シロンを連れ去ったコスプレ少女は、秩父山中に隠れていた多目的輸送艦に到着し、中で待っていた白衣の男と向かい合っていた。
もうお分かりだとは思うが、この白衣の男こそが事件の黒幕である。実の所、コスプレ少女は彼に利用されているだけだと言っても過言ではなかった。
「ドクター、王子をお連れしました」
「ほぅ、予想よりも早かったね。それでこそ私の最高傑作だ。良くやったね、【リニス】」
「ありがとうございます、ドクター」
リニスと呼ばれたコスプレ少女は軽くお辞儀をする。
そんな当たり前の動作を見ると普通の人間のように思えるが、白衣の男が言っていた通り、彼女は人工的に作られた存在である。
その正体は、人の身体に機械を融合させた【戦闘機人】という名のサイボーグだ。その上、生体部分にケット・シーの遺伝子を用いる事で魔法も使えるようになっている。リニスという呼称も、元となったケット・シーの名前から記念として取ったものだった。
そのおかげでリニスは魔法を使える訳だが、科学の性質も持ち合わせている彼女の力はそれだけに留まらない。白衣の男が持つ独自の技術によって人間サイズにまで小型化させた2つのCNドライヴを彼女の胸に搭載し、破格とも言える力を手に入れる事に成功したのである。
更に、その力は【インヒューレントスキル(通称IS)】と呼ばれる先天固有技能をも与えてくれた。その名は【クアンタムバースト(シュレーディンガーの猫)】という。自身の身体を量子化させる事でタイムラグ無しに別の場所へ瞬間移動する能力だ。はっきり言ってチートなのだが、1回で移動できる距離が短い上に、身体の各部にあるCNコンデンサーに粒子を蓄えなければいけないという制約もあって常時使用できる訳ではない。しかも、彼自身ではCNドライヴの中枢部品であるTDブランケットを作る事が出来ず、盗品で補っている状況なので、現時点で稼動出来る戦闘機人は彼女1人だけであった。
それでも驚異的な発明には違いないのだが……。
とにかく、白衣の男が信じられないようなオーバーテクノロジーを持っている事だけは確かだと言える。
「ははは、思った通り素晴らしい素材だ。これなら私の悲願を叶える事が出来るかもしれない」
「……」
意味深なセリフを言いながらシロンを使って生体実験を行おうと準備を進める。
何を隠そうこの男は、とある目的のために人間やケット・シーをさらって生体実験を繰り返しているマッドサイエンティストなのである。ケット・シー王家の強大な力を継承しているシロンは、彼にとって格好の獲物だったのだ。
彼の心はあまりにも異質であり、人とは認識できないほど歪んでいるため、先の大戦で人類にかけたチャームの魔法も効き目が薄いらしい。このままでは、シロンの命もどうなるか分からない状況だった。
ようやく目を覚ましたシロンは、ぼーっとしながら辺りを見回す。すると、妙にSFチックな薄暗い部屋に連れ込まれ、身体を拘束されたままいかにもな台に寝かされている事に気づいた。この状況は明らかにアレなんじゃないか?
「止めろー、ショッカー! ぶっとばすニャオゥ!!」
セリフだけ聞くと余裕があるように聞こえるが、実際はそれどころではない。まったく身動きできない状況で、目の前には白衣の変態がいるからだ。その隣に自分を誘拐した美少女がいても気休めにはならない。これは、貞操の……もとい、命の危機である。
「我輩にナニをする気ニャ!? ってか、お前は何者ニャ!!」
「そうだね。まずは自己紹介をしておこうか。私の名前はジェイク・スカリエッティだ。以後、お見知りおきを、シロン王子」
「はぁ? スカトロエッティ? なんと卑猥な!!」
「ははっ、懐かしい呼び方だな。一瞬で学生の頃のトラウマが蘇ってしまったよ……」
「心中お察し致します、ドクター」
スカリエッティと名乗った男はシロンの口撃によって精神的ダメージを受けた。しかし、彼の抵抗はそこまでであり、事態の改善とまではいかなかった。
「ククク、この状況で私に痛手を負わすとは流石だよ。でも、君が手に入ってとても機嫌が良いのでね、今ならどんな痛みも心地よく感じられる」
「予想以上に変態だったニャ!? お前の目的は変態行為ニャのか!?」
「いや、それは違うよ。私は科学者であり探求者……そう、神秘の探求こそ我がアルハザードの民が背負いし宿命なのさ!」
「アルハザード? キャバクラの名前かニャ? まさか、その店で女体の神秘を探求する気ニャのか! 止めとけって、お触りはルール違反だし、怖いお兄さんたちにボコられちゃうニャ!」
「……ご高説はありがたいけど、何もかもが違うよ。アルハザードは、高度な技術と魔法文化を持ち、そこに辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷さ。実を言うと、私のご先祖様がそこから追放された科学者でね。我ら一族は追放された際にアルハザードから持ち出したという遺物を研究して、そこに至る道を探求し続けているのだよ」
とんでもない事実をさらっと告白してきた。今言った事が本当なら大発見であるが、言っている人間が非常に胡散臭いのでシロンには信じられなかった。
「はん、夢見んならもっと地に足の付いた事にしとけっての! まずは、真っ当なコミュニケーション法でも勉強して友達100人目指すんだな、この中二野郎!」
「おやおや、随分な物言いだね。アルハザードは本当にあるんだよ?」
「アホか! お前みたいなオッサンが、ラピュタを夢見るパズーみたいなこと言ってもキモイだけニャ!」
「ははっ、なにを言っても聞き入れてはくれないようだね。実に残念だよ」
スカリエッティは、大げさな身振りで悲しみをアピールする。しかし、その顔は楽しげに笑みを浮かべていた。
「まぁいいさ。 事が上手くいけば君も行くことになるのだから」
「行くって、アルハザードとかいうキャバクラに?」
「君は本当にキャバクラが大好きだね。だが、そんな気分になるのも今日までだよ」
「ニャんだと!?」
「これから君には、私をアルハザードへ導くための有能な部下となってもらうのだからね」
「部下ぁ?」
「そうだよ。アルハザードが存在するという虚数空間へ行くためにはケット・シーの力が必要なのでね、君を利用させて貰う事にしたんだ」
「なんというテンプレ悪役!? こ~の、馬鹿弟子がぁ!! いい年こいてそのような事に現を抜かしおってぇ!! だからお前はアホなのだぁ!!」
「ん~、弟子になった覚えは無いけど、そう邪険にしないでくれたまえ。ちゃんとご褒美もあげるからさ」
そう言うと、リニスが差し出してきた悪趣味なデザインの箱からひし形の青い宝石を取り出した。これは、彼の家に代々伝わってきた代物であり、作り方や使い方も分からないこのような遺物を【ロストロギア(根源を失った物)】と呼んで研究を積み重ねていた。その成果がこんな状況を作り出してしまったのである。
「この【ブルーディスティニー】を移植すれば、強大な力を手に入れる事が出来る。まぁ、君の身体が力に耐えられる範囲でだがね」
「ちょ、なにそのEXAMシステム!? 我輩はガンニャムじゃないぞ!? そーいうのはセツニャの役目だろ!!」
「ふむ、そのセツニャとやらにも興味があるね。何だか良い実験材料になる気がするよ」
「実験材料ニャと!?」
「そう、君は私のモルモットなんだよ」
「我輩は猫なんですけどー!?」
やはり、この男はシロンを使って生体実験をする気だった。このままでは本当に命が危ない。
しかし、拘束されたこの状態ではどうすることも出来ない。
「あばばばばー!!? 女の子とチューもしないまま散ってゆくニャかー!?」
「はは。申し訳ないが、私は女性に興味が無いのでね。君の気持ちは理解できないんだ」
「枯れてやがる……遅すぎたんだ」
「そう思うかい? これでもまだ20代なのだがね……あ~一応言っておくけど、私はノンケだから勘違いしないでくれたまえよ?」
「どーでもいーし! ってか、そういうトコは気にすんのなっ!」
「因みに、私もノンケです」
「聞いてねーし!」
「しかも、気になる殿方がいます!」
「聞いてねーしっ!!」
ダメだ。何を言っても暖簾に腕押しである。
探求欲が暴走している彼には、なにを言っても無駄だった。唯一の救いは、彼の仲間であるリニスに普通の少女らしい心があるという点だが、それで現状が変化する訳では無かった。
「やめてよして触らないでー!?」
「まったく往生際が悪いね。うるさいから、さっさと洗脳してしまうとしよう」
「せ、洗脳!?」
「そうだよ。この魔導チップを108個移植すれば、もう私の意のままさ」
「ちょ、108個って多くね!? 普通1個で十分じゃね!? 過剰摂取で副作用とか怖いんですけど!?」
「大丈夫だと思うよ? まぁ、108個使えば君の強い煩悩を押さえられるという、只の願掛けだけどね!」
「めっちゃ神頼みだし! 科学的根拠無いしー!」
「まぁ、そういう訳だから、素直に受け入れたまえ」
「出来るかー!! 我輩に酷いことしたら動物愛護団体が黙っちゃいニャーぞ! あぁん!?」
「そうかい? これでも私は動物好きなのだがねぇ、こうして役に立ってくれるのだから!」
「ちょ、おまっ!?」
そう言うと、シロンの頭上に手をかざして、見たことのない魔方陣を浮かび上がらせる。ケット・シーの魔法にそのようなものはないので、アルハザードの技術で洗脳処置を施すようだ。
まさに万事休すである。
このままスカリエッティの思惑通りに悪の手先と化してしまうのだろうか。何にしても悲惨な未来しかなさそうだが……と、思われた次の瞬間、事態は急変した。天井が光り輝いたかと思った途端にそこにあった物質が消えさって、本来見えるはずがない青空が現れたのだ。つまり、上部構造物ごと天井が消失してしまったのである。
「ビームサーベルで切り取られた!?」
「くっ! 良いところだというのに、一体何事だ!!」
スカリエッティは、先ほどまでの穏やかな様子とは一変して、苛立ちを隠そうともせずにこの状況を作り出した張本人を睨み付けた。艦より少し離れた上空を見上げると、そこには黒いモビルアールヴの姿があった。
「あれは、フニャッグカスタム!?」
その機体は、ケット・シーが作りあげた史上初のモビルアールヴで、ユニオンという人間の国が開発したフラッグという名のモビルスーツを参考にした物だ。10機ほど製作された本機は、近衛隊のテスト結果を元に幾度も改良を施され、ガンニャムのテストベッドとして大いに貢献した。そのため、グラハムはこの機体に異常なほどの愛着を持っていたのだが、そんな機体がタイミング良くここに現れたという事は……
『見つけたぞ、コスプレ少女! このグラハム・ニャーカー、しつこさと諦めの悪さは折り紙つきだ! 口説き落とすまでは離れんよ!』
やっぱりパイロットはこの男でした。しかも、助けに来たというよりはリニスに告白しに来たようなセリフである。現に、その言葉を聞いたリニスは、顔を赤く染めてモジモジとしている。
「私、愛の告白を受けるのは初めてです……ポッ」
「真に受けている場合ではないだろう!? 早くあいつを排除するんだ!」
「……はい」
いつになく感情的になっているスカリエッティから強い口調で命令され、不機嫌そうにしながらも飛行魔法で飛び上がった。そんなリニスの姿を確認したグラハムは、彼女の背後にいるシロンに気づく。両手足を光のリングで拘束された酷い姿であった。
『王子!?』
「うぅ、助けに来てくれたのか……こんなに嬉しい事はニャい!」
『貴様っ! よくも王子にあんな事をしてくれたなっ!?』
「ふむ? あんな事がどんな事かは分からないが、これから良い事をしてあげる所だよ?」
『ぐぅおおおー!? 私の堪忍袋は既に全開だぁ!! 仏の顔も三度までと知るがいい!!』
勝手に勘違いした上にスカリエッティの言葉も聞き流して激高するグラハム。拘束されてグッタリとしているシロンの様子を見てイケナイ想像をしてしまったのだ。
そして、怒りに任せて銃口を向けてしまう。フニャッグカスタムに標準装備されているCNビームライフル――通常の粒子ビームに加えて、CN粒子を変換して作り出した魔力で魔法を撃ち出すことも出来る多機能兵器――である。
そんな物騒な物を突きつけられたシロンたちは、当然ながら恐怖におののく。
「「なにぃー!?」」
『愛を語るには我侭が過ぎたのだよ! 我慢弱く繊細な私を弄んだ罪、その身をもって償ってもらう!』
「ちょ、おまっ、なにやってんの!? 我輩はここにいますよー!?」
「そ、その通りだ! そんな事をすればシロン王子も……」
『聞く耳持たん!! グラハムストライカー!!』
次の瞬間、CNビームライフルの銃口からオレンジ色のビームが発射された。問答無用で攻撃を受けたシロンとスカリエッティは、成すすべも無く目の前の現実を受け入れるしかなかった。
「うぉおおおおおお~~~~~!?」
「よぅ、お前は満足か、こんな世界で。我輩は嫌だね」
ズガァ―――ンッ!!!!!
2人のいた場所にビームが着弾し、激しい衝撃を発生させて辺り一面に爆煙を巻き起こした。 しばらくして轟音が消えさると、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静寂が訪れ、その場にいる者の動きが止まる。そして数秒後、煙が晴れたそこには……サイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒れているシロンとスカリエッティの姿があった。
間一髪でビームを回避したリニスは2人の様子を確認すると、飛行魔法でフニャッグカスタムの前に飛ぶ。
『ほぅ、あの攻撃を避けるか。流石だな。とはいえ、解せない事がある。君が本気を出せば、あの男も助けられたのではないかね?』
「それが分かっていて王子ごと撃ったのですか? 酷い人ですね」
『フッ、可憐な容姿に似合わず辛辣な物言いだな。しかし、君もあの男を助けなかった、何故なのかな?』
「確かに、ドクターは生みの親なので父親を慕うような感情があります。ただ、それと同時に怒りも感じているのです。ドクターが行っている凶悪な犯罪行為は、決して許される事ではありませんから、報いが必要だったんです……」
リニスは悲しそうな表情で内心を吐露する。信じ難いことに、彼女はあの狂人に作られたにもかかわらず正常な心を持っていたのだ。
ご都合主義だと思われるかもしれないが、もちろん相応の理由はある。
用心深いスカリエッティは、当然ながら彼女にも洗脳処置を施していた。しかし、彼の想定を上回る現象が彼女の中で起こった。元にした遺伝子から受け継いだ母性溢れる性質が、悪意ある洗脳を弱めたのである。
加えてケット・シーが使ったチャームの魔法により、猫に対して好意的な感情を持つようになっていた事も幸いした。その効果のおかげで、グラハムの真っ直ぐな行動をより好ましく感じるようになり、最初に戦った瞬間から彼に心惹かれてしまったのである。要するに、初恋をしてしまったのだ。恋に目覚めた乙女は親の事など二の次となるため、衝撃的な彼との再会によってさらに洗脳が弱まるという思わぬ作用を齎した。
そんな数奇な偶然が重なった結果、彼女に小さな反逆心を芽生えさせたのだ。
因みに、チャームの魔法はLoveよりもLikeに働きかけるものなので、グラハムに対する想いを恋だと認識した時点で彼女の気持ちは本物だと言える。
「……だから、貴方には感謝しているんですよ。おかしな話ですけどね」
『なるほど。子の心、親知らずか。辛い運命を背負っているのだな……』
「いいえ。貴方に優しい言葉をかけてもらう資格など私にはありません。そんなドクターに従う私も酷い女なのですから……」
『それは違うな。君は見た目通りに美しい心を持っている。乙女座の私にはそれが分かる』
「っ……気休めはよしてください。本気にしてしまいます……」
『フッ、慎ましいな君は。その謙虚さに好意を抱くよ』
リニスの気持ちを知ってか知らずか、思いやりに溢れた優しい言葉を投げかける。行動はアホっぽいのにやたらと男前に見えてしまうのは、好意を持っている彼女だけではないだろう。
「そ、そんな事より、貴方こそどうして王子まで巻き込んだのですか?」
『なに、あのビームは非殺傷魔法なんでね。魔法防御が強くてやたらとしぶとい王子なら当たってもどうということはないのさ。そもそも私は我慢弱く、落ち着きのない男なのだよ』
「やはり酷い人ですね、貴方は。でも、そういう素直なところは嫌いではありません」
『その好意、ありがたく受け取らせてもらおう。しかし、先ほどの借りは返させてもらうぞ! このフニャッグカスタムで!!』
そう叫ぶと、リニスに向けてCNビームライフルを突きつける。この男の執念深さは折り紙つきであり、例え相手が少女であっても容赦はしない。だが、リニスは只の少女ではないので、強ちおかしな行動でもない。
現に、彼女は戦うつもりのようで、腰にあるポケットからとある物を取り出した。彼女の手にあるそれはカードであり、表面にはモビルアールヴらしき絵が描かれている。
「分かりました……では私も、貴方に合わせてこれを使わせていただきます」
『なんとっ!? もしやそれは【ビルドカード】ではないか!!』
グラハムの言うビルドカードとは、魔法によって作られたモビルアールヴ用の携帯ハンガーである。カード内に作られた異空間の中に作業ベッドがあり、配備されているハロ型工作ロボによって、モビルアールヴの修理、改良、開発を行える簡易基地として機能する代物だ。
つまり、そのような物を持っているという事は……
「来いっ、ガンニャーム!!」
勇ましい掛け声と共にビルドカードを頭上に掲げる。すると、カードから眩しい光が発せられて、次の瞬間には目の前に1機のモビルアールヴが出現していた。
赤と黒で染め上げられたその機体は、禍々しさを感じさせるデザインをしていた。当然ながら初めて見るモビルアールヴである。しかし、何故かグラハムには見覚えのある物だった。それもそのはず、この機体は彼が心奪われたモビルアールヴとあまりにも似通っていたからだ。
『ガンニャムエクシアだと!?』
『いいえ違います。この機体は、【ガンニャムエクシアダークマター】と言います』
『ダークマター……見えざる物質か。戦争を無くす為に武力介入を先導した、存在自体が矛盾している我々そのものだな。ハハハッ! これは傑作だ!』
グラハムは本当におかしそうに笑った。皮肉の効いたネーミングが面白かっただけではない。ガンニャムと本気で戦える事に心から喜びを感じているのだ。その感情こそが、バトルマニアである彼の本質であった。
『やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ』
『あ、赤い糸!?』
『そうだ、戦う運命にあった!』
言うが早いか、何の警告も無くCNビームライフルを撃つ。まさしく本気の一撃である。それを間一髪で回避したリニスは、身体にかかるGに顔を歪めながらも彼を睨みつけた。
『遠慮無しですねっ!』
『当然だ! 私は銃弾でしか愛を届けられない無骨物だからな!』
『愛!?』
『そうだ! 君の圧倒的な性能に、私は心奪われた! この気持ち……まさしく愛だ!』
『~~~~~っ!!?』
『なればこそ! この熱き想い、受け止めてもらうぞ! ガンニャム!!』
『ま、待って! まだ心の準備が……って、ガンニャム!? 愛してるってガンニャムの事なんですかー!?』
『その通り! ガンニャムこそ我が愛しの君だ!」
リニスは、衝撃の事実に驚きの声を上げる。ここまで来てようやく勘違いに気づいた。グラハムの想い人(?)はガンニャムだという事に。
その瞬間、怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になる。なんて呆れた猫なのだろう。でも、そんな彼に振り向いて欲しいと思う自分がいる。恋をするとはそういう事なのだろう。
だったら、思うがままに行動するのみ!
『貴方の愛は歪んでいます!』
『ほぅ、私の愛を否定するか。ならば見せてもらおうか、君の言う真実の愛とやらを!』
『いいでしょう。貴方の歪み、私の愛で断ち切ります!』
『よく言った! それでこそ愛しがいがあるというものだ、ガンニャム!』
『私はリニスですっ!!』
いつまでもガンニャムと言い続けるグラハムにムカッときたリニスは、さりげなく自分の名をアピールすると同時にダークマターライフルを連射する。元々牽制用の兵装なため砲身が極端に短く命中精度はかなり低いのだが、それを感じさせないほどの腕前である。
しかし、歴戦の古強者であるグラハムには通用しない。
『正確な射撃だな。それ故に、予測しやすいのだよ!』
『くっ! そのような旧式の機体で!』
『モビルアールヴの性能差が、勝敗を分かつ絶対条件ではないさ!』
『それは只の負け惜しみでしょう!』
『否! 振るうべきはマシンの性能のみにあらず! フニャッグファイターである誇りこそ、我が力となる!』
『精神論などナンセンスです!』
『意味ならあるさっ! 私にとってフニャッグは特別、それを……君を倒すことで証明させてもらう!』
右腕に取り付けられたディフェンスロッドでビームを弾きつつ接近し、一回転しながら右手の
CNビームサーベルを振り抜く。対するリニスも、ダークマターライフルをソードモードに切り替えてグラハムの攻撃を真っ向から受け止めた。鍔迫り合いによって激しいスパーク光が飛び交う中、2機はCNドライヴの出力を上げて近代的な剣の舞を繰り広げる。
攻防は一進一退で、お互いに引けを取らない戦いっぷりだった。要するに、グラハムは先ほどの言葉を証明してみせたのだ。
もっとも、総合的に見れば2人の戦力は拮抗しており、なかなか勝負はつきそうになかった。
一方、破壊された研究施設では、気絶していたシロンが目を覚ましていた。
乱れた毛並みを整えながら辺りを見回してみると、部屋はめちゃくちゃに壊れており、近くにスカリエッティが倒れていた。彼は、サイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒れている上に、服が吹き飛んでパンツ一丁になっていたので、シロンは思わず噴出してしまう。
「ぶふーっ!!? こいつブリーフ派だったのー!? ってか、んなもん見せんニャ!!」
目覚めた途端に男のパンツ姿を見せられて急に不機嫌になったシロンは、スカリエッティの腹を蹴飛ばした。すると、彼の手から青い宝石が転がり落ちる。あれは確か、ブルーディスティニーとか言う怪しいブツだ。
はっきりいって危険な匂いのするアイテムだが、ちょっと気になる。見た目も綺麗だし、何と言っても名前がいい。これさえあったら「あのシン・アスカでもちょっとだけ活躍出来たんじゃね?」と思わせるほどだ。
何となく飛行石とかブルーウォーターにも見えるし……なんて事を考えていたら欲しくなってきた。ほらあれだ、ゲームとかブルーレイの限定品に付いてる特典が欲しくなるような、やたらとファンの心を刺激してくるあの感じだ。
「……慰謝料としてもらっておくのニャ」
決めた、こいつはいただいておくとしよう。どうせ他の奴が手に入れても碌な使い方しないだろうし、これも運命だったのだ。うん、そうに違いない。
「スカリエッティ、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい。君はいい科学者であったが、君のご先祖様がいけないのだよ。大体アルハザードってなんだよ? アル中オヤジが一杯いてハザード状態のキャバクラですかぁ? プークスクス!」
誰に言うでもなく言い訳しながらブルーディスティニーを拾い上げる。妙に挙動不審なその様子は、道端に落ちている100円玉をネコババしようとしている悪ガキそのものである。まぁ、実際にやっている事は同じなのだが、幸か不幸か注意する者はこの場にいなかった。
「ふぅ、任務完了! ところで、グラハムとあの美少女はどこ行ったのかニャ?」
無事にブルーディスティニーを手に入れてホクホク顔なシロンは、ようやく2人の事を思い出した。たぶん表にいるのだろうが……と思った直後に轟音が鳴り響いて2機のモビルアールヴが上空を通り過ぎた。
1機は見慣れたフニャッグカスタムだが、もう1機はよく分からない。どうやら、ガンニャムタイプのようだが……。
「なにあの黒いの!? MK-Ⅱ!? バンシィ!? それともマスター!?」
見た事のない黒い機体を目撃して驚く。遠目なのでよく分からないが、あれを見てると既視感を覚える。というか、色違いなのが我が家にあるじゃん。
「そこはかとなくエクシアに似てるけど……まさか、セツニャが暗黒面に堕ちたのかー!? アイツ、最近様子がおかしかったからニャー。目が光ったり、見えない誰かと対話したり……」
リニスの操るエクシアダークマターを見ているうちに身内の心配をしだすシロン。確かにセツニャの様子は憂慮すべき所だが、今はそんな場合ではない。主犯であるスカリエッティは倒されてシロンも無事(?)開放されたのだから、あの2人が戦う必要はないのだ。
「そうだよ、もう戦う必要はないんだ。バーニィ……もとい、グラハムを止めなきゃ!」
紆余曲折の末にようやく成すべき事を理解したシロンは、飛行魔法で飛び立つ。自分が無事である事をグラハムに伝えれば戦いは止まるはず。もうこれ以上、悲しみの連鎖をつなげてはいけないんだ。
高速で飛び回りながら幾度もビームサーベルを打ち付けあう2機に接近しつつ、必死の思いで呼びかける。
「グラハムー、我輩はここにいるニャー! もう戦わなくてもいいのニャー!」
『この無粋者が! 私の恋路を邪魔をする者は、故事にのっとり、馬に蹴られるものと思え!』
『そうです! 恋人同士の間に入らないでくださいっ!』
「うえぇ~~~!!? なぜなにどうしてー!? ってか、お前ら今までナニやってたー!?」
戦っていたと思ったら仲良くなっていたでござる。
グラハムの真意は怪しいものだが、リニスの方はかなり本気だと分かる。さっきのやり取りの後に『言っちゃいました♪』とかつぶやいたのを聞いてしまったし……。
「ほんと、勘弁してほしいニャ……」
俯きながら怒りに震えるシロン。
こんな事実を認めるわけにはいかない。2人がヨロシクやってる間に、自分はブリーフ男と仲良く気を失っていたなんて……。だが、それでも現実は変えられない。
そうさ、世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ!
「正直、羨まし過ぎるジャマイカ~~~~~!!!!!」
嫉妬によって怒りが頂点に達したシロンは、勢いのままに人間形態へ変身すると膨大な魔力を放出した。10歳ぐらいの美少年となった彼は、銀髪にオッドアイという中二病全開な容姿に見合った恐るべき力を発揮する。この状態になると生身でモビルアールヴを破壊することも可能なので、仲間内では【東方不敗】とか【世界の歪み】などと呼ばれていた。そこはかとなくバカにしている気がしないでもないが、それほどまでに危険な力を持っている事は間違いない。
流石にこうなるとグラハムたちも無視出来なくなり、戦いを止めてシロンの様子を伺う。
『ほぅ、嫉妬心すら力に変えるか。でたらめにも程があるぞ! だからこそ、私は畏怖と敬意を表するよ、その底知れぬバカさ加減に!』
『褒めるようにけなしてるー!?』
「フンッ、今更気づいてももう遅いニャ!」
『本人も認めてるー!? って、それでいいの!?』
『良いも悪いもこれが定めだ。生来のバカは死なねば治らんよ! ならば、あえて認めて、楽しんでしまえばいい。それが私の特権だ!』
『すっごい言い草!? 貴方たち主従関係なんですよね!?』
『フッ、愛を超越すれば憎しみとなるように、忠義を超越すれば造反を招くのさ!』
「なんと! 王子の我輩にタメ口きいてたのはそういう訳だったのかー!!」
『造反の規模が思いのほか小さかったー!』
リニスの言う通り、彼らの関係は只の喧嘩友達だった。つまり、彼らにとっては今のやり取りも日常茶飯事だったのだ。回りの一般人にとっては甚だ迷惑な話である。とはいえ、所詮はじゃれあっているだけなので、途中の内容はともかく最後は穏やかに解決するはずだった。
しかし、今日は違った。シロンの手に不確定要素となりうる物があったからだ。
なんと、シロンの強大な魔力をもろに受けたブルーディスティニーが、無軌道な発動状態となって膨大な魔力エネルギーを発散してしまったのである。
このロストロギアは、別の世界で【願いが叶う】宝石と呼ばれる次元干渉型エネルギー結晶体だった。しかし、願いが正しく伝えられないと方向性を失ったエネルギーを撒き散らして【次元震】という災害を発生させてしまう。
次元震とは、言葉通りに次元を震わして通常空間に甚大な被害を齎す超自然災害であり、酷い場合は次元断層と呼ばれる空間を破壊してしまう現象を起こしてしまう。
そして今、ブルーディスティニーによって、その次元断層が発生してしまった。小規模ではあるが、この場にいる3人を巻き込むには十分であった。
「ちょ、なにこの珍百景!? 名状し難いモヤッとした空間が広がってゆくニャー!?」
『ええい、何事だ!? このような展開になるなど、私は聞いていないぞ!』
『これは……虚数空間!? グラハム、いけません! 早く離脱を……』
危険を察知したリニスが逃げるように呼びかけたが、時既に遅かった。シロンたちは成すすべも無く異様な空間に飲み込まれ、落ちていく。そして、3人を取り込んだその直後に次元断層が閉じてしまった。あまりにも小規模だったので自浄作用がすぐに反映されたのだ。
こうして、彼らはこの世界から忽然と姿を消してしまった。
その数十分後、異変を察知したニャーソレスタルビーイングがガンニャムを出撃させて次元震の調査を始める。
幸いながら人的被害は確認できず、セツニャたちは安堵した。しかし、シロンとグラハムの行方だけはいかなる手段をもってしても分からなかった。彼らの識別信号は、次元震が起こる直前までこの場にあったので、恐らく巻き込まれたのだろうと判断される。俗に言うMIA(行方不明兵士)である。
「シロン……グラハム……。彼らがこのぐらいで死ぬとは思えない」
「だな、きっとどこかでバカやってるさ」
「ヴェーニャも全力で探索している。じきに見つかるだろう」
「ああ……そうだな……」
「ところで、この飲み会にアレルニャを呼ばなかったのはどうしてなんだ?」
「フッ、なぜかな?」
「ハブったのか……」
モビルアールヴの見た目は、オリジナルに猫耳としっぽが付いた物だと思ってください。
エネルギーは、通常の粒子でも変換した魔力でもいいハイブリット仕様なので、管理局の質量兵器カテゴリをギリギリでパス出来る感じです。