魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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第17話 圧倒的じゃないか、我が軍は【StrikerS2】

【聖王のゆりかご内部・駆動炉】

 

 はやてたちの援護を受けて聖王のゆりかごに取り付いた突入部隊は、外部装甲が損傷している場所を見つけた。先の大戦で破損した箇所が修復されずに放置されていたものだが、現在の技術で元通りに直すのは難しく、完全稼動すれば自動修復システムで直せるだろうと最高評議会やスカリエッティは放っておいた。

 しかし、その余裕が付け入る隙となった。

 【最後のゆりかごの聖王】と呼ばれる【オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】が、戦乱の終結と同時に船の終焉を望み、あえて残していった小さな損傷。それが、600年の時を経て【子孫】を救う手助けになろうとは、オリヴィエ本人ですら予想もしていなかったことだった。

 もちろんそんな大昔の出来事など戦場にいる誰にも分からないことだが、いずれにしても、この好機を逃す手は無い。

 

「マッドアングラー隊に回されて早々に戦果を出せるか、私は運がいい」

「おお~、運勢まで味方につけるとは! 流石です、ニシズミ殿!」

「まぁそれはいいことだが……何かニシズミさんの性格、変わってないか?」

「え~、ミポリンは前からこんなじゃなかったっけ?」

「きっと、ミホさんが隊長として成長しているからそう感じるのですよ」

 

 何やら思いもかけない出来事に管理局側も途惑っている様子だが……とにもかくにも、ここから本格的な反攻が始まる。その先鋒を務めることになった砲撃部隊、通称【あんこうチーム】は、自慢の砲撃魔法による集中砲火で破損部を広げて侵入口の確保に成功した。そこに突入部隊の主力を担うなのはとヴィータが到着し、侵入口を防衛している局員らに敬礼しながら内部に入っていく。

 一応突入部隊と呼称しているが、現時点の人数はなのはたちを除いて20人程度でしかない。その面子にしたところで、2人の帰ってくる道筋を確保しておく程度のことしかできない。AMFの影響下でも戦えるほど優秀な局員は非常に少なく、そのほとんどが首都防衛に回されているため、2人について行ける者は1人もいない状況だった。

 現在、別の世界から緊急召集している精鋭部隊は、到着するまでに40分もかかるので当てにはできない。ゆえに、今はなのはとヴィータに任せるしかなかった。

 

 

 ゆりかご上部の中央付近から入り込んだなのはたちは、機動六課の仲間が目標の正確な位置を把握するまで一緒に進んだ。シロンの特訓を受けたなのはは高性能な探知魔法を使えるのだが、それを使うには【切り札】を出す必要があるため今は自重していた。

 何が起こるかわからない現状では、まだアレを使うわけにはいかない。いざと言う時は、アレでこの船を破壊しなければならないのだから。

 もしそうなったら、ヴィヴィオの身がどうなるか分からないが……そうなる前に何とかしてみせる!

 

「(大丈夫、私には頼れる仲間がいるんだから! みんなで協力すれば上手くいくよ!)」

 

 そんななのはの想いは届き、しばらく後にアースラから必要なデータが送られてきた。

 しかし、その内容は望みとは異なっていた。お互いの目的地が真逆だったのだ。切り札を持っているなのははともかく、既に消耗し始めているヴィータを1人で行かせるのは非常に危険だ。それでも、時間が無い現状では他に選択肢など無かった。

 

「気をつけて、ヴィータちゃん! 絶対に合流してみんなで帰ろう!」

「ったりめぇだ! すぐにそっちへ行ってやるぜ!」

 

 2人はお互いに気遣いながら二手に分かれた。ヴィヴィオを救助する役目を受けたなのはは艦首にある王座の間へ向かい、駆動炉の破壊を目的としているヴィータは艦尾へ突進していく。

 

「こんなガラクタ、さっさとぶっ壊してやる!」

 

 ヴィータは、相棒のグラーフアイゼンを握り締めながら叫んだ。ようやく手に入れた幸せをこんな骨董品ごときに壊されてたまるか。絶対にあたしたちの手で守り抜いてみせる。

 大切な家族と仲間の笑顔を思い浮かべたヴィータは改めて決心を固めた。

 だが、その矢先に厄介な敵が現れた。ゆりかご内部にもガジェットドローンが出現し、彼女の進行を妨害し始めたのである。

 

「ちぃ! あたしの邪魔をすんじゃねーっ!」

 

 広い通路には防衛用のガジェットドローンが多数配備されており、先に進もうとするたびに無駄な戦いを強いられた。目標である駆動炉を破壊するために必要な魔力は確保しなければならず、残り少なくなったカートリッジを気にしながらの苦しい行軍となった。

 とはいえ、実戦経験豊富なヴィータの実力も伊達ではない。それほど大きな怪我も受けずに目標の近くまで到達できた。

 つい先ほど送ってもらったデータによれば、もう少しで駆動炉のある区画に辿り着く。あとはそこで思いっきり暴れてやればいいだけだ。

 

「大丈夫、楽勝だ」

 

 残り4つとなったカートリッジを握り締めながら、自分に言い聞かせるように強気な言葉をつぶやく。

 そうだ。楽勝でこの事件を解決して、はやてたちと祝勝会をして、帰ってきたシロンに自慢話をしてやるんだ。そしてお祝いに……デートしてもらおっかな。そのくらいならおねだりしてもいいだろう。どうせまた「我輩はロリコンじゃねー!」とか言いだすだろうけど、4年経って部下も大勢できた今なら大人だと言い張っても説得力はあるはずだ。見た目以外はという条件付だが。

 

「ふふん。今に見てろよ、シロン! 色々と勉強して身につけた大人の色香を存分に味あわせてやるぜ!」

 

 あくまでジャスティス(ロリ否定)を守ると公言しているシロンに対して密かにリベンジの機会を狙っていたヴィータは、場違いな気合を入れる。セフィがユニゾンデバイスになって積極的なアピールを始めたおかげで、彼のジャスティスも揺らぎ始めているため、ヴィータにもチャンスが到来してきたのだ。

 この戦いが終わったら本格的に計画を練ろう。ヴィータは、自身の心を鼓舞するように決意した。

 そんな浮ついた思考が油断を生んだのか、この時の彼女は背後に忍び寄る敵に気づいていなかった。多脚生物のようなガジェットドローンIV型が光学迷彩を使って接近していたのだ。そして、装備されている鎌でヴィータの胸を貫こうとした。

 どう考えても回避不可能な状況であり、万事休すかと思われた。しかしその時、救いの女神が現れる。1人の魔法少女から放たれた魔法弾が後方から降り注ぎ、ガジェットドローンIV型を破壊したのだ。

 

「うわっ、なんだ!?」

 

 急に後方で起きた爆発によって吹き飛ばされたヴィータは、驚きながらもすばやく体勢を整え視線を向けた。するとそこには三対六枚の翼を持ったショートカットの美少女がいた。

 その姿を爆煙の中に見たヴィータは、愛すべき主が助けに来てくれたのかと思ったのだが……良く見ると微妙に違う。というか、まったくの別人だった。

 

「ふっははー! 小鴉かと思うたか? 残念、ディアーチェ様であるぞ!」

「やっぱりお前かー!?」

 

 相変わらずやたらと偉そうなディアーチェに対して、不覚にも懐かしさと嬉しさを感じてしまう。傲慢な態度は4年前と同様にアレだが、助けに来てくれたのは確かだ。しかも、彼女がいるということはアイツも帰ってきたということになる。それを喜ばずしてどうする。

 

「そうか、シロンの奴、ようやく帰ってきたのか!」

 

 ヴィータは、嬉しさのあまりこれまでの疲れも消し飛んで笑顔になった。長らく離れ離れになっていた好きな相手とようやく出会えるのだから当然だろう。しかし、愛するシロンと同じくらい自分が大好きなディアーチェとしては、先ほどの救出劇を無視してニヤニヤしているヴィータの態度が面白くなかった。

 

「ふんっ! 貴様の気持ちは分からぬでもないが、命の恩人たる我を敬うほうが先であろうが! このうつけ者め!」

「ははっ、今ならお前の憎まれ口も楽しく感じられるぜ!」

「おのれ~! 赤子のクセに我を愚弄しおって~!」

「おいコラ、赤子ってなんだよ!?」

「赤くてお子様なのだから、赤子で合っておろうが。何なら我の乳でも吸わせてやろうか?」

「やっぱ、すげームカツク!」

 

 仲がいいのか悪いのか、再会して早々にじゃれあう2人だった。

 しかし、いつまでものん気な会話を楽しんでいる時間はない。ガジェットドローンIV型の大群が2人にめがけて突進してきたのだ。

 

「あいつら、何匹出てくりゃ気が済むんだ!」

「ええい、目障りなガラクタ共め! 聖王と魔王を同時に倒して一気に天下を取るという我の計画を、貴様らごとき有象無象に邪魔されてなるものかー!!」

「って、そんなこと考えてたのかよ!」

「当然であろう! 我を差し置いて王を名乗るなど無礼千万! 闇統べる王たるディアーチェ様がそのような愚行を許しておけるか!」

 

 今のセリフは彼女の本音だった。先に駆動炉の方へ来たのは、シロンにお願いされたからにすぎない。それさえ破壊すれば死人が出ない程度に暴れていいとお墨付きをもらっているため、彼女は気がはやっていた。あんな雑魚にいちいち構っていたら、なのはと聖王の戦いが終わってしまうではないか。

 

「ならば、駆動炉もろとも一気に蹴散らしてくれるわ!!」

 

 元々短気なディアーチェは、やたらと張り切りすぎていたせいか一気に勝負をつける気になった。

 シロンに渡されたカードを使って、CNドライヴを搭載した魔力供給装置【CNジェネレータービット】を4基も展開し、膨大な魔力を砲撃魔法に込める。リンカーコアを酷使することのないこのシステムなら、身体にかかる負担も少なく限界を超えた魔法を使える。さらに、使用する砲撃魔法自体も新たに身につけた代物で、闇系統に属する非常に強力な重力魔法だった。

 

「紫天を走れ、我が覇道、砕け超重、グラビティブラスト!!」

 

 ディアーチェは密かにシロンが作っていた魔法を4年の間に習得し、初めて実戦で使用した。機動戦艦ナデシコの主砲を模したそれは、彼女の正面に展開されていた環状魔法陣から撃ちだされた。激しい電光を纏った黒い光が、射線状にあるものを周囲の構造物ごと破壊していく。通路を埋め尽くしていたガジェットドローンIV型の大群が一瞬で消し飛び、その先にある巨大な駆動炉まで呆気なく打ち砕いて、そのまま艦外に突き抜けていった。

 暴力的な力は一瞬で過ぎ去り、彼女たちは呆気なく目的を達成した。

 しかし、その直後に予期せぬ大爆発が起こった。周囲の構造体の中を循環していた高濃度の魔力が強力な砲撃に反応して誘爆したのだ。更に、それに巻き込まれて4基のCNジェネレータービットまで爆発してしまった。

 はっきりいってこれは誤算だった。ゆえに、ヴィータとディアーチェまで爆発に巻き込まれてしまう。

 

「「ぬわーーっっ!!」」

 

 まるでメラゾーマの直撃を受けたパパスのような叫び声を残して閃光の中に消えていく2人。 その十数秒後、ようやく静かになったその場には、サイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒れているヴィータとディアーチェの姿があった。流石の彼女たちもこれほど至近距離で大爆発を受けてはたまらない。こうなってはしばらく動けそうになかった。

 

「お、おのれ……偉大なる我に卑劣な罠をしかけるとは、なんとこしゃくなマネを……」

「た、単なる自爆だろーが……バカヤロー……」

 

 タフな2人は、倒れながらも仲良く喧嘩していた。しかもそれは、心配になったはやてがやって来るまで続くことになるのだった。

 

 

【首都防衛戦・エリオとキャロ】

 

 機動六課の新人として今回の作戦に参加していたエリオとキャロは、戦闘機人に奇襲されてスバルとティアナから分断されてしまった。彼女たちはそれぞれ因縁のある戦闘機人と交戦しており、フリードに乗って空中を飛んでいたエリオとキャロは【ガリュー】という名の召喚虫に襲われていた。

 この変身ヒーローみたいな格好の人型召喚虫は、キャロと同類の召喚士である【ルーテシア・アルピーノ】という少女が呼び出したものだ。その身に宿した特殊な力をスカリエッティに利用されている彼女は、半ば意識を操られたままエリオたちと敵対していた。

 だからこそなるべく傷つけたくはなかったのだが、事態がここまで悪化してしまっては全力で戦うしかない。

 覚悟を決めてフリードから降りたエリオはガリューの迎撃に向かい、空中を行くキャロはガジェットドローンに乗っているルーテシアと空中戦を繰り広げることになった。

 

「やめるんだ、我流! 闇の力を行使する者同士が争えば、時空の歪みを広げてしまう!」

「……?」

「このまま争いが続けばこの地は暗黒世界とつながり、常世の闇に支配されることになる……地獄の千年紀(ミレニアム)が始まるぞ!」

「???」

 

 4年経って中二病に磨きがかかっているエリオは、意味不明な言葉を投げかけてガリューを困らせていた。

 その光景を空から見ていたキャロは、ため息をつきつつもルーテシアと射撃戦を繰り広げる。召喚獣無しでの戦闘力は互角なようで、お互いに攻撃を当てた後に廃ビルの屋上へと着地して再び対峙した。

 

「教えて! あなたは何のために戦っているの?」

 

 キャロは、ルーテシアの存在を知ってからずっと気になっていた疑問を投げかけた。なぜ戦闘機人でもない彼女がスカリエッティの仲間をやっているのか。おおよその見当はついているが、聞かずにはいられなかったのである。あまりにも自分と似ている気がしたため、戦うよりも先に対話を試みてみたかったのだ。

 しかし、ルーテシアがその問いに答える前に邪魔が入った。聖王のゆりかごのコントロールルームにいる戦闘機人【クアットロ】が通信を入れてきたのだ。

 スカリエッティの因子を持っている彼女は非常に残忍な性格で、今回の作戦もサディスティックに楽しんでいたが、通信画面に映る表情はそれほど余裕があるようには見えない。

 その理由は、聖王のゆりかごが予想外のピンチに陥っているからだ。予期せぬ増援の登場によってあっけなく駆動炉が破壊されてしまったため、焦ったクアットロは今すぐ救援を欲していた。現在、彼女が自由に命令を出せるのはルーテシアだけなので、急いで連絡してきたのだ。

 

『はぁい、ルーテシアお嬢様! 唐突ですけど、少しばかり予定を変更することになりましたのでご連絡しまーす!』

「……予定変更?」

『はいそうです。詳しく説明するのもめんどくさいので、ちゃっちゃとそいつらをぶち殺して今すぐこちらに来てくださいな。もちろん、ガリューさんも一緒にね?』

「クアットロ……でも……」

『あー、迷っちゃってますのぉ? 無理も無いです。純真無垢なルーテシアお嬢さまに人殺しは似合いませんものねぇ。でも今はそんな甘っちょろいことを言っていられない状況なんですよー。というわけで、ポチッとな!』

 

 ルーテシアの逡巡を完全に無視したクアットロは、いやらしい笑みを浮かべながら手元にある鍵盤のようなコンソールを操作した。それと同時にルーテシアの様子がおかしくなり、【インゼクト】や【地雷王】といった多数の召喚虫を呼び寄せた。

 先ほどクアットロが行った操作は【コンシデレーション・コンソール】という洗脳技術を発動させるためのものだった。この状態にされてしまうと、理性を封じられて破壊衝動を止められなくなる。つまり、強制的にバーサーカーモードにされてしまったのである。

 

『さぁ、ルーテシアお嬢様。そいつらを全力でぶち殺してくださいな。でないと優しいお母さんに会えなくなりますよー?』

「この腐れ外道がっ!!!」

 

 限度を超えた卑劣さに激怒したエリオが通信画面に向かって怒鳴りつける。しかし、当事者のクアットロは、彼に対して見下すような笑みを浮かべるだけでまったく気にもしていない。

 あんたたちがどう思おうと私には関係ないわ。だってそうでしょ? 地べたを這いずり回る虫けらが牙を向けたって、ちっとも怖くないもの。ねぇ、ルーテシアお嬢さま?

 非情なクアットロは、仲間であるはずのルーテシアですら虫けらのように扱う。キャロたちを利用して偽りの憎悪を植え付け、彼女の心をより完全に支配するために。

 

「……インゼクト、地雷王、ガリュー……こいつら殺して…………殺して―――!!!」

 

 強引に精神を乗っ取られたルーテシアは、狂気を感じさせるような叫び声を上げた。この瞬間、スカリエッティの施した洗脳が機能して彼女を戦闘マシーンに変えてしまったのである。

 そう、それでいいのよルーテシアお嬢様。私の手駒として一生懸命戦いなさい……虫けらのように死んでしまうまでね!

 事態を悪化させた元凶であるクアットロは、エリオたちと戦い始めたルーテシアの様子を確認して満足そうにうなずくと通信を切った。

 

「あのメガネ女、闇の力に飲まれてしまったようだな……哀れな奴だ」

 

 人の形をして生み出されたのに人と相容れない存在にされてしまった彼女に同情する。せっかく対話できるというのに殺しあうことしか考えられないなんて、不幸以外の何者でもないだろう。この戦いが終わった後に心を入れ替えてくれることを願うばかりである。

 しかし、今はルーテシアと呼ばれたこの少女を止めることが先だ。エリオは、ガリューの攻撃を捌きながら現状の打開策を考えた。

 

「どうやら彼女は邪王影縛傀儡掌によって洗脳されてしまったらしい! あれを解くには、同質の力である邪王真眼の秘技をぶつけて対消滅させるしかない!」

「それってエリオ君の妄想でしょ!?」

 

 確かにその通りだが、こういう場合ショックを与えて気絶させる手段がもっとも有効なので、彼の中二病発言もあながち間違いではない。思わず正論でつっこんでしまったキャロも、その事実に気づいて何とか攻勢にでようとする。

 しかし、彼女たちが動き出す前に事態は急変した。どこからか放たれた電撃魔法がルーテシアとガリューに炸裂したのだ。

 

「うわぁ――!!?」

「!!?」

「なにっ!?」

「この電撃は、まさか……」

 

 キャロたちは、凄まじい威力の稲妻を目にした瞬間フェイトのことを思い浮かべた。しかし、今の電撃は黄色ではなく青白かった。ということは……。

 

「へへーん! オリジナルかと思った? 残念、レヴィちゃんでした!」

 

 やたらと楽しそうな声に反応してそちらに顔を向けると、ビルの給水タンクに立ってヒーローのようなポーズを決めているレヴィの姿があった。

 

「雷鳴響かせ、ボク登場!」

「「レ、レヴィさん!?」」

 

 意外な人物の登場に2人は驚く。彼女のバリアジャケットは子供の頃のレオタードっぽいデザインからそれほど変わっておらず、軍服のようなデザインに変更したフェイトとはだいぶ印象が違った。それでもやはり元が同じなので、キャロたちとしては頼もしい存在だった。

 

「やっと帰ってきてくれたんですね!」

「一日千秋の思いでお待ちしておりました!」

「うむ、寂しい思いをさせてすまなかったね、我がサーヴァントたちよ! でも安心するといい。今日からボクが君たちを守ってみせるさ。それが、遠い場所に行ってしまったオリジナルの意思だろうから……」

「って、なんですかその不吉な言い方は!? フェイトさんはすごく近くでがんばってますよー!?」

「そういうことじゃないんだよ、キャロ。闇に属する僕たち(中二病)は、光の世界にいる彼女(普通の人)と違う存在になってしまったんだ。つまり、僕たちの方こそがこの世界から排除されてしまった亡霊なのさ」

「悲しいけど、それが闇に生きる者の運命(さだめ)なんだ!」

「あーん、話がまったく通じない!」

 

 中二病が増えてキャロの気苦労も倍になった。実を言うと、レヴィも重度の中二病だからだ。カッコイイ漢字ばかりの技名を見れば一目瞭然である。

 とはいえ、その点は普通の魔法もあまり変わらないので、魔導師であるキャロが中二病を気にするのは無意味なのだが。

 

「はぁ……」

「ん? どーしたんだい、キャロりん?」

「いいえ、なんでもありません。それより今はルーちゃんたちを助けなきゃ!」

 

 キャロは本来の任務に戻ることでおバカな悩みを忘れることにした。

 こちらの方に関しては大体解決しており、レヴィの奇襲によってルーテシアは気絶しているので、後は呼び出されている召喚虫たちを無力化すれば万事解決である。でもその前に、ルーテシアの様子を確認しておいたほうがいいだろう。

 そう思って視線を向けると、気絶しているかと思われたルーテシアがふらつきながらも立ち上がっていた。レリックウェポンの名は伊達ではなかったらしく、魔法に対する抵抗力が強かったようだ。それでも、やっと立っているような状態なので、これ以上の戦闘継続は難しそうに見えた。

 しかし、洗脳によって自身の限界を超えた行動を強いられている彼女は止まらなかった。

 

「い……いや……寂しいのはもういやだ……一人ぼっちは、いやだ―――!!!」

 

 追い込まれた彼女は魔力を振り絞って【究極召喚】を行った。すると、彼女の後方上空に巨大な魔法陣が現れ、そこから人型の巨大怪物【白天王】が呼び出される。体長が15メートルもあるそいつは、もはや生物と言っていいのか分からないほどに異様な存在だった。というか、出てくる作品が違うだろとツッコミを入れざるを得ない容姿だ。

 とはいっても、出てきてしまったものは仕方がない。虫だからといって無視して逃げるわけにもいかないので、ここで何とか対処するしかなかった。

 もちろん、そう判断したのは勝ち目があるからだ。都合のいいことに、キャロもあれと同じような力を持った【ヴォルテール】という真竜を召喚できるので対等以上に戦える。ならば、全力で立ち向かうべきだろう。

 生まれ故郷を追い出された原因であり、強大すぎるその力に怯えていたキャロだったが、覚悟を決めて召喚準備に入ろうとした。しかし、それはレヴィによって止められる。実は彼女もディアーチェ同様にやたらと戦いたがっていたのだ。

 

「ちょーっと待った! ここはこのボク、レヴィ・ザ・スラッシャーに任せてくれたまえ!」

「えっ?」

「モビルアールヴ相手に鍛えたこの力、今こそ見せる時が来た!」

 

 なんとレヴィは、マスターアジアのように生身でモビルアールヴと戦っていたのだ。とにかく強い相手と戦うことが好きな彼女は、異世界で出会ったモビルアールヴを気に入って何度も戦闘を繰り返した。風車に戦いを挑んだドン・キホーテのようにアホの子である。しかし、大きさで言えば白天王と同規模なので、特訓の成果とやらは見せることができそうだ。

 しかも、今はシロンにもらった切り札もある。

 

「見るがいい! これが限界を超えた絶対勝利の力だぁ!!」

 

 そう言って取り出したカードを頭上にかざすと、CNジェネレータービットが2基現れた。それはディアーチェが使ったものと若干違って、1基のCNジェネレータービットに4基の【CNコレダービット】が搭載されているレヴィ専用のものだった。

 荷電粒子加速装置であるCNコレダービットは、レヴィの電撃魔法の効果を増幅させる機能がある。目標の周りに配置して特殊な結界を形成し、回避不可能な電撃の嵐を相手に食らわせるのだ。

 そして、それらは既に白天王の周囲に展開させている。後は新たに開発した魔法をぶち込むだけだ。

 

「いくぞ! パワー極大! 雷神爆殺激竜波!!」

 

 レヴィは、竜の形をした巨大な電撃を九つ放った。ぶっちゃけると邪王炎殺黒龍波のパクリなのだが、こちらの世界風にアレンジされている。簡易的なプログラムとして造られているその竜はそこそこの知能があり、相手の急所を適確に狙う。それらがCNコレダービットで加速されて攻撃力を増し、白天王の巨体に絶大なダメージを与えていく。

 そして最後にすべてのエネルギーを開放して大爆発を起こす。これには白天王も耐え切れず、辺りのビルを巻き込みながら倒れこんでしまった。もちろん非殺傷設定なので死んではいないが、しばらくは動けないだろう。

 

「ふっ、君が弱いんじゃない、ボクが最強なのさっ!」

「「す、すごい……けど、やりすぎです……」」

 

 レヴィの忠告に従って空中に逃れた2人は、フリードの背中から一部始終を目撃して目を丸くした。フェイトですら倒せるか分からない相手を一撃で仕留めたのだから当然だ。

 さらに、近くにいたルーテシアも余波に巻き込まれて気絶していた。バリアジャケットがボロボロになって可愛いパンツが丸見えだけど、命に別状は無いのでよしとしておこう。

 

「白か……。操られていたとはいえ、彼女の本心はあのパンツのように清らかなのだろうな」

「言い方はかっこいいけど内容はアウトだよ!?」

「キュクル~(なんとなく申し訳なくなるフリード)」

「……(気にするなと頷くガリュー)」

 

 何はともあれ、エリオたちの活躍で忌むべき呪縛から開放されたルーテシアは、しばらく保護観察を受けた後に、ずっと求め続けていた平穏な暮らしを手に入れることになる。スカリエッティのアジトから救出され、奇跡的に生還することができた彼女の母親――【メガーヌ・アルピーノ 】と共に。

 因みに、レヴィの登場によって召喚される機会がなくなったヴォルテールは、生息地であるアルザスでのんびり空を見上げながら妙な寂しさを感じていた。

 

 

【首都防衛戦・スバル】

 

 戦闘機人の襲撃によって1人高速道路に取り残されたスバルは、ナンバーズと同じ格好をしたギンガと対峙していた。

 確かに彼女はギンガ本人だが、スバルを見つめる冷たい眼差しからはもとの優しい雰囲気が失われている。敵方に囚われていた間にレリックウェポンとして改造され、ルーテシアと同じ洗脳を施された彼女は、文字通り戦闘マシーンと化していた。

 

「こんな形でギン姉と戦うことになるなんて……」

 

 はっきり言ってかなり分の悪い状況だ。普通の状態でも苦戦する相手が更にパワーアップしているのだから、勝利できる可能性はとても低いと言わざるをえない。

 しかし、まだ負けると決まったわけでもない。

 彼女にかけられた洗脳は、デメリットの大きい外科手術を必要としない魔法技術による暗示で再現されているため、気絶するほどの魔力ダメージを与えれば解除できる。つまり、一撃の攻撃力が高いスバルには一発逆転の可能性が残されていた。

 もちろんスバル自身はそんな情報を知らないが、それでもやることは変わらない。なのはに鍛えてもらった魔法の力でギンガに勝つ、ただそれだけだ。

 

「目を覚ましてよ、ギン姉! そんな洗脳なんかに負けてたらシロ兄が悲しむよ!? その格好は喜ぶかもしれないけど!!」

「!?……シロン、さん……」

 

 胸の形がハッキリ分かるボディスーツを身につけたギンガは、シロンの名を聞くと一瞬だけ反応を示した。操られている間も彼女の意識はあり、スバルの言葉もおぼろげながら判別できていたのである。しかし、それ以上の影響を与えることはできず、すぐさま攻撃が再開される。やはり、洗脳を解くには戦いに勝つしかないようだ。

 

「私を……惑わすなっ!」

「あうっ!」

 

 2人は、空中に出現させたウイングロードという魔法の道を縦横無尽に疾走しながら幾度も拳を打ちつけあう。一見すると互角のようだったが実力的には姉のギンガに分があり、次第にスバルの方が押され始めた。そして、ついに手痛い一撃を食らってしまう。

 

「リボルバーギムレット」

「っ!?」

 

 ドリルのように回転したギンガの貫手が防御魔法を貫いてスバルに直撃した。魔法少女というよりスーパーロボットの部類に入るであろうその攻撃はとても強力だった。

 凄まじい衝撃によって吹き飛ばされ、高速道路に叩きつけられたスバルは、うつ伏せに倒れながらギンガを見上げる。

 

「ギン姉……」

「……」

 

 無機質な表情で目の前に立っているギンガを見つめているうちに涙が出て来てしまう。大好きな姉とこんな悲しい戦いをしなければならないなんて酷すぎる。

 こんな時にシロ兄がいてくれたら……。

 スバルは頼れる兄貴分のことを想った。彼がいればこんな逆境ぐらい笑いながらひっくり返せるに違いない。なのはの砲撃魔法が直撃しても「あー死ぬかと思った!」の一言で済ましてしまう男だ、ギンガに殴られたくらいなら涙目になる程度だろう。

 しかし、彼は今ここにいない。来るかどうかも分からない幻のヒーローを待っている余裕は無かった。

 それ以前に、このまま簡単に諦めたらシロンに会わせる顔がないではないか。彼の助言を受け入れ、クイントを陥れたと思われる管理局の腐敗を父や姉と一緒に正してみせると決心したのだ。その志を成し遂げる前に、こんなところで負けてなるものか!

 首を掴んで締め上げようと腕を伸ばして来るギンガを睨みつけながらスバルは叫んだ。

 

「私は……負けない! この手の力は、悲しい今を打ち抜くものだから!!」

 

 この力で洗脳された姉も助けてみせる。スバルはリボルバーナックルを装着している右手を力強く握り締めて覚悟を決めた。

 その時だった。高速で飛来してきた誘導弾がギンガに命中したのは。

 

「ぐぁっ!?」

 

 不意を突かれた彼女は、ほとんど反応できずに姿勢を崩してしまった。

 誘導弾を撃った謎の襲撃者はその隙を適確に突いた。炎を纏った杖状のデバイスでギンガの腹部を突くと同時に砲撃魔法を放ち、近くにある廃ビルを突き破るほどの衝撃で吹き飛ばした。

 とても鮮やかな奇襲で思わず見惚れてしまうほどだが、それ以上に気になることがある。

 

「(この人は、まさか!?)」

 

 一部始終を近くで見ていたスバルは、まったく身動きできなかった。太陽を背にして上空に浮かんでいる襲撃者に視線が釘付けになっていたからだ。

 その襲撃者は、幼い頃に空港火災の現場で自分を助けてくれたあの人にソックリだった。しかし、彼女は今聖王のゆりかごで戦っているはずなので、こんな所にいるわけがない。それによく見ると髪型がまったく違うし、バリアジャケットもやたらと黒い。だとしたら、この人物は何者なのだろうか。

 なんてことを思っていたら、当の本人があっさりとネタばらしした。

 

「えっへん。ナノハかと思いましたか? 残念、シュテルちゃんでした」

「………………え?」

 

 一瞬誰だろうと思ったが、すぐに思い出した。確かあの人は、なのはさんの遠い親戚というシュテルさんだ。管理局に目をつけられるのが嫌だから魔導師の実力を隠していると聞いていたが、どうやら自分を助けるために秘密を破ってくれたらしい。

 実際は認識阻害魔法を使っており、シュテル本人を知っているスバルにあまり効果が出ていないだけだったが、わざわざ説明する必要は無いだろう。後に提出する報告もはやてが改ざんするだろうし……。

 

「助けていただいてありがとうございます、シュテルさん!」

「お気になさらずとも結構ですよ。これは私自身の意思ですから」

 

 慌てて起き上がったスバルはとりあえず感謝を伝え、シュテルも律儀に答える。感情の希薄な声だけど、優しさがちゃんと伝わってくるところは、やはりなのはの血縁者だと思う。スバルは、穏やかに微笑んでいるシュテルの顔に尊敬するなのはの姿を見て感動した。この人も強くて優しくて素晴らしい女性に違いない。

 しかし、その感想はいとも簡単に覆される。廃ビルから飛び出して再び高速道路に戻ってきたギンガの様子を見たシュテルは、優しさとは無縁の毒のこもったセリフをはいたのだ。

 

「どうやら、まだ洗脳は解けていないようですね。汚物の消毒には自信があったのですが、スカリエッティ菌はかなりしぶといようです」

「って、ばい菌関係無いですよー!?」

 

 シュテルは、小学生の悪口みたいな言葉でスカリエッティをバカにした。洗脳という卑怯な手段に対して彼女なりに怒りを表しているのだが、落ち着いた喋り方とまったく合っていない。っていうか、なのはと同じ顔で変なセリフを言われると余計に調子を狂わされてしまう。

 そのせいで一瞬緊張感が薄れてしまったが、今は隙を見せていい状況ではない。ギンガは新たな増援に警戒しながらも、こちらを狙っている。いや、彼女の目標はスバルからシュテルに移っている。

 

「増援戦力の脅威度大……任務達成のため、あなたの排除を優先する!」

「いい判断です」

 

 お互いに敵意を確認すると、2人同時に飛び出して接近戦を始めた。意外なことに、なのはと同じ砲撃魔導師であるシュテルが格闘戦主体のギンガを上回っていた。それは当然で、ライバルであるなのはに対抗するために接近戦を鍛えていたからだ。

 ディアーチェやレヴィのように力技で押し切るのではなく、炎熱変換の資質を自在に操って視覚や思考能力を徐々に低下させることで優位に立つ【戦術】で勝負する。それこそが紫天の書の【理】を司っているシュテルの戦い方だった。

 

「はぁ……はぁ……」

「かなり苦しそうですね。熱に弱い機械の身体では、ことさら堪えることでしょう」

 

 機械部分が加熱してギンガの身体に大きな負担をかけ始めた。明らかに稼動能力が低下し、始めのころのキレが無くなっている。その状態を見て取ったシュテルは一気に勝負を付けにきた。

 

「いい具合に温まったようですし、そろそろ最後の仕込みに入りましょう」

「なにっ!?」

 

 シュテルは熱の影響でふらついたギンガの隙を突き、バインドで彼女を拘束するとすばやく距離を開けた。新しく身につけた集束型砲撃魔法を放つ気なのだ。

 

「シロンに頂いたこの力、有効に使わせていただきます!」

 

 気合を入れたシュテルは、一枚のカードを取り出してそれを発動した。すると、彼女の周りに2基のCNジェネレータービットが現れた。基本的にはディアーチェが使ったものと同様だが、これには知能を駆使して戦うシュテルに適合した特殊な機能が備え付けられていた。

 その機能とは、異なる属性を加えて魔法の効果範囲を広げるユニゾン能力だ。2基のビットにはそれぞれディアーチェの闇属性とレヴィの雷属性が備わっており、それらを使い分けることで魔法の性質を自由に変えられるようになっている。

 試作品をマテリアル娘たちにテストしてもらい、シュテルが一番有効に使いこなしたため彼女に託されることになった代物だ。その際に名前も改められて【CNユニゾンビット】となった。

 

「今回は闇属性を使いましょう」

 

 闇属性は精神に影響を与える性質があるので、洗脳を解くのに使えると判断した。後は、シロンに伝授されたあの技を撃ち込むだけだ。

 あくまでも冷静なシュテルは、砲撃形態にしたルシフェリオンをゆっくりとギンガに向けてとどめの魔法を詠唱し始めた。

 

「天に吼えろ暗炎竜(ゲルゾニアンス)、すべてを滅する闇の炎で、世界を抱き焼き尽くせ! 魔凰炎閃波(ダークフレイムブレイザー )!!」

 

 ついに、中二病最強の炎熱魔法が放たれた。もちろんこれは本物みたいに2億4950万℃も無いが、闇属性が備わっているおかげで精神や肉体の内面に与えるダメージが増加している。そのため、今回のように洗脳されている相手には効果抜群だった。

 しかし、CNドライヴから供給された魔力まで乗せたこの魔法はあまりにも強力すぎた。

 

「うわあぁぁぁぁ――――…………」

「ギン姉ぇ――――!!?」

 

 これまで静かに戦いの行方を見守っていたスバルは、黒い炎の奔流によって遥か先までぶっ飛ばされたギンガのもとへ駆けつけた。するとそこには、ほぼ全裸状態のギンガが目を回しながら気絶していた。完全平和主義だったケット・シーが作りあげた優秀な非殺傷魔法技術のおかげでほとんど傷は無いものの、乙女としてのダメージは大きかった。周りに男性がいなかったことが唯一の救いである。

 

「ちょっとやりすぎてしまいましたね……テヘ」

「可愛く言ってるけど何か怖い!?」

 

 片目を瞑りながらペロッと舌を出しているシュテルは確かに可愛かったが、一連の惨事を目撃してしまったスバルは見た目通りに受け取れなかった。

 

 

【首都防衛戦・ティアナ】

 

 スバルたちと分断されたティアナは、戦闘機人たちの末っ子である【ディード】によって弾き飛ばされ、大きな吹き抜け構造になっている廃ビルの中に放り込まれた。更にそのビルは【オットー】が発動した強力な結界で覆われ、ティアナはそのまま閉じ込められてしまう。

 これは偶然ではなく、彼女たち【ナンバーズ】の作戦だった。新人達の司令塔でありもっとも厄介な敵である彼女を確実に仕留められる環境を作ったのだ。

 3人の戦闘機人に加えて数機のガジェットドローンによる包囲が完成してしまい、1人きりのティアナは絶体絶命のピンチに陥っていた。遮蔽物を利用して何とかガジェットドローンは全滅させたが、本命の戦闘機人たちを倒すまでには至らず追い詰められてしまう。

 格闘タイプの【ノーヴェ】と砲撃タイプの【ウェンディ】、それに増援として現れた剣士タイプのディードは簡単に倒せる相手ではない。しかも3人の連携攻撃はとても優秀で、足を負傷してしまったティアナの勝ち目はほとんどなかった。

 

「(まずいわね……。やっぱりあいつら、1ヶ月前より強くなってる……)」

 

 本来の歴史ではワンパターンとも言える完璧なコンビネーションを逆手にとって戦局を逆転させるのだが、変化したこの歴史では念入りに戦闘パターンを学習しているのでその手は使えなくなっていた。

 なぜそのような変化が起きたのかと言うと、なのはの戦力が大幅に上がったせいだった。魔力にリミッターをかけてもSランク並の実力がある白い魔王と対抗するには、グフをイフリートに更新するぐらいパワーアップする必要があったのだ。その結果、ナンバーズの戦闘力は本来の歴史より上がっていた。

 ティアナの戦力も小型ハロのおかげでだいぶ上がっているとはいえ、多勢に無勢では対処しきれない。そのため、元々うすかった勝ち目がほとんど絶望的になってしまった。まさに、とんだとばっちりである。

 

「(1対1なら勝てるけど、そんな状況には持ち込めそうにない……この窮地を脱するには、どうすればいいの!?)」

 

 どう考えても勝機が見出せない上に、時間稼ぎすらも厳しい。半分機械である彼女たちは高性能のセンサーを持っているため、発見されるのは時間の問題だった。

 案の定、悩んでいるうちに隠れていた位置を発見されて激しい攻撃を受けた。最初の襲撃は何とか防いだものの、その後すぐに囲まれてしまい逃げ出すことすらできなくなってしまった。

 

「(……こうなったら、やるしかないわね)」

 

 ティアナは覚悟を決めた。もちろん死ぬためのものではなく、最後まで戦いぬいて生き残る覚悟だ。結界を破壊して救援が到着するまで何としてでも生き抜いてみせる。

 

「(ここで諦めたら、スバルに合わせる顔がないからね!)」

 

 愛用のデバイスを両手で構えながら場違いな笑みを浮かべる。何かとおバカな親友を思って可笑しくなったからだ。

 それは何の意図も無い無意識の行動だったが、期せずして面白い効果を生むことになる。異様とも言えるティアナの様子を見たノーヴェたちが、無駄とも知らずに警戒してしまったのである。余裕の表れのように見えたため、何か奥の手を持っているのではないかと深読みしたのだ。もちろん、実際にはそんなものなど無かったのだが、その一瞬の迷いがティアナを救った。

 なんと、ナンバーズたちが躊躇している間にリニスが転移してきたのである。ティアナとノーヴェの間に立つように現れた彼女は、おっとりとした声でティアナに話しかけてきた。

 

「よかった、何とか間に合ったみたいですね」

「「「「!!?」」」」

 

 急に現れた第三者に全員が驚く。

 15歳程度の背格好をした彼女は、どう見ても普通の民間人のように見えた。主婦に専念しているリニスは、娘といても不自然にならないように作った普通の私服のようなバリアジャケットを着ていたため魔導師には見えなかったのだ。そのためティアナは民間人の少女が巻き込まれたのかと思ったのだが、認識阻害魔法の効果が現れると、その少女がよく知っている人物に見えるようになった。

 

「あなたは……スバル!? どうやってここに来たの!? っていうか、その格好はどうしたのよ!」

 

 ティアナには、ボブカットのリニスがスバルに見えた。それは、相棒の登場を強く待ち望んでいたことが原因だ。認識阻害魔法は対象者の意識を反映して虚像を見せているため、思いが強いと特定の人物に見えるようになるのである。

 そんなティアナの声を聞いたノーヴェたちも彼女の言葉によって意識を刷り込まれ、目の前にいる少女がスバルの姿に見えてしまう。

 

「そんなバカな!? なんでタイプゼロ・セカンドがここにいる!!」

「アイツは表でファーストと交戦中のはずっすよ!?」

「それは間違いない。オットーの確認も取ってある」

「じゃあ、アレは何だってんだよ!? オレンジ頭の幻術でもねーぞ!」

 

 ナンバーズは有り得ない光景に混乱した。オットーの結界が張られているこの場所は、外部からの侵入が不可能な状態なのだ。それをどうやってすり抜けてきたというのだろうか、彼女たちにはまるで見当がつかない。

 もちろんそれは当然で、リニスはこの世界に無い能力でここに跳んできたのだ。彼女のIS・クアンタムバーストを使って量子テレポートすれば結界など無意味だ。理論上、彼女はどこにでも行けるのである。

 無論その事実をナンバーズが知ることはないが、いずれしても、リニスが結界を越えてきたという事実は変わらない。ここからは彼女の相手もするしかなかった。

 

「3対1とは随分と大変でしたね。でも、もう安心してください。私が力を貸してあげます」

「え……急に何言ってんのよ、スバル? 何かしゃべり方までおかしいわよ?」

「ああ、私のことがスバルに見えているのですね? 色々と込み入った事情があるので詳しくは言えませんが、私はスバルではありません」

「えっ!? それじゃあ、あなたは一体……」

「とりあえず、ティアナさんの味方で間違いありませんよ。クロノ提督の要請でここに来たのですから」

「クロノ提督って、なのはさんたちの知り合いの!?」

 

 ティアナは、正体不明のリニスから聞かされた情報に混乱した。それでも、リニスの言葉に偽りは無いと思った。あのなのはたちですら頼りにしているクロノ提督なら、このくらいのサプライズを起こしても不思議ではない気がする。そもそも、追い込まれたこの状況では彼女と共闘するしか助かる方法はない。

 ならば、生きるためにやるべきことをやるだけだ。

 

「分かりました。ご協力に感謝します!」

「そんなに畏まらなくてもいいんですよ。同じ戦闘機人として、この子たちを放ってはおけませんから」

「なんだって!?」

「もしかして、タイプゼロは3人いたっすか!?」

 

 リニスの衝撃発言に全員が驚く。特に、ナンバーズの動揺は大きかった。確かにスカリエッティ以外にも違法な戦闘機人の開発は行われているが、ナンバーズと対抗できるほどの力を持った者はスバルたちタイプゼロだけだと思われていたのだ。

 しかし、この少女は余裕のある態度で戦場に出て来た。ということは、それ相応の実力を持っているという事になる。

 

「さて、それじゃあ早速オシオキするとしましょうか。お婆さんのところに預けてきた娘がお菓子を食べ過ぎていないか心配ですし」

「娘? ……お前には子供がいるのか!?」

「ええそうですよ? 優しい旦那様と結ばれて、幸せに包まれながら授かった私の宝物です」

「そんな……戦闘機人が、戦うための兵器が、人間みてーに暮らせるわけがねぇ!!」

 

 ノーヴェは、幸せそうに娘の事を語るリニスになぜか怒りをぶつけた。彼女は、戦うことを目的として生み出された戦闘機人の存在理由に苛立ちを感じていたのだ。クイントの遺伝子を用いて作られた人としての部分が、無意識のうちに平穏な暮らしを求めていたのである。

 しかし、彼女を取り巻く異常な環境がソレを許さない。だからこそ、自分が得られない可能性を享受しているリニスのことが疎ましかった。

 

「そうだ、お前の話は全部デタラメに決まってる! 戦闘兵器に愛だの恋だのできるわきゃねーんだ!」

「そんなことはありませんよ。その証拠に……ほら、家族で取ったこの写真を見てください」

 

 そう言うとリニスは目にも留まらぬ動作でノーヴェに近寄った。子煩悩な彼女は、自慢の娘を見せびらかしたくて仕方がないのだ。その親バカぶりは、認識阻害魔法で正しく見れないことも忘れるくらいである。

 とはいえ、初対面かつ敵対しているノーヴェがそれに付き合うわけもなかった。リニスの動きにまったく反応できずに驚愕したが、その動揺を表に出さないように努めながら、彼女の持っている写真を叩き落として踏みにじった。

 

「あっ!」

「ふざけんなっ! こんなもん見せられたって意味ねーんだよ! 大体ガキなんざ簡単に作れるじゃねーか! 私らの腹ん中にもドクターの種が入ってるしな!」

「えっ!? それってどういうこと!?」

「あーもう、それは言っちゃダメっすよ!?」

 

 慌ててウェンディが口止めするが、そのせいで余計に疑惑が高まった。頭の回転が速いティアナはドクターの種という言葉からクローンの存在を連想したが、それは当たっていた。

 ナンバーズの体内にはスカリエッティの因子が詰ったカプセルが埋め込まれており、1ヶ月ほどでスカリエッティのクローンを生み出すことができるようになっていたのだ。ようするに、スペアが用意されていたのだが、幸いにも奴の思惑は実現することはなかった。この情報はスカリエッティのアジトにいるフェイトも知るところとなり、後にはやてらにも報告されて、すべてのカプセルはナンバーズの体内から除去されることになる。危うい所で12人の変態兄弟をこの世に誕生させずに済んだのである。

 因みに、洗脳や武装の調整に時間を費やされたギンガにはカプセルが埋め込まれていない。目前に迫った夢の実現に浮かれていたスカリエッティは、そこまで興味を示さなかったのだ。つまり、ギンガが汚されずに済んだのは単なる気まぐれだった。

 それらの情報はこの時点のティアナが知る由もない事だったが、とにかくスカリエッティの異常性だけは理解できた。

 

「自分の娘たちにそんなマネをするなんて……!」

「はっ、てめぇらの同情なんざ、これっぽっちもいらねぇんだよっ!」

 

 スカリエッティに対して憤るティアナの態度が自分をバカにしているように感じたノーヴェは、怒りを示すように目の前のリニスを殴り飛ばそうとした。彼女は写真を踏みにじられてからずっと俯いており、隙だらけだったのだ。

 しかし、その憶測は間違っていた。しっかりと状況を把握していたリニスは、強力なノーヴェのパンチを片手で軽々と受け止めたのである。実を言うと、彼女もまた怒りに燃えていたのだ。

 

「私の大切な家族写真に……」

「えっ!?」

「なんてことしてくれるんですか―――!!!」

「へぶぅ――――――!!?」

 

 掴まれたパンチを引っ張られて体勢を崩されたノーヴェは、なすすべもなく強烈なビンタを食らって昏倒した。こっそりとトランザムを使った渾身の一撃なので、流石の彼女も耐えられなかった。そんな一方的すぎる戦いをしっかりと目撃してしまった他の少女たちは、赤く輝くリニスが鬼神のように見えて怯えた。

 

「あら、一発でのびてしまいましたか。反省するまで続けようと思っていたのですが……残念ですね」

「「ひっ……」」

 

 ニコリと微笑むリニスに恐怖したナンバーズは、引きつった叫び声を上げてしまう。ウェンディはともかく感情の乏しいディードまで怯えさせるリニスの怒気は本物だった。

 

「仕方ありません。今度は、この子を止めなかったあなた方をオシオキしましょう!」

「「ひぃぃ―――!!?」」

 

 ノーヴェのせいでとばっちりを受けることになってしまった2人は、抵抗空しく敗れ去った。何度もビンタを食らって頬を赤く染めながら気絶している様子には、敵対していたティアナも同情を禁じえなかった。

 

「これは……トラウマになっちゃうんじゃないかしら?」

「え~、そんなことはありませんよ。ちゃんと手加減しましたし」

「あれで!?」

 

 その言葉を聞いてティアナ自身もトラウマになりそうだったが、踏みにじられた家族写真を大事そうに撫でているリニスを見て考えが変わった。強さとは、負の感情を向けてはいけないものなのだと気づいたのである。

 彼女は大切な家族との絆を守るためにあの力を発揮した。そこには何の悪意も無く、だからこそ強かった。それが、人を守る仕事に就いた自分の目指すべき姿だろう。

 

「あーん、私の大切なコレクションがー! まったくもって怒りが収まりませんね!」

「目指すべき姿……なのかな?」

 

 とっても私事で制裁を加えていたらしい発言をするリニスを見て、ちょっぴり自信がなくなるティアナであった。

 

 

【首都防衛戦・シャマルとザフィーラ】

 

 危機を脱したティアナが落ち込むリニスを慰めている頃、単独行動をしているオットーを見つけたシャマルとザフィーラが彼女の確保に成功していた。ガジェットドローンの指揮や結界による戦力分断を担当していたオットーを無力化したことで敵勢力が弱体化していく。

 その成果を祝うように、シャマルたちの救援にかけつけたアルマ専用のペットロボット【ハロ・キティ(猫型のハロ)】が元気に飛び跳ねる。

 

『ヨクヤッタナ、シャマル! モットキバレヤ、ザフィーラ!』

「う、うん、ありがとね~……」

「なんで私は褒めてくれないんだ?」

 

 ただ見てただけのハロから不当な扱いを受けたザフィーラは、やるせない気持ちになるのだった。

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