魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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Gのレコンギスタは少し微妙でした。
今のところはガンダムというタイトルを使っている意味があまり感じられません。
どう見てもMSのデザインが好きになれなくて……後半はよくなるかなぁ。
やはり、ガンダムビルドファイターズトライと弱虫ペダルの続編に期待ですね!

そして、ご意見、ご感想にぜひともご協力ください。
今後も続けていくか迷っているので、参考になる返事がいただけると大変ありがたいです。


第18話 ミッドチルダよ、我輩は帰ってきた! 【StrikerS3】

【地上本部】

 

 遊撃戦力として独立行動を取っているシグナムは、リインとユニゾンした状態で地上本部に近い市街地上空にいた。彼女が警戒している強敵が地上本部を目指しているという情報を掴んだため、ここで待ち構えていたのである。

 その強敵とは、【ゼスト・グランガイツ】という名のストライカー級魔導師だった。元管理局局員だった彼は、クイントも参加していた例の戦闘機人事件で死亡し、後にレリックウェポンの実験体として蘇った存在だ。皮肉なことに、自分を殺した張本人の手によって生き返らされ、求めていた事件の真相に近づくことができた。しかし、実験は失敗していたため彼の命はもう限界にきていた。

 だからこそゼストは、死に絶える前に親友だったレジアスとの対話を望んだ。

 

「もし、あいつが道を違えてしまったのなら、全力で止めてやらねばならん。それが、親友だった俺の役目であり最後の望みだ……」

 

 レジアスは、自身が命を失う原因になった戦闘機人事件に関与していたと思われるため、すべての真相を聞きだしたいと思っていた。何も知らずに死んでいった部下達のために……いや、自分が納得して死んでいくために、どうしても彼の口から真実を聞きたかったのだ。

 死を目前にしたゼストは、二度目の命を使い切ってまで過去の遺恨を晴らそうとしている。そんな悲しい覚悟を感じとったアギトは、複雑な思いを抱きながらも行動を共にしていた。

 彼女は、違法な研究施設に囚われていた所をゼストとルーテシアに助けられて以来、ずっと彼らと一緒にいて生きている喜びを教えてもらった。そんな大恩ある彼が決死の行動をするのに放っておけるわけがない。たとえ望まぬ結果になろうとも、最後の時まで一緒にいたかったのである。

 

「(私の命は旦那と共にあるんだ。例えこの先どうなろうと絶対に離れるもんか!)」

 

 そんな強い思いが力になったのか、アギトとユニゾンしたゼストは待ち構えていたシグナムを振り切ることに成功し、地上本部にいるレジアスの元へやって来た。途中の通路にアギトを待機させて時間稼ぎを頼んだので、話し合う時間は十分確保できる。その後は、これまでに得た戦闘機人事件のデータを信頼できる者――後を追ってくるだろうシグナムに渡せば自分のやるべきことは終わる。

 

「ふっ……あのような騎士がいるのなら、管理局もまだ捨てたものではないな」

 

 最高評議会の暗躍を知って一度は見限ったが、管理局のすべてが悪というわけではない。ゼストは、他の局員とは何かが違うシグナムたちの存在に希望を見出していた。災厄を齎したというパンドラの箱にも希望が込められていたように、この醜くも素晴らしい現実にもそれがあることを信じてみたかったのだ。ルーテシアとアギトが幸せになれる未来を実現するために……。

 

 

 一方、ゼストに逃げられたシグナムとリインは、市街地に侵入したガジェットドローンを撃破しながら地上本部に突入していた。レジアスの執務室へ向かう途中でアギトが立ちはだかったが、本音をぶつけ合った結果お互いの意見が合致した。そのため敵対する必要が無くなり、これ以降は事件終了までずっと行動を共にすることになる。

 

「いいか! 旦那を助けるために仕方なく手を組むだけなんだからな!」

「大丈夫、ちゃ~んと分かってるですよ~、ツンデレ融合騎さん」

「なっ!? ちっげーよ、アタシと旦那の関係はそんな軽いモンじゃねーんだよ、バッテンチビ!」

「って、なんですかそのあだ名はー!?」

「はぁ、やれやれだな……」

 

 紆余曲折の末にアギトとの和解が成立してようやく事態が良くなってきた。そんな矢先に、アースラからの緊急連絡を受ける。報告によると、正体不明の増援が多数現れて各地の戦況を急速に好転させているらしい。普通だったら正体不明という単語が気になるところだが、シグナムたちはそれほど慌てなかった。なぜなら、そんなことをやりそうな人間に心当たりがあるからだ。

 

「絶対シロンちゃんたちですよ!!」

「ああ、そうかもな」

 

 恐らくはその通りだと思われるが、念のために対抗策を整える必要がある。慎重なシグナムは喜びを押さえつつもリインをはやての元に送ることにした。1人事情の分からないアギトは訝しげな表情をしていたが、説明をしている時間もないので、そのまま黙ってレジアスの執務室へと急行する。

 執務室のあるフロアに出ると、扉を破壊した痕跡を確認できた。そこから大きな物音は聞こえないが、穏便に話し合っているのか、それともレジアスに害が及んでいるのか分からない。できれば前者であってほしいと願いながら2人は執務室に駆け込んでいく。

 すると、そこには……亀甲縛り型のバインドで縛り上げられ、不機嫌な表情をしながら正座しているゼストたちの姿があった。

 

「なんじゃこら!?」

 

 初めて亀甲縛りバインドを見たアギトは驚きの声を上げる。ゼストが無事だったのはよかったが、このような酷い状況になっているとは思ってもいなかった。いい年したオッサンが卑猥な縛り方をされている姿はかなり異様で、突然変な物を見てしまったアギトは急激にテンションを下げてしまう。

 そんな彼女を他所に、見慣れているシグナムはこの状況について考察する。こんなことをするのは、彼女の知っている限りではシロンとグラハム、それにマテリアル娘だけだ。

 ということは……

 

「やはり、彼らが帰って来たのだな」

「ご明察だ、烈火の将!」

「なっ、誰だ!?」

「あえて言わせてもらおう……グラハム・ニャーカーであると!」

 

 本当は名乗っちゃダメなのにあえて名乗っちゃったグラハムは、何もない空間からゆらりと出現した。以前リニスが使っていた隠密魔法・ミラージュコロイドで姿を隠していたのである。もちろん認識阻害魔法・ミノフスキーも使っており、シグナム以外の面子には別の誰かに見えているが、姿以外にも特徴の多い彼にはあまり意味が無いかもしれない。

 

「久しいな、シグナム。壮健そうでなによりだ」

「ふっ、そちらもな。ところで、この状況は一体どういうことだ?」

 

 シグナムは、縛られている面々に視線を送りながら尋ねた。そこにはゼストの他に3人いて、全員が正座を強制させられていた。そのうちの2人はレジアスと彼の副官である【オーリス・ゲイズ】で、シグナムも知っている人物だったが、もう1人は初見だった。というか、その女性は戦闘機人と同じボディスーツを着ている。

 

「この女、スカリエッティの手の者か?」

「恐らくはそうだろう。彼女はそのヒゲ親父を殺そうとしていたからな」

「ちっ……」

 

 目つきの鋭い戦闘機人・ドゥーエは舌打ちをして不機嫌さを表した。

 彼女は変身偽装能力を持ち、これまで数々の潜入工作を実行してきた張本人だった。聖王の遺伝子を盗んだのも最高評議会の老人たちを殺害したのも彼女の仕業で、今度はスカリエッティの内情を知りすぎているレジアスを暗殺しようと、女性局員に変身して潜り込んでいたのである。そして、ゼストが突入してきたドサクサに紛れてそれを実行しようとした。

 しかし、必殺だと思われたその攻撃は、ゼストの後をつけて潜り込んでいたグラハムによって防がれ、逆に囚われてしまうことになった。

 

「丸腰のオヤジを背後から襲うなど、黙って見過ごすわけにはいかんな、全身タイツ女!」

「これは全身タイツじゃないわよ!? っていうか、お前は何者だ!? 一体どこにいるんだー!?」

 

 ミラージュコロイドで姿を隠したグラハムに捕まったドゥーエは、混乱している間に亀甲縛りで拘束された。

 もちろん、そんな異常事態が起きれば他の面子も警戒してしまい、話し合いどころではなくなってしまった。空気の読めないグラハムもこのままでは目的を達成できないと感じ取り、問答無用で全員を拘束して強引に話し合いの続きを促した。

 良心的に捉えれば、大人しく対話ができる環境を整えてやったことになるが、実際にやったことはただの緊縛プレイでしかなく、常識人のアギトは呆気にとられた。しかし、シロンと出会ってからこの手の事態に慣れてしまったシグナムは、話を聞いてうなずいた。

 

「なるほど、全員が縛られている事情はそういうことか」

「今ので納得すんのかよ!?」

 

 アギトが感じたようにツッコミどころ満載の展開だが、これでも最良の結果なのは間違いない。もしここにグラハムがいなければ、ゼストも含めて3人も死人が出ていたからだ。

 そんな悲劇を防いだ功労者であるグラハムがなぜ都合よくこの場にいたのかと言えば、色々な偶然が重なった結果だ。

 シロンの指示を受けて地上本部の防衛に向かったグラハムは、やたらと男前な行動をしているゼストに興味を持ち、彼の目的を見定めようとした。無論、BL的な興味ではなく、かつて自分たちが助けたクイントの上司だったということを知って気になったからだ。心が歪んで戦いに魅入られてしまったのか、それとも別の事情があるのか。我慢弱い彼としては確かめずにはいられなかった。

 その後、前述の通りに全員を拘束して事情を聞いた結果、レジアスの犯罪が次々と露見した。ドゥーエの暗殺が失敗に終わったため、腰を据えて話し合うことができたおかげですべてを聞けた。亀甲縛りにされて正座しているオッサンたちが真面目な会話をしている様子はあまりにも奇妙だったが、それでもすべてをさらけ出した元親友たちは確かな満足感に満たされた。

 

「そうだろう? 暑苦しい中高年ども!」

「嘘をつくなっ!! こんな状態で満足できるわけないだろうがぁ!!」

「その通りだ、勝手に美化してもらっては困るな」

 

 どうやら最後の部分だけはおちゃめな捏造だったらしい。

 

「ま、まぁ、何にしても死人を出さずに済んだのだからお手柄だったな」

「ふっ、褒めたって惚れてはやらんぞ。何しろ私には愛する妻がいるのだからな。既に売約済みだと心得てもらおう」

「いや、別に口説いてるわけではないのだが……」

 

 相変わらず無茶苦茶な言動をしてくるグラハムに苦笑するが、それと同時に嬉しさも込みあがってくる。この、わけわからない空気感こそがシロン一味のいいところだ。凝り固まった思考が他者を排除し、争いを生み出していくのなら、彼らくらいお気楽なほうが丁度いいのかもしれない。

 その証拠に、騎士という存在に凝り固まったゼストが愚かなことを言い出した。

 

「そこの御仁……あなたに頼みがある」

「ふむ、言ってみたまえ」

「俺の命は残り少ない。恐らくは、正式に裁かれる前に息絶えることだろう。だからこそ、騎士としての矜持を貫き通して最後の時を迎えたい」

「ほう、それで私にどうしろと言うのかね?」

「このバインドを解いて、そこにいる騎士と一騎打ちをさせて欲しいのだ」

 

 そう言うとゼストは、目の前にいるシグナムに向けて熱い視線を送った。もちろん言葉通りに真面目な理由があるからだが、亀甲縛りをされたオッサンに見つめられては流石のシグナムでも引いてしまう。ゼストの味方であるアギトもこの時ばかりは弁護できなかった。しかも、間の悪いことに、その視線に気づいたグラハムは妙な勘違いをしてしまう。

 

「なるほど、彼女の存在に心奪われたということか。その気持ち、まさしく愛だな!」

「いや、それはちが「皆まで言うな! 先刻承知だ!」

「だから、そうではな「だがしかし、彼女の気持ちは王子に向いている。残念だが、敵わぬ恋だと教えてやろう!」

「私の本心を勝手にばらすな!?」

 

 もうやりたい放題である。人の話を聞かないことに定評のあるグラハムならではの反応で、シリアス場面も台無しだった。

 しかし、軍人でもある彼は、ゼストの言葉に込められた意思をしっかりと受け止めていた。

 

「確かに、騎士として戦いの中で死に果てたい気持ちは理解できる。だからこそあえて言わせてもらおう、本当にそれでいいのかね?」

「……どういうことだ?」

「私は時空管理局・首都防衛隊としてのお前に問いたい。犯した罪に背を向け、独りよがりの死を選び、己の部下たちに更なる汚名を着せることを良しとするのか?」

「……耳の痛い問いかけだな。だが、事件に関するデータはこのデバイスに入っているから、俺がいなくとも問題ないだろう。お前たちのような者がいるのなら、ルーテシアとアギトの未来も任せられるしな。そうなれば、後はあの世に行って部下たちに謝るだけだ」

「そんな! 悲しいこと言わないでくれよ旦那ぁ!」

 

 アギトは、既に死を覚悟しているゼストとの別れが悲しくて涙を流す。彼は成すべきことをすべてをやり遂げたと思っているので、その考えを変えることは難しかった。

 しかし、彼にはまだ生きてやるべきことがあることをグラハムは知っている。

 

「お前は部下が全員死んだと思っているのか?」

「……違うのか?」

「どうやら本当に知らないようだな。ならば教えてやろう。お前の部下であるクイント・ナカジマは生きている!」

「なんだとっ!?」

 

 思いもかけない朗報にゼストは驚愕した。意外に思われるが、スカリエッティから聞かされた話を鵜呑みにして部下たちのことは調べようとしなかった。自身の負い目によって無意識のうちに避けていたという理由もあり、クイントが生存しているという事実に気づくことができなかったのだ。同時に、一般人となったクイントにもゼストが犯罪行為をしているという情報が伏せられていたため、彼女からのアプロ-チも無かった。しかし、すべてが露見した今となっては隠す必要も無い。

 

「お前は彼女に会ってすべてを語る義務がある。管理局局員としても、騎士としても、1人の人間としてもな」

「……」

「あの事件で1人だけ生き残り、その罪悪感に今も苦しみ続けている彼女を救ってやれるのはお前だけだという事だ、騎士ゼスト!」

「それだけではない。ルーテシアやアギトを保護していたお前には、最後の時まで彼女たちを見守る責任がある。それを途中で放り出して他人任せにしようだなどと考えているのなら、同じベルカの騎士として絶対に許さんぞ?」

「……………………どうやら、もう少し生き長らえなければならんようだな」

「旦那ぁ!!」

 

 この時ゼストは、自分が生きていることの重要性に改めて気づかされた。そうだ、自分にはまだ生き続ける理由があった。シグナムの言う通り、すべてを他人任せにしてしまってはいけない。自分は戦うためではなく大切な者たちを守るために騎士となったのだから、手段と目的を間違えてはいけない。騎士の力は、戦いながら死にたいなどという個人的な欲望で振るうべきものではないのだ。

 そんな基本的なことを気づくのにだいぶ時間がかかってしまったが、まだ遅くはないはずだ。生きる意思さえあれば、まだ数日は持つと思われる。ならば、残りの命を愛しい者たちのために使うべきだろう。

 

「世界を守りたいと言っておきながら、大切な者たちを自らの手で傷つけていたとはな。これでは、お前の事を非難する資格はないか」

「……それはお互い様だ」

「お父さん……」

 

 ゼストの言葉を受けたレジアスは、娘のオーリスに視線を向けた。彼らは共犯同士でもあったが、今はお互いを止められなかったことに対して悔いているようだった。

 グラハムが柄にもなく真面目なことを言っていたせいか、シリアス化が進行していく。流石に濃いオッサンが2人もいると中高年の悲哀が伝播してしまうようだ。

 しかし、本来はお笑い担当であるグラハムが、こんな時にじっとしているわけがなかった。

 

「なんと!? 君のような知的美人がこんな厳ついヒゲ親父の娘であったとは! 遺伝子の気まぐれに感謝しなければならんな!」

「余計なお世話よ!!」

「フンッ、面と向かってこんなことを言う奴が実際にいるとはな……」

「何というか、その……とにかく申し訳ない」

 

 怒るべきか呆れるべきか。あくまで空気を読まないグラハムによって真面目空間はあっという間に終わりを告げた。というか、これまでのやり取りは亀甲縛りをされたまま行われていたので、ビジュアル的には最初からアウトだった。

 

 

 なにはともあれ、これで地上本部での戦闘は終わった。本来の歴史では3人も死人を出したのだが、グラハムの活躍(?)で1人も死者を出さずに済んだ。この後、レジアス、オーリス、ドゥーエの3人は正式に裁かれ、それぞれの罪を償うことになる。

 そしてもう1人、死にかけていたゼストがどうなったのかと言うと、セフィの力で生前の寿命を取り戻すことになる。それは、ルーテシアとアギトにお願い攻撃をされたシロンが妥協した結果だった。

 病院に収容されたゼストを見舞った際に、シロンなら助けることができるかもしれないとシグナムたちから聞いて、彼女たちは一生懸命お願いしたのだ。本来なら面識の無いオッサンなど助けたりはしないが、美少女2人に泣きながら頼まれては拒否することなどできない。シロンはとってもフェミニストだった。

 

「しょーがないなぁ、ルー太君は。今回だけ特別大サービスでお願いを聞いてあげるけど、みんなには内緒ニャよ?」

「うん……ありがとう」

「やったー! お前ってすごいヤツなんだな!」

 

 こうして瀕死だったゼストは助かり、その奇跡を目の当たりにしたルーテシアとアギトはシロンの大ファンとなるのであった。

 因みに、回復したゼストは罪を償った後に管理局へ再入局し、レジアスや部下たちの分まで世界平和に貢献することになる。彼は、生まれてくる世界を間違えたとしか思えないほどに、どこまでもハードボイルドだった。

 しかし、その評価はすぐに変わることになる。彼の傍には妖精のようなアギトがピッタリと寄り添っており、たまに会いに来るルーテシアの目撃情報も相まってロリコン疑惑が常に付きまとうことになるのであった。

 

 

【スカリエッティの研究所】

 

 聖王のゆりかごが現れる少し前、カリムの義弟である【ヴェロッサ・アコース】と彼女の秘書である【シャッハ・ヌエラ】によってスカリエッティの研究所が発見されていた。しかし、その直後に大量のガジェットドローンに襲われてしまう。

 彼らの実力もかなりのものなのでガジェットドローン程度ならどうってことないが、流石に2人だけで敵の本拠地へ突入するのは無謀すぎる。そのため、増援部隊を要請することになり、聖王教会の騎士団と機動六課のフェイトが駆けつけた。フェイトは以前からスカリエッティを追っていたので、それを知っているはやてが配慮したおかげだ。彼女は、自分やエリオを生み出した生命操作技術【プロジェクトF】を悪用する彼のことがどうしても許せなかったのだ。

 

「今度こそ、お前を捕まえてみせる! これ以上私たちのような悲劇を増やさないために!」

 

 技術というものが人の命を犠牲にして進歩してきたことは間違いないが、彼のやっているそれは【子供の遊び】にすぎない。できるから試してみたい、そんな幼稚すぎる理由で人をいじくり、殺してしまうなど正気の沙汰ではない。人として生きる者ならば、決して許してはならない存在だ。たとえ、彼自身が被害者であったとしても。

 

「それに、シロンたちもあの男のことを気にしてたし……」

 

 フェイトは、プレシアからスカリエッティのことを聞いた時の様子を思い出した。シロンたちはスカリエッティ本人に会ったことはないと言っていたが、彼らの表情には確かに困惑と怒りが表れていた。もしかすると、過去に何らかの被害を受けたことがあるのかもしれない。

 そもそも、リニスは戦闘機人だ。スバルたちのような境遇で生み出されて酷い目に遭っていたところをシロンたちに助けられた可能性が高い。本人に聞いてもつまらない話だからとはぐらかされてしまうが、大切な家族が辛い目に合わされたのだと思うと黙ってはいられない。

 

「絶対にこれで終わりにしてみせる!」

「ん? 何かおっしゃいましたか?」

「あっ、いいえ、何でもありません!」

 

 ツーマンセルを組んでいるシスターシャッハに独り言を聞かれて思わず慌ててしまう。どうやら緊張していたのか思考が散漫になっていたようだ。シスターシャッハに返事をしつつ、これではいけないと気合を入れ直して目の前の任務に集中する。

 そうして薄暗いアジトの奥へ進んでいくと、空戦可能なくらい広いフロアに出て来た。辺りを見回すと、人体実験の素体として扱われている人々が入った生体ポッドがずらりと並んでいる。生死は不明だが、いずれにしても酷い扱いだった。

 

「人ですら部品としか見ていない。これがあいつの本性なんだ……」

「本当に恐ろしい男です。彼の悪行は必ず止めなければなりません」

「ええ……必ず!」

 

 そして、あいつを倒した後にあなたたちを解放してみせる。心の中で誓いながら、スカリエッティに対する怒りを更に増加させる。

 するとその時、頭上で起きた爆発の振動が伝わってきた。それは【セイン】という名の戦闘機人が仕掛けたトラップだった。無機物の中を自在に通り抜けることができる彼女が床に潜りながら侵入者の足を掴み、天上に置いてあるガジェットドローンIII型をぶつけて押しつぶそうと企てたのである。彼女自身に戦闘能力が無いため、このくらいしか攻撃手段が無かったのだ。

 しかし、そのトラップは失敗に終わる。フェイトには直前に回避され、足を掴まれたシスターシャッハも足場を破壊して下のフロアに落ちることで難を逃れた。

 それでも、フェイトたちを引き離して弱体化させることには成功したが。

 

「孤立させられた!?」

 

 敵地の真っ只中で1人きりにされたフェイトは、自分の置かれた状況を察して緊張する。

 最低限の役割を果たしたセインは戦闘能力が無いため、この後シスターシャッハにやられてしまうのだが、フェイトを確保したいと考えていたスカリエッティとしては許容できる犠牲だった。後はもっとも戦闘能力の高い【トーレ】と【セッテ】に任せれば、この場に関してはうまくいくだろう。

 ただし、他の場所では全然うまくいっていないようだが。

 

 

「これはこれは、随分と面白い結果になったものだ。あのイレギュラーたちはどこから湧いて出たんだろうね?」

 

 スカリエッティは、各地の戦況をモニター越しに見つめながら疑問符を浮かべていた。謎の増援に対して自分たちの戦力は一方的にやられっぱなしだ。聖王のゆりかごではいとも簡単に駆動炉が破壊され、市街地に解き放った戦闘機人や実験体もすべてやられてしまった。聖王はまだ健在なようだが、彼女のところにはあの白い魔王が向かっており、そこに例の増援が現れたらほぼ勝ち目は無くなる。

 

「ははっ、完璧な計画のはずだったのに、こうもあっさりと台無しにされてしまうとはねぇ……。まだまだ私も甘かったということかな? それとも、これが神とやらの意思だとでも言うのか? くっくっく……そうだとすれば実に興味深い。もしそれが真実なら、この私が神を動かしたことになるのだからねぇ!」

 

 人として真っ当な感情を持ち合わせていない彼は、追い込まれた状況を楽しんでいた。もちろん最初からこんな結果を望んでいたわけではないが、【無限の欲望】を与えられた彼にとっては自身の死ですら探求欲の対象でしかなかった。ようするに、最高のサドであると同時に最強のマゾでもあるのだ。

 しかし、スカリエッティの娘である戦闘機人はそこまで狂っていない。長女的な存在である【ウーノ】は、アジトに残って管制作業とガジェットドローンの制御を行いながらも彼の身を案じていた。このままでは計画が失敗に終わってしまい、自分たち全員が逮捕されてしまう。ナンバーズの体内に彼のコピーが仕込んであっても全員が捕まってしまえば意味が無いのだ。

 

『ドクター、今すぐここから離れましょう。今ならまだ間に合います』

「ふむ、確かにその選択も魅力的だね。しかし、これまで心血を注いできた夢の結末を見届けたい衝動も抑えられないのだよ。まったくもって、私の欲望は度し難い」

『ですが、このままでは……』

「そんなに心配かい? ならば、フェイト・テスタロッサを確保したら離脱するというのはどうかな? 流石にそのくらいはやり遂げないと格好がつかないからねぇ」

『……分かりました。私たちは、どこまでもドクターについていきます』

「ありがとうウーノ。君は本当に父親思いのいい子だ」

 

 スカリエッティは、父親としての意識を持っているような言動をする。とはいっても、それはただ人間の表現方法をまねているだけで本心ではない。彼は、人間の遺伝子を持った、まったく別の生き物だった。だからこそ、自分と対等以上に接することができる【人間を超えた存在】を探求し続けていた。彼は、かつてのアルハザードと同じように神を目指しているのだ。

 ただ残念なことに、それを成す前に自身の欲望によって身を滅ぼすことになりそうだが。

 

「それでは、私も戦場に赴くとしよう」

 

 スカリエッティは、鋭い爪がついたグローブ状のデバイスを右手に装着すると、フェイトの元へ向かい始める。かつて放棄したプロジェクトFによって生み出されたフェイトが、それより優れていると判断して進めてきた人造魔導師計画や戦闘機人計画を超えている現実を直に確かめてみたいと思ったのである。

 彼は確かに狂人だったが、科学者としての本能だけは人間らしかった。

 

 

 スカリエッティが行動を始めた同時刻、2人の戦闘機人と交戦しているフェイトは苦戦を強いられていた。彼女たちのボディスーツには小型ハロに対抗して作った高性能AIが搭載されており、それらの演算能力によって体の反応速度が飛躍的に増していたからだ。

 このシステムは体にかかる負担がかなり大きく稼働時間を著しく減少させてしまうため、本来なら使用しないことにしていたのだが、ここまで事態が切迫してしまっては使わざるを得ない。しかし、その甲斐あってフェイトを圧倒しつつあった。

 

「(この戦闘機人、強すぎる!)」

 

 フェイトの使うバルディッシュ・アサルトも管理局に怪しまれない程度にパワーアップされてバルディッシュ・アサルトバスターとなっていたが、捨て身の敵が相手では分が悪かった。逆転できる切り札は用意しているものの、魔力消費が激しいためAMFが効いているこの場所では短時間しか使えない。スカリエッティの逮捕を優先しなければならない現状では迂闊に使うことは出来なかった。

 そんな迷いが隙を生んだのか、トーレとセッテに集中しすぎて足元から現れた赤い魔力糸に気づくのが遅れた。それはスカリエッティが作り出した独自の術式で発動された魔法で、いとも簡単にフェイトを拘束してしまう。

 

「しまった!?」

「ふふふ……流石の君も、死に物狂いの相手には後れを取ってしまったようだね」

「っ、スカリエッティ!!」

 

 赤い魔力糸で作られた檻の中に閉じ込められたフェイトは、ゆっくりと歩いてくるスカリエッティを睨みつけた。

 

「やぁ、ごきげんよう。フェイト・テスタロッサ執務官。管理局の大スターに直接お会いできて感激の極みだよ」

「ふざけた口を利くな!!」

「おやおや、普段は温厚かつ冷静でも怒りと悲しみにはすぐに我を見失う。君のその性格は、まさに母親譲りだね」

「当然だろう! 親子なんだから!」

「ふははっ! あの狂った母親をそこまで慕うとは意外だねぇ。それもプロジェクトFの刷り込み効果のおかげかな? でも、そうなると生き返ったアリシアが疎ましくて仕方ないだろうねぇ。なにせ君は、彼女のできそこないなのだから!」

「……」

 

 スカリエッティは、わざと口汚いことを言ってフェイトの反応を楽しんでいた。普通の感情を持っていない彼は、自分と似たような境遇のフェイトがこれほど情緒豊かに育ったことに対して興味を抱いているのだ。

 ただし、その興味は彼女の人並み外れた力に対して向いているものだった。彼は変化の激しい人の感情が魔導師としての強さに関係しているのではないかと考えたのである。一部の戦闘機人でも人間らしい人格形成を試みて興味深い効果が出ているので、フェイトのことも探求してみたくなったのだ。

 しかし、当のフェイトとしては、人間らしさなど微塵も無い彼に興味を持たれてもただ不快なだけだった。

 

「それ以上無駄口を叩くな。お前の狂った言葉など私にはこれっぽっちも届かない」

「まったく、悲しいことを言ってくれるね。私は君にとって生みの親のような存在なのに」

 

 スカリエッティは、辛辣なフェイトの言葉に対してやれやれといったジェスチャーを返した。人に嫌悪されても気にならない彼の行動は、ある意味とても素直だった。

 

「まぁいいさ。不良娘の教育は、別の場所へ移動した後にじっくりと行えばいいのだから」

「っ!?」

「我々の楽しい祭りは、正体不明のイレギュラーが台無しにしてしまったからね、これくらいのお土産はもらっていってもいいだろう?」

「……(正体不明のイレギュラーって、さっきアースラから連絡があった増援のこと?)」

 

 フェイトは、スカリエッティのセリフから奇妙な言葉を聞き取ると、なぜか表情を明るくした。その正体不明のイレギュラーとやらに思いっきり心当たりがあるからだ。

 そのイレギュラーはシロンたちに違いない。大切な幼馴染であり大好きな想い人でもある彼がようやく帰ってきて助けに来てくれたのだ。それを喜ばないわけがない。

 がぜん元気が出て来たフェイトは、切り札の一つであるライオットブレードを使って糸の檻を切り裂くと、声高に勝利宣言する。

 

「ふふっ、お前たちの悪巧みは、もう完全におしまいよ!!」

「ほぅ、このような状況でも強気になれるとは、例のイレギュラーをよほど信頼しているようだね」

「ええそうよ、彼らは決してお前を許さない。なぜなら、お前こそが世界の歪みだから!」

「世界の歪み……この私が?」

「その通りだよ、明智君!」

 

 スカリエッティがフェイトの言葉に気を取られたその時、この場にいない青年の声が響き渡った。まさか、イレギュラーの襲来か。スカリエッティ陣営は、もっとも警戒している相手を連想して身構えたが、その判断は当たっていた。

 しかし、当てた所で理不尽の塊であるアイツを止めることなどできはしない。

 身体強化魔法でエメラルドグリーンに輝いている銀髪オッドアイの美青年が、人の知覚できる時間を超えて一瞬のうちに姿を現す。それと同時に、手に持っていたサッカーボールを手前に放り出して思いっきり蹴飛ばした。

 

「真実はいつもひとつ!!!」

「ぐほぁぁぁああ―――――!!?」

 

 凄まじい勢いで蹴り出されたサッカーボールは、フェイトの近くに立っていたスカリエッティの腹部に直撃し、彼の体を思いっきりぶっ飛ばした。ケット・シーの魔法で強化されたそのボールは意味不明なほどに高性能で、あらゆる防御能力を弱体化させる機能に加えて自爆効果もあった。

 

「インパクト……ナウッ!!」

 

 ドッカ――――――――――ンッ!!!!!

 

「ぬおぉぉぉおお―――――!!?」

「「ド、ドクタ―――――!!?」」

 

 派手にぶっ飛ばされた挙句、強烈な爆発を食らったスカリエッティは、サイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒された。白衣やスーツは跡形もなく消し飛んでパンツ一丁となり、バッチリ決めていた髪の毛も立派なアフロになっていた。

 つい先ほどまでかっこよく悪役を演じていた者を一瞬でギャグキャラにしてしまう。それがこの男、シロン・ガンニャールヴルの力だ。

 

「ふっ、またつまらぬ物をぶっ飛ばしてしまった!!」

「シロン! やっと帰ってきてくれたんだね!」

「私もいますよ」

「セフィ! 久しぶりだね!」

「はい、長いことご無沙汰してました」

 

 待ちに待ったシロンたちとの再会に、フェイトは満面の笑みを浮かべる。チート的な強さを誇る彼らが来てくれたのならもう安心だ。

 とはいえ、管理局の執務官としては民間人に頼ってばかりいられない。シロンに成長しているところを見てもらうためにも、残りの戦闘機人たちは自分で仕留めてみせようと意気込む。

 

「このぉ!!」

「やってくれたな!!」

 

 何もできないままスカリエッティを倒されたトーレとセッテは、怒りのままにシロンへと襲い掛かった。人間離れした速度を持つ彼女たちは一瞬で間合いをつめてきたが、フェイトとセフィはその行動を予測して進路上に電撃攻撃を撃ち込んだ。近くにいたシロンを巻き込むほどの強力な電撃で、トーレとセッテはたまらず避退する。

 

「ちぃっ!」

「あの小さいのも電気資質か!?」

 

 意外な戦力に2人は驚く。確かにセフィは無視できないほどの実力者であり、それを自覚している本人も得意げな表情をしている。しかし、調子に乗った彼女のせいでシロンがとばっちりを受けてしまった。

 

「何なんだこの力は!? 我輩が直撃を受けているぁあばばばば!!」

「おっと、失敗してしまいましたね」

「あー!? ごめんなさーい!?」

 

 セフィのせいなのになぜかフェイトが謝ってしまう。この程度ならシロンたちにとってはスキンシップみたいなものなのだか、まだ常識人の範疇にいるフェイトは慣れていなかった。しかし、今はそんなことなどどうでもいい。そんな変態のことを気にするよりも、あの強敵たちをどうするかだ。

 幸い、ここには頼もしい仲間がいる。彼女に協力してもらえば、あの2人の能力を超えられるだろう。フェイトは2つ目の切り札である真・ソニックフォームに変身すると、セフィに協力を頼んだ。

 

「セフィ、私とユニゾンして!」

「分かりました。久しぶりにあなたの力となりましょう」

 

 そう言って光の玉になったセフィは、フェイトの胸元に吸い込まれていく。その瞬間、フェイトの髪がプラチナブロンドになり、バリアジャケットの黒い部分が真紅に変わった。

 

「いやぁ、ユニゾンしたフェイトは何度見てもシャア専用だニャ!」

『今の彼女は3倍早いですからね』

「う~ん、何か納得したくないけど……とにかく、行きます!」

 

 準備の整ったフェイトは、シロンたちの会話で脱力しつつも戦闘を開始した。

 ユニゾンした彼女の体は電気の性質を帯びており、体を伝わる電気信号を加速させても負担にならない。その効果を利用することで思考や身体能力を向上させ、通常の3倍以上の力を発揮することができる。その上、今回は速さのみを追求した超高機動特化形態の真・ソニックフォームを併用しているため、彼女の速度は神がかっていた。

 

「なっ、消えた!?」

「私はこっちだ!」

「がはぁーっ!?」

「セッテ!? このぉ!!」

「あなたの速さもなかなかのものだけど、今の私を倒すにはまだ足りない!」

「そんなっ!? また加速してっ、ぐあぁ―――!!」

 

 神速とでも言うべき凄まじい機動に翻弄され、トーレとセッテは瞬く間に撃墜された。真紅の残像を残しながら華麗に舞い踊る姿は、まさしく赤い彗星である。

 何はともあれ、あっさりと勝負をつけたフェイトは、ユニゾンを解くと気絶している2人をバインドで拘束した。後は、離れた場所でぶっ倒れているスカリエッティを捕まえれば、この場の敵勢力は全滅したことになる。

 でもその前に、久しぶりに再会できたシロンに話しかけるほうが先だ。戦闘が終わるのを待っていた彼は、気絶しているスカリエッティの額に油性ペンで肉と書いていたが、フェイトが近寄ってくると笑顔で迎えた。

 

「シロン! 私の戦いはどうだった?」

「うむ! 実に立派なパイオツに育ったな! 眼福すぎてヨダレが出るほどだ!」

「って、そんなとこ見てたの!?」

 

 いやらしい目で見られていたことに気づいたフェイトは、顔を赤くしながら胸元を隠す。体のラインがくっきりと出てしまう真・ソニックフォームはシロンのエロ心をがっちりと掴んでいた。そのおかげで彼女の速度にもついていくことができたのだが……まったくもって能力の無駄遣いである。

 

「もう、相変わらずなんだから……」

「確かに、マスターは相変わらずの【女たらし】ですね。ここへ来る途中で出会ったいたいけな少女もお持ち帰りしてますし」

「えっ、それってどういうこと?」

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。我輩は彼女を【保護】したまでニャ。まぁ、面白カッコイイ我輩に一目ぼれしてしまった可能性もあるけど! そこんとこどーなっとるかね、チンクちゃん?」

「あんな出来事の後で惚れてたまるか!」

 

 シロンが背後に向けてアホな質問を問いかけると、少し離れた物陰から銀髪の小柄な少女が現れた。彼女は右目を眼帯で覆い隠しているが、シロンの中二病仲間というわけではない。この少女はギンガを拉致したナンバーズの1人である【チンク】という名の戦闘機人だ。

 

「あっ、お前は!?」

「フェイト・テスタロッサ……このような形で会おうとはな」

 

 手の平を掲げて抵抗する意思が無いことを示したチンクは、苦笑しながらフェイトたちの前に歩いてきた。

 彼女は1週間前におこなった地上本部襲撃の際に暴走したスバルによって重傷を負わされ、今回の決戦には参加することができなかった。そのため、これまでずっと生体ポッドに入って修復作業をおこなっていたのだが、予期せぬイレギュラーの登場によって彼女の運命にも変化が起きたのである。

 本来ならずっと生体ポッドに入ったまま事件の終幕を迎えるはずだった彼女は、数奇な運命の巡りあわせによってシロンと出会うことになった。

 

 

 スカリエッティたちがぶっ飛ばされる数十分前、アジトに突入したシロンとセフィは、フェイトと合流する前にトイレを探していた。ミッドチルダへ来る前に食べたアイスのせいでお腹を壊してしまったのである。

 

「ぐうぉぉぉお~! 最強の敵は我輩の中にいたようだ!」

「まったく、調子に乗って31個も食べるからです」

「なにをー! 男だったら全種類制覇すんのは当たり前ニャろうが! あはぁん!?」

 

 シロンは、必死に腹痛と戦いながら子供じみた反論をする。闇の書事件の時も同じようなことをやっていたのに、こういうことはまったく学習しない男であった。

 

「もうその辺で済ましたらどうですか?」

「いやいや、主人公がそんなことしちゃアカンでしょ! 最終決戦の場で脱糞行為に及ぶなんて前代未聞にもほどがあるぜ?」

「敵のアジトでトイレを探してる時点で、たいして変わらないと思いますけど」

「否! 外出しと中出しでは雲泥の差があるのだよ!」

「はぁ、そうですか」

 

 流石のシロンでも、そこまでの変態プレイは無理だった。いくらスカリエッティのアジトだからといってスカ○ロプレイはやばすぎる。立派な社会人としては、何としてもトイレを探し出すべきだろう。

 しかし、辺りは変な機械ばかりで人が住んでいるような生活感など微塵も無い。こんな所にトイレなどあるのだろうかと焦燥感を掻き立てられる。それでも、腹の痛みは容赦なく進行していく。このままでは、セフィの言うように最終手段に出るしかないかもしれない。

 

「なんたる不覚! この我輩がそのような羞恥プレイを強いられるとは!」

「自業自得ですけどね」

 

 かつてないほどに恐ろしい選択を迫られて、シロンの脳裏に緊張が走る。

 しかし、諦めかけたその時に救いの女神が現れた。理由はよく分からないが、戦闘機人と思しき1人の少女が航空型ガジェットドローンに乗せられてこちらに向かってきた。

 お分かりだと思うが、この少女はチンクである。

 

「くぅ! すまない、妹たちよ……不甲斐ない姉を許してくれ!」

 

 チンクは、大切な【家族】である妹たちを思って悔しそうにつぶやいた。実を言うと、この状況は彼女の意思に反して強制されたものだった。

 

 

 まだ治療中でまともに動けない彼女がここにいる理由は、スカリエッティのコピーを保護しようとしたウーノの独断専行によるものだった。彼女は、あまりに強いイレギュラーのせいであっけなく計画を潰されたため、生まれて初めて恐怖を覚えた。それがきっかけとなって、戦闘に参加していないチンクを逃がそうと考えたのだ。スカリエッティの存在こそがすべてであるウーノは、彼のコピーを残すために最善の方法としてこの行動を選んだ。

 

「チンクがやられたことは、ある意味幸運だったのかもしれないわね……」

 

 ウーノは、まるで人間のように再起の願いを込めてしてチンクを逃がそうとした。

 しかし、スカリエッティより妹に対する思いのほうが強くなっていたチンクは納得いかなかった。一連の状況を聞いた彼女は、逮捕された妹たちを残して逃げ出すことを拒否したのである。

 

「そんな……妹たちを残して私だけ逃げるなんて……!」

「ここまで追い込まれてしまっては仕方が無いのよ。でも、あなたが管理局の追撃を逃れてドクターのコピーを育てれば再起することも可能だわ」

「しかし、それでは妹たちは助けられない! ドクターはあの子たちを見捨てるだろう!?」

 

 人に近い感情を持っているチンクは愛しき家族の今後を思って叫んだ。

 確かに彼女の想像は正しい。ドクターのコピーが成長すれば再起することはできるかもしれないが、そこにチンクの愛する妹たちはいない。負けて研究された機体を奪還するより更に強い戦闘機人を新たに作ったほうが合理的だからだ。

 

「それではダメだ! 私はあの子たちを見捨てることはできない!!」

「ふぅ……教育担当を任せているうちにあなたも変わってしまったわね。家族の情などというバグが生じてしまっている今のあなたは、まるで人間みたいよ……。それでも、最低限の仕事はできるわよね? あなたもドクターに作られた戦闘機人なのだから」

「っ……!」

 

 チンクの意見は人として考えれば理解できる感情だが、スカリエッティに近い思考をするウーノがそんな人間らしい理由を受け入れるわけがない。非情な判断を下したウーノは、抵抗できないチンクをガジェットドローンで強引に連れ去ってしまった。

 

 

 そんな経緯で、このような状況になっているのだが……ウーノの思惑を超えて、イレギュラーであるシロンと遭遇してしまうという誤算が起こった。

 とはいえ、それは敵方の都合であって、今のシロンにとってはあらゆる意味で好都合である。

 

「ヒャッハー! あの子を捕まえて、お宝情報を手に入れるぜぇー!」

 

 シロンは、トイレの場所を聞き出すため……ではなく、手負いの状態で逃走しようとしているらしい戦闘機人を確保するために動いた。目にも留まらぬ速度で接近したシロンが、まともに身動きできない状態のチンクを小脇に抱えてすばやく離脱し、後に残ったガジェットドローンはセフィの電撃ですばやく破壊する。2人にかかればどうってことのない作業だった。

 突然連れ去られたチンクはしばらく呆然としていたが、自分を抱きかかえている青年を見てすぐに状況を把握した。

 

「……結局、管理局に捕らえられたか」

 

 シロンに抱きかかえられたチンクは、管理局に捕まったと思って観念した。認識阻害魔法のせいでシロンの姿が一般局員に見えているからだが、当のシロンはあっさりと否定した。

 

 

「それは違うニャ。我輩たちは正体を隠すために変装してるただの一般人さ!」

「一般人はそんなことしないだろ! それ以前に、管理局でも聖王教会でもないお前たちが何しにここへ来たというんだ?」

「そうだニャ……我輩たちがここに来た理由は、君たちを幸せにしてあげたいと思ったからだニャ」

「なんだと?」

 

 チンクは、状況にそぐわない返答を聞いていぶかしんだ。こいつは一体何を考えているのだろうか。先に逮捕されてしまった妹たちの行く末を気にしているチンクとしてはありがたい申し出だが、はたして言葉通りに受け取っていいものか判断が難しいところだった。

 彼の言葉は真実なのか偽善なのか、それとも……。

 

「なぜそんなことを思ったんだ?」

「ふっ。そんなモン、我輩が美少女の味方だからに決まってるじゃねーか!」

「なんだそれは!?」

 

 答えを聞いたら、たんなるおバカでした。

 

「お前はそんな理由でここまで来たのか!?」

「まぁ、普通なら考えもしないことだけど、今なら間違いではなかったと断言できるニャ。なぜなら、君が何かに迷っているように見えるからニャ!」

「っ……そんなことは……」

「無理に否定しなくてもいいニャ。君には何か悩みがあるのだろう? さっきも『不甲斐ない姉を許してくれ』とか言ってたし」

「っ!?」

 

 シロンの耳は地獄耳なので、ちょっとしたつぶやきでも聞き取ることができるのだ。

 

「なるほど、あれを聞かれていたのか……」

「そうだニャ。失礼だとは思うけど、君の抱えている悩みを聞かせてほしいのニャ。我輩たちは管理局に大きなコネがあるし、仲間の中には人妻の戦闘機人もいるから、しっかりとしたサポートをお約束できるニャよ?」

「なに!? 人妻の戦闘機人だと? その方は結婚しているのか?」

「おうとも! 旦那さんはアレだけど、娘さんは超可愛いぞ!」

「そう、なのか?」

 

 その話を聞いたチンクは、少しだけ羨ましいと思った。確かに、スバルとギンガのような環境にいればそのような暮らしも夢ではない。そんな戦いとは無縁の日常を可愛い妹たちと享受できたら、自分たちも変われるのだろうか?

 妹たちやゼストの世話を通して人間らしさを成長させていたチンクは、気づかないうちに平穏な生活に対して憧れを感じていた。

 

「(私たちにも人並みの幸せを手に入れることができるのか? しかし……)」

 

 この時点ではシロンのことを信用していいのか確証が無いため、なかなか踏ん切りがつかない。妹たちの今後を思えば素直に従ったほうがいいのだろうが、犯罪行為を犯してきた負い目が彼女にブレーキをかけてしまう。傷つけることしかしてこなかった相手から優しさを受けることが信じられないのだ。

 それでも、この不思議な男を信じてみたい気持ちが膨らんでいく。シロンと対話することで新たな可能性を見出した彼女は、スカリエッティという親元から巣立とうとしていた。

 

「……お前を信用できる証が欲しい」

「よろしい! そんな用心深い君に我輩の誠意を見せてあげよう!」

 

 そう宣言すると、早速シロンは行動を始めた。

 抱きかかえていたチンクをそっと床に下ろしてから彼女の頭に手を置く。それと同時に、念話を使ってセフィに合図を送り、久しぶりに彼女の力を使った。すると、重症だったチンクの身体が一瞬で完全修復された。

 いきなり起こった不思議な現象にチンクは驚いたが、彼の誠意は確かに見せてもらった。

 

「すごいな……あれほどの損傷が一瞬で直るなんて」

「ふふん、我輩は仲間の戦闘機人をメンテしてるから、このくらいお茶の子さいさいなのさ!」

「なるほど、その人は恵まれているな」

「なに、これからは君たちだって彼女と同じような幸せを得られるさ」

「……そうなれるといいがな」

 

 この時チンクはまだ見ぬ未来に思いを馳せた。この男に協力してもらえば、自分たちも戦闘兵器以外の生き方ができるかもしれない。いや、先輩がいるのだから可能なのだろう。

 無闇に傷つけあうこともなく妹たちと幸せに暮らせる……そう考えたら楽しい気分になってきた。

 

「どうだい? これで我輩を信じてもらえたかニャ?」

「そうだな、お前になら私の悩みを打ち明けてもいいだろう。でもその前に自己紹介をしておこうか。私の名はチンクだ」

「オッケーチンク! 我輩の名はシロンニャ!」

「そして、私はセフィです」

「シロンにセフィか……よろしくな」

 

 こうして、シロンのことを信用することにしたチンクはこれまでの経緯を話した。

 別の場所にいるウーノがチンクの体内にあるスカリエッティのコピーを逃がそうとしたことや、妹たちを守るために自分も逮捕されようと考えたが無理やり連れて行かれたことなど、これまでの出来事をすべて語った。

 その内容は衝撃的で、話を聞き終えたシロンは当然の如く激怒した。

 

「あんの不健全野郎がぁー! 甘美なエロ……もとい、神聖な子作りを冒涜しやがってー! その上、こんな幼女にまで種を仕込むとは、ロリコンだけでなく妊婦フェチまでイケるというのか!? こいつぁ、とんでもねー強敵のお出ましだぜ!」

「お前は一体何と戦っているんだ!? それに私は幼女ではない! ちょっと小柄なお姉さんだ!」

 

 さりげなく気にしていることを言われたチンクは、おバカなシロンの変態発言につっこんだ。

 確かに、よく聞くとおかしな内容なのだが、いずれにしてもスカリエッティの所業は決して許せるものではない。この後、チンクが齎した情報はフェイトたちにも伝えられ、変態のコピーは生まれる前に駆逐されることになる。

 スカリエッティに対する忠義が残っているチンクにとっては複雑な話だが、戦いに破れてしまったのなら仕方ないと思えるほどには冷静だった。クローン培養で生まれた彼女は、オリジナルとなった人物の性格が強く現れており、人間味を失っていなかったのだ。

 だからこそ、シロンの持つ温かい心を感じられる。

 

「捕まっておいてなんだが、この男、面白いヤツだな。もっと一緒にいたいと思えてくる」

「え? なんだって?」

「あっ、いや、今のはその……」

「そうかそうか、面白カッコイイ我輩と一緒にいたいニャか! 実に正直でよろしい!」

「って、聞き返したくせにぜんぶ聞こえてるじゃないか!? 大体、カッコイイとは言ってないぞ!」

 

 チンクのつぶやきを都合のいいように改ざんしたシロンだが、ヘタレな小鷹のように聞こえなかったフリをして女性の好意を拒絶したりはしない。

 そのおかげか更に好意を深めたチンクは、シロンに対して急速に心を開いていく。そして、ソレスタルビーイングの仲間たちと交流を始めた彼女は急速に人間らしさを成長させ、僅か数ヶ月でスカリエッティの呪縛を消し去ることに成功する。同時に、チンクに先導された妹たちも更正プログラムをそつなくこなして、2年ほどでお勤めを終えることになる。

 中には根っからの悪人や反省する意思が無い者もいるため、残念ながら全員とまではいかなかったが、そういう話は人間社会でも有りえることなので仕方がないだろう。

 

「……とにかく、これで知っていることは全部話した。その上で、妹たちのことを頼みたい。あの子たちにお前の言う幸せとやらを与えてやって欲しいんだ」

「分かったニャ。後のことはこっちに任せときんしゃい。ちょっとの間は不自由になるだろうけど、クロノにがんばって貰って刑期を短縮してもらうニャ」

「ああ、よろしく頼む」

 

 このセリフだけ聞くと思いっきり他力本願だが、もちろん彼自身もチンクとの約束を守って彼女たちの援助を積極的に行った。しかも、リニスと一緒に隔離施設へ足しげく遊びに行った結果、彼女たちにやたらと気に入られてしまったため、後に【さすがです、お兄様】という感じで慕われることになる。

 しかも、それがきっかけになってシロンに好意を抱いていたチンクが彼の恋人候補として名乗りを上げることになるのだが、今はまだ本人たちにも想像できないことだった。

 

「さて、これで一応話はついたわけですが……もう一つだけ確認しておきたいことがあるニャ」

「ん、なんだ?」

「ここから一番近いトイレを教えてオクレ! リミットブレイク寸前だから!」

「………………こっちだ」

 

 安心した途端に収まってたお腹の痛みが再発しだした。せっかくいい感じで話を纏めたのに、結局は下ネタに落ち着くシロンであった。

 

 

 チンクが現れてから数分後、彼女と合流することになった経緯を聞いたフェイトは、スカリエッティに対する怒りを更に深めた。どこまでも人の尊厳を踏みにじる酷い奴だと、亀甲縛りをされて仰向けに寝転がされている彼を睨みつける。ごらんの通り、今はシロンによって彼自身の尊厳が傷つけられているけど。

 

「まさか、こいつもブリーフ派だったとはな! それほどまでにブリーフ好きなら、このパンティを被らせて変態仮面にしてくれるわ!」

「ちょっと待って、そのパンティは誰のものなの!?」

「いや、気にする所はそこじゃないだろ?」

 

 男の汚い下着姿を見て気分が荒ぶったシロンはフェイトたちを困らせた。

 そんなアホなことをしている間に、シスターシャッハがセインを、ヴェロッサがウーノを確保していた。これでこの研究所にいる敵勢力は全滅したので、後は生体ポッドの中に囚われている人々を解放してあげるだけとなった。

 

「ここからは私と聖王教会のみんなで片付けるから、シロンたちは先に戻ってて」

「分かったニャ。はやてやクロノに事情を話してチンクたちの処遇を相談するニャ」

 

 いつの間にか痴話喧嘩を終えていた2人は真面目な会話をしていた。彼らだってやればできる子なのだ。

 しかし、せっかくやる気になった途端に新たな問題がやって来た。なんと、こんな時に例の猫召喚が発動してしまったのである。しかも、今回の猫たちはとんでもない奴らだった。

 

「これは……一体何が起きたんだ?」

「さっぱりわかんねぇよ。これからアニューの【ピー】を狙い撃つ瞬間だったってのに」

「うわっ、何て格好してるんだ!? 早く股間のスナイパーライフルをしまってくれ!」

「そ、そうだ! そのような卑猥なものを人前でさらすなど、万死に値する!」

「そう言いつつ、ちら見するのは止めて欲しいな」

 

 突然現れた猫たちは、来て早々に好き勝手なことを言い始めた。そんな彼らを見たシロンは、ギャグアニメのように目玉を飛び出させる。

 はたして、シロンを驚かせた彼らは何者なのか。とっても気になるだろうが、その正体を明かすのはもう少し先になる。

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