魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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第4話 海鳴市へようこそ!

 白い光が消え去ると、シロンたちは地球にいた。

 何が起きたのか把握できていないが、とりあえず現状を確認しようと辺りを見回してみる。すると、高台にある広場のような場所にいることが分かった。遠くには海に面した大きな街が見えるので、ここが地球であることは間違い無さそうだ。

 何にしても、事態が好転した事は言うまでもないだろう。少なくとも、あのままアルハザードにいるよりは遥かにましだ。とはいえ、あまりに予想外の出来事だったのでシロンたちは困惑していた。特に、この場所へ自分たちを跳ばした先ほどの現象が魔法と違う未知の技術だった点が大きい。

 

「一体全体なにが起きたのニャ!? ボソンジャンプ!? ゲシュタムジャンプ!? それとも週刊少年ジャンプ!?」

「詳細は分かりませんけど、週刊少年ジャンプでないことは確かですね……。でも、地球に戻ってこれたのですから、とりあえずは喜んでもいいでしょう」

「そうだニャ。何もかも皆懐かしいニャ……」

「虚数空間に落ちてから数時間しか経っていませんけどね」

 

 リニスは、シロンの冗談に笑みを浮かべながら答えた。経緯はどうあれ、虚数空間から脱出できたのは事実なので、確かに喜ぶべきところではあった。今なら汚染物質で一杯の空気でも美味しく吸えそうだ。

 しかし、喜んでばかりもいられなかった。先ほどから黙って何かをやっていたグラハムが、思いもかけない情報を齎してきたのだ。

 

「2人とも、安心するのはまだ早計だぞ」

「え?」

「どういうことニャ?」

「はっきり言おう。少年たちに連絡を取ったが、全く反応が無いのだ」

「え~、アイツら、またサボってるのかぁ? こりゃ減給ものだねっ☆」

「うむ。その気持ち、我がことのように同感できるが……もしかすると、それはできそうにないぞ」

「うぇ? なぜに?」

「この世界に少年たちがいないからだ。いや、私たちが別の世界に来てしまったと言う方が正しい」

「なんやて!?」

「どうやら、愛しの君との逢瀬は叶わぬ夢と化したらしい……。無念だぞ、ガンニャム!」

 

 グラハムは手に持った携帯端末を強く握り締めて悔しがった。

 あまりに有り得ない話だったのでシロンは信じられなかったが、残念ながら彼の言葉を裏付ける確証があった。それは、ケット・シーの拠点が全て沈黙しているという事実である。

 グラハムは、この場所に現れてから関係各所に連絡を入れた。しかし、どこからも応答はなかった。いや、応答どころか受信すら受け付けない状態なのだ。コロニー型外宇宙航行母艦に搭載されているヴェーニャの反応も無く、世界各地に作られた転移ゲートへのアクセスすらできない状況など到底考えられない。仮にテロやクーデターなどが起こってそれらの施設が破壊、もしくは占拠されたのだとしても、地球連邦政府の反応まで全くないという事態は絶対に有り得ないはずだ。

 そこから導き出される結論は……

 

「並行世界に飛ばされた、ということですか?」

「そうなるな。恐らく、王子の願いとやらが叶ってしまった、ということなのだろう」

「まさか、そんなことが……」

「ええい、我慢弱い私に遠距離恋愛を強いるとは! 許さんぞ、バカ王子! その身を引き裂きたい程にな!」

「えぇー!? なんで我輩が怒られるのー!? ってか、全部あの宝石のせいじゃん!! あいつが最終確認しなかったせいじゃん! 我輩の意思を無視するなんて、マスターとか言ってたクセになんたる侮辱! 声は美少女風だったから、もしかしたら擬人化して士郎とセイバーみたいにイチャイチャ出来るのかと淡い期待を抱いてたのに! 裏切ったな、僕の気持ちを裏切ったな! キュウべぇみたいに裏切ったんだ!」

 

 グラハムの言葉を受けて怒りを表すシロン。途中から別の話になってしまっているようだが、ほとんど勝手に願いを叶えられてしまった彼の言い分も理解できる。ただ、あの宝石にもちゃんとした言い分があった。

 これまで登場するタイミングを上空で待っていた宝石は、怒りをあらわにしているシロンの目の前に飛んでくると、平然と弁明を始めた。

 

<私はマスターの願いを叶えただけですよ?>

「のわっ!? お前も来てたの!?」

<もちろんです。契約を結んだ時点で私と貴方は一心同体、もう死ぬまで離れませんよ……>

「こえー上に重てーよ! ってか、マスターって言うなら、こういう大事なことする時は我輩に確認とってくれない? いや、とれ! とるべきだ!」

<確認ですか?>

「Exactly(そのとおりでございます)! 君にはもっとコミュニケーション能力が必要なのさ。でないと社会に出た時苦労するよ?」

<ごめんなさい、こういう時どう言えばいいのかわかりません>

「綾波レイか!」

 

 宝石に備わっている人格(?)の天然っぷりに流石のシロンも振り回されっぱなしだった。

 一見するとわざとやっているようにも感じるが、彼女がコミュニケーションに慣れていない事には一応理由がある。アルハザードの民は人格的に問題のある人間が多かったせいでまともに接する機会が無く、彼らが消え去った後は虚数空間に何千年も放置されていたため、心と言うべき部分が育たずにこのような性格になってしまったのである。要するに、この宝石の精神は幼い子供そのものであり、今回の行動も良かれと思ってやった、所謂、無邪気ゆえの悪意というヤツだった。

 その辺は話を聞いていたシロンにも理解できたので、ため息をつきながらも彼女を許す事にした。何にしても彼女のおかげで助かったことには違いないのだから。

 

「まぁ、済んでしまったことは仕方がないニャ。我輩は心が広いから許しちゃうニャ」

<マスター……ありがとうございます>

 

 シロンの寛大な処置に感動する宝石の人格。彼は基本的に優しいので、このように惚れてまいそうな男気を見せる時がままあった。だが、すんなりと矛を収めた訳は他にもある。

 

「結構あっさりしてますね」

「だって、この宝石がここにあるってことは、また願い事ができるってことだからね。今度は、元の世界に戻してくれって願えばいいだけニャ」

「あっ、そう言われればそうですね!」

「ほぅ、灯台下暗しとはこういうことか。視野の狭い王子だからこその着眼点だな。よくやった、このグラハム・ニャーカーが褒めてやろう!」

「あんま褒めてねーし! すっげーえらそうだしー!」

 

 シロンを茶化しながらもグラハムたちは感嘆した。意外なことに、シロンは次の一手を冷静に考えていたからだ。普段はバカな子供でも、王子という肩書きは伊達ではなかった。

 しかし、そうは問屋が卸さないのが世の常である。

 

<盛り上がっているところ申し訳ありませんが、現在の状況ではその願いは叶えられません>

「えーっ!? なぜなにどうしてー!?」

<願いを叶えるためには相応の魔力が必要なのですが、今は並行世界を渡る願いを実行するだけの蓄積がありません>

「なんでやねん!? さっきは普通に跳べたのにー!?」

<さきほどはアルハザードのエネルギー源であるデウスから潤沢に供給されていましたから問題なかったのですが、あの場所から離れてしまった今はマスターや空間中から吸収するしかありませんので、かなりの時間を要します>

「因みに時間ってどれくらい?」

<このペースだと、約100年といったところでしょうか>

「絶望した! 時間と言う概念に絶望した!」

 

 ケット・シーの寿命は人間の倍近いとはいえ、100年ともなれば許容できない時間だ。せっかく戻っても中年になってしまったら嫁さん探しも一苦労だろう。サイボーグであるリニスは見た目に変化が出ないのでその点を心配する必要はないが、それでもショックを隠しきれない。

 

「100年もかかるのなら、こちらで暮らす事を考えたほうが建設的ですね……」

「わーん、そんなのヤダー! あっちの世界にはやりかけのゲームとか作りかけのガンプラとかが一杯あるのニャー! おいコラお前、急速充電的な方法とか無いんすかー!?」

<純粋な魔力で作られたエネルギー結晶体などがあれば一瞬で溜めることができます>

「なるほど、乾電池みたいなもんか! って、んなもん持ってねー!?」

 

 理屈は簡単でも物がなければどうにもならない。もしかすると、この世界に代替となるような物があるかもしれないが、寄る辺の無い現状ではそれを探すだけでも一苦労となるだろう。

 

「では、CNドライヴで生成した魔力ならどうだ? あれならかなりの供給量を確保できると思うのだが」

「おおー! いいぞグラハム! たまには良いこと言うじゃん!」

「フッ、私の【たま】は百発百中! この愛を込めた弾丸、射抜けぬものなどありはしないさ!」

「はい、私の心も射抜かれました♪」

「お惚気かよコンチクショー!」

 

 話しているうちに何故かグラハムとリニスからラブ臭を感じてシロンがイラッとしてしまったが、確かに彼のアイデアは良い線を行っているように思えた。しかし、便利な機械といえども上手く使えない時がある。

 

<……残念ですがそれは推奨できません>

「なんでさ!?」

<あの機関で生成された魔力には僅かながら不純物が含まれており、それが願いを叶える際に誤差を生じさせる原因となってしまうからです>

「誤差ですか?」

<はい。空間移動で誤差が発生した場合、出現地点が空間ではなく岩や壁の中になってしまう可能性がありますので非常に危険です>

「なにそのウィザードリィ!? リアルで起きたら死んでまうやん!?」

「なるほど、あえて危険は冒せないか……恋に悩める乙女心のようにままならぬものだな」

 

 そのような話を聞いては流石にCNドライヴを使うことはできないので、結局この案はお蔵入りとなる。しかし、他に良いアイデアが浮かぶ訳でもなく、今は地道に魔力を溜め続けるしかないという結論に至るのだった。

 

「まぁ、こうなってしまったら仕方が無いニャ。とりあえず良い方法が見つかるまでこの世界で逞しく生きていくのニャ」

「そうですね……それしかなさそうです」

「とゆー訳で、長い付き合いになりそうだけど、改めてヨロシクニャ、リニスちゃん!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。それと、私の事はリニスと呼んでください」

「オッケー、リニス。それから、えーっと……お前の名前ってなんてーの?」

<私の名前、ですか?>

 

 そういえば未だに聞いていなかったと今更になって気づいたシロンは、ようやく宝石に名を尋ねた。成り行きとはいえ相棒になったのだから当然知っておかなければならない。学校でも会社でも合コンでも、名前を聞かなければ何も始まらないのだ。

 

「さぁさぁ、貴方のお名前聞かせてプリーズ!」

<私の名は……【セフィロトの実】と言います>

「ほほぅ、これまた大層なお名前ですなぁ。アルハザードの連中も神様を気取ってたのか。こりゃ傑作だね! HAHAHA~!」

<気に入りませんか?>

「ああ、気に入らないね。傲慢な奴は碌なことしねぇからニャ。だから、お前の名前を変える事にしたニャ」

 

 これまで酷い目に遭ってきたという理由もあって、シロンはアルハザードの人間に嫌悪感を持っていた。ただ、個人的な恨みだけではなく、そこにはニャーソレスタルビーイングと名乗り、天使の名を冠したモビルアールヴで世界に戦いを挑んだ自分たちに対する嘲りも含まれていた。やっている事は大して変わらないのだと……。

 だからこそ、この宝石をまっとうな宝石(?)にしてやりたいという気持ちがあった。自分たちのように傲慢になり、人を傷つけることのないように導いてやりたいと思ったのである。

 そのためには、この偉そうな名前から改めないといけない。大体、中学生が考えたような安直さなので、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。

 

<私の名前を変える……?>

「そうニャ! 今日からお前はセフィロスと名乗るがいい!」

<お断りします>

「速攻で却下!? 何故だ、こんなにもカッコイイのに!」

<私は女性の人格を与えられているので、かっこよさなど求めていません。それに、その名を付けられたら人類を滅ぼしたくなりそうです……>

「スッゲー身近に世界の危機が!? じゃあ、ちょろっと簡略して【セフィ】ってのはどうニャ?」

<セフィですか?……いいですね>

 

 どうやら、新たにつけてもらった名前を気に入ったらしい。これなら美少女風の声にピッタリなので、シロンとしても満足だ。

 少しだけセフィロスという名前に未練があるが、世界平和のためには致し方ない。

 何はともあれ、こうしてセフィロトの実という名の宝石は、セフィと名乗ることとなった。これで、名実共にシロンの仲間として迎え入れられたことになる。

 

<ではマスター、不束者ですがよろしくお願いします>

「おうよ! って、なんで首輪に変身してるの!?」

<私を肌身離さず持ち歩くには、この形態がもっとも適していると判断しました>

「また勝手なことを……って、既に装備されてるしー!?」

<これならマスターの魔力を効率的に吸収できます>

「我輩は呪われてしまった!」

 

 確かに魔力を吸収するという部分だけを聞くと呪われたアイテムのように聞こえるが、元の世界に帰るために必要なことなので仕方が無い。

 今はそんなことよりも豪華すぎる見た目の方が問題だ。人間形態のシロンは10歳前後の子供なのだが、この姿で高価な宝石を身につけているのはあまりに不自然なので、必要以上に人の目を引いてしまうだろう。

 

「よく似合ってますけど、これでは目立ちますね」

「その通りニャ! こんなの付けてたら襲ってくださいと言ってるようなものニャ!」

<そうですね……では、マフラーなどで隠してみてはいかがでしょうか?>

「えー、マフラーなんて買うのー? もう春だから必要ないしー、消費税も上がっちゃったから無駄遣いは控えたいんですけどー?」

 

 そもそもこの世界のお金を持っていないので、今のところはマフラーどころかうまい棒一本すら買う事ができない。シロンたちはこれでも一応特殊部隊の一員なので、いざという時のために金や宝石などの換金アイテムを持っているが、先行き不透明なこの状況では極力無駄遣いを控えるべきところである。

 だが、そのようなことはセフィも承知しており、お金を使う必要の無いアイデアを提示してきた。

 

<ご心配には及びません。私の力を使えば欲しいものを作り出すことができますから>

「なんと! そのような願い事もできるんですかー!? マジでドラゴンボールじゃん!」

「ほぅ、興味深いな。無から有を生み出すというのか。具体的にはどうすればいいんだ?」

<それほど難しいことではありません。出したいものを強く想像すればいいのです>

「想像?」

<はい。簡単に説明しますと、並行世界の情報を書き換えてマスターの想像を現実として反映させるのです>

「げげぇ!? そんなすげーことすんの!?」

 

 良いアイデアかと思ったら、とんでもないチート能力だった。しかも、魔力が必要という以外に大きなリスクや制約が無いというサービスっぷりである。そういった点においてはドラゴンボール以上だ。

 

「世界の情報を書き換える事など、本当に可能なのですか!?」

<はい、可能です。並行世界とは高次元にいる存在の夢のようなものであり、彼らが想像した数多の可能性を3次元世界に記録したものです。その現象は、人間が2次元媒体を使って物語を記すようなものなので、干渉して作り変えることが可能です。ただし、アクセスするには相応の魔力が必要であり、願いの規模によって大きく変わるため、状況によっては叶えられない事もあります>

「ほほう。要するに、魔力という対価を払う事で神様が管理してるサーバーに不正アクセスして、神様が書いた中二小説を改竄できるってことかニャ?」

<要約するとそうなります>

「世界の根幹に関わることが中二病扱いされたー!?」

「フッ。その若気の至りとも言うべき歪み、神ながらある種のシンパシーを感じる! 恋する乙女のような妄想力に、愛しさすら覚えてしまうよ!」

「こっちはこっちであっさり受け入れてるー!?」

 

 不意にトンデモ設定が飛び出てきたので常識的なリニスは驚いたが、非常識の塊であるシロンとグラハムにはどうということはなかった。そもそも、自分たち自身が神様の作った中二小説の登場人物なのだから抗っても意味は無い。ただ認めて、次の糧にすればいいのだ。フル・フロンタル氏もそう言ってるし。

 

「そうとなれば、早速いってみよう!」

<では、具体的に想像しながら願い事を言ってください>

「出でよシェンロン! そして赤いマフラーを与えたまえ!」

<シェンロンは出ませんが、赤いマフラーは出せます>

 

 シロンのお約束に対して冷静に答えると、セフィが七色に輝く。すると、本当に赤いマフラーが出現した。シロンの目の前に現れたそれは、想像した通りの一品であった。それも只のマフラーではなく、自在に大きさを変えられる上に、冬は暖かくて夏は涼しい効果が付いた魔法のマフラーだ。これなら夏に使っても不快になることはない。

 早速身に着けたシロンは、想像以上の心地よさに驚きと喜びを感じた。

 

「すっげー! ユニ○ロも真っ青のオールシーズン仕様だぜ!」 

「やるなアルハザード! その驚異的なメカニズムには、畏怖の念を抱かずにはいられないぞ!」

「確かにすごい能力だけど、やってることはすごくない!」

 

 リニスの言うとおり驚嘆すべき現象ではあったが、使い方はイマイチだった。その気持ちはシロンも同様だったらしく、更なる実験を提案してきた。

 

「じゃあ、次はもっとすんごいことをやってみようじゃーないか!」

「なにをするんですか?」

「ずばり言おう、必殺技であると!」

「はぁ、必殺技ですか……?」

「そうだよん。クロス要素を活かすなら今でしょうと我輩は思うのよね。とゆー訳で、アニメやゲームの必殺技を使ってみよう!」

「それって只やりたいだけでは?」

「皆まで言うな、先刻承知だ」

 

 あまりに子供っぽいのでリニスは呆れたが、思惑があるグラハムはシロンの行動を止めない。彼には、セフィの能力がどれほどの物か見極めるという合理的な考えがあった。そして、そんな彼の考えに気づいたリニスも大人しく見守ることにした。

 はたして、今度はどのような現象が起こるのだろうか。

 

「見せてもらおうか、アルハザードの秘術の性能とやらを!」

「では見せてやろう! 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

「なんと!? ベタ過ぎるにも程があるぞ!」

 

 確かにベタ過ぎるチョイスだった。

 まぁ、一応彼も王族なので、分不相応というわけではないかもしれない。だが、流石に金ピカ英雄王と肩を並べることはできなかった。

 ゲート・オブ・バビロンは問題なくフル稼働しているものの、そこから出て来たものは、かなりしょっぱいものばかりだった……。

 

「ほわい!? なんで我輩のコレクションが!?」

 

 シロンの背後に現れた金色の空間から波紋を伴って出現してきたものは、彼が買い集めたゲーム、ガンプラ、ライトノベル、そしてエロ本といった安っぽい品々だった。中には、試作中のモビルアールヴが入っているビルドカードといった貴重品も含まれていたが、金ピカの宝具とは比べるべくも無かった。

 

「こんなの撃っても嫌がらせにしかならねー!?」

 

 お粗末過ぎるお宝にシロンは嘆く。この宝具の能力は、自らの宝物庫の中にあるものを自由に取り出せるというもので、中身は自分が所有しているものしか出せないのだ。

 もし、金ピカの持っているものを取り出したい場合はそのように想像すればいいのだが、この時のシロンはそこまで気が回らなかった。とはいえ、そうしていた場合は魔力不足で発動しなかったはずだ。現に、ゲート・オブ・バビロンを出した時点でシロンの魔力はかなり消耗してしまっており、急激に力が抜けてヘロヘロになってしまう。

 

「あばばばば……」

「シロン王子!?」

<魔力の消費が大きすぎたようですね>

「フンッ、身の程をわきまえぬから痛い目を見る。高嶺の花を口説くには甲斐性が足らんのだよ! この未熟者が!」

 

 なんとも締まらない格好になったが、一応能力は発動したので色々と役に立つとは思われた。ただし、ここでも魔力不足の問題が浮き彫りとなってしまったが、現状ではどうしようもなかった。

 

 

 数分後、ぶっ倒れていたシロンが意識を取り戻したので、召喚した彼のコレクションを回収した後に次の行動へ移ることにした。セフィのことは何となく理解できたが、今度はこの世界について調査しなければならない。パッと見では元の世界とあまり違いが無さそうだが、シロンの願い通りなら未知の魔法技術がある可能性が高いため油断は出来ない。

 それと同時に今後の拠点となる場所も見つけなければいけない。食料などは異空間に保管している非常食があるので1ヶ月ほどは持つが、その間に落ち着ける環境を整える必要がある。

 そのような理由から、一行は早速調査をする事に決めた。

 シロンとグラハムは人間形態だと非常に目立つので、猫になって動くことにした。しかし、戦闘機人であるリニスは猫になれない上に服装が色っぽいボディスーツ姿なので、普通の服を用意しなければならない。そこで再びセフィの出番となったのだが……

 

「シロン王子、これはなんですか?」

「ん? なにって体操服(ブルマ)ですが?」

「私は体操などしませんよ?」

「そ、そうですね……理解しましたから、このアイアンクローをお止めになっていただけませんでしょーか?」

 

 シロンがお茶目をしたせいでひと悶着あったものの、その後はまともな服を出して事なきを得る。

 着替え終わったリニスは、中学生ぐらいの見た目に良く似合った可愛らしい格好となった。頭の猫耳は帽子で隠しているので、今はごく普通の美少女にしか見えない。

 当のリニスも満更ではないらしく、短いスカートを気にしながらクルリと回ってみる。

 

「ど、どうですか? グラハム……」

「ああ、実に美しいぞ、リニス。神話に謳われる女神のような姿に私の心は魅了されているよ」

「め、女神だなんて、そんな……フフッ」

「……」

 

 リニスを中心にピンク色の空間が広がったように見えたので、シロンは生暖かい視線を送る。しかし、彼女の喜んでいる様子があまりにも綺麗だったので、もっと喜ばしてあげようとも思った。

 

「あ~熱い熱い! そんなにお熱い2人と一緒にいたらすっげー居心地悪いから、我輩はしばらく単独行動するニャ」

「えっ、それではシロン王子の護衛が……」

「んなもん平気へっちゃらニャ。それより、グラハムと上手くやるんニャよ、リニス!」

「!! ……はい、ありがとうございます。これで、私の着替えを覗いたことは許してあげますね」

「こいつぁ一本取られたゼ!」

 

 こうして、シロンはグラハムたちと分かれて調査に出発することになった。今日は日が暮れるまで活動すると決めて、眼下に見える街を一通り巡ってみることにした。

 普段どおりに二足歩行でぶらぶらと歩き回るシロンは、周囲の視線を気にすることも無くのんびりと調査を進める。そんな自分に興味を持った3人の少女に追跡されることになろうとは思いもよらずに……。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 なのは、すずか、アリサの仲良し3人組は学校帰りのその足で塾へと向かっていた。3人とも同じ塾に通っており、楽しくおしゃべりをしながら慣れた道を歩いていく。それは、いつも通りの日常的な光景だ。しかし、今日はいつもと違うことが起こった。明らかに非常識な存在が、わき道からひょっこりと現れたのである。

 

「おっ、第一街人発見!」

「「「?」」」

 

 急に声が聞こえたので、なのはたちはそちらに顔を向けた。しかし、そこには誰もおらず、その代わりに二足歩行をしている白い子猫がいた。赤いマフラーを首に巻いたその子猫はとても可愛らしかったが、只の猫とは思えなかった。

 

「こんにちは、美しい少女たち! 16歳になったらまた会おう!」

「「「……」」」

 

 白い子猫……シロンは、挨拶と同時に別れを告げると、軽快な足取りで去っていく。パイオツが大好きな彼の守備範囲は16歳の女子高生からなので、小学生のなのはたちには興味を示さなかったのだ。はっきり言って只のマセガキである。しかし、初対面の彼女たちにとっては違った。

 衝撃的な出会いにショックを受けてしばらく硬直していたが、遠ざかっていくシロンの後ろ姿を見ているうちに我に返り、3人で顔を見合わせた。そして、仲良く同時に叫ぶ。

 

「「「猫が喋ってるー!!?」」」

 

 まさに未知との遭遇であり、彼女たちが驚くのも無理はない状況だ。

 もっとも、これはまだ始まりに過ぎない。この予期せぬ出会いが、彼女たちの運命をそこはかとなく変えることになるからだ。現に、猫が大好きなすずかの心を一瞬で射止めてしまっており、早速彼女の運命に変化が現れ始めていた。

 

「きゃ~! ネコさんとお喋りできるなんて、夢のようだよ~♪」

「って、それどころじゃないでしょ!? なんで猫が喋ってんのよ~!?」

「わ、私にも分かんないよ~!?(もしかして、ユーノ君のお友達かな?)」

 

 3人はシロンに興味を持ってしまい、塾に行く足を止めて揉め始めた。

 そんな騒動が自分のせいで起きてしまったことなど露知らず、当の本人は鼻歌を歌いながら歩みを進めて角を曲がっていく。

 

「あっ、ネコさんが行っちゃう! 追いかけてお友達にならなきゃ!」

「えっ!? ちょっと、すずかー!?」

「あーん、2人とも待ってよー!?」

 

 シロンに心奪われたすずかは感情の赴くままに追いかけていってしまい、アリサとなのはも釣られるようにその後を追う。この、いつもと違う行動が彼女たちにどのような影響を与えるのか。その答えはすぐそこに迫っていた……。




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