負っていく覚悟はある。
後は、当時者たち……特に、彼が助けてあげたいと思っているフェイト自身の問題だ。
「フェイトはどう思うニャ? アリシアを生き返らせたいかニャ?」
「私は……母さんの願いを叶えてあげたい。姉さんを生き返らせてあげたい!」
健気なフェイトの心のこもった返答を聞いてシロンも決心した。もちろんその場の勢いだけではなく、プレシアの協力が得られれば管理局に対抗するための力になるという後ろ暗い打算もあった。とはいえ、奇跡の対価としてはそれほど大きなものでもないだろう。
結論を出したシロンは、ジュエルシードを使ってアリシアを生き返らせることをプレシアに告げた。この期に及んで何の冗談だろうか。それが欠陥品であることを知っているプレシアは当然のように疑った。それでも自信満々のシロンは、全員の目の前で完全に使いこなせることを実践してみせた。
「ギャルのパンティーおくれー!!!!!」
「なんてくだらない願い事なの!?」
「でも、ほんとに出てきた!?」
あまりにおバカな願い事でビックリしたら、実際にパンティーが出てきて二度ビックリする。もちろんセフィを使った手品みたいなものだが、実際に願いが叶っているので嘘ではない。それに、たとえ真実を知らなくても、藁にもすがりたい状況の彼女にとっては大きな希望に思えた。
よくよく考えれば、アリシアを生き返らせるなんて嘘をつく必要などまったく無いじゃないか。だとすれば、真実を言っている可能性の方が高いと判断できる。
「……その力を使ってアリシアを生き返らせてくれるのね?」
「可愛いフェイトのお願いだから、しっかり叶えてやるニャ。ただし、いくつか条件があるけどね」
プレシアの返事を聞いたシロンは、願いを叶える前に二つの条件を出した。一つは、これからシロンたちの仲間として全面的に協力すること。
「そしてもう一つは、アリシアの妹としてフェイトと接することニャ」
「えっ!?」
「フェイトが……アリシアの妹?」
「そうニャ。これはアリシアにとって必要なことでもあるし、これから彼女を育てていくお前にとっても必要なことニャ。形はどうあれ生み出した娘を娘と思えないようなヤツにまともな子育てなんてできないからニャ」
「……」
「今はまだ納得できないかもしれないけど、いずれ時間が解決してくれるニャ。だって、あんたの娘は、あんたのことをずっと愛し続けるから」
そう言ってフェイトを指差すシロン。
「この子の愛があったからこそ、あんたは失った幸せを取り戻すことができる。それを忘れなければ仲良くやっていけるさ」
「…………そうね……あなたの言う通りかもしれないわ……うっ、うう……」
「か、母さん!」
膝を突いて泣き崩れるプレシアに抱きつきながらフェイトも一緒に泣いた。シロンは、その光景を視界に納めながらプレシアの確保したジュエルシードをセフィに吸収すると、一瞬でアリシアを生き返らせた。
「ザオリク!」
「それってゲームの魔法じゃん!?」
元ネタを知っていたアリサからツッコミが入るものの、願いは完璧に叶えられ、アリシアは無事に生き返った。みんなが驚きの表情を浮かべる中、円柱状の保存容器から開放された素っ裸のアリシアが体を起こす。
「もちろん、我輩は紳士だからしっかり目を閉じてるぜ?」
「誰に向かって言ってんのよ? っていうか、私たちの裸を見てる時点で意味ないわよ?」
「それもそうだニャ」
「でもやっぱり見ちゃダメ」
「ぐあー!? 目がーっ、目がーっ!」
アリシアの裸を見ようとしたシロンに対して、アリサはシャイニングフィンガーをきめた。シリアス空間に耐えかねた彼の体を張ったお笑いだったが、それも一瞬で終わりを告げる。プレシアが長年待ち望んでいた愛娘との再会を果たして、辺りは再び感動に包まれたからだ。
「う~ん……あれぇ? 何か知らない人たちに囲まれてるぅ~」
「ア、アリシア!!」
「んにゃ? 母さん?」
プレシアは、寝ぼけた様子のアリシアを強く抱きしめた。ついさっきまで冷えきっていた娘から確かな温もりが伝わってくる。そんな当たり前の幸せを噛み締めているうちに、フェイトに対する感謝の念が湧き上がってきた。確かにシロンの言う通りだ。つい先ほどまで感じていた憎悪は、もはやこれっぽっちもない。今にして思えば、あの憎しみはフェイトにではなく不甲斐ない自分に対して向けられていたのだろう。それだけ、ひたむきなフェイトの中に自分の姿を見ていたのかもしれない。だとすれば、これからはこの子とも家族としてやっていける……いや、この子は生まれた時から既に家族だった。
「良かったね……母さん……」
「………………ありがとう、フェイト」
こうして、26年に渡るプレシアの孤独な戦いは終わりを告げた。
その後、不治の病に侵されているプレシアを助けるために、調子に乗ったシロンがせっかくだからと若返らせてみんなにやり過ぎだと怒られてしまったのだが、それはご愛嬌だろう。ついでにジュエルシードで確保した魔力も尽きてしまったけど……まぁプレシアたちの快気祝いとでもしておこう。
後は、完全に蚊帳の外に置いていた管理局への対応だが、それもシロンの口八丁手八丁で上手いこと丸め込んだ。
今回の事件はプレシアが輸送船を襲ったことから始まったが、幸いにもその事実は管理局に掴まれていないので、その辺から言いくるめることにした。そもそも、危険性が判明しているロストロギアの輸送を非武装船一隻だけで済ました時点で彼らの存在意義が失われているのだから、こちらが気に病む問題ではない。その上、自分たちの手抜きで地球を破滅の危機に陥れたにも関わらず、謝るどころか名乗り出ようとすらしないことも大いに問題ありだ。更に付け加えると、もしユーノやフェイトたちの活動がなかったらアースラが来る前に大量の死人が出ていたはずなので、ある意味プレシアたちが彼らの恩人になってしまっているという体たらくだった。
それらの事実をリンディたちに突きつけたら、ぐうの音も出ない様子で黙り込んでしまった。彼女たちも管理局に非があることを認めているからだ。今回は、【不運な事故】が原因だったが、管理局が頭を悩ませている慢性的な人手不足が招いた人為的なイージーミスであることも確かだった。しかも、管理局は管理外世界を明らかに軽視しており、今回の事件においても賠償はおろか謝罪すらする義務が無いという、あまりに身勝手な法律の歪さが浮き彫りとなった。そこに負い目を感じた良識人のリンディたちは、結局シロンの提案を飲むことにした。
「へっへっへっ、話が早くて助かりますぜ、奥さん」
「う~ん、悪魔と契約してしまったようだわ……」
リンディがそう思ってしまうのも無理は無かった。
シロンが提示した解決案は、自分たちに対する管理局の謝罪と賠償を免除し、尚且つこちらが所有しているジュエルシードを譲渡する代わりにプレシアたちの犯罪を無かったことにするという、司法機関としては受け入れ難いものだったからだ。
ただ、管理局にとってもメリットが大きいことは確かだ。厄介な情報を持っているプレシアを法廷に立たせずに済むので、自分たちのミスを簡単に隠すことができる。情けないとは自覚しつつも、それは大きな魅力だった。
もし、世界を破壊できるロストロギアを自分たちのミスでばら撒いてしまったことを他の管理世界に知られたら、管理局の権威はあっという間に失墜してしまう。地球で言えば核兵器を落っことすようなものなので、真実が明るみに出れば当然大問題となるだろう。たとえ犯罪者を見逃すことになっても、それだけは避けなければならなかった。
そのような事情により、プレシアの生存が大きな意味を持つようになってきた。恐らく、彼女がいなかったら管理局の都合のいいようにことが進んでいたはずだからだ。加えて、シロンから説明を受けた子供たちも管理局の危険性に気づき、その事実は後々効果を表すことになる。
とは言っても、お互いに敵対したいわけではないので、基本的には穏便に事を進めていく。
理性的な対話を続けて軟着陸できる場所を探ること数時間、ようやく両者の意見が合致して結論に達した。濃密な話し合いの結果、【事故に遭った輸送船から発掘品ごと放り出されたユーノを、リンディたちが適切な対応で救助した】という小規模の事故として処理することになったのである。これなら発掘品の詳細をぼかして伝えても疑われにくいので、大きな話題にはならないとの算段だ。残念ながら、その程度の情報操作は普段もやっていることなので、リンディの上司も簡単に承認するのだった……。
苦心の末に事件の事後処理を終えてアースラの応急修理も目処がついた数日後、とうとう傍迷惑な管理局が帰還する日を迎えた。それと同時に、テスタロッサ親子とユーノも彼らと共に旅立つことになった。
地球へ引っ越すことにしたテスタロッサ家には向こうでしなければならない手続きがあるため一度ミッドチルダへ行かねばならず、その護衛としてグラハムとリニスが同行することになった。そして、ユーノも事故に関連して行う手続きがあるため一緒に帰ることになり、みんなで彼らを見送って今回の事件は幕を閉じることになった。
「じゃあな、クロノクル・アシャー。エンジェル・ハイロゥに挟まれないように注意しろよ~」
「僕の名前はクロノ・ハラオウンだ! っていうか、エンジェル・ハイロゥってなんだよ!」
「ユーノも、フェレットに変身して女湯に潜り込むクセは治せよ~」
「完全に冤罪だよ!? 全部シロンが強引に連れ込んだせいじゃないか!」
最後に、出番の少ない男性陣をおちょくってオチに使ってやる優しいシロンであった。
因みに、アリシアが生き返ったことやプレシアが若返ったことは【ジュエルシードの力】ということで押し切った。実際に、グラハムとリニスを除いたみんなはそのように思っていた。妄想力の強いシロンが、あのロストロギアの力を完璧に使いこなしたのだと判断したのだ。
無論、説明を聞いたリンディたちはいぶかしんだが、他の原因も思いつかない上に真相を明かしても碌な事にならないと判断し、シロンたちの証言をそのまま採用することにした。
ただ、この情報も公にできないものなので、特秘事項として箝口令が敷かれることになり、それに応じて戸籍情報なども書き換えられることとなった。その際に、フェイトとアルフの情報も正式に登録され、名実共にプレシアたちの家族となれた。
それからシロンたちのことだが、これも強引な説得で上手く言いくるめた。猫妖精という生物が存在する世界を把握していない以上、自分たちの扱いは管理外世界のものと同等になるため管理局は手出しできないはずだと主張したのである。
確かに認めざるを得ない事実だった。もし彼らが率先して犯罪行為をしていたのなら話は別だが、今回の非は全て管理局側にあるので、下手に追求してこれ以上心象を悪化させてしまうのは得策ではなかった。上級のロストロギアを使いこなせる彼らのバックにどれほどの力があるのか分からない以上、迂闊な行動はできなかったのである。当然ながら興味はあるが、下手にちょっかいをかけて戦争にでもなったら割に合わない、という訳だ。
彼らと一緒に行動したリンディはその点を強く危惧し、あまり干渉しないほうが無難だと判断した。
「完成された人造魔導師の存在ですら大問題なのに、彼らはそれ以上に危険だわ」
「はい……3人全員がオーバーSランクの力を持っている上に、ロストロギアを使いこなす能力まで所有してますから……迂闊に手を出せば、古代ベルカの二の舞となるかもしれません」
「そんなこと、好戦的な連中にはとても聞かせられないわ。幸いシロンさんたちは良い人だけど、こちらから手を出せば容赦しないでしょう」
色々な人間と出会う仕事をしているリンディは、短い時間の間にシロンたちの性質を見抜いていた。彼らは、敵対しなければ良い隣人として付き合える。ならば、これ以上の迷惑をかけるわけにはいかない。リンディはそう結論を出し、猫妖精の情報をこの場で握りつぶした。もちろん、シロンたちに対する義理だけでなく管理世界の安寧を考えての判断だが、そのおかげで彼らの存在は管理局上層部に知られることは無かった。
なにはともあれ、魔法少女たちの物語は大満足のハッピーエンドで終わった。これも全てはセフィのおかげである。もしかすると、命をかけてアルハザードを求めたプレシアの執念がセフィを引き寄せたのかもしれない……。
☆★☆★☆★☆
プレシアは過去に向けていた意識を現実に戻して、シロンの持ってきた紅茶を一口飲んだ。視線を巡らすと、未だにすずかと言い合いしているアリシアの姿が見える。
「改めて思うけど、あなたには感謝しても仕切れないわ」
「いやいや、セフィのサポートがあればこその成功なのニャ。あいつがいたからこそ、今この時がある……まったく、セフィは最高だぜ!」
「お褒めに預かり恐悦至極です」
「のわっ!? って、脅かすなよセフィ!」
急に耳元で声がしたので飛びのくと、間近にセフィの姿があった。もともとは虹色の宝石だった彼女だが、現在は古代ベルカの技術を用いて製作した【ユニゾンデバイス(融合騎)】の身体を獲得していた。
シロンと一緒にいるうちに身体が欲しくなっていた彼女は、とある事情で知り合った【守護騎士システム】という魔法生命体に着目した。その点から情報を集めた彼女は、無限書庫で働いているユーノの手を借りて、最終的に【古代ベルカ式融合騎】という特殊なデバイスに行き着き、それらの技術に縁のある【八神はやて】という名の少女にシロンを介して協力を仰いだ。その結果、個人的にも思うところがあったはやてはセフィの願いを快く受け入れ、シロンと協力して互いに1人ずつユニゾンデバイスを作り出した。
苦労の末にようやく手に入れたセフィの身体は妖精のような小人で、10歳前後の少女の姿をしている。かつてシロンが想像した通りの美少女となり、長く伸ばしたプラチナブロンドの髪をたくさんの縦ロールでまとめたお嬢様的な風貌がとても可愛らしい。
そのように可憐な姿へと生まれ変わった彼女は、空中を飛んでシロンの前に躍り出ると、両手でスカートを摘んで優雅に一礼した。
「ごきげんよう、マスター」
「お前はどこぞのお嬢様学校の生徒か!」
主に似たのかマイペースに磨きがかかっているセフィに流石のシロンもつっこむ。確かに、見た目や振る舞いは【深窓の麗人】そのものだが、中身はかなりのババ……
「なにやらムカッときました」
「あばばばば!」
シロンの心をキュピーンと読み取ったセフィは、ラムちゃんばりの電撃を食らわした。ご覧の通り彼女の魔力資質は電気タイプなのだが、そんなセフィに付けられた二つ名は【深窓の雷神】である。その力を買われて時々フェイトやはやてたちに協力しているので、今ではもうかなりの使い手となっていた。
「はははっ、またやってらー!」
「シロンちゃんも懲りないですね~」
電撃でビリビリしていると、不意に可愛らしい声をかけられた。視線を向けると、セフィと似たような大きさの小人2人が空中に浮かんでいる。セフィの親友である【リインフォース・ツヴァイ】とその悪友である【アギト】だ。
彼女たちもセフィと同じユニゾンデバイスで、リインはセフィと同時に誕生した幼馴染であり、アギトは古代に作られたオリジナルとでも言うべき貴重な存在だ。この2人は、先に名前の出たはやての家族であると同時に仕事上の部下でもあった。
というか、今日は2人とも休みじゃないはずだが……。
「なんで君たちがここにいるのかね? ズル休みだったらお尻ペンペンの刑を実行しちゃうけど、そこんトコどうなのよ?」
「もちろん、ズル休みなんかじゃないですよー。はやてちゃんの命令でシロンちゃんを迎えにきたのです」
「そうだぞー。わざわざ来てやったんだからありがたく思え」
どうやら、すべてははやての仕業らしい。実は、シロンの用事も彼女絡みのもので、これから会いに行く予定になっていたのだが、ヴィヴィオたちの世話で時間が経ちすぎたせいか痺れを切らして迎えをよこしたようだ。
この分だと、事前に召集予定を組んでいる仲間たちも既に集まっているかもしれない。だとすれば、すぐにでも行ってやらねばなるまい。
「よし、それじゃあ急いで向かうとしますか! 徒歩で」
「そうですね~、って、急ぐ気ゼロじゃないですかー!?」
「まぁ、いいじゃん、その間アタシらも自由にできるしさ。途中でアイスでも食ってこーぜ?」
「もう、しょうがないですね~。みんなの分も買っていくってことで許可しましょう」
「とか言って自分も食べたいくせに……」
確かに、満面の笑みを浮かべているリインの表情からは、しょうがないという雰囲気はまったく感じられない。図星を突かれて恥ずかしくなったリインは、いつも通りアギトと仲良くケンカしだしたが、早くアイスが食べたい……もとい、はやての元へと戻るために早速出かけることにした。
「ねぇ知ってる? アイスクリームって賞味期限が無いんだって」
「ええっ、マジで!? アイスクリームすげーっ!!」
道中、マメ知識で盛り上がるシロンとアギトを見つめながら、リインとセフィは仲良く揃って肩をすくめる。この様子では到着するのにしばらく時間がかかりそうだが……とにかく、彼女たちの登場によって舞台は管理局の地上本部へと移っていくことになった。