魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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長いエピローグも半分過ぎまして、残すはあと5話となりました。
そんなわけで、ご意見、ご感想をものすごくお待ちしております。


第16話 悲しいけどコレ、戦争なのよね!【StrikerS1】

 新暦75年9月19日。管理局は、設立以来最大の危機に直面していた。史上最悪の次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが、欲望の赴くままに行動できる【自由】を手に入れるために管理世界へ宣戦布告してきたのである。

 最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出したスカリエッティは、倫理を犯す研究を促進するために探求欲を増大させる改造が施されていた。そのせいで多くの命が犠牲となり、膨大な罪を重ねてしまった彼らは、自身が作ったスカリエッティによって殺されることになる。愚かな老人たちは、傲慢というエサで育てていた狂犬に噛み殺されて、あっけなくこの世から去っていった。

 それはいい。すべて自業自得なので、同情の余地など微塵も無い。

 だが、事態はそれだけでは収まらなかった。最高評議会が切り札として保管していた【聖王のゆりかご】と呼ばれる空中戦艦が奪われ、管理局を滅ぼすために悪用されてしまったのだ。

 この時点までは管理局が崩壊するかもしれないというカリムの予言が当たっていた。聖王のゆりかごが完全稼動すれば管理局を滅ぼすことも十分に可能であり、スカリエッティが本格的に動き出した今、その悪夢は着実に現実となりつつある。

 カリムは、地中より出現した聖王のゆりかごを映像越しに見つめながら、回避できなかった悪夢を悲しむ。

 

「せっかくシロンさんが管理局の歪みを曝け出してくれたのに、結局こんな最悪の事態を招いてしまうなんて……。これでは、シロンさんの怒りを受けてしまっても仕方ありません。でも、本当にそのようなことになったら……」

 

 2つ目の予言まで実現することになってしまう。妖精の王たる彼に呼ばれて天上から遣わされた使者が、裁きの雷をもって戦場にいるすべての者に天罰を与えるはずだ。

 もしそうなったら、この世界に嫌気が差して大好きなシロンが離れていってしまうかもしれない。現在カリムがもっとも気にしていることは、世界の危機ではなく想い人のご機嫌だった。

 聖王教会のお偉いさんとしてそれはどうなのよと思わなくも無いが……動機はどうあれ、このまま指をくわえて見ているわけにはいかない。気を取り直したカリムは、クロノたちと協力して反攻作戦の準備を始めた。

 時間が無いので各々の作業を同時進行していく。戦力を整えると同時に情報収集を進め、前者は豊富な実務経歴を持つクロノを中心に次元航行部隊を動かし、後者は無限書庫に勤めているユーノを中心にしておこなわれた。その際、ユーノの助手としてアリシアとアルフが借り出され、3人で聖王のゆりかごに関するデータを集めた。それを大型次元航行船クラウディアに乗艦しているクロノと本局にいるリンディ、そしてジオニック社の本社ビルにいるプレシアへと報告する。

 

『母さん、そっちは大丈夫?』

「ええ、今のところは持ちこたえているわ」

 

 現在プレシアは民間協力者として臨時の戦闘許可を得ており、売り物の新型傀儡兵で市街地の防衛を手伝っていた。相手との物量差を埋めるために大量の傀儡兵を起動し、そのすべてに魔力を供給しているのでプレシア自身は戦えない状態だが、広範囲を守備しなければならない現状では質より量を優先するほうが効果的だ。

 その上彼女は、忙しい状況の中で聖王のゆりかごに関する性能予測までこなしてユーノたちに伝えていた。

 

「やはり、あれはまだ完全稼動していないのね」

『はい、プレシアさんが説明してくれた通りです』

 

 地上本部に攻め込んでくる戦闘機人の動きを見たプレシアは、彼らが時間稼ぎをしている理由を見抜いた。どうやら聖王のゆりかごが完全に動き出すにはまだ猶予があり、その間は攻撃されたくないらしい。つまり、今なら魔導師の力でも対抗できるということになる。

 確かにあれが船だと言うのなら、操作している人間と船体を動かす機関部を押さえてしまえば弱体化できるはずだ。ロストロギアとはいえ所詮は人が作ったものなので、対抗策は存在していた。それでも、現在の状況は極めて深刻だが。

 

『シロンが不在の時にこんなことが起きてしまうなんて……』

『仕方がないさ。これは管理局の責任なんだから、僕たちの力で解決するしかない』

「だけど、時間も戦力も厳しいところね」

『ええ、そうね……』

 

 確かにプレシアの言う通りだ。

 古代ベルカを統べていた【聖王】が所持していたと言われるその船がミッドチルダの衛星軌道上に達すると、2つの月から魔力を受けて完全稼動することになる。もしそうなったら管理局の戦力では手が付けられなくなってしまうため、事前に破壊しなければならない。今なら相手の防御も完全ではないので、本局から出発した次元航行部隊が間に合えば破壊は可能だ。

 ただし、現地の局員が足止めできなければその作戦も失敗してしまう。

 もちろん狡猾なスカリエッティはそれを見越しており、用意周到に対抗策を用意していた。1週間前に地上本部を強襲して運営状態に混乱を与え、数十分前にはアインヘリアルも破壊してミッドチルダの戦力を大幅に削っていた。そのため、現在動ける人員では首都の防衛だけで精一杯の状態だった。それだけガジェットドローンの数は圧倒的であり、現在の戦力だけで対処するのは困難と言わざるを得なかった。

 そこで、本局預かりの地上部隊である【機動六課】がもっとも重要な任務を担うことになる。はやてが部隊長を務めているその部隊はカリムの予言を警戒した本局が設立したもので、リンディを始めとする有志の尽力によってようやく形になったものだ。ゆえに、スカリエッティの計画を止めることこそが本来の任務であった。

 そのために、なのはやフェイトといった管理局有数のストライカー級魔導師を無理やり集めて準備を整えてきたのだ。今こそ部隊の実力を示す時だった。

 

『望みはまだある。彼女たちなら必ず任務を達成してくれるはずだ』

『うん……そうだね』

 

 聖王のゆりかごを撃破するためには、鍵となる聖王を無力化し、船体内部の駆動炉を破壊しなければならない。つまりは、強力なAMFの影響下にある敵地に乗り込んで突破できるだけの強さが必要だ。

 その点で言えば、なのはたちは十分な力量を持ち合わせていると言える。

 とはいえ、敵の他にも彼女たちを悩ませる大きな問題があった。それは、目標の1つである聖王が救助すべきヴィヴィオ本人だということだ。ヴィヴィオは偶然なのはたちに救助された少女だが、その正体は大昔に亡くなっている聖王の遺伝子から作り出された人造生命体だったのだ。

 

 

 現在起きている一連の騒動は、絶対的な力を求めた最高評議会が聖王のゆりかごの復活を計画したことから始まった。

 まず手始めに、優秀な走狗として成長していたスカリエッティに命令して聖王教会より盗み出した遺伝子を違法な研究施設にばら撒き、【聖王の器】となる存在を作らせた。

 膨大な資金を浪費し、幾度も失敗を繰り返しながら数年経った頃、数え切れない犠牲の末にようやくヴィヴィオという成功例ができあがった。そして、次の段階へと進むためにスカリエッティの元へ送られることになった。

 聖王の器は、体内にレリックと呼ばれるエネルギー結晶体を取り込んで【レリックウェポン】となることで完成するのだが、スカリエッティはその研究の第一人者となっていたのである。

 しかし、移送の途中でヴィヴィオの意識が覚醒し、恐怖心に駆られた彼女は無意識のうちに力を発動させてしまう。圧倒的な聖王の力によって護衛のガジェットドローンはすべて破壊され、自由になった彼女は遺伝子に残されていた記憶に突き動かされるようにその場から離れた。ベルカの王たる自身の身を守れと、かつての力を取り戻せと、聖王の遺伝子がそう言うのである。

 そうして無意識のうちに体を動かし、地下水路から地上に出たところでついに力尽きて意識を失う。そんな場面に休日を楽しんでいたエリオたちが偶然出くわし、彼女を救助することになった。

 

「よもや、闇の世界より来たりし者とこのような場所で邂逅しようとはな……この目に宿る邪王真眼と共鳴したのか、それとも組織が送り込んだ破滅の罠か」

「単なる偶然だよ」

 

 一緒にいたキャロは、勝手に作った妄想に浸っているエリオに向けてそっけなく答えるのだった。

 とにもかくにも、エリオたちに助けられたヴィヴィオはスカリエッティの手から逃れることに成功し、一時的に保護することになった機動六課隊舎で平穏な日々を過ごした。その2ヵ月間で元の明るさを取り戻したヴィヴィオは、なのはとフェイトによく懐いて彼女たちのことをママと呼ぶまでになっていた。

 そんな矢先に、準備を整え終わったスカリエッティがとうとう本性を現し、束の間の平穏が破られてしまう。人の情など持ち合わせていない彼は、なのはたちの留守中を狙ってヴィヴィオを拉致したのだった。

 戦闘機人の少女たちに地上本部を襲わせている間に別働隊が機動六課隊舎を襲撃、防衛にあたったシャマルとザフィーラに重傷を負わせて悠々とヴィヴィオを連れ去っていった。その際、同じ戦闘機人として勝手に仲間意識を持たれていたギンガも拉致されてしまい、機動六課は手痛いダメージを受けてしまう。

 

 

 それから1週間後の今日、満足な準備を整える間もなく最終決戦を行うこととなったのだが……。

 

『ねぇ、ユーノさん。ヴィヴィオは大丈夫かな?』

『もちろん大丈夫さ。きっと、なのはママが救出してくれるよ。絶対にね』

 

 ユーノは心配そうなアリシアに優しく言い聞かせる。

 彼の言う通り、やたらと強くなっているなのはならまったく心配いらない。しかし、常識の範疇にいる他の隊員は厳しいかもしれない。強力な戦闘機人に加えて大量のガジェットドローンも相手にしなければならないので、戦力を分散された彼女たちが勝利するのは至難の業となるだろう。最悪の場合は犠牲者が出ることも覚悟しなければならない状況だった。

 こんな時にシロンがいれば……。みんなの話を黙って聞いていたアルフは、苦しい戦いを強いられているフェイトたちを心配しながら思った。

 

『……シロンがいれば、あんな奴らなんて軽くぶっ飛ばしてくれるのに!』

「確かにその通りですけど~、主人公は遅れてやってくるってのがお約束だからしょうがないニャ」

『ははっ、アイツならそう言いそうだね………………っていうか、シロンじゃないかー!?』

『『『なんだって!?』』』

 

 アルフの言葉に驚いて通信画面を食い入るように見つめると、プレシアの背後にシロンの姿が写っていた。他の面子もすべて揃っており、地球にいるはずのすずかとアリサの姿も見える。

 

「あの、プレシアさん。ご無沙汰してしまってすみません」

「なんか、しばらく来ない間にとっても大変なことになってるみたいで……」

「ふふ、そんなことは気にしなくてもいいのよ。あなたたちにとっては勉強の方が大切なんだから」

『って、そんな話してる場合じゃないでしょ! なんで私より先にシロンちゃんと会ってるのよ!』

『君の話もすごく場違いだよ!?』

 

 アリシアとユーノは予期せぬシロンの登場に驚いてアホな会話をしてしまった。 

 実を言うと、シロンたちは数時間前にこちらの世界へ戻ってきていた。たくさんのお土産を持ってきた彼らは、とりあえず10年前から拠点としている月村邸へと戻ってすずかたちとの再会を喜びあっていたのだ。

 シロンがいない間、すずかたちは学業に専念していたので、今回の事件に気づいていなかった。それに加えて、連絡せずに顔を出して驚かせてやろうというシロンの思いつきを実行したため、ミッドチルダにやって来るのが遅くなってしまった。

 いずれにしても、予想外の騒ぎでサプライズどころではなくなった。

 こんな異常事態が起きているなどまったく知らなかったすずかとアリサは当然ながら驚いた。なのはやプレシアたちが一般人の2人に気を使ったからだが、MS少女に変身できない状態では知らせたとしても見守ることしかできなかっただろう。プレシアと話していた2人はその事実に気づき、何となく申し訳ない気持ちになってしまう。

 しかし、基本的にのーてんきな他の面子は特に変化が無かった。

 

「わざわざ我が出向いてやったというのに、これほど無様な醜態を晒していようとは。恥を知れ、俗物ども!」

「無軌道な若者たちの暴走ですか。まったく、嘆かわしい世の中ですね」

「でもでも、すっごく楽しそう! ボクの魔力がビリッと光る! 参加したいと轟き叫ぶぅ!」

「もう、不謹慎ですよ、レヴィ!」

 

 ユーリと楽しい仲間たちの様子は4年前とちっとも変わっていなかった。

 そして、彼女たちの傍にいるシロン一味も相変わらずハジケていた。というか、サッカーボールを弾いていた。

 

「HAHAHA! どうだい、我輩のリフティングは! 翼君も脱帽ものだぜ?」

「わぁ~、シロンお兄ちゃん、すごーい!」

「無駄に器用なところがマスターらしいですね」

 

 世界が危機に瀕しているというのに、のん気にボール遊びをするマイペースなシロン。そんな彼の周りにはセフィとグラハム一家がおり、いつも通りの会話をしていた。

 

「もはや自分でも何回続けてるのかわからぬほどニャ」

「正確には、今ので182回目だと言わせてもらおう!」

「数えていたのですか……流石です、グラハム!」

『あんたら、こんな状況でなにやってんのー!!?』

 

 向こうの世界でサッカーのワールドカップを観戦していた彼らは、素人が陥りがちな【にわかファン】となっていた。しかし、にわかだけに熱が冷めるのも早い。

 

「サッカーはもういいや! 次は野球で盛り上がるとするかニャ!」

『飽きるの早いし、乗り換えも早っ!』

 

 久しぶりにユーノのツッコミが冴え渡る。よく見ると、彼の表情は心なしか満足げだった。

 とはいえ今は世界が危機に瀕している状況だ、シロンのおバカに付き合う前に色々とやるべきことがある。結婚して2児の父親となったクロノはとっても大真面目だった。

 

『おい、今はそんなことやってる場合じゃないだろ! 世界の命運を賭けた非常事態が起きているんだぞ!』

「おう、クロノワールシュヴァルツ・シックス! 結婚おめでとう! 後でご祝儀持ってくから期待して待ってろニャ!」

『あ、ああ、帰ってきて早々に気を使わせて悪いな………………じゃなくて、今はふざけてる場合じゃないと言ってるだろうが! あと、僕の名前はクロノ・ハラオウンだ!!』

 

 結婚話を持ち出されたクロノは、照れ隠しも手伝ってかノリツッコミをしてしまう。その様子だけで判断すると『余裕あるじゃん』と逆につっこまれてしまいそうだが、彼の言うように緊急事態なのは確かだ。もちろん、やってきたばかりのシロンたちもその辺は理解しているので、そろそろちゃんと話を聞くことにする。

 シロンの考えとしては、こちらの世界の力だけで解決できるのならその方がいいと判断していた。だからこそ、わざとふざけてクロノたちの様子を伺っていたのである。

 どうしてもシロンの力が必要だとしたらもっと必死に頼んでくるはずなので、その時は親身になって聞いてやろうと決めていた。そう思ってしばらく観察してみたところ、どうやらそこまで思いつめてはいないようだ。これまでのやり取りから判断すると、自力で解決できる可能性はあるのだろう。

 しかし、事件の首謀者であるスカリエッティの説明を聞いた途端に気持ちが変わった。自身の子供とも言える戦闘機人に悪事をやらせ、拉致した少女たちを洗脳して無理やり戦わせていることが非常に気に食わなかったのだ。

 

「あんのビチグソがァー!! 可愛い女子を自分好みに調教するとか、胸アツすぎて超許せん!! この我輩ですらやったことないのにぃー!!」

「怒るとこが違うでしょ!?」

 

 シロンは、エロゲーのような変態行為をやっている(と勝手に決め付けている)スカリエッティに激怒した。しかし、実際に戦闘機人たちの体内には彼のクローンとなる【種】が仕込んであるので、シロンの妄想もあながち間違っていないところが恐ろしい。しかも、戦闘機人の中には小学生みたいな子までいるのだから、スカリエッティの変態っぷりは本物だ。

 ようするに、ヤツはシロンの大好きな美少女たちの尊厳を踏みにじっているのだ。

 そうと分かれば流石に放っておくわけにはいかない。紳士であるシロンが、少女たちのピンチを見過ごせるわけがなかった。

 

「とゆーわけで、我らソレスタルビーイングは、スカリエッティに対して武力介入を決行する!」

「動機が不純すぎてイマイチ乗り切れないわね……」

「うん、そうだね……」

 

 アリサとすずかは、妙にやる気を漲らせているシロンに向けて不審そうな視線を向ける。とはいえ、なのはたちの手助けをすることには大賛成だ。今ならシロンに返してもらった新型デバイスがあるので、戦闘機人とも対等以上に戦える。だったら、行くしかないだろう。

 もちろん、ユーリたちもシロンの意見に乗っかる気だ。

 特に、好戦的なマテリアル娘たちは小躍りしそうなほどに喜んでいる。

 

「ふっふっふっ! ようやくだ! ようやく塵芥どもに偉大なる我らの力を見せ付ける時がきたぞ!!」

「ボクらの最強伝説が今始まる! 強くてキュートで勇ましい、レヴィちゃんの出撃だー!!」

「僭越ながら、私の炎熱魔法で祝いの花火を打ち上げて差し上げます。戦闘機人という大玉ならさぞかし綺麗な花を咲かせることでしょう」

「みなさんやる気満々ですね! よーし、私もシロンにナデナデしてもらうためにがんばりますよー!」

「あんたたちも目的間違えてるわよ?」

 

 よくよく聞いてみたら思いっきり私情で動いていた。それでも大きな戦力には違いないので好きにさせておく。

 後は、最古参の仲間であるグラハムとリニスの意見を聞くだけだ。

 

「もちろん2人も賛成ってことでいいよニャ?」

「ふっ、おかしなことを言う。軍人に戦いの是非を問うとは、とってもナンセンスだなぁっ!」

「当然ながら私も同意します。この子のためにもあんな男を野放しにはできません!」

「よろしい、ならば戦争だ! 歓喜の砲撃戦を、愉悦の白兵戦を、愛すべき狙撃戦を、生ある限り全力で楽しもうではないか!」

「性格変わりすぎ!?」

 

 どっかの狂った少佐殿みたいなことを言い出したシロンは、いよいよ戦う覚悟を決めた。既に人間形態になっているので準備は万全だ。

 他の面子もそれぞれ準備を進めており、リニスは娘のアルマをプレシアに預けていた。

 

「それではプレシア、この子をよろしくお願います」

「ええ、任せてちょうだい。お婆ちゃんがあなたを守ってあげるわ」

「ん~? お姉ちゃんが私のお婆ちゃんなの?」

 

 4年ぶりにプレシアを見たアルマは彼女のことを覚えていなかった。最後に会ったときはまだ2歳だったので仕方ない。まぁ、プレシアの見た目が若すぎてお婆ちゃんに見えない点にも問題があるのだが。

 

「ふふっ、お姉さんだなんて嬉しいことを言ってくれるわね。お礼ってわけじゃないけど、おいしいお菓子をあげるから、こっちにいらっしゃい?」

「はーい!」

 

 素直なアルマは、嬉しそうにプレシアの元へ駆け寄っていく。そんな心温まる光景をリンディとクロノは穏やかに見つめた。

 思えば、地球を滅ぼそうとしていた彼女がここまで丸くなるとは、一連の事件に関わった身としては感慨もひとしおだ。

 

『アルマちゃんもすっかり大きくなったわね』

「そうね、あれからもう4年も経っているもの」

『ほんと、時間の経過を強く感じるわ。息子が結婚したと思ったら、あっという間に孫が生まれてお婆ちゃんになっちゃったし』

「なに贅沢なこと言ってるのよ。私も早くアリシアとフェイトの子供が見たいわ」

『うきゃー!? こんなところで恥ずかしい話しないでぇー!!?』

 

 リンディと母親の会話をしていたプレシアは、アリシアとシロンに向けて意味ありげな視線を送る。

 彼女としては、恩人であるシロンと娘たちが付き合うことに異論は無い。それどころか、彼が公言しているようにハーレムでもいいとさえ思っていた。なぜなら、彼に好意を寄せている少女たちがそれを認めているからだ。一番になろうとはしているけど、独り占めしようとは誰も思っていない。それほどまでに彼女たちの心はシロンを中心として深く結びついていた。

 普通なら有り得ない現象だが、シロンならばいいのではないかと思えてしまう【なにか】がある。そんな気がしてならなかった。

 

「(まぁ、重婚を可能にする手段はいくらでもあるし、あの子たちが望むのならそれでも構わないわ)」

 

 ケット・シーは元々人間だったので、純粋な人間と結ばれることもできる。しかも、その組み合わせで生まれる子供は、猫耳としっぽのない普通の人間となるらしい。それならアリシアたちと一緒になってもまったく問題は無い。恐らくは、近いうちに新たな孫たちと出会えるだろう。それは、普通の母親に戻ったプレシアにとって一番楽しみなことだった。

 

「ふふふ……今の内に名前を考えておこうかしら?」

「おおう!? 何やらとっても悪寒がするニャ!」

『わ、私も同じく……』

 

 プレシアからのプレッシャーを感じてシロンとアリシアが身震いする。確かに、2人の息は合っているみたいなので近いうちに孫が生まれるかもしれない。

 ただし、その幸せを享受するには、現在起きているこのバカ騒ぎを収めなければならない。

 ようやく本気モードとなったシロンは、クロノからなのはたちの状況について詳しく聞くと、速攻で戦力の振り分けを決めた。戦闘は広範囲に分散して行われているためこちらも分かれて行動するしかないが、みんな一騎当千の強者ばかりなので心配はいらない。

 それに加えて、今回は民間協力者という形で許可を取ってあるから堂々と暴れられる。後は、奴らに敗北という結果を与えるだけだ。

 

「でも、あんまり目立つと後々めんどいことになるからほどほどにね?」

「ふっ、案ずるな主様。あの程度の虫けらなど、ほどほどでも全滅できるからなぁっ!」

「私たちにとって、ついうっかり全滅させてしまったという話はよくあることです」

「そうそう、買い置きしてたお菓子とかアイスって、いつの間にか全滅してるよね!」

「それはレヴィが食いしん坊さんなだけですよ?」

「うん、君たちは我輩の話をまったく聞いていないねっ!」

 

 やたらと張り切っているマテリアル娘たちの様子を見てるとちょっとばかり心配な気もするが……何はともあれ、この世界で初となるソレスタルビーイングの武力介入が、今ここに始まろうとしていた。

 

 

【首都防衛戦・陸士108部隊】

 

 聖王のゆりかごが出現すると同時に、ミッドチルダの各地に作られた秘密基地から膨大な数のガジェットドローンが地上本部へ向けて侵攻してきた。それに対抗するため、管理局の各部隊は防衛ラインを構築して待ち構える。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐率いる陸士108部隊もその一翼を担い、ミッドチルダ北部に位置する廃棄都市区画で奴らと交戦していた。

 ジオニック社より貸与された傀儡兵を前面に押し出しつつ、魔導師たちの体力を温存しながら激しい戦闘を繰り広げる。今のところは五分以上の戦果が出ているが、物量差は依然として大きく、このままではいずれ瓦解してしまう状況だった。

 しかし、救いの女神は彼らを見捨てていなかった。混迷する戦場に、美しい光の粒子を舞い散らせながら戦女神が降臨したのである。

 

「あの光……あれがクロノ提督が送ってくれた援軍か!」

 

 ゲンヤは、ロボットのようなバリアジャケットを着込んだ2人の少女に目を奪われた。シロンの改造によってツインドライヴとなったデバイスを身にまとい、新型のMS少女となったすずかとアリサが救援に駆けつけてきたのだ。

 正体を隠すためにシロン特製の認識阻害魔法を使っているが、はやての勧誘によってソレスタルビーイングの一員となっているゲンヤには魔法の効果が出ないようになっている。

 

「ゲンヤ三等陸佐! クロノ提督の要請により、貴隊を援護します!」

「思いっきり暴れてあげるから、指示のほうはヨロシクね!」

「おうよ! 頼んだぜ2人とも!」

 

 この3人は既に知り合いなので、簡単なやり取りだけで話が通じた。戦闘経験の浅い彼女たちがここの担当になったのもそのためで、同じ理由で戦闘機人との対戦を避けたという事情もある。

 しかし、その心配は杞憂だった。

 新型デバイスによってダブルエックスとなったすずかは、ブランクなど感じさせない自然な動作でガジェットドローンを蹴散らしていく。夜の一族としての能力もあいまって、その実力は歴戦のなのはたちと肩を並べられるくらいになっていた。

 

「エネルギーチャージ完了! ツインサテライトキャノン、発射します!!」

 

 両肩に乗った2本の砲身から強力な砲撃魔法がほとばしる。なのはのディバインバスターを凌駕する砲撃魔法が同時に2射されているようなものなのでその威力は絶大だ。

 それでも、この砲撃は背後に装備されているCNドライヴから供給された魔力で放たれているため全力ではない。本来はミッドチルダにある2つの月に魔力供給用の転送装置を設置して絶大なエネルギーを受ける仕様になっている。

 もしその計画が実現した場合、完全稼動した聖王のゆりかごですら単独で破壊できる攻撃力を手に入れる事が出来るのだが、流石にそこまでやる気はない。現時点でも十分すぎるため、これ以上は必要ないからだ。

 

「す、すげぇ……たった一撃で空にいた奴らがほとんど消えちまったぞ!?」

「やるわね、すずか! 私も負けてられないわ!」

 

 親友の戦果に触発されたアリサは、攻撃力強化魔法【ハイパーモード】を発動する。改造された彼女のデバイスはシャイニングからゴッドへと進化し、大幅にパワーアップしていた。

 もちろん、日々の訓練によってそれを使いこなせるだけの実力を身につけていたおかげでもある。その結果、最強の格闘型デバイスを身につけた今の彼女は、正真正銘のモビル・ファイターとなっていた。

 

「私のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! ばぁくねつ!! 石破っ、天驚けぇぇぇぇん!!!」

 

 金色に輝く両手から膨大なエネルギーが撃ち出され、地上にいたガジェットドローンを周囲の建物ごと吹き飛ばしていく。まだ明鏡止水モード(トランザム)を使っていないので全力ではないのだが、それでも周りにいる武装局員の度肝を抜いた。彼女たちの力は、明らかにSランクレベルを超えているからだ。

 認識阻害魔法が効いていても、ここまでやったら流石に誤魔化しきれない。とはいえ、分かるのは恐ろしい強さを持った魔導師がいるということだけで、その姿ははっきりと認識できないため、局員たちは幻覚を見ているような気分に陥ってしまう。

 

「な、なんだあの威力は!? 高町教導官の砲撃魔法並みだったぞ!?」

「それより、あの魔導師はなんでバニーガールの格好をしているんだ!?」

「お前は何を言っている!? あれはどう見てもブルマをはいた女子高生だろ!」

「おい、ブルマってなんだ!? 俺にはスク水にしか見えないぞ!」

 

 すずかたちを見た局員達は、そろっておかしなことを言い出した。認識阻害魔法によって、彼女たちの可憐な姿が自身の記憶にある【美少女】像と置き換わってしまうため、正しく認識できないのだ。

 因みに、彼らの一部はシロンが持ち込んだ地球の文化に毒されているようだが、そこは目をつぶってあげよう。それが優しさってもんだ。

 

「まぁ、あいつらが混乱するのも当然だよな」

 

 ゲンヤも他の局員と同様に驚きを隠せなかった。もちろん見た目のことではなく、彼女たちの実力に驚愕したのだ。話には聞いていたが、まさか本当にSランク以上の魔導師がなのはたちの他にもいるとは思っていなかった。

 

「(まったく、とんでもない連中と手を組んじまったなぁ)」

 

 思わずゲンヤは苦笑してしまう。結局、今回の事件で管理局のやって来たことがまやかしだったと思い知らされたからだ。

 見てみろよ、これまでずっと見下して虫けらのような扱いをしていた連中のほうが、よっぽど強くてまともじゃねぇか。今に至るまでそれに気づかなかったなんて、地球出身のご先祖様に顔向けできねぇぜ。

 だからこそ、シロンやはやてと出会えたことに強く感謝していた。愛する女房を助けてもらい、娘たちも彼らを気に入っている。そんな連中を嫌いになんかなれるはずがない。

 確かに彼らはこちらの法律で言う違法行為をしているが、それらはすべて先に手を出した管理局から身を守るためであって、納得できる正当性がある。そもそも管理局の作った法律そのものが狂っているのだから、彼らを断罪できる者などこの世界にはいないだろう。

 

「(しかも、今日からは世界を救ってくれた大恩人だしな)」

 

 ゲンヤは、敵の第一波を撃退してハイタッチしているすずかとアリサを眩しそうに見つめると、管理世界の住人を代表して感謝の言葉を送った。

 

「ありがとよ嬢ちゃんたち! これで大分楽になったぜ!」

「このぐらいどうってことないわよ。と言いたいところだけど、まだ来るみたいね」

 

 そう言ってアリサが視線を向けた先には、敵の増援部隊がいた。すずかたちに対抗するため第一波以上の戦力を送り込んできたらしい。しかも、増援がこれだけいるということは、本命のゆりかご周辺で戦っているはやてたちはもっと苦戦していることになる。

 

「こいつはやべぇな。八神たちは大丈夫なのか?」

「ふふ、心配いりませんよ。はやてちゃんたちのところには、私たちより頼れる仲間が向かっていますから」

「なんだって!?」

 

 この2人よりも強い奴らがいるというのか?

 シロンやグラハムのことを言っているのか、それとも何度か会ったことのあるマテリアルとかいう娘っ子たちのことか分からないが、どちらにしても冷や汗が出るような話だ。

 

「(こいつらが敵じゃなくて本当によかったぜ……)」

 

 この時ゲンヤは、頼もしい希望を得たのにも関わらず表情を引きつらせるのだった。

 

 

【聖王のゆりかご外部】

 

 ミッドチルダ東部に広がる森林地帯から出現した聖王のゆりかごは、近隣の大都市上空を堂々と通過して、海上に出たところで緩やかに上昇を始めた。武装や防御シールドはまだ完全に使えないようだが、その代わりにお馴染みのガジェットドローンが大量に襲いかかってきた。

 それに対する管理局は、雲海上まで昇ってきた聖王のゆりかごに向かって突入作戦を敢行する。突入隊の主力であるなのはとヴィータは既に侵入しており、外部に残ったはやては、副官のアインスと航空魔導師隊を率いてガジェットドローン相手に奮戦していた。

 

「くっ、なんて数なんや!」

「これでは広域攻撃魔法を撃つ隙もない!」

 

 はやてたちは、ガジェットドローンの地上侵攻を防ぐため聖王のゆりかごから射出される敵勢力を削っていた。しかし、圧倒的な物量で押し切られて十分に防衛線を守ることができず、これまでにかなりの数を取り逃している。魔力のリミッターは解除してあるとはいえ、物量差がここまで大きいと総合SSランクといえど厳しかった。

 はやてたちが知る由も無いことだが、この歴史のスカリエッティは、シロンの特訓によってやたらとパワーアップしていたなのはを警戒して念入りに戦力を整えていたのだ。そのせいで、せっかく採用した新型デバイスのアドバンテージもほとんどチャラになってしまっていた。小型ハロによるサポートのおかげで負傷率は減ったものの、相手の数が増えたせいで撃墜率が下がっているからだ。

 

「ああ! ジャン・ルイがやられた!」

「落ち着けジーン! 指揮を引き継げ!」

「ま、待て! 俺はまだ戦えるぞ!」

「ああ! ジャン・ルイが生きてた!」

 

 なのはが育てた地上本部のエース部隊も健闘しているが、数の暴力によって押され気味だ。

 

「八神部隊長! 右舷射出口より、さらに百機以上の小型機が出現しました!」

「総員、対空警戒を厳となせ! 囲まれたらあかんよ!」

「「「了解!」」」

 

 状況を報告されたはやては、すぐさま注意を呼びかける。

 この戦場には特殊なAIを試験的に搭載したツノ付きの機体が少数混ざっており、それらの指揮によって戦闘能力が向上していた。それは、スカリエッティが小型ハロに対抗して作ったもので、同じ科学者として一目置いているプレシアと真っ向から勝負するために用意したものだ。実際はシロンが作ったものであり、真相を知らない彼は勝手に間抜けな競い合いをしていただけなのだが。

 いずれにしても、追い込まれたこの状況で雑魚敵が手強くなったことは間違いない。予想以上の危機的状況に、流石のはやても愚痴をこぼしてしまう。

 

「まったく、ゲームの雑魚キャラみたいにワンサカ湧いてきよって! 無限やったらホンマまいるで!」

「主はやて、この状況でその言葉は洒落になりませんよ?」

「そ、そうやね……」

 

 くだらない冗談を言って気分を紛らわそうとしたはやては、アインスに注意されて反省した。確かに、逆効果すぎる内容だった。無限なんてことは有り得ないとしても、実際に似たような状況なので嫌な気分になるだけだ。

 

「ダメやダメや、こんなんじゃシロンに笑われてまう!」

 

 少しだけ弱気になったはやては、シロンのことを想った。

 こんな時、シロンだったらどう考えるだろうか。オッパイ好きの彼のことだから、淫らな妄想を膨らませて沈んだ気分を盛り上げるに違いない。

 

「あの敵が全部美女やったらオッパイがイッパイやで~、とか言うてな!」

「残念ですが、否定できませんね……」

 

 割とありそうな予想を口にする。自身もオッパイ好きなせいか、妙に納得顔なのがちょっぴりイタイ。周りに聞いている人間がいなくて本当に良かった。

 と思ったら、不運にも1人の少女に聞かれてしまっていた。

 

「あの~、オッパイがイッパイって何のことですか?」

「「ぎゃぴっ!!?」」

 

 突然声をかけられた2人は、ビックリしておかしな叫び声を上げた。自分たちの背後を簡単に取るとは一体何者だと警戒したものの、聞き覚えのあるおっとり声だと気づき、まさかと思いながら視線を向ける。するとそこにはユーリがいた。紫天装束を身にまとい、真紅の魄翼を広げた勇ましい姿で救援に駆けつけてくれたのだ。

 はやてにとっては頼もしい仲間の登場だった。しかし、例の認識阻害魔法のおかげで他の局員には別のナニカに見えていた。

 

「おい、あの神々しい美少女はなんだ!?」

「八神部隊長と会話しているから恐らく味方なのだろうが……それにしても美しい」

「まるで、戦場に舞い降りた天使のようだ!」

「えへへ~、天使だなんて言われると照れてしまいますね」

「って、のん気に照れてる場合じゃないやろ!」

 

 何やら焦った様子のはやては、頭に手を当てながら照れているユーリに鋭いツッコミを入れる。別に自分が【小鴉】だの【タヌキ】だの【おっぱいマニア】だのと言われていることに対する不満をぶつけているわけではない。今はそんなことより気になることがあった。

 そうだ、シロンと共に並行世界に行っていたユーリがこの場にいるということは……。

 

「ようやく戻ってきたのだな!?」

「はい、5時間ぐらい前に戻って来ました。たくさんお土産を持ってきましたから、楽しみにしててくださいね!」

「あ~、うん、気ぃ使うてくれてありがとな~……じゃないやろ!」

 

 はやては、ユーリの代わりに近くにいたガジェットドローンへ激しいツッコミを入れた。

 

「お土産はともかく、シロンもここに来てくれてるんか?」

「いいえ、シロンはスカリエッティとかいう変態さんをオシオキしにいきました」

「オシオキって……一体何をやらかす気なんや?」

「それは私にも分かりませんけど、こっちは私たちに任せてください!」

「私たちということは、他にも誰か来ているのか?」

「はい、既にあの船の中へ突入しています。聖王と魔王を同時に倒して優越感に浸りたいようですよ?」

「ははぁん、誰が来たのかまるっと分かったわ」

 

 シロンの仲間でそんなことを考える奴はあの子しかいない。はやては、自分にソックリな少女が高笑いしている姿を思い浮かべてため息をついた。

 それを隙と見たのか、ガジェットドローンの団体が彼女たちに襲い掛かってくる。戦闘中だというのに少しのんびりしすぎたようだ。

 

「とりあえず話は後や! 今はこいつらを殲滅するで!」

「了解しました、主はやて!」

「お持ちくださいアインスさん。ここは私にお任せください」

「えっ?」

「それではっ! ユーリ・エーベルヴァイン、行っきまーす!!」

 

 アムロのようなセリフとともに前方へと躍り出たユーリは、こちらに向かってくるガジェットドローンの大群に向けて【エターナルセイバー】を放った。魄翼を変化させた超巨大な炎の剣を左右から挟み込むように振るい、雲霞のような大群を瞬く間に切り裂く。しかも、攻撃の効果はそれだけに留まらず、聖王のゆりかごの左舷に装備された対空レーザー砲までバッサリと裁断してしまった。

 

「なっ!?」

「なんやて―――っ!!?」

 

 はやてたちが驚愕する中、切り裂かれた左舷側が大爆発を起こして、そこにあるすべての兵装が使用不可能となった。永遠結晶エグザミアの力をフルに使うことができるようになったユーリは、たった1人で聖王のゆりかごと対抗できるほどのパワーを得ていたのである。今の彼女とまともに渡り合えるのはチート技を使えるシロンだけだ。

 ここまで来ると、頼もしいというより危なっかしい……というか、中にいるなのはたちが危なかった。いや、なのはだけはどうやっても死なないだろうが、ヴィータやヴィヴィオ、それに他の局員たちが危険だ。常識の範疇にいる彼らでは非常識な攻撃に耐えられないかもしれない。誰もがガンダムのように硬いわけではないのだ。

 

「ちょい待ちユーリちゃん! あれは流石にやりすぎやから!」

「え~そうですか? 認識阻害魔法があるから目立っても問題ありませんよ?」

「心配すんのはそこやないっちゅーねん!」

 

 どこまでものんびりマイペースなユーリには、部隊長の肩書きすらも形無しだった。こうなると、聖王のゆりかごに入っていったもう1人のほうも何をしでかすか不安になってくる。

 案の定、心配した途端に大きな爆発音が聞こえてきた。何事かと驚いて音源と思しき場所に視線を向けると、聖王のゆりかごの艦尾から爆煙が上がっていた。どうやら内部で強力な魔法を使ったらしく、黒い光が後部の推進機関を突き破って青空を走り抜けていく光景が見える。

 

「なななな、なんやアレ―――っ!?」

「凄まじい威力だが、あの魔法はまさか……」

「ふふっ、久しぶりの戦闘だから張り切ってるみたいですね」

「いやいや、微笑ましく見つめる場面じゃないやろ!」

 

 逃げ場の無い船内であれほどの魔法を使ったのなら、内部は大惨事になっていることだろう。というか、あれでは魔法を使った本人も巻き込まれているのではなかろうか?

 まぁ、撃った張本人のことは気にする必要などないかもしれないが、傍にいるであろう家族が心配だ。この時はやては、何ともいえない胸騒ぎを感じていた。

 

「ヴィータ……無事でいてな……いろんな意味で」

「大丈夫です。あんなポンコツ機械になんか絶対に負けませんよ!」

「ってか、君らの家族のほうが危険なんですけどねっ!」

 

 こんな時でもユーリはのんびりさんだった。

 そんな可愛らしい彼女を見つめながら、はやてたちは再びため息をつく。しばらく見ない間にこの子も随分大物になったものだが、これもすべてはシロンの仕業だろう。そして、聖王のゆりかごで暴れているらしいあの子も、やんちゃぶりに磨きがかかっているに違いない……。

 

「これは、後始末が大変そうですね……」

「言わんといて! 涙が出てきよるから!」

 

 助けに来てくれたことは嬉しいけど、厄介事まで増えたのはいただけない。部隊長としての責任があるはやてとしては何らかの見返りが欲しくなった。

 

「この事件が解決したら、た~っぷりとサービスしてもらわなアカンね。ふっふっふ~」

「まったく、そんなだからタヌキなどと言われるんですよ……」

「へぇ~、はやてさんはタヌキさんなんですか~。ところで、タヌキってなんですか?」

 

 何やらよからぬことを思いついたらしいはやては、アインスたちの視線を気にすることなくいやらしい笑みを浮かべる。この後彼女は迷惑をかけたシロンに大人のデートをねだり、それを見て羨ましがった他の少女たちと揉めることになるのだが、結局いつものことなのであえて記す必要も無いだろう。

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