そこにユーリとマテリアル娘が関わって、面白かっこよくなります(?)
やっぱり、彼女たちを動かすのは楽しいですねぇ。
【聖王のゆりかご内部・王座の間】
聖王のゆりかご内でヴィータとわかれたなのはは、1人で艦首方向にある玉座の間へと向かっていた。
広い通路を高速で飛行しながらヴィヴィオのことを思う。恐らく彼女はゆりかご内のどこかにいる戦闘機人に操られ、強大な力を持った聖王として立ち向かってくるだろう。
「それでも、私は……全力全開で戦う!」
彼女の保護者となる決心をしたなのはは、不屈の心でもって我が子となるヴィヴィオに杖を向ける覚悟を固めた。理不尽な運命に翻弄される彼女を自らの手で救い出すために。
「待っててね、ヴィヴィオ。なのはママが助けてあげるから!」
怖い思いをしているだろう少女の身を案じつつ先を急ぐ。
その時、なのはの不安を煽るように聖王のゆりかごが大きく震えた。少し前にも左舷側から爆発らしき衝撃が伝わってきたが、今度の振動はそれ以上だ。
「一体何が起きたの!?」
はやてやアインスに念話を送って詳細を確かめたい所だが、航空部隊の要として戦闘指揮に集中している2人の邪魔をするわけにはいかない。
そもそも、なのはたちの任務達成こそが優先される今、必要でない限り外部の戦況を伝えないことになっている。そのため、逆に考えれば、報告しなくてもいい状況であるとも受け取れるが……あれほど凄まじい衝撃が無視できるものとは思えない。
「……ううん、こんなことで迷ってちゃいけないわ! 私も士官なら、もっと大局的に物を見なきゃ!」
そうだ、今は他の事に気をとられている場合ではない。私の任務は、ヴィヴィオの救出を最優先に行動すること……。そして、あの子と一緒に笑顔でみんなと再会する。作戦会議でもそう決めたじゃないか。
「だったら、先に進むしかない!!」
言葉にすることで改めて気合を入れ直す。
それでも不安は変えようが無いのだが……なのはの心配はまったくの見当違いだった。実際は被害者ゼロで駆動炉の破壊に成功した良い状況なので、作戦自体は順調に推移している。その代わりに、別の意味で頭の痛い問題が発生しているものの、事件後におこなうはやてのデスクワークが大変になるという話なので、あえてなのはに知らせる必要も無いことだった。
その当事者であるはやてはと言うと、ヴィータの安否確認のために思念通話をおこない、無事だった彼女から詳細を聞いてすべてを把握していた。
『そうかー。やっぱりあの子がやらかした……もとい、やってくれたんか』
『ああ。勝手に来たくせにあたしの見せ場をぶち壊しやがってよ。相変わらず空気の読めないヤツだぜ』
『なんだとぉ!? 貴様が手こずっていたからこそ、我がわざわざ手を下してやったのだぞ? そもそも、部隊長などと偉ぶっている小鴉が不甲斐ないゆえに、このような無様な状況に陥っているのだろうが! 貴様の指揮能力は、そのだらしない胸のようにいい加減なようだなぁ! はーっはっはっは!!』
『なっ、なんやてぇー!? 私のオッパイはモッチモチでバインバインな超美乳やでーっ!!』
『あ、主はやて、人前でそんなはしたない言葉を使わないで下さい!』
『モッチモチでバインバイン……私の胸はまだまだですね……』
アインスが狼狽しユーリが落ち込む中、はやてとディアーチェは場違いな口論を始めてしまう。そうしている間にもガジェットドローンを倒し続けているのは流石だが、はっきりいって大人気ない。しばらく荒ぶっていたはやても数分後には恥ずかしそうに大人しくなり、今はヴィータたちを助けに行く準備を進めている最中だった。
ユーリが来てくれたおかげで、ゆりかご外部の戦闘も余裕がでてきた。後は、アインスに指揮を引き継げば、はやても突入部隊に参加できる。
『とにかく、私がそっちに行って魔力を分けたるさかい、おとなしゅうして待っとってや』
『ああ、すまねぇはやて……』
『ふんっ、我は気が短いゆえ早急に来るがいい、魔力タンクよ』
『誰が魔力タンクやねん!』
はやては、弱っていても偉そうな態度を変えないディアーチェにツッコミを入れつつ、彼女たちの救援に向かう。2人の下へ一直線に続く大穴がゆりかごの後方に開いたので、そこから侵入すればすぐに合流できるだろう。
「……なのはちゃんへの連絡は、作戦通りやめとこか。ディアーチェの自爆だなんて、情けなくて言いたないし、便りのないのは良い便りとも言うしな」
何にしても作戦継続に支障がないので、当初の予定通り報告しないことにした。そのほうが余計な心配をかけずに済むと判断したからだが、ヴィヴィオを拉致されてナーバスになっているなのはは、はやての想像より不安を募らせていた。
なのはだってまだ19歳の少女だ。最強のストライカー級魔導師になったからといって完璧とは程遠い。どんなに努力をした所で、人がそんなに便利になれるわけはないのだ。当然ながら、魔王とまで言われるようになったなのはにも問題点は存在していた。戦士としては致命的にもなりかねない、優しすぎるという欠点が。
もちろん仲間の心配をする事は悪いことではないが、作戦次第ではあえて無視しなければならない時もある。隊長という役職には、そういった非人道的な決断力も求められている。受け入れ難い話だが、戦う力を振るうという事はそういうことなのだ。
しかし、幸せな家庭で愛されながら育ったなのはでは、そこまで非情になりきれない。そこが彼女の良い所であり欠点でもあった。
シロンに鍛えられたなのは自身には欠点を覆すだけの力があるのだが……だからこそ、自分のように頑丈ではない他の仲間が気になって仕方がなかった。自分がガンダムに乗っているのに、戦友がジムやボールに乗っていたら心配になるのは当然だろう。
本人たちが聞いたら怒りそうな話だが、事実なのだからしょうがない。
「ヴィータちゃんは大丈夫かな……」
なのはは、先を急ぎつつも相棒の安否を気にしていた。攻撃力の高い彼女でもこの短時間で駆動炉を破壊できるとは思えないが、目標付近で大きな爆発が起きたことは間違いない。
まさか、ヴィータも巻き込まれて大怪我をしているのではないか?
本来なら、戦闘に集中するために、余程の事がない限りは念話を送らないようにと決めていたのだが……先ほどの爆発は余程の事と判断してもいいだろう。
「やっぱり、ヴィータちゃんの声を聞かないと気がすまないよ!」
彼女の安否が気になったなのはは、少しだけ迷った末に念話を送ることにした。
余計な魔力を消費する上に敵に傍受される危険性もあるが、その懸念もヴィータが無事であればこそだ。だったら、まずは彼女の安否を確かめるべきだろう。
『スターズ02! ヴィータちゃん、応答して!』
『……………………スターズ01、こちらスターズ02……なんか用か?』
『ヴィータちゃん、無事だったんだね!』
『ああ……まぁな……』
一応ヴィータは肯定したが、どうにも様子がおかしい。やはり、先ほどの爆発に巻き込まれて怪我を負ってしまったのだろうか。ヴィータの異変に気づいたなのはは再度問いかけてみた。
だがそこで、思わぬ展開が起こった。
『本当に大丈夫? 大きな怪我してない?』
『心配すんな、たいした怪我はねぇよ』
『そうさなぁ、バリアジャケットが破けて貧相な身体が丸見えになっとるぐらいだな』
『えっ!? その声は……はやてちゃん?』
『ほざくな俗物! 高貴なる我と下賤な小鴉を間違えるなど言語道断ぞ!』
『あっ! その喋り方はもしかして……ディアーチェ!?』
声が同じだったので勘違いしてしまったが、この乱入者はもちろんディアーチェだ。そして、彼女がいると分かった途端にすべての謎が解けた。恐らく、先ほどの爆発は彼女の仕業だ。それならヴィータの怪我も心配はいらないだろう。たぶん。
『ディアーチェが駆動炉を破壊したんだね!』
『おうともよ! 主様より授かりし最強の魔法で軽く消し飛ばしてやったわ!』
『ついでに自分まで吹き飛ばして半裸状態だけどな』
『ふん! これはただ、我のナイスバディを貧相な貴様に見せつけておるだけよ!』
『なんだとっ!?』
『ほぉらどうだ、我の美乳は? 貧乳の貴様には垂涎ものであろう?』
『ちくしょー! 貧乳なめんなコラッ!』
『って、2人とも何やってんの!?』
真面目な話の途中で急に乙女の戦いを始めた2人にツッコミを入れる。せっかく心配してたのに、当の2人は半裸で喧嘩をしていたらしい。年頃の少女たち(?)がなにをやっているのやら。
『もう、こんな時にケンカしてる場合じゃないでしょ。今はまだ任務の途中なんだから』
『あ、ああ、すまないなのは……』
『フン! そういえば、我も貴様に用事があったことを忘れておったわ』
『私に?』
『そうよ。魔王である貴様と聖王とやらを駆逐して、我こそが真なる王であることを世界に知らしめてやるのだ!』
『はぁ、ほんとディアーチェらしい話だけど、今は止めて』
相変わらずな王様の様子に流石のなのはも呆れてしまう。
しかし、彼女が頼もしい仲間であることは間違いない。そして、恐らくは他の場所にも心強い仲間たちが向かっているはずだ。
『ディアーチェがいるってことは、シロンたちも来てるんだよね?』
『無論だ。主様は主犯の変態男をぶちのめしに向かわれたぞ』
『そう、フェイトちゃんのところに……』
それなら彼女は大丈夫だ。シロンはエロくてエロいエロ男だが、ピンチに陥っている美少女のためなら最強の紳士になれる。
なのはは、最初に出会ったときに助けてもらったことを思い浮かべながら笑みを浮かべた。あの愛すべきバカ猫が来てくれたのならもう何も心配は要らない。
『それじゃあ私もがんばらなきゃね!』
『おう、アタシもすぐに追いかけるぜ!』
『ううん、こっちは大丈夫だからヴィータちゃんたちは無理しないで。バリアジャケットが損傷するほどの衝撃を受けたんだから、結構なダメージを受けてるでしょう?』
『なんの、これしきのことで我が、痛ぁーっ!?』
強がったディアーチェの体をヴィータが触った途端に彼女は叫び声を上げた。目にはそれほど傷ついて見えないが魔力ダメージが大きいのである。加えて防御に魔力を使いすぎたため、バリアジャケットの修復すらままならない状態だった。
『ぐぉおー! 腕が、体が、ふとももがー!』
『はは……やっぱり、もう少し休んでから行くわ。もうじき、はやても来てくれるからよ』
『それなら、はやてちゃんが来るまでどこかに身を隠してて。女の子が半裸でうろついてちゃダメだからね?』
『ええい、なんと無様な! 塵芥なぞに気を使われるとは……』
『ふふっ……どうやらお出迎えが来たみたいだから、また後でね』
なのはは、すねるように負け惜しみを言うディアーチェに苦笑すると、迎撃に出て来たガジェットドローンの大群を見据えた。
よし、ここからは私の番だ。
ヴィータたちとの念話を終えると、なのははとある決断をした。
「こうなったら、出し惜しみ無しだよ!」
シロンたちの登場に触発されたなのはは、彼から託されていた切り札を使うことに決めた。少しだけ抵抗がある代物なのだが、彼らが動いた今なら存分に使える。
「ちょっと嫌だけど……今から私は、ガンダムになる!」
気合を入れてセツニャのようなことを言い出したなのはは、レイジングハートを左手に持ち返ると、右手で取り出したデバイスカードを発動した。
その瞬間、彼女の左肩に大型の盾が装備され、右手にはクリスタル状の刀身を持った剣が握られた。これらの非人格式・アームドデバイスはシロンが製作したもので、ダブルオークアンタの武装を魔導師用に改良したCNソードVとCNシールド――【CNウェポン】だった。装着後はレイジングハートが管制システムとなり、ケット・シーの魔法も発動できるようになる優れものだ。
更に、このCNシールドにはオリジナルと同様にCNドライヴが1基搭載されており、Sランク級の魔力をなのはに与える事が出来る。シロンが元の世界に戻る前に用意したものなのでツインドライヴとはいかなかったが、なのは自身がもう一つのCNドライヴと成り得るので、これでも十分以上だ。
「シロンにもらったこの力で……みんなの未来を切り開く!」
なのはは、通路を塞ぐように現れたガジェットドローンの大群に向けて強力な砲撃魔法を放つ準備を始めた。CNシールドにマウントされていたCNソードビットを展開し、CNソードVに合体させてバスターライフルモードにする。そして、膨大な魔力を込めた強烈な一撃を放った。
「貫け、ライザーソード!!」
勇ましい掛け声と共にピンク色の光がほとばしる。一直線に突き進んでいく光の刀身によってガジェットドローンの大群は一瞬で吹き飛ばされ、通路の先にあるものすべてにダメージを与えていく。後方で起きた爆発を考慮して威力は抑えたが、それでもAMFに守られた内部構造物を紙クズのように引き裂いてしまった。
なのはの使える最大級の砲撃魔法に匹敵するものが個人の資質に関係なく発動され、次元世界最強の巨大戦艦すら破壊してしまう。その光景はとても恐ろしいものだった。
「やっぱりCNドライヴって反則だよね……」
<I think so, too(私もそう思います)>
なのはたちは、あまりにもデタラメなCNドライヴの性能に改めて戦慄した。子供の頃にユーノが危惧していたが、今ならその気持ちも分かる。
しかし、これは守るために使えと託された力だ。ミッドチルダの魔法より非殺傷能力が優秀なこのデバイスを使えば、ヴィヴィオを必要以上に傷つけないで済む。ならば、何も躊躇することはない。
「行くよレイジングハート。私たちソレスタルビーイングに沈黙は許されないんだから!」
<All right(了解しました)>
ソレスタルビーイングに心を預けている1人と1基は、仲間との絆に後押しされながらヴィヴィオの元へと突き進んでいった。
その数分前、なのはを待ち伏せするべく玉座の間に近い通路を歩いていた【ディエチ】は、なのはと同様に船の震動を感じていた。
「この揺れはなに? クアットロ!」
『これは…………ちょっとばかり困ったことになったわね~……』
「困ったって、どういうこと?」
『どっかのおバカさんのせいで駆動炉が破壊されちゃったのよ! まったく、古代ベルカ最強の船がこんなに脆いだなんて、誤算もいいところだわ!』
「………………えっ?」
話を聞いたディエチは信じられずにポカンとしてしまう。戦闘を始めてからそれほど時間が経っていないのに、自分たちの切り札がピンチに陥ってしまっているのだから仕方ないだろう。
しかも、それを成したのは一番の強敵であるなのはではなく、正体不明のイレギュラーらしい。爆発の影響で駆動炉近辺の監視システムが使用不能になったせいで確かめられないが、恐らくは管理局の援軍だろう。
「……大丈夫なの、クアットロ?」
『も、もちろん大丈夫に決まっているでしょう!? 駆動炉を破壊した奴は爆発に巻き込まれたみたいだし、予備エンジンも自動修復システムもあるんだから、まだまだ行けるわ!!』
「でも……」
『いいから! あなたはあの白い魔王を全力で撃墜しなさい! アイツさえ落とせば、後はどうとでもなるわ。こっちにはまだ聖王様がいらっしゃるのですから』
「わ、分かった」
ディエチは、鬼気迫る様子のクアットロに気圧されながら通信を切った。船の状況も気になるが、確かに今は目の前に迫っている脅威を排除することに集中すべきだろう。自分たちの行いに負い目を感じている彼女としては気乗りしないが、家族を守るためだと割り切るしかない。
そのように思いふけりながら再び歩き始めたその時、先ほどよりも近い場所から2度目の震動が発生した。玉座の間に向かっているなのはがライザーソードを使ったのだ。
すぐさま被害状況を確認すると、船体前部の右舷側にある王族専用の居住区画が大ダメージを受けていた。個人が放った魔法とは思えない威力だが、状況から推測するとこれでも本気の一撃ではないはずだ。
「なっ!? 管理局の魔導師は化け物なのか!?」
人間離れしたなのはの力に戦慄する。彼女といい駆動炉を破壊した人物といい、規格外な人間ばかりだ。そんな者たちと戦わなければならないと思うと、それなりに実戦経験があるディエチでさえ初めて戦場に出て来た新兵のように震えてしまう。まさに、ア・バオア・クーでガンダムと遭遇してしまった学徒兵のような心境である。
自分に災厄を齎す白い魔王はすぐそこまで迫っているのに逃げ出すことはできない。こんな酷い戦いなど全然望んでいないのに……。理不尽すぎる現実を押し付けられたディエチは、馬鹿げた作戦を実行したスカリエッティを恨むのだった。
一方、影で魔王と恐れられているなのはは、通常射撃でガジェットドローンを排除しながら目的地へ向かっていた。そろそろ玉座の間が近いので、索敵に集中しようと考えたのである。これもシロンたちの特訓による賜物で、マ・クベに待ち伏せされたガンダムがいかに苦戦したかを懇々と教え込まれた結果だ。
「戦いとはいつも2手3手先を考えて行うものだったよね」
アムロも真っ青な特訓を思い出しつつ相手の戦法を考える。
これまでに得られた情報から推測すると、聖王のゆりかごには2人以上の戦闘機人がいるはずだ。1人はゆりかごと聖王を制御する役目を担い、他は侵入者に対する守備戦力として配置についていると思われる。
そんな彼女たちを見つけ出すにはワイドエリアサーチを使うのが定石だが、それだとサーチャーが直接アプローチする必要があるため時間がかかってしまう。その上、使用中はレイジングハートの能力が低下してしまうので、なるべくなら使わないようにしたいところだ。
「でも、大丈夫。今の私にはあの魔法が使える!」
なのはは、この状況に適したケット・シーの魔法を選択した。CNウェポンを装備したことで広域遠隔精神波拡大魔法【サイコミュ】を使えるようになったのだ。本来この魔法はビット兵器の性能をパワーアップさせるためのものだが、他人の精神波も感知できるので索敵でも絶大な効果を発揮する。
それならばと早速発動してみると……付近にいる人間の意識をすべて把握できた。
「見えるよ! 私にも敵が見える!」
ジオングに乗っているシャアみたいなことを言いながら周囲の意識を探る。玉座の間の近辺に恐怖と迷いが入り混じった感情を放っている者が1人おり、玉座の間の斜め下方にある区画に邪悪な気配を放つ者が1人いる。状況を考えればこの2人は戦闘機人だろう。彼女たちの意識を感じた瞬間にその姿も見えたので間違いない。以前、ヴィヴィオが乗っているヘリを狙撃した戦闘機人たちだ。
そしてもう1人、玉座の間にいる人物は……
「この感じ、ヴィヴィオね!」
もっとも強く感情を発している少女の存在はすぐに分かった。彼女は、恐怖に怯えつつ母親を求め続けている。母となって愛情を与えてくれたなのはのことを……。
「!? ヴィヴィオ!!」
一瞬だけ脳裏に写った、玉座に拘束されて苦しんでいる姿がとても痛々しい。聖王だとか鍵だとか勝手なことを押し付けて、ヴィヴィオのような小さな子をこんな酷い目に遭わせるなんて絶対に許せない!
どんなに正当性を主張しようと、彼らのやっていることは認めてはいけないものだ。人間の世界で生きていくには、未来を担う子供たちを慈しみ、大切に育てていくという生命のルールを遵守できなければならない。それを冒涜する奴は、人間とは相容れない歪んだ存在――人類の天敵となってしまう。
だからこそ、なのはは叫ぶ。
「スカリエッティ!! あなたのその歪み、この私が断ち切る!!」
CNソードビットで強化されたA.C.Sドライバーでガジェットドローンを粉々に切り裂きながら決意を口にする。
シロンの行った座学で強化人間の悲しい末路を聞かされていたなのはは、戦闘機人をネオ・ジオン軍のクローンニュータイプ・プルシリーズと重ねていたのである。生物である人間を戦闘マシーンにするなど決して許せるものではないと学んだ結果だ。
スカリエッティはともかく、戦闘機人の少女たちは人類の敵にしたくはなかった。スバルたちの未来のためにも、彼女たちの悪行を止めなければならない。いや、絶対に止めてみせる!
なのはがプルツーと戦っている時のジュドーのように熱血していた頃、守備配置についたディエチは、緊張と恐怖に包まれながらその時を待っていた。
彼女は待ち伏せに適した曲がり角に陣取っており、これなら流石のなのはでも対処できないと判断していた。固有武装であるイノーメスカノンの砲撃はSランク以上の威力があるので、直撃すればあの魔王でも撃墜できるはずだ。
「あんたに恨みはないけど……」
やらなきゃやられる。
ナンバーズの中でもっとも人間らしい優しさを持っているディエチは、幼い我が子を助けに来たなのはに対して同情していた。それでも、姉妹たちのために望まぬ戦いへと立ち向かわなければならない。
船内用のレーダーマップを左横に見ながらタイミングを計る。目標のなのはは、向かって右側の通路から高速で接近している。後は、回避不可能な瞬間に全力の砲撃を撃ち込むだけだ。
「5、4、3……」
直前でカウントを始め、2を口にした瞬間になのはが姿を現した。初めて見るデバイスを装備していることが気になるが、もう考えている時間は無い。
「……1、0」
ディエチはカウントを終えると同時にトリガーを引いた。その瞬間、右脇に抱えていた大砲から強力なエネルギー弾が撃ちだされた。
恐ろしい破壊力を秘めた赤い光がなのはに襲いかかる。高速で飛行している上に数百メートルしか離れていない至近距離での砲撃を避けるすべは無いはず。エネルギー弾が着弾した瞬間を見届けた時まではそう思っていた。
しかし――
「なにっ!!?」
勝利を確信しかけたディエチは、信じられない光景に目を見張った。どういう仕掛けか、エネルギー弾がなのはを避けるように拡散されてしまっているのだ。彼女を中心にして球状に展開されたバリアがあるようだが、普通の防御魔法とは違う。防ぎ止めているのではなく、エネルギーの進行方向を偏向しているように見える。あれではどんなに威力があってもまったく意味がない。
「そんなバカな!?」
「このIフィールドは、長距離ビームなんてどうということはない!」
なのはは、ディエチの驚きに対してドズル閣下のように受け答えた。
事前に戦闘機人が待ち構えていることを把握していたなのはは、全方位防御魔法・Iフィールドを展開していたのである。この魔法は進行方向をコントロールすることが難しいエネルギー攻撃の弱点を突いたもので、力場に触れたあらゆる粒子のベクトルを変化させ偏向してしまう。そのため、ディエチの攻撃は完全に無力化されてしまったのだ。しかも、本来のIフィールドと違って物理攻撃にも対応できるCNフィールドの効果もあるので、実弾を撃ち込まれても結果は同じだった。
いずれにせよ、ディエチの運命は砲撃を撃つ前に決まっていた。
「ひぃっ!」
「迂闊だよ!」
エネルギー弾をものともせずに直進してきたなのはは、防御反応の遅れたディエチを一喝しながらイノーメスカノンの砲口にCNソードVを突き刺した。その瞬間、撃ち出されるはずだったエネルギーが行き場を失って大爆発を起こしてしまう。
咄嗟に大砲を捨てて防御しようとしたが間に合わなかった。体の真横で起こった爆発に巻き込まれて為す術も無く吹き飛ばされたディエチは、壁面に叩きつけられた後にゴロリと転がって仰向けに横たわった。
空中に留まったままその様子を見つめていたなのはは、震えながら起き上がろうとしている彼女にバインドをかけて拘束する。まさに手も足も出ない圧倒的なまでの実力差であった。
「こ、こいつ……本当に人間か……?」
思わず本音が口に出てしまう。彼女には、目の前にいる少女が正真正銘の魔王に見えたのだ。しかし、ディエチの言葉を聞いた魔王はそれを否定する。
「そう思うのも当然かもね。今の私はガンダムだから」
「…………ガンダム?」
聞いたことのない単語を耳にして疑問符を浮かべる。よくは分からないが、敵対した者に恐怖を与えるものであることは間違いないと感じる。それほどまでに、なのはの言うガンダムという言葉には力が宿っていた。
「何にしても、あなたの戦いは終わったわ。おめでとう」
「おめでとうだって!?」
「ええそうよ。これであなたは新たな可能性を手に入れたのよ。人間の少女として普通に生きていく可能性をね」
「!? ……そんなことできるわけ!」
「できるわ。スバルやギンガを見れば分かるでしょ? それに、私の仲間には結婚して幸せに暮らしてる戦闘機人もいるし」
「け、結婚!?」
いきなり場違いな単語が出てきてビックリしてしまう。まさか、そんなに馴染んでる同族がいようとは思いもしなかった。
「だから、決して諦めないで。あなたが姉妹に抱いている優しさを私たちにも示してくれたら、世界はがらりと姿を変えるわ。だって、世界はこんなにも簡単なのだから」
そう言うと、なのはは優しさを込めてディエチの頭を撫でた。
つい先ほどまで殺し合いをしていた相手でも優しさを持って対話すれば分かり合えることもできる。なのはは、シロンから聞いたアムロとララァのやり取りをやたらと美化して記憶していたため、話の分かりそうな相手の場合はそれを実践していたのである。
もちろん成功率はとても低いのだが、運のいいことに元々優しい心を持っていたディエチには効果抜群だった。
「それじゃあ、後から来る突入隊が安全な場所まで護送してくれるから、ここで大人しく待っててね?」
「はい、分かりました……お姉さま」
「(お姉さま?)」
どうやら効果がありすぎたようだ。
バインドに縛られた状態だった所を考えると、自身の自由を奪っているはずの犯罪者に好意を抱いてしまうストックホルム症候群というヤツになっているのかもしれないが、なのはは別に悪い人間ではないので大きな問題は無いだろう……たぶん。
上手にディエチを手なずけたなのははそのまま勢いを止めることなく進み、数分足らずで玉座の間へとやって来た。閉じた扉を砲撃魔法で吹き飛ばして乱暴に押し通る。
中は意外と殺風景で、空戦もできるくらい広大な空間が広がっていた。そして最深部に目を向けると、いかにもな作りの玉座が見受けられる。そこにヴィヴィオが拘束されており、その隣には彼女を操る役目だろうメガネをかけた女性がいる。無論本人ではなく、なのはを弄ぶために用意した立体映像だ。
実際は既に見破られているのだが、人間を侮っている彼女にそんなことを想像できるわけもなく、小馬鹿にしたような口調で話しかけてきた。
「いらっしゃ~い、お待ちしておりましたぁ~」
相変わらず、すべての人間を見下すような態度で接してくる。しかし、内心ではいつもの余裕はなく、冷や汗をかくほどに焦っていた。なぜなら、なのはが来る前にかなりの戦力がやられてしまっていたからだ。
地上本部を目指していたナンバーズは短時間の内に全員捕まってしまった。当てにしていたルーテシアも戦果を上げられないままやられてしまい、挙句の果てにはゆりかごの駆動炉まで破壊されている。
死にかけのゼストと指示を聞かないアギトは当初から戦力外扱いなので、襲撃部隊は実質的に全滅、聖王のゆりかごも最終防衛ラインにいたディエチが突破されて危機的な状況に陥りつつあった。
この時点ではまだシロンとチンクが話し合っている頃なのでアジトの方は健在だったが、あまり救いにはならなそうだ。正体不明の増援部隊が全員そちらに向かってくれれば自爆プログラムで吹き飛ばせるかもしれない。しかしそれは儚い希望に過ぎないだろう。最大の目標が聖王のゆりかごである以上、十中八九こちらへ集まってくると思われる。そうなれば、たとえ聖王の力をもってしても勝てるかどうか分からない。
つまり、このまま戦っても敗北する可能性が高いのだ。いつもの彼女だったら自分だけでも逃げ出すところだった。
「(それでも、今回ばかりは逃げられないのよ。ドクターの夢を、私たちの楽園を実現するためには、聖王のゆりかごが必要なんだから!)」
危険を冒してでもこの場を放棄する気は無い。スカリエッティと同じくらい狂っている彼女だが、夢に向けるひたむきな情熱だけは人間らしかった。その内容はかなり酷いものだが。
「まったく、愚かな人間のクセにくだらない悪あがきばかりしてみっともないですねー。あなたのお仲間もかなりしぶといようですし……どいつもこいつも、本当に腹が立つわ!! 虫けらみたいに目障りなんだから、さっさと死になさいよ!!」
追い込まれて怒りの感情を抑えられなくなったクアットロは、これまで隠していた本性をむき出しにしてきた。スカリエッティの冷酷さや遊び心を強く受け継いでいる彼女は、生まれながらに人類の天敵だった。彼女は、悪意の無いELSより化け物に近い存在なのだ。
だからこそ、喜びながらヴィヴィオを苦しめることができる。
「時間があったら存分にあなたをいたぶってあげようかなって思っていたけど、これだけでも楽しい余興になるわねぇ!」
なのはが投降を呼びかける前にクアットロが動いた。ヴィヴィオをゆりかごに強制連結させることでレリックウェポン完成体・聖王ヴィヴィオとして覚醒させようとしたのである。本来の歴史ではねちっこく絡んできた後に行うのだが、余裕の無いこの歴史では問答無用でやり始めた。
無意味な立体映像を消して準備を整えると、彼女は嬉しそうな声を上げた。ついに、待ちに待った瞬間が訪れたのである。
『さぁ、よ~く御覧なさい。あなたの可愛いヴィヴィオちゃんが私たちの王になる瞬間をね!』
「なっ!?」
クアットロが最後のキーを叩くと玉座の両隣に浮いていた球体がスパークし始め、その直後にヴィヴィオの体から虹色の魔力光が噴出した。凄まじい圧力で、近くに立っていたなのはを後方に押しとばす。
「くっ……うわぁっ!」
『ふふふ、これが古代ベルカ王族の固有スキル【聖王の鎧】ですか。とても素晴らしい力ですね。流石は世界を滅ぼした聖王の末裔といったところでしょうか。まぁ、正確に言うと聖王の残りカスから作ったコピー品にすぎませんけど』
「あなたって人はっ!」
『あらぁ、怒っていらっしゃるのですか? ここは感謝してもらうべきところなんですけどねぇ。親切な私たちがあなたの娘を究極の生体兵器・レリックウェポンとして完成させてあげたのですから!』
精神的に余裕がなくなって更に狂気の度合いを増してきたクアットロは、下品な笑みを浮かべながら愉悦に浸る。ヴィヴィオを人質に取られているため、先ほどから彼女のやりたい放題で、なのはは後手にまわされっぱなしだ。
もちろん助けようとはしているが、聖王の鎧が邪魔して前に進めない。CNドライヴを使って最大級の砲撃魔法を放てば破れないこともないだろうが、この状況では射撃体勢も取れない。
ここに来て、なのはは自分の迂闊さを呪った。恐怖と悲しみに苦しんでいるヴィヴィオの意識に気を取られて無策のまま突入してしまったが、先にあの戦闘機人を無力化しておくべきだった。せっかくクアットロの居場所を掴んでいるのに野放しにしてしまうなんて、失策もいいところだろう。
なまじ人の意志が感知できたばかりに、こんな悲劇を招いてしまうとは。ララァを失ったシャアのような心境になってしまう。愛しい我が子の身を案じる母親としては正しい行動なのだが……。
「ママッ、ママーッ!!」
「ヴィヴィオ!?」
なのはが後悔している間にヴィヴィオの状態が変化した。虹色の魔力を一際大きく放出して玉座全体をホワイトアウトさせた後、これまで不規則に荒れ狂っていた魔力をまとめて彼女の体を包み込んだのである。
戦場で再会し、敵対することになってしまった悲しい親子の姿。そんな悲劇を、玉座より更に奥にある【もっとも安全な】場所から鑑賞しているクアットロは、自分が追い込まれていることも忘れて楽しんでいた。
全裸になって空中に浮いているヴィヴィオは、ルーテシアと同じ洗脳処置を施された影響でおぼろげな意識の中を漂っている。後は、なのはに対する敵意を与えて戦う意思を持たせればいいだけだ。
「(いいわよ聖王さま。あなたの力があれば、まだ何とかなるかもしれないわ)」
ヴィヴィオの潜在能力に魅了されたクアットロは再び希望を見出し始めた。駆動炉を破壊されたとはいえ、こんな時のために用意していた装置があるのでまだいける。余ったレリックを使用した魔導ジェネレーターから送られる魔力は、駆動炉に及ばないとしても十分絶大だ。それと彼女自身に備わっているレリックウェポンの力を合わせればSランクオーバーの魔導師を圧倒できる。これなら、あの恐ろしい魔王でも倒すことができるだろう。
だが、そんな彼女の希望は儚い夢でしかなかった。ヴィヴィオに向けて悪意を込めた言葉を告げようとしたその時、超巨大な魔力の刃がゆりかごの外装を突き破ってクアットロのいる区画まで貫通してきたのである。
ズガァ―――――ンッ!!!!!
「きゃあ―――!!?」
突然信じられない事態に陥ってしまったクアットロは、思わず普通の少女のように悲鳴を上げた。一体何が起きたのか理解できずに呆然となって動きを止めてしまう。
すると、大きな風穴を開けられて外部と直通になった内壁から2人の少女が現れた。
「ここだな、真のラスボスがいるフロアは!」
「間違いありません、この部屋から邪悪な意識を感じます!」
可愛らしい声で勇ましい話をしている少女たちはユーリとレヴィだった。あっさりルーテシアを倒して遊び足りないレヴィはトランザムでこの場に急行し、ユーリと一緒に真のラスボスを倒そうと考えたのである。洗脳されたヴィヴィオを制御している存在がいることは分かっていたので、そいつを倒せばなのはの手助けになると思ったのだ。
ユーリが使える広域遠隔精神波拡大魔法・サイコミュで強い敵意を感知した結果、クアットロを真のラスボスと確定して、外部から直接乗り込むことにした。その成果がこれである。
因みに、先ほど壁抜きをした攻撃もユーリの魔法で、エターナルセイバーの上位技である【イデオンソード】を使って一気に貫いてきた。この魔法はエターナルセイバーの術式を改良し、魔力を込めた分だけ威力が上がるよう上限設定を変更してあるものだ。魔法としては単純な部類に入るが、膨大な魔力を与えてくれる永遠結晶エグザミアを持ったユーリにとっては最強の魔法とも言える。
何にせよ、遊び心一杯なレヴィのせいでクアットロがもっとも恐れていた状況になってしまったことは間違いない。クアットロ自身も歪んだ遊び心を抱いてヴィヴィオたちを苦しめていたので、因果応報であるとも言えるが。
「なっ……何なのあいつら!? ゆりかごの装甲を突き破ってくるなんて、こんなのデタラメすぎよ!?」
目の前で起きた事実を未だに受け入れられないクアットロはヒステリックに叫んだ。だが、そのせいでレヴィに見つかってしまい、現実を直視せざるを得なくなってしまう。
「ふっふっふ~! どうやらキミが真のラスボスのようだね!」
「ひぃっ!?」
「おっと、逃げ出そうだなんて思ってもムダだよ? ラスボスからは逃げられないってのがお約束なんだから! ……あれ、それだとボクがラスボスになっちゃうぞ?」
「ふふっ、確かに今はそんな感じかもしれませんね」
「あーでも、この船壊しまくってるユーリのほうがラスボスっぽいかも! っていうか、実際にラスボスしてたモンね!」
「え~? そんなことしてませんよ~」
「(こ、こいつら、こんな時になに言ってんの!?)」
敵地の真っ只中なのにのん気な会話をする少女たちに対して、呆れると同時に恐怖を感じる。ようするに、それほどの実力があるということなのだ。
その事実をようやく受け入れたクアットロは、急いでヴィヴィオを覚醒させようとした。どう足掻いても自分はやられるだろうが、これだけはやり遂げないと格好がつかない。いわゆる、悪の矜持というヤツだ。
「陛下! 目の前にいるそいつはあなたのママをさらった悪魔です! 本当のママに会いたいなら、そいつを倒さなければなりません! だから、今すぐ力を解放して、その魔王をぶちのめしてくださいな!!」
クアットロは、開いたままだった通信画像に向かって覚醒の条件となる言葉を叫んだ。そして、それを聞かされたヴィヴィオは、とうとう聖王として目覚めてしまう。一瞬で大人の体に変身した彼女は、黒いボディスーツとジャケットを身にまとってなのはの前に立ちはだかる。古代ベルカ最強の王が、今ここに復活したのである。
まぁ、シロンの世界に行ってELSとの戦いを経験したユーリとレヴィにとってはどうってことのないことだったが。
「むむむ!? なんかよく分かんないけど、悪いことしてるみたいだから、とりあえずぶった切る!」
「ぐはぁっ!!?」
「まだだ! キミが泣くまで切り裂くのを止めない!」
「もちろん私もお手伝いしますよー!」
「ひぃぃ――――――――――ッ!!!!!」
クアットロの悪意を感じ取った2人は、彼女をフルボッコにしてやった。容赦ない近接攻撃の嵐を受けたクアットロは恐怖と痛みに苦しみながら気絶してしまい、その結果、彼女に制御されていたヴィヴィオの洗脳もあっさりと解けてしまった。
一方、玉座の間にいるなのははものすごく途惑っていた。離れた場所での激しいやり取りによってヴィヴィオにもめまぐるしい変化が起きているからだ。
急に大人の体になって自分に敵意を向けてきたと思ったら、今度は急に頭を抱えて苦しみだして、元の意識を取り戻した。
どうやら、ヴィヴィオを制御していたクアットロがユーリとレヴィにやられたようだ。未だにつながったままの通信画像に当の2人が写っているので間違いない。その際、ちらりと見えたクアットロはなぜか半裸状態で目が【33】になっていたが、とりあえず見なかったことにした。
『イエーイ! 真のラスボス討ち取ったりー!』
『ブイッ、なのです!』
「2人とも相変わらずだね……」
『ところでなのは! ボクたちはこの後どーすればいいのかな?』
「とりあえず、あなたが踏んでる戦闘機人を拘束して、船の外に連れ出してくれるかな?」
『オッケー、亀甲縛りでガッチリ御用だ!』
『それはダメですよレヴィ。露出した胸元は隠してあげないと流石に可哀想ですよ』
『ん~、じゃあ普通のバインドでグルグル蒔きにしちゃおう!』
「……穏便によろしくね」
久しぶりに再会した仲間の壮健ぶりに苦笑する。だが、安心するのはまだ早い。クアットロの制御を離れたとはいえ、ヴィヴィオはまだ聖王モードのままなのだ。
彼女のことが気になったなのはは慌てて傍に駆け寄った。どうやら意識は戻っているようだが、まだ様子がおかしい。
「ヴィヴィオ!」
「なのは、ママ? ……ダメ、逃げて―――!!」
突然叫び声を上げると、近寄ってきたなのはに向けて正拳を放った。その不意打ちを咄嗟に張ったプロテクションで防ぎ、後方に吹き飛ばされることで衝撃を和らげたが、精神的な衝撃は防ぎきれない。
なぜ意識を取り戻したヴィヴィオがそんなことをするのか。その理由は、ゆりかごの【自動防衛モード】が発動したからだ。鍵である聖王が昏倒、あるいは戦意を喪失した場合、本人の意思とは関係なく敵を排除するまで戦闘を継続させるプログラムが発動してしまう。替えがきく聖王より貴重なゆりかごを優先して守るように設定されているため、このような非人道的な機能が備わっているのだ。この船は、人間性を捨てることで技術を発展させていったアルハザードが作ったものなので、彼らの性質が大きく反映されてしまっているのである。
それに加えて、自分の正体に気づいてしまったヴィヴィオ自身もなのはを遠ざけようとしていた。この船を動かす部品として生み出され、大好きな人たちを傷つけてしまっている自分の存在に負い目を感じているのだ。
なのはのもとに帰りたいのに体も心も言う事をきかない。ヴィヴィオの心は深い悲しみに囚われようとしていた。
「……ダメなの?」
体の自由を奪われ、悲しみを癒すすべもないヴィヴィオは、ただ嘆く事しか出来なかった。
その間に、ヴィヴィオの体から展開された戦闘プログラムが玉座の間を覆い尽くす。これによって室内の空間すべてをセンサーと化して、敵のデータを余すことなく聖王の体に伝え、適確な行動を取らせるのである。
「ヴィヴィオ、もう帰れないの?」
絶望しかけている彼女がそうつぶやいた直後、ゆりかごの管制システムが自動防衛モードの発動を知らせる警告アナウンスを行った。感情のない音声が船内に響き渡り、それを聞いている者たちに焦りを与える。
もしこの場にシロンがいたら「なんでドイツ語やねん!」などとつっこんで場を和ませただろうが、現在彼はスカリエッティのアジトでトイレをお借りしているところだ。
ゆえに、ヴィヴィオを救う役目は、本来の歴史通りなのはが受け持つことになるはずだった。 ――彼女が来るまでは。
「CNルベライト!」
「「えっ!?」」
突然発せられた第三者の声を耳にした途端に、立ち尽くしているヴィヴィオの足元から光の紐が現れて彼女の体を拘束した。
そのバインドは、なのはの使う捕獲魔法・レストリクトロックとほぼ同じものだが、少しだけ改良されていた。CN粒子を加えることで術式の解析を阻害し、バインドブレイクによる破壊を不可能にする仕掛けが施してあるのだ。
つまり、この魔法を使うにはCNドライヴかCNコンデンサーが必要となるのだが、そんな物を持っていてなのはの魔法も使える人物は……世界に1人しかいない。
「シュテル・ザ・デストラクター、宿命のライバルを援護するため、ここに推参いたしました」
「ええっ!?」
「なのはママが……2人いる――――――!!?」
いつの間にか侵入していたシュテルを見て、高町親子は仲良く驚いた。実は彼女も、レヴィと同様にトランザムを使って急行してきたのである。スバルにギンガのことを任せた後、ライバルであるなのはの手助けをしようと思い立って駆けつけたのだ。
「助けにきてくれたの?」
「はい、そうです。この子があなたの娘なら私の娘も同然ですので、黙って見ているわけにはまいりません」
「シュテル……ありがとう」
「いいえ、礼には及びません。先ほども言ったように、この子は私の娘なのですから」
「ううん、ヴィヴィオは私の娘だから礼を言うのは当然だよ」
「いえいえ、この子は私とシロンの娘ですから、他人のあなたに礼を言われる筋合いはまったくありません」
「って、さっきと言ってることが変わってるよ!? それに、なんでシロンが出てくるのよ!」
「改めて問われると恥ずかしいのですが、既成事実の捏造です」
「思いっきり本音が出てるよ!?」
再会して早々にコントを始める仲良しな2人。元々お茶目なところがあったシュテルは、シロンと一緒にいるうちに毒舌系の冗談を言うようになっていた。それと同時に、なのはのほうもシロンたちと付き合っているうちにギャグ寄りの人間になっていたため、違和感なくツッコミを入れまくっているのである。もはや魔法少女らしい雰囲気ではないが、元々魔法少女らしくない話なので丁度いいくらいだろう。
とはいえ、いつまでもふざけている場合ではないので、そろそろ真面目モードに移る。
「さて、冗談はこのくらいにしておいて、早速本題に入りましょう」
「なっ!?」
突然なのはは驚きの声を上げた。なぜかは分からないが、シュテルにバインドをかけられてしまったのだ。
「なにをするの!?」
「申し訳ありませんが、しばらく大人しくしていてください。あの子に魔法を撃ち込む役目をあなたにやらせたくはありませんので」
「えっ、まさか……」
「あの子を助けるためには、親であるナノハも辛い思いをする必要があります。でも、同じ存在である私なら、その痛みを分かち合うことができます」
「シュテル……」
「だから、この場は私にお任せください。後の役目はあなたにお願いします」
「…………うん、分かった。あの子を、ヴィヴィオを助けてあげて!」
「その願い、承りました」
なのはの言葉を受けたシュテルは微笑を浮かべて頷くと、ヴィヴィオの方へ振り向いた。特殊なバインドを破壊することができずにもがいている彼女は、2人のなのはを困惑した表情で見つめていた。
「あ、あなたは誰? なのはママの姉妹なの?」
「いいえ違います。私とナノハは別人であり本人でもある、血縁を超えた存在です」
「もしかして、あなたもクローンなの?」
「ええ、そのように捉えてもらっても間違いではありません」
「そうか……それじゃあ、私と同じコピーなんだね。この船を動かすために作られた聖王の偽物である私と!」
「いいえ、その認識は間違っていますよ。たとえナノハと同じ体でも、私の心は私だけのものです。あなたの心が、ナノハを愛しているヴィヴィオのものであるように」
「っ!!?」
偽りの無い真実を語るシュテルの言葉を聞いたヴィヴィオは大きな衝撃を受けた。彼女の言う通りなのはを思う心だけは偽物ではないと断言できる。だが、生体兵器である自分が彼女たちと共に生きていけるはずがない。
その事実に耐えかねたヴィヴィオは、駄々を捏ねる子供のように思いのたけをぶちまけた。自分はこの船を飛ばすためのただの鍵であり、玉座を守るための兵器に過ぎない。悲しいのも痛いのも、全部偽物の作り物なんだ。
だから――
「私はこの世界にいちゃいけない子なんだよ―――!!」
「そうですね。確かにこの世界にいるべき存在ではありませんから、綺麗に焼却して差し上げましょう」
「「えっ!?」」
「ちょ、ちょっとシュテル! この流れで、どうしてそうなるのよ!?」
「疑問を感じますか? 元々私たちは、この世に破壊と混沌を齎すために生み出された存在なので、それほどおかしな話ではありませんけど。それに私は、ヴィヴィオを消そうと考えているわけではありませんよ?」
「あっ……」
そこまで聞いてなのはは察した。シュテルが壊そうとしているのは、ヴィヴィオではなく彼女を苦しめている聖王の呪縛だ。確かにシュテルは破壊と混沌を受け入れているちょっとおっかない美少女であったが、その思いは未来へ進む力でもある。
破壊があるから創造が起こり、混沌があるから多様性が発生する。そして、それらが進化へと繋がり世界を広げていく。そもそも、人というものがそんな世界から生まれてきたのだから、シュテルたちのあり方は人間そのものであるとも言える。
ならば、ヴィヴィオのことを任せてもいいはずだ。
「そんなわけで、死に損ないの聖王を地獄の炎で昇天させます。苦しいのは一瞬だけですが、死ぬほど熱いのでご覚悟くださいね」
「ひぃっ! この人すごく怖いよぉ……ママ、助けて―――!?」
「……大丈夫、よね?」
かなり心配になってきたが、バインドが解けないので成り行きを見守るしかない。
ルシフェリオンを新たな砲撃形態であるブレイズモードにして身構えたシュテルは、CNユニゾンビットを使って闇属性と雷属性を自身の魔法に加えた。彼女の使える最高の砲撃魔法を撃ち出すつもりなのだ。
「集え、軍神! すべてをかき消す力を振るえ! 神・ルシフェリオンブレイカー!!!」
闇・雷・炎の3つの属性が加わったエネルギーがルシフェリオンの前で膨れ上がり、シュテルの詠唱が終わると同時に発射された。
黒い闇と青い雷をまとった真紅の砲撃が身動きできないヴィヴィオに炸裂する。射程を短く設定してあるので床を撃ち抜いてしまうことはないが、威力は十分にあるため爆心地は大きくえぐれてクレーターができている。それだけ多くのエネルギーがヴィヴィオに集中するように調整してあるのだ。駆動炉を破壊され、力が激減している状態では耐えられるものではなかった。
「ブラストシュート!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――………………」
赤色に輝く激しい光の中で、ヴィヴィオの体内に埋め込まれていたレリックコアが放出され、崩壊していく。魔力の塊であるレリックは強力な魔力ダメージで圧倒すれば爆発させずに破壊できるのだ。それと同時にゆりかごとのリンクも消えて、今度こそ本当に自由を取り戻すことができた。
この瞬間、聖王は再びこの世界から消滅した。
「ヴィヴィオ!」
バインドを解かれたなのはは駆け足でヴィヴィオの元へ向かう。クレーターの縁まで近寄って見ると、子供の姿に戻った彼女がうつ伏せに倒れている。非殺傷魔法のおかげで怪我は無いが、魔力ダメージの影響で体に力が入らないはずだ。それが分かっているなのはは当然助けに行こうとする。だが、それを察したヴィヴィオが助けを拒んだ。
この時彼女は思い出したのだ、転んでも1人で起き上がれるようになると約束したことを。
「1人で立てるよ……」
力の入らない体を母親譲りの強い意志で懸命に動かす。よろよろと起き上がり、近くにあった残骸に捕まりながら何とか立ち上がってみせた。
「強くなるって約束したから……」
「っ!!」
あまりにも健気な姿に感極まったなのはは、目に涙を浮かべながらヴィヴィオを抱きしめた。実に感動的な光景である。
ただ、近くで見ていたシュテルは違った見方をしているようだ。
「なるほど、ガンダムMK-IIの育成は既に始まっているのですね」
「違うわよ!!?」
冗談ではないと強く思ったなのはは、速攻でツッコミを入れた。あんな恐ろしい特訓をヴィヴィオにやらせるわけにはいかない。自身の経験を思い出した彼女は当然のように否定した。
しかし、なのはの危惧は別の形で現実となってしまう。これより2年後、格闘技に興味を抱いたヴィヴィオはシロンに教えを請うことになるのである。ヴィヴィオ自身の意思で決めたことなのでなのはも了承するしかなく、彼女はある意味でガンダムを超えた存在であるマスターアジアを目指すことになる。
「……何か一瞬、すごい未来が見えた気がしたけど、見なかったことにしよう」
「?」
恐ろしい形で自分を超えようとしている娘に戦慄しつつ、今は無事に取り戻せたことを喜ぶ。駆動炉と聖王を失ったゆりかごは上昇速度を極端に低下させたので、次元航行部隊の攻撃は十分に間に合う。後は彼らが到着する前にここから脱出するだけだ。
しかし、こういう時に問題が起こるのはお約束であり、それを知らせる警告アナウンスが再び流れ始めた。自動防衛モードの最終段階に移行しはじめたのである。
何やら嫌な予感がして身構えているうちに、増援として突入したはやてがやって来た。彼女はヴィータとディアーチェに接触して先に船から離脱するように説得すると、今度はなのはを助けるために1人でここまで飛んで来たのだ。
「なのはちゃん!」
「はやてちゃん!」
お互いに無事を確認して名前を呼び合う。すると、同じタイミングで船内に強力なAMFが発生し、魔力リンクがすべてキャンセルさせられた。飛行魔法も使えなくなり、彼女たちは普通の少女となってしまう。乗組員の安全のためかバリアジャケットだけは消失しないが、この場合気休め程度でしかなかった。
しかしそれは普通の魔導師ならばの話であり、CNドライヴを持っているなのはたちには関係ない。CN粒子ならAMFによる干渉を受けないので飛行も攻撃も可能なのだ。
ただし、トランザムを使ったシュテルのCNドライヴは出力が低下しているため、消費していないなのはに護衛を任せて、彼女はヴィヴィオとはやてを抱えていくことになった。
「……ハヤテの胸はディアーチェより小ぶりですね。栄養はしっかりと取っていますか?」
「あんたは私のオカンかい!?」
まぁ、何はともあれ作戦内容は整った。後は行動あるのみである。
するとその時、またしても警告アナウンスが流れた。ちょうど出鼻をくじかれるようなタイミングで嫌な感じがしたが、生真面目ななのはは反射的に耳を傾けてしまう。学校とかで真面目に校内放送を聞かない男子を注意する委員長タイプだったことが仇となった。
「ナノハ、船内放送など無視して急いだほうがよろしいですよ?」
「あっ、うん、そうだねシュテル……って、既に部屋から出てるし!」
「それは当然でしょう。こういう場合、閉じ込められる可能性が非常に高いですから」
「……ええっ!?」
「なのはママ、早くこっち来て!」
「う、うんっ!」
シュテルの言葉でシロンたちと遊んだホラーゲームを思い出したなのははすぐに飛翔した。あの時は怖がるフェイトをみんなで煽って楽しんだが、実際に自分自身が同じ目に遭うのは真っ平ごめんだ。しかし、僅かな差で間に合わず、彼女の目の前で出口が塞がってしまう。警告アナウンスの言う通り破損内壁の応急処置をしたのだが、そのせいで彼女は閉じ込められてしまった。
とはいえ、なのはは非力なゲームの主人公とは違う。そんな急ごしらえの壁など彼女の前では紙も同然である。CNソードⅤですばやく切り刻むと男前な様子で近づいてきた。
「ガンダムの力は伊達じゃないよ!」
「うわぁー、なのはママかっこいいー!」
「う~ん、確かにかっこいいんやけど……」
「もはや魔法少女ではありませんね」
言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごい自信を感じる。まさにガンダムと化しつつあるなのはを見て、ヴィヴィオは目を輝かし、はやてとシュテルは肩をすくめる。
何かもう次元航行部隊が来る前にゆりかごを破壊できそうな勢いだが、とりあえずクロノたちにも仕事を残しておかなければと思うはやてであった。
シュテルたちが脱出を始めた同時刻、はやてにゆりかご外部の戦闘指揮を任されていたアインスは、後から合流してきたリインとユニゾンしてガジェットドローンと戦っていた。一旦は停止したものの、自動防衛モードの発動で再起動したのである。
とはいっても作戦自体はほぼ完遂している。後は突入部隊の帰還を待つだけだ。
レヴィたちがクアットロの確保に成功したことを確認したため、航空魔導師隊は全員脱出している。先に確保したディエチは護送され、魔力を回復させたヴィータとディアーチェも外部の戦闘に参加しているので、後は玉座の間にいるなのはたちをはやてが連れてくるだけだ。
しかし、彼女たちが脱出する前にゆりかご内部で魔法を無効化する防衛システムが作動したため、連絡すらできない状況となっていた。
『お姉ちゃん、はやてちゃんたちと連絡がつきません!』
「うむ……どうやら内部で強力なAMFが発動しているようだ」
『それじゃあ助けに行かないと!』
「しかし、無力になってしまう私たちが行っても手間が増えるだけだ」
『ううっ、だったらどうすればいいのですか?』
「そうだな……戦闘機人であるリニスとスバルならAMFの中でも十分に力を発揮できるかもしれない」
『あっ、その手がありました! それでは早速連絡を……』
良い方法を教えてもらったリインは、市街地にいるリニスとスバルに救援要請の念話を送ろうとする。
その時だった、彼らがこの世界に降臨したのは。
「なっ!?」
『なんですかあれは!?』
アインスとリインは見た。神々しい光を放ちながら天空より現れた白い巨人を。
彼の者は幻想的な翼を広げ、聖王のゆりかごを見下ろしている。美しさと力強さを感じさせるその姿はまるで神のようだったが、シロンと付き合いのある2人には見覚えのある存在だった。
「あれは……ガンニャム!?」
アインスは、白い巨人を見てその名をつぶやいた。
その瞬間から、彼らソレスタルビーイングの武力介入が本格的に始まることになる。
これで残りは2話となりました。
ご意見、ご感想をお待ちしております。