魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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第20話 私はガンダムだ! 【StrikerS5】

 混迷を極める戦場に突如出現した未知のガンニャム。この世界に存在しない機動兵器の登場に、世界中が緊張感に包まれる。スカリエッティの隠し玉か、あるいは未知の第三勢力か。それすらも分からないが……その圧倒的な存在感には畏怖の念を抱かずにはいられない。

 何も知らない彼らがそう感じてしまうのは当然だ。アレが何であるかを知っているアインスたちでさえ困惑しているのだから。

 

「あのガンニャムはシロンが送ってきたものか?」

『き、きっとそうです! リインたちを助けに来てくれたんですよ!』

「しかし、今頃になってどういう事なんだ? 作戦はほぼ終わっているというのに……」

 

 確かに、リインの言う通りシロンが関わっていることは間違いないだろう。それでも、この場の指揮を任されているアインスとしては鵜呑みにできない。ゆりかごを破壊できることが確実になったこの段階でなぜアレを出して来たのか、まったく意図が読めないのだ。

 事情を聞こうにもシロンと念話が繋がらないのだが、あの機体が現れたことと関係があるのだろうか。

 

「何をやろうとしているのだ?」

 

 アクシズに集まるMSを見つめるブライトさんのように疑問を感じたものの答えは出ない。

 それは敵も同じようで、なぜか攻撃の手を止めてしまっている。レーダー無効化の効果がある高濃度のCN粒子によってセンサー類に機能障害が起きているため、戦闘行動自体が困難になりつつあったからだ。ガジェットドローンはAMF下でも動けるように完全に機械化されているが、それが返って仇となってしまっていた。

 しかし、アインスを始めとする航空魔導師隊も迂闊に動けない状態となっているので状況は五分といった所だろう。実を言うと、アインスたちの念話もCN粒子によって妨害されており、他の部隊との連絡すらままならなくなっていた。CN粒子の影響が強すぎると遠隔操作系の魔法まで無効化されてしまうのだ。

 

「こうなると、かえって邪魔されているような気もするが……」

『そ、そんなことは……あるかもですね』

 

 スバルとリニスに送ろうとした念話を邪魔されている2人は、徐々に困惑の色を深めていく。他の局員もまるで事態が飲み込めず、生物的なデザインの人型機動兵器に対して疑念と警戒心を募らせるばかりだった。

 いったいあの巨人は何者なのか。両陣営が予期せぬ乱入者の同行に注目し、戦闘を中断する。物言わぬガンニャムはその場にいるだけで戦場を支配しつつあった。

 

 

 更に、アインスたちが経験した異常事態は市街地のほうでも起こっていた。廃棄都市でガジェットドローンの大群と戦っているゲンヤたちの頭上にも見知らぬ巨人が現れたのだ。

 こちらに現れたのは3機で、それぞれ戦闘スタイルの異なる形状をしていた。それでも、全機が圧倒的な戦闘力を持っているだろうことは分かる。あれは危険な存在だと、戦場にいる全員が感じとっていた。

 

「な、なんだありゃ!?」

「すずか! あれって……」

「うん、ガンニャムだよね?」

 

 地球で何度かモビルアールヴを見たことがあるすずかとアリサはすぐに気づいた。特にモビルアールヴに対して興味を持っていたすずかは、以前この3機を見せてもらった記憶がある。あれは、シロンが元の世界に戻る前に完成させていたガンニャムだ。

 あの時は妙な胸騒ぎがするから作ったなどと言っていたが、もしかして今回の事件のことだったのだろうか。すずかは、4年前におこなったシロンとの会話を思い出しながらこの事態を推察した。しかし、その予想は間違っていた。

 

 

 シロンの胸騒ぎはスカリエッティ事件のことではなく、ELSの存在に気づいたセフィが彼に夢を見せるという形で知らせたものだ。あらゆる時空にアクセスできるセフィは、想い人であるシロンに危険が及ぶ事象を調べていたのである。

 それらの行動は、セフィが体を得たことで起きたイレギュラーだった。元は単なる願望機に過ぎない彼女が主の意思に関係なく自律行動をすることは本来なら有り得ないのだが、破天荒なシロンと一緒にいるうちに劇的な変化を起こしていた。

 【人間に神の力を与える】ために生み出されたセフィは、契約を交わした人物の情報を解析して最高の相性となるように人格を形成するよう設計されている。そのおかげでシロンの好きな若い女性の人格となり、ちょっとSっ気のあるお茶目な性格になったのだが、そんな存在が体を得たことで更に人間へと近づき、愛を獲得するまでに至ったことで奇跡が起こった。彼女自身がシロンとずっと一緒にいたいと願うようになったのだ。その結果、シロンを守護するという名目で彼にまつわるあらゆる事象を観測し始め、害を与えるものをすべて排除するよう働きかけるようになった。

 いわゆる、【ヤンデレ】である。

 

「ふふふ……マスターに仇をなすものは、私が全部取り除いてあげます……」

「あ~、それはとってもありがたいんですけど、包丁を持ちながら言わないでくれる?」

 

 今の会話は一緒に野菜の皮をむいている時のもので、ナイスボート的な展開になるようなものではないものの、アレのヒロインに匹敵するほどまでに彼女の愛情は深い。

 セフィにこのような変化が起きたことは、探求欲に支配されて人間としての性質を失っていたアルハザードの研究者には予測できないイレギュラーだった。人工的に子供を生み出し、愛という名の生命力を失っていた彼らには、シロンのエロパワーに対抗するすべは無かったのだ。

 人として歪み、生物としての限界を迎えてしまった彼らが、自分たちの存在理由としていた知性を捨ててまで元に戻ろうとした理由がそこにあった。生きていくために、種を存続させるために必要なエロパワーこそ本当の神が人間に与えたもうた最高の力なのに、それを捨てては話にならない。せっかく神の力を得ても、それを扱う者が壊れていては【猫に小判】となってしまうことに気づいたのだ。

 

「でも、私のマスターはただの猫ではありません」

 

 猫妖精として誕生したシロンは、お気楽な猫と欲深い人間の特性をバランスよく持ち合わせて絶妙なハーモニーを奏でている奇跡のような存在だ。そんなファンタジー野郎がヤンデレセフィを味方につけて、本人も気づかぬうちに神へと近づきつつあった。もっと正確に言うと、あらゆる女性を攻略できる【落とし神】になりつつあった。

 猫っぽい無邪気な心で、人間の男らしくたくさんの美女と戯れたいと願うシロンの意思を受け入れたセフィが、ハーレムを可能にできるようにこっそりと世界の情報を書き換えていたのである。

 主に対してちょっぴり歪んだ愛情を抱くようになってしまったセフィの願いによって、【シロンは重婚ができて当然】だと世界中の人間が認識するようになったのだ。その結果、シロンに好意を抱いた者は、ライバルがいても心にブレーキをかける必要が無くなり、みんなで仲良く愛を育てることができるようになった。これが、彼を中心にして起こっているハーレム現象の真相である。

 何はともあれ、セフィに愛されているシロンは、本当の意味でソレスタルビーイング(天上人)の一柱になろうとしていた。エロ魔人を超えたエロの神として……。

 

 

 無論、そんな超常現象が起きていたことをシロンですら気づいていないのだから、第三者のすずかに察することができるわけがない。

 それでも、シロンから色々と話を聞いていたすずかには、この先何が起こるのか何となく察することができた。

 

「もしかすると、ここからが本当の武力介入なのかもしれない」

「えっ!? これから何かやるの?」

 

 アリサは突拍子も無い話に驚いたが、ロストロギアの威力に魂を縛られている管理世界の人々に対して激怒していたアイツなら本当にやりかねないと思い直した。

 力を得るために傲慢な政策を推し進める管理局と、そこから得られる恩恵を期待して彼らの危険性を黙認していた管理世界の人々に、聖王のゆりかごと同じく【過ぎた力】をもって思い知らせようと考えたのかもしれない。彼女たちはそのように予想したのだが、それはほぼ当たっていた。エロの神は、4機のガンニャムを送り込んで世界の意思を一つに重ねるきっかけにしようとしていたのである。

 世界を破壊できるような力を人に向けて使うなど、フィクション作品や中二病の妄想以外でやられたら迷惑以外のなにものでもない。その愚かさが分からぬというのなら、彼らの身をもって教えてやらねばなるまい。

 

「そうか、人間ってのは痛い目を見ないと大切なことが分からないからなー」

「アリサちゃんは実体験してるもんね」

「ふふっ、まぁね」

 

 2人は、なのはとアリサが初めてケンカしたときの事を思い出した。あの時は3人で一緒に痛い思いをして、話し合って、そして、仲良くなったんだっけ。

 今回の場合は子供のケンカとは規模が違い過ぎるが、対話というものは同じ思いを抱いたときでないと成り立たないため、多少の無茶は仕方ない。そもそも、先に手を出してきたのは彼らのほうなのだから、気に病む必要などどこにもない。自分に降りかかる結果には、自分がしでかした原因があるというわけだ。すずかをいじめていたアリサがなのはに叩かれたように、世界を危機に陥れようとしているロストロギアをガンニャムで叩き潰そうというのだろう。

 無論、下手をすれば不幸の連鎖を繰り返すことになりかねない。だが、なのはたちだってドモンとマスターアジアのように拳で語り合うことで分かり合えた。ならば、やってみる価値はあるはずだ。たとえ相手が管理世界にいるすべての人間だとしても。

 

「そのためのソレスタルビーイングか……だから、管理局と敵対するのね」

「ううん、敵対するというより神様として天罰を下すって感じかな。人間は、理不尽な脅威に直面した時こそ意識を合わせることができるから……。シロンちゃんは、人類の存在を脅かす天上人になって【本当の戦い】というものを教えたいんだと思うの。生物に戦う力があるのは、同族同士で殺しあうためではなく、生きて未来を切り開くためのものなんだってことを」

「なるほど、アイツらしい荒唐無稽な計画ね。でも、そういうノリは結構好きよ!」

 

 何となく状況を理解したアリサはニヤリと笑う。

 人が殺しあう理由は色々あるが、運命や自然淘汰などという諦観に縛られたくはないし、そうあるべきではない。

 とある世界で未来への水先案内人となって死んでいった男はこう言った、たとえ矛盾を孕んでも存在し続ける……それが生きる事だと。ゆえに地球人は、自分たちの中にある歪みと戦い続け、傷つき倒れながらも命を繋いでここまでやって来た。

 世界の存続、それこそがすべての戦いにおける勝利の証なのだ。

 しかし、ロストロギアに魅了されたこの世界の人々は、何度も滅びゆく世界を見てきたにもかかわらず、再び同じような愚行を犯そうとした。彼ら自身が作ったものではないロストロギアこそがその元凶であり、世界の歪みを具現化したものなのに……彼らは自分たちの利益のためにずっと見て見ぬ振りを続け、あえて滅びの危険を抱え込んてきたのである。

 大体、そんな得体の知れないものを普通の人間などに制御できるわけがなく、利用しようなどとすれば身を滅ぼすことになるのは自明の理だ。それでも捨てきれないのは、文字通り【魔の力】が宿っているせいかもしれない。

 まさに、悪魔が作った法則――魔法に支配された世界に相応しい話だが、ここまで関わってしまった以上は放っておくことなどできない。

 

「こっちの世界にも大勢知り合いができちゃったしね」

「それに地球にまで被害が及ぶ可能性も出て来たから、シロンちゃんも動いたんだと思うよ?」

 

 確かに、今回の事件は、すずかとアリサにとっても対岸の火事と言って済ませられない状況になるところだった。ようするに、一見無茶苦茶なように感じるシロンたちの行動は、彼女たち地球人にとっても必要なことであった。

 警告は既に済ませてある。それでも、愚かな仕組みを改めようとせず、牙を剥いて襲いかかってくるというのであれば、こちらも立ち向かうしかない――生きて未来を切り開くために。

 

「まったく、本当に世界を相手にケンカすることになるなんて思わなかったわ」

「これも惚れた弱みってヤツだよ、アリサちゃん」

「ふふん、言うようになったわね、すずか」

 

 シロンを信じている2人は、いつものように会話する。

 しかし、彼らがやろうとしていることは言葉で言うほど簡単なことではない。立ち向かうは、人の心に隠れ潜む恐るべき悪魔であり、一筋縄ではいかない相手なのだから当然だ。

 ならば、どう対抗すべきか。そのヒントはガンダム作品の中にあった。

 人々の意識を一つに重ねるために一番手っ取り早い方法は、共通の【危機感】を与えつつ解決した後の【満足感】を共有させることだ。シャアはアクシズを地球に落とすことによってそれを実現させようとしたが、あれではやりすぎだと理解したシロンは、悪意ある人間の天敵――彼らの罪だけを罰する神を求めた。ガンニャムとはそのために作られた破壊神であり、それを演じきることがソレスタルビーイングの存在意義だった。

 

 

 人類に破壊という名の救済を与える神となる。そんな役目を与えられた4機のガンニャムがどこから現れた何者なのかを説明するには、少しだけ時間をさかのぼる必要がある。

 シュテルが玉座の間に現れた頃、スカリエッティのアジトではちょっとしたアクシデントが起こっていた。チンクと一緒にはやて達と合流しようとしたシロンのもとに珍客が現れたのだ。

 驚いた表情で固まっている彼の目の前には5匹の猫がいる。

 その中の1匹である茶色い毛並みのイケメン猫が、立派にそそり立つ股間のスナイパーライフルを落ち着かせながら言葉を発する。

 

「ところで、何で俺たちはこんなところに飛ばされてきたんだ?」

「……わからない……本当にわからないんだ……」

「そりゃそうだニャ、特に理由なんてないし。っていうか、今取り込み中なんだから邪魔すんなよ、アレルニャ」

「なんで僕だけ名指しなのさっ!?」

「さぁ、なぜかな?」

 

 シロンは、ELSの真意が分からず苦悩していた時のようなセリフを言うセツニャに向けてあっさりと真実を明かした。

 もうお分かりだとは思うが、突然現れた珍客とは本家ソレスタルビーイングのガンニャムマイスターたちだ。もう少しで事件が解決できる割とどーでもいいタイミングで、猫召喚が発動したのである。

 

「ね、ねぇ、シロン、この猫たちと知り合いなの?」

「不本意ながらそうなのニャ。どいつもこいつも能力は高いけど性格に難があるはみだし野郎どもニャ」

「それはこちらのセリフだ。バカシロン」

「確かに、俺は色々とはみだしてるがな!」

「とりあえず、お前は早くスナイパーライフルをしまえ!」

「「……」」

 

 フェイトとチンクは、突然現れてシロンと親しく会話しだした猫たちを奇異の目で見つめた。それと同時に彼の仲間であることを強く確信した。だって、すごく変だもの。

 

 

 確かに、フェイトたちが感じたようにこいつらは変わり者ばかりだ。

 まず、中性的な容姿の【ティエリニャ・アーデ】は、シロンのプロトタイプとして生み出されたイノベイドで、ケット・シーの中でも特殊な存在である。何度も改良できるように意識体を量子コンピュータに保存できるので、性別すら自由に変えられる新人類とも言える。その特性を生かしてとある任務中に女装をしたことがきっかけとなり、最近は妙に特定の男性を意識したりしているのだが、それでも与えられた役割のために頑なに中性を守るという色んな意味で頑固な人物だった。

 いずれにしても、そのような理由で性別がはっきりしない彼(?)はシロンにとって兄であり姉でもある厄介な存在であった。せっかく美人なお姉さまっぽい見た目なのに声と股間は男なんて、現実はとても残酷だ。せめてパイオツがあればよかったのに……。

 

「フッ、とんだ茶番だ……」

「とか言いつつ、ロックオンの股間をロックオンするニャよ」

 

 そう言ってシロンが視線を向けた先にいる男は、【ロックオン・ストニャトス】というコードネームを持つ【ライル・ディニャンディ】だ。彼は双子の弟で、兄の【ニール】に代わってスカウトされた男だ。

 最初のガンニャムマイスターとして選ばれたニールは、先の大戦の中盤で人類側のエースであるアリー・アル・サーシェスに深手を負わされ入院したのだが、そこに女装したティエリニャが見舞いに来るようになり、心が弱っていた所を狙い撃ちされて新たな世界に目覚めてしまった。その瞬間、戦士としての自分は死んだのだと見定めて前線を退いてしまったのである。

 そんな事情で凄腕の狙撃手を失ったソレスタルビーイングだったが、その代わりとしてすぐさまライルが加入してきた。

 その当時、サバゲー大好きな遊び人だったライルは、特殊な性癖に変わってしまった兄の代わりとして戦争に借り出されてしまった。そのため、当初はすごく不真面目だったのだが、シロンが懐柔策としておこなった合コンで【アニュー・リターニャー】を紹介されてからはわりと普通に協力するようになった。つまり、単純なハニートラップに引っかかった哀れな男であった。

 とはいえ、最近はアニューのほうも真剣になってきており、彼が股間に持っているスナイパーライフルの威力はかなりのものであることが伺える。

 

「やれやれ、アニューとの【ピー】をお預けにされた挙句にこんな薄気味悪い場所に呼び出されるなんて、今日は厄日だぜ……」

「それを言ったら僕たちだってそうさ。ようやくマリーと手を繋げそうな雰囲気になった時に邪魔されたんだからね」

「その通りだ。せっかく決心したというのに台無しにされてしまったんだぞ!」

「お前らは小学生か!?」

 

 アダルトなライルとは正反対に純情な感情で清い交際をしているのは、【アレルニャ・ハプティズム】と【マリー・パーニャシー】だ。彼らは仲間内で恋人同士という変り種であると同時に、特殊な能力を持った【超猫】と呼ばれる存在だった。

 この2人は、イノベイターを研究するために脳量子波の高い子供たちを集めた【超妖精猫機関技術学園】というエリート学校で出会い、一緒に仲良く訓練をしているうちに親交を深めて恋人同士となった。その際、告白シーンを学友に見られてしまい、大いにからかわれた結果、弱い心を守るために別人格の【ハレルニャ・ハプティズム】と【ソーニャ・ピーリス】が発現した。

 そちらの人格になると攻撃的な性格となるのだが、身体能力はそのままなので基本的に喧嘩は弱い。しかし、2つの人格を同時に出すと超人的な【思考と反射】を発揮することができるため、モビルアールヴのパイロットとしては最高クラスとなる。その力を買われ、2人はガンニャムマイスターにスカウトされた。

 争いごとの嫌いな2人はその誘いを拒否したが、マリーの養父である【セルゲイ・スミルニャフ】から「出世のチャンスを生かせないような情けない男に大事な娘はやれん!」と一喝されて、しぶしぶ参加することになった。

 しかし、恋人同士で一緒にいられる素敵な職場環境なので、今はとても気に入っている。同僚が変なヤツばかりなのが玉に瑕だが、自分たちも変なヤツなので特に問題は無かった。

 

「手を繋ぐ機会は失ってしまったけど……まぁいいさ、たまには寄り道も悪くない」

「そうね。奥手な私たちだけど、きっといつかは神に祝福される時が来るわ」

「いや……この世界に神はいない」

「って、君のネガティヴ・ワールドに僕たちを巻き込まないでくれよ、セツニャ」

「違う! お前は自分のエゴを押し通しているだけだ! お前のその歪み、この俺が断ち切る!」

「なんで恋愛してるだけなのに、そこまで言われなきゃならないのさ!?」

「はっきり言ってただの八つ当たりだニャ」

 

 シロンの言う通り、イチャイチャしているカップルにイラッとした【セツニャ・F・セイエイ】は、幸せそうな2人に対して突っかかっただけだ。

 意外に人間臭い性格の彼は【ソラン・イブニャヒム】という本名の物静かな青年で、中東系の遺伝子を持つケット・シーだ。

 過去に地球へ潜入調査に向かった際に人間のテログループ【KPSA】に誘拐・洗脳され、神の名の元に破壊と死をもたらす戦士として生まれ変わり、闇の世界に生きてきた――という設定を演じている中二病である。そんな歪んだ子供時代をすごしていた彼が、近所の空き地で自主訓練に励んでいた時にシロンの操る試作型モビルアールヴ【Oガンニャム】と出会い、ガンニャムマイスターを目指すことになった。

 そして数年後、努力を積み重ねたセツニャはエクシアのパイロットに選出された。基本的に争いごとを嫌うケット・シーとしては珍しく物騒な思考の持ち主であることと中二病なところがシロンに気に入られた結果だ。

 その後、人類との大戦で多大な戦果を挙げた彼はソレスタルビーイングのエースとなり、後に起こったELSとの戦いにおいて純粋種のイノベイターへと覚醒して名実ともに最強の中二病へと進化した。ガンニャム好きを公言している彼は、とうとう生身でガンニャムと肩を並べる存在になったのである。

 とはいえ、仲間内では単なるおバカの1人でしかないが。

 

「まったく、僕たちを歪んでると言うなら、ガンニャムに愛情を抱いてるセツニャのほうがよっぽど歪んでるじゃないか」

「確かに、あなたはとんでもないガンニャム馬鹿です」

「ありがとう……最高の褒め言葉だ」

「今のやり取りでなぜ笑う!?」

「嬉しい事があれば、誰だって笑うさ……」

「ダメだこりゃ! こいつぁ真性だぜ!」

 

 既に手遅れな状態のセツニャには皮肉も通じない。彼は、なのは以上にガンニャムであり、エリオ以上に中二病だった。

 

 

 以上のやり取りで分かるように、彼らはシロンの同類だと分かる変人ばかりで、フェイトたちの興味を大いに引いた。特にセツニャは抜きん出て特殊な存在であり、気になったチンクは隣にいるシロンに質問してきた。正確に言うと、彼の見た目に疑問を持ったため聞かずにいられなかったのである。

 

「おい、シロン。そいつは一体何なんだ?」

「ん? こいつはただのガンニャム馬鹿ですが、なにか?」

「いや、ガンニャムとかいうものより【全身が金属でできている】そいつが気になるんだが……本当に猫なのか?」

 

 チンクが気になったのはそこであった。信じられないことに、目の前にいるセツニャは全身が銀色に輝く金属になっているのだ。

 ずばり言うと、彼がこんな姿になった理由はELSにある。クアンタムバーストによって彼らとの対話に成功したセツニャはその後も順調に親交を深め、ついには融合まで果たしてしまったのである。どこまでも一つになれる彼らの心は、もはや愛すら超えてすべてを包み込む宇宙の心そのものと言ってよかった。 

 それでもバカップルにはイラッとしてしまうのだが、それはそれ、これはこれである。

 

「――とまぁ、かくかくしかじかでメタルセツニャが誕生したのニャ」

「ふむ……外宇宙から来た金属生命体か……まさかそんなものが実在しているとはな」

「言うなれば、君たち戦闘機人の究極進化系なのニャ。もしスカ野郎が研究を続けてたらチンクもいずれはこんな感じになってたかもニャ!」

「それは嫌だな……」

「同感ですね。あの姿で夏の日差しを浴びると、眩しい上に暑苦しくて非常に迷惑ですから」

「冬になったら、やたらと静電気が起こったりむやみに冷たくなったりして超うざったいしニャ」

「気にするトコはそこなんだ……」

 

 どこかずれた発言をするセフィたちにフェイトは呆れるが、確かにあれだと季節の変化に対応するのは大変そうだ。

 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。事件はまだ終わっておらず、セツニャたちも自分らがいる場所を見て異常が起きていることに気づいたらしい。

 

「シロン、俺たちにも事情を説明してくれ。お前たちはここで何をやっているんだ?」

「そうだな。エロいボディスーツを着た女やブリーフ一丁の変人が縛られてるなんて、どう考えても普通じゃないぜ」

「ですよねー」

 

 やはりと言うか、セツニャたちもスカリエッティ一味のことが気になっていた。シロンの仲間である彼らに隠すことでもないので、事情を一番よく知っているフェイトが一連の出来事を説明する。

 

「――というわけです」

「なるほど、こいつらは断罪すべき犯罪者なのか」

「はい。この男こそ、断ち切らなければならない歪みなのです」

「確かに、この男は歪んでいる。ブリーフの痛みが激しくて、中身がまるで固定できていない」

「ああ、これじゃあ弾と銃身の位置が定まらねぇ。こいつはもう代え時だぜ」

「いえ、あの、そこはまったく関係ないんですけど……」

 

 なぜかスカリエッティのブリーフに話が移ってしまったものの、とにかく納得はしてもらえた。後はこれからどうするかだが、事件はほぼ終息しているのでシロンたちが動くほどのことはもうほとんどない。普通だったらこれで「めでたしめでたし」となるところである。

 だがしかし、いたずらっ子なシロンは、何か面白いことを思いついたようなゲスい表情をしていた。

 

「そうとも……我輩にならできる……いや……我輩にしかできないんだ! やろう! デスノート……げふんげふん、ガンニャムで世の中を変えてやる!!」

「なんか、さりげなく危険な単語が聞こえたんですけど!?」

 

 フェイトは、新たな死神が誕生してしまいそうな言葉を聞いてビックリしたが、もちろん夜神月のような人殺しをやるつもりはない。基本的に平和を尊重しているシロンは、悪いヤツらと出会った場合、とりあえずぶっ飛ばして戦う力を奪ってからじっくりねっとり【オハナシ】する、というように理性的な行動を心がけている。

 そんな彼がこの期に及んで思いついた作戦が、ガンニャムを使って管理世界の人々を脅かしてやろうというものだった。

 今回の事件は、様々な恩恵を齎すロストロギアを求めて止まない人々の心の弱さが招いた惨事だ。本当に大切なものを学び取ることもなく、過去の遺物を自分の力であると錯覚して自惚れるからこのようなことになる。人々はその事実を受け止め、真摯な気持ちで地に足をつけながら進歩していくべきなのだが、残念ながら今すぐ愚民どもすべてに英知を授けることはできない。

 だからこそ、彼らの魂を惹き付け、数多の悲劇を生み出してきたロストロギアを造作も無く破壊する。世界は、こんなにも簡単に壊れてしまうものなのだということを示すために。

 とまぁ、そんな感じで一応それとなく理由を付けているものの、簡単に言えば大掛かりなイタズラである。怖い思いをすれば、それなりに反省して世直しを考えるようになるだろうというわけだ。

 

「名づけて、【ミッドチルダが持たん時が来ているのだ作戦】ニャ!」

「おいおい、本当にやるのかよ?」

「ほぅ、あまり乗り気ではないようだね。しかし、君たちに拒否権は無いのだよ! なぜなら、ソレスタルビーイングは世界でもっともあくどいブラック企業なのだから!」

「分かり合う気は無いのか!?」

「フッ、よく見ておくのだな。会社というのは、ドラマのように格好の良いものではない!」

「うすうすそう思っていたけど、やはりそうだったんだね……」

「世界を相手に武力介入する組織がホワイト企業なわけないだろう」

「っていうか、会社扱いだったの!?」

「うぅ、こんな奴らに負けただなんて……私たちのやってきたことって一体なんだったのだろうな、妹たちよ……」

 

 シロンの適当さにガンニャムマイスターたちは憤り、フェイトは呆れ、チンクは落ち込んだ。なんだか色々と酷い状況になってきたが……とにもかくにも、シロンの気まぐれによってセツニャたちの操るガンニャムがこの世界に姿を現すことになった。

 

 

 それから十数分後、ゲンヤたちの前に姿を現した3機のガンニャムがとうとう動き出した。本家ソレスタルビーイングによる武力介入の始まりである。

 飛行形態に変形したオレンジ色の機体と大型の武装を背負った白色の機体は別の戦場へと飛び去り、この場にはダークグリーンで塗られた軍用機のような機体が残った。ロックオンの専用機である【ガンニャムサバーニャ】だ。

 腰部に装備された10基のCNホルスタービットが特徴的で、それらがガンニャムの周囲に展開された様子を地上で見ていたゲンヤたちは強い危機感を覚えた。

 

「あの野郎、攻撃を始めるつもりか!?」

「攻撃って、相手は誰なんです!?」

「そりゃおめぇ……俺にも分からねぇよ!」

 

 事情を知らない部下と不安を隠しきれない会話をしながらゲンヤは考える。確かシロンがあんなロボットを持っていると言っていた気がするが、今はどうにも嫌な予感がしてならない。

 その気持ちはすずかとアリサも同様で、なぜか逃げなきゃいけないような気がしてならなかった。おバカなシロンは、こういうお祭り騒ぎな時に悪ふざけに走る傾向があるからだ。

 実際に彼女たちの予想は当たっており、仲間のみんなも驚かしてやろうと連絡もせずにおこなっているのだが、どちらにしても彼女たちが巻き込まれようとしていることは間違いない。

 

「ねぇすずか、アレってなんだか私たちも攻撃対象に入ってる気がするんだけど……」

「う、うん……シロンちゃんならやりかねないかも……」

 

 この時すずかは、子供の頃にやった特訓を思い出していた。その過程でシロンは、「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」と言いながら容赦なくすずかたちを撃ちまくったが、今回も同じノリを感じる。彼が武器を用いて戦い始める時は、いつも相手に痛みを教える時なのだ。ということは、同じ戦場にいる自分たちもその対象に入っている可能性がある。

 というか、実際にその通りで、豪胆なシロンは世界の命運をかけたこの戦いすらも仲間たちを成長させる特訓の場として生かそうとしていた。

 サバーニャのコックピットにいるロックオンは、そんな後輩たちの戸惑いなど露知らず、慌てふためく局員を見下ろしながらつぶやく。

 

「俺にはここにいる連中を救ってやる義理はねぇが、シロンの頼みとなりゃしょうがねぇ……」

 

 この世界に思い入れのないロックオンとしてはまったく気乗りしないものの、ここまで来てしまっては仕方がない。

 

「とりあえず、乱れ撃つぜぇぇぇぇ――――――っ!!!!!」

 

 ロックオンはお決まりのセリフを叫ぶと同時に射撃を開始した。嵐のような粒子ビームの雨が天空より降り注ぎ、ガジェットドローンの大群を瞬く間に蹴散らしていく。

 そこまではよかった。すずかやアリサはともかく、他の局員は敵の物量に押されて怪我人が続出していたからだ。しかし、サバーニャの容赦ない攻撃はその管理局側をも巻き込んでいた。

 あまりの異常事態に度肝を抜かれていたゲンヤたちは、まともな回避行動もできずに粒子ビームを食らってしまう。非殺傷設定とはいえ、人間がモビルアールヴサイズのビームを撃たれて昏倒する様はとても凄惨で、見ている者に大きな恐怖を与えた。

 

「「やっぱりこうなるの―――っ!?」」

 

 予想の当たったすずかとアリサは仲良く叫びながら回避行動に移ろうとした。だが、その前にピンク色の巨大な光が彼女たちを襲った。調子に乗ったロックオンが、CNホルスタービットを4基ずつ並べて強力な粒子ビームを発射したのだ。

 

「えっ、ちょっ、まっ」

「いや――――っ!?」

 

 ジュバァ――――――ン!!!!!

 激しい着弾音と共に少女たちの叫び声はかき消される。

 ピンク色の眩しい閃光に包まれた廃棄都市は阿鼻叫喚となり、しばらく後に静寂を取り戻したそこには、衣服やバリアジャケットがボロボロになった局員たちがサイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒れている光景が広がっていた。

 もちろんすずかとアリサも例外ではなく、アーマーを壊されて胸元やお尻を大胆に露出した色っぽい姿で呆然と立ち尽くしていた。

 因みに、事件終了後に2人の姿を見たシロンから【リアルクイーンズブレイド】と茶化されてひと悶着起こすことになるのだが、ものすごくどーでもいい話なので割愛する。

 

 

 すずかたちが悲惨な目に遭う少し前、ルーテシアを保護したエリオとキャロは、彼女を救護班のもとへ護送する途中でガジェットドローンの大群に襲われていた。本来の歴史より大量に生産されたため、彼らも戦うハメに陥っていたのだ。レヴィから事情を聞いたのでアジトにいるフェイトの心配はいらないだろうが、今は自分たちのほうが危機的状況にある。

 

「ちぃっ! 邪王真眼の力をもってしても圧倒されるだとぉ!? スカリエッティの手勢を討っても抵抗が止まないなど、不条理極まる! 闇の勢力は未だに健在だとでも言うつもりか!?」

「やっぱり、聖王のゆりかごを破壊しないとダメなのかも、くぅっ!」

 

 気を失っているルーテシアを守りながら戦っているため2人は苦戦していた。正気を取り戻したガリューも協力してくれているが、多勢に無勢な状況は変わらない。

 このままではまずい。早くどこかの部隊と合流しなければやられてしまう。

 そう思ったとき、彼らの希望となる援軍が駆けつけた。アースラからの連絡でエリオたちの危機を知らされたシグナムがルーテシアの安否を気にしたアギトの協力を受けることになり、地上本部から急いで飛んできたのだ。その際ゼストにユニゾンすることを薦められ、即席でコンビを組んだ。

 捕まえたレジアスたちは他の局員に預けてきたので、後顧の憂いなく戦える。一緒にいたグラハムは、ジオニック社付近に侵攻してきたガジェットドローンの迎撃に向かってしまったが、彼女たちだけでも十分すぎる援軍だった。

 

「どうやら大事無いようだな、2人とも」

「「シグナムさん!」」

『良かったぁ! ルールーも無事だよ!』

「えっ!? その声は……アギト?」

「うむ、少し前に和解してな、今は私とユニゾンしてもらっている」

『まぁ、旦那に頼まれちまったからな』

 

 アギトは仕方ないといった様子で言葉を発した。しかし内心では、相性のいいロードと出会えたことに喜びを感じていた。そのせいかシグナムの技は更に威力を増しており、話をしつつもガジェットドローンの大群を鮮やかに破壊していく。

 とはいえ、数が尋常ではないので、通常攻撃ではきりがない。

 

「大技で一気に数を減らすぞ!」

『おうよ! あたしらの全力を盛大にぶちかましてやろうぜ!』

 

 色んなことが上手くいって元気一杯になっているアギトは、威勢よく啖呵を切った。今なら視界一杯に飛び回っているガジェットドローンもあっという間に全滅させることができそうだ。

 しかし、そんな彼女の気概を削ぐように異様な存在がやってきた。ゲンヤたちのいる戦場から飛来してきたティエリニャ専用機【ラファエルガンニャム】が唐突に現れたのだ。

 バックパックに変形したセラヴィーガンニャムIIを頭上に背負った異様な風貌で、その部分に過剰なまでの重武装が施されている。絶大な破壊力を有しているCNビッグキャノンを装備したラファエルガンニャムは、サバーニャと同等以上の災厄を齎そうとしていた。

 

「君達はこの世界に相応しくない。そうとも……万死に値する!!」

 

 ティエリニャは、鬼畜なスカリエッティの尖兵であるガジェットドローンを罵りながら、まったく躊躇することなく攻撃を始める。人という存在を良くも悪くも認めている彼は、無人兵器を心底憎んでいた。

 本来戦いとは自身の肉体のみでおこなうべきなのに、自身が傷つかない歪んだ戦い方をするから余計な悲劇を生んでしまう。だったら、ガンニャムの力で破壊するまでだ。

 

「ラファエル、目標を破砕する!」

 

 そう叫んでトリガーを引くと、両肩上部にあるCNビッグキャノンから紫電をまとったオレンジ色の極太ビームが放たれた。それと同時に機体をゆっくり旋回させて、放たれ続けるビームの軌道を変えることで戦場全域をなぎ払う。

 

「僕にも一応、脳量子波は使える!」

 

 まったく脳量子波は使ってないのに、一応決め台詞を叫んでおく。お堅い見た目な彼にも意外にお茶目なところがあった。

 しかし、そんな彼にいきなり砲撃されたシグナムたちはたまったものではない。本当に不意打ちだったので、流石のシグナムも避けることができなかった。

 

「なっ!?」

『なんだこりゃ――――――っ!?』

 

 驚愕の表情を浮かべながら為す術も無くビームに飲まれる。空気を読まない攻撃のせいで、せっかくのユニゾンも見せ場無く終了した。

 そして、近くにいたエリオたちもほぼ同時に巻き込まれていた。

 

「きゃぁ―――っ!?」

「ふっ……これが死か」

 

 もう一度言っておくが、ガンニャムのビームは非殺傷設定なので死ぬことはない。中二病のエリオが特殊なシチュエーションに酔っているだけだ。

 とはいえ、かなり強力な砲撃だったため、みんなで仲良く半裸状態になって地面に寝転がることになった。

 因みに、レヴィの攻撃でバリアジャケットがボロボロになっていたルーテシアは、今回の攻撃でパンツ一丁になってしまい、後にこの出来事をエリオに教えてもらったシロンから【リアル魔界村】と茶化されてひと悶着起こすことになるのだが、ものすごくどーでもいい話なので割愛する。

 

 

 エリオとキャロがシグナムと合流しようとしていた頃、スバルとティアナも別の増援と合流してガジェットドローンの大群と戦っていた。

 彼女たちの所に来たのは、JF704式ヘリコプターのパイロットと狙撃手を勤めている【ヴァイス・グランセニック】と、彼の操縦する機体に便乗してきたシャマルとザフィーラだった。

 シャマルに足を治療してもらったティアナは、気絶しているギンガをヘリに乗せてきたスバルとともに再び戦い始める。ヴァイスとザフィーラの援護を受けながら彼女たちがアタッカーを務め、かなりのハイペースで撃墜数を増やしているが、やはりこちらでも数の暴力に押されてしまっていた。

 

「まったく、なんて数なの!?」

「早くなのはさんの援護に行かなきゃならないのに!」

 

 聖王のゆりかご内にいるなのはと連絡がつかなくなったことを知ったスバルは焦っていた。詳細を聞こうにも、なぜかゆりかご周辺にいる者と念話が繋がらなくなっており、余計に不安を掻き立てる。どうやら通信妨害が起きているようだが、そこまで広範囲にAMFを展開しているとは思えない。結局、あれこれ考えても原因不明なことに変わりなかった。

 もしこの場にリニスが残っていたらすぐにでも駆けつけることができただろうが、彼女は夫の連絡を受けて子供のもとに戻ってしまった。そちらのほうにもガジェットドローンが現れたと聞いては、無理に止めることもできなかった。そもそも彼女は一般人だと言っていたから、たとえ戦闘機人をビンタ一発で倒せる主婦だとしても、頼りきるわけにはいかない。

 

「お前たち、もっと戦闘に集中しろ!」

「そうだぜお二人さん、今は自分たちの心配をする時だ!」

「は、はい!」

「分かりました!」

 

 ヴァイスとザフィーラは、自身の仕事を果たしながらも少女たちを気にかける。戦闘中でもちょっとした機微に気づくことができるとは、本当に頼もしい仲間だ。

 ただし、彼らの中に変なのがまじっているようだが。

 

「ハロ。フタリトモ、オッパイユレテ、チョーエロイ!」

「って、さっきからエッチなことばかり言って役立たずなそいつを黙らせてくれませんか!?」

「いや、これでも良い感じに助けてくれてるんだぜ?」

「それ以上に精神面で邪魔されてるんですけど!」

「あはは……」

 

 ティアナは、シャマルたちについてきたハロ・キティ(猫型のハロ)に怒りをぶつけてストレスを発散した。アルマを守るために作られたハロ・キティは防御と補助の魔法に特化しているので、この場ではとても役に立っているのだが、開発者の意向が反映されているのか時々エッチな発言をする点がいただけない。

 現に今もティアナの思考を乱して大きな隙を作るきっかけになってしまった。

 

「あぐっ!?」

「ティア!?」

 

 ガジェットドローンIII型の格闘攻撃で弾き飛ばされ、スバルたちから大きく引き離された。

 何とか受身を取ったティアナは、現状を理解して冷や汗を流した。まずい、敵陣の真っ只中に放り込まれて孤立してしまったこの状況では袋叩きにされてしまう。

 

「ああもう! エロい言葉に気を取られてこんな目にあうなんて! 私たち兄妹はエロに呪われてるの!? 兄さん!!」

「おーい、こんな時になに言ってんだお前は!」

 

 意外に余裕がありそうなティアナのつぶやきを聞いてヴァイスは呆れたが、今は本当にピンチなので、状況を察して足元に来たハロ・キティを援軍として送ろうとする。

 しかし、彼がぶん投げるモーションに入る前にオレンジ色の飛翔体が現れ、ティアナを囲んでいたガジェットドローンを一瞬で切り裂いていった。アレルニャとマリーが操る【ガンニャムハルート】がCNシザービットを放ったのだ。

 その間に飛行形態から人型になったハルートは、CNソードライフルとCNキャノンを構えて戦闘態勢を整える。巨大なその銃口はスバルたちにも向けられており、それを見た彼女たちは冷や汗を流す。ようするに、ここでもまたすずかやエリオたちが経験した惨劇が始まろうとしていた。

 

「いいか! ものすげぇめんどくせぇが、反射と思考の融合だァ!」

「とりあえず分かってる!」

「気が乗らないけど了解!」

 

 ロックオンと同様にあまりやる気のない2人だったが、これも仕事だと割り切って射撃を開始した。

 すべてのガンニャムは一対多数の戦闘を想定して設計されており、ハルートの火力も尋常ではない。機動性と行動範囲を優先している分、他の機体より劣るものの、この世界の戦力を相手にするには十分すぎる威力を持っている。というか、明らかにオーバーキルな性能だった。

 その上、それを操縦しているパイロットもかなりヤバイ奴だったから余計に始末が悪い。

 

「適当に行くぜぇぇぇぇ――――――っ!!!!!」

 

 ハレルニャは、やる気があるのかないのか分からないような叫び声を上げながら粒子ビームを乱射した。その無慈悲な攻撃は哀れなガジェットドローンを瞬く間に蹂躙し、状況が分からず驚いているスバルたちもついでのように吹き飛ばした。

 

「「「「うわぁぁぁぁ――――――っ!!?」」」」

「ヒカリガ、ヒロガッテイク……」

 

 巻き込まれたハロ・キティもピンク色に輝く光の中へと消えていき、後には半裸状態で地面に転がっているスバルたちと煙を吐いてるハロ・キティの姿が残るだけだった。

 因みに、ヴァイスたちが乗ってきたヘリコプターも破壊され、中にいたギンガは再び素っ裸になってしまった。幸い最初に気がついたシャマルに体を隠してもらったものの、2度も露出行為を強要されてしまう。そのせいで、後にシロンから【リアルTo LOVEる】と茶化されてひと悶着起こすことになるのだが、ものすごくどーでもいい話なので割愛する。

 いずれにしても、アレルニャたちの活躍(?)によってこの地域にいるガジェットドローンは全滅したので、彼女たちの戦いはひとまず終わりを迎えた。

 もっとも、アレルニャたちこそが倒すべき敵みたいになってしまっているが。

 

「これが超猫の力だぁ!」

「違う! マリーとイチャつく力だ!」

 

 戦果を確認したアレルニャは、いつものように一人芝居を楽しむ。なんだかんだ言っても、久しぶりに大暴れできたおかげでご満悦の様子である。はっきりいって傍迷惑な連中だった。

 しかし、彼らの宴はまだ終わりではない。もう1人、大本命の彼が残っている。

 セツニャ・F・セイエイ……ELSと融合を果たし人知を越えた存在となった彼が神のごときガンニャムの力を行使する。その時何が起こるのか、答えはもうすぐ示されようとしていた。

 

 

 3機のガンニャムによる武力介入によって各地の戦場が次々と沈黙していく中、ゆりかごの外部にいるアインスたちにも同じような運命が訪れようとしていた。これまで静観しているだけだったガンニャムが、ついに活動を始めたのだ。

 セツニャのガンニャム、【ELSクアンタ】が右腕を前方にかざすと、銀色に輝く円錐状のビット兵器が大量に出現して、自機を守護するような配置についた。魔法で作った異空間から【CNランスビット】を取り出したのだ。これらはすべてELSの体でできたもので、CNドライヴを搭載している上にケット・シーとミッドチルダの魔導技術を取り込んでいるため魔法まで使えるチート装備となっている。

 その威力を知っているユーリとマテリアル娘は驚愕の表情を浮かべており、事情を知らないアインスたちに不吉な予感が走った。

 

「お前たちはあれが何なのか知っているのか?」

「……ああ、知っておる」

「あれはELSクアンタ、究極の機動兵器にして最強のガンニャムです!」

 

 ヴィータは、ガンニャムと聞いて以前目撃したダブルオーを思い出した。あの機体でさえゆりかごを沈めることができそうなのに、ELSクアンタにはそれ以上の力があるらしい。

 

「究極にして最強か……そんなもんで今更何しようってんだ?」

「あ~、どうやらゆりかごをぶっ壊すつもりみたいだよ? ボクらごと」

「「「「え?」」」」

『ま、まさか~、そんなことは……って、言ってるそばからすごい魔力反応が!?』

 

 変化に気づいたリインが天空を見上げると、ELSクアンタの周囲に浮いているCNランスビットの前方にミッドチルダ式とは違う魔方陣が展開されていた。レヴィの言葉通り、一目でとんでもない大魔法を撃つ気だと分かる。CNランスビット一つだけで大型次元航行船の駆動炉を遥かに超える魔力を放っているのに、それが100基以上もあるのだから、その威力は推して知るべしだろう。

 

「うわ―――ん!? どうしよ王様ぁ―――っ!!?」

「泣くな戯けが!! 我の方こそ泣きたいわぁ―――っ!!?」

「ふふふふ、2人とも、もちついてくださぁ―――い!!?」

 

 状況を理解したユーリたちは、何かトラウマでもあるかのように取り乱し始めた。というか、ぶっちゃけると以前ELSクアンタに戦いを挑んで同じ魔法を食らったことがあるのだ。

 もちろんシュテルもその1人で、なのはたちと共に聖王のゆりかごから脱出してきたタイミングで、この恐るべき状況を迎えてしまっていた。

 

「あ、あれは……」

「ガンニャム!?」

 

 ゆりかご上部から外に出てきたなのはたちは、頭上に展開されている異様な光景に驚愕した。天使のような姿をしたガンニャムが、とても大規模な魔法を撃ち出そうとしていたのだから当然だ。

 

「ねぇ、なのはちゃん。何が起きとんのかよう分からへんけど、これってちょーやばいんとちゃう?」

「う、うん……たぶん、あれでゆりかごを破壊しようとしてるみたいだから……」

「私たちも攻撃範囲に入っていますね」

「「「……ええ―――っ!?」」」

 

 ただ1人、あれの威力を知っているシュテルは、お姫様抱っこしたヴィヴィオを庇うようにしながら内心で覚悟を固めていた。今からでは全力で逃げても無駄だからだ。なにせ、最大射程が

1万km以上もあるのだからどうしようもない。

 ELSと融合したガンニャムは、本当に破壊神と呼べる力を手に入れていたのである。

 そんなとんでもない機体を操縦しているセツニャは、自身に向けられる負の感情を受け止めつつ叫んだ。

 

「武力による戦争根絶! それこそが、ソレスタルビーイング!!」

 

 先の大戦中に言ったことのある懐かしいセリフだが、今回はゆりかごの破壊が目的なので初心に帰ってみた。

 そう、シロンから言い渡されたセツニャの任務は、対話など一切無用の無慈悲な魔法攻撃をおこなうことなのだ。ゆえに、遠慮は無用だった。

 

「セツニャ・F・セイエイ、目標を……ぶっ飛ばすっっっっ!!!!!」

 

 ELSと分かり合えた今の彼は以前より穏やかな中二病となっていたが、ケット・シーの魔法は優秀な非殺傷能力を誇っているので、もとより気に病む必要はない。だからこそ、あえて最高の魔法を放った。

 

「世界に仇なす愚かな歪みよ、量子の光に抱かれて爆ぜろ! クアンタムエクスプロージョン・トランザムライザーエクストリームフルブーストハイメガバスターマグナムキャノンヒートエンド!!!」

 

 セツニャの無駄に長い詠唱が終わると同時に、見たこともない大魔法が発動された。

 ELSクアンタを中心に太陽が誕生したのではないかと思えるほどの光が溢れる。神々しさと畏怖の念を感じさせるその光は、戦場にいるものすべてを平等に包み込んだ。聖王のゆりかごを、ガジェットドローンを、そして、なのはを始めとする魔導師たちを瞬く間に飲み込み、それぞれに見合った結末を与えていく。

 この魔法は量子テレポートの効果を利用しており、射程範囲内の威力をピンポイントで調整できるので、任意の物だけにダメージを与えることができる。つまり、巻き込まれた人間を1人も死なせることなく、聖王のゆりかごとガジェットドローンだけを一瞬で消滅させるといった離れ業が可能だった。

 とはいえ、あまりに高威力なため、完全に無傷というわけにはいかなかった。特に、精神的ダメージのほうが甚大だ。もっとも恐ろしいと思っていたなのはの砲撃魔法以上なのだから当然だろう。

 

「うわぁ―――――っ!!?」

「か、母さ――――んっ!!」

「マリア―――――ッ!!」

 

 航空魔導師たちの断末魔のような叫び声は、激しい光の奔流に飲まれてかき消されていく。もちろんそれは、なのはたちも例外ではない。魔導師用に縮小されたCNドライヴの出力ではどうにもならず、一方的にやられるだけだった。

 

「なんか、激しくデジャブを感じるぅ―――――っ!!」

「うぎゃ―――っ!! シロンのアホ―――――っ!!」

「いやぁ―――っ!! なのはママァ―――――っ!!」

「この痛みもシロンの愛だと思えば……絶対に許せませんね」

 

 阿鼻叫喚の地獄と化した戦場は眩しい閃光の中に消え去り、視界が元に戻った後にはバリアジャケットをボロボロにして半裸状態になった魔導師たちが気の抜けた様子で浮いていた。

 恐るべき力を持っていたはずの聖王のゆりかごはあっけなく消滅し、視界を埋め尽くしていたガジェットドローンも一つ残らず破壊された。とても信じられないが、上手に手加減して人間だけを残したのだ。

 幸い気絶した者は1人もいないので救助の必要も無い。変な所で気を使ったシロンは、グラハムとリニスに救助係を頼んでいたのだが、その心配は無用だったようだ。

 

「流石だ少年! その圧倒的な強さに、改めて惚れてしまいそうだ!」

「もう、浮気は許しませんよ?」

「ふっ、無論承知だ。私の愛は、君とアルマの2人だけに向けられているよ」

「ふふっ、グラハムったら!」

 

 隠密魔法・ミラージュコロイドで姿を隠した2人は、場違いにもイチャつき始める。それに対してツッコミを入れる者は誰もいないのでやりたい放題だ。

 そんなバカップルを見ていてもイラッとするだけなので、視点をなのはたちに戻すと、そこでは新たな動きが起こっていた。ELSクアンタの前方、CNランスビットを回収してすっきりとした空間に、巨大な魔法のスクリーンが現れたのだ。

 呆然としていたなのはたちがそれに気づいて視線を向けると、そこにはモノクルをかけた禿頭の老人が映っていた。彼の名はイオリア・シュヘンベルグ――ケット・シーを生み出した張本人であると同時にシロンの先祖と言うべき人物だった。

 もちろんそんな詳細などこの世界の人々が知っているわけも無く、不可解な状況を前に怪訝な表情を浮かべるだけだったが、直後に語られる彼の言葉を聞いて愕然となった。

 

『管理世界で生まれ育った、全ての人類に報告させて頂きます。私達は、ソレスタルビーイング。機動兵器ガンニャムを所有する、私設武装組織です』

「ガンニャム?」

「私設武装組織……」

 

 この世界の人々は、ここで初めて彼らの名を知った。そして、この後の言葉で彼らの目的も知ることになる。しかし、それはあまりに意外な内容だった。

 

『私達、ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から【衣服と戦争を根絶する】ことにあります』

「………………え?」

「衣服と戦争を根絶する?」

 

 まったく意味不明である。

 この映像は他のガンニャムのもとでも表示されており、それを見ているすべての人間が疑問符を浮かべた。このハゲオヤジは一体何を言っているのだろうか。

 タイミングよく目が覚めた機動六課の面々やソレスタルビーイングの新人たちも同じような気持ちで、ポカンとしながら演説の続きを聞く。

 

『争いが起きるのは、人類が衣服を着るようになったことが原因です。衣服の登場によって羞恥という感情を得た人類は、他者を強く認識するようになりました。その結果、他者との違いを思い知るようになり、そこから様々な悪意を生み出していくことになったのです。それと同時に、身も心も覆い隠す衣服は生活に余裕を生み出し、人類の欲望を増長させる一因ともなりました。これが、人類が戦争を生み出した原因です』

 

 そこまで聞いて一部の人間はなるほどと思った。一応それなりに説得力があったからだ。しかし、だからといって鵜呑みにできる話でもない。

 現に、続いて発せられた言葉は到底受け入れ難いものだった。

 

『ゆえに衣服はこの世に存在すべきものではないのです。魔法による体温調整が可能なあなた方ならば争いの元である衣服を脱ぎ捨てることが可能なはずです。真に平和を望むのであれば私たちの理念に賛同して、今すぐ裸のヌーディストになってください』

「んなもん賛同できるか―――――っ!!」

 

 いち早く気を取り戻したアギトがツッコミを入れる。小さくても女性である彼女なら当然の反応だろう。中にはちょっといいかもなんて思ってる変人もいるが、その他はすべてアギトと同じく否定的な意思を持っている。エロ文化を発展させまくった今、人類は衣服を脱ぎ捨てることなんてできない。今更、純真無垢なアダムとイヴには戻れないのだ。

 しかし、禁断の果実とも言えるロストロギアを弄んだ彼らには似合いの罰かもしれない。再び神を怒らせるほどの重罪を犯してしまった人類は、ようやく自分たちで作り出した衣服という小さな楽園まで追い出されることになるわけだ。

 これこそまさに、天上人を名乗るソレスタルビーイングの仕事に相応しいのではないだろうか。たとえ、野外露出を強制しているだけだとしても、全裸で戦争をするほど人類もバカではないだろうから、最終的には目的を達成できるはずだ……たぶん。

 

『私達は自らの利益のために行動はしません。衣服と戦争の根絶という大きな目的のために、私達は立ち上がったのです。只今を以って、全ての人類に向けて宣言します。領土・宗教・エネルギー、どのような理由があろうとも、私達は全ての着衣行為と戦争行為に対して、武力による介入を開始します。衣服と戦争を幇助する世界、組織、企業なども、我々の武力介入の対象となります。私達はソレスタルビーイング。この世から衣服と戦争を根絶させるために創設された武装組織ですニャ』

「…………ニャ?」

 

 とにもかくにも、始めから最後まで衝撃的だった演説が終わった。語尾に変な言葉を残して。

 そこに気を向けた人間は少ないものの、裏事情を知っている者はすぐに理解した。さきほど演説をしていた老人は、変身魔法を使って別人を演じていたシロンだったということを。

 

「やっぱりアイツの仕業か―――――っ!!」

 

 状況を把握したなのはは、思いっきり怒声を発した。

 それとほぼ同時に他の仲間たちもシロンの悪ふざけだと気づき、目の前にいるガンニャムに向けて怒りをぶつけた。

 すずかとアリサはサバーニャに攻撃し始め、周りにいたゲンヤたちもそれに加わる。その様子を見たロックオンは、やれやれと頭を振りながら遠い場所にいる恋人に語りかける。

 

「アニュー……お前と会えて人と人が解り合える世界も夢じゃないって分かったんだ。でも、こいつらはダメだな!」

 

 自分のやったことを棚に上げてあっさり対話を断念する。確かに全員と仲良くなれるわけもないので、時にはこういう悲しい現実も受け入れなければならないのだが……今回の場合はそれ以前の問題だった。

 有無を言わせずあんな攻撃を受けたら誰だって怒る。完全に悪役となってしまったティエリニャとアレルニャたちも、巻き込まれた連中から反撃を食らっていた。

 

「これが人間か……」

「ああ、世界の悪意が見えるようだよ……」

 

 どっかで聞いたようなセリフで心情を表に出す。かつての大戦中に向けられた悪意とは比べ物にならないが、久しぶりに人間の嫌な部分を見せられて思わず口に出してしまった。

 結果的には助けてやったことになるのに、恩を仇で返されるとは。

 実際に、次元航行部隊が到着するまで待っていたら死人が出る可能性すらあったのだから、彼らの活躍も決して余計なお世話ではなかった。

 とはいっても、それはそれ、これはこれである。事情を知らない者たちからすれば恐るべき敵でしかないし、なのはたちにとっても笑って許せる問題ではない。

 悪ふざけが過ぎた子供はしっかりと叱ってあげなければならないのだ。

 

「少し、頭を冷やそうかぁ―――――――っ!!!」

 

 なのはは、あの名セリフを叫ぶと、最強の砲撃魔法を放つ準備を始めた。

 レイジングハートの先端に形状を変えたCNソードVを連結し、そこにCNソードビットを合体させることで【ブラスターライフルモード】を形成する。更に、こちらの世界におけるビット兵器【ブラスタービット】を4基展開して、同時に5つの砲撃魔法を放つ気だ。

 更に、ここで奥の手も発動する。

 

「トランザム!!」

「うわぁ、なのはママが真っ赤に光ってるー!?」

「ふふっ、待っててねヴィヴィオ。今からなのはママが、悪い猫さんを懲らしめてあげるから」

「うんっ!」

 

 ものすごく男前な様子のなのはママを見てヴィヴィオは目を輝かせる。その様子を間近で見ていたシュテルは一つの確信を得た。

 

「やはり、この子もガンダムとなる運命のようですね」

 

 似たもの親子な2人を見てシュテルがぼそりとつぶやく。しかし、幸いなことに、やたらとテンションが上がっているなのはには聞こえなかった。厄介な隠蔽作業を覚悟したはやても黒い笑顔を浮かべてしまっているので、彼女たちの怒りはもはや誰にも止められない。

 

「ええい、こうなったらどうとでもなれや! 私も一発かましたるで!」

「うん、思いっきりやっちゃおう!」

 

 まるで花火で遊ぶ子供のようなノリで盛り上がり始めた2人は、可愛い花火とは似ても似つかない砲撃魔法を撃ち上げる。

 先に詠唱を終えたはやてが、ELSクアンタに向けて直射型砲撃魔法・ラグナロクを放つと、それを合図にアインスたちも次々と続いた。

 そして数秒後、本命であるなのはの魔法が炸裂する。

 

「全力全開!! スターライトブレイカ―――――――――ッ!!!!!」

 

 気合を込めた叫びと共に、ピンク色の極太ビームが撃ち出された。現時点でなのはが使える最強の魔法【スターライトブレイカーexs-fb】だ。exs-fbは、エクストローディナリィー・スペリオル-フルブラストの略で、【桁違いですごいスターライトブレイカーを全力で撃ちまくる】という意味であり、実際にその通りの結果を実現していた。

 レイジングハートと4基のブラスタービットから放たれたそれらは、ガンニャムの武装に匹敵するほどの破壊力を持ってELSクアンタに迫り、直撃した。

 流石にこれだけでモビルアールヴのCNフィールドを突破するのは無理だったが、ここで温存していたマガジン内のカートリッジ全弾を使い、砲撃の威力を更に上げる。CNウェポンによる補助のおかげでなのはにかかる負担が大幅に減っているためこんな無茶も可能となっていた。

 

「アルティメットシュ―――――トッ!!」

 

 勇ましい掛け声と共に更なる気合を込めた瞬間、レイジングハートから凄まじい閃光がほとばしる。

 それはもうガンニャムの攻撃そのものだった。人間の限界を超えた砲撃魔法は、はやてたちの魔法で弱っていたCNフィールドを突き破ってELSクアンタに届いた。

 

「そうか……彼女がシロンの言っていたこの世界の……」

 

 セツニャは、ピンク色に染まる視界の中で笑みを浮かべる。

 そうだ、彼女は今、自分と同じ道を歩み始めた。武力と対話を同時におこなうという矛盾を抱えながらも、人と人とが分かり合える道を模索し続けていくという茨の道を。

 ならば、先駆者としてこの言葉を送ろう。

 

『お前も……ガンニャムだ!!』

「違うよ! 私は、ガンダムだ!!」

 

 なのはも勢いに乗せられて思わずアホな返事をしてしまう。

 もともとガンニャムは人間の作ったアニメ作品【機動戦士ガンダムシリーズ】を参考に作られたものであり、なのははその物語を参考に特訓してきたという経緯があるため、彼女の返事は当たっているのだが……結局はどーでもいい話なので、セツニャも素直に受け入れる。

 

『……ならば、お前の事はガンダムと呼ぶことにする』

「えっ!? いや、今のはちょっとした条件反射で――」

『皆まで言わなくてもいい。先ほどの攻撃でお前たちの可能性を見せてもらった。今はそれを信じて引くとしよう。さらばだ、ガンダム!!』

「って、ちょっと待って! 最後まで話を聞いて――――――っ!?」

 

 なのはの悲痛な叫び声を残して、役目を終えたセツニャは後退していく。

 彼の操るELSクアンタは、お別れを告げるようにメインカメラを光らせると、美しいCN粒子を残しながらいずこかへと飛び去っていった。別の地にいた3機のガンニャムもそれに続き、混乱した戦場は一気に静かになる。

 なんだかよく分からないが、とりあえず管理世界最大の危機は去ったらしい。

 その光景をグラハム経由の映像で見ていたシロンがイイ笑顔で締めくくる。

 

「いやぁ、聖王のゆりかごも綺麗サッパリ消えちゃったし、めでたしめでたしだニャ!」

「全然めでたくないでしょ――――――っ!!?」

 

 確かにフェイトの言う通りだ。この日、一つの戦いに終止符を打った管理世界は、新たな脅威と直面することになったのだから。

 

「あいつらに負けたら全裸にされちまうのか……こりゃまた随分と素晴らしい、いや、恐ろしいことになったな」

「何となく嬉しそうですね、ヴァイス陸曹……」

 

 男性局員を代表して、トランクス一丁のヴァイスが今の心境を吐露する。

 とにもかくにも、全裸を強制されるかもしれないという恐怖と隣り合わせになった彼らが、この後戦争を根絶できるかどうか。その答えはまだ誰にも分からない。

 ただ、これだけは分かる。この後シロンが仲間たちにオシオキを受けることだけは間違いないだろう……。

 

 

 何はともあれ、ジェイル・スカリエッティが起こした騒動(JS事件)は、大規模だったわりには1人の死人も出すことなく幕を閉じた。その終局間近に起きた茶番もソレスタルビーイング事件(CB事件)として記録されるが、彼らの正体は誰にも分からない(嘘)ので、結局は薄っぺらい記録が残るだけだった。

 しかし、彼らを目撃した者の体験談が民間に広まり、この後にガンニャムの恐ろしさは子供に聞かせる教訓話として使われるようになる。

 

「いいかい? 悪い事をする子はガンニャムに服を取られちまうよぉ?」

「「きゃ~!」」

 

 何だかただの変質者みたいな扱いになっているが、それほど外れてもいないので仕方ないだろう。




製作中の最終話が予定より長くなってしまったので2つに分割することにしました。
というわけで、今度こそ残り2話です。

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