仮面の戦士の再登場やすずかとの想定外な遭遇が起こってから更に数日後、リンディとクロノの不在中に3度目の戦いが起こった。
守護騎士が二手に分かれて行動していることを察知したなのはたちは、戦力が減少しているにもかかわらず、自分たちも分かれて立ち向かうことにした。その判断は明らかに誤りであり、経験とつり合わない力を得てしまったなのはたちの奢りでもあったが、一緒にいたグラハムたちは何も言わなかった。幸い相手は殺しまでしない【優しい敵】だ、実戦経験を積むには丁度良いという判断だった。
とにもかくにも、出撃してしまった彼女たちはそれぞれ1対1で戦う状況を作りだした。砂漠に覆われた無人世界にやってきたフェイトは、ザフィーラの牽制をアルフに任せると、自身は好敵手となりつつあるシグナムと対峙した。
この時シグナムは蒐集作業による疲労が蓄積しており、万全の体勢でのぞんでいるフェイトの方が若干有利だった。だが、シグナム1人に集中しすぎたせいで、背後から襲ってきた仮面の戦士の攻撃を避けられず、結局は不運な形で敗北してしまう。
一方、別の世界にいるヴィータとシロンの元にもそれぞれ刺客がやって来ていた。ヴィータは因縁のあるなのはを相手にすることになり、シロンはリニスを伴ったグラハムに戦いを挑まれていた。今回は戦力が少ない上にシロンが出て来たためグラハムたちも参戦することになったのだが……。
「この私、グラハム・ニャーカーは、君との果し合いを所望する!」
「あーうん、それはいいけど……なんで2人とも変な仮面をつけてるのニャ?」
「えっと、これはですね……」
「あえて言おう、覚悟の証であると!」
自分の格好に照れた様子のリニスを遮るように、暑苦しいグラハムの叫び声が響き渡る。
「私は、ロリコンという名の修羅となった我が主をこの手で切ると心に誓った! この私にそう決意させたのは他でもない、君とガンニャムだ! そうだとも……もはや愛を超え、憎しみも超越し……宿命となった!」
「はぁ!?」
「一方的と笑うか? だが、私は純粋に戦いを望む! ガンニャムとの戦いを! そしてガンニャムを超える! それが私の……生きる証だッ!」
「ごめん、何が言いたいのかサッパリ分からない」
「ようするに、新型ガンニャムと戦いたいってことです」
「分かりづれーしめんどくせー!!」
なんて自己中野郎なんだ。シロンは自分勝手なグラハムにイラッとしたが、いつまでものんびりとしてはいられなかった。せっかちなグラハムが、シロンの答えを聞く間もなくモビルアールヴを出現させたからだ。
その機体は見慣れたフニャッグではなく、まるで鎧武者のような姿をした新型だった。
「フニャッグ改めスサニャオ! いざ尋常に……勝負!」
「って、そいつは我輩の部屋に置いといたヤツじゃん!! ねぇちょっと、勝手に人の部屋に入らないでくれる!?」
「その願い、承服しかねる。私は君の親代わりなのでね、風紀の乱れを見過ごすわけにはいかんのだよ」
「はん! そんなの余計なお世話だっつーの!」
「ほぅ、これが噂の反抗期かね? ならば、こちらも相応の手段で反撃に出るとしよう」
そう言って、懐から一冊の雑誌を取り出した。それは、シロンの部屋をガサ入れした際に見つけた一品だった。
「数あるエロ本の中から【大艦巨乳主義】などという軍人美女専門の雑誌を選択するとは、マニアックにも程があるぞ!」
「あーん、やめたげてぇ! シロンちゃんのライフはもうゼロよっ!?」
「あーもう! お前ら一体なにやってんだ!?」
ヴィータは、初めて見たモビルアールヴにビビリながらも律儀にツッコミを入れた。その声で我に返ったシロンは、自分も反撃とばかりに新型ガンニャムを出現させる。それは、リニスのツインドライヴシステムを取り入れて作り上げた、現時点で最高峰の機体だった。
『ダブルオーガンニャム、目標を駆逐する!』
「って、お前も持ってたのかよ!?」
突然出て来たガンニャムを見て再びヴィータが仰天し、彼女と対面しているなのははうんうんと頷く。どうやら奇妙なシンパシーを感じているようだが、そんなほんわかした雰囲気の中、空気を読まない2機の巨人が激しい戦闘を始めた。CN粒子を撒き散らしながら縦横無尽に乱れ飛ぶ姿は、まるで神話にうたわれる神々の戦いそのものだった。
『食らうがいい! グラハムパニッシャー!!』
『当たってたまるか! トランザム!!』
「えっ!? ちょ、まっ!?」
ダブルオーガンニャムが避けたスサニャオの粒子ビームが、姿を隠して様子を伺っていたリーゼアリアに直撃したが、誰にも気づかれることなく話は進んでいく。
「すげぇ……」
「あれが、ガンダム……じゃなかった。ガンニャムだっけ?」
2機の巨人は、なのはとヴィータが互いに敵対していることも忘れて見とれるほどの戦いを繰り広げる。しかし、いつまでも続くかと思われたその決闘は唐突に中断された。静かに傍観していたリニスがフェイトの敗北を知って動揺したからだ。彼女に経験を積ませるため心を鬼にしてこちらに来たが、こうなっては黙っていられない。
「グラハム! 今日のところは退きましょう!」
『ええい、致し方ない! この勝負、預けておくぞ!』
『嫌なこった! パンナコッタ!』
「っていうか、私を置いてかないでくださーい!?」
「はぁ、タカマチなんとかってヤツも色々と苦労してんな……」
突然1人きりにされてパニクっているなのはを見て、ヴィータは思わず同情してしまう。しかし、離脱するには絶好のチャンスだ。ガンニャムをカードに戻して近寄ってきたシロンは、ヴィータの手を握ると、なのはが反応する前に別の場所へと高速移動して彼女の追跡から逃れた。その後、シグナムに闇の書を届ける必要があるヴィータと別れて一足先に海鳴市へと帰還した。
深夜になって帰宅したシロンは、フェイトがやられた状況をシグナムから聞いた。彼女は、騎士道に反する行動をしてしまった自分に憤っているようだが、シロンとしてはしょうがないよと言うしかなかった。可哀想だとは思うものの、結局はフェイト自身が選んだ道であるし、同い年で戦争すら経験している自分がどうこう言える立場ではない。
ただし、命を奪われる危険性がある事件現場に一般人の子供だけを送り出せてしまう管理局には文句を言いたかった。それに、フェイトを襲った仮面の戦士にも……。
「まったく許せんニャ! 将来有望な美幼女の胸に手を突っ込むなんて、つぼみの早摘みにも程があるぞ!」
「気にすんのはそこかよ!」
ヴィータは、蒐集のご褒美としてシロンに買ってもらった高級アイスクリームを食べながらツッコミを入れた。最初はつんけんしていた彼女も、意外に面倒見のいいシロンと一緒に暮らしているうちに好感度を上げていたのだ。
しかし、普段通りにシロンとじゃれあいながらも、ヴィータの心は一抹の不安を感じていた。自分たちは、なにか大事なことを忘れているのではないか。このまま蒐集を続けていいのかと……。
そんな彼女の不安が翌日に現実となる。はやての麻痺症状が悪化して、とうとう入院するまでになってしまったのである。
早朝に病院へ搬送されたはやては、その日の夕刻に入院することが決まった。主治医から話を聞き終えたシャマルは強い衝撃を受けたが、何とか気持ちを落ち着かせると、近々遊びに来る予定だったすずかにも報告した。そのせいで、すずかと一緒になのはたちまでお見舞いに来ることになるとも知らずに……。
次の日の昼頃、はやて宛に送られてきたメールの添付画像に写っているなのはとフェイトに気づいた時にはもう手遅れだった。向こうはまだこちらに気づいていないが、はっきり言って時間の問題である。
シャマルは、その日の夕刻にお見舞いに来た彼女たちを物陰から見つめつつ今後の対策を考えた。こうなったら、シグナムと相談した時に決めた通り彼女たちと鉢合わせしないようにするしかない。サングラスとトレンチコートを装備した怪しい格好のままでシリアスな決心をする。しかし、一緒にいるシロンは彼女の決意とは間逆の行動を始めた。
「シロンちゃんも分かったわね……って、あれ?」
隣にいるシロンに向けて注意しようと言葉をかけたら、彼の姿はそこになかった。その代わりに、赤いスカーフを身につけた黒い小猫がいた。彼は、はかせと呼ばれる少女の飼い猫である【阪本さん】だ。シロンと同じようなファッションをしていたおかげか出会って早々に意気投合したのだが……今はなぜか身代わり役を押し付けられていた。
「はぁ、白猫の身代わりを黒猫にやらせんのは流石に無理だろ兄弟……」
「身代わり? それじゃあ、シロンちゃんは一体どこに……って、なにやってるのー!?」
仰天しているシャマルの視界には、堂々と病室に入っていくシロンの姿が写っていた。
「やぁ、みんな! パイオツの成長具合はいかがかな?」
「「えっ、シロン!?」」
「色々と言いたいことがあるけど、とりあえずセクハラすんなっ!」
突然現れたシロンを見て久しぶりに再会したアリサは普通に文句を言うが、半ば敵対状態にあるなのはとフェイトは思いっきり驚いた。そんな彼女たちの様子を確認したシロンは、秘匿念話を送ってお願いする。詳しい説明は後でグラハムたちがするから、今は我輩を信じて普通に会話してほしいと。話を聞き終えた2人は一瞬だけ見つめ合うと、シロンに向かって頷いた。信頼すべき自分たちの仲間が、裏で何かをしていると分かったからだ。色々とよくしてくれる彼に日頃から感謝している2人が受け入れないはずがなかった。
そして1時間後、お見舞いを終えて帰っていく少女たちを見送ったシロンは、人のいない廊下でシャマルに怒られていた。どうして彼女たちの前に出ていったのか問いただされているのだ。
「なんであんな勝手なことをしたの!?」
「当然ながらはやてのためニャ。我輩がはやてと一緒にいることはすずかにバレてるから、すぐになのはたちにも伝わるニャ。だから、先手を打って口止めをお願いしたのニャ」
「口止め……そんなことが可能なの?」
「モチロンニャ。なのはは管理外世界の一般人だから管理局に対する義理なんてそれほど無いし、フェイトの家族は管理局に目を付けられてるからどちらかと言えば悪い印象を持ってるニャ」
「……」
「どうやらお疑いのようだね。まぁ信じられないのも分かりますけどぉ? こうなる原因を作った張本人はすずかに連絡した【ヤツ】であって、我輩はその尻拭いをしたまでなんですがね!」
「うぐぅっ!?」
痛いところを突かれたシャマルは、変な声を出してうなだれた。そう言われれば、全ては自分が連絡したせいだった。それなのに、助けてくれたシロンを責めてしまうなんて……。
「私はなんて酷いことを……」
「気に病まなくてもいいニャ、シャマル。この我輩は、パイオツのでかい美人の味方だから!」
「シ、シロンちゃん……」
どう聞いても変態のセリフでしかないが、心の弱った今のシャマルには素敵な励ましに聞こえた。エッチなのはアレだけど、優しくて素敵な子ね……。雰囲気に酔ってやたらと美化してしまう。そのせいで感極まったシャマルはシロンの身体をぎゅっと抱きしめた。事情を知らなければ、仲の良い姉弟が抱擁しているような美しい光景だが……
「こうしてるとすごく安心できる気がするわ」
「その感じ方、本物のニュータイプかもしれん。いい子だ」
そう言ったシロンの表情は、純粋な乙女を騙す悪い男の顔をしていた。それもそのはずで、実際にシャマルを騙しているからだ。
いや、騙すと言ったら語弊がある。彼は、はやてと守護騎士を悲しみの連鎖から救い出すために裏で準備を進めていたのである、闇の書を直し【夜天の書】として復活させるために。
次の日、なのはたちはシロンに言われた通りグラハムから事情を聞くことになった。場所はセキュリティ万全な月村家が選ばれ、ほどなく全員が揃う。なのは、フェイト、すずか、アリサの少女組とグラハム、リニス、プレシア、アルフのアダルト組、そしてオマケのアリシアを入れた9人だ。
「それでは、私たちの調査結果を説明しましょう」
「みんなよく聞いてね!」
「「「「はーい!」」」」
「まるで幼稚園ね……」
なぜなにナデシコ風に始まった事情説明は、アリシアの無邪気さとは正反対に物騒なものだった。なのはたちが初めて守護騎士と出会った日、リーゼアリアの話に乗ったフリをしたグラハムは、戦いながら念話を交わしてシロンと作戦を立てていたのである。
正体不明な守護騎士の情報は友好関係があるシロンを潜入させて様子を探り、自分たちは管理局側の情報をかたっぱしから集めようと画策した。その際、必要以上に敵意を向けてきていたリーゼアリアの身辺を中心に探りだすことにしたのだが、そこからとんでもない事が分かった。リーゼ姉妹の主であるグレアムは、自分の部下を死に追いやった闇の書に独断で復讐しようとしていたのだ。
彼らの計画は、二度と転生できないように主の少女ごと永久凍結するという残酷なものだった。しかも、失敗した場合はアルカンシェルという名の魔導砲を使うつもりらしい。もしそんなものを海鳴市で使われた場合、街が消し飛ぶだけでなく、地殻の破壊によって日本の広範囲で地震が発生して甚大な被害が出てしまう。そうなれば膨大な死傷者が出てしまうので絶対に使わせるわけにはいかないが、闇の書を放っておいた場合は世界ごと滅んでしまうことになる。
「そんな!? この街が消えちゃうの!?」
「何とかならないの、母さん!?」
「ふふ、そんなに心配しなくてもたぶん大丈夫よ。シロンが対抗策を用意しているようだから」
「えっ、シロンが?」
もちろんその対抗策とは、セフィの力を使って闇の書を直す方法だ。それならボールでビグ・ザムと戦わなければならないような状況を回避できる。
ただし、必要な魔力を確保するためにかかる時間がかなりギリギリだった。予定では12月24日となっており、プレシアが計算した闇の書の完成時期も最短でそのくらいだという。
それでも望みがあることは確かなので、グラハムは、ケット・シーの魔法技術で壊れた闇の書を直すことができると説明してみんなを安心させておくことにした。
「それじゃあ、はやてちゃんたちを助けることができるんですね!」
「無論だ。我らの技術は伊達ではないと言わせてもらおう!」
「何にしても魔力が溜まるまでもう少し時間がかかるらしいから、それまでは守護騎士たちを追い詰めないようにしなければならないわ。もし、彼女たちのリンカーコアを捧げられたら完成が早まってしまうから。いいわね、みんな」
「「「「はい!」」」」
これで、作戦会議は滞りなく終わった。後は運命の日を待つのみだが、それは偶然にもセフィに魔力が溜まる予定の12月24日だった。
闇との決戦は、皮肉なことに聖なる者の誕生を祝う前日となるのだった。
気を揉んでいる間に、とうとうクリスマス・イヴを迎えた。
みんなに真相を伝えてから数日の間は平穏そのもので、これならなんとか間に合いそうだと安心していたのだが、そんな矢先に異変が発生した。突然巨大な魔力反応が現れ、その直後に海鳴市を覆う強力な結界が展開されたのである。とうとう闇の書が完成したのだ。
その瞬間より数分前、仮面の戦士に変身したリーゼ姉妹が、はやての病室にいる守護騎士たちを強襲した。もっとも警戒しているシロンがトイレで大きいほうを出している隙を突くという念の入れようだった。
来襲を予期して付近で待ち構えていたグラハムたちは、すぐさま彼女たちの迎撃に向かうが、それを見越していた主犯のグレアムが自ら出撃して守護騎士たちに襲い掛かる。リーゼ姉妹と同様に仮面の戦士の姿となった彼は、強力なバインドでなのはたちを無力化すると、守護騎士たちのリンカーコアを使って闇の書を完成させてしまう。
激しい戦闘の末にリーゼ姉妹を亀甲縛りで拘束したグラハムたちは、結界を張った後に無抵抗となったグレアムも確保するが既に手遅れだった。彼らの目の前で銀髪の美少女となった【闇の書の意志】が行動を開始してしまったのだ。
ついに姿を現した闇の書の意志は、挨拶代わりとばかりに強力な広域空間攻撃魔法デアボリック・エミッションを放った。いち早く危険を察知したリニスのおかげで何とか回避できたものの、凄まじい威力に戦慄する。
「ちぃ! この破壊力! 圧倒的だな、闇の書とやら!」
「グラハム! ここは私たちに任せて、管理局との交渉に行ってください!」
「了解した。グラハム・ニャーカー、これより時空管理局との交渉を開始する!」
リニスの言葉を受けたグラハムは、リーゼ姉妹を拘束しているすずかとアリサを伴って一旦戦場を離脱する。遅れてやってきたクロノからグレアムたちの引渡しを要求されたのだが、それを断ってリンディとの交渉を申し出たのである。彼らをダシに管理局の罪を認めさせ、今後の交渉を有利にする算段だ。
その間にようやくトイレから出て来たシロンは、闇の書の意思と戦っているなのはたちと合流する。こういう時に主人公が遅れてやって来るのは定番だが、彼の場合はあまりにもカッコ悪過ぎた。
「なんてこったい、う○こしてたら運の悪い状況になってるYO!?」
思わず嘆いてしまうが、まだ運が尽きたわけではない。セフィの魔力が溜まれば彼女を止めることができる。それまで持ちこたえればこっちの勝ちだ。
しかし、その作戦は途中で破綻してしまうことになる。シロンを最大の脅威と見なした闇の書の意志は積極的に彼を狙い、【吸収】という魔法を使って捕獲空間に閉じ込めた後に【闇の書の夢】という魔法で幻覚を見せて無力化してしまったのである。大きな胸の彼女に羽交い絞めされて気が乱れた一瞬の隙を突かれるという、かなり間抜けな敗北だった。
捕獲対象の精神にアクセスし、深層意識で強く望んでいる夢を見せるその魔法によってシロンは理想郷に訪れていた。青く美しい南国の浜辺にきわどい水着を着た巨乳美女がわんさかいるという夢のような場所である。
「ふぉおおー!? なんという絶景!! 夢がふくらみ股間もふくらむ超絶パイオツパラダイスが、今我輩の目の前にぃー!!!」
とても10歳くらいの子供が見るようなものではないアダルトな夢におぼれてしまう。しかし、そのいかがわしい夢は速攻で終わりを迎える。自力で復活したはやてが管理者権限を獲得してシロンにかかっていた魔法を解いたからだ。
闇の書の意志に慕われて強く守られていたはやては、奇跡的に意識を取り戻すことができた。そして、全てを諦めかけている彼女を説得して【リインフォース】という新しい名を与えると、なのはたちと協力して暴走していた防御プログラムの分離に成功する。その瞬間、はやては正式に闇の書の主となった。それと同時に夜天の主としての知識も手に入れた彼女は、消滅してしまった守護騎士たちを修復し、自身も騎士甲冑をまとって最終決戦の場に舞い降りた。
当初の予定とはだいぶ変わってしまったが、とりあえずはやてたちは助かった。その代わりに分離した防御プログラムを破壊しなければならなくなったけど……こうなっては仕方がない。八神一家と合流したなのはたちはとりあえず納得することにした。しかし、1人だけ納得していない男がいた。開放されてからずっと俯いたままでいるシロンだ。
「返せー!! 我輩の夢を、野望を、青春をーっ!!!」
「って、一体なんのことや!?」
あまりの気持ちよさに自然と猫形態になるくらい楽しんでいたのに、強引に終わらせるなんてあんまりだ。寝ぼけたシロンは、すっごい自分勝手な言い分ではやてに突っかかり、シグナムとヴィータによってぶっとばされた。しかし、怪我の功名とでも言うべきか、そのおかげで我に返ることができた。
「はっ! 我輩は一体何を!? なんだかとってもイイ夢を見ていた気がするんですけど?」
「気のせいだから気にするな。それより、鼻血が出ているぞ」
「おっと、いけね……教えてくれてありがとよ、ザッフィー! あ~一応言っておくけど、別にエッチなこと考えてたわけじゃないんだからねっ!」
「……私はツッコミなどやらんぞ?」
「けっ、相変わらずのカチコチ野郎だぜ! 硬くなるのは股間のエクスカリバーだけで十分だっつーのっ! なぁ、クロノ・トリガー?」
「そんな話を僕に振るな!!」
いつの間にかやって来ていたクロノをからかっておく。最近ご無沙汰だったので友好を深めておこうと思ったのだ。
しかし、今はタイミングが悪かった。クロノは、ここへ来る前に一悶着あったせいでひどく苛立っていたのである。
アースラに赴いてリンディとの交渉を始めたグラハムは、グレアムたちの罪を暴露し、糾弾した。
世界を破壊できるロストロギアの所在を特定しておきながらその事実を私的な理由で秘匿し、あろうことか身勝手な目的のために起動までさせて地球を危機に陥れた彼らの犯罪行為は明白である。よって、彼らが所属している管理局は全貌を明らかにして自分たちの罪を認め、しかるべき責任を果たさなければならない。それがグラハムたちの言い分だった。
この時のクロノには、なぜ彼らがそんなに詳しく内部情報を知り得たのか気にする余裕も無かった。確かに、グラハムの言っていることは事実であり、この世界の人にとっては看過できない重罪だからだ。
「そうだ、グレアム提督は世界を滅ぼしかねないことをしたんだ。そして、その行為に同情している僕も……同罪だ」
もしかすると、これが管理局の正体なのかもしれない。
グラハムの話を聞いて自分たちの考え方に重大な歪みがあると気づいたクロノは戦慄した。もし、彼らのように指摘する者がいなかったら……自己保身の塊である管理局はグレアムたちの犯罪をクラッキングと捜査妨害くらいと判断して罪に問わなかったと思われる。悲しいことに、管理局にとって毒にも薬にもならない管理外世界はその程度の扱いなのだ。だからこそ、管理局の考え方に毒されたグレアムもこんな馬鹿げた犯罪を起こすことができたのだろう。
そして、今まで疑問に思ってこなかった自分たちの思考もまた、それほど違いはない……。
これではプレシアの行為を否定することなどできないじゃないか。いや、それ以上に最悪だ。正義という名の権力を振るっているクセに、それが無意識の悪意に汚染されていることにも気づかなかったのだから。
「なんてことだ……犯罪者は僕たちのほうだったのか?」
ジュエルシードの件でも全く誠意を見せなかった管理局は、またしても罪を重ねてしまった。こんな組織がまともだと言えるだろうか。認め難い事実に改めて気づかされたクロノは、自分の足元がぐらつき始めていた。
実を言うと、彼の危惧は的を射ていた。今回の問題は管理局に入った者が全員受けることになっている局員養成プログラムで、ある種の【洗脳学習】が施されていることに原因があった。刷り込み効果で管理局のやり方に疑問を持たなくなるように誘導しており、管理局にとって使い易い人間となっていくのである。ギリギリ精神に異常をきたさない程度に調整されたものだが、今回のように強烈なストレスを受ける機会でもない限り自然に解けることは無い。
幸いクロノは、若さも手伝ってすぐに解くことができたが、その代わりに周囲の局員たちから強い違和感を感じるようになってしまった。
この後、意識の違いの大きさに疑念を持った彼は、独自の調査によって洗脳教育の仕組みに気づき、管理局を大きく変革することになるのだが、今はまだ自分のことで精一杯だった。
「どうしたクロノ・クロス。顔がデーモン閣下みたいになってるぞい?」
「……いや、僕のことはどうでもいい。それよりも今はアレを何とかしなければならない時だ」
そう言ってクロノが指差した先には、魔力でできた巨大な球状の黒い淀みがあった。あれがはやての分離した防御プログラムであり、あと数分で暴走する状態にあった。
「なんじゃコラー!? っていうか、状況がサッパリ分からんのですが、どうしてはやてたちが勢ぞろいできてるのニャ?」
「すごい今更やね……」
これまでずっとエッチな夢の中にいたシロンは何が起きたのか全く理解していなかった。あまりに場違いなのん気さにみんなは呆れた視線を向けるが、これでも一応最大の戦力なのでちゃんと説明することにした。
時間が無いため簡潔に事情を話し、最後にあの防御プログラムを倒さなければならないと伝える。その方法としてクロノが提示した案は2つあった。1つ目はグレアムが用意していたデュランダルというデバイスで永久凍結させることで、2つ目はアルカンシェルを使って海鳴市ごと消し飛ばすことだ。しかし、それらの方法はシャマルとヴィータによって否定された。特に、さらっと出てきたアルカンシェルの存在は見過ごせない。そんな物騒なものを持ち込んでおいて、これまで一切説明が無かったのだから恐ろしい。
「なのはたちはアルカンシェルのことを事前に説明されていたかね?」
「ううん、詳しいことは今初めて聞いたよ」
「なるほど、それは酷い話だね、クロノ・クルセイド」
「……なにが言いたいんだ?」
「分からないのかね? 闇の書が完成してアルカンシェルを使う可能性が高まったのに、それをなのはたちに知らせなかったということは、彼女たちの家族や友達を見殺しにしようとしてることになるんだぜ?」
「!!?」
「いや、自覚が無くてもこれは人殺しだね。魔法を秘匿しなきゃいけないとか適当な理由つけて救助活動すらしてないんだもんなぁ。管理局にいる提督が引き起こした事態なのにさ!」
「…………」
シロンの話を聞いたクロノは真っ青になって震えだし、地球の衛星軌道上で待機しているアースラでも激しい動揺が起こった。
シロンの言う通り、アルカンシェルを使えば確実に死人が出てしまう。残された時間が短すぎるため、転送魔法をフルに使っても被害地域にいる全員を助けることはできないからだ。そもそも、法律上では管理外世界において大規模な救助活動ができないことになっている。管理外世界を守るために作った不可侵という法律が、彼らを殺す呪いになってしまっているのである。そのくせアルカンシェルを使うことに関しては大きな抵抗がなかったのだが、それは自分たちの世界を守る事を優先せよと【学習】させられているせいだった。
とはいえ、このままでは人殺しになってしまう。それは正義を信じて働いている彼らにとって最大の恐怖だった。いくら【学習】の効果があっても根源的な感情は押さえ込めない。シロンによって管理局の想定を超えるショックを受けたリンディとアースラクルーは、クロノと同様に洗脳が解け始めていた。
ただし、残念なことに時既に遅しだった。これから救助活動を始めても焼け石に水だ。なのはたちの家族は助けられても友人や知り合いまでは手が回らないだろう。
「そんなの酷いよ……」
「っ!!?」
惨劇を想像したなのはの呟きを聞いてクロノの心は折れた。自分たちは、善意で力を貸してくれている少女たちを裏切ったのだ。その力を利用しといて……。
「待ちたまえ。今私たちが相手にすべきはあちらでお待ちのお嬢さんだ。彼らを糾弾するのはその後にしておくがいい」
リンディの様子を見てグレアムたちの身柄を預けても大丈夫そうだと判断したグラハムは、すずかとアリサを連れて救援に駆けつけた。そして、シロンの要請に従ってセフィも瞬間移動してくる。必要な魔力はまだ溜まっていないが、そうも言っていられなくなった。
「(ええい、なんたる失態! 我輩がう○こをしていたばかりに!)」
<(生理現象なのですから仕方ありませんよ)>
再会して早々にコントのような会話を始めてしまうものの、今はそんな場合ではない。あれを破壊しなければ地球が滅んでしまう。
聞く所によるとゲームのラスボスのような身体は魔法攻撃で吹き飛ばせるが、中心にあるコアは無限再生機能で破壊できないという。だがそれも、セフィの力を使えばなんとかなる。
「とゆーわけで、とどめは我輩に任せて、みんなはアイツをフルボッコにしてほしいのニャ!」
「うん、分かったよ!」
「そういうことなら任せて!」
「私らも協力するで!」
「なっ!? そんな勝手にっ」
「ええい、うるさい! この中2野郎!」
憔悴しきったクロノはかろうじて残っていた責任感を振り絞り、無謀とも言えるシロンの行動を止めようとしたが、逆に亀甲縛りで動きを封じられてしまう。
「お前はそこで黙って見てろ! ここからは、我輩たち【一般人】の戦いだ!」
「言い方はカッコイイけど、肩書きがしょぼい!?」
何はともあれ作戦は整った。
シロンに賛同したみんなは、自身の持てる力をフルに使って暴走した防御プログラム【闇の書の闇】を攻撃した。可愛い魔法少女とはまったくイメージが違う激しい光景に若干引いてしまうものの、予定通りコアがむき出しとなる。
今だ。再生が始まる前にこの右手をぶち込んでやる。
シロンは、光の翼を展開すると目にもとまらぬ速さで突っ込んでいく。
「いいぜ、てめえが何度でも再生出来るなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
「おい、素手で立ち向かうだなんてどういうつもりだ!?」
「言っただろ、幻想をぶち殺すって!」
シロンは、セフィの力で異能の力を打ち消せる
何にせよ、発動してしまったのだから、後は結果を出すだけだ。
右腕を振りかぶったシロンは、再生を始めた肉体をものともせずに突き進み、中心のコアに猫パンチをぶち込んで闇の書の闇を打ち消した。
「ヒートエンド!」
「なっ!? 闇の書のコアが消えた!?」
ピュイーンという音と共に強大な敵はあっけなく消え去る。あれだけ世間を騒がせた闇の書事件だったが、結局最後は猫パンチで終わりを迎えた。
戦闘終了後、疲労が溜まっていたはやてが倒れたため、アースラに収容された。今後の話があるからとリンディの要請があったためシロンたちも大人しく従ったのだ。
クロノを伴ったリンディはシロンたちを自室に招き、今回の事件について議論を交わした。グレアムの件で負い目があるリンディには覇気がなく、シロンたちはそこにつけこんで話を有利に進める。
まずは八神一家の件だが……管理局側の裁断では、はやては保護観察、リインフォースと守護騎士たちは管理局に従事することで罪を償うことになるという話だった。内容はかなり良心的で妥当だとは思う。しかし、当然ながら問題もあった。
そもそも、巻き込まれただけのはやてにはまったく罪が無い上に、不可侵と定められている地球の人間なので管理局がどうこう言える立場ではない。守護騎士たちは武装局員を襲った罪があるが、それはリーゼ姉妹によって【殺された】者たちの罪であり、転生した今の彼女たちには関係ない。そしてそれはリインフォースも同様で、生まれ変わった彼女が過去の罪を背負う必要はない。大体、彼女たちも被害者なのだから、一方的に罪を押し着せるのは傲慢な管理局のエゴに過ぎないはずだ。
ようするに――
「勝手に時限爆弾を括りつけられて泣いてる少女を犯罪者というなら、お前らのケツ穴に時限爆弾ぶち込んで仲良く同罪にしてやんよ!!」
――といったように簡単に論破できる程度の話なのだ。
更にそこでグレアムの罪を持ち出せばリンディからは何も言えなくなる。今の彼女は管理局の施した洗脳がほぼ解けており、自分たちの非を認めていた。そのため、シロンの要求は出来る限り叶えるつもりだった。
しかし、ここでシロンは更なる変化球を投げ込む。先ほどの説明に反して管理局の考えを受け入れるというのだ。
このままはやてたちを無罪にしたら、長年苦しめられてきた管理局や闇の書の被害にあった者たちから更に強い恨みを買ってしまう可能性が高く、彼女たちに危険が及ぶことになりかねない。だから、管理局での従事義務は彼女たちにとっても必要だと考えていた。人間は完璧な存在ではないので、正論だけでは上手くいかないこともある。
ただし、管理局のやり方を認めているわけではない。管理外世界を見下し、魔法関係者以外は人扱いしない彼らの意識はあまりにも傲慢である。だからこそ、彼らの闇を公にして自分たちが絶対ではないということを示さなければならない。
2度にわたる管理局の横暴を目にしたシロンは、彼らの歪みに怒りを覚えていた。これではまるで、神を気取っているようではないか。不完全な存在のクセに、力におぼれた者の行き着く先はいつだってコレだ。気に入らない、まったくもって気に入らない。
ならば、こちらも天上人を名乗ってやろう。我らソレスタルビーイングの天使が悪意あるお前たちに災厄を齎す。しかし、それは神の慈悲でもある。お前たちがそうしてきたように、武力介入によってお前たちを変えてみせよう!
「というわけで、我輩たちは私設武装組織を作って管理局の暗部に対抗するから、そこんとこヨロシク!」
「本当にいきなりね……でも、なんで敵対する私たちに打ち明けたの?」
「それはもちろん仲間になってほしいからニャ」
「仲間だと? そんなことできるわけ……」
「本当にそう思ってるかニャ? 自分たちの世界を守るためと言って罪の無い数十万人もの人々を殺そうとした管理局の傲慢を許せると、力を貸してくれたなのはたちの家族や友人を見殺しにできる管理局の横暴を見過ごせると、お前は本気でそう言いきれるのかニャ?」
「っ!!?」
そこまで言われてはクロノも黙るしかない。洗脳の解けた今の彼も同じような疑念を感じていたからだ。
「我輩は管理局のすべてを否定するつもりはないニャ。だからこそ、君たちに計画を明かした。でも、誰かが止めなきゃ管理局の見えない悪意はこの先ずっと大勢の人々を傷つけていく。それを食い止めるために必要なのが君たちのような内部協力者というわけニャ。管理局の歪みを断ち切るためにな!」
「歪みを断ち切る……」
地球で起きた2つの事件によって明らかになった管理局の歪み。世界を滅ぼしかねないその問題は、確かに断ち切らねばならない。基本的に善人であるハラオウン親子はシロンの話に理解を示し始めていた。そして、人の感情に敏感な猫妖精のシロンには2人の心情が手に取るように伝わっていた。
「もし、君たちが反対するなら今の話はすべて無かったことにしてもいいニャ。だけど、少しだけでもその気があるなら、この肉球を握ってほしいニャ」
そう言ってシロンは、右の前足をリンディたちの前に差し出す。その小さな前足を見つめながら2人は考える。彼に賛成すれば管理局を裏切ることになるかもしれない。だが、アルカンシェルで人殺しをするよりは遥かにマシだ。それに、あんな酷いことをした自分たちを未だに信じてくれるシロンにも感謝している。
「……すぐに答えを出せる話ではないし、議論を進めていく内に意見が食い違う可能性もある。でも今は……賛成の意を表明しておくわ」
「よく言った! 愛してるぜ、リンディ!」
「あらあら、おばさんをからかっちゃダメよ?」
穏やかな笑顔を浮かべたリンディは、シロンの前足を優しく握り返した。
こうして、こちらの世界における【ソレスタルビーイング】が産声を上げた。後になのはたちも仲間に加わり、管理局局員として表側から改革を進めていくことになる。そしてシロンは、プレシアたちと協力してミッドチルダに会社を作り、それを隠れ蓑に情報を探って数々の悪事を暴いていくことになるのだが、その話は後に述べることにしよう。
因みに、裏で色々とやっていたシロンたちについてはお咎め無しとなった。シロンは事件解決の功労者として保護観察処分を免除され、グラハムたちは明らかにスパイ活動していたと分かる情報を持っていたものの、証拠が何一つ出てこないので罪には問えなかった。ただ、モビルアールヴの存在とコアを消滅させたシロンの能力については脅威を感じたが、リンディの粋な計らいですべてもみ消されることになった。
そしてもう一つ、今回の黒幕であるグレアムたちだが、事件の数日後に管理局を希望辞職した。シロンに対する警戒心を和らげるために管理局の希望に沿う形で処理したのである。
しかし、色々と世話になったグレアムたちをシロンが放っておくわけがない。イギリスで隠遁生活を始めようとしていた彼らをソレスタルビーイングの一員としてこき使うべく、キュウべぇばりに執拗な営業活動を行った。
「やぁグレアム、猫耳美少女を愛する者同士、共に手を取り合っていこうよ!」
「いや、私は別にそのような趣味があるわけでは……」
「ええい、いい訳無用、天地無用! 今我輩の言うことを聞けば、この特製魔法少女カード・リーゼ姉妹亀甲縛りバージョンをもれなく差し上げるニャ」
「「って、なんてものを作ってるのー!?」」
とまぁ方法はともかく……管理局の呪縛が解けてすっかり丸くなったグレアムたちを仲間に入れたシロンは、ソレスタルビーイングの活動を本格化していくのだった。
紆余曲折の末にリンディたちと手を組むことになり、管理局に関する問題は一応解決した。しかし、リインフォースに巣くう問題が残っている。本体である夜天の書が壊れたままの彼女には、再び暴走してしまう未来が待っているのだ。それゆえに、リインフォースは自らの消滅を望んだ。
はやてを悲しませないために彼女が起きる前にかたをつける。リインフォースは、見舞いに来たシロンに向けて自分の考えを打ち明けた。しかし、シロンには彼女を助けられる手段がある。イレギュラーが起きたため今のセフィには夜天の書を修復するだけの魔力は無いが、別の形で助ける方法は既に思いついている。
後は、当事者たちの意見を聞くだけだが、融通の利かないリインフォースは頑なに信じようとはしなかった。
「そんなこと、できるわけがない」
「かぁーっ! こいつぁすげぇ頑固モンだぜ! こうなったら、はやてに説得してもらうしかないニャ!」
「残念だがその希望は叶わない。私は、主はやてが起きる前に消えてしまうから……」
「ちいぃ! 名前が似てるからってリーンホースJr並みの死亡フラグを立てまくりやがって! つべこべ言わずに、大人しく待ってろってんだオラァ!」
「なっ!?」
いつまでたっても駄々っ子なリインフォースに、亀甲縛りの刑を食らわしてやることにした。これには流石の彼女も参ってしまい涙目で守護騎士に助けを求めたが、一度同じ目に遭っている彼女たちは諦めろという視線を送るだけだった。
その数時間後、機密保持のため月村家に移動したみんなは、明け方になって目覚めたはやてに事情を説明した。この方法を使うと夜天の書としては死を迎えるが、【新たな守護騎士】として転生できると。
「それじゃあ、リインフォースを助けられるんやな!?」
「オフコース! 【さよなら】は歌だけでいいのニャ」
「うん……ほんまによかったぁ……ところで、ずっと気になってたんやけど、なしてリインフォースはエッチな格好で縛られとるん?」
「うぅ……主はやての前でこのような醜態を晒してしまうなんて……」
小首を傾げるはやてを気にして恥ずかしがるリインフォース。その姿にちょっぴりゾクゾクしてしまうものの、このままでは話が進まないないのでバインドを解く。そして、はやての説得に応じた彼女に転生の儀式を始めるとソレらしいことを言って直立させた。
その場にいる全員が固唾を呑んで見守る中、みんなに内緒でセフィの力を使い奇跡を起こす。
「何度生まれ変わっても君は君のままでいてほしい! はやても、守護騎士たちも、我輩も、君のことが大好きだから!!」
「シ、シロン……っ!!?」
人間形態になったシロンがリインフォースの胸に触れる。その瞬間、彼女の身体が光の粒子となって消えた。夜天の書としての死を迎えたのだ。はやてとしてはかなりショッキングな光景なので、思わず涙ぐんでしまう。だが、その直後に再び光が集まって何事も無かったかのようにリインフォースが復活する。その手に、夜天の書の欠片である剣十字を持って。
「リインフォース!!」
「主はやて!! ……まさか、本当に転生したのか?」
「その通り。君は、闇の書の悲劇を終わらせるためにはやてが作り出した5人目の守護騎士、リインフォ-スなのニャ!!」
「5人目の……守護騎士? この私が……」
「そうや、そうやで……リインフォースは私の可愛い守護騎士や!」
嬉しさで感極まったはやては、泣きながらリインフォースに抱きついた。そんな主に途惑いながらもリインフォースは笑顔を浮かべた。こんなに素晴らしい世界を与えてくれたシロンに感謝しながら。
「かーっかっかっか! これにて一件落着!」
<(それはいいのですが、彼女の胸に触る必要は無かったのでは?)>
ドサクサに紛れてちゃっかり報酬をいただいておくシロンであった。
色々とゴタゴタはあったものの、こうして新たな人生を歩むことになったリインフォースは、守護騎士たちと共に管理局でお勤めすることになる。その際、管理局の記録には夜天の書ではなく守護騎士として登録された。リンディの尽力があったおかげだが、実際にプログラムが変化しているので嘘ではない。何にしても、これでリインフォースは名実共に闇の書の呪縛から解き放たれることになる。
そして、シロンやクロノらの尽力により八神家の身辺が落ち着いてから2年が経った頃、消滅した夜天の書は【蒼天の書】となって復活した。不遇の内に消滅していった夜天の書の運命を嘆いたはやてが、今度こそ幸せにしてあげたいと願いを込めてシロンと一緒に一から作り出したのだ。
「これぞ、愛の共同作業やな!」
「子作りちゃうがな!」
「おめでとうございます、主はやて。これからこの子は、私とシロンが大事に育てていきます」
「そして、さりげなく幸せを横取りするリインフォースってば、恐ろしい子!」」
そんな感じで後継者である彼女の誕生を誰よりも喜んだリインフォースは、そのお祝いとして自分の名前を送ることにした。かつてはやてから与えてもらった祝福を受け継がせるために、リインフォース・ツヴァイという名を与えたのである。そして、無名となった自身は【アインス】と名乗ることにした。数字にこだわったのは、はやて専用のユニゾンデバイスだったという誇りを残しておきたかったからであり、どこまでもはやてに尽くすつもりでいる彼女なりの覚悟の証でもあった。そんな彼女の愛を一身に受けた【リイン】もまた、家族を大事にするいい子に育っていく。
新しい家族を得て更に愛情を深めあった八神家は、苦労の末に手に入れた幸福を深く噛み締めながら明るい未来に向かっていくのだった。