ディアーチェには砕け得ぬ闇を制御する能力があったのに、なんで作った当初からそれを使わず暴走状態にしたままだったのか、その理由がまったくわからなかったので適当に設定を付け加えてみました。
まぁ、ユーリが可愛いから細かいことなんてどうでもいいんですがね!
はやてたちの襲撃を受けて股間にダメージを負ったシロンは、はやて個人で使えるように許可を取っている特別な部屋に運ばれた。半年ほど前に大きな功績を立てた彼女は色々なところで融通が利くようになっていたため、文句を言う者は誰もいない。19歳の小娘が、今や管理局の若き英雄となっているのだ。夢物語のような話だが全て真実である。10年の月日が流れれば無垢な少女も戦略兵器と成り得るのがこの世界の怖い所だった。
現在はやては地上本部で特別捜査官をしており、それだけ聞くと無難な人生を歩んでいるように感じるのだが、魔導師ランクがSSとなった彼女は、なのはと同様に歩く最終兵器と化してしまっていた。そのぶっ飛んだ戦闘力には、病弱文芸少女だった頃の面影など微塵もない。
そんなはやての家族たちは、とっても頼もしく育った主にちょっぴり複雑な思いを抱きつつ、これまで通りに彼女を支えていこうと頑張っている。特にアインスとリインの姉妹コンビは、彼女の副官として直接的に貢献している。八神家の絆は、今もなお強く結びついているのだ。
そのような近況で元気にやっているアインスは、はやてたちが戻ってくるのを部屋で待っていたのだが、グッタリしているシロンを見た途端に慌てて駆け寄ってきた。一見クールな彼女も、好きな相手の前では乙女になってしまうのだ。
「大丈夫か、シロン!? どこか痛めたのか!?」
「ぐぉお~! 股間についてるビッグキャノンが赤い彗星にやられちまったい! た、頼むアインス、君のおててで優しく慰めてくれい!」
「ああ、いいとも!」
「って、そんな如何わしいことを人前でやらせるなー!」
「ビグ・ザム!?」
部屋に来て早々にアブナイ行動をやらかそうとしたシロンに対してアリサの鋭いツッコミが入る。
現在彼女は、すずかと同じように地球の大学に通いながらソレスタルビーングの活動を手伝っていた。技術系のすずかに対して経営方面の能力に秀でているアリサはシロンの秘書的な役目を担っており、今日も活動報告を任されてここに来ていた。
彼女が異世界に来てまでこんな事をやっているのは、もちろんシロンに好意を持っているからだ。将来父親の会社を継ぐか迷っている最中なのだが、とりあえず決定を保留してこちらで社会勉強を積んでいる最中だった。できるだけシロンの近くにいたいという、ツンデレアリサとしては精一杯のアプローチでもある。
「ほんと、私を待たせておいていい度胸してるわ!」
『いや、待っていたのは君だけじゃないんだけどね』
怒りに燃えるアリサを嗜めるように、空中に映し出されたライブ映像からクロノが話しかけてくる。
数年前に結婚して二児の父親となった彼は、次元航行部隊に所属する提督に出世していた。それと同時に、ソレスタルビーイングの活動を支援する【内通者】としての顔も持っており、管理局の暗部を駆逐するために日々努力していた。
口さがない言い方をすれば裏切り者と呼ばれる存在だが、そう肩身の狭い思いをしているわけでもない。確実にいい結果が出ているのは間違いないし、聖王教会と呼ばれる巨大な宗教団体の協力も受けているからだ。
ミッドチルダ北部にあるベルカ自治領に本部を置く聖王教会は、管理局にも多大な影響を与えるほどの勢力を誇っており、そこにはクロノとはやての友人であるカリム・グラシアという若い女性がいた。彼女は教会のお偉いさんで、管理局でも少将の階級にいる実力者だった。
そんなカリムの人となりをよく知っているクロノたちは、彼女から聞かされた【予言】を考慮した結果、ソレスタルビーイングの協力者として招き入れることにした。話を聞いたカリムは当然驚いたが、地球で起きた出来事を考えれば十分に納得できると理解を示し、個人的に協力すると申しでた。自分自身でも実感している管理局の危うさに思うところがあったせいでもある。
ただ、彼女の決断は私的な感情だけではなかった。そこには、彼女の能力で齎された予言が大きく関係していた。
古代ベルカ式魔法の使い手であるカリムは、近い未来を予言できる
古代ベルカ語で記された予言は以下の通りだった。――【古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下 聖地より彼の翼が蘇る。死者達が踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け墜ちる】――その内容は管理局の崩壊を予感させる不吉なものでカリムたち関係者を戦慄させた。
しかも、その予言には続きがあって、それがシロンに関係がありそうだった。
「妖精の王って、シロンさんのことかしら……。でも……」
今度の内容は最初の予言が実現した後のようで、より判断が難しいものだった。――【異界で生まれし妖精の王、天上より使者を遣わす。彼の者日輪の力を以って裁きの雷光となし、刹那の間に聖なる翼を打ち砕く。そは救世主か破滅の使徒か。別れし道を定めるは汝らの意思なり】――これを初めて見た時、カリムは激しく動揺してしまった。彼女は、とある事件で知り合ったはやての紹介で友人となったシロンに好意を抱いていたのである。あまり教会から出る機会がない彼女にとって、自由すぎる生き方をしているシロンはとても輝いて見えたのだ。
そんな彼が敵対することになるなんて絶対に信じられない。ソレスタルビーイングの話を聞いた後もその気持ちは変わらない。なぜなら、彼らの活動によって管理局の問題点が浮き彫りにされ、改善を余儀なくされているからだ。
確かにシロンたちの活動は犯罪行為だが、人を人とも思わないような行為で罪の無い人々を苦しめている管理局の暗部とは比べるべくもない。
無論、裏事情を知らないまっとうな局員たちにとっては堪ったものではないだろうが……。
そこまで考えてカリムは理解した。あの予言はこういう意味だったのか。敵であると同時に味方でもある彼らの存在をどのように捉えるか。それは、自分たちの心次第なのだと。
ならば、自分はシロンのことを信じよう。彼を慕う者として裏から支えていこう。そうすればより良き未来を手繰り寄せることができるはずだ。世界だけでなく自分の未来も。
そして、4年後。
クロノと同じ映像の中で静かに微笑んでいるカリムは、とても穏やかな心でシロンを見つめていた。気が置けない仲間と賑やかな会話を楽しむ平和な光景が彼女の瞳に写っている。
改めてこの場にいられる幸せを実感したカリムは、綺麗な笑顔を見せながらシロンに話しかけた。
『来るのが遅いですよ、シロンさん』
「いやはや、すまんねカリムさん。今度翠屋のシュークリームを持って遊びに行くから許しておくれニャ」
『えっ、本当ですか?』
「もちろんだとも。久しぶりに君のパイオツを堪能したいからニャ」
『もう、こんなところでそんな恥ずかしいこと言わないでください』
「って、聖王教会の重要人物になにやってんのー!?」
「ああん? ナニって、猫形態で抱っこしてもらうだけですがなにか?」
「うっ……それならまぁ仕方ないわね」
そう言われてはアリサも認めるしかない。人間形態の時は恥ずかしいことも猫の姿なら問題ないと言いわけして時々自分もやっているため、あまり文句は言えなかった。
『まったく……痴話喧嘩はそのくらいにして、さっさと会議を始めよう』
「うん、そうやね。結構時間も押してるし」
場を取り仕切っているクロノとはやてが進行を進める。今日はソレスタルビーイングの活動報告をする日で、各々の進捗状況や手に入れた情報の公開などを行い今後の方針を定めていく。
敵地の真っ只中で開く理由は、カモフラージュとトラップの効果を期待しているためだ。悪いことをやってる奴らは大抵隠れようとするから、こちらが堂々としていると逆に手を出しにくい。それでも横槍を入れてくる奴らはよほど後ろめたい裏事情があると暴露しているようなものなので、こちらとしても探す手間が省けるというわけだ。
もちろん、それ相応の防御対策を施しているから後手に回るなんてへまはしない。そんな輩は、悪事を暴いた後にフルボッコの刑である。
幸いそのようなケースは今の所無いが、その代わりとでも言うように近頃は管理局のミスを尻拭いするような案件が増えていた。それには当然理由があり、最近管理局のトップ人事が大幅に入れ替わったせいで内部統制が上手く機能していないことが原因だった。
そのせいで、つい数日前にも保管庫から地方の施設に貸し出していたロストロギアが盗まれるという事件が発生していた。事件そのものは既に解決しているものの、犯罪者に混乱を突かれた形となってしまったことはいただけない。そもそも、危険なロストロギアをほいほいと貸し出していること自体が問題だった。
はやてからその話を聞いたシロンは、ヤレヤレといった仕草をしながら管理局を嘲笑する。
「ちょっと前にも貸し出してたジュエルシードを盗られたらしいけどさぁ、世界を破壊できるようなモンを貸し出すなんて、ホント管理局ってバカだよねー?」
「まったくもってその通りだぜー!」
シロンとアギトは管理局のマヌケっぷりを笑った。ロストロギアの安全管理を謳っているクセに実際の扱いはかなり雑で、結局は自分の首を絞めているからだ。
そんな初歩的とも言える問題が起きる理由は、トップダウン型の運営形態を推し進めたせいで上層部の権限が強くなりすぎた弊害だった。幹部がバカだと組織は迷走するものであり、管理局においてもそれは例外ではない。ロストロギアに対する認識が甘い人物が大きな権限を手に入れた結果が、先の盗難事件を発生させる原因を作ってしまった。もっとも、すべての元凶は管理局の発足当初から根付いていたのだが……。
今となっては真実を知る者はほとんどいないが、管理局を裏から操っていた最高評議会という連中がその原因を作った張本人である。彼らは管理局の黎明期に強権を振るい、強引な手法を用いることで巨大な組織を纏め上げた。この経緯が強固なトップダウン型の古臭い組織となってしまう要因となった。それでも、彼らが健在の間は上手く機能していたのだが、数十年の時が経ち、彼らが脳だけで生きていくことを選んだ瞬間から歪みが生じ始めた。
老人特有の独善的な視点で管理局の存続を危惧した彼らは、負けることの無い最強の力を求め、倫理に反する人造人間の開発に着手してしまったのだ。しかし、その成果によって生み出された男によって彼らは殺されてしまう。今より数ヶ月前に起こった大事件の裏側で、罰を受けるようにひっそりと消えていったのである。
そして今、管理局の未来を担うクロノたちは、彼らの残していったツケを払わされているのだった。
「「あはは、あはは、あははははー!」」
『そんなに笑うなよ、と言いたいところだが、認めるしかないんだよな……』
「情けないけど事実やからな……。まぁ、それはおいおい解決していくとして。後はグラハムさんたちが追ってる案件やな」
「そうね。あの人だったらそんなに時間はかからないと思うけど……」
はやてとアリサはグラハムに任せたとある事件について言及した。
現在彼は、数人の仲間と共にとある局員を対象にして張り込み調査をしていた。何でもその人物は本局内において犯罪行為をしているらしいのだが、特殊なレアスキルを使って証拠を掴ませずにまんまと逃げおおせているようなのだ。そのため、はやての要請でグラハムたちが動くことになったのである。
当初の予定だと、彼らの帰還は今日の深夜となっており、この会議には間に合わないはずだった。そのためアリサは、この件の報告を後日にしておこうと考えていたのだが……予定よりも早めに終わらせてきた彼らは、まるで計っていたかのようなタイミングで部屋に入ってきた。
まず最初に堂々と入ってきたのは、やたらとはやてに似ている少女だった。15歳くらいに見える彼女は、可愛らしい見た目に反した偉そうな態度で言葉を発した。
「はーっはっはっは! 暗黒パワーに導かれ、闇統べる王、華麗に顕現!」
「あっ、華麗って言えば、今日の晩御飯カレーがいいなっ!」
「それは素晴らしい提案ですね。私も賛成です」
「分かりました。それでは後で具材を買いに行きましょう」
「って、おい貴様ら! 威厳溢れる王の名乗りを台無しにした挙句に、生活感漂う会話をするでないわ!! これでは、空気の違う我1人だけが阿呆のようではないか!」
「ご安心ください、ディアーチェ。その認識にさほどの違いはありませんから」
「うがぁー! その不埒な言動、謀反の意思ありと受け取った! そこへなおれ愚か者! 即刻成敗してくれるわー!!」
【ディアーチェ】と呼ばれた少女は、続いて入ってきた3人の少女たちに文句を言い出した。しかし、当の少女たちはまったく反省する様子を見せることなく、近寄ってきたシロンに抱きついていく。
「やぁみんな、お勤めご苦労様ニャ」
「へへ~ん! あんなお仕事、ボクらにとっては朝飯前だよ! 実際は昼飯前だけど!」
そう言ってシロンの右腕に抱きついてきたのは、フェイトにソックリな【レヴィ】という名の少女だ。ただ、似ているのは容姿だけで中身の方はとってもお子ちゃまである。そのせいか、ちょっぴり甘えん坊で、大好きなシロンがいるとすぐに抱きついてしまう末っ子気質な少女だった。
そんなレヴィに続くように今度はショートカットの少女がシロンの左腕に抱きついてきた。彼女は、なのはに似た容姿の【シュテル】だ。
「シロン、すべて滞りなく対処して参りました」
「うむ、よくやったニャ、シュテル!」
「えっへん」
褒められたシュテルは可愛らしく胸を張った。大人びた性格をしている彼女だが、好意を寄せているシロンに対しては素直に乙女の顔を見せる。そう、彼女たちもまたシロンの魅力にはまってしまった犠牲者(?)なのだ。それが良いのか悪いのかはともかく、彼と会話している2人はとても幸せそうだ。
そして更にもう1人、シロンの胸に抱きついている少女がその光景を羨ましそうに見つめている。彼女は、美しい金髪が目を惹く美少女【ユーリ・エーベルヴァイン】だ。シュテルたちと同じくらいの背格好をしているユーリは、適度に育った胸をシロンに押し付けて自身の存在をアピールしてきた。
「ねぇねぇシロン、私もたくさんがんばりましたよー?」
「そうかそうか、ユーリはとっても良い子だニャー」
「えへへ~」
お褒めの言葉を授かってユーリはニコリと微笑む。やはり彼女もシロンにゾッコンだった。大恩人である上に面白かっこよくて優しい彼の事を純真無垢な彼女が惚れ込んでしまうのはある意味当然だと言える。見た目は兄に甘える妹みたいだけど、彼女の想いは本物だ。
そんなユーリたちの登場によってシロンは再びモテモテ状態になった。しかし、流石のはやてたちも妙に保護欲をそそられるユーリや純真なレヴィたちに対しては嫉妬心が湧かず、妹に接する姉のような心境で優しく見守るのだった。
優しいお兄さんに甘えられてよかったわね、みんな。
「全然よろしくないわー!!」
これまでプルプルと身体を震わせながら黙っていたディアーチェが感情を押さえきれずに吼えだした。何を隠そう、ベジータ並にプライドの高い彼女もシロンに惚れているのだ。
「主様! そんな色気の無い小娘どもなど造作もなく振り払って、我の豊満な胸に飛び込んで来るがいい!」
「ディアーチェ、嘘はいけませんよ。貴方のバストサイズは平均並です」
「ええい、戯言を抜かすな! 我は愛の大きさについて言及しておるのだ! それに比べれば胸の大きさなど瑣末なことよ!」
「なーんてこと言ってる王様だけど、オッパイ大きくするために毎日お風呂場で揉みまくっていることをボクは知っているのさ!」
「コラー! 乙女の秘密をあっけらかんと暴露するでないわー!?」
レヴィの爆弾発言によってディアーチェの顔が更に真っ赤になる。仲がいいのか悪いのか、彼女たちの日常はいつもこんな感じであった。
『はぁ、また始まったか』
「あの、毎回お騒がせしてしまって申し訳ありません……」
「いや、ユーリちゃんが謝らんでもええんやで……」
「同じ姿だから、はやてもいたたまれないんだな」
「まさに同類相哀れむか。だからこそ、あえて言わせてもらおう、胸の性能差が勝敗を分かつ絶対条件ではないと!」
「余計なお世話や!?」
ディアーチェと同様に平均程度のバストサイズを少しだけ気にしているはやては、無粋な気遣いを見せるグラハムに突っかかる。たとえ乙女座だとしても所詮は男、本当の乙女心は掴みかねるようだ。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが……。
何はともあれ、ディアーチェたちの詳細については説明しなければならないだろう。なぜはやてたちと同じ容姿をしているのか。そして、ユーリという少女が何者なのか。その答えは今より10年前にある。
☆★☆★☆★☆
闇の書にまつわる事件が終結してから約3ヵ月後。シロンは海鳴市に滞在しながらソレスタルビーイングを立ち上げるべく準備を進めていた。
まず手始めに、プレシアをトップに据えてミッドチルダに会社を設立する事にした。元々プレシアが考えていた話に乗っかった計画で、管理世界に溶け込みつつ経済という影響力を身につけて今後の活動を円滑に進められるようにするのである。なにをするにしても、まずは軍資金を手に入れる必要があるのだ。
ただ、現時点では地球を守ることを優先しているため積極的な干渉はしないことにしていた。こちらの準備も整っていないし、クロノたちからも具体的な方針が固まるまでは動かないで欲しいと頼まれているので、今はまだ英気を養う段階であった。
そんなある日、忙しい仕事の合間に散歩を楽しんでいたシロンは……なぜか野良ドラゴンに襲われていた。
「待ってよシローン! 私と楽しく殺し合いしようよー!」
「こんな気持ちのいい春の昼下がりに、んなもんやってられっかコンチクショー!!」
気楽な散歩が無慈悲な生存競争の場と化した。なんで平和な海鳴市の上空で凶暴なドラゴンに追いかけられなければならないのか。その原因は、異世界の猫を召喚する願いにあった。
彼女の名は【フレドリカ】といって、猫召喚でこちらに来た並行世界の存在だ。本性は
「もう、なんで逃げるのよー! 私の攻撃受けても全然へっちゃらだったクセにー!」
「いやいや、すっげー痛かったから! ヒイロも死んじゃうレベルだからー!」
実は既にきつい一発をもらっていた。
つい先ほど初めて出会った彼女は猫の姿をしていたため普通に話しかけたのだが、召喚されてきたことを説明しているうちになぜか戦う羽目になり、ドラグーンに変身した途端に問答無用で殴り飛ばされたのである。
「ええい、なんてランボーなヤツなんだ! 声もなんだかほむほむに似てるし!」
「えー? ほむほむってなーに?」
「ちいぃ! 無邪気なフリしてバカにしやがってー!」
威勢よく怒鳴りつつも、銃火器を手に戦う魔法少女を連想して身震いする。あんなヤンデレの同類に付きまとわれるなんて真っ平ごめんだ。とはいえ、召喚されてきたばかりの彼女をぶっ飛ばすのは気がひけるし……なんてことを思いながら海鳴市近海まで逃げてきた。そして、たまたま闇の書の闇を倒した場所にやって来てしまう。
もちろん、シロンがその日にその場所へやってきたのは様々な偶然が重なった結果である。だが、そこには必然とも言える出会いが待ち構えていた。魔法少女と出会える願いはまだ有効だったのだ。
「なんだ、このプレッシャーは!?」
突然強大な魔力反応を感じて動きを止めた途端、シロンの目の前に3人の少女が現れた。何事かと凝視すると、彼女たち全員が妙に見覚えのある容姿をしていることに気づく。
「っていうか、なのはたちじゃん! でも、そこはかとなく配色が違うよーな?」
シロンの前には、なのは、フェイト、はやての色違いみたいな少女たちがいる。ぶっちゃけると格闘ゲームの2Pカラーのようだったが、もちろんなのはたちがイメチェンしたわけではない。彼女たちは全くの別人……いや、プログラムだった。
「くっくっく……ようやく動けるようになったわ」
「駆体稼働率100%、全力戦闘が可能です」
「ボクだって、すっかり全開バリバリ元気さ!」
偽なのはたちは、目が覚めたばかりだという事が分かる会話をしている。とは言っても、理解できるのはそれだけで、事情を知らないシロンには状況がサッパリ分からない。ただし、面倒なことになる可能性が高いことは間違いない。
だって、黒っぽい配色からして絶対敵役だよアレ!
明らかに一悶着起こりそうな雰囲気を感じてシロンは身構えた。しかし、そんなことに頓着しないヤツが1匹いた。シロンのとなりで少女たちを観察していたフレドリカが、勝手に飛び出していったのである。獣の勘で彼女たちを強者だと見抜いたのだ。
「おーい、そこのお嬢ちゃんたちー! 私と一緒に殺し合いしようよー!」
「フン! 身の程をわきまえぬ畜生が! それほどまでに殺されたいなら、その願い叶えてくれるわ!」
偽はやては、物騒なフレドリカのお願いを偉そうに受け入れると、躊躇することなく砲撃魔法を放った。
「塵も残さず消し飛べぇ!!」
「ほへ?」
強力な砲撃魔法が一直線に突撃していたフレドリカに直撃する。もし、本物の彼女なら耐えられたかもしれないが今は影分身のようなものなので、たったの一撃で強制送還されてしまった。
「フレドリカー!!」
「はーっはっはっは、つまらぬものを壊してやったわ! どうだ? 我が憎いか、薄汚い野良猫よ?」
「いんや別に?」
「うんうん、そうだろう、そうだろう……って、なにぃ!? どうしてそうなるのだ!? 貴様の仲間がやられたのだぞ!?」
「だってアイツ、自分で殺し合いとか言ってたし」
「う、うむ……そう言われればそうなんだが……?」
予想外なシロンの答えに、偽はやては一瞬混乱してしまう。実際にフレドリカが死んだわけではないのでシロンとしてはどうでもいいのだが、偽はやてがそんなことを知る由もなく、ただ途惑うばかりであった。
あれ、我は何か間違ったことを言ったのだろうか……いやいや、こやつの方がおかしいのだ!
「ええい! 塵芥の分際で我を惑わすなど無礼千万である!! こうなれば、闇統べる王たる我が直々に成敗してくれるわっ!!」
「なにをー! 我輩の友達をぶっ飛ばしたお前の方が無礼千万だろーが、バーカバーカ!」
「貴様ー! またしても我を愚弄するか! というか、改めて考えたらさっきのあれは正当防衛だろーが!」
確かにその通りである。しかし、いとも簡単に強力な魔法をぶっ放してしまうこの子たちを放っておくことができないのも事実だ。管理局に気づかれるとお互いに面倒なので、そうなる前によ~く言い聞かせる必要があるだろう。
つまり、【少し、頭冷やそうか】である。
「我が名はダークフレイムマスター! 闇の炎に抱かれて消えろ!!」
「ほぅ、炎熱変換か。少しは楽しませてくれそうだなぁ!」
「食らうがいい、エターナルフォースブリザード!!」
「って、なにぃー!? 闇の炎と言っておきながら氷結魔法を使いおるだとぉ!? 言葉巧みに我を謀るとは、卑怯極まりない所業ぞぉー!!?」
「はん! 卑怯上等、勝てば官軍! 大体王様ってヤツは、喧嘩の強い悪ガキがなるモンなんだよバーロー!!」
「確かに、我らが王は傍若無人でわがままで思慮の足りない悪ガキですね」
「シュテるんの言う通りだな! 王様の人でなしっぷりには流石のボクでも敵わないよ!」
「な、なんだとぉ!? ヤツの戯言にあっさり乗っかりおったばかりか、さりげな~く便乗して王たる我を貶めるとは! 貴様らには我に対する尊敬の念が足らんようだな!」
シロンの汚い奇襲が功を奏したのか、偽はやてたちが仲間割れを始めた。その隙を突いて人間形態になり、身体強化魔法・ユニコーンを発動して戦闘準備を整える。
「さぁ、いつでもかかってくるがいい! 猫妖精の王たるこの我輩が3人まとめて相手になってやるニャ!」
「ええーっ、何か色々と卑怯なことしてたクセにすっごい偉そうだよ!?」
「なるほど、彼もまた王の器ということですか」
「って、我ら全員が馬鹿にされたというのに、のん気な会話をしている場合か!」
プライドを著しく傷つけられた偽はやては、憎きシロンを全力で叩き潰すべく立ち向かっていき、他の2人も後に続く。だがしかし、彼女たちの自信は木っ端微塵に打ち砕かれることになる。目覚めたばかりの小娘がずる賢いチート野郎に敵うわけもなく、完膚なきまでに打ち負かされたのである。
十数分後、うなだれた3人を近くの海鳴臨海公園に連れてきたシロンは、早速事情聴取を始めた。
「おらおら、敗者は勝者の言う事を聞くモンだぜ、ベイベー!」
「おのれ、おのれーっ!!」
「あーん、シュテる~ん!」
「はぁ、仕方がありませんね……」
圧倒的な実力差で敗北した上に3人仲良く亀甲縛りされてしまってはどうにもならないので、何とか冷静さを保っているシュテルが事情を話し出した。
何でも、彼女たち【マテリアル】は【紫天の書】と呼ばれる独立稼働プログラムの一部であり、闇の書の奥深くに封印されていたらしい。元々は古代ベルカが激しい戦争をおこなっていた時代に夜天の書を超える存在として作られたものなのだが、暴走と封印を繰り返す問題作だった。核である【永遠結晶エグザミア】を稼動させる【砕け得ぬ闇】を制御するために作られたマテリアルの能力が足らなかったのである。
管制プログラムと守護騎士プログラムを超えるべく生み出されたマテリアルは、それぞれの役割を強化しすぎたせいで3基を上手く同調させることができず、肝心の制御プログラムとしての機能が不完全となってしまったのだ。その名残がディアーチェたちの傲岸不遜な性格に今も現れているが、当時の製作者はその事実に気づく間もなく死んでしまった。度重なる暴走の末、ついに製作者をも巻き込んでしまったのである。
その後、唯一の主を失ってしまった紫天の書は、エグザミアの強大な力に魅せられた多くの者たちに狙われた。しかし、誰一人として制御できず、いたずらに被害を広げ続けた。
そのような悲劇が何度も繰り返されながら数年経ったある日、絶対的な自信を持った挑戦者が現れる。その人物は当時の夜天の主だった。長引く戦乱を利用して立身出世を狙っていた彼は、他の者と同様に無尽蔵に生み出される強大な魔力に惹かれてしまった。エグザミアを手に入れれば夜天の書は最強になれると考えたのである。
念入りに準備を整えた彼は、とある王族の手によって封印されていた紫天の書を力ずくで手に入れると、マテリアルに手を加えて砕け得ぬ闇を制御しようとした。夜天の書に使われている技術を応用したそれは確かなもので、想定通りの機能を発揮すれば確実に制御できるはずだった。
しかし、事はそう上手く運ばなかった。
調整を終えたマテリアルの起動チェックをする前に封印が弱まり、紫天の書の防御プログラム【システムU-D】が起動してしまったのである。しかし、その時点ではまだ夜天の主にも余裕があった。暴走を見越していた彼は、夜天の書の防御プログラムを紫天の書と繋げてウイルスとして沈静化しようと考えていたのである。夜天の書の処理能力なら、暴走する前にそれをうながすプログラムを破壊し続けることが出来ると事前の計算で把握していた。後は、対処しているその間に調整したマテリアルを起動するだけでいい。
それさえ済めばこのエグザミアが自分のものとなる。愉快な未来が見えた夜天の主はにやりと笑った。
その時だった。夜天の書と繋がっていた紫天の書が独自に防衛行動を取り、夜天の書に潜り込んでしまったのは。意外な事態に驚いた夜天の主は急いで対処しようとしたが時既に遅く、紫天の書はあらゆるシステムから痕跡を消して閉じこもってしまったのである。暴走を恐れていた砕け得ぬ闇が繋がれた際に密かにコピーしていた夜天の書のデータを使い、自分の上に別のシステムを上書きして完全に隠れてしまったのだ。もともと紫天の書は、夜天の書をハッキングしてその能力を乗っ取る目的があったので彼女はそれを利用したのだが、そのせいで夜天の主ですら手出しできない状態に陥ってしまう。しかも、この時の負荷が後に防御プログラムの暴走を招く一因になってしまうのだから踏んだり蹴ったりもいいところであった。
幸か不幸か、紫天の書を製作した男の希望は、奇妙な形で実現してしまったのである。
そして、更に長い時が経って夜天の書が闇の書となり、暴走した防御プログラムが肥大化したせいで完全に自由を失った彼女たちは長い休眠を強いられることになった。
そのような経緯で自由を奪われていた彼女たちだったが、3ヶ月前の闇の書事件で防御プログラムとともに切り離され、期せずして牢獄から開放されることになる。その際にシロンが使ったイマジンブレイカーでほぼ消滅されかかったものの、彼女たちはエグザミアとそこに記録されているデータが壊れない限り何度でも再生できる不滅の存在なので、こうしてシロンの前に現れることが出来た。
ほとんどゼロから再生したため流石に時間がかかったが、3ヵ月経った今日になってようやく再起動できるようになった。魔力を集めるついでに近くを漂っていた闇の書の残滓から得た情報を用いて強い人間の姿を再現し、この世界に生まれ出たのだ。
元々マテリアルは管制プログラムと守護騎士プログラムを合わせた発展系として作られており、リンカーコアを蒐集した人物を元にして構築した駆体を人間のように成長させる学習型仕様となっている。今回、闇の書が蒐集した人物の中で上位3人の情報を使った結果がなのはたちの姿になった理由である。
「なるほどねぇ。紫天の書なんてモンが入ってたのかー」
「はい、実は私たちもつい最近思い出したのですが」
彼女たちは、長い間圧縮封印されていたせいで紫天の書のデータを見失っていたのだが、イマジンブレイカーによるダメージを修復している際に過去のデータを発見して正確な状況を把握することができたのだった。まさに怪我の功名というヤツである。
「砕け得ぬ闇を手に入れ、完全なる自由を得ることこそが我らの願いなのだ!」
「ふーん、そうなんだ」
「ああそうさ! 彼の力さえ手に入れば貴様など虫けら同然よ!」
「へっ、亀甲縛りされながら偉そうにしても説得力無いニャー。パシャパシャ!」
「あっコラ、やめんか! 我の惨めな姿を記録するでないわ!!?」
シロンは、偽はやて改めディアーチェのあられもない姿を撮影しながら考える。砕け得ぬ闇はまだ目覚めていないようだが、こちらも放っておくことはできない。ならば、いっそのことディアーチェに制御してもらったほうが好都合かもしれない。どうやら全く話が通じない相手でもなさそうなので、なるべく友好的に接したほうが無難だろう。
「とゆーわけで、その砕け得ぬ闇とやらに我輩が勝ったら、君たちには家来になってもらうニャ!」
「な、なんだとぉー!?」
訂正、全然友好的ではなかった。しかし、ディアーチェ自身が王を名乗っている以上、こちら側のルールを適用しても問題は無い。彼女が唱えているように王とは力なのだ。ならば、彼女を抑えられるのはその力しかない。
「貴様は砕け得ぬ闇に勝てると本気で思っておるのか!?」
「やってみなければ分からん!」
「正気か!? ……いや、いずれにしても我らにとっては好都合。その勝負、受けて立つぞ!」
「よし、契約成立ニャ!」
ディアーチェはあっさりとシロンの企みに乗ってしまった。もちろんこれには裏があり、彼には取っておきの秘策があるのだが、純真無垢な彼女たちは簡単に引っかかってしまった。
何となく嫌な予感がするものの他に道は無い。亀甲縛りを解かれた3人は、シロンから距離を離すと、再び海鳴市近海まで飛んで戦闘態勢を整えた。
「それじゃあ、早速起動させてミソ?」
「貴様に言われんでもやってやるっ………………」
「んん? どうしたのかねディアーチェ?」
「起動方法が分からん!」
「「ズコーッ!」」
シロンとレヴィが仲良くずっこける。まるでコントのようだが、ディアーチェが知らないのは当然だった。砕け得ぬ闇自身が施した封印で停止しているので、マテリアルでも長時間の解析を要する状態なのだ。
とは言っても、何でもありのセフィにとってはどうってことない。元の世界へ帰還するために本格的に魔力を溜め始めたのだが、このくらいなら大丈夫だろう。
「(いけるな、セフィ?)」
<(問題ありません、マスター)>
「なんだ貴様! さっきからヘラヘラとニヤつきおって、またしても我を侮辱するつもりか!」
「まったく怒りっぽいお嬢さんだね。我輩が君たちの代わりに砕け得ぬ闇を起動させてやろうというのに」
「なんだと!?」
ディアーチェの驚きを他所に躊躇することなくセフィの力を使う。すると、みんなの眼前に赤い柱で囲まれた黒い球体が現れ、それらが一瞬で砕け散るとその場に小さな少女が現れた。この金髪の幼い少女こそが砕け得ぬ闇の正体である。実際に、それを誇示するかのように凄まじい魔力を放っている。
しかし、まだ寝ぼけているのか、不用意に近寄ったディアーチェに攻撃を仕掛けてきた。少女の背後に出現した禍々しい赤翼を巨大な鎌に変化させ、ディアーチェの胸を突き刺そうとしたのだ。
「なっ!!?」
「あぶなーい!!」
もう少しで胸を貫かれるという瞬間にシロンが飛び込み、ディアーチェを救い出した。予期せぬ状況に驚いている彼女をお姫様抱っこしたまま一旦距離を開ける。
「な、なぜだ!? なぜお前が我を攻撃するのだ!!」
「ディアーチェ……ディアーチェですか?」
「そうだ、我が名はディアーチェ、お前の味方ぞ! なのに、なぜ我を襲った!?」
「……ごめんなさい……システムU-Dが目覚めたら、もう誰にも止められないんです……」
そう言うと、少女は悲しそうに目を伏せる。
システムU-D――アンブレイカブル・ダークとは、簡単に説明するとトラップである。エグザミアを内包した彼女を敵対者に奪われないようにするために制御プログラムであるマテリアルを強制停止させ暴走する。今の彼女は、古代ベルカの狂気が生み出した戦略級魔導兵器と化していた。
今より数百年前、紫天の書の製作者は、戦争によって亡くなった自分の娘、ユーリ・エーベルヴァインに復讐させてあげたいと願い、彼女の亡骸を素体として砕け得ぬ闇を作り出した。娘を殺した夜天の主に死よりも悲惨な苦しみを与えるために、くだらない戦乱を起こした愚かな王たちに相応しい罰を与えるために、歪んだ望みを砕け得ぬ闇に込めたのだ。
今となってはユーリ本人ですら知らないことだが、その身勝手な望みのせいで彼女が苦しみ続けていることは間違いない。ならば、ここで彼女を救ってやらねばなるまい!
「ええい、システムU-Dだかウッディ大尉だか知らねーが、そんなモン我輩たちが止めてやんよ! そうだろう、ディアーチェ?」
「!? あ、ああ、こやつの言う通りぞ! お前を苛む鎖を砕き、我らは自由を手に入れるのだ!!」
ディアーチェはシロンの腕から降りると声高らかに宣言した。その際ちょっぴり頬が赤く染まっていたのは、凛々しいシロンの顔を間近で見て彼女の乙女心にビビッときてしまったからだ。
圧倒的な魔法力で自分に打ち勝ち、魅力的な行動力で心をも惹きつける。まさに、理想的な王の器そのものではないか。
自然とシロンに従う気になっている自分に不思議な感じがしたが、嫌な気分ではない。むしろ温かくて、安心を感じる……。だったら、少しくらい手を組んでみてもいいかもしれない。
「そ、それでは、一時休戦して我と手を……って、あやつがいない!?」
「彼なら既に行ってしまいましたよ?」
そう言ってシュテルが指差した先には、ユーリと対峙しているシロンがいた。彼は管理局に対抗するため用意していた取っておきを使うつもりなのだ。ディアーチェがユーリを制御するにはシステムU-Dを止めなければならないのだが、その取っておきの効果は非常に有効的だった。
「力に囚われしつわもの共を、塵と化して虚空に還さん! 愚かなる世界を壊せ、月・光・蝶ーっ!!」
シロンは、徹夜で考えた言葉を詠唱して対ロストロギア用封印魔法【月光蝶】を発動させた。これは、∀ガンダムのそれとは違い、魔力結合を破壊して魔導師やロストロギアを無力化させるAMF(対魔力結合領域)の究極版だ。AMFの効果を増幅させる機能を持たせたナノマシンを大量に散布し、目標を覆うことでロストロギアですら完全停止させることができる優れものである。
ただし、魔力以外のエネルギーに対しては効果が無いといった弱点もあるので、絶対無敵というわけでもない。他にも細かく上げていけば対処法はいくらでもある魔法だった。
しかし、今回はそれを気にする必要が無い。エグザミアから供給される膨大な魔力で活動しているユーリにとって、シロンの魔法は効果抜群だからだ。いくら無限に魔力を生み出せても結合できなければ意味が無い。エネルギーとして有用な石油も熱などの変化を加えなければただの臭い液体でしかないように、魔力もまた同じことが言えるのだ。
いずれにしても、魔法の力が失われたという事実は間違いない。その結果、ユーリは恐れていた力から解放されつつあった。
「暴走が収まっていく……これは夢なの?」
「なんと素晴らしい光景なのだ……」
「私も同意します……」
「本当に妖精みたいだ~……」
虹色に輝く蝶の羽を優雅に広げ、自身の力に怯えるユーリを優しく包む。幻想的なシロンの姿にマテリアルたちは見惚れてしまう。
そんな中、ナノマシンに包まれたユーリは、ほとんどの魔力結合を無効化されて飛行魔法を維持できなくなり、自由落下を始めた。恐るべき力を失い、今や普通の美幼女となった彼女をシロンが優しく抱きとめる。お姫様抱っこされたユーリは、信じられないといった表情をシロンに向けた。
「あっ……」
「どうだいお嬢ちゃん。システム小野Dとやらは止まってるだろ?」
「は、はい……確かに停止しています。システムU-Dですけど」
軽く笑いを取りに来たシロンにおずおずと返事を返すユーリの心には、これまでに感じたことのない希望が湧き上がっていた。彼の言ってることはよく分からないけど、とにかくすごい安心感がある。これならもしかすると……。
「さぁ、ディアーチェ! この子を苦しみから解き放ってやるのニャ!」
「……ああ、任せておけい! 我らが宿願、今こそ果たして見せようぞ!!」
ディアーチェは力強く宣言すると、傍によってきた仲間に協力を頼んだ。彼女たちは砕け得ぬ闇を制御するために生み出された、3基で一つの存在なのだ。今こそ力を合わせる時である。
「シュテル! レヴィ! 我に力を貸せい!!」
「承知しました」
「ボクの力をキミに託すよ!」
2人はディアーチェの言葉に同意すると、彼女の肩に手を置いてすべての力を受け渡す。これで、本来の力を得ることができたディアーチェは、ユーリの胸に優しく手を置くと用意していた制御プログラムを打ち込んだ。
ユーリが大人しくしていたため、入力は無事に成功した。不完全だったシステムを上書きし、破壊プログラムであるシステムU-Dと出力暴走を起こしていたエグザミアの誤動作を停止する。これで、数百年もの長きにわたり暴走し続けた砕け得ぬ闇がようやく制御できるようになった。
夜天の主の仕事は確かだったらしく、制御プログラムは正常に機能した。皮肉なことに、元のユーリを殺した夜天の主のおかげで今のユーリが助かったのである。とはいえ、そんな昔の因縁など、新たな未来を進み始めた彼女たちには関係のない事だった。
「ディアーチェ……ありがとう……」
「なぁに、礼などいらぬわ。我は我の成すべきことをしたまでだからな、砕け得ぬ闇よ……いや、ユーリと呼ぶべきだな」
「ユーリ?」
「そうだ、ユーリ・エーベルヴァイン。それが、人として生まれた時のお前の名だ」
ディアーチェは、修復作業の最中に見つけた砕け得ぬ闇の本名を教えてあげた。この瞬間、砕け得ぬ闇はユーリ・エーベルヴァインという名前の少女として生きていくことになる。そして、それは人の身体を得たマテリアルたちも同様だ。長らく彼女たちを苦しめ続けた破壊の因果は消滅し、今ここに人としての自由を手に入れたのである。
しかし、人としての自由には色々と決まりごとがありまして、シロンがユーリに勝ったということは……。
「それじゃあ、今から君たちは我輩の家来なんで、しっかり精進してくれたまえよ?」
「「あ」」
「そういえば、そんな約束でしたね」
「?」
現代日本に生きる人間は、安全な自由と引き換えに相応の規則を守らなければならないのである。この場合、地球で楽しく生活できる代償としてシロンの部下となるわけだ。ある程度束縛されるとはいえ、立場の危うい彼女たちにしてみればかなりの好条件だと言える。しかし、当然ながら王を自称しているディアーチェは素直に受け入れられない。
「ふ、ふん! いくら契約があろうが、我は決して他者には仕えぬ! それに、我がしもべたちの忠誠心は決して揺るがぬゆえ、貴様の戯言など――」
「今我輩の家来になると、3食昼寝つきのゆったりとした寛ぎ空間をご提供いたしますニャ!」
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「わーい! 王様の王様だから、超王様だー!」
「なんだかよく分からないけど、あなたと一緒にいられるのは嬉しいです!」
「はっはっは、我輩の支持率急上昇! 次期大統領の座はこれでいただきニャ!」
「なんとぉ―――――――――!!?」
こうして、ユーリとマテリアル娘たちはシロン一味に加わることになった。そこで、人としての楽しさと女性としての幸せを知った彼女たちは、シロンの良きパートナーとなっていく。
その代わり、オリジナルのなのはたちとはしょっちゅう喧嘩することになるのだが、それはまぁ仕方あるまい。
因みに、本来の歴史ではアミティエとキリエという少女たちがエルトリアという世界を救うためにエグザミアを求めて未来からやって来るのだが、シロンのいるこの歴史では来なかった。実は、この歴史の未来にいるシロンの子孫が問題を解決するため、来る必要がなくなったのである。
そんな未来の世界では、アミティエとキリエが楽しそうに平和な時を過ごしていた。恩人であるシロンの子孫と一緒に暮らしながら。
「ハックショイ! てやんでぃバーローちくしょうめ!」
「あっ、もしかして風邪ですか?」
「いんや、恐らく魅力的なパイオツの美女が我輩のことを噂してるのニャ」
「そうかもしれないわねぇ、バカは風邪を引かないって言うし」
「ええい、なんたる侮辱! 慰謝料としてお前のパイオツ触らせろってんでぃ!」
「いやーん!」
「エ、エッチなことはいけないと思います!」
未来の方も大変賑やかであった。