魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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前回、本編に入りますと記しましたが、予定を変更して今回までがプロローグとなります。


第6話 フル・フロンタル

「我輩の名はシロン・ガンニャールヴル! 将来の夢はハーレム100人作ることニャ! とゆーわけで、そこんトコよろしく!」

「んなもんよろしくできるか!」

 

 おバカな発言をするシロンに対して、すかさずつっこみを入れる忍。

 現在彼らは、月村邸の一室でまったりとくつろぎながら自己紹介をしていた。ルガールを撃退した後に気絶したシロンは、合流したグラハムたちと共にこの邸宅へと連れてこられたのだが、つい先ほどになってようやく目覚め、忍たちと初顔合わせとなったのである。

 因みに、ノエルたちに捕縛されたルガールは、月村家に縁のある夜の一族によってしかるべき処置を施されることとなった。具体的に言うと、一族の能力である記憶操作を使って、一連の出来事と夜の一族に関する記憶を封印してしまったのである。これでもう彼が襲い掛かってくることはないだろう。その後は普通の人間として生きていくことになるだろうが、もはや関係の無い話だ。

 何はともあれ、大きな被害を出すことも無く、無事に終えることが出来たのは間違いない。

 これも全てはシロンのおかげである。実際に助けられたすずかたちや忍を始めとする月村家の関係者はそう思い、恩人(?)である彼とその仲間を歓待することにした。

 ただし、彼らを招いた理由はそれだけではなく、その正体を探るという思惑もあった。いかに恩があるとはいえ、魔法などという正体不明の力を行使できる存在を放っておくことはできないからだ。

 しかし、冒頭の会話からも分かる通り、この子猫の相手は一筋縄ではいかない。まぁ、只の悪ガキだろうと言ってしまえばそれまでなのだが。

 

「はぁ、見た目は可愛いのに中身が残念ね……」

「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」

「はいはい、そーですね」

「そっこーで扱いが雑に!?」

 

 目覚めて早々にお茶目な発言をしてしまったせいで、シロンに対する忍の印象が【バカな子供】に決まってしまった。実際にその通りなのでどうしようもないことだが、彼にとっては悔しい結果となってしまった。

 

「ええい、せっかく良いパイオツをお持ちの美人な姉ちゃんに出会えたとゆーのに! これでは、【可愛い子猫ちゃんのフリをして愛想を振りまき、油断して抱き上げたところでさりげなく乳に触っちゃおう作戦】が出来んではないかっ!」

「って、本音が漏れすぎじゃない!?」

 

 出会って早々にいやらしい目で見られていたことに気づいた忍は、自分の欲望を隠そうともしないシロンに呆れた。どうやら、ハーレム100人の中に自分も入れる気があったらしい。このマセガキめ。

 それでも、面と向かって美人と言ってくれたり、まっすぐな好意を向けてくれる彼に好感を持った。なんだかやんちゃな弟ができたみたいで、思わず笑みを浮かべてしまう。

 そんな彼女の様子を隣で見ていた恭也は、なんとなく気分を害して不機嫌な表情になった。

猫相手に大人気ないとは思うものの、恋人が他の男に気を取られている姿を見せ付けられるのは嫌な物なのだ。しかも、このおかしな猫は忍の胸を狙っているのだから放ってはおけない。

 アレは俺の物だ、何人たりとも触れさせはせん!

 

「おいお前、あまり調子に乗るなよ」

「おやおや、恭也君。もしかして、我輩と忍ちゃんの仲に嫉妬しちゃってんのカナー? 横恋慕とはちっちゃい奴だニャー! プークスクス!」

「横恋慕じゃない! 俺たちは恋人同士だ!」

 

 シロンにバカにされた恭也は思わず怒鳴ってしまった。しかも、みんなの前で恥ずかしい宣言までしてしまい、逆に忍の不興を買ってしまう。

 

「ちょっと恭也、子供相手になにムキになってんのよ! こっちが恥ずかしくなるじゃない」

「うっ! しかしだな……」

 

 思いもよらぬところから反撃を受けた恭也は、情けない声で弁明を始めた。しかし、彼の敵は忍だけではなかった。

 恭也の行動に思うところがあったらしいグラハムやシロンに味方する女性陣たちから次々に抗議の声が上がってきたのだ。

 

「ほう、嫉妬の次は言い訳かね? その女々しさには、乙女座の私でも呆れてしまうな」

「そうだよお兄ちゃん。そんなの情けないよ」

「確かにシロンはエッチでおバカだけど、お子様だからしょうがないわね」

「うん、私は可愛いと思うな」

「恭也様、屋敷内での問題行動はご遠慮ください」

「その通りですよ! シロンちゃんをいじめたら私が許さないんですからね!」

「……俺には味方がいないのか」

「この場合、仕方がありませんね」

 

 ちょっと注意をしただけなのに、回りから総攻撃を食らうハメになってしまった。大の猫好きである女性ばかりが集まっているこの場で、見た目だけはやたらと可愛いシロンに八つ当たりしたのは無謀だったようだ。その上、犬派のアリサや中立のなのはまでシロンの味方なのだ、最初から勝ち目など無かったのである。

 結果、何も言い返せなくなった恭也は、ため息をつきながらソファに座り、不機嫌そうな態度でそっぽを向いてしまった。忍は、そんな子供っぽい恋人の姿を見て苦笑した。シロン相手にムキになる彼が可愛く感じられる。だが、猫に関しては、すずかたちに逆らうわけにはいかない。彼女たちの猫愛は伊達じゃないのだ。

 というわけで、少し可哀想だとは思うものの、彼の事はあっさりと見捨ててしばらく放置しておこくことにした。

 

「ところでさ、大体の事情はグラハムさんから聞いてるけど、あなたたちって人間に変身出来るらしいわね?」

「おうともさ! 我輩たちケット・シーは、猫であり人間でもあるからニャ」

「うん、その辺も聞いてるわ。異世界からやって来た猫妖精だなんて、とても素敵な話よね」

「ほほぅ、どうやら我輩に興味を持ってくれたようだね! ならば、寝物語としてじっくりねっとり聞かせてあげるニャ」

「ん~、それも魅力的な提案だけど、私としては今この場で変身して欲しいな」

「え~、今ですかぁ? 仕方がないのんなぁ~」

 

 シロンは面倒な様子を見せながらも忍の要望を受け入れた。まだ疲れが残っているので億劫だったが仕方ない。美人のお願いには極力応えるべし。それがイイ男ってもんだろ?

 

「行くぞグラハム!」

「心得た! 我が雄姿、とくと見るがいい!」

 

 みんなの前に颯爽と躍り出た2人は、ピカッと光るとあっという間に人間形態へ変わった。

 この時、人が知覚できない一瞬だけ全裸になるが、アニメの変身シーンのようにじっくり見物できるわけではないので、人前でも堂々と実行できる。そもそも、需要がないだろうし、あっても困る。

 人間形態に変身した2人は、当然ながらしっかりと服を着ていた。グラハムは青を基調とした軍服を着用し、シロンはごく普通のオシャレな服で、その上に白衣を身に着けていた。

 猫耳としっぽがあるという点を除けば人間と変わりないように見えるが、彼らの美しい容姿もまた目を引くものがあった。金髪と銀髪がとてもよく似合う2人の姿に、忍たちは見惚れてしまう。

 

「うわぁ~……聞いてた以上だわ……」

「はい……この可愛らしい猫耳としっぽは、まさしく至高の宝と言えるでしょう」

「ほんとに可愛いですねぇ~! 抱っこしてナデナデしたいですぅ~!」

「そこに食いつくの!?」

 

 ノエルとファリンは、メイドとして猫の世話をしているうちにすずかの猫好きがうつってしまっていたのだ。加えて、自分たちが人間ではないという理由もあって、同じような存在であるシロンたちに対してある種のシンパシーも感じていた。そのため、彼女たちがシロンのことを気に入ってしまうのは必然だった。

 もちろん、その気持ちは夜の一族である忍とすずかも同様だ。素性を隠しながら生きている彼女たちにとって、まったく正体を隠そうともしないシロンたちの生き方はとても羨ましく、好ましいものだった。同時に危険だとも感じたが、それだけ自分たちを信用してくれているのだと思うと嬉しい気持ちになる。

 当然ながら、もしもの場合に対処できる力があればこその【信用】だろうが、それはお互い様だ。いや、自分たちの秘密を暴露してまですずかたちを助けてくれたのだから、嘘で塗り固めてきた自分たちより遥かに真っ当だろう。

 

「(彼らにだったら私たちの秘密を打ち明けてもいいかもしれないわね……)」

 

 シロンたちの本質に近づいた忍は、ファリンやノエルにナデナデされている彼を見つめながら、近い未来を考えた。因みに、グラハムのところには頬を染めたリニスがいるため、他の者が行ける雰囲気ではなかった。まぁ、大人の彼をナデナデしようとは誰も思っていないが。

 

「あ~ん! 手触りも最高ですぅ~!」

「これは、クセになりそうですね」

「にょほほ~、我輩もヘヴン状態ニャ~!」

 

 綺麗なお姉さんたちに囲まれて天にも昇る気持ちになった。両腕に柔らかい胸を押し当てられながら頭を優しく撫でられるという、これ以上はないくらいに最高のシチュエーションを堪能する。

 このパイオツ、ディ・モールト良しっ!

 不意にやって来たモテ期に全力で浮かれていると、突然シロンから光が放たれて一瞬で子猫に戻ってしまった。メイドさんのナデナデ&パフパフ攻撃によって気が緩んでしまったのである。加えて、これまでの疲れもあるため、しばらくは変身できそうにない。

 

「あ~、私も撫でたかったのにぃ」

「残念なの……」

 

 ファリンたちの横で撫でる順番を待っていたすずかたちから不満の声が上がる。

 

「どうして元に戻っちゃうのよ?」

「今はガス欠中なんだ! 君たちの期待に応えられないことを、本当にすまないと思っている!」

「全然すまなそうに聞こえないんですけど!」

 

 やたらと偉そうに謝られたアリサは、すかさずつっこみを入れた。まだ出会って間もないものの、2人のコンビネーションはかなり良いようだ。

 とはいえ、まだまだお互いに知らないことばかりなので、アリサは疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「シロンたちは、ずっと人間のままでいられないの?」

「ん~、できないこともないけど、猫形態のほうが色々と楽チンなのニャ。基本全裸でいいからネ!」

「その通りだ! この開放感、実に溜まらん!」

「それって只の変態じゃん!?」

 

 思わぬ話を聞いてしまった少女たちは、そろって顔を赤らめた。もっとまともな理由があるのかと思っていたら、すこぶるしょーもない話だったので呆れるばかりだ。しかし、彼らは人間であると同時に猫でもあるので、裸のヌーディストであってもなんら問題はないのだ。

 それに、まともな理由もちゃんとある。

 

「大体、人間形態ってのは、仕事とか合コンとかデートとか、本気を出さなきゃいけない時だけ使う特別な力なのニャ」

「ふ~ん、そうなんだー……って、まともじゃない理由も混ざってるし!」

「すべては大人の事情ニャ……」

「なに悟ったようなこと言ってんのよ!」

 

 確かにバカな子供のおマセな発言ではあるが、まともな理由であることも間違いなかった。

 元々ケット・シーは人間のままでいることを嫌った者たちによって生み出された存在なので、つい最近まで人間形態になることを控える風潮があったのだ。そのため、ここぞという時以外は猫形態でいることが慣例となっていた。

 先の大戦後にその考えは改められ、現在では人間形態のまま活動する者たちも増えてきているが、これまでの習慣を通そうと考える者たちも当然いて、シロンもその1人だった。特に人間を嫌っているわけではなく、猫妖精としての誇りを持ち続けたかったからだ。

 ぶっちゃけ、この姿のほうが人間の女の子にモテるし、一石二鳥じゃね?

 

「とゆーわけで、我輩の言ったことをちゃんと理解したかね、チミたち!」

「「「はーい!」」」

「いや、全然理解できないし、したくもないんですけど!」

 

 常識派のアリサとしては全裸や合コンといった辺りに引っ掛かりを感じたらしいが、他の面子からは良い返事が返ってきたので、シロンは満足げにうなずいた。しかし、体のほうはそうでもないらしい。先ほどの変身でエネルギーを使ったせいで、目覚めてから感じていた空腹感が更に強くなり、ついにお腹が鳴ってしまった。

 そういえば、まだ夕食を食べていなかったっけ。

 

「ふふっ、お腹が空いたのね?」

「ニャハハ~、紳士たる我輩としたことが、お恥ずかしい限りですニャ」

「ごめんね、君との会話が楽しくてつい忘れてたわ。ちゃんと君の分も用意してあるから、一杯食べてね」

「ほんとニャ? もしかして、『残念、モンペチでした!』なんてオチじゃなかろーニャ?」

「そんな意地悪しないわよ。グラハムさんから話を聞いてるから、当然私たちと同じものよ」

 

 忍はお金持ちのお嬢様なので、おもてなしの心得はしっかりと身についていた。今回は猫妖精という一風変わった相手だったが、見た目だけで判断するようなへまはしない。

 

「なのはちゃんたちも一緒だから、今日の夕食は豪勢よ。ね、ノエル?」

「はい。今晩のメインディッシュはハンバーグです」

「すっごい豪華な食材を使った特別製ですよー」

「うわーい! ヤッター!」

 

 ノエルから献立を聞いたシロンは子供らしい仕草で喜んだ。ハンバーグは彼の大好物なので、尚更だ。

 しかし、それを美味しくいただく前に済ませておかなければならないことがある。

 

「じゃあ、食事の準備を始めてくれる?」

「はい、畏まりました」

「ちょーっと、待っておくんなまし!」

「ん? どうしたの?」

「実を言うと我輩、ご飯の前にお風呂派なのニャ。よって、お風呂を先に所望する!」

「君には遠慮ってものがないわね……まぁ、そっちの準備もできてるから別にいいわよ。ファリン、この子の世話をしてあげて」

「はい! 忍お嬢様!」

 

 シロンのお世話係に指名されたファリンは元気に返事を返した。普段も飼い猫の世話をしているのでまったく抵抗は無い。それどころか、不思議な魅力を持った彼に興味深々だ。

 もちろん、シロンにとっても異論は無い。むしろ望む所である。15歳くらいに見えるファリンは、彼にとってギリギリ守備範囲内なのだ。

 

「それじゃあシロンちゃん、私と一緒にお風呂に入りましょうね~」

「はーい! って、一緒に入るの!?」

「そうですよ~。ちょっぴり恥ずかしいけど、喋るネコさんとお風呂でスキンシップしたいという誘惑には勝てません!」

「お、おう。そですか……」

 

 シロンは子猫であると同時に10歳前後の少年なのだが、ファリンはあまり気にしていない様子だ。それほどまでに彼の事を気に入ってしまったようで、その気迫には流石のシロンもタジタジになってしまう。

 すると、これまで2人のやりとりを静かに見ていたすずかが、自分も負けていられないとばかりに名乗りを上げた。彼女もまた彼の事をいたく気に入っているからだ。

 

「シロンちゃん、私も一緒に入るよ!」

「えっ!?」

「ちょ、すずか! 本気で言ってるの!? コイツは私たちと同い年くらいの男の子なのよ?」

「うん……正直に言うと私も恥ずかしいけど、今日のお礼がしたいから、私自身でお世話してあげたいの」

 

 すずかは、人生最大の危機を救ってくれたシロンに対して、言葉では言い表せないほどに大きな感謝の気持ちを抱いていた。恐らく、ファリンもそうなのだろう。だったら、彼女と一緒にお礼をしたい。まぁ、本音を言えば、只単に喋るネコさんと一緒にお風呂に入りたいだけなのだが、それにしたって普段のすずかからは絶対に考えられないほど大胆な行動だった。

 だからこそ、一緒にいることが多いアリサが困惑してしまうのも無理はなかった。

 ただ、お礼をしたいという気持ちは彼女も同様だ。こう見えてもアリサは、すずかと肩を並べるほどのお嬢様であり、尚且つかなりの負けず嫌いなので、受けた恩はしっかり返さないと気がすまないのだ。

 それに、ちょっと気になる存在でもあるし……。

 

「……よし、決めた! すずかが入るのなら私も入る!」

「ええ~、アリサちゃんまで!?」

「私だって感謝はしてるんだから、このくらい平気よ。ということでシロン、こんな美少女とお風呂に入れるんだから、ありがたく思いなさいよね」

「ハッ! アリサのよーなペッタンコと浴場に入っても欲情なんてしないニャ!」

「あっ、上手い!」

「じゃないでしょ! 普通に悪口でしょ! っていうか、なのはの胸だって私と変わらないじゃない!」

「にゃはは~……」

 

 なのはは笑って誤魔化した。まだ心身ともにお子様なので、胸が小さいことを指摘されてもあまり気にならない。それより今は、自分もお風呂に入るかどうかのほうが問題だ。

 アリサの言う通りシロンは同世代の男の子なので、裸を見せるのは流石に恥ずかしい。でも、仲の良い友達も一緒に入るし、何より自分もお礼をしてあげたい。そう考えたら、シロンとお風呂に入ってもいいかなという気になってきた。

 そうだよ、お菓子屋さんの娘としては、きちんとおもてなししなきゃダメだよね。

 

「シロンちゃん、私も一緒に入っていい?」

「ほぅ、思いきりのいいお嬢ちゃんだな。手強い。しかし!」

「って、そういうのはもういいから、さっさと混ぜてやんなさいよ!」

「ふふっ、みんなで入ったほうが楽しくていいもんね」

 

 結局、仲良し3人組全員が参加することになった。

 一連のやりとりを静かに見守っていた忍は、肩をすくめるグラハムと顔を見合わせると、仕方がないわねといった表情で許可することにした。すずかたち自身で決めたことだし、もし問題があってもファリンがいるから大丈夫だろう。

 

「(まぁ、心配なんていらないと思うけどね)」

 

 彼女の、女としての勘が、彼らを信用してもいいと告げていた。状況を見れば無闇に敵対することはないと分かるし、何より他者の意識に敏感なすずかが気に入っているのだから十分だ。

 しかし、恋人の恭也は忍ほどおおらかではなかった。最愛の妹であるなのはの肌を得体の知れないクソガキに見せるなど、到底許せることではない。兄として、絶対に阻止しなくては。

 しかし……

 

「なのは! そんなけしからんマネは、この俺が許さんもがっ!!?」

「はいはい、もう少しだけ大人しくしててね~、恭也?」

「?」

 

 恭也の行動を見抜いていた忍に口を塞がれて、目的を果たすことは出来なくなった。後ろからしっかりと抱きつかれているので無理やり振りほどくことも出来ない。恭也は、背中に当たる柔らかい膨らみに喜びを感じながらも悔しさに震えるという複雑な心境でなのはたちを見送るしかなかった。

 

「けっ、人前でイチャつきやがって! 正直羨ましいジャマイカ!」

「ふふん、もしかして嫉妬してんの? 見た目通りにちっさいわね~」

「アリサのパイオツよりましニャ」

「まだ言うか!」

「衝撃のファーストブリット!?」 

 

 すずかに抱っこされたシロンは、余計な事を言ったせいでアリサのパンチを受けてしまった。忍のおかげでシスコン恭也の攻撃を受けずに済んだのに、結局痛い思いをしてしまうおバカな猫だった。

 

 

 子供たちが風呂場へ向かった後、食事の準備をするためにノエルも退室していった。残った面子は4人だけとなり、ついさっきまで賑やかだった部屋が急に静かになる。

 忍は、本気で悔しそうにしている恭也を宥めていたが、そんな彼女に向けてグラハムが声をかけてきた。

 

「取り込み中申し訳ないが、少し時間を貰えないかな、忍」

「えっ? はい、いいですよ」

 

 忍は、グラハムに対して敬語で答えた。シロンが目覚める前に彼が年上であることを聞いていたからだ。猫に向かって敬語を使うのはもちろん初めてなので、当初は変な気持ちになったものだが、人間形態になっている今ならしっくりと来る。

 それにしても、子供たちがいなくなったこの状況で話を持ちかけてくるとは、一体どんな用件なのだろうか。恭也と共に身構えながら耳を傾ける。

 

「では、あえて言わせてもらおう。君は只の人間ではないな?」

「!?……なぜそう思うのですか?」

「あのルガールとか言う男、あれは普通の人間ではなかった。ならば、そんな男と関係のあるこの家の者が普通であるとは考えにくい。得られた情報から推測すると、同族である可能性が考えられる」

「……」

 

 グラハムの言葉が忍の心に衝撃を与える。全てではないとはいえ、自分の正体をあっさりと見抜かれてしまったからだ。

 しかも、彼の言葉はまだ続きがあった。

 

「それに、ノエルとファリンは明らかに人間ではないようだな。こちらの見解だとサイボーグの類ではないかと出ているのだが、どうかね?」

「……その根拠は?」

「フッ、そう身構えることはないさ。答えは簡単、こちらにも同じ存在がいるからだ」

「同じ存在?」

「そうだ。このリニスは、戦闘機人という名のサイボーグなのだよ」

「はい。私のセンサーで彼女たちの正体を見抜きました」

 

 そう言うと、リニスは自分の目を指差した。良く見ると、機械が組み込まれている様子が見て取れる。

 

「本当にサイボーグなのね……でも、いいんですか? 自分たちの秘密をこんな簡単にばらしちゃって」

「君たちの信用を得るために必要だろうと判断したまでだ。私たちは、しばらくこの世界で生きていかねばならないのでね。君たちのような力のある味方が欲しい、というわけだ」

「なるほど、そういうことですか。だけど、これだけで味方にできると考えるのは軽率ではありませんか?」

「無論、承知している。だから、取引を持ちかけることにしたのさ」

「取引……なにをですか?」

「こちらの持ち札は、異世界の科学技術だ。それを開示して得られた収入を宿代とすることで、私たちをこの邸宅に住まわせてほしい」

「異世界の科学技術……」

「そうだ。共に手を取り、甘い関係を築いていこうではないか! 同棲する恋人同士のように!」

 

 グラハムは、思い切った提案をしてきた。この世界に戸籍のない彼らが収入を得るのは非常に困難なので、月村家に手伝ってもらおうと考えたのだ。確かに、シロンたちが所有している高度技術で特許でも取れば十分以上に稼げる。

 更に運の良いことに、話を持ちかけた忍は機械いじりが大好きなので、予想以上に食いついてきた。目を輝かせながら乗ってきた忍に、グラハムも気を良くする。

 

「いいですねそれ! こちらからお願いしたいくらいです!」

「ほぅ、私の口説きを受けてくれるか。君はガンニャムより見る目があるようだ。ならば、このグラハム・ニャーカー、全身全霊をもってその想いに応えて見せよう!」

「わ、私だって、いつでもお受けしますよ?」

「君はなにを張り合っているんだ?」

 

 グラハムの紛らわしい言葉に反応してしまったリニスが恭也の緊張感を台無しにしてしまったが、それはそれで結果オーライだった。胡散臭いのにどうにも憎めない連中だと思わせたからだ。もちろん、魔法という未知の力を持っているので完全に気を許すことは出来ないが、敵対意識の無い者にわざわざ突っかかるようなマネはしない。

 こうなったら、しばらくは様子見だな。忍のほうは完全に浮かれてしまって隙だらけだし、自分がしっかりしないと。

 

「うふふ~、楽しみだなぁ~♪」

「はぁ……」

「ちょっと恭也。こんなめでたい時に、なに溜め息なんかついてんのよ。ね、グラハムさん?」

「ああ。出会ったその日に結ばれるとは、実に相性が良い。どうやら、私と君は運命の赤い糸で結ばれていたようだ」

「はい、そうですね!」

「って、どさくさに紛れてなに言ってんだ忍!?」

「あはは~、つい勢いに乗っちゃった……」

「むむむ~、忍さん、侮りがたし!」

 

 もう心配するのもバカらしくなってきた。

 

「ところで、グラハムさんって軍人とか言ってましたけど、技術者のスキルも持っているんですか? それとも、リニスちゃんの特技なのかな?」

「いや、私たちの中で一番科学技術に秀でているのはシロン王子だ」

「えっ!? シロンちゃんが!?」

「そうだ。シロン王子は、ケット・シーの始祖であるイオリア・シュヘンベルグを始めとする優秀な遺伝子を用いて生み出された究極の生命体……らしいからな」

「えっ!?」

 

 グラハムは、シロンにまつわる過去の出来事を話し始めた。その内容は、忍たちの想像以上にヘビーなものだった。

 

 

 今より十数年前、ケット・シーは人類同士の最終戦争を止めるべく準備を始めた。

 必ず勝利しなければならない戦いを挑むにあたって、彼らが真っ先に用意したもの。それが、【絶対的な力を持った英雄】であった。数百年もの間、戦争というものを経験したことがなかった彼らは、猫妖精の歴史の中で初めて【戦う力】を欲したのだ。そのため、過剰とも言うべき労力が注ぎ込まれ、狂気すら感じさせる結果を生み出してしまった。

 未来の英雄として誕生したシロンは、製作者たちが希望した通りの力を発揮してくれた。イオリアの遺産であるCNドライヴを用いて、人類に対抗しうる決戦兵器を作り上げたのだ。シロンは、人間を研究した際に彼らが作ったアニメに出てくる【ガンダム】という人型兵器に着目し、それをモチーフとしたモビルアールヴ・ガンニャムを開発した。そして、自らもそれを駆り、戦争を終結させることに成功したのだ。

 その偉業はまさしく魔法と呼ぶべきものであり、彼の苗字の元となった言葉であるガンダールヴル――【魔法の心得のある妖精】という意味――をそのまま体現していた。

 当然ながら、ケット・シーの民たちはシロンの功績を称えた。更には、それに見合った地位まで用意した。彼の肩書きとなっている【王子】とは、この時につけられた有名無実の称号だった。彼を作り利用してきた者たちは、彼を祭り上げる事で罪の意識から逃れようとしたのだ。もしくは、強大な力に恐れをなしたとも言えるが、いずれにしろ、酷い話であることは間違いなかった。シロンにしてみれば、【これでは道化だよ】といったところだろう。

 それでもシロンは、全てを受け入れた。シャアっぽくていいんじゃね?と言いながら。

 そう、自分はフル・フロンタル……【裸の王様】なのだ。彼等がそう望むなら、我輩はシャア・アズナブルにでも、クワトロ・バジーナにでもなってやる。

 でも、ロリコンだけは勘弁な!

 

 

 話を聞き終えた忍たちは、あまりにも意外な事実に衝撃を受けていた。

 

「シロンちゃんにそんな過去があったなんて……」

「それじゃあアイツは、デザイナーチャイルドってヤツなのか?」

「センスの無い科学者共はイノベイドと呼んでいるがね。私にとっては只の愛すべき悪ガキさ」

「ええ、愛すべき、ですね」

 

 グラハムがシロンのことを王子と呼んでいるのは、軍人として決まりを守っているだけであって、内心では普通の子供として接してやりたいと思っていた。彼の口調が砕けているのはそのためであり、実際は優しさに満ちていたのである。

 忍たちにわざわざ話したのも、彼らの差別意識を見定めるためだった。同時に、真実を語ることで同情を誘うことも計算に入れていた。彼は優しい心を持っているが、必要ならばどこまでも非情になれる真の軍人でもあった。

 穏やかな猫妖精の性質に抗ってでもシロンを守り抜く。それが、シロンに対する彼なりの贖罪だった。

 この気持ちが歪みだというのなら、あえて受け止めて見せよう。己の意志で。しかし、なにも案ずる事はない。こんな私とて世界の一部に違いないのだ。ならばそれは、世界の声だ!

 現に、忍という味方ができた。

 彼女もまた歪んだ存在だからという事情もあるが、歪みの全てが淘汰すべき悪というわけではない。彼らの歪みは大切なものを守るためにあるのだから、完全に否定できるものではないだろう。生きてみんながここにいる。その事実こそが証であり、世界の意思であるとも言える。

 だからこそ、今共にいるグラハムたちは仲間だ。最愛の家族を守ってくれた最高の仲間だ。

 そして、自分たちにとても重要な秘密を話すことで誠意を見せてくれた。ならば、こちらも相応の覚悟を持って応えなければいけない。

 

「ふぅ……そんな話を聞いちゃったら、こっちの秘密も話さないといけませんね」

「無理に話さなくてもいいんだぞ? 魅力的な女性は隠し事が多いものだからな」

「お気遣いありがとうございます。でも、あなたたちには是非聞いてもらいたいんです」

「いいのか、忍?」

「ええ。グラハムさんは、女性が困ることなんて絶対にしないわ。そうですよね?」

「無論だ。このグラハム・ニャーカー、乙女の笑顔を奪うことは決してしない。心を奪うことはあるがね」

「はい、私も奪われました!」

「ふふっ、仲が良いわね」

 

 その後、忍は自分たちの秘密について語った。夜の一族と自動人形のことを。そして、恭也の要望を受けて魔法についての話も進められた。これで、セフィのこと以外はほとんど話したことになる。あれの能力が知れ渡ってしまったら忍たちにも危険が及ぶ可能性が高いので、あえて知らせる必要はないと判断したからだ。

 何はともあれ、これで当座の拠点を手に入れる事が出来た。魔力の目処がつくまでは、この屋敷を中心に活動していくことになるだろう。

 

 

 一方、入浴中のシロンは、湯船に浸かっているファリンの胸をよじ登っていた。小さな肉球が肌に触れるたびにファリンは色っぽい声を上げる。

 

「よし、頂上までもう少しニャ!」

「あんっ、くすぐったいですよ~」

「あ~! なにやってんのよ、このエロネコ!」

「そんなの登山に決まってるじゃニャいか! なぜ登るのかだって? そこに山があるからさ!」

「山って胸のことなのね……」

「シロンちゃんはやんちゃさんだね」

「っていうか、女の敵よ」

 

 アリサは見たままの感想を述べた。

 確かに彼女の意見は正しい。ただ、シロンのオッパイ好きには理由があった。人工的に生み出されて肉親のいない彼は、無意識のうちに母親を求めているのだ。シャアがララァを求めたように、孤独な運命を背負わされたシロンも、自分を優しく包んでくれる存在を欲していたのである。

 彼は、裸の王様だから……。

 

「うおー! 我輩は今、パイオツに包まれている! こんなに嬉しい事はない!」

「もう、甘えん坊さんなんだから~」

「ちょ、それはやりすぎでしょ!」

「ふん、負け惜しみを! アリサも構って欲しかったら、もっとパイオツを育てるがいいニャ!」

「あんたって猫はぁー!」

「撃滅のセカンドブリット!?」

 

 またしても余計な事を言ってアリサの制裁を受けてしまう。裸の王様は、心まで全裸だった。




次回は間違いなく無印本編に突入します。
プロローグが異様に長かったよう!

ご意見、ご感想、お待ちしております。
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