魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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ガンダムと美少女と猫を愛する読者の諸君!
シロンたちの物語もついに最後を迎えるときが来た。
見せてあげようか、この作品の最終話とやらを!


最終話 王たちよ永遠なれ! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!【ViVid2】

 仲間を集めて道場のお披露目パーティを盛大におこなった翌日、子供たちは早速修行を始めて早朝ランニングをしていた。参加メンバーはシロン、セフィ、ヴィヴィオ、アルマ、ユーリ、それにマテリアル娘たちだ。

 他の大人組は、昨晩のパーティで飲みすぎた上に今日も出勤しなければならないので不参加となっている。お酒を飲んでいないお子様連中も仕事に行かなければならず、パーティで就寝時間が遅くなった今回は睡眠を優先させた。

 実を言うとシロンもこの後ジオニック社に出勤するのだが、昨晩のパーティでアルコール度数96度のスピ○タスを一瓶丸ごと一気飲みしたのにも関わらず早朝から爆走していた。なんというタフネス、バイタリティー。良い子のみんなは決してマネをしてはいけない事だが、流派東方不敗を修めし者ならこのぐらいでへばるわけにはいかない。

 何といっても、今日から彼は指導者になるのだから。

 

 

「いいか、子供たち! ランニングはすべての基本ニャ! 矢吹ジョーも丹下段平と共に地道な努力を重ねたおかげで、真っ白に燃え尽きられるほど全力全開の戦いができたのだからニャ!」

「「はい、師匠!」」

「ボクも分かったよ! 最後のたとえはよく分からないけど!」

 

 猫形態のシロンは、マスターアジアのように腕を組みつつ上半身を微動だにさせない独特の走り方をしながら指導する。見た目はかなり異様だが、晴れてシロンの弟子となったヴィヴィオ、アルマ、レヴィの3人は真剣な様子で彼の言葉に従う。

 シロン以外の少女たちは半袖シャツとスパッツという王道スタイルで、早朝のクラナガンを軽快な足取りで走り抜ける。

 流派東方不敗を習うと言っても、彼女たちはドモンやシロンのように丈夫ではないため、まずはごく一般的な訓練から始めることにした。

 全身の筋肉をバランスよく使うランニングは子供でも無理なくこなせるもっとも効果的な運動であり、身体強化の魔法も併用する事で魔力コントロールまで鍛えられる一石二鳥の特訓となる。つまり、魔導師ファイターを目指す者ならば、日課とすべき運動なのだ。

 

「よーし、もう少しスピードを上げるよ、クリス!」

「!(ぴょこっ)」

 

 調子の上がってきたヴィヴィオは、彼女の斜め上に浮いている【うさぎのぬいぐるみ】に話しかけた。そして、本来なら動かないはずのソレは、彼女の言葉を理解したように片手を挙げた。

 このうさぎのぬいぐるみは、もちろんただのオモチャではない。ヴィヴィオのために作られた専用デバイス【キング・オブ・セイクリッド・ハート】だ。

 因みに、クリスという愛称はヴィヴィオ自身がつけたものだが、元の名前はシロンが命名した。もちろん、面白がってGガンダムネタを使っただけではない。レイジングハートと聖王を合わせることで親子のつながりを感じられるようにした、とても優しい名前なのだ。

 

「調子はどう、クリス? 私とのリンクに問題は無い?」

「!!(ぐっ)」

 

 ヴィヴィオの問いかけに親指(?)を立てて意思表示するクリス。【ぬいぐるみの妖精】というとってもファンシーな設定で作ったため言葉は喋らないが、表情はとても豊かで可愛らしい。

 

「ふふっ、昨日会ったばかりなのに、2人はすっごく仲良しだね~」

「うん! なのはママがプレゼントしてくれた、とっても大切な相棒だもん。ねー?」

「!(こくこくっ)」

 

 アルマの言うように、2人の信頼は既に出来上がっているように見える。とっても可愛らしいクリスは、たった一晩でヴィヴィオの心を射止めてしまったようだ。そんな彼(?)が生まれたのは、娘を思うなのはの親心があればこそだった。

 

 

 2週間前、格闘技をするというヴィヴィオの意思を確認したなのはは、彼女のためにデバイスを用意する決意を固めた。フェイトと相談した後にシロンと話して製作を頼むことにしたのだ。当然ながらシロンとしても断る理由など無く……というか、こうなることを望んでいたため、彼女の要望に快く応じた。

 そして数日後、なのはとフェイトの休日に合わせて例のELFを見せたシロンは、その力を危険視する2人を言葉巧みに篭絡してしまう。「これが使えるようになれば、ヴィヴィオの活躍がたくさん見られるぞ」と魅力的な言葉をささやくことで……。

 

「あえて言おう! 子供が活躍する光景を望むのは親として当然のことであり、そのために全力で協力することもまた然りであると! ならば、自身の心を偽る必要など無いではないか。そうだろう、2人とも!」

「「…………そうだね、その通りだよ、シロン!」」

 

 そんな感じで2人の親心を的確に突き、ELFの使用を認めさせたのだった。

 

「どっちにしろアルマには渡すことになってたから、結局同じ結果になってただろうけどニャ」

「知らぬが仏ですね」

 

 何はともあれ、こうして製作が決定したヴィヴィオ専用デバイスだが、前述の通り、頼まれる前から基本的な部分は完成していた。シロンをメインに、プレシアとアリシア、そして、シロンの技術力に惚れこんでソレスタルビーイングに仲間入りした【マリエル・アテンザ】の4人で、ELS型ナノマシンを初めて実装した新型デバイスを作り上げていたのである。

 しかし、小さい子供にプレゼントするには一つ問題があった。このデバイスの待機状態は虹色に光るクリスタル状でとても綺麗なのだが、子供が持ち歩くには目立ちすぎるし、何となく味気なかった。

 そこで、何かを思いついたアリシアがとある提案をしてきた。

 

「ねぇ、シロンちゃん。せっかくのプレゼントなんだから、もうひと工夫しようよ!」

「ふむ、なにか良いアイデアがあるようだね、アリシア君?」

「ふっふっふ~、ここは私に任せてちょーだい!」

 

 そう言って自信満々に発表されたアリシアのアイデアは満場一致で採用され、ヴィヴィオが好きなうさぎのぬいぐるみを外装にしてあげることになった。

 

 

 以上のような流れでクリスは完成し、昨日のパーティでなのはの手からヴィヴィオに送られて現在に至っている。

 そして、ヴィヴィオの親友であるアルマもまた、リニスから送られた相棒を同伴していた。

 

「さすがヴィヴィオちゃん! 私たちも負けてられないね、ワカモトさん!」

「おうともよ! 尻の青い嬢ちゃんたちに、我らの友情パゥワァーを見せつけてやるとしよう! ぶるぁぁぁぁぁ!!!」

「朝からやかましいな、オイ!」

 

 静かな早朝の住宅街に響き渡る若本ボイスにシロンがツッコミを入れる。

 アルマの相棒は妙に男らしい声をしているが、見た目とまったく合っていなかった。ぶっちゃけると、あずまんが大王に出てくる猫(?)のぬいぐるみ【ちよ父】である。こいつこそが、アルマ専用デバイス【クイーン・ザ・ブレイヴ・スペード】――ワカモトさんだ。

 以前、猫召喚で本物が来た時にアルマが気に入り、リニスにおねだりして作ってもらったぬいぐるみを外装として使わせてもらった。その際にアレの性格も正確に再現したつもりだったのだが、どうもそれは失敗だったらしく、シロンの好きな若本キャラが色々と混じっていた。

 

「こんな時間にブリタァァァァニアな声出してんじゃねーよ、ご近所迷惑ニャろ?」

「それじゃあ何か? お前はこのダンディな俺様に「ハローエブリニャン!」とプリチーな挨拶をして回れと言うのかね? 動物(使い魔)にも一定の市民権が与えられているこの法治国家でぇ、かような横暴が許されるとぉ、本気で思っておるのかぁぁぁぁ!?」

「一体誰だよ、こいつをこんな性格にしたヤツは!?」

「あなた自身ですよ、マスター」

 

 呆れた表情でセフィが答える。

 確かに、シロンがツッコミを入れるくらい変なヤツになってしまったものの、性能のほうはクリスと同等でとても優秀だ。中距離~近接戦が得意なアルマに合わせて作られており、剣術と射撃の両方が可能なCNソードⅤを発展させた銃剣タイプのハイブリッド・インテリジェント型デバイスとなっている。リニスと同じ電気資質で中距離から複数の短剣型誘導弾を使いながら、グラハム譲りの剣術で近接戦を有利に進める万能タイプだ。

 しかも、6年前に対ELS戦で発生させたクアンタムバーストの影響を受けてイノベイターに覚醒しつつあるため、ELFの使用も可能となっている。

 その身に秘めたる可能性は元聖王のヴィヴィオと比べてもまったく引けを取っておらず、将来がとても楽しみな逸材だ。

 しかし、かなり特殊な父親の影響を受けているせいか、見た目からは想像できないような独特過ぎる感性を持っていた。

 

「えへへ~、やっぱりワカモトさんは可愛いな~。ハローエブリニャンって、もう一回言ってみて~?」

「ああいいともぉ! 麗しき我が主のご要望とあらばぁ、何なりとお応えしてみせよぉ~う!」

「……まぁ、いっか」

 

 マスターが気に入っているのならしょうがない。

 というわけで、風変わりなメンバーも交えて特訓を続けるシロン一味。

 そんな中、これまでにこやかに子供たちを眺めていたユーリがディアーチェに語りかけた。

 

「どうですか、ディアーチェ? 参加してみて良かったでしょう?」

「そうさなぁ、最初は面倒なことだと思っておったが、なかなかどうして、いざ始めてみれば意外に心地よいではないか」

「そうですね、正しい生活を送れば正しい精神が宿るということなのでしょう」

「遠まわしに我のことをけなしているようにも聞こえるが、確かにそうかもしれんな」

「うむ、実に健康的でよろしいことだ。その証拠に、君たちのパイオツも元気に揺れているニャ!」

 

 シロンは、一緒に走っているユーリとマテリアル娘たちの胸元を見てイイ笑顔を浮かべる。スポーツブラをしていても、程よく育った彼女たちの胸は柔らかそうに揺れているのだ。

 言葉だけ聞くと好意を抱ける要素など欠片も無いが、それでも少女たちは優しく微笑む。

 

「ふふ、シロンはいつでも胸に興味がいくのですね」

「逆に喜ばしいことではないか。我らに魅力を感じておられるのだからな」

 

 そう言うとディアーチェは、となりで十傑集走りをしているシロンを抱き上げて、小さい彼の体を自分の胸に押し付けた。

 

「さぁ主様、我の美乳を存分に味わうがよい!」

「にょほほ~! 朝からナイスダブルオー!!」

 

 突然発生したラッキーイベントにシロンは歓喜する。

 おかしなものだ。これではまるで、お色気アニメの主人公ではないか。この期に及んで道化を演じろというのか。シャアのように? ……それもいい。人がそう望むなら、私はエロいシャアになろう。エロい彗星の誕生、響きは悪くない。パイオツ大好きな私には似合いの響きだ!

 柔らかい胸に包まれたシロンは、モノローグでフル・フロンタルのモノマネをしながら至福の時を堪能する。しかし、オイシイ展開は一瞬だけだった。そういったハーレム系主人公は大抵すぐに不幸な目にあうもので、彼もまた例外ではなかった。

 

「あー、ディアーチェだけずるいです!」

「そうですね。私もシロンと合体したいです」

「合体ですと!?」

「ええい、紛らわしい言い方は止めんか!」

「でもでも、王様ばっかり抱っこしてずるいぞー!」

「って、おいコラッ、お前ら、なにをするかぁ―――!!?」

 

 幸せそうなディアーチェを見て羨ましくなったユーリたちはシロンを争奪しようと襲いかかってきた。力の強いレヴィがシロンの両腕を掴んでディアーチェの腕からするりと引っこ抜くと、彼女は慌ててしっぽを掴み、その争奪戦に後から加わったユーリとシュテルが彼の足を片方ずつ手に取った。

 

「ぐおぉぉぉぉ―――!!? 腕が、しっぽが、お股が裂けるぅぅぅぅ―――!!」

 

 やはりアクシデントが起きてしまった。幸せと不幸というものは等価交換なのだろうか。

 

「またやってるね~」

「うん、そうだね~」

 

 子供たちも慣れたもので、休憩を兼ねてシロンたちのバカ騒ぎを生暖かく見守る。

 しかし、その隙を突くようにとんでもない事件が起こった。なんと、2人の近くで浮遊していたクリスとワカモトさんが、急に現れたマジックハンドに掴まれてそのまま連れ去られてしまったのである。

 

「!?(わたわた)」

「ぬおぅ!?」

「あっ!?」

「クリスとワカモトさんがー!?」

 

 予想もしていなかった急展開に驚いた子供たちは、とにかくマジックハンドの出所に視線を向けた。するとそこには、額に小判をくっつけた猫っぽい生き物がいた。

 

「やったニャー! 新種のポケモン、ゲットだニャー!!」

 

 背中に古風な形のマジックハンドメカを背負ったソイツは、人の言葉を喋って喜びを表した。

 ほとんどの方はもうお分かりだろうが、この猫はロケット団に所属している【ニャース】である。今日初めて猫召喚でやって来た彼は、事情が分からずに辺りを彷徨っていたのだが、たまたまクリスたちを見つけた途端に、ついいつもの行動を取ってしまった。珍しいポケモンや強いポケモンを集めるという本来の目的を。ようするに、この状況は勘違いによる不幸な事故だった。

 とはいえ、事情を知らないヴィヴィオたちにとっては大問題だ。

 

「「シロンお兄ちゃーん、大変だよー!」」

「おほぉ――!! 今はこっちもちょー大変なんデスけどーって、アイツはもしかして、あのニャースじゃニャーか!?」

「ニャんと!? この世界にニャーのことを知ってるヤツがいたのかニャ!?」

 

 お互いにニャーニャー言いながら驚く。

 特に、これまで寂しい思いをしていたニャースは涙を浮かべるほど嬉しかったが、自分を知っている者がいるのなら、今度は別の意味で警戒しなければならない。これでも彼は、悪の組織の一員なのだ。そんなわけで、長居は無用だった。

 

「いつもなら、お約束の名乗りを上げたいところニャが、ムサシとコジロウがいない今は逃げるが勝ちニャー!」

「ちぃ、流石はニャース! 並みの人間より頭がいいぜ!」

 

 あまりにも鮮やかな引き際に思わず関心してしまうが、同じ猫としてこのまま好き勝手にはさせない。ここはやはり、相手に合わせてポケモンバトルで勝負だ。

 シロンは、ユーリたちがいるほうに顔を向けてしばらくじっとした後に、電気タイプの彼女を呼んだ。

 

「レヴィチュー! 君に決めた!」

「レヴィチュー!」

「ニャにぃ!? もしかして、ピカチューの新種なのかニャー!? って、ただのジャリガールじゃニャーか!」

 

 以前、シロンの出身世界でアニメのポケモンを見ていたレヴィは、喜んで話に乗って来た。そんな彼女のモノマネに釣られて逃げようとしていたニャースも足を止めたが、いざ見てみたら人間だったので急速に興味を失う。

 それでも、バトルは既に始まっている!

 

「行け、レヴィチュー! 10万ボルトだ!」

「レ~ヴィ~チュ――――――――――――ッ!!!!!」

 

 ノリの良いレヴィはピカチュウっぽく電撃魔法を使った。しかし、対戦相手のニャースは一目散に逃げ出して着弾地点にいなかった。

 実を言うと、バトルは始まってもいなかった!

 

「なんでぇ!?」

「なんでって、ニャーたちが欲しいのはジャリボーイのピカチューなのニャ。てなわけで、レヴィチューなんてニセモンなんかノーサンキューなのニャ~!」

「ガビーンッ!? ボクはいらない子だったのかー!!」

 

 相手にされなかったレヴィが大げさにショックを受けている間にニャースは逃走を図る。ここに来るまでに作ったらしい自動走行型スケボーを地面に置くと、それに乗ってさっさと先に行ってしまった。お前はコナンかとツッコミを入れている隙も無い早業だ。

 

「あーん、逃げられちゃうよー!?」

「急いで追いかけなきゃ!」

 

 慌てた子供たちは、ヒザをついて落ち込んでいるレヴィを気にしつつもニャースを追いかけて行く。レヴィには申し訳ないけど、今は相棒を取り戻すことが先だ。その後でアイスでもおごってあげて機嫌を直してもらおう。

 子供っぽいレヴィは、さりげなく同年代扱いされていた。

 だが、紫天の書の一部として数百年以上も存在し続けている彼女は、当然ながらただのアホの子ではない。遠ざかっていく2人を後ろから見ていたレヴィは、ゆっくりと起き上がるとシロンに話しかけた。

 

「ふっ、どうだいシロン、水樹奈々も真っ青なボクの演技力は?」

「ああ、主演女優賞ものだと言わせてもらおう!」

 

 そう言ってシロンとレヴィは拳をくっつけ合う。

 実は、これまでの行動はすべて念話で打ち合わせをした結果だった。わざとニャースを逃がして子供たちに経験を積ませようとしたのだ。

 残念なことだが、この世界には貴重なデバイスを奪おうとするロケット団のような犯罪者が存在するので、この機会を今後の戒めとして利用することにしたわけだ。相手がニャースなら大きな危険も無いと知っているがゆえの判断でもある。

 もちろんユーリたちにも事情を伝えており、納得したからこそまったく動かなかった。確かに、経験に勝る教訓はないからだ。とはいえ、ひとつだけ気になることがある。

 

「ねぇ、シロン。ニャースさんがあのまま元の世界に戻ってしまったら、クリスたちまで連れて行かれちゃうんじゃないですか?」

「あ~それは大丈夫ニャ。猫召喚で来た奴らは、この世界の物を持っていけないから」

 

 猫召喚には様々なセーフティ機能があり、お互いの持ち物を持っていくことも置いていくこともできないようになっている。

 それに、猫召喚の有効時間は1日だけなので、待っていれば自然に開放されるし、ニャースなら手荒なまねはしないだろうから安心だ。

 

「でも、私たちの元に戻ってくる前に別の人間に捕獲されたり、予期せぬ事故が生じて壊れてしまったらまずいのでは?」

「……」

 

 シュテルの指摘で、ちょっとばかり安全対策に問題があることが発覚した。

 

「まぁ、クリスたちの位置は我輩の脳量子波で確実に感知できるから、とりあえず後を追ってみるかニャ~?」

「考えていませんでしたね」

「考えておらなんだな」

 

 セフィとディアーチェからジト目で見つめられるも、ピュ~と口笛を吹きながら誤魔化すシロン。ギャグキャラのクセにかっこつけるとこういう目にあうという典型的なパターンであった。

 何はともあれ、失敗を認識したシロンたちは、ようやく子供らの後を追いかけ始めた。

 このちょっとした遅れが、ヴィヴィオとアルマに運命的な出会いを与える事になるとは、流石のシロンでも予想できなかった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 一方、先行しているニャースは、後ろから追いかけてくるヴィヴィオたちに手を焼いていた。魔法で身体強化しているのでやたらと早く、予想に反して振り切れないのだ。10年以上の長きにわたり敵対しているサトシもかなり人間離れしているが、足の速さに関しては彼女たちのほうが上のようだ。

 

「待て――!!」

「デバイスどろぼー!!」

「ええい、しつこいジャリガールたちニャ!!」

 

 コナン風の自動走行型スケボーはかなりの速度が出ているのに、ここまで追い詰められるとは。ええい、ミッドチルダの子供たちは化け物か?

 これまでに得た情報からすると、この世界にいる人間は「まほう」とかいう能力が使えるらしいが、後ろにいる少女たちもそうなのかもしれない。

 

「人間がポケモンみたいな技を使えるなんて、ホントに恐ろしい所ニャ……。でも、お前たちはやけに大人しいニャ~?」

 

 ニャースは、マジックハンドに掴まれたままのクリスとワカモトさんに向けて話しかけた。このマジックハンドにはいつものように電撃対策が施されているので、こいつらが攻撃しようとしてもそれなりに対抗できるが、意外なことにほとんど抵抗する気配がない。

 それはなぜか。もしかして、こちらのポケモンはものすごく弱いのだろうか?

 

「ふんっ、どうやら貴様は我らのことを見くびっておるようだがぁ、まったくもって笑止千万であ―――るるるるるぅ!!」

「ニャに!? ど、どういうことニャ!?」

「分からぬのなら教えてやろう! 当然、我らの力をもってすればぁ、貴様ごとき小物をぶっ飛ばすことなど容易であるぅ。だがしかぁーし! 私たちデバイスはぁ……主の指示が無いとなにもできんのだぁぁぁぁ!」

「!(がっくり)」

「あ~、なるほどニャ。ゲットされたポケモンの悲しい宿命(さだめ)なのニャ……」

 

 ニャースの勘違いはともかく、主の指示が無いと技を出せない点はポケモンと同じだ。

 インテリジェントデバイスは、主を守護する必要がある場合は魔法を自動起動できるが、基本的には管理局の定めた安全基準にのっとり、主の指示がないと魔法を使えないようになっている。今はヴィヴィオたちが慌てているため、防御魔法を使わせれば脱出できることを思いつけないだけだ。

これこそ、経験不足ゆえの過ちだった。

 

「それニャらば、今の内に振り切るニャ!」

 

 今を好機と見たニャースは、細かく角を曲がることでヴィヴィオたちの視界から姿を消すことに成功した。一時的とはいえ、これを繰り返していけばそのうち逃げ切れるはずだ。

 

「あれっ、いない!?」

「このままじゃ逃げられちゃう!?」

 

 目標が見えなくなり始めたせいで、2人は更に焦りだした。主とデバイスは魔法的にリンクしているので離れていても大体の位置が分かるのだが、それにも限界距離がある。もしそれを超えられてしまったら、探し出すのは非常に困難となってしまうだろう。更に、特殊な結界や素材で包まれてしまったら脳量子波でもお手上げだ。

 もし、あの猫がそのようなものを用意していたら、クリスたちとはもう二度と会えなくなってしまう。

 

「そんなの嫌だよぉ……」

「わ、私だってぇ……」

 

 まだ幼い2人は、悲しい未来を想像して半べそになってしまった。

 このままクリスたちと離れ離れになってしまうのか。そう思いかけたところで、ヴィヴィオたちを助けてくれる救世主が現れる。彼女たちと同じようにランニングをしていたオッドアイの少女【アインハルト・ストラトス】が偶然近くを通りかかり、騒ぎを聞きつけて助けに入ってくれたのだ。

 今より数分前、「泥棒」という声で異変に気づいたアインハルトは、こっそりとヴィヴィオらの後をつけながら状況を確かめて事情を察した。あの変な猫(?)は、子供たちからデバイスを奪った極悪非道な泥棒なのだと。

 ならば、このまま見過ごすわけにはいかない。俊敏な動作で家々の隙間を駆け抜け、一瞬のうちに先回りしたアインハルトは、堂々とした様子でニャースの前に立ちはだかった。

 

「ここから先は通しません!!」

「ニャんだと!?」

 

 10歳ぐらいの可憐な少女が、猛スピードで進むニャースの前に突然現れた。碧銀の長髪に、右が紫、左が青の虹彩異色の瞳。明らかに只者ではない美少女が、見たこともない格闘術の構えを取って待ち構えている。

 その様子を見たニャースは嫌な予感がしたが、彼の運命はもう既に決まっていた。

 

「……いきます!」

 

 小さい声で名乗りを上げたアインハルトは、高速で接近してくるニャースに向けて走り出した。魔法で身体強化された彼女はヴィヴィオたちよりも早く駆け抜け、ニャースと正面からすれ違った瞬間に鮮やかな攻撃をきめた。小さいジャンプでニャースの頭上を飛び越えながら、魔力を込めた回転蹴りをきめ、2本のマジックハンドを瞬時に切り裂いてみせたのだ。

 

「ニャんとぉ―――!?」

「人の物を盗むなど、【覇王】を受け継ぐこの私が決して許しません!」

 

 唐突に中二病みたいなことを言い出したアインハルトは、鮮やかな動作で反転すると、追撃するために再び向かってきた。どうやら次の一撃で決着をつける気らしい。

 彼女の右手に集まる渦状のエネルギーで状況を察したニャースは必死に逃げようとするが、当然のように間に合わず、彼女の必殺技をもろに食らってしまう。

 それは、最近になってようやく使えるようになった【覇王流(カイザーアーツ)】が奥義のひとつであった。

 

「覇王・断・空・拳!!!!!」

「ギニャ――――――!!? 異世界に来ても、やな感じ――――――!!」

 

 彼女の必殺技はニャースの乗っていたスケボーに直撃して爆発した。そして、お約束通り空高くぶっ飛ばされた彼は、キラーンと輝くお星様となってこの世界から消え去った。

 まさに完全勝利である。

 しかし、その光景を目撃したアインハルトは、一瞬ポカンとした後に顔を青ざめさせた。

 先ほどの一撃はかなり手加減したもので爆発自体もそれほど大きくなかったのに、ニャースに備わっているギャグテイストな【お約束】が発動してこの世界の物理法則を捻じ曲げてしまった。それが、アインハルトの目の前で起きた惨劇の原因だ。

 ニャースのいる世界ではわりと問題ない(?)出来事なのだが、この世界の生物があれほどぶっ飛ばされたら、助かる見込みはほぼ無い。つまり、アインハルトの中では、自分の攻撃であの猫を死なせてしまったという認識になっていた。

 

「な、なんでこんなことに……」

 

 アインハルトは最悪の事態を想像して恐怖した。

 猫召喚でやって来た猫たちは影分身みたいなものなので、たとえ宝具で攻撃されたとしても別の世界にいる本人は平気へっちゃらなのだが、そんな裏事情など知る由も無いアインハルトはブルブルと震えだしてしまう。

 もしかして私は、とんでもないことをしてしまったのでは……。

 

「なぁに心配は無用だよぉ、勇ましいお嬢さぁん」

「ひぅっ!!?」

 

 急に耳元から聞こえてきたオジサン声にアインハルトは驚いた。慌てて顔を向けると、オレンジ色の変なぬいぐるみが空中に浮いている。彼女に助けてもらったワカモトさんが、事情を察して慰めようとしているのだ。もちろんクリスも彼女に感謝しており、目の前に飛んできてぺこぺこお礼をしている。

 

「あ、あの、私は……」

「どうやら君はぁ、あの泥棒猫の安否を気にしているようだがぁ、あいつは無事だよぉ」

「えっ、本当ですか!?」

「ああ……あいつは空に浮かぶお星様となってぇ、遠い世界へと旅立ったのさぁ」

「それって全然大丈夫じゃありませんよね!?」

 

 ワカモトさんの説明は間違ってはいなかったが、意味は正しく伝わらなかった。

 

「そ、そんな……私はなんてことをしてしまったの……」

 

 未熟な自分は、新しい力を手に入れて調子に乗った結果……あの猫(?)を殺めてしまった。状況からそう思い込んでしまったアインハルトはショックを受けて、とうとう泣き出してしまう。

 とある事情により最強を目指していた彼女でも、こんな最悪の結末には耐えられなかった。

 

「う、うぅ……」

 

 静かに流れる少女の涙。その美しくも悲しい雫を見たワカモトさんは自分の失敗を悟り、冷や汗をダラダラと流しながら説明し直した。

 

「ままま、まぁそのなんだ、もっと正確に言うとぉ、さっきのヤツは分身の術ぅみたいなモンだからぁ、本人は無事なんだよねぇ。そこんところ分かってくれるかなぁ、お嬢さぁん?」

「ぐすっ……本当でしゅかぁ?」

「無論だぁ。私は嘘つかなぁ~い! この純粋かつラブリーな瞳を見ればぁ、信じてもらえるっしょい?」

 

 そう言って無表情かつ不気味な顔を見せつけてくるが、どう見ても怪しい目つきなワカモトさんでは説得力など皆無だった。しかし、とても可愛らしいクリスも懸命にうなずいているので、アインハルトは信じてみることにした。

 

「……すみません、勝手に勘違いして泣いてしまうなんて……私もまだまだ未熟者です」

「なぁに、子供の涙は成長の証だからぁ、何も気に病むことはないさぁ。私のように涙の枯れ果てた大人など気にせずぅ、た~んと泣くがいい~、心優しき若人よぉ」

「……はい、おじさま」

 

 なんかよく分からないけどダンディな声で励まされたので、アインハルトは自然と目上の人に言うような返事をした。

 この妙に人間臭いオレンジ色のぬいぐるみは本当にデバイスなのか。詳細は分からないけど、思いやりのあるAIだということは間違い無さそうだ。

 なんて思った矢先に事態は急変した。おかしなやり取りをしているうちにようやく追いついたアルマに気づいたワカモトさんが、彼女に向かって飛んでいったのだ……思いっきり泣き叫びながら。

 

「ワカモトさ―――ん!」

「うわーん、我が主ぃ―――!! ボクちゃん、とっても怖かったよぉ―――ん!!」

「ええ――――!!?」

 

 さっきは涙が枯れ果てたとか言ってたのに普通に泣いてる。どうやら、先ほどの発言はやせ我慢をしていただけらしい。紳士なのか子供なのか、どうにもつかみどころのないAIである。

 

「はぁ……」

 

 ちょっと前までのシリアス感は、一体どこにいってしまったのだろう。何だか狐につままれたような気分に陥ってしまうが……それでも、これで良かったのだとアインハルトは思う。

 その証拠に、ヴィヴィオとクリスも感動の再会を果たして喜びあっている。

 

「クリス!!」

「!!(ぱたぱた)」

 

 こちらのコンビは両方とも可愛らしいのでとても心が安らぐ。いや、訳の分からないワカモトさんはともかく、彼を想うアルマの姿もまた見ていて気分が良くなる。

 そんな2人の様子に、アインハルトの心は癒された。彼女は今、先祖返りで得てしまった【覇王の記憶】に苦しんでいるのだ。

 大切な人を守れなかった青年王が残していった無念の想いは時を超えて覚醒し、子孫である彼女をとある目的に駆り立てていた。誰にも負けず、奪われることのない【最強】を目指せと。

 

『私はまだまだ最強じゃない。だけど……』

 

 この力で守れるものがある。

 予想外の出来事が起こって自分の弱さを再確認させられたりもしたが、今は満足感に満たされていた。

 

『あなたの強い想いのおかげで、この子たちの笑顔は守れましたよ……イングヴァルト』

 

 アインハルトは、自分の先祖である【クラウス・G・S・イングヴァルト】の記憶に語りかける。自分は、彼の作った覇王流で、助けたいと思った者たちを守ることができたのだと。

 そう実感した途端にアインハルト自身も嬉しくなって、思わず笑みを浮かべそうになる。しかし、彼女はそっと目を閉じ、自然と湧き上がってくる感情を無理やり押し込めた。

 今はまだダメだ。【今度は絶対に守り抜くと誓えるほど強くなる】……その願いが叶うまで、私は笑ってはいけないんだ。この程度のことで足踏みしていては、最強になることなどできないのだから。

 

「……」

「あの、お姉さん」

「!?」

 

 目を瞑っている間に話しかけられてたアインハルトは、素で驚いてしまった。

 まったく情けない……人前でこんな隙を見せてしまうだなんて、今日の自分はどうかしている。そう思いながらも、声をかけてきたヴィヴィオたちに向き直る。

 

「……なんですか?」

「えっと……お姉さん、クリスとワカモトさんを助けてくれて、どうもありがとうございました!」

「ありがと~なの~!」

「私からもぉ、お礼を言わせてもらいますぅ~。サンキューベリーニャッチ!」

「!!(ぺこり)」

 

 ヴィヴィオとアルマは、一生懸命に感謝を表しながらお辞儀した。主の元に戻ったクリスとワカモトさんも彼女たちのとなりで一緒に頭を下げている。お辞儀したワカモトさんが一瞬でっかい果物に見えて噴出しそうになったが、気持ちはちゃんと伝わっている。

 しかし、アインハルトとしてはみんなの気持ちを受け取ることはできなかった。クリスたちを助けたのは力を試したいという幼稚な邪念があっての結果であって、けっして褒められることではない。だから、こんな丁寧に感謝されては、逆に申し訳なくなってしまう。

 

「そうだ! もしよろしかったら後でお礼を……」

「い、いいえ! そこまでされるようなことはしていませんから!」

「いえいえ、お姉さんは十分すぎるほどの活躍を……?」

 

 やたらと遠慮するアインハルトと変なやり取りを始めたヴィヴィオは、この時初めて彼女の目に涙が浮かんでいることに気づいた。それと同時に、彼女の瞳が自分と同じオッドアイであることにも……。

 

『なんだろう、この感じ……』

 

 自分のものと色は違うが、不思議なシンパシーを感じる。とても綺麗なのに憂いを感じさせる神秘的な瞳に、ヴィヴィオはなぜか強い興味を抱いた。

 でも今は、もっと大事なことがある。

 

「お姉さん、もしかしてどこか怪我でもしたんですか?」

「えっ、なんでです?」

「だって、涙が出てるから……」

「……あっ!? こ、これは、その……なんでもありませんから、気にしないでくださーい!!」

「って、お姉さ――ん!?」

 

 自分の弱いところを人に見せたくなかったアインハルトは、ヴィヴィオの声を背中越しに聞きながらも逃げるように去っていった。残念ながら、ひどく慌てていた彼女のほうはヴィヴィオのオッドアイに気づけなかったため、【自分と因縁のある人物】だとは思いもしなかったのだ。

 もしこの時アインハルトが冷静だったら何かが変わっていたかもしれない。だが、今回は少しだけ間が悪かったようで、いくつもの偶然が重なった運命の邂逅は何も起こらずに終わった。

 いや、ヴィヴィオもアルマもアインハルトも少しだけ成長できた。

 ヴィヴィオとアルマは冷静さを欠いて上手く立ち回れず、アインハルトは自覚のない自惚れによって迂闊な行動を取ってしまった。どちらも心の弱さと経験不足が招いた結果であり、少女たちは自分の未熟さを思い知った。いずれにせよ、今回の出来事は3人にとって大きな教訓となり、今後の特訓に活かされることになるだろう。

 とはいえ、良いことばかりでもなくて、アインハルトに助けてもらった2人には心残りなことができてしまった。

 

「うぅ、名前も聞けなかったよ……」

「そうだねぇ。お友達になれたら、お礼に【ブシドー仮面】をプレゼントしようと思ってたのにな~」

「えっ!? それって昔、グラハムさんが使ってたとかいうアレのこと?」

「うん、あのお姉ちゃんに似合うと思ったんだけどね~」

「そ、そうかなぁ?」

 

 父親譲りの独特な感性をみせるアルマにヴィヴィオは苦笑する。しかし、当のアインハルトは、この2年後にいかしたバイザーをつけて野試合を挑むようになるのだから、アルマの先見性(?)は見事と言えるかもしれない。

 とはいえ、相手の名前すら分からないのではお礼以前の問題だろう。それどころか、もう一度会えるかどうかも難しいところだ。

 

「せっかく知り合えたのに、このままお別れになっちゃうのはとっても残念だなぁ……」

「大丈夫だよヴィヴィオちゃん。顔は覚えたから、後はどうとでもなるよ~、どうとでもね」

「何で2回言ったの、アルマちゃん!?」

 

 ちょっぴり黒い部分が出てしまったアルマに思わずつっこむ。

 確かに、あのお姉さんはこの近辺に住んでいる可能性が高く、探そうと思えばそれなりに方法もあるが、そんなことをすれば逆に迷惑をかけてしまうことになりかねない。お礼をしたいからといってそこまでするのは流石に非常識だろう。

 それにヴィヴィオはとある予感を抱いていた。わざわざ探さなくても、あのお姉さんとはまた出会えるような気がすると。

 

「あのオッドアイに気づいた時に、こう、ビビッと来たの!」

「なるほど、ヴィヴィオちゃんのハートは乙女チックなんだね~。因みに、私は乙女座だよ~」

「それはもう知ってるよ! っていうか、乙女座関係ないし!」

 

 父親同様、乙女座に強い思い入れがあるらしいアルマにつっこみを入れる。

 だけど、乙女か……さっきの優しそうなお姉さんにはピッタリの言葉かもしれない。でも、あの人について分かるのは表面的な印象ぐらいだけ。

 上手く言葉にできないけど、ヴィヴィオはアインハルトの事が気になって仕方がなかった。

 そうだ、もう一度出会えたら、今度はもっとお話しよう。あの悪い猫さんをデバイス無しで退治してくれたんだから、格闘技をやってるのかもしれないし……。きっと仲良くなれるはずだよね。

 

「(あのお姉さんとお友達かぁ……すごくいいかも!)」

「おお~! ヴィヴィオちゃんが恋する乙女のような目をしてる~!」

「ほほぅ、これが噂に聞くぅ【百合】というものかねぇ? もしくは、【嫁】と称するべきかぁ。いずれにしても、甘美な響きであ~るぅ」

「??(くいっ)」

 

 頬を赤く染めて楽しそうな想像をしているヴィヴィオを見て、各々が感想を述べる。クリスだけ意味が分かっていないようで小首を傾げているが、アルマとワカモトさんはアリシアが愛読している少女マンガを見せてもらっているため、そこそこの知識を持っていた。

 だからこそ私たちには分かる……あの目は恋しちゃってる目であると!

 

「我が主よぉ、ここはやはりぃ、我らが一肌脱ぐべき時ではないかねぇ?」

「うん、そうだね! ヴィヴィオちゃんの恋を応援するために、あのお姉ちゃんを何とか見つけて家までストーキン「なんてしちゃダメです!! っていうか、恋ってなに!?」

 

 こっそり進行しようとしていたアルマたちによるアブナイ計画に気づいたヴィヴィオは、慌てて止めに入った。

 危ない危ない、この子は時々おちゃめ(?)な行動をするから、私が気をつけてあげなきゃ。アルマのお姉さん的ポジションにいると自負しているヴィヴィオは、勝手に使命感を抱いてうんうんとうなずく。

 そんなタイミングで、ようやくシロンたちが追いついてきた。十字路の角から姿を現した彼は無駄に見事なジャンプをかまして2人の前に着地する。

 

「とうっ!」

「あっ、シロンお兄ちゃん!」

「うむ、我が愛弟子たちよ。どうやら無事にデバイスを取り戻すことができたようだな。このシロン・ガンニャールヴルが褒めてやろう!」

 

 近くにあった家のへいに立ち、マスターアジアのような腕組ポーズを取っているシロンは、くわっと目を開いて褒め言葉を送る。しかし、少女たちはその言葉を受け取ることはできない。内容が事実と異なっているからだ。

 本当に褒められるべきはあのお姉さんなんだと素直に思った2人は、真実を打ち明けた。

 

「シロンお兄ちゃん、それは違うの。この子たちを取り返してくれたのは別の人なんだ……」

「結局、私たちは追いつけなかったの……全然ダメダメだったんだよ……」

「……よし、合格ニャ!」

「「えっ!?」」

 

 予期せぬ返事に子供たちは驚く。一体何が合格なのだろうか。その答えを聞いてみたらこう返ってきた。

 

「君たちは自分の弱さを素直に認め、嘘をつくことなく話してくれた。それは、心が強くなければできないこと……すなわち、魔導師ファイターとしてもっとも必要な要素なのニャ!」

 

 シロンは、再びくわっと目を開いて暑苦しく語った。

 ようするに、今のやり取りでヴィヴィオたちを試したのだ。広域観測魔法を使ってこれまでの経緯はほとんど分かっているため、嘘をつけばすぐに分かる。もし、そんなことをすれば格闘技を教える前に道徳を説かねばならないところだったが、その点はまったく心配いらないようだ。

 

「さすがシロン! ただの失敗を無理やり良い話にしちゃうだなんて、あったまイイ~!」

「それを暴露しちゃうレヴィは、驚くほどにあったまワル~い!」

「「……」」

 

 感心した途端にこれである。そもそも、普段からパイオツばかり言ってるエロ野郎に道徳云々などと言われても説得力は無い。

 まぁ、汚れちまったシロンたちのことはどーでもいいとして、ヴィヴィオたちにはこのままピュアに育っていってもらいたいものだ。

 

「それにしても、こんなにも早くライバル的存在に出会えるとは思いもしなかったニャ」

「うん、そうだね~……って、ライバル?」

 

 シロンの口からさりげなく飛び出たメタ発言にヴィヴィオが首を傾げる。とはいえ、彼がそう思ったのはそれほど不思議なことでもない。だって、謎の格闘術を使うオッドアイの美少女が通りすがりの一般人で終わる訳がないではないか。

 

「あえて言おう! あの少女は只者ではないと!」

「やっぱり、シロンお兄ちゃんもそう思う?」

「ああ。彼女は中二病の我輩とは違う本物ニャ」

「「……え?」」

 

 聞いてみたら期待していた答えとはまったく違った。というか、本物とは一体どういう意味なのだろうか?

 

「えっと、本物ってなんのこと?」

「うむ。君たちも気づいたみたいだが、あの子の目は本物のオッドアイだったニャ。つまり、我輩のような偽物とは大違いということさっ!」

 

 そう言うとシロンは、左目から赤いカラコンを外して見せた。すると、ヴィヴィオと同じ赤と緑のオッドアイだった彼の目が、両方とも緑色になった。すっごい今更だが、彼のオッドアイは中二病をこじらせた末の演出だったのである。

 

「「「「「………………えぇぇぇぇぇ――――――――!!?」」」」」

「もしかしたら何か秘密があるのかと思っていたのですが、そう来ましたか……」

 

 唐突に打ち明けられた新事実に少女たちは驚く。物語の冒頭から出ていた思わせぶりな設定だったのに、結局ただの中二病で終わってしまった。

 因みに、1人だけ秘密を知っていたセフィは、なぜか優しげな眼差しをシロンに向けている。

 

「誰も気づかないから何となく10年以上も続けてきたけど、どうやらここまでのようだニャ。さようなら、若さゆえの過ちよ……我輩は今日、ダークフレイムマスターを卒業します!」

「おめでとうございます、マスター。これまでよくがんばりましたね」

「ああっ、今はその優しさがイタイ!!」

 

 実は、ヴィヴィオと出会ってからオッドアイを演じていることが空しくなり、止め時を見計らっていたのであった。そして、第二のオッドアイ少女が登場した今、ただのオシャレでしかない設定を続ける気が失せてしまった。やっぱり本物には勝てなかったよ……。

 

「中二病とは違うのだよ、中二病とは!」

「うにゃにゃ―――!?」

「子供に八つ当たりしないで下さい」

 

 急に荒ぶりだしたシロンはヴィヴィオの頭を撫で回して嫌がらせする。非常に大人気ない行為であったが、やられているヴィヴィオはなぜか嬉しそうなので放っておいてもいいだろう。

 そして1分後、ようやく落ち着いたシロンは、一つ咳払いをしてから話を進めた。

 

「ウォホン……とまぁ、特訓初日から予期せぬイベント祭りで流石の我輩も取り乱してしまいましたが、早くも君たちにライバルが出現したことは間違いないニャ」

「ライバルって、あのお姉さんのこと?」

「うむ、年も近くて格闘術を習っているようだから、いずれ何らかの大会で出会うこともあるだろ?」

「あっ、そうか!」

「恐らく、同世代の君たちは何度もぶつかり合うことになるはずニャ。即ち、それはライバルに他ならない! 少年漫画でよくあるシチュエーションだから間違いないニャ!」

「根拠が適当すぎです」

 

 そばで聞いていたシュテルが思わずツッコミを入れる。とはいえ、シロンの予想は結構当たっていた。実際は、ライバルというより【嫁】になるのだが、今は誰にも想像できないことなのでそのまま話を進める。

 それ以前に、特訓を始めたばかりの子供たちにとっては、ライバルという言葉自体に実感が湧いていないようだが。

 

「う~ん、ライバルかぁ。今は全然敵う気がしないけどなぁ」

「そうだね~、あのお姉さんすごく強そうだったもんね~」

「そんなの当たり前ニャ。まだスライムも倒してないような君たちがあの子と同じレベルなわけないからニャ。だから今は、追いつくべき目標と考えるだけでいいニャ」

「うん!」

「分かった~」

 

 シロンは、ちょっぴり自信を無くしてる2人に優しく言い聞かせる。いくら才能があると言ってもまだまだ幼い彼女たちには、強さよりも優しさを教えていかなければならない。それこそがもっとも重要な大人の役目だろう。

 だがしかし、魔導師ファイターを目指すからには、強靭な意思も必要だ。素手でモビルファイターを破壊できるほどの力を身につけるには、生半可な覚悟では到達できないのだ。

 

「どうだ、2人ともぉ! この我輩の特訓についてくる覚悟はあるかぁぁぁ!」

「「はい、ありますっ!」」

「よぉぉぉし、良い返事だぁぁぁ!! ならばいくぞぉ! 我輩たちの特訓は始まったばかりだぁぁぁぁぁ!!」

「「お―――――――!!」」

 

 気分はもうマスターアジアである。

 しかも、アインハルトに刺激を受けた子供たちのノリも良い。

 その様子を見て更に調子に乗ったシロンは、腕を組みながら満足げにうなずくと2人に向けてこう言った。

 

「見せてもらおうか、新しい世代の可能性とやらを!!」

 

 マスターアジアを演じていたと思ったら、今度はフル・フロンタルをやり始める。どうにもキャラが定まらない男である。

 しかし、これほどまでにガンダム好きだったからこそ今があるのだからバカにしたものではない。マイペースなシロンは、これからもこんな調子で面白かっこよく生きていくのだろう。

 愛しい女性たちと楽しい仲間に囲まれながら――

 

「ところで主様、盛り上がっている時に水を差すようでなんだが、もうそんな時間はないぞ?」

「え?」

「さきほどの揉め事で時間を費やしすぎました。早く帰らないと子供たちの登校時間に影響が出てしまいます」

「あ、ほんとだ~」

「家に帰って朝ごはん食べなきゃ」

「ふっ、結局こんな結末か。これでは道化だよ……」

 

 せっかく、かっこよく決めようと思ったのにコレである。自分がギャグキャラだったということを忘れていたシロンは、最後のオチ担当となるのであった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 何はともあれ、こうしてヴィヴィオ、アルマ、アインハルトは運命的な出会いを果たし、新たな魔法少女の物語が始まりを告げた。これより数年後、彼女たちは魔導師ファイターとして大活躍することになり、管理世界に新たな時代の幕開けをもたらすことになる。

 しかし、シロンの物語はここでひとまず終わりを迎える。

 この後の彼は、ミッドチルダに自治領を作ってハーレムを実現し、多くの美女と結婚することになる。そして、アリシアと協力して完成させたアンチエイジング魔法で20代の若さを保ったお嫁さんたちと末永くイチャイチャしたりするのだが、あまり詳しく記すとR-18になってしまうので、未来に起こる朝の一幕を少しだけ紹介して終わりとさせていただく。

 

「やはりパイオツは最高だニャ!」

「あんっ、料理中にイタズラしたら危ないですよ~」

「それはムリな相談ニャ! 裸エプロンのユーリを前にして放っておくことができようか! いや、できまい!」

「もう、いつまでたっても甘えんぼさんなんですから~♪」

「いいなぁ、ユーリ……」

「あの光景を羨ましがるなんて、フェイトもだいぶ染まったわね。まぁ、私も人のこと言えないけど」

「そ、そんなことはないけど……姉さんだって、シロンともっと一緒にいたいと思うでしょ?」

「ふっふ~、おっぱい好きな私としては、みんなを見てるだけでも十分幸せやけどね~!」

「って、ちょっとはやて! 見てるだけとか言っといて、思いっきり揉んでるよぉ~!?」

「はぁ、我の体がアレを元にしていると思うと情けなくなるわ……」

 

 晴れてシロンのお嫁さんとなった彼女たちは、同じ邸宅で一緒に住みながら幸せに暮らしましたとさ。




これにて「魔法小猫リリカルシロン」は完結となります。
当初の予定よりだいぶ短くなってしまいましたが、なんとか20話を超えることができて、ひとまずほっとしています。
ただし、総合的にはかなり残念な結果となってしまいました。
初期の頃はあまりに人気が無く、9話を書き終えた時点で心が折れてしまったのです……。
認めたくないものだな。自分自身の、弱さゆえの諦めというものを。

そんなわけで、現在はごっそりと自信を失っているため、次の連載は未定です。
一応、以下のような作品を考えていたのですが――


・「魔法科高校の劣等性」の主人公・司波 達也の性格をグラハムにして、自作する魔法をすべてフラッグと絡めてしまう「魔法科高校のフラッグファイター」

「人呼んで、達也スペシャル! 魔法など、当たらなければどうということはないのだよ!」
「作ったばかりの飛行魔法であんな機動ができるなんて。流石です、お兄様!」
「なに、フラッグファイターならばこの程度のことなど造作も無いさ」
「確かに、全部避けてるのは流石だけどよぉ!?」
「フラッグ関係ない上に、背中に付いてる翼も必要ないよね!?」
「否! 翼の無いフラッグなどイチゴの無いショートケーキも同然! 飾りとは違うのだよ、飾りとは!」
「いや、魔法関係ねーんだからただの飾りだろ! っていうか、たとえが可愛いなオイ!」
「この私、グラハム・エーカーは乙女座だからな。可憐な言葉が出てしまうのはごく自然なことだ」
「って、色々とつっこみどころ満載だけど、とりあえずグラハム・エーカーって誰!?」

・「月間少女野崎くん」の主人公・野崎くんをグラハムにして、BLっぽい漫画家として活躍する彼とノーマルな千代ちゃんとの奇妙な恋愛を描く「月刊乙女グラハムくん」

「ねぇグラハムくん、この女の子っぽい美少年キャラ、みこりんがモデルなんじゃ……」
「その通りだと言わせてもらおう。彼の圧倒的な可愛さに、私は心奪われた!」
「うわーん! 私ってば男の子に負けちゃってるのー!?」
「違うぞ佐倉、彼のような存在は男の娘と呼ぶのだよ。そこのところをわきまえてもらおう」
「って、気にするトコ間違ってる上に、ものすごくどーでもいい話だよっ!」
「……どーでもいい話だと? よもやそこまで私の愛を否定するとは! 堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ、ガンダム!」
「沸点低っ!? っていうかガンダムってなに―――!!?」

――といった感じで、どちらも今回の作品と同じような結果になりそうなので、制作するのは止めておきます。
しばらくは短編などを作って英気を養いたいと考えております。
現在「ばらかもん」の短編を作っており、やる気が出れば今年中には投稿できるかもしれませんので、また読んでいただけると嬉しいです。


それでは、中途半端な結果となりましたが「魔法小猫リリカルシロン」をご覧頂いた皆様、本当にありがとうございました。
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