激しい戦いの末に(?)虚数空間へと迷い込んでしまったシロン一行は、異様な空間の中を漂っていた。宇宙とは違う、何かがあるようで何も無い異空間である。そんな場所にモビルアールヴごと放り込まれたグラハムとリニスは、モニター越しに広がる不気味な光景に息を呑む。
『なんと面妖な! この空間、まるで恋に悩める乙女心だ。男の私には理解し難いぞ!』
『女の私でも理解できませんよ……』
流石のグラハムも恐怖を感じずにはいられない状況だった。リニスも怖くなったのか、機体を彼の傍に寄せるが、それは無理もない事だろう。何故なら、この場所にはこれまで彼らを支えてくれた常識が無いからだ。生命を育むべき大地も水も大気も無い。そして、元の空間に戻る手立ても無い。つまり、このままでは死を待つだけなのだ。
というか、生身で放り出されているシロンは、今まさに命の危機に瀕していた。
「ぐぉおお~!? い、息ができん! 流石の我輩も空気が無いとお陀仏ニャ! ゼントラーディとかフリーザ様のようにはいかないニャー!?」
ケット・シーは、火星に移住した際に放射線、重力変化、温度変化などに対する抵抗力を身体に付与していたが、生物である以上は酸素が無いとどうしようもなく、呼吸出来る場所を確保しないと死んでしまう。
事態の深刻さに慌てたシロンは、急いでビルドカードを取り出すと、自分専用の機体を召喚しようとした。しかし、何故か発動しない。カードの機能自体は問題無さそうなのだが、魔法がキャンセルされているらしい。
「なんやて!? この空間全体が
この空間はまさしく上条さんの最強バージョンであり、魔法使いだったら完全にお手上げ状態の場所だ。しかし、幸いな事にモビルアールヴは魔法とは無関係なCN粒子でも稼動可能なので、フニャッグとエクシアダークマターは問題なく活動できている。これならCNフィールドを張れるし、その中でなら魔法も使えるかもしれない。十分に試してみる価値はあった。
でも、その前に……
「酸素! 酸素プリーズ!」
我慢の限界にきていたので、シロンは必死にクロールをしながら救助に来たエクシアダークマターの元へと向かう。リニスはコックピットのある胸部を近づけると、急いでハッチを開き彼を入れてあげた。勢い余って彼女の柔らかな胸に飛び込み、地獄から一転して天国へとやって来た気分である。
「きゃっ!」
「にょほほ~! ナイスなダブルオークッション!」
「エッチなのはいけないと思いますっ!」
「はいごもっとも!」
ゴスッっと頭にゲンコツを受けるシロン。今は人間形態なので、姉に怒られている弟のような構図だった。実際、母性の強いリニスも悪い気はしていないので、案外悪ガキのシロンとは相性が良いのかもしれない。
もっとも、今は和んでいる場合ではないが。
「ところで、絶体絶命の我輩を置いてグラハムはなにしてるのニャ?」
「実はつい先ほどとんでもない発見をしまして、彼は私に王子を任せてあそこに向かっています」
「あそこ? って、うぇええ~~~!?」
説明をされてそちらに目を向けると、本当にとんでもないものがあった。
「想像以上にでっけーラピュタ!?」
エクシアダークマターの足元……と言うべきかは分からないが、重力のベクトルが向かう先にそれはあった。
直径10キロ程の円形大地に高度な文明を思わせる建造物がそびえ立っており、全体的にはSF作品に出てくる巨大移民船のような印象を受ける作りをしている。それは明らかに人工的なものであり、本来なら虚数空間には無いものだ。
しかし、あの存在を説明できる話が一つだけある。
「恐らく、あれがアルハザードなのでしょう」
「ニャんと!? あのキャバクラ説が濃厚だったアルハザードとな!?」
「貴方しか言ってませんけどね! でも、本当にあったんですね。私は存在自体を疑っていましたけど……」
「まさに、世界ふしぎ発見! スーパーヒトシ君をボッシュートされても文句は無いニャ……」
こんな切羽詰った状況にもかかわらず、ある種の感動を受けてしまう2人。世界に発表する事は叶わないものの、歴史に残るような大発見には違いないからだ。スカリエッティの望みにブルーディスティニーが答えたのか単なる偶然かは分からないが、アルハザードと思しき物が目の前にあるのは確かであり、漂流中であるシロンたちにとってもありがたい事だった。
とはいえ、見入っていられるのも束の間だった。アルハザードと思しき浮遊都市から多数の熱源反応を感知したのである。しかも、グラハムは既にアンノウンと交戦状態にあった。
『ええい、有象無象の物の怪が! この私に一目惚れしたとでも言うつもりか! 不愉快極まる!』
「グラハム!?」
彼の身を案じたリニスは救援に向かう。一体どのような存在と戦っているのだろうか。彼と交戦しているアンノウンを望遠で捉えて確かめる。
見るとそれは奇妙な形をした機動兵器だった。簡単に言えば翼を持った蟹のような姿の機体で、数百機は展開している。武装はビームやミサイルといったオーソドックスな物らしい。
サイズ的に無人機のようなので遠慮しなくてもいいのは救いだが、数が多い上に執拗なのはいただけない。
『この粘着質なしつこさ、まるでガンニャムに懸想した私のようだな! あえて言わせてもらおう、ストーカーであると!』
「変な自覚持ってるー!?」
『私の経験談だ、間違いないさ!』
「いや、自信満々に言う事じゃないですからねっ!?」
要するに同属嫌悪なのだろう、グラハムはイラつきながらも迎撃する。
『私の愛はガンニャムだけに向けられている! それ故、貴様らの横恋慕など意にも返さん!』
「ええー!?」
『魅力が足らんのだよ、魅力が! 顔を洗って出直してくるがいい!』
「はは~、相変わらずガンニャム一筋だニャ~」
「うう、私も見て欲しいのに……」
グラハムのアホなセリフを聞いてリニスが落ち込んでしまう。厄介な性格の彼に恋してしまった宿命とも言えるが、今はそんな場合ではない。
「しっかりするニャ、美少女ちゃん。ってゆーか、君のお名前なんてーの?」
「ふぇ? 私はリニスと言います……」
「じゃあリニスちゃん、我輩もカードを使って愛機を出すから、CNフィールドを最大出力で張って欲しいのニャ」
「な、なるほど……それなら魔法が使えるかもしれませんね。やってみましょう!」
落ち込んでいても聡明さを失っていなかったリニスは、すぐに話を理解して早速行動に移る。それを確認すると、シロンは大きく息を吸い込んでからコックピットの外に出た。そして、CNフィールドの展開を視認した後に再びビルドカードを使う。すると、読み通りに魔法が使えたので、ようやく彼専用の機体が活躍できる時が来た。
「出でよ、我が黄金の魂! アルニャトーレ!!」
シロンのかけ声と共に魔法が発動し、ビルドカードから金ピカの【モビルギガス】が出現する。
モビルギガスとは、人類が開発したモビルアーマーのケット・シー版で、主に大型機動兵器を指す言葉として用いられる。
シロンが召喚したアルニャトーレはそのカテゴリに分類されるもので、通常のモビルアールヴよりも大きく形も異様だった。そして何より、全身金色でとっても悪趣味だった。
『なんかすっごいの出て来たー!?』
『華麗な装いも、度が過ぎれば嫌味に変わるのだがね。そのセンス、度し難いな! このバカ王子が!』
『あー! 今バカって言ったな!? お前もガンニャムバカじゃないか! バーカバーカ!』
『フッ、私にとっては褒め言葉だと言わせてもらおう!』
『あーもう! この人たち、すっごいめんどくさい!』
今更気づいても後の祭りである。しかも、まだ戦闘中なので、3人は不毛な会話をすっぱり切り上げると迎撃行動に集中した。
普段はバカでもシロンとグラハムは実戦を生き抜いてきたプロなので、この程度の無人兵器に遅れを取る事はない。それどころか、オーバーキル気味でさえあった。特にCNドライヴを7基も搭載しているアルニャトーレの破壊力は凄まじかった。機首部に1門装備している大型CNキャノンや両側面に計22門装備しているCNビーム砲といった圧倒的な火力で敵機を瞬殺していく。
『す、すごい! まるでオモチャのように消し飛んでいく……』
『当然だ。この程度、我らにとっては児戯に等しい!』
『児戯だって?……遊びなもんか! 自分が死ぬのも、人が死ぬのも冗談じゃないって思うから、やれる事をやってるんでしょ!』
『なんか性格変わってるー!?』
『違うな、これこそが王子の本質なのだよ。普段の猫言葉は世間を欺く仮の姿に過ぎん』
『えっ、そんな正統派アニメっぽい設定だったんですか!?』
『アニメではない、本当の事さ!』
そう言うと、グラハムは敵中に突っ込んで行く。その姿は、子供っぽい弟の面倒を見る優しい兄のようだ。何だかんだと言いながらもシロンをちゃんと見守っている彼に、リニスは嬉しくなるのだった。
『まったく、これからどうなるのでしょうかね……ふふっ』
今後を心配してるような言葉をつぶやきながらも笑みを浮かべる。まだ予断を許さない状況ではあるが、あの2人と一緒ならなんとかなると思えたからだ。
十数分後、全ての敵機動兵器を撃破した彼らは、上空から浮遊都市を調査した。問答無用で攻撃してきた後はまったく音沙汰が無いので、念入りに調べる事が出来た。
上から見た感じでは人の動きを感じない。そこに疑問を感じたが、答えはすぐに分かった。熱源センサーに全く反応がないのだ。何らかの方法でジャミングしている可能性もあるが、とりあえず地表面に限っては【無人】であると判断してもよさそうだった。
☆★☆★☆★☆
敵機を全て排除した3人は浮遊都市に進入した。途中でバリアのような障害があったが、力押しですんなりと通過できた。どうやら、生活環境を維持するための保護膜だったらしい。そのおかげで空気もある事が分かり、一安心できた。一応ウィルスおよび大気汚染などのチェックを済ませて無事を確認すると、みんなでモビルアールヴを降りる。魔法も確認してみたが、問題なく使えるので生身でも戦えるはずだ。
そのように一通り準備を整えると、警戒態勢を取りながらも本格的な調査を始めた。
地表に立つ建造物は地球の大都市を思わせる作りで、時間の経過を感じさせないほど美しく、生活感に溢れていた。あたかも人だけが忽然と姿を消したかのように……。
近くにあった民家に入り、部屋に飾ってあったフォトフレーム風の画像を眺める。家族で写したらしく、両親とその子供と思われる人物が笑みを浮かべていた。
「見たところ、普通の人間と変わらないですね」
「そうだニャ~。キモイ奴とか戦闘民族みたいな奴じゃなくてよかったニャ」
「私は残念だ。白パン一丁でガンニャム頭の人間がいたら、私の欲望を全て満たしてくれたのだがな」
「そんな【カトキ氏】みたいな人間嫌だよ!」
「えっと……因みに、白パン一丁って男の人ですか、女の人ですか?」
「無論、両方だと言わせてもらおう!」
「り、両方ー!?」
「そうだ! 私はガンニャムと男女を同等に愛する魅惑の愛好家。そうとも! 愛ゆえに三刀流を極めてしまった男だ!」
「そんな話聞きたくなかったー!? ってか、お前すっげーな、自分のキャラとか全然気にしねーのな!」
「うぅ……私の恋は前途多難です(泣)」
思いもかけずグラハムの性癖が判明してしまい、テンションが下がるシロンとリニス。
確かに、男所帯の場所ではそういう事が起こり得る可能性が高いのかもしれないが、それも個人的な性癖の問題なので、只単にこの男が特別なだけと言える。そもそも、ガンニャムに愛を語る奴と一般的な基準に当てはめてはいけないだろう。
何はともあれ、かなりどーでもいい話なので、さっさと調査を再開する事にした。
民家を後にした一行は、浮遊都市の中央に位置するいかにもな建物から内部へと侵入した。この建物の中は魔法を阻害する機能が働いているようでトラップが作動したのかと一瞬身構えたが、予想に反して特に迎撃がある訳でもなく、表と同様に人の気配も無かった。
「もしかして、アルハザードにバイオハザードが起きてたりして♪」
「言ってしまいましたね。誰もが思ってるのに言わずにいた事を……」
「その意見に然りと言わせてもらおう! 空気を読まぬ愚か者は、愛を語る資格無しだ!」
「お前に言われたくねーよ!」
とにかく、魔法は使えないので、バイオハザード並に危険な状態だとは言える。もっとも、CNドライヴを装備しているリニスには全く影響が無いので大きな問題は無いと判断し、調査を再開する。エネルギーは行き届いているらしく照明は付いているが、各種端末は封印されていて動かせなかった。そのため、当初の予定通り徒歩で探検する事になり、警戒しながら下層へと進んでいく。
そうして、特に妨害も無く調査を進め、ついに浮遊都市の中枢部へとやって来た。かなり広い場所で、中央には青く輝く巨大な結晶体が鎮座していた。
この青い結晶体は【デウス】という名の高次元エネルギー結晶体だった。アルハザードの民は、高次元存在とアクセスすることが出来る道を虚数空間で発見し、これを作り上げたのだ。そして、この結晶体を使って【並行世界に存在する全ての事象を把握し、再現することが出来る】トンデモアイテムを完成させた……。
そんな途方も無い物を作り上げたアルハザードとは、遥か昔に繁栄していた次元世界から選りすぐりの科学者を集めて結成された大規模な研究機関だった。魔法技術の確立によって可能性の広がった科学分野を速やかに発展させようという目論見で始まったものだ。
当然ながら最初はそれなりに健全な組織であった。しかし、驚異的な研究結果に魅入られてしまった彼らの探究心は、更なる力を欲した次元世界の欲望と相まって次第にエスカレートしていく。
閉鎖された空間のせいか精神的にも歪んでしまった彼らは、才能を高めるために優秀な人物の遺伝子をこぞって使い、更に進化した自身の分身を生み出していった。その人物の容姿がスカリエッティの元であり、アルハザードには同じような見た目の人間が数多く現れたのである。
そのように心身ともに暴走した結果、彼らを危険視しだした次元世界と袂を分かち、前人未到の虚数空間へと隠れてしまう。そして、この地で新たに手に入れた技術によってこれ以上はないだろう最高傑作を完成させた。
しかし、それはやり過ぎだった。最高傑作を作り上げた後、彼らは成すべき目標を失ってしまったのである。そのため、過剰な探求欲が行き場を失い、その負荷で精神を蝕み、ついには絶望してしまう。遺伝子を改造し過ぎた彼らは、探求する事を止められなくなっていたのだ。
そこで彼らは決断した。これまで手に入れた知識を無くし、新たな土地で新たな探求を求める事を。最高傑作を使ってその望みを叶えた彼らは、この浮遊都市から姿を消し、様々な並行世界へと旅立っていった。シロンたちが出会ったスカリエッティの先祖はその中の一人であった。
そのように、この青い結晶体はシロンたちの運命にも関係していたのだが、今の彼らにとってはもう過去の出来事であって気にする必要のないものなので、この話は誰にも知られること無く物語は進んでいく。
「すっげーでっけー飛行石だー!!?」
ヘヴィな裏事情など露知らず、結晶体を目の前にしてのんきに騒ぐシロン。知らないほうが幸せとはこういう事を言うのかもしれない。
それでも、凄まじいエネルギーを内包しているこの物体がとんでもないシロモノだという事は分かる。見た目からして、いかにもな感じだし。
「これがアルハザードの中枢……すごい存在感ですね。伝説は伊達じゃないという事でしょうか」
「ああ、ガンニャム一筋の私ですら魅了されているよ……」
「はい、本当に美しいですね……」
「だが、あの結晶体、乙女に贈るプレゼントにしては大き過ぎるな。愛は控えめなほうが丁度いい」
「えっ、プレゼント!?」
「うむ。贈り物とは男の甲斐性であり、愛の大きさを示す物差しだ。しかし、行き過ぎれば悪手となる。欲張りな愛は身を滅ぼすだけなのさ」
「そ、そんな事は……あっ! じゃあ、あっちの小さいのはどうですか!?」
そう言ってリニスが指差した場所には、いかにも大切な物ですと言わんばかりの台座に乗った宝玉があった。大きさは直径2センチ程度の球状で、自分の存在を知らしめるように鮮やかな虹色に輝いていた。仰々しく飾られているので、ドラクエで言う所のオーブみたいなお宝に見える。そのせいで、シロンのテンションが更に上がってしまった。
「うおー、お宝はっけーん! 我輩がリニスちゃんのために取ってきてあげるニャ! だから、お付き合いしてくださーい!」
「なんでそうなるの!?」
調子に乗ったシロンは、何の考えも無しに突っ込んで行く。しかし、それはあまりにも危険な行動だった。これまでは特に妨害などは無かったが、こんな重要な場所ならトラップがしかけてあってもおかしくないからだ。
兵士として訓練されたグラハムは一瞬でそのように判断すると、シロンを止めるためにすばやく回り込んだ。
「迂闊だぞ王子! せっかちな男は嫌われるものと知るがいい! この私のようにな!」
「自覚してんなら治せよぶげらっ!?」
シロンの前に躍り出たグラハムは、全く躊躇することなく彼の顔面を蹴り飛ばした。迂闊な行動に対する怒りの中に優しさを半分込めた、某頭痛薬のような愛のムチである。ただ、力を込めすぎた感じではあるが……。
「親父にもぶたれた事ないのにー!」
「ぶってはいない、蹴っただけだ!」
グラハムの減らず口に送られながら、グルグル身体を回転させて吹っ飛ぶシロン。必要以上に力を込めたせいで面白いぐらいに飛んでいく。まぁ、このくらいなら彼らにとって日常茶飯事なので、その点はどうでもいい。だが、今回はいつもと違った。シロンの飛んでいった先にリニスがいたのである。あまりに突然だったので避けることもできず、そのまま2人はぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
「もぎゅー!?」
シロンはリニスの柔らかい胸に正面衝突し、その衝撃で2人とも倒れてしまう。
「痛つぅ……」
お尻から倒れて見事なM字開脚を披露してしまうリニス。しかも、その魅惑的な股間にシロンの顔を挟み込んでしまっていた。所謂、ラッキースケベという奴である。少年誌のラブコメマンガで男性読者獲得のためにありえない確立で起こるアレだ。
「あんっ! な、なに!?」
「むむっ!? この柔らかい膨らみは何だ? 暖かくて、安心を感じるとは!」
「…………キャ~~~~~~~~!!?」
しばらくして恥ずかしい状態になっていることに気づいたリニスは、自分の股間をクンカクンカしているシロンの頭をがっちり掴んで持ち上げると、全力で殴り飛ばした。ツインドライヴシステムを搭載している彼女の力は当然ながらグラハムよりも強力で、シロンは先ほどよりも高速でぶっ飛んでいく。そして、鼻血を撒き散らしながら一瞬でグラハムの横を通り過ぎて……あの宝石にぶつかってしまう。
こうして、トラップを警戒していたグラハムの気遣い(?)は水泡に帰してしまった。しかも、彼が危惧していた通りにそれが引き金となって新たな問題が発生してしまう。シロンの鼻血が宝石にベットリとついた途端にまばゆい光が発生し、それと同時に不思議な声が聞こえてきたのである。
<遺伝子情報確認……マスター登録完了。契約は無事に成立しました>
「契約ってなにさー!? ってか早い、早いよ!? 『はい、いいえ』の選択肢もなかったよ!? 竜王様より素っ気無いよー!?」
「なんと! 本人の意に沿わぬ契約を押し付けるトラップだったとは! 私の忠告を聞かぬからそうなるのだ!」
「肉体言語過ぎて全く伝わらなかったし! そもそも、お前がぶっ飛ばしたせいだしー!!」
「あーん! もう何もかもがめちゃくちゃですー!?」
ぶつかっただけで契約とやらが成立してしまい、訳もわからずみんなで慌てる。ある意味トラップとも言えるが、これには一応理由がある。
先に説明した経緯によってこの地から旅立ったアルハザードの人々だが、この【最高傑作】だけは破棄できず、ここまでやってこれた者に譲ってやろうと考えたのだ。
しかし、そんな事など全く知らないシロンたちにとっては、不慮の事故と代わりなかった。
「うわーん! 契約って、キュウべぇ的なアレなの!? 何でも願いを叶える代わりに魔女的な魔法少女にされちゃうの!? イヤだー! 男の娘なんてイヤ過ぎるーっ!!」
「問題はそこなの!?」
「いや。確かにそれは問題だ! 男女両刀の私だが、男の娘を相手にした経験はないぞ!」
「あー! そーいうの止めてください!?」
更に混乱するシロン一行。その時、問題の宝石がシロンの目の前に飛んできた。そして、可愛らしい少女のような声で語りかけてくる。
<先ほどの発言を訂正してください、マスター>
「うわっ、突然やってきて一体何のことニャ!?」
<私は彼らのように強引な勧誘はしません>
「勧誘どころか会話すらなかったけどな!」
<しかし、何でも願いを叶えることは出来ます>
「はぁ? 願いを叶えるだぁ? たった一つの玉っころがでかい口叩くニャ! ドラゴンボールなめんニャよ!」
突然非現実的なことを言い出した宝石に、シロンは胡散臭そうな視線を向ける。確かに、一方的に契約を結んでしまうような相手を信用するなど無理な話だし、それが当時者であるなら尚更である。しかし、部外者のグラハムたちは若干興味を持った。
「ほう、願いを叶えるだと? 一体どのようなことが可能だというのだね?」
<この虚数空間を通じてアクセス可能な並行世界に存在している事象なら全て再現可能です>
「なんと! よもや、並行世界などというものが実在していようとは。興味深いな」
「おやおや、グラハム上級大尉ともあろうお方が、こんな与太話を信じるのですかぁ?」
「無論だ。乙女座の私はロマンチストなのでね。並行世界を超えた出会いに素敵な夢を抱いてしまうのさ」
「そうですね……グラハムのように面白い猫と出会えたら楽しそうです」
「ん~リニスちゃんまで話に乗るニャか。だったら我輩は、本物の魔法少女がいる並行世界に行って一緒に大活躍してみたいニャ! あー、鬱展開はイヤだから、まどマギは勘弁な!」
「え~、魔法少女ですか?」
「そうニャ! 猫と言えば魔法少女! プリチーキャットの我輩にピッタリの世界ニャ! それなら2人の願いと合わせても違和感ないし、一石二鳥のこんこんちきだぜ!」
グラハムたちの話が面白そうだったので、思わず自分の考えも言ってしまうシロン。もちろん本気ではなく軽い気持ちで発した言葉だった。しかし……思っていた以上に融通の聞かないこの宝石は、それを【願い事】として受け取ってしまう。
<分かりました。【並行世界を超えて面白い猫と出会う】願いと【本物の魔法少女がいる並行世界に行く】願いを同時に実行します>
「「「え?」」」
話をしていたシロンたちは、なにを言われたのか咄嗟に把握できず考え込むが、その答えを出す前に宝石の力が発動してしまう。まばゆい光が世界を白く塗りつぶすと、一瞬のうちに3人の姿は浮遊都市から消えた。あの宝石と共に……。
☆★☆★☆★☆
シロンたちが浮遊都市から姿を消す少し前、とある世界の海鳴市と呼ばれる街で1人の魔法少女が誕生していた。後に管理局の白い悪魔と呼ばれる事になる少女である。
「むむ?」
「どうしたの、なのは?」
「うん。今何か嫌な予感がしたんだけど……」
「きっと、初めて魔法を使って疲れたんだよ」
「ん~、そうなのかなぁ?」
首を傾げながら疑心を抱くが、早く寝なきゃと思い直して布団に潜り込む。明日からジュエルシードという魔法の宝石を探すことになったから、しっかりと休まなくてはならない。先ほどの嫌な予感はとても気になるが、今考えても睡眠時間が減るだけだ。
今日はちゃんと眠って、明日になったら色々考えよう。
「お休み、ユーノ君」
「うん、お休み、なのは」
ベッドに横になったなのははユーノという名のフェレット(?)に話しかけると、目をつむって眠りについた。近い未来に自分の人生を変える運命的な出会いがあるとも知らずに……。
「むにゃ……私のことを悪魔と言った人は、スターライトブレイカーなの☆」
「なんか物騒なこと言ってるー!? ってゆーか、寝言だよね!? 手元で魔力が収束してるのは夢だよねー!?」
あまりに反響が無くてやる気がピンチです……。
こういう作風はイカンのかなぁ。
そんな訳で、ご意見、ご感想、お待ちしております。