魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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今回はやたらと地の分が多くなってしまいました。
ちょっと読むのが大変かもしれませんが、許してヒヤシンス。


第14話 企業戦士、かく戦えり【空白期1】

 ユーリとマテリアル娘たちが現れて話が脱線してしまったものの、はやての説得(恫喝)によってすぐさま軌道修正された。もっとも効果抜群だったシロンが大人しく従ったため、その後の会議はスムーズに進んでいく。とは言っても、残っている議題はグラハムたちがこなしてきたミッションの報告だけだが、せっかく間に合ったのだからきちんと聞かせてもらう。

 

「それじゃあ、報告お願いします」

「了解した。本日1126、地上本部地下1階の女子更衣室にて犯行に及んでいた被疑者を現行犯で確保。能力を封印した後に亀甲縛りを施して留置所に拘束した」

「また亀甲縛りかよ! どんだけ気に入ってんだお前ら!」

「あの、それはどうでもいいと思うけど、その人は更衣室でなにをしたのですか?」

「のぞき、下着泥棒、セクハラといった女性局員に対するわいせつ行為だ」

「ただの変態じゃねーか!」

 

 本局勤めのヴィータとシャマルは地上本部で起きている騒動を知らなかった。はやてもこんなしょーもない事件をわざわざ家族に知らせる気にはならなかったのである。

 

「はん、バカな野郎だ! 守るべき乙女たちにわいせつ行為を行うなど、男の風上にも置けないヤツニャ!」

「息をするようにパイオツとかほざいてるお前が言ってもまるで説得力ねーよ!」

 

 アギトのツッコミは実にごもっともだった。

 

「っていうか、そんなヤツ1人捕まえるのにお前らまで出張る必要なかったんじゃねーか?」

 

 ヴィータは疑問に思ったことをユーリたちに聞いてみた。確かに、本気になったら世界すらとれるこの4人が相手をするような輩ではないが……。

 

「ふんっ、そのようなこと貴様に言われるまでもない。だがな……」

「刑事ドラマが大好きなユーリが、ぜひ張り込みをしてみたいと言い出しまして」

「しょーがないから、牛乳とアンパン用意してレッツトライしてみたわけさ!」

「はい、ドキドキワクワクの24時間でした!」

「ええっ!?」

「なげぇー!?」

「意外に本格的だったんだな!?」

 

 結構がんばったらしいユーリは、誇らしげに胸を張る。その表情は一仕事終えたイイ笑顔をしていた。それもそのはずで、実際に彼女も戦ったからだ。目標の局員は予想以上に強く、ゴキ○リのようにしぶとい男だったのである。

 

 

 今より数十分前、長時間の張り込みを続けた結果、ついにその男の犯行現場を押さえる事ができたグラハムたちは、現行犯で確保するべく立ち向かった。だが、そいつは【霊能力】というレアスキルを持った煩悩魔人だった。

 

「ちち! しり! ふとももーッ!!」

「ええい、この変態がー!! 我らの身体を穢れた視線で見るでないわー!!」

「うわーん! こんな気持ち悪い人間がいるなんて、ボク聞いてないよー!?」

 

 その男――タダオ・ヨコシマは、最近嘱託から正局員になったばかりの新人だったが、異様に戦い慣れた動きをして歴戦のグラハムですら手を焼いた。

 

「この不快極まる機動! よもやGの再現だとでも言うつもりか!」

「でしたら、私の炎熱魔法で消毒しましょう」

「俺は汚物じゃねー!!」

 

 タダオは冷や汗をたらしながらも紙一重で攻撃をかわしていく。はっきりいってその動きは変だった。普通じゃないから予想がつかず、だからこそ手強い。ディアーチェとレヴィは気持ち悪くて手出しできないようだし、グラハムとシュテルも決定打を与えられないでいる。

 いけない、このままでは逃げられてしまうかもしれない。そう思ったユーリは、彼女のバリアジャケットである紫天装束を身にまとってタダオの前に立ちはだかった。しかし、ユーリの際どい服はスケベな彼を余計に炊きつけてしまう。

 

「ここから先は通しま――」

「うほほーい! なんて魅力的な下チチなんだー!!」

「きゃ―――!!?」

 

 突然ユーリに向かってルパンダイブしてきた。

 ユーリの紫天装束は胸元を覆う面積が少なく、15歳ほどに成長した今では胸の下半分があらわになってしまっているので、彼の視線を釘付けにするには十分であった。しかし、今回はそれが災いし、ユーリの胸に目を奪われている隙を突かれて彼女の放った強烈なカウンターパンチを食らってしまうことになる。

 ドバキッ!!!

 

「ぶべらばっ!!」

 

 魄翼を変化させた豪腕が直撃して、タダオは壁にめり込んだ。その後、気絶した彼は難なくグラハムに拘束され、卑劣なのぞき魔として管理局に引き渡されることになった。

 彼が所有している霊能力は、シロンが開発した、あらゆるエネルギーを分解・拡散するナノマシン【月光蝶・百式】によって封印され、これまでのように【文珠】という能力を使って誤魔化すこともできなくなった。

 こうなっては流石の彼でも言い逃れはできないので、大人しくお縄を受けるしかない。レアスキル持ちなので追放されることはないが、その分給料を思いっきり引かれることになるだろう。時給500円くらいに。

 

「堪忍や――!! 仕方なかったんや――!! この世界は美女が多くて、若さゆえの過ちが止まらへんのや―――!!」

「ええい、若さを盾に身勝手なことを言う! 我侭にもほどがあるぞ!」

「なにをー! 健全なエロ心を持った青少年が美女を求めて何が悪い!? 彼女たちの美しい身体を生まれたままの姿で拝みたいと思うのは男として当然だろーが!」

「ほぅ、この期に及んで開き直りかね? よろしい、それほどまでに美女を求めると言うのなら、私の裸体を存分に楽しむがいい!」

「って、なんでやねん!?」

「分からんというなら教えてやろう! この私、グラハム・ニャーカーは、純真無垢な乙女座なのだよ!」

「結局ただの男じゃねーか!! っていうか、まさかお前……もしかしてアッチの気があんのか!?」

「ふっ、私にも若さゆえの過ちがあったとだけ言っておこう」

「いや―――!? 助けて美神さ――ん!!」

「ふふふ、嫌がる相手に攻め寄るもまた一興! さぁ、いくぞ! お前の好きな乙女の裸体、しかとその目に焼き付けろ!」

「ちょっ、おまっ、やめろ!? ほんとに脱ぐなんてマジやば、ぅあ――――――っ!!?」

 

 大胆なグラハムは、言葉通りにタダオの前で服を脱ぎだした。恐らく女性が好きな彼に対する嫌がらせだと思われるが、真相は定かではない。

 一緒にいたユーリたちは、そんな怪しいやり取りをこっそり見つめながらタダオの犯罪行為について憤っていた。

 

「ふん、気色の悪い俗物が! 主様の可愛らしい色欲とは大違いだな!」

「その通り! 子供っぽくて微笑ましいシロンのエロさを見習うべきだぞ!」

「女の子に興味を持ち始めた小学生みたいで可愛いですモンね~」

「皆さんの意見に私も同意しますが、あまり褒めてる感じではありませんね」

 

 言葉で言うほど下品なことはしない幼稚なシロンのエロ行動を話の種にしながら、オシオキを済ませてきたグラハムと共に帰路に着く。

 男の裸を見せられて精神的に大ダメージを受けたタダオは、ドバドバと涙を流しながら反省の言葉を叫んだが、彼女たちの同情を得ることはできなかった。だって、ただの性犯罪者だし。

 

 

 大体そんな感じで幕を閉じたのぞき魔事件であったが、ユーリは自分の手で解決できたことが嬉しかったらしく自慢げに語った。

 

「――なんてことがあったんですよ~!」

「へ、へぇ~、そないなことがあったんか~」

「ふむ、地上本部にも意外な実力者が潜んでいたのだな」

「いや、注目すべき点はそこではないだろ?」

 

 グラハムたちが苦戦したという話を聞いてシグナムだけは微妙に喜んでいた。彼女の悪癖であるバトルマニアとしての興味を引いたのだ。

 しかし、ザフィーラが言うように気にする所はそこではない。力を得ることばかりに傾倒している管理局には、人格や精神面で問題のある人物が意外に多いのである。これも、最高評議会が残していった負の遺産の一つだった。

 犯罪者の予備軍を減らせるという点で効果があるのも事実だが、肝心のトップが犯罪者だったので、ある意味逆効果でもあった。彼らの悪意が配下の小悪党にまで伝染して負の連鎖を起こしていたのである。部下の失敗を必要以上になじったり、子供を傷つける言葉を平気で吐いたりする心無い連中がやたらと多いのはそのせいだ。

 そういった危険な局員は下手に追い出せないので、改めて教育した後に適性検査を受けさせて、その結果が酷い場合は速攻で降格処分をおこなうなどの処置を施すことになったが、それでもまだまだ手が行き届いていないらしい。

 

『人事に関しては、まだまだ改善が必要だな』

「せやな、少なくともわいせつ行為をやらかすような輩は徹底的に排除すべきや!」

「はやてちゃんの下着も盗まれましたからねー」

「なにっ!?」

「それはホントか!!」

「ああマジだよ。地上本部にいる【管理局美人百選】の奴らは全員やられてるんだ」

「なんて卑劣な人なの! ……っていうか、美人百選なんてものがあるの?」

「実はその手の話が最近流行っていてな、イケメン局員ランキングとかちょいワル将官グランプリなんていうものもあって、妙に身だしなみを整える連中が増えているんだ」

『やはり、早急に改善を進めなければ……』

『ふふ、クロノも苦労が絶えませんね』

 

 どうやら地上本部の風紀が乱れてきているようで、クロノは頭痛の種を新たに抱え込んでしまった。

 何故そのようなことが急に流行りだしたのかと言うと、シロンが地球の文化を広めたことが遠因となっていたりする。当然ながらシロン当人はそのことに気づいているが、受け入れることを選択したのはこの世界の人間なのだから文句を言われる筋合いではないと開き直っていた。

 そもそも、異性に興味を持ち、エロを謳歌すること自体は悪ではない。みんなが生まれてきたのもエロがあったからこそだと美容室プリンス所属の又吉長官も言っている。

 そう、エロと愛は一心同体と言っても過言ではないのである。つまり、相手の同意を得られればエロも正義となるのだ。

 

「そこんとこだけケジメをつければ、楽しいエロライフを満喫することができるだろう!」

「すっごいくだらないことなのに、やたらと説得力があってイラッとする!!」

 

 シロンは、いつの間にか地の文を声に出して力説していた。自他共にエロ好きであることを認めている彼ならではの持論であり、納得できる話でもある。

 それでも、普通の女性であれば「何言ってんだコイツ」となるところだが……シロンに惚れているなら話は別だ。

 

「ま、まぁ確かに……シロンにやったら下着をあげてもええかもな」

「ちょ!? なんてこと言い出すのよ?」

「ふふん、女は度胸やで、アリサちゃん。好きな人には積極的にアピールせなな」

「いやいや、アピールの方向性がマニアックすぎでしょ!」

 

 恋敵であるアリサから至極正論なツッコミが入る。そして更に追い討ちをかけるように、宿敵であるディアーチェからも手痛い追撃を受けてしまう。

 

「そもそも、年増女の汚い下着なんぞを見せられては主様が穢れてしまうだろうが、このたわけが!」

「なぁ!? 年増女やて!?」

「さもありなん。15を超えたらババアも同然ぞ? それに引き換え、プログラムである我らは経年劣化とは無縁ゆえ、永遠に若さを保てるのだ!」

 

 守護騎士の発展系である彼女たちは、人間の構造をほぼ完全に再現しているので、時間の経過によって生じる情報変化を反映すれば成長もできる。そのため、本来ならディアーチェもはやてと同じ19歳となっているところなのだが、今はなぜか15歳で止まっている。

 その理由は、以前シロンが「魔法少女って名乗れるのは、やっぱ15歳までだよニャー」と言っていたのを聞いたからだ。成長できるとは言ってももとはプログラムなので、データさえあれば任意の年齢に固定できる。彼女たちはその特性を生かして、シロンに好かれようと努力しているのである。

 とはいえ、シロンの本当の好みは母性が強くて結婚可能な年齢の美女なので、努力の方向性を間違えていたりするのだが……彼女たちの可愛らしい愛が微笑ましくて、つい本当の事を言いそびれていた。まぁ、今のところは特に問題も無いので、彼女たちが気づくまでは生暖かい目で見守ることになるだろう。

 

「はーっはっはっはーっ! 怖かろう。悔しかろう。例え化粧を纏うと、体の若さは守れないのだ!」

「それに対して、ボクらは永遠の15歳! 永久不滅に現役バリバリ美少女なのさ!」

「僅かでも老化を遅らせようと努力する健気な悪あがきには頭が下がります」

「ぐぬぬ~! 10代最後の年を迎えてセンチになっとる乙女に言うてはならんことをズケズケと~!」

 

 よせばいいのに調子に乗ったマテリアルたちは、はやての怒りを買ってしまった。未だに悪であることを主張している彼女たちは毒舌が多いのだが、周りにいる連中が強すぎるので大体は返り討ちにあうことになる。それを理解しているのに毎回同じようなことをやらかすのは、わざとふざけて楽しんでいるのか、単なるアホの子だからか。

 

「シャマル、戒めの鎖や!」

「は、はい!」

 

 はやては、ピカチュウに指示を出すサトシのようにシャマルを動かすと、マテリアルたちをまとめて拘束した。

 

「にょほっ!?」

「なんでぇ!?」

「油断しました」

「ふっははー! 捕まえたったで、マテ子ちゃん。というわけで、そんな悪いこと言う君らには、罰としてこの案件の後始末をしてもらいます」

「「「なんですと!?」」」

 

 のぞき魔を倒した時にユーリが壁を壊してしまったので、それなりにやることが増えてしまったのである。

 

「あの、私も手伝います」

「あ~、ユーリちゃんはええんやで。一番の功労者やさかい、後の事はこの子らに任せておけばいいんよ。なぁ、ディアーチェ?」

「ちぃっ……この程度の用事など我らだけで十分ぞ。お前はさっさと帰って夕食の支度でも進めておくがいい」

「うん……ありがとう、ディアーチェ」

「ふ、ふんっ! 礼など入らぬと言っておろうが!」

 

 ユーリから感謝の言葉を受けてディアーチェは顔を真っ赤にする。傍若無人な王様も保護欲をそそられるユーリにはすこぶる甘いのだ。

 そして、そんな彼女たちの様子に触発されたグラハムは、無性に愛娘と会いたくなってしまった。

 

「アルマー!! 私は今すぐ君に会いたいぞー!!」

「うほっ!? 突然叫ぶニャ! この親バカめ!」

「ふっ、親バカ大いに結構! 最高の褒め言葉だと言わせてもらおう!」

 

 親バカよばわりされたグラハムは、やたらとかっこよくポーズを決めてニヒルな笑みを浮かべる。この男の愛は確かに純粋だった。

 ただし、張り込みをしていたせいで家族と丸一日会っていないため、我慢弱い彼のブレーキは限界を超えてしまっていた。

 

「では、後の事は君たちに任せて、私は娘に会いに行くとしよう! うお―――!! 今行くぞ、アルマ―――!!」

「はぁ、すっげぇ暴走気味だニャ~。何となく面白……もとい、心配だから我輩も行ってみるかニャ」

「それでは、私もお供しましょう」

「あっ、だったら私も一緒にいきます!」

 

 やたらと興奮したグラハムが面白そうだったのでシロンは一緒に行くことに決め、それに便乗してセフィとユーリがついてくることになった。

 残りの面子はまだお仕事があるので羨ましそうに見つめるものの、相手が可愛らしいユーリとセフィなのであまり文句は言えない。

 

「それじゃあシロンとデートに行ってきまーす!」

「「「「「「「「やっぱり悔しいっ!!」」」」」」」」

『まったく同感ですね……』

『うう、すごく居心地が悪い……恨むぞ、シロン!』

「ちぇっ、また我輩か。まいったね、どうも」

 

 期せずして、グラハムの親バカ行動からいさかいが始まってしまった。しかし、こんな親バカ野郎がシロンの出身世界を救った立役者の1人だとは誰も思うまい。

 今から4年前、様々な偶然を重ねて彼らは火星と地球を救うことになったのである。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 なのはのいる世界に来てから2年後、ユニゾンデバイスとして身体を得たセフィをなるべく人として扱ってあげたいと思ったシロンは、彼女の力に頼ることなくソレスタルビーイングの活動を進めることにした。

 そのためには別の力が必要なので、まずは管理世界への足がかりとして、プレシアを代表とした会社をミッドチルダに立ち上げた。確かな身分を得ることで活動の幅を広げると同時に、経済的な影響力を得ることで簡単に排除できないようにすることが目的だ。管理局とて給料を与えてくれる経済が打撃を受ければただでは済まない。組織を支える源である資金面を押さえてしまえば自由を奪うことも可能なのだ。つまり、社会的地位と潤沢な経済力こそがシロンの求めた別の力であった。

 ただし、それらはあくまで【ボクの考えた未来予想図】であり、そこまで至るには相応の苦労が必要だった。

 最初は小規模なデバイスショップから始め、調査のためと言い訳してユーノと一緒に発掘しまくったロストロギアの売り上げ金などを元手にようやく起業までこぎつける。また、同次期に友人となったカリムや仲間に入れたグレアムの伝手からも協力を得ることで、何とか無事にスタートすることができた。

 しかし、そこから先は比較的順調にことが進んだ。

 シロンの提案で【ジオニック社】と命名されたその会社は、各種デバイスや家庭用魔導機器などの製造を行う機械メーカーとして設立され、デバイスショップ時代からのユーザーの支持もあって早い段階から安定した業績を出すことに成功する。シロンとプレシアのタッグが作り出した製品は従来の物より格段に性能がよく、あっという間に世間に広まっていったからだ。そして、3年ほど経った頃には誰もが知る人気ブランドへとのし上がっていた。

 

「いやぁ、ネオ・アームストロング・サイクロンジェット・アームストロング・ルンバ(掃除機)の売れ行きが絶好調で笑いが止まらないニャ~!」

「名前が長すぎるけどね」

 

 アリシアの言うようにネーミングセンスに難があったが、性能は折り紙つきだ。この製品を足がかりに、ジオニック社は管理世界を席巻する大企業へと成り上がっていく。

 更に、デバイスの方でも画期的な機能を搭載させて話題を集めた。それはピンポン玉サイズに小型化された独立型マルチAIシステム・ハロを搭載した【なんちゃってインテリジェントデバイス】だ。バッテリー駆動による独立処理のおかげで使用者の負担が大幅に軽減され、従来の人工知能より遥かに扱い易くなっている。非科学的な魔法に頼り切って工学的な人工知能の開発が遅れているミッドチルダでは作れない代物なので、ほぼ独占状態で利益を得ることができる画期的な商品となっていた。

 このデバイスのおかげで従来の20%以上も戦力が上がるため、地上本部のトップであるレジアス・ゲイズ中将が喜び勇んで大量発注したという逸話も出てくるくらいだった。

 ただ、その話には続きがあって、後になって元犯罪者であるグレアムの存在に気づいた彼は非常に不機嫌な思いをするのだが……シロンたちにとってはどうでもいいことだった。

 

 

 そのように正攻法で勢力を強め続けると同時に、裏では管理局の歪みを見定めるべく調査を開始した。

 この時点での目的は地球の防衛なので、武力介入は極力押さえる方向で行くと決める。自分たちは正義の味方ではないと自覚しているシロンは、仲間に危害が及ばないのであれば必要以上に手を出す気がなかったのである。そして、その意見にリンディやクロノも賛成したため、しばらくは秘密裏に動くことになるのであった。

 ただ、管理世界で行動するにあたって問題になってくる情報があった。数年前にプレシアから齎されたとある男の情報だ。フェイトを作り出すために用いた禁断の秘術【プロジェクトF】の基礎を作った張本人であり、広域指名手配の次元犯罪者――

 

「ジェルイレル・スカトロエロダイスキィか……」

「ジェイル・スカリエッティです!」

 

 その男は、シロンの出身世界にいたジェイク・スカリエッティと瓜二つだった。それもそのはず、彼らは同じアルハザードの技術を使って生み出された人造人間だからだ。

 元となった人物はアルハザードでもトップクラスの科学者で、自身の遺伝子をプログラム化して他者に売り込んでいたのである。当時は優秀な人材を人工的に生み出すことが常態化していたためかなりの需要があったのだが、そのプログラムのいくつかがアルハザードから拡散して彼らが生み出されることになった。

 しかし、その遺伝子構造は現在の人間とは相容れないものだった。研究を促進させるためにわざと倫理観を欠如させる処理が施されていたからだ。その上、ジェイルの方は更に歪な調整をされており、そのせいで手の付けられない極悪人になってしまっていた。

 何を隠そう、この男こそ最高評議会が作り出した歪みそのものだったのである。

 とはいえ、この時点ではシロンの知るところではなく、変わった出自の犯罪者としか捉えていなかった。ここはアルハザードの出身世界なので、そういうことも有り得るだろうと考えたのだ。シロンと一緒に議論をしていたグラハムもその意見に賛同し、こちらの世界の人間が片をつけるべき問題なので放っておいた方がいいと提案した。迂闊に手を出して地球に危害が及ぶようになってしまっては元も子もない。つまりは触らぬ神に祟りなしというわけだ。

 確かに当初の目的を考えればその通りだろう。あえて危険な場所に飛び込む必要はないし、すべきではない。しかし、それでもリニスは気にする様子を見せる。

 

「こいつと関わると碌な目にあわない気がするし、正直言ってめんどいから放っておくかニャ」

「でも、この男は戦闘機人の開発をしていると聞きました。恐らく、この世界にも私と同じような存在がいるはずです……」

「なるほど、生まれ出た世界は違えど思考は同じということか。どこまでも愚かな男だな、ウンコエッティ!」

「名前ぐらいはちゃんと呼んであげましょうよ!?」

 

 小学生のようにスカリエッティをバカにするシロンたちであったが、複雑なリニスの気持ちも分かるので、とりあえず戦闘機人について調査をしてみることにした。

 手っ取り早く情報を手に入れるために管理局地上本部を探った結果、首都防衛隊に所属しているゼスト隊がちょうど戦闘機人の製造プラントへ殴りこみに向かったことを知り、急いで後を追った。しかし、相手の戦力は予想以上に高かったらしく、シロンたちが到着した頃にはほぼ全滅状態であった。その際、瀕死の状態だった【クイント・ナカジマ】を救助して彼女の旦那である【ゲンヤ・ナカジマ】との繋がりができることになるのだが、肝心の戦闘機人については何も得られなかった。

 

「これじゃあ隊長たちが報われないわ……」

「でも、彼らのおかげで美しいパイオツをお持ちのあなたが助かったのニャ。だから、彼らの死は決して無駄ではないさ!」

「ふふっ、言ってることは無茶苦茶だけど、そう言ってもらえると気が楽になるわ」

「はっはっは、それは良かった、カルカッタ!」

 

 病院に入院中のクイントを見舞ったシロンは、彼女の胸に抱かれてご満悦である。もちろん猫形態でだが、胸に触れるその手つきはとてもいやらしかった。

 

「おいシロ坊。コイツを助けてくれたことには感謝してるけどよ……だからって、胸を揉んでいいとは言ってねぇぞ!」

「けっ、男の嫉妬なんてみっともないぜ、ゲンヤさんよー! 美しいパイオツは人類共通のお宝だって歴史の教科書にも書いてあるじゃニャーか!」

「んなわけあるか!」

「ねぇギン姉、ぱいおつってなぁに?」

「ん~、私にも分からないわ」

 

 クイントの娘であるギンガとスバルはアダルト(?)な会話を聞いて首を傾げる。シロンと出会った事で彼女たちの情操教育に問題が出そうだ。それでも、彼女たちの母親が助かったのだから文句は出ない。

 この件以来、敵の動きも巧妙になり戦闘機人に関する手がかりは再び闇の中に閉ざされてしまうのだが、クイントとの接触によって管理局と繋がりがあることを掴むことはできたので、シロンとしても得られたものは大きい。

 敵は管理局にありと分かったのだ。こうなったら、スカリエッティを追うより管理局の歪みを修正する方を優先すべきだろう。元々管理局の仕事を手伝う義理などないのだから、無理に関わる必要は無いし、クロノもその点は理解を示している。

 いずれにしても、犯罪者を捕まえる役目は、正式に管理局へ入局したなのはたちに任せるべきだった。下手に手を出して彼女たちに必要な経験を奪うわけにはいかない。自らの意思で戦う道を選んだ彼女たちは、自らの力で成長していかなければならないのだから。

 

 

 戦闘機人事件の数ヵ月後、資金の流れなどで相変わらず不穏な動きを見せる管理局に対して、シロンたちは裏側から攻勢に出ることを決めた。リンディとクロノが進めていた準備が整ったので、いよいよ本格的に行動することになったのだ。後に管理局を震撼させることになる【戦いは数だよ兄貴作戦】の始まりである。

 その詳細は実に単純で、ある意味とても民主主義的な反抗作戦だった。

 まずは管理世界版のインターネットを使い、管理外世界に対する管理局の横暴を暴露して民衆に興味を持たせる。そうしてある程度話題が膨らんだところで、管理局の歪みを体感できる無料ゲームをあらゆるメディアを使って大々的に配布する。そのタイトルは【管理局の野望・全世界版】というものだった。

 

「何かどっかで聞いたような名前だね」

「なぁに、面白ければ何でもいいのさ。内容がクソじゃなければ絵が下手くそでもワンサカ売れるんじゃい!」

 

 まさにその通りだった。名前はアレでも中身はやたらとよく出来ているため、出所不明のこのゲームは管理世界中で大きな話題を生むことになった。

 その最大の要因は過激な内容にあって、管理局の不始末でばら撒いてしまった世界を破壊できるロストロギアをこっそり回収するミッションや、管理局の不始末で活性化してしまったロストロギアを消すためにアルカンシェルを使って大量殺人を行うミッション、そして魔導師の才能がある人間を管理するという名目で強引に確保するといった非人道的な活動をリアルに再現していた。

 しかも、実際に起こりうるシチュエーションであることを銀河万丈氏の声で懇切丁寧に説明しているので、管理局が完全否定できないようにもなっていた。そのため、話題に敏感なマスコミなどがこぞって検証し、管理局法の危険性を改めて再確認する結果となる。

 自分たちの世界の法律なのになぜ今更そのような現象が起きたのかと言うと、民衆たちも義務教育の過程で管理局の定めた法に疑いを持たないように洗脳されており、そこに込められていた悪意に気づけなかったからだ。

 もちろん最高評議会も悪魔ではないので、それらの洗脳は精神に悪影響を与えないギリギリの範囲で施されているが、一旦かかってしまうとよほど強力なストレスでもかからない限り解けることが無い。この辺は局員に施している洗脳とほぼ同じだった。

 ただし、世界中の人間に使うため汎用性を重視せざるを得なかったその洗脳は効果に個人差があり、大きな影響を受けなかった人間が厄介な犯罪者となるケースが多かった。成長するにつれて管理局の異常性に気づき、より強く反抗心を持つようになってしまうからだ。つまり、最高評議会は自分自身の手で凶悪な犯罪者を生み出していたのである。

 まさに因果応報だった。悪意は悪意を育て、やがてそれは災厄となって自身に襲い掛かる。

 ツイッターとかで失言して落ちぶれる政治家と同じようなモンだ。他者を見下し傷つける傲慢な人々は、自身の未熟さに気づくことなく悪意を振りまいて、いたずらに敵を増やしてしまう。そして、やりすぎた者は自身の身を滅ぼすことになる。人間の歴史はそんな情けない悪意を積み重ねて数多くの悲劇を生み出してきたというのに、何千年も経った今もなお同じ過ちが繰り返され続けている。ほんの少しの心遣いで人間の世界は穏やかなものになるのだが、その理想郷は未だに遠い。

 しかし、絶望してしまうにはまだ早い。

 シロンのおかげでいち早く洗脳が解けていたクロノは、独自の調査で意識操作の事実に気づき、解除プログラムを密かに用意していた。この作戦は、そのプログラムを世界中へ配信する機会を作るためのものだったのだ。局員である自分の手で管理局の歪みを断ち切るために。

 

「これでみんなも悪い夢から覚めるだろう」

「そうだニャ。どうせ見るならならエロい夢のほうがいいモンニャ」

「お前もそろそろ目を覚ませ」

 

 シロンの淫らな夢はともかく、これで民衆の目が覚めて管理局の異常性が世界中に露見された。基本的に管理外世界の出来事は彼らに影響を与えないため気にする必要もなかったのだが、管理局の隠された凶暴性を自覚してしまってはそうも言っていられない。彼らによって都合よく改ざんされていた夢から覚めた今、多くの民衆から猜疑心が生まれた。もしかしたら、自分たちの世界も理不尽な脅威に晒される可能性があるかもしれないと。もともと強大な力を持った管理局が力ずくで傘下に入れた世界が多いので、恐れを抱いてしまうのは当然の流れでもある。

 大体、こっそりと大量破壊兵器を使って世界を破壊できるようなアブナイ連中を信用できるわけがない。

 その思いは管理局局員も同じで、これまで正しいと思っていた法律に異常があることに気づいて混乱した。とはいえ、その混乱はリンディが密かに集めていた同士たちによって即座に鎮静化される。やり手のリンディは、あらゆる手段を用いて【伝説の三提督】と呼ばれる本局の重鎮まで味方につけて、暴動やクーデターという最悪の事態を想定して対抗策を整えていたのだ。

 悪意ある者たちより早く動いた彼女たちは、全局員に対して一種の集団催眠にかかってしまったのだろうと言い聞かせて説得した。管理外世界を犠牲にして自分たちの安寧を保っている罪悪感が目を背けるような意識を生み出してしまったのだろうと。確かにそれは普通の社会でも起こりうる現象であり、半分は正解なのでほとんどの局員は納得した。

 その説明もまた悪法を作ったことを誤魔化す集団催眠みたいなものなのだが、この場合は嘘も方便といえるはずだ。管理局のすべてが悪いわけではないのだから、この組織を存続させるために必要ならばグレーゾーンな決断も時には選択しなければならない。もちろん最高評議会のようにやりすぎない範囲でという制約も必要だが、今回のところはセーフと判断してもいいだろう。

 一方、もっとも重要な民衆の方はカリムの力を借りて聖王協会に活躍してもらい、混乱する彼らの心を暴力ではない別の方向に先導してもらった。ずばり言えば、対話で解決することを示したのである。

 カリムは、クロノから渡された天使の輪のようなデバイスを頭上に浮かばせながら全管理世界に向けて演説し、人々の心を穏やかにさせることに成功した。

 もちろんクロノたちは民衆の怒りを受け止めることも覚悟していたが、無闇に人々が傷ついてしまうような事態は起こしたくなかった。そのために大掛かりな仕掛けを用意していたのだが、幸いにも彼らの努力は報われた。

 その仕掛けのキーとなったデバイスは、シロンが作ったサイコミュ式安眠グッズ【エンジェル・ハィロゥ】の強化版だ。これを付けて優しい言葉を発すると怒りを鎮めてしまうほどリラックスできる効果が出る。その暖かな波動を密かに配置していたサイコミュ搭載型のハロで広範囲に広げ、管理世界中の人々に届けた。

 実を言うとそれは、赤ん坊のアルマを上手に寝かしつけるために作った育児グッズで、たまたまそれを見たクロノがこの使用法を思いついたのだが、思わぬところで役に立った。

 

「平和主義の究極の形は母体への回帰願望でありましょう。だからこそ、我輩はパイオツを求めるのです。ああ素晴らしきかな、パイオツ!」

「まあ、そうだったのですか! なんだか恥ずかしいけど、嬉しい気もしますね」

「カリム、君は素直すぎだ……」

 

 クロノはピュアすぎるカリムを見て呆れたが、この時の彼女はクロノ以上にシロンの本質を見抜いていた。こんな大それた事をしてしまう彼があえて子供っぽさを表に出しているのは、決して悪意に染まらないという決意の表れなのだと理解したのである。だからこそ、このエンジェル・ハィロゥのような優しい発明ができるのだろう。その事実に気づいた時、シロンに対するカリムの好感度は恋心の領域に入ってしまった。そのおかげか、彼女の変化に気づいたクロノにより、後にソレスタルビーイングへ誘われることになる。 

 何にしても、シロンたちの努力が実り、世界はわりと穏やかに変化していくことになった。

 そもそも、管理世界に対する法律としてはそれほど悪いものではないので、クーデターを企てるほど不満があるわけではない。ただ、異常な状況に陥ったところに管理外世界の実情を吹き込まれたため、彼ら自身も危機感を覚えてしまったのである。

 自分たちの意思を無視して世界を壊せるようなロストロギアやアルカンシェルを好き勝手に使わせるわけにはいかない。加えて、治安を守ってもらうために多額の税金を納めているのだから、管理局の行動には民衆の意思を反映できるようにしなければいけない。そのように理解した結果、管理世界中で管理局の変化を望む声が高まっていく。

 シロンたちは、そんな民衆の動きを確認した後に次の段階へ移ることにした。管理局の権威が揺らいでいる瞬間を突いて経済不安を煽らせる作戦である。

 まずは、管理局への抗議としてジオニック社の生産量をワザと滞らせ、暴力以外の戦い方を率先してみせた。多額の税金を使って非人道的な活動をする悪法の改善を求めようと世間に訴えたのである。ジオニック社は、この時既に経済界に対して大きな影響力を持つようになっていたので、その抗議行動に賛同する企業も多数現れ、管理世界中のマーケットで混乱を来たした。

 これも、資金や技術を提供するなどして多くの企業と連携を深めておいたおかげだが、それだけで彼らが動いたわけではない。利益の減少より世界の安全性を重んじた結果であり、年々増加するばかりの防衛費に対する不満の発露でもあった。戦う力の無い民衆は、経済活動をサボタージュすることで傍若無人な管理局を懲らしめることにしたのだ。

 シロンたちの活動のおかげで危険な状況にあることを理解した民衆は、ギリギリの範囲で経済活動を自粛して管理局に抵抗しだした。そうなってくると当然管理局の収入も減ることになるため上層部は大いに焦った。これは本格的にやばい状況であると今更ながらに理解したのである。

 

「何だかんだ言うても世の中ゼニや! コレがなけりゃデバイスはおろか、うまい棒1本すら買えまへんがな! プークスクス!」

「世知辛い話ですね」

 

 まことにセフィの言う通りであった。

 民意と言うヤツはとても流動的で、安全神話が崩れればすぐさま手の平を返す。そして、時の権力に抗う力となって牙を剥く。シロンはそれを狙ったのである。

 実際、管理局はこの騒動の火消しに苦しんだ。これまでは洗脳のおかげでまともに対抗する連中がいなかったため何とかなっていたが、シロンたちに目を付けられては今まで通りとはいかない。一連の動きに便乗して反管理局運動も活発化し、知識人の集まるミッドチルダを中心にして法律改正の機運が高まっていった。

 こうなっては流石の管理局も無視できず、徐々に法律を改正して次第に情報の透明化が進められるようになっていく。

 こうして、シロンの思惑通りにことが進み、管理局の暗部は弱体化することになる。見下していた民衆こそが管理局を支えているという事実を最高評議会が認識していなかったせいで起きた【罰】だった。

 しかし、これで管理局の暗部が潰えたわけではない。何と言っても諸悪の根源である最高評議会自体が健在なので、彼らが飼いならしている部下たちの目が覚めることもない。元々悪い奴らは自身が手痛い目に遭わない限り、自主的に心を入れ替えたりはしないのだ。

 その中の1人であるレジアス中将のように、正義のためなら多少の犠牲もやむなしと信じ込んでいる【立派な局員】もいるが、そんなものは独善という悪意にすぎない。そもそも、世界を支えている民衆を見下し、見捨てる連中が世界を守るなど笑い話にもならないだろう。他者をないがしろにしてプライドを誇示するばかりの彼らには、正義を語る資格などないのだ。

 しかし、それでも彼らは止まれない。最高評議会に操られ、心の内にある悪意に気づかないまま雌伏の時を過ごすのであった。

 

 

 会社を興して4年後、【戦いは数だよ兄貴作戦】が一定の成果を収め、管理局が折れる形で世の中も落ち着いてきた。

 最高評議会もバカではないので、下手に動いて【奥の手】が台無しになってしまうような危険は冒さなかった。スカリエッティに任せている【聖王のゆりかごを復活させる計画】だけは邪魔されるわけにはいかないと考えたのだ。そのため、彼らの活動は更に隠密性を増していくことになり、スカリエッティも自らの思惑のために大人しく従った。

 ただし、その潜伏期間中に【ガジェットドローン】という無人兵器の増産が加速され、4年後になのはたちを苦しめることになるのだが、流石のシロンもそこまでは予測できなかった。まさか、相手も【戦いは数だよ兄貴作戦】をおこなってくるとは、これまた皮肉な話だった。

 とはいえ、彼らの活動が大人しくなったことは確かなので、管理世界はとりあえず仮初の平和を取り戻すことができた。

 ジオニック社もその恩恵にあずかり、今回のサボタージュに対するお咎めはほとんど無かった。それどころか、これまで以上に関係を深めようとするほど管理局のご機嫌取りは必死だった。実際に犯罪行為をした訳ではないので問題無いとはいえ、裏で色々とやっていた者としては警戒せざるを得ない。

 

「奴らめ、まだ何か隠してる気がするニャ。なぜなら、我輩のアイスをこっそり食べたレヴィと同じ行動をしているから!」

「ぎくぅ!? こんなに早くバレてしまうなんて! 見た目は小猫、頭脳は変人の名探偵だったのかー!?」

「まぁ確かに、我輩の頭脳は大人という変態紳士ですけど?」

「変人ってところは認めるんですね……」

「その素直さがシロンのいいところです」

「そうさのう。その意見には同意してやってもいいが、我のアイスを横取りした言い訳は聞いてやらんぞ?」

「ちぇっ」

 

 なんてやり取りをマテリアルたちとしながら今後の事を考えた結果、とりあえずは現状維持に努めることに決めた。急いては事を仕損じる。穏便に済ませるためにも一気に追い込まないほうが得策だろうと判断したのである。

 実際に、これ以上ごり押ししていたらレジアスあたりが暴走して面倒なことになっていた。この騒動のせいで彼が推し進めていた地上防衛用の巨大魔力攻撃兵器【アインヘリアル】の建造が大幅に縮小されることになったからだ。単純な資金難に加えて世論の反対も大きくなったため、完成するのは作り始めている一基だけとなりそうだった。

 しかし、その変化が逆にいい結果を齎すことになる。アインヘリアルに代わる戦力を得るために導入を決断したジオニック社製新型デバイスによって武装局員が大幅にパワーアップするからだ。小型ハロのサポート機能によって資質の無い者でも空戦が可能になり、空と陸の垣根がほぼ無くなるという劇的な変化が起こったのである。これには流石のレジアスも素直に驚き、ジオニック社の功績を認めないわけにはいかなかった。まさに、シロン脅威のメカニズムと言える。

 いずれにしても、レジアスの溜飲を下げることに成功した功績は大きい。その上、ガッポリ大儲けまでできて笑いが止まらないときたモンだ。

 まさにこれは――

 

「計画通り!(ニヤリ)」

「顔が怖すぎだよ、シロンちゃん!?」

 

 思わずすずかを怖がらせてしまうくらいに上手くいった。管理局を手玉に取りつつちゃっかり商売も成功させる、とっても策士なシロンであった。

 

 

 数ヵ月後、シロンたちによる荒療治のおかげで管理局内の意識が大分変わり、日常生活でも実感できるほどに変化が生じ始めた。

 上層部では明らかに独善的過ぎる法律を改正するための議論がようやく始まり、現場では新型デバイスによる武装強化が進んで業務効率が飛躍的に上昇しだした。管理局は、表面的にとはいえ改善の兆しを見せ始めていたのである。

 そんな明るい雰囲気が世界中に伝播して、クラナガンの街も賑やかさを増していた。もちろん、すべての暗部が消えて無くなったわけではないが、それもまた人間の一部なので仕方が無い。光と闇は一心同体、人の欲望が続くかぎり末永く付き合っていかなければならないのである。

 それに、闇と言っても悪いことばかりではない。

 

「そう、心の中に闇があったからこそ、触手プレイという至高のアイデアが生み出されたのニャ!」

「いきなり何てことを口走ってるニャン!?」

 

 感極まったシロンは、クラナガンの中心街で(触手への)愛を叫んだ。そのとなりでは、猫召喚でやってきた【ジバニャン】が呆れた視線を向けている。

 この赤い猫は地縛霊の猫妖怪で、二股に分かれた尻尾と腹巻きが特徴となっている。つい最近知り合ったばかりだが、エロ本買いに付き合ってくれるほど親しくなっていた。まぁ、本音を言うと猫のクセに人間のエロ本を買うシロンのことを「なにやってんだコイツ?」と思っていたのだが。

 

「まったく、シロンのエロパワーには恐れ入るニャン」

「ああ、去勢手術済みのお前には酷な話だったニャ。正直すまんかった……」

 

 シロンは、ジバニャンの【耳カット】を見てそう言った。彼の左耳には、去勢手術済みの野良猫が見た目ですぐ分かるようにつけられる印があるのだ。

 

「こ、これは違うニャ!? エミちゃんを庇ってトラックにはねられた時についた名誉の傷ニャ!!」

「ええい、皆まで言わなくとも構わん! 我輩にはお前の悲しみが手に取るようにわかっているから!」

「えっ!? いや、だから……」

「そうかそうか、タマ取られて立たなくなった股間のビッグバーが恋しいのだな? ならば、代わりにお前の好きなチョコバーをくれてやろう。だから、その目に溜まった涙をお拭き」

「うわーん! コイツ絶対通知表で『人の話を聞きましょう』って書かれてるニャーン!!」

 

 言い訳を聞いてもらえなかったジバニャンは、フリーザにやられたベジータのように悔し涙を流した。公衆の面前で恥をかかされたのだから当然である。彼にだってオス猫としてのプライドはあるのだ。

 

「でも、せっかくだからそのチョコバーはもらっておくニャン」

「まったく、お前の厚かましさには我輩もお手上げニャぜ!」

 

 残念ながらジバニャンのプライドはとても小さかった。チョコバーを手に笑みを浮かべる彼を見て、所詮は猫かとしみじみ思う小猫のシロンであった。

 そんな感じで穏やかな会話を楽しんでいた2匹だったが、その平穏は唐突に破られた。突然頭上から射撃音が聞こえてきたのである。どうやら上空で管理局と犯罪者が空戦をしているようだ。民間でも戦闘用デバイスが出回っているミッドチルダでは珍しくもない光景なので、慣れてるシロンはまたやってらーと思うだけだった。

 だが、平和な日本からやってきたジバニャンにとってはたまったものではない。

 

「一体何事ニャン!?」

「ああ、我輩たちの上空でドンパチやってるようだね」

「ニャンだって!? 巻き込まれたら死んでしまうじゃニャいか!!」

「大丈夫、お前はもう死んでいるニャ」

「そりゃそうですけども、怖いものは怖いのニャーン!」

 

 そう叫ぶとジバニャンは駆け出した。猫である彼は基本的に臆病なのだ。しかし、その判断が裏目に出る。なんと、路地裏に駆け込んだ彼の真上に負傷した局員が落ちてきたのである。

 その局員は首都航空隊に所属する【ティーダ・ランスター】という青年で、逃走していた違法魔導師を追跡している最中に返り討ちに遭ってしまったのだ。不運なジバニャンは、その巻き添えを食ったのだった。

 

「ギニャ―――!!?」

「ジ、ジバニャーン!!」

「なんじゃこらー!? こんなに出血したら死んでしまうニャーン!?」

「落ち着けジバニャン! お前は既に死んでるから! ってか、それってお前の血じゃねーから!」

「ニャンだと!?」

 

 覆いかぶさっているティーダの体から脱出したジバニャンは自身の身体を確かめてみたが、どこにも怪我は無い。ということは――

 

「うおー!? この兄ちゃんすげー怪我してるニャン!? 衛生兵ー! 衛生兵はどこニャー!?」

「あーもう、そのくらい我輩が治してやるから、少し落ち着けって!」

「ぐふっ!」

 

 シロンは、あまりの異常事態にテンパってしまっているジバニャンを地獄突きで黙らせると、最上級回復魔法【ラビアンローズ】を使った。死んでいたら放っておくつもりだったが、まだ息があったので助けてやることにしたのだ。本来の歴史で即死しているはずだった彼は、新型デバイスの自動防御機能が発動したおかげで致命傷を免れたのである。

 

「う、うう……」

「すげー! 傷が治ったニャン!」

「ちいぃ、我輩としたことが、おちんちんを付けてる野郎を助けちまったい!」

 

 そんなことを言いつつもシロンの表情は晴れやかだった。

 

「もう大丈夫なのニャン?」

「傷は治したけど大分血を失ってるから数日は入院だニャ」

「そうかー。だったら、お見舞いとしてこのチョコバーをあげるニャン」

「それは名案。ならば我輩は、さっき買ったこのエロ本をあげるとしよう」

 

 気を失って地面に寝ているティーダの手にチョコバーとエロ本を握らせる。おバカな2匹は実にいいことをしたと感動して、とてもイイ笑顔になった。

 

「でも、本当にいいのかニャン? あんなに楽しみにしてたのにニャン」

「なぁに、エロ本は何度でも買えるけど、この出会いは一度きりの奇跡だからニャ!」

「おおー! 内容はバカっぽいのにやたらとカッコイイニャン!」

 

 こうして、運命のいたずらによりティーダは命を取り留めることになる。しかし、彼の不運はその後も続いた。

 逃走中の犯罪者と戦って返り討ちにあったばかりか、チョコとエロ本を手に持って倒れている姿を民間人の前に晒してしまった彼は、所属していた部隊の上官から無能扱いされてしまう。特にエロ本の存在が女性局員の反感を大いに買い、ついには私物疑惑まで持ち上がった。もちろん事実ではないのでティーダは猛然と反論したが結局誰にも聞いてもらえず、彼は失意の内に辺境世界へと左遷されてしまった。『それでもボクは買ってない』と言いながら。

 ちょっとした親切心(?)のせいでランスター家を失意のズンドコに陥れた悲しい出来事。それをきっかけに彼の妹である【ティアナ・ランスター】が管理局入りを志すことになる。兄の汚名を返上するために。

 

「あのエロ本は兄さんの私物じゃない! 卑怯で卑猥な犯罪者にはめられたのよー!」

 

 少しばかり論点がずれている気もするが、その怒りを糧に彼女は努力を積み重ね、後になのはたちと共に世界を救うことになる。

 そんな妹の活躍ぶりを辺境の地で聞いたティーダは、そっと笑みを浮かべる。現地でできた恋人とイチャイチャしながら……。何だかんだと言いながらのんびりとした生活を満喫しているティーダは、あの日にエロ本を置いていった相手に感謝していた。

 ありがとう、エロ本をくれた人。あなたのおかげで僕は最高の幸せを手に入れる事ができたよ――。

 世の中どう転ぶか分からないものだ。

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