魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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本編
第7話 天パの猫に出会ったら、とりあえず糖分を与えとけ


 並行世界に跳ばされてしまったシロン一行は、様々な幸運に恵まれて0円生活初日から立派な拠点を得ることが出来た。その見返りとして自分たちの世界の科学技術を開示することになっているが、大きな影響を与えないように気をつけていれば特に問題は無いはずだ。それに、本格的な打ち合わせをするのはもう少し先となる。今日は平日なので、大学生の忍は単位取得のためにキャンパスライフを満喫しなければならないのである。

 玄関前に揃ったシロンたちは、元気良く登校していくすずかを見送った後に忍も送り出す。

 

「それじゃ、いってきまーす」

「いってらららぁっしゃぁ~い、ニニンがシノブゥ。あ~、恭也君と乳繰り合う場合はぁ、人目を忍んで行うようにぃ気をつけるんだよぉ? 忍だけにねぇ」

「余計なお世話よ! そして、私の事は忍さんと呼びなさい?」

「アイマムッ!」

 

 朝っぱらからおふざけに走ってしまったシロンは、瞳を赤く染めた忍に体を鷲づかみされて脅された。今の彼女は秘密を打ち明けた反動でやたらと解放的になっているのだが、シロンにとってはありがた迷惑だった。

 ちょっぴり若本氏のモノマネをやっただけなのに……。男の童心を理解できないとは、つくづく女子大生というものは御し難いな!

 

「(後が怖いから直に言えないけどなっ!)」

 

 一方、そんなことを思われている忍も、シロンに対して思うところがあった。

 

「頭は良いけど素行がいただけないのよねぇ、君は。やっぱり、すずかたちと一緒に小学校に通わせたほうがいいかな?」

「その必要はナッシングニャ。性教育なら既に完璧ニャ!」

「そこは求めてないんですけど! まぁ、今は時間も無いし、この話は後にしましょう」

「はーい、お勉強がんばってね~。でも、恭也との性教育は程々にネ!」

「しないわよっ!」

 

 シロンの茶化しを受けた忍は、顔を真っ赤に染めながら出かけていった。彼らもお年頃なので当然そういう事はやっているけど、こうもあからさまに指摘されると流石に恥ずかしい。

 シロンは、逃げるように遠ざかっていく忍の後姿を勝ち誇った様子で見送りながら額の汗を拭う。実は、先ほどの赤い目にかなりびびっていたのだ。さらに、美人のお姉さんという要素が想像以上のプレッシャーを与えていた。それはもう、戦場でニュータイプに狙われたようなものである。

 だが、自分は生き抜くことが出来た。初陣にして死の8分を乗り越えたのだ。

 

「ふぅ、まったくヘビーな戦いだったぜ!」

「最初は、蛇に睨まれた蛙でしたからね」

「おっ、上手いこと言うね、ノエル様!」

「お褒めに預かり光栄です。それと、私のことはノエルとお呼びください」

 

 一緒に月村姉妹をお見送りしていたノエルと親しげに会話する。

 シロンが彼女に様付けしているのは、その驚異的なバストサイズに敬意を表しているからだ。忍の胸もご立派だが、ノエルはさらに上を行っており、100に届きそうなほどなのだ。

 まさに圧倒的じゃないか! その神々しさに、思わず両手を合わせて拝んでしまう。

 

「ありがたや~、ありがたや~」

「?」

「でも、我輩は乙女のお願いに弱いので、これからはノエルと呼ぶことにするニャ」

「はい、ありがとうございます、シロン様」

 

 ノエルは感謝の言葉を述べると、シロンを胸元に抱きかかえた。とても柔らかくて良い匂いがする。シロンは、優しさに満ちた彼女の温もりに思いっきり酔いしれてしまう。

 心地良いな……人の心の光とは、こういう事を言うのかもしれない。

 待てよ? ということは、まさか!?

 

「これは、サイコフレームの共振!? 我輩の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか? なのに、いやらしさは感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは!」

「シロン様、私の素体にそのような部品は使われておりません」

 

 彼女の言う通りそんな物は搭載されていないし、もしあったとしても高濃度のミノフスキー粒子がなければあの不思議現象は起こらない。まぁ、この物語にはまったく関係の無い話だが。

 

「お姉さま~、私もシロンちゃんを抱っこしたいです」

「ダメですよ。私たちは仕事中なのですから」

「えー! お姉さまだけずるいですー!」

「これはメイド長の特権です」

「ブーブー、横暴だー! 職権乱用はんたーい!」

 

 2人の様子を羨ましそうに見ていたファリンから抗議の声が上がる。しかし、ノエルの言うようにメイドとしての責務を全うしなければならない。この広い屋敷を掃除するだけでも相当な時間がかかるのだ、一分一秒だって無駄には出来ない。

 

「では、私どもは業務に戻りますので、昼食の時間までご自由にお寛ぎください」

「はーい!」

「分かりました」

「その気遣いに感謝する。及ばずながら、君たちの健闘を祈らせてもらうよ」

「ありがとうございます、グラハム様」

 

 ノエルはシロンたちに一礼すると、駄々をこねるファリンを引きずって屋敷の中に戻っていった。

 

「あーん、シロンちゃーん!」

「ファ、ファリン! 下っ端メイドには仕事をサボる権限はない、気の毒だが……。しかしファリン、無駄働きではないぞ。君が月村家の管理をこなしてくれるおかげで快適に暮らすことができるのだ!」

 

 シロンは無駄に力のこもったセリフを吐くと、扉の向こうに消えていくファリンに向けて敬礼した。ありがとうファリン、君の笑顔は決して忘れない。

 

「で、これからなにして遊ぼっか?」

「切り替え早っ!」

「いや、それでいい。フニャッグファイターは速度が命だ。湯を入れたばかりのカップ麺を3分待たずに食べ始めるほどでなければトップファイターにはなれんよ!」

「いやいや、そこはちゃんと待ちましょうよ!」

 

 良くも悪くも時間を大切にしている2人は、リニスのつっこみを受けるほどに機敏な動きを見せた。異世界から来たばかりの彼らには、この世界の情報を出来るだけ早く収集する必要があるのだ。

 テレビや新聞を見たり忍たちから得た知識などで大体は理解できているが、それだけで納得するわけにはいかない。何故なら、この世界には魔法少女がいるはずだからだ。

 忍の話によるとこの世界に魔法技術は無く、魔法少女も空想の産物でしかないらしい。しかし、セフィの能力は確かなので、魔法少女は必ずどこかに存在しているはずだ。それと同時に、彼女が戦うべき相手もいると思われる。そいつらが自分たちの脅威となりうる可能性がある以上、放っておくわけにはいかない。

 そもそも、この世界は魔力濃度が尋常ではなかった。ケット・シーは自分の体で魔力を作り出しているため自力で魔法を使っているのだが、これほど空間中に魔力があれば、機械等の間接的なシステムでも魔法が使える。この事実だけでも調査する価値は十分にあった。

 以上のように色々とやらなければならないことがあるのだが、何にしても、魔法少女を発見しておく必要はあるだろう。

 

「とゆーわけで、憧れの魔法少女を求めてクエストしようぜ!」

「冗談ではない!」

「なんでさっ!?」

 

 珍しくまともな意見を言ったのに速攻で否定されたシロンは、士郎のように疑問をぶつける。確かに理不尽な気もするが、グラハムにはちゃんとした考えもあった。

 

「君はセフィに魔力を貢がなければならないのだからな。他の女性に気を取られている場合ではないのだよ」

「誤解を招く言い方するニャ! ってか、惚れた相手全員に告ってるお前がそれを言うかね?」

「確かに私は惚れっぽいが幼児性愛者ではない。ゆえに、魔法少女を口説いたりはしないさ」

「いや、そんな心配はしてへんけどさぁ。それなら我輩もロリコンじゃないから、一緒に行ったっていいんじゃない?」

「3人の美少女を魅了しておいてよく言う。しかも、そのせいで余計な魔力を消費したのだ。格好つけるにも程があるぞ!」

「否! 断じて否! あの状況で格好つけない選択が出来ただろうか! いや、出来まい!」

「もう、2人ともなにやってるんですか……」

 

 当初の目的を他所にアホなやり取りを始めた2人を見て、リニスは呆れた声を出した。

 グラハムの言いたいことは、昨日のように魔力を消費するほどの危険が無いか確かめるまで動くなということなのだが、言い方が微妙すぎた。

 

「(シロンの身を案じてると素直に言えばいいのに。不器用な(ひと)ですね……)」

 

 リニスは、グラハムの意図を理解しているので苦笑してしまう。年の離れた弟を大事に思うと同時に、組織に所属する者としての意識が彼を同等に扱えと主張している。その結果、中途半端な対応になってしまっているのである。

 男の人って素直になれないものなのね。だったら、女の私が手助けしてあげよう。

 

「私からも意見があるのですが、いいですか?」

「なんニャ?」

「昨日のようなアクシデントもありましたので、安全確認ができるまでは私たちに任せていただけませんか?」

「うん分かった!」

「すっごい即答!? さっきまで揉めてたのに!」

「いやね、よく考えたら今朝の占いで我輩の運勢がすこぶる悪かったのニャ」

「結局そんな理由なのー!? 私の気遣いまるで意味なし!」

 

 かなりマヌケな事情によってリニスの気苦労は徒労に終わった。

 でも仕方があるまい。愛とは、見返りを求めるものではないのだから……。母性の強いリニスは、愛でもってシロンのやんちゃを受け入れた。

 家族のいない私にとっては、こういうやり取りも嬉しいんですけどね。たぶん、小さい弟がいたらこんな感じなのかな。小さい妹なら【あの子】がいたけど……。

 

「(あれ? あの子って誰でしょうか?)」

 

 一瞬、脳裏に見知らぬ少女の姿が思い浮かんだが、すぐに消えてしまった。

 今の少女は一体誰だったのだろうか。ダメだ、記憶が曖昧すぎて姿を思い出せない。それ以前に、この記憶は本当に自分の物なのか。彼女の事を妹のように思っていたようだけど……。

 

「……」

「どうしたリニス、浮かない顔をして」

「あっ、いえ、なんでもありません。それでは行きましょうか、グラハム」

「ああ、いいとも。君は私のプリマドンナ! エスコートをさせてもらおう!」

「……はい、よろしくお願いします!」

 

 紳士的なグラハムは、すばやく人間形態に変身すると、ダンスを申し込むように手を差し伸べてきた。急に様子がおかしくなったリニスを案じて、男の包容力を発揮したのだ。

 相手のリニスは、スッと差し出された彼の手をぼうっとした目で見つめるが、それも一瞬。すぐにとびっきりの笑顔を浮かべて自分の手を重ねた。

 なんだかよく分からないけど、私の今日の恋愛運はとても良いみたいだ。

 仲良く手を繋いだ2人は、バッチリ決まった服装と相まって、これからデートをしようとしている恋人同士のように見えた。外見は中学生と大人の青年という組み合わせでちょっと年の差が離れている感じではあるものの、リニスは胸がでかくて見た目以上に大人びているので十分に釣り合いは取れている。まさに、お似合いのカップルと言えよう。

 だが、そのせいで余計にシロンの悪ガキ魂を刺激してしまった。

 

「よっ! ご両人! もうお前ら子作りしちゃいなYO!」

「キャー! 嬉しいけど、ステップ飛びすぎですよーっ!」

 

 バキィッ!!!

 

「ハンブラビッ!?」

 

 茶化されたリニスは、照れ隠しにシロンを思いっきりぶっ飛ばした。

 小さな猫が大きな放物線を描きながら清々しいまでに青く澄み切った空を飛んでいく。体が高速で回転しているため思いのほか飛距離が伸びて、遥か遠くの森へと落ちていった。かろうじて月村家の敷地内だが、回収するのは大変そうだ。

 

「あ……やってしまいました」

「なに、当たらなければどうということはない」

「いや、あの、思いっきり当たってるんですけど……」

「だからこそ、せっかくできた時間を有効に活用すべきだろう。それが尊い犠牲に報いることになる」

「はぁ……それでいいのでしょうか?」

「無論、こうなることは運命だったのだ! ゆえに遠慮することはない。恋愛運がいい乙女座の運勢にのっとり、私たちのデートを存分に楽しもう!」

「デデデ、デート!?……はい、行きましょう」

 

 デートという言葉に嬉しくなったリニスは、少しだけ迷った後に、シロンのことを脇に置いておくことにした。ごめんなさいシロン。でも、このチャンスを逃すわけにはいかないのっ! 恋する乙女として!

 とゆーことで、結局2人は、そのまま何事も無かったかのように出かけていった。遠く離れた森の中で目を回しているシロンがその事実に気づくのは、もうしばらく後のことだった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 数時間後、体をピクピクさせながら気絶していたシロンがようやく目を覚ました。起き上がるまでにかなり時間がかかっているが、彼の周りに出来ているクレーターから考えるとこれでも早いほうだろう。というか、無傷で済んでることのほうが重要だった。リニスがシロンに合わせて無意識のうちに手加減していたとはいえ、頑丈この上ない猫である。

 

「あー死ぬかと思った!」

<我がマスターながら、呆れた生命力ですね>

「いやいや、マジでやばかったんだからね! 死ぬほど痛いぞってレベルだったんだからね!」

 

 ウィングガンダムの自爆に巻き込まれたヒイロのような体験をしたシロンは改めて戦慄した。まさか、生身でオペレーション・メテオをやるハメになるとは! 主人公という地位に甘えていた結果がこれか……。

 

「ええい、傲慢が綻びを生むというのか!」

<無様ですね>

 

 とりあえずかっこつけてみたものの、原因があまりにマヌケなのでまったく締まらなかった。そもそも、言うほど気にしてはいない。To LOVEる系の主人公に属しているシロンにとっては、あのくらいの物理攻撃など日常茶飯事なのだ。そのため、切り替えも異様に早かった。

 

「まぁ、いっか! お腹も空いてきたし、オラ昼飯食いてぇぞ!」

<本当におめでたい性格ですね。でも、昼食時間に近いことは確かなので、屋敷に戻ってもいい頃合でしょう>

 

 シロンが気絶している間にお天道様も大分高くなっていた。今頃は、普段の仕事を中断したノエルたちが、シロンたちのために昼食の準備をしてくれているはずだ。大変ありがたいけど、余計な手間をかけさせてしまって申し訳ない状況である。

 当然ながらリニスも同じ事を思い、忍が帰ってきたらメイドとして働かせてほしいと頼み込もうと決めていた。多分、明日にはメイド姿の彼女を見ることになるだろう。

 もちろんシロンにもやることはあって、忍たちに開示する技術の選別や資料の製作をやらなければならないし、グラハムは彼の手伝い兼護衛の務めがある。

 べ、別に、気ままな飼い猫ライフを満喫しようだなんて思ってなかったんだからねっ!

 

「それじゃあ行きますかニャ 助さん格さん」

<はいマスター。ところで、そのお二方はどなたですか?>

 

 軽い冗談を交えつつ屋敷に向かって歩き出す。

 辺りを見回すと、新緑に萌える木々が春の日差しを受けて綺麗な景観を作り出している。森林浴の効果もあるらしく、心なしか気持ちが良い。

 

「自然はいいね。地球の環境破壊を嘆いてたマスターアジアの悲しみがよ~く分かるニャ」

 

 柄にもなく自然を楽しみながら平和な時間を享受する。だがしかし、こういう時に新たな問題が発生するのはお約束である。

 ふと前方に目を向けると、どこかで見たような白猫がいた。当然ながら月村家で飼っている猫ではない。というか、あのお方はまさか……!

 

「貴方様はもしや、サザエさん家のタマさんじゃあーりませんかぁ!?」

「ニャ~ン?」

 

 異様に大きい鈴が付いた赤いリボンと、頑なに守り続ける古臭いキャラデザイン。間違いない、本物のタマさんだ!

 

「あ、あざーっす! タマさん! このような場所でお会いできるとは、光栄の至りでありますっ!」

「ニャニャァ!?」

 

 思いもよらぬ出会いにテンションが上がったシロンは、必要以上に力んでしまった。その結果、臆病なタマはビックリして一目散に逃げ出した。お魚銜えたドラ猫以上のスピードで……。

 しまった、タマは一応普通の猫だった。禄に接触する間もなく逃げられたため、まるではぐれメタルを逃したようなやるせない気分に包まれる。

 しかし、なぜここに彼がいたのだろうか? どう考えても世界観が違いすぎるが……。

 

「あっ! もしかして、あの時の願いかニャ!?」

<そのようですね>

 

 昨日、アルハザードでセフィが実行した願いは2つあった。その一つは【本物の魔法少女がいる並行世界に行く】だったが、もう一つは【並行世界を超えて面白い猫と出会える】というものだ。

 

「それじゃあ、さっきのタマは、サザエさん世界からやって来たという事ニャのか!?」

<そういうことだと思います>

「マジですか!? でも、なんでアニメの存在が現実に来れるのニャ?」

<それは、こういう理屈です……>

 

 並行世界を作り出している高次元存在は、自分たちが作り出した世界を互いに観測して無限に可能性を広げ続けている。その過程で、影響を受けた観測情報が各世界に反映されてしまう場合があるのだ。シロンの世界でサザエさんの世界がアニメになっていたのもそれが理由である。

 

「要するに、好きな作品をパクッて自分の作品に登場させてるってことニャ?」

<身も蓋もない言い方をすればそうなります>

 

 これまたすごい事実が飛び出してきた。

 普通だったら到底信じられない話だが、実際に証拠が存在しているのだから受け入れるしかない。今も目の前で、あの超有名な猫型ロボットが歩いてるし。

 

「あれぇ? さっきまでのび太君の部屋でドラ焼き食べてたのに、なんで外にいるんだろう?」

「ギャース!? ヤ、ヤバイ、あいつに道具を使われたら魔法とかまったく無意味になってしまふ!」

 

 あいつにだけは関わってはいけない。

 この世界の有り様を根底から覆してしまいそうな存在に恐れおののいたシロンは、なにも見なかったことにしてその場を離れた。そうだ、これでいい。あいつの道具は、おバカなのび太だからこそ使いこなせるのだから。

 

「ふぃ~! とんだ白昼夢を見ちまったぜ!」

<それは現実逃避ですよ、マスター>

 

 青いあんちくしょうの姿が見えなくなった所でようやく安堵することができたシロンは、、再びのんびりと歩き出した。こうなってくると他にも変な奴らがいるかもしれないが、あんな大物を見てしまったらもう驚くこともないだろう。

 少しだけ気を緩めながら屋敷へ向かっていると、今度は2匹の猫が口論している場面に出くわした。

 

「よ~く聞けぃ! 私こそが正真正銘のニャンコ先生だ!」

「いやいや、我輩こそがニャンコ先生ぞな、もしかして!」

 

 夏目の「自称」用心棒である妖と、いなかっぺの師匠であるトラ猫が名前を巡って言い争っているようだ。しかし、シロンはあの2匹のことを知らなかった。

 

「あいつらも並行世界から来たみたいだけど、アニメやマンガで見た記憶は無いニャ。どういうことニャ?」

<それは、高次元存在の好みの問題でしょう。どうやら、全ての並行世界を観測しているわけではないようですので>

「なるほど。我輩も鬱展開な作品は苦手だから、とても共感できるニャ~。ってか、改めて考えるとオタク以外の何者でもない!?」

 

 確かに、やっていることは只のオタクと言えなくもないが……あまり深く知りたくないので、とりあえず聞かなかったことにしておこう。

 

「ま、まぁそれはともかく、こんなに重要キャラがいなくなったら、元の世界が大変なことにならニャいか?」

<その点は心配いりません。彼らはすぐに元の世界へ戻ります。そもそも、本猫(ほんにん)ではありませんから>

「え~、なんでそんなことが分かんの?」

<私がそのように調整したからです。マスターの願いは【並行世界を超えて面白い猫と出会える】という曖昧かつ大規模なものだったので、各世界の影響が最小になるように最適化しました>

「ほほう、最適化とな?」

 

 シロンの願いをそのまま叶えようとした場合、無制限に猫たちを集めてしまい世界のバランスを歪めてしまう可能性があったのだが、それを防ぐためにセフィの防御プログラムが働き、願いを最適化したのだ。

 まずは、猫たちを直接連れてくることで生じるリスクの軽減だ。虚数空間に記録された因果情報を元にこちらの世界で分身体を作り、各世界にいる猫たちの魂とリンクさせることで擬似的に再現するようにした。そうすることでリスクを最小限に止めることができる。

 次は、滞在時間の限定だ。願いの内容から考えると長期間持続させる必要はないので、1日程度に設定した。この時間は、シロンと本猫(ほんにん)たちの意思によって多少の増減が可能である。

 以上の調整によってこの願いは実現していた。因みに、どのような猫が来るかはそのまま願いを反映してランダム設定にしてある。

 

「つまりはナルトの影分身みたいなもんかー。すっげーなお前! グッジョブだぜ!」

<えっへん、です>

 

 シロンに褒められたセフィはいい気分になった。確かに、とんでもない現象であることは間違いなく、セフィの出鱈目さを改めて実感できる内容だ。

 とはいえ、こうも頻繁に出現されては困るので、どうにかならないかダメ元で聞いてみた。すると、あっさり答えが返ってきた。

 

<簡単な願いの変更なら現在の魔力でも可能です>

「へぇ~、購入した後もサービスが行き届いてる優良メーカーみたいだニャ!」

<しかし、完全にコントロールするには相当の魔力が必要ですし、解除も同様です>

「ん~、それはまだいいニャ。パルプンテみたいで面白そうだし」

 

 基本的に楽天家なシロンは、楽しさを優先して解除をすることは考えていなかった。ただし、出現頻度の減少という新たなルールを後で追加することにした。そうすれば、新たな出会いをゆったりと楽しむことができるだろう。でも、これまで出会ったのは変なオス猫ばかりなので、そろそろイケてるメス猫に出会いたい。

 

「なんて思ってたら、早速可愛い女の子が!」

 

 口論を続けているニャンコ先生たちを放って歩みを進めていたシロンの眼前に新たな人物が現れた。銀髪のショートカットが幼い体によく似合った小柄な美少女だ。

 一見すると普通の人間だが、特殊な存在(猫耳少女好き)であるシロンには彼女の頭に猫耳が見えた。間違いない、彼女は自分の好きな獣っ娘だ。

 

「ただ一つ残念なのは、パイオツがひじょーに慎ましいことだニャ~」

「聞こえていますよ?」

「ウニャラ!?」

 

 少女の胸について思考していたシロンは、不覚にも不意を突かれてしまった。

 目の前には、ご立腹な様子の美少女が仁王立ちしている。どうやら、貧乳であることを気にしているらしい。

 

「しまった! 紳士たる我輩としたことが、とんだ失態であーる!」

「なにやらイッセー先輩と同じ匂いがしますが、あなたは妖怪ですか?」

「ノンノン、我輩は妖怪ではなく妖精なのニャ。ところで、そんな我輩になにかようかい?」

「別に」

「あーん冷たい! でも、ときめいちゃう! だってクールなんだモン!」

「イッセー先輩以上の変態でした……」

 

 確かに、傍から見れば只の怪しい猫なので、少女が引いてしまうのも無理はない。だが、それでもめげないのがシロンクオリティーである。

 

「やぁ! ボクの名前はシロン! とってもキュートな猫妖精さ!」

「今更取り繕っても手遅れですよ?」

「そんなことは元より承知だ! それより、君の名前を教えてプリーズ?」

「……塔城 小猫」

「ほぅ。小猫とは、君にピッタリのプリチーネイムだ。特に胸のあたりがね!」

「えい」

 

 ズムッ!

 

「ガブスレイッ!」

 

 よせば良いのに余計な事を言ってしまったシロンは、小猫の制裁を食らってしまう。

 悪魔の力を身につけた彼女は、非常に強力な怪力を持っており、パンチ一発でシロンを地面にめり込ませた。

 

「ははっ、最近のお嬢さんはとってもパワフルだね! 昨夜は、一緒に寝ていたすずかに思いっきり抱きつかれて、体の中身が出ちゃいそうになったし!」

「そういうあなたは頑丈すぎです」

 

 それなりに力を込めて殴ったのにまったく効いていない様子なので小猫は驚いた。

 この子、もしかすると私よりタフかもしれない。そして、イッセー先輩並に変態みたい。ということは……。

 

「マゾ?」

「なぜにそう思ったか小一時間ほど問いただしたい! オシャレなカフェバーで仲良くお茶しながら!」

「言ってることが支離滅裂ですね」

 

 怒りながらデートのお誘いをするという離れ業をやってのけたシロンに小猫は呆れた。だが、それと同時に親近感も湧いた。やっぱりこの子はイッセー先輩に似ている。だったら、この不可思議な状況について相談してみてもいいかもしれない。

 

「分かりました、一緒にお茶をしましょう。その代わり私の相談に乗っていただけますか?」

「もちろんいいとも! 相談に乗るどころかトールギスだって乗りこなしてみせるぜ!」

「そんなことは頼んでいません。というか、トールギスってなんですか?」

 

 そんなわけで、小猫と一緒に屋敷へ向かうことになり、その道すがら彼女の相談を聞く。なんでも、部活に出る途中で突然この土地に瞬間移動してきたらしい。状況が分からない上に携帯もまったく使えないので、一人途方にくれていたのだという。

 ふむふむ、なるほど、我輩のせいだ!

 真実に気づいたシロンは冷や汗をかいた。言えない……いろんな意味で言えやしないよ。

 

「ま、まぁ、並行世界に来ちゃったつっても、一日経てば自動的に帰れるって我輩の友達が言ってたから! 一時的な物だって言ってたから!」

「はぁ……それならいいですけど」

 

 小猫は、あからさまに態度がおかしくなったシロンに不審な目を向ける。だが、悪意はまったく感じなかったので、とりあえずは信用することにした。なんと言うか、小さいイッセーのようで可愛く思えてきたのだ。

 彼との間に子供ができたらこんな感じなのかな……。

 

「それはちょっとだけ困りますね」

「ンニャ?」

 

 思わず想い人と結ばれる未来を想像してウットリしてしまう小猫。そんな彼女としばらく歩いていると、またしても変な猫と遭遇した。

 白い帽子を被り、首元に青いリボンを付けた白猫だが、猫と言っていいのか迷うようなデザインだった。それくらいに全身もちもちなのだ。

 

「ぷいにゅ~」

「アレは猫なのかニャ?」

「たぶんそうだと思いますけど……」

 

 どうにも猫っぽく見えなくて途惑ってしまう。ただ、とても悲しそうな表情をしている点が少しだけ気になった。

 やっぱりコイツも突然召喚されて困っているのだろう。だったら、声をかけてやるか。

 

「ヘイ、ガーイ! 俺の名前はシロンってんだ! 趣味はパイオツ鑑賞! 特技は見ただけで女性のスリーサイズを測れることだぜ!」

「ぷいにゃ!?」

「それじゃあ只の変態です」

 

 小猫の言う通りであった。アホなセリフのせいでせっかくの優しさが台無しである。

 

「HAHAHA! こいつぁ耳が痛い! ところでアンタの名前は?」

「ぷい、ぷいにゅ」

「ほほう、アリア社長って言うのかい。立派な肩書きじゃニャ~か。キャバクラ行ったらモテモテですな!」

「ぷいにゅ~」

「なんと、そんなとこでモテても意味が無いとな?」

「ぷいぷいにゅ!」

「なるほど、片思いの猫がいるけど、まったく相手にされなくて悩んでいると……って、恋バナで悲しんでたのかよ!? 異世界に来てまで恋に悩むたぁおめでたい奴だぜ、コンチクショー!」

「ぷいにゃー!?」

 

 話を聞いてみたら異世界に来たことなどまったく気にしていなかった。社長の肩書きは伊達ではないと言うべきか、只単にのん気な野郎と言うべきか。

 しかし、恋バナを聞いてしまった以上は放っておくことなどできない。困ったときはお互い様、それが人情ってもんだろ? まぁ、自分たちは猫ですけど。

 

「アリア社長、君は運がいい。恋愛マスターである我輩たちに出会えたのだからニャ!」

「勝手に私を入れないで下さい。でも、アドバイス程度ならできます」

「というコトだニャ! さぁ、君の悩みを赤裸々にぶちまけるがいい!」

「ぷいにゅ~? ぷいぷい! ぷぷぷいにゅ~!」

「ふむふむ。ヒメ社長にバラの花をプレゼントしたら受け取ってもらえなかった? あ~、あるあるそーいうの。実は我輩も同じような経験があってね、同僚のスメニャギさんに金で作ったバラの花束を贈ったら、『あなたのプレゼントって、いろんな意味で重いのよね』って言われて突っ返されたことがあるニャ」

「それは当然でしょう」

「ぷいにゅ」

 

 どうやら、シロンの恋愛経験は当てにならなそうだ。マセてはいても所詮はお子様だし、仕方あるまい。小猫とアリア社長は、彼の背伸びを年長者の余裕で受け止めた。

 しかし、そんなシロンに反発する大人気ない第三者が現れた。

 

「はっ、股に毛も生えてねぇガキが盛りつきやがって、お前らみてーなチビが恋愛語るなんざ10年早えーんだよ」

 

 急に下品な言葉をかけられたみんなは、一斉に声の出所を見た。するとそこには、二足歩行でこちらに近づいてくる一匹の白猫がいた。どう見ても普通の猫ではなく、異世界の存在だと思われる。というか、シロンには見覚えのある猫だった。

 

「その特徴的な天然パーマに死んだ魚のような目は……どう見ても坂田銀時ー!?」

 

 なんと、猫キャラの異端児までが現れてしまった。しかも、そこはかとなくキャラが被っているので、シロンにとっては最強最悪の存在でもある。

 案の定、マイペースな銀時はいつも通りに暴れ始めた。

 

「おいコラてめぇ、こんなにイケてる銀さんを天パだけで識別すんじゃねーよ。メガネが本体の新八と同類に見られちまうじゃねーか」

「ぷいにゅ、ぷいぷ~い!」

「なにぃ? そんなに見事な全身天パは見たことが無いって? おいおい、なに言ってくれちゃってんの? 確かに俺は天パですけど? ムダ毛はちゃんとお手入れしてるし、下の毛が縮れてんのは人類共通だぜ?」

「いえ、今のあなたは人類じゃありませんよ?」

「ははっ! ナニをおっしゃる小猫さん。そりゃまぁ、俺の息子は進撃の巨人って呼ばれるほどご立派ですけど、人類じゃねーってのは流石に言い過ぎ……って、猫になってるぅー!? 猫と会話できてる時点でおかしいなーとは思ってたけど、なんでまた猫になってんのぉー!? 今更過ぎだろこれ! かぶき町野良猫篇ってすっげー前に終わってるんですけど! 懐かしすぎて覚えてない人のほうが多いんですけど!」

 

 自分の股間を見て猫になっていることに気づいた銀時は急に騒ぎ出した。実は、シロンの願いを再現するために、猫になったことがあるという過去の因果情報を虚数空間から読み込んだ結果なのだが、そんな小難しい話など知る由も無かった。

 

「コンチクショー! 毎週欠かさずジャンプを読みながら真面目に生きてるこの俺がなんでこんな目に……。いや待てよ? 俺が猫になってるつーことは、もしかしてアイツも?」

 

 頭を抱えて悪態をついていた銀時はふと思い出した。以前猫になってしまった時に、彼と同じ境遇に陥っていたあの男を。

 自分がこんな目にあっているのだからアイツもいて当然だ。いや、必然だろう。というか、もしいなかったら後で額に肉と書いてやる! もちろん油性ペンでな!

 

「おーいヅラー! いるなら返事してくれー! 銀さん、今すっごいテンパってるから! 天パじゃなくてテンパってるからー!」

 

 銀時は、アホなセリフを思いっきりシャウトして腐れ縁の桂小太郎を呼んだ。テンパっている割には八つ当たりすることまで考えていたりするのだが、そんな悪意に気づいたのか、茂みの奥からお馴染みのフレーズが聞こえてきた。

 

「ヅラじゃない、桂だ!」

「やっぱりいたよ! 呼んどいてなんだけど、どんだけ付き合いがいいんだよ! ってか、よく考えたら怖すぎるほどの遭遇率なんですけど! もしかしてアレか!? お前は俺のスタンドなのか!? ずっと背後に控えてるのかー!?」

「ふっ、何も不思議なことではない。おはようからおやすみまで暮らしを見つめることも攘夷志士の役目だからな!」

「それ攘夷志士の役目じゃねーから! 普通に犯罪行為だから!」

 

 相変わらずのふざけたキャラで早速気疲れしてきた。しかし、この状況ではこんなアホでもありがたい存在なので、銀時は軽い足取りで声のした場所に向かう。そんな彼に釣られたシロンたちもぞろぞろとついて行き、茂みの奥でヅラと呼ばれた猫を見つけた。

 みんなの視線の先には、首元に青いバンダナを巻いた黒猫がいた。精悍な顔つきの美しい猫だが、どことなくおバカな雰囲気を醸し出している。

 

「この黒猫がヅラですか? 普通の毛並みですが……」

「違いますよお嬢さん。ヅラではなく、カツゥラです」

「かっこつけて英語風にアレンジしてんじゃねーよ。いたいけな少女に色目使いやがって、国家権力に通報すんぞコノヤロー!」

 

 元の世界では小猫のような可愛い女子に話しかけられる機会などほぼ無いので、柄にもなく舞い上がってしまったようだ。

 それにしても、先ほどから桂の様子が変だった。言葉は軽快に返ってくるが、同じポーズのまま動こうとしないのだ。

 

「お前、さっきからなにしてんの? なんか四つんばいになってプルプルしちゃってますけど」

「詳しくは言えん。だが、今すぐこの場から離れることを推奨する……いや、早く離れろ!」

「はぁ? 急になに言ってんのお前? もしかして爆弾が爆発しそうだーとかベタな展開じゃねーだろうな?」

「銀さん、ある意味それは当たってるかもしれないニャ」

「え、マジで? 一体どーいうことだよ?」

 

 いつになくシリアスなシロンの様子を見て、銀時たちにも緊張が走る。そう、今の桂はある意味最強の爆弾を抱えていたのだ。

 

「ほら、あのポーズを見てなにかを思いつかないかニャ?」

「あん? なにかって……まさか! もしかしてアレなの!? でっかいほう催しちゃってんの!? 茶色いミサイル発射寸前なのー!?」

「うむ……このマグマのような熱き奔流は、もはや誰にも止められん!」

「野グソをかっこよく言ってんじゃねーよ! しかもお前のミサイル液状化してんじゃねーか! おい止めろ! こんな所でするな! カレーを食いながら見てくださってる方もいるかもしんねーんだぞ!?」

「ふっ、よく見ておくのだな。現実というのは、ドラマのように都合のいいものではない!!」

「ギャ~~~~~~~~~~~~~~~!!?」

 

 

 しばらくお待ちください。ただ今、汚物に土をかけております……。

 

 

「誠に失礼した」

「失礼すぎるわ!!」

「初登場で野グソをぶちかますとは、すごいヤツだニャ……」

「はっはっは、真選組の連中から逃げてる途中で急に催してしまってな。仕方なく近くの茂みで用を足そうとしたのだが、いやはや、お恥ずかしい所をお見せしてしまった」

「人前でウンコするヤツに羞恥心なんかねーだろ! ってか、お前すっげーな! 相変わらず怖いもの知らずだな! もうイメージ気にするってレベルじゃねーよ! 素敵で無敵なウンコマンだよ!」

「よしてくれ銀時。そこまで言われたら流石に照れてしまうぞ!」

「褒めてねーよ、クソヤロー!」

 

 もう無茶苦茶である。

 世界観がまるで違う小猫とアリア社長など、あまりの惨劇に唖然としている。あーもう、どうしてこうなった!

 

「変な物見せちゃってごめんニャ。後でチョコパフェ奢るから許して欲しいニャ」

「は、はい……」

「ぷいにゅ……」

「俺、大盛りで頼むわ」

「右に同じく」

「って、さりげなく混ざってんじゃねーよ! 諸悪の根源どもがぁ!」

 

 銀時たちのずうずうしい態度にシロンはキレた。流石に目の前であんなものを見せられたら怒るのも無理はない。普段は温厚な彼だが、今はスーパーサイヤ人に変身出来そうなくらい怒髪天を衝いていた。

 すると、そんな主の気配を読み取ったのか、魔法少女探索をしていたグラハムたちが現れた。

 

「ほぅ、なにやら臭うので来てみたら、どうやらクセ者が侵入していたようだな!」

「ふん、クセ者ではない、クソ者だ!」

「上手いこと言ってるつもりだったら、ケツの穴にダイナマイトぶち込むぞゴルァ!」

「ええい、訳の分からないことを! その上、私有地において無断で脱糞行為に至るとは、まったくもって言語道断! このグラハム・ニャーカーが即刻成敗してくれる!」

「ちょっ、おまっ!?」

「暴力だけではなにも解決しないぞー!?」

「問答無用! ハムパンチ!!」

 

 バキィッ!!×2

 

「「ぶべらっ!?」」

「まだだ! 君らが泣くまで終わらんよ! ハムパンチ! ハムキック! ハムチョップ、チョップ、チョォーップ!!」

「それは流石にやりすぎなのではー!?」

 

 理不尽な光景を見かねたリニスがすかさずつっこみを入れる。第三者の視点からだと、金髪外人が全力全開で猫を虐待しているようにしか見えないからだ。

 

「ぷいぷいにゃー!?」

「あれでは可哀想、ですか?」

「ぷいにゅ!」

「優しいですね。でも、当然の報いなので気にする必要はありません」

「何気に辛辣ですね、小猫さん」

「こう見えても悪魔ですから」

 

 眼前で繰り広げられる惨劇を他所にのんびりと会話するシロンたち。そんな彼らが見守る中、堪忍袋の緒が切れたらしいグラハムは、銀時たちをフルボッコにしてしまった。嵐のような猛攻に流石の2人も耐え切れなかったようで、白目をむいて気絶した。かなりやりすぎな気もするが、これでようやく静かになるだろう。

 だが、話はそれで終わらなかった。気絶した途端、2人の体に変化が起こったのだ。なんと、光の粒子となって消えてしまったのである。

 

「(セフィ、これはどういうことだニャ?)」

<(リスク回避のために、危険な状態に陥った場合には分身体を解除するようにしてあります。因みに、記憶や経験は魂のリンクを介してオリジナルに反映されるので、再会した際の齟齬は発生しません)>

「(まさに影分身! 便利なものだニャ)」

 

 どうやら、銀時たちは無事らしいので一安心する。まぁ、あいつらはギャグ世界の住人だから、放っておいても大丈夫だろうけど……まったく、やれやれだぜ!

 事実を知って落ち着いたシロンは、その辺りの事情をかいつまんで説明し、みんなの疑問を解消してあげた。

 

「気絶すれば元の世界に戻れるのですか」

「その通りだけど、一日経てば帰れるから、あえて痛い思いをしなくてもいいニャ。いくら若くてもSMプレイはほどほどにしなきゃダメだぞ☆」

「やはりあなたは変態ですね」

「ぷいにゅ!」

 

 余計な一言で小猫たちの不評を買ってしまった。それでも、彼女たちが帰るまでは全力でおもてなししよう。並行世界を超えた友情を育むチャンスなのだ、絶対に逃しはしないぜ!

 そんなわけで、合流したグラハムたちと共に屋敷で昼食をいただくことにした。

 

 

 仲良く談笑しながら屋敷へ向かう途中、シロンは気になっていたことを聞いてみた。グラハムたちのデート……ではなく、魔法少女の探索結果だ。

 

「ところで、そっちの収穫はあったのかニャ?」

「ええ、魔法少女は見つかりませんでしたが、代わりにこんなものを見つけました」

「ンニャ? 代わりとな?」

 

 リニスに話しかけると、ポケットに入れていた何かを差し出してきた。

 彼女の手にあったものは、ひし形の青い石だった。一見すると只の綺麗な石だが、シロンにとっては嫌な思い出のあるものだった。

 

「これは、ブルーディスティニーじゃニャーか!?」

 

 リニスの持っていた石を見てシロンは驚愕した。この世界に跳ばされるきっかけを作った物体にソックリだったからだ。しかし、その認識は若干間違っていた。

 この石は【ジュエルシード】と呼ばれるロストロギアで、ブルーディスティニーの姉妹品であった。ジュエルシードに使われた魔法術式をさらに発展させて願いを叶える精度を向上させたものがブルーディスティニーなので形が似ているのだ。

 

「我輩の心が戦慄のブルー! まさか、この世界にまでこんなものがあろうとは!」

「もしかすると、ここはアルハザードと関係があるのかもしれませんね……」

 

 シロンとリニスは、話を進めているうちに不穏な空気を感じた。別の未来ではサッカー少年が手に入れることになっていたジュエルシードを見つめながら……。




今回より無印編に入りましたが、驚くほどに進んでない!
アリサたちも活躍させたいので、早いトコ進めたいものです。
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