魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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今回は微妙な大阪弁が出てきます。
恐らく、間違っている部分が多々あると思いますが、許してくんさい。



第8話 魔法少女リリカルなのは、やっと始まります!

 小猫とアリア社長に出会った次の日、月村家に一泊した彼女たちは滞在期間の終了を迎え、シロンたちの見送りを受けながら無事に帰っていった。その後、彼らはシロンにあてがわれた部屋へ戻り、昨日見つけたジュエルシードについて話し合うことにした。昨夜はお客がいたので会議の時間が取れなかったのである。また、この件についてセフィからも知らせたいことがあるらしいので、みんなは事態の進展を期待していた。

 現在ジュエルシードは、同じような物を扱ったことがあるリニスの助言により魔法反応抑制物質【ナノスキン】で封印してあるが、この石にどのような力があるというのだろうか。

 

「こいつからすげぇ気を感じる! オラ、ワクワクしてきたぞ!」

「確かに、膨大なエネルギーが内包されていると思われます。もちろん、気ではないですけど」

 

 ブルーディスティニーのデータを持っているリニスには、これが何なのかおおよそ理解できていた。ただし、前知識が無ければ只の綺麗な石にしか見えなかっただろう。発動前のジュエルシードは探索魔法で捉えにくいほどに魔力反応が微量だからだ。因みに、シロンの言っていることは只のおふざけで、魔法に長けた彼でもジュエルシードに込められた魔力を感知することはかなり難しい。

 以上のことからも分かる通り、この石はどう考えても魔法技術による産物である。だが、そんな特殊なものが、なぜ魔法技術の無いこの世界の道端に落ちていたのか疑問を感じるところだ。それに、どのような用途で使用するものなのかも分からない。まさに、謎に包まれたオーパーツだった。

 

「で、結局コレはなんなのさ?」

<簡単に言うと、願望を具現化する力を得るために生み出された次元干渉型エネルギー結晶体です>

「ほぅ、やけに具体的な情報だな。君はこれを知っていたのか?」

<はい。詳細なデータはありませんが、これだけは言えます。この結晶体はアルハザードの科学者が作りだした、私のプロトタイプと呼ぶべきものです>

「なんと! こいつはセフィの試作品だったのか!」

 

 地球とは別の次元世界において【願いが叶う宝石】と伝承されているジュエルシードは、研究機関としてのアルハザードがまともに機能していた頃に作り出されたものだった。

 その当時、究極の魔導を実現するために同じような物がいくつも製造された。だが、結局どれも上手くいかず、資料として保管しているうちにそのいくつかが外部へと流出していった。ジュエルシードはその一つであり、過去に発生した次元災害をきっかけに行方知れずとなっていた。願いを叶える力があるという記録だけを残したまま……。

 因みに、セフィは出自に関する知識ぐらいしか持っていない。自分の役目を学習させられた際に基礎的な情報を得ているが、それ以上のことは省略されていた。そのため、ジュエルシードに重大な欠陥があることも知らなかった。

 

「こいつは只の石で、セフィみたいに意思は無いんだニャ?」

<これは私とは違う仕組みで作動するものなので、人工知能は付与されていません。恐らく、その点に不具合があったがゆえに私が生み出されたのでしょう>

「なるほど、よく分かった! お前がダジャレキラーだということがな!」

「あ~、石と意思をかけてたのですね」

「冷静に説明しないでっ! 惨めになるからっ!」

 

 マヌケなやり取りを挟みつつも大体の事情は分かった。

 後はこれをどう扱うかだが、セフィの話だと試作品らしいので、そのまま使うのは危険な気がする。ならば……。

 

「魔力として吸収する?」

<はい。これは純粋な魔力を特殊な技術で物質化したものなので、願いの力を使って術式を解除すれば莫大な魔力として活用できます>

「ということは、元の世界に帰れる時間が早まるのですね!」

「なんという僥倖! これでこそ、王子を無視してデートした甲斐があったというもの!」

「って、お前らデートしてたのかよ!?」

「ああ、そうだとも。この幸運、リニスとの逢瀬を選択した結果だ! あの星座占いがあったから、こうして私は幸せを味わうことができる! 乙女座でよかった!」

「朝の星座占いを実践するって、お前はほんとに乙女だなっ!」

 

 自分も占いを信じて外出を止めたのに、それを無視してグラハムを非難する。とはいえ、彼のおかげで光明が見えたこともまた事実だ。

 調子のいいシロンは、先ほどまでの憤りをさっさと忘れて話を進めることにした。

 

「それじゃあ、早速こいつを浄解しよう! クーラティオー・セネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ!」

<了解しました>

 

 シロンの許可を得たセフィは、願いを発動させてジュエルシードを元の魔力へと戻した。そして、光り輝く魔力の塊となったそれが空間に飛散する前に一瞬で吸収する。

 

<ふぅ、ごちそうさまでした>

「魔力ってお前のご飯だったの!?」

 

 最後にどーでもいい事実が発覚してちょっぴり驚いたが、魔力の取り込み自体は無事に成功したようだ。

 

「今のでどれくらいの魔力が溜まったんですか?」

<目標数値の8%程度です>

「マジで!? 8年分もイクなんて、相当溜まってたのね!」

 

 たったの1個で8年も稼げるとは思ってもいなかった。元の世界に帰る願いを実行するまでに100年かかる想定だったものが、一気に時間短縮できそうな状況になってきた。もし、これと同じものがあと12個もあればあっという間にノルマを達成できる。

 

「よーし、魔法少女を探すついでに、さっきの石も集めようぜ!」

「えっ、あれをですか?」

「おうとも! 我輩はE缶をすべて取らなければ気がすまない男ニャ! このチャンス、決して逃しはしない!」

「えっと、E缶はともかく、あれが複数あるとは限りませんよ?」

 

 勢い任せの提案に対して、リニスは冷静な意見を述べる。確かに、あの石は道端で拾ったものだが、ゲームに出てくるアイテムのようにたくさん落ちているとは思えない。だが、可能性があることもまた事実なため、グラハムはすんなりと話に乗ってきた。

 

「いや、その提案に賛成だと言わせてもらおう。一石二鳥という言葉もある通り、やってみる価値はある」

「はい、そうですね!」

「一瞬で乗り換えかい? 早い、早いよ!」

 

 想い人の言葉を受けてあっさり意見を変えたリニスにすかさずツッコミを入れるシロンだったが、結果オーライではあるので文句は言えない。

 何はともあれ、こうして偶然の拾い物から新たなイベントが発生することになった。

 実を言うと偶然などではなく、魔法少女に会いたいというシロンの願いが反映された結果なのだが、本人たちはその事実に気づくことなく次の行動に移っていくのであった。

 

 

 午後1時までに会議を終えた一行は2日目の探索に出かけた。今朝から月村家のメイドを始めたリニスはノエルに許可を得て来ており、メイド服のままでグラハムの隣を歩いている。猫形態のシロンは、そんな彼女に抱かれながら同行していた。例の石を見つけるための戦力として参加することになったのである。この広い土地からあれを見つけるために、文字通り猫の手も借りたい状況となったわけだ。

 自分たちがこの土地に跳ばされてきたことには必ず意味がある。現に、謎の魔法アイテムを手に入れたのだから間違いない。そのような理由から、当面の目標は、唯一の手がかりであるあの石の確保となった。

 あれほど異質なものが魔法少女と無関係であるはずがない。状況的には何らかのイベントアイテムではないかと想像できるので、あの石が複数存在する可能性も十分に考えられる。だったら、あれを集めていれば向こうから姿を現すはずだ。

 

「でも、そうだとしたらまずいですね。勝手に使ってしまいましたし……」

「とんだミステイク!」

「ふっ、なにも気に病むことはない。ただ認めれば、過ちも成功の母となる! ならば、あえて甘えるのもまた一興!」

<強引ないい訳ですね>

 

 後になって重大なミスに気づいたが時すでに遅し。とりあえず1個無くなったことは、自分たちだけの秘密にしておくことにした……。

 

 

 探索を開始して1時間ほど経ち、現在彼らは海鳴市の中丘町という地区に来ていた。この辺りは閑静な住宅街となっており、一見すると不審な様子はない。しかし、少し前にこの地域で魔力反応を感知した。しかも、ジュエルシードの反応ではなく、誰かが魔法を使ったような感じだった。もしかすると、魔法少女が近くにいるのかもしれない。

 

「この辺りに住んでいるのでしょうか?」

「そうかもしんないけど、変身したままうろついちゃいないよニャ」

「ええい、またしても待人来らずか……。我慢弱い私をここまで焦らせるとは。小癪だな、魔法少女!」

 

 そうは言っても、魔法技術が無いこの世界で安易に変身姿を晒すわけがないので、見た目だけで判断するのは無理だ。直接体を調べれば体内の魔力量で魔法少女を特定できるが、調査対象が多すぎる上に変質者扱いされかねないので実際に実行することはできない。やはり、今は地道に石探しをするしかなさそうだった。

 だが、彼らの認識は若干間違っていた。追っている側だと思っていたシロンたちの行動が逆に監視されていたのである。ただし、その監視者は魔法少女とはほとんど関係ない第三勢力だったが。

 

「(ちっ、イレギュラー共め! 勝手気ままに動きやがって!)」

 

 監視者は、シロンたちを睨みつけながら悪態をついた。【彼女】は、仮面を被った男の姿に変身し、更にミラージュハイドという迷彩魔法で姿を消すほどの入念さで身を隠していた。しかも、少し離れた場所では、同じような容姿の女性が同じような姿に変身しながら待機している。もちろん2人は仲間であり、念話で現状報告を交わしていた。

 

「(よりによって、こっちに来なくてもいいだろうに!)」

「(もしかしたら、私たちの次元転送が探知されたのかもしれないわね)」

「(はぁ、ついてないわね……)」

 

 こっちもこっちで上手くいっていないらしい。

 彼女たちの本来の目的は、この地区に住んでいる【特殊な状況下にある少女】を監視することだったが、シロンたちがその障害になりかねないと警戒しているのである。

 あれだけ派手な魔法を見せ付けられては放っておくことなどできないので、早速調査を始めた。とはいえ、まだ1日しか経っていないため、Sランクレベルの砲撃魔法が使えることと次元漂流者らしいということぐらいしか分かっていない。それでも、自分たちにとって危険な存在であることは間違いないので、何とかして排除する必要があった。只でさえ変な魔法現象が発生していてどう対処すべきか頭を悩ませている最中だというのに、こいつらにまで暴れられたら【例の計画】に支障をきたす可能性がある。少なくとも、来るべき日までは大人しくしていてもらわねばならない。

 しかし、昨日の今日ではいい方法など思いつかない……。普段は冷静な彼女たちも、非常事態が重なったせいでいつになく焦っていた。

 その隙が、リニスの接近を許してしまうことになる。

 

「こんなところに隠れて、恥ずかしがり屋なんですか?」

「!!?」

 

 角を曲がる際にできる一瞬の死角を突いて背後に回り込んだリニスに、監視者……仮面の戦士は驚愕した。

 一体どうやって近づいた? それ以前に、なんでこちらを探知できたんだ?

 仮面の戦士は疑問を浮かべたが、タネは以下の通りだ。

 戦闘機人であるリニスには元の世界に準じた高性能レーダーが備わっており、一定の距離を保ちながらついてくる熱源反応を感知していたのである。ミラージュハイドのステルス能力も完璧ではないため捉えることは可能だったのだ。その上でリニスは、隠密魔法【ミラージュコロイド】を使い、姿を隠して近づいた。つまり、仮面の戦士と同じことをした訳だ。

 しまった、せっかくのアドバンテージを奪われてしまった!

 所在がばれた仮面の戦士はミラージュハイドを解くと、その場から素早く飛びのいて臨戦態勢に入った。

 

「(こいつ、見た目に似合わずヤバイぞ!?)」

「そんなに警戒しないで下さい。とりあえず、敵対する意思はありませんから」

「……背後を取ったお前が言っても説得力はない」

「そうですか? こっそり後をつけてる人に正面から挨拶する人の方が変だと思いますけど」

 

 確かに正論ではあるが、この場合、自分たちの存在がばれたという事実だけが問題だった。後ろ暗い事情がある仮面の戦士にとっては敵対する以外に選択肢が無かったからだ。

 こうなったら、全員捕まえてこの世界から連れ出すしかない。

 瞬時に戦うことを決めた仮面の戦士は、封時結界という魔法を使った。これは異空間を作り出すことで通常空間に被害が及ばないようにするための魔法なので、回りを気にせずに戦うことができる。

 

「空間に干渉したのですか。大変興味深い魔法ですが、教えてもらえる雰囲気ではないようですね」

「言うに及ばずだ!」

 

 リニスの質問に怒号で答えた仮面の戦士は、左太腿のホルダーから1枚のカードを取り出すと一瞬で魔法を発動した。これはフープバインドという捕獲魔法で、光の輪が複数同時に襲い掛かるため回避が非常に困難であり、流石のリニスもあっさりと捕まってしまった。

 

「くっ、油断しました!」

「抵抗は無駄だ。痛い思いをしたくなければ大人しく投降しろ。そっちの2人もな」

 

 そう言うと、少し離れた所で観戦していたシロンとグラハムに視線を送る。

 よし、いいぞ……。

 一時はどうなることかと思ったが、意外にすんなりと捕まえる事が出来たので密か安堵する。同時に、人質を手に入れたことになるので、残りの2人もすぐに確保できるはずだ。そうすれば憂いの一つは解決できる。

 と、普通ならそうなるところだが……。

 

「ニョホホー!? 猫耳美少女メイドによる拘束プレイ、絶賛実施中!! 強調されたパイオツが我輩の血を熱く滾らせるるるるるぅ!!」

「もうっ、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいっ!」

 

 なぜかシロンを喜ばせる結果となった。

 

「な、なんだコイツは!?」

「その疑問はもっともだが、二股している場合かな? お前が求めた相手は、まだ口説き落とせていないのだがね」

「……なに?」

 

 仮面の戦士はグラハムの回りくどい忠告に疑問符を浮かべるが、その答えはすぐに分かった。フープバインドに捕らわれていたリニスに変化が起きたからだ。

 

「トランザム!!」

「なっ!?」

 

 お馴染みの単語を叫ぶと同時に、リニスの身体が真紅に輝きだす。そして、力任せにバインドを引きちぎった。通常の3倍以上にパワーアップした戦闘機人の力をもってすればこのくらい朝飯前だ。しかし、そんなことなど知る由もない仮面の戦士は驚愕した。自分の魔法が純粋な力だけで破られるなど夢にも思っていなかったからだ。

 

「魔力をまったく感じないのに、なぜそんな力が出せる!?」

「それは乙女の秘密です」

 

 人差し指を唇に当てておどけるリニスはとても可愛らしかったが、その身に宿した力は常識を遥かに超えており、魔法至上主義に染まった仮面の戦士にとっては到底受け入れがたい存在だった。

 

「(稀少技能(レアスキル)の類か!? でも、やるしかない!!)」

 

 賽は投げられたのだ、結果を出すまで止まることなどできない。

 意を決した仮面の戦士は、得意の格闘戦を仕掛けてきた。たとえ力が強くても直撃しなければどうということはない!

 

「はっ!!」

「おっと!」

 

 鋭い蹴りを放ってリニスの側頭部を狙うが、片腕だけで軽く防がれる。

 早い。その上、防御力も高いらしい。これは想像以上に厄介な相手だ……。しかし、幾度かやりあっているうちに付け入る隙を見つけた。基本的な身体能力は高いが、それを扱う技術が拙いのだ。戦闘経験が多い分、かろうじてこちらの方が有利なようだ。

 ならば、罠を仕掛けてみるか。

 思い切った戦法に切り替えた仮面の戦士は、徐々に動きを遅く見せることで相手の錯覚を狙った。そして、相手が慣れてきたところで、最速の攻撃を放つ。仮面の戦士の術中にはまったリニスは一瞬防御が遅れ、腹部に強烈な蹴りを受けてしまう。

 

「ぐはっ!」

「ここだぁ!!」

 

 たまらず吹っ飛んでいくリニスに仮面の戦士は追撃を加えた。連続して腹部に拳撃を打ち込み、よろめいた所で袈裟懸けに回し蹴りをお見舞いして地面に叩きつける。そして、素早く空中へと飛び上がり加速用の環状魔法陣を展開すると、あらゆるエネルギーを込めた強烈な蹴りを繰り出した。

 

「食い破れ、神速の獣! アクセラレートファング!!」

 

最大限の魔力を込めた渾身の蹴りは、凄まじい威力を発揮して道路に大きなクレーターを作り、その中心にリニスを横たえた。とても見事な連続攻撃で、防御力に自信があったリニスもかなりのダメージを受けてしまった。

 お腹を押さえながらよろよろと体を起こしたリニスは顔をしかめる。

 積極的に抵抗していなかったとはいえ、ここまで一方的にやられては立つ瀬が無い。大人しいリニスでも想い人の前でかっこ悪いところは見せたくなかった。

 

「やっぱり、クロスレンジは苦手ですね。だから、私の得意な攻撃魔法をお見せしましょう」

「……なんだと!?」

 

 起き上がってきたリニスに再び立ち向かおうとしていた仮面の戦士は急に飛び退った。何故なら、リニスの回りに漏斗(ろうと)状の魔法弾が複数現れたからだ。これは全方位雷撃(オールレンジ)魔法【ファンネル】というもので、魔力で作った移動砲台を遠隔操作することによって自由自在に目標を狙い撃つことができる射撃魔法である。

 もちろん、かなり特殊な魔法なので相応の能力が無ければ使いこなすことは出来ず、仮面の戦士の世界では高度な専用装置が無ければ発動できないレベルのものだ。そんな魔法をなにも持たずに使われたのだから驚くのも無理はなかった。

 

「まさか、デバイス無しでこれほどの魔法を!?」

「愛の力を見せてあげます! 行け、ファンネル!」

 

 自分自身がデバイスのようなリニスは、無詠唱・短時間で魔法を発動できる。その利点を生かして防御体勢が整っていない仮面の戦士に攻撃を仕掛けた。

 30基のファンネルは複雑な軌跡を描きながら仮面の戦士を取り囲み、四方八方からレーザーのような雷撃を放った。見た目に反して威力は高く、仮面の戦士が咄嗟に使ったスフィアプロテクションをあっという間に打ち砕いた。そして、無防備になった所で全てのファンネルが体当たりを行い、そのエネルギーを余すことなく叩きつけた。仮面の戦士を中心にして大放電による嵐が巻き起こり、視界を白く塗りつぶす。その破壊力は絶大で、高ランクの魔導師でも耐えられるものではなかった。

 

「いかん、ピカチュウフラッシュニャ! 総員、対ショック・対閃光防御!」

「言われなくともやっている! このグラサン、実に効果的だ!」

「あっ、いいなソレ! クワトロみたいじゃん! どこで買ったか教えてくれる?」

「って、戦闘中の会話じゃないし!?」

 

 緊迫した状況を他所にのん気な会話をするシロン一向。もちろん、余裕があるからこその行動だったが、そんな隙を突くように新たな人物が現れた。その姿は、リニスと戦っていた仮面の戦士とまったく同じで、倒れていた一方を助け起こしている様子はかなり奇妙だった。格好から判断すると仲間なのだろうが……。

 

「ぶふーっ!! 男同士でペアルックかよ!? それってアレなの!? 仲良しアピールなの!? もしくは、カッパーフィールド的なイリュージョンなのー!?」

「気にするところが違うでしょ!」

 

 急にやって来たお笑いネタがシロンのツボにはまってしまい、付き合いの良いリニスもつい合いの手を入れてしまう。仲良しな様子でとてもハートウォーミングな光景だったが、流石に今はタイミングが悪かった。みんなで談笑している間に、仮面の戦士たちは転移魔法を使ってどこかへ行ってしまったのだ。同時に結界も無くなり、通常空間に戻ってきた一行は、人気の無い道路に突っ立ったまま途方にくれた。

 

「逃がしてしまいました……」

「去る者は追わずでいいさ。私たちへの片思いが続く限りまた来るだろうからな。告白の返事はその時に、銃弾に乗せて届けるとしよう」

「前代未聞の断り方だニャ」

<恋愛とは物騒な物なのですね>

 

 セフィの勘違いはともかく、自分のミスはいただけない。リニスは、マヌケな理由で仮面の戦士たちを取り逃したことに気落ちしてしまう。だが、グラハムは特に気にしていなかった。

 なに、戦いはまだ始まったばかりだ。奴らの狙いがあの石にあるのか自分たちにあるのかは分からないが、あえて立ちはだかるというのなら正々堂々と立ち向かうのみ! その挑戦、真正面から受けて立とう!

 

「なんてカッコイイ話にしようとしてるけど、実際は、ある事に気を取られてる間に逃がしちゃっただけでした!」

「フッ、身も蓋もないことを言う。少しはオブラートに包みたまえ」

「はぁ、そうだったんですか?」

 

 リニスは、さりげなく嘘をつこうとしていたグラハムをジト目で見つめた。グラサンをかけてかっこつけてる場合じゃないでしょうに、まったく何をしているのやら。

 その時、おかしなことに気がついた。なぜか分からないが、彼は話をしている最中ずっと顔を背けているのだ。

 

「なんでグラハムはこっちを見ないのですか? 流れからして気を取られたってことに関係ありそうですけど……」

「うむ、実に的確な推理だね! そんな賢い君に真実を教えてあげよう。っていうか、さっきから左胸の辺りがスースーしてないかニャ?」

「えっ、左胸がスースーってぇー!!?」

 

 シロンに言われて自分の左胸を見ると、メイド服が下着ごと破れて乙女の柔肌があらわになっていた。どうやら、仮面の戦士が放った回し蹴りを受けた時に破かれてしまったようだ。

 ようやく自分の状態に気づいたリニスは、ポロリと出ちゃってる豊かな左胸を見つめながら顔を真っ赤にした。

 

「キャ~~~~~~~ッ!!?」

「ええい! 人前で柔肌を晒すとは……破廉恥だぞ、リニス!」

「そう思うんだったら早く言ってくださーい!!?」

「見えるぞ! 私にもチチが見える!」

「って、貴方は堂々と見すぎです!!」

 

 ちょっぴり涙目になったリニスは、左胸を隠しながら2人を叱った。そしてこう思った。今度からはちゃんと防護スーツを着用してから戦おうと。

 

<はぁ、バカばっかです……>

 

 因みに、リニスのメイド服はセフィの力で元に戻した。奇跡の使い方がとても庶民的で、セフィはちょっぴり空しくなった……。

 

 

 一方、離脱した仮面の戦士たちは、とある無人世界へとやって来ていた。彼女たちの本拠地である【時空管理局】本局へは一気に跳ぶことができないため、ここを中継地点としていたのだ。

 2人は、滅多に人が来ない管理局の施設で体を癒しながら先ほどの顛末を語り合う。

 

「ごめんアリア。先走って失敗しちゃった……」

 

 仮面の戦士から元の猫耳少女へと戻ったリーゼロッテが力無く謝る。普段は快活な彼女だが、戦闘に負けた直後とあっては流石に元気も出ない。そんないつもと違う相方の様子に配慮して、双子の1人であるリーゼアリアが励ましの言葉をかける。

 

「あの状況じゃ仕方無いわよ。それより、今はゆっくり休みなさい、ロッテ」

「でも、あいつらは……」

「それならたぶん大丈夫だと思うわ。彼女は『敵対する意思はない』と言っていたし、他の2人も積極的に攻撃してこなかったから、まだ手立てはあるはずよ。そもそも、【闇の書】のことはまったく知らない様子だったからね」

「なるほど……ということは、しばらく様子見かな」

「ええ、こちらの戦力が私たちしかいない以上、無闇に手を出さないほうが得策だわ」

 

 少女のような容姿に反して歴戦の古強者である彼女たちは、逆境でも決して諦めなかった。

 そうだ、まだ出来る事はある。

 闇の書の存在に気づいていないのなら、【守護騎士】たちが出現するまでは放っておいても構わない。その期限は今から6月4日までの約2ヵ月。それ以降はどうなるか分からないが、少なくとも時間はあるのだから新たな作戦を練ることは出来る。

 このまま無視できるようであればそれで良し。もし関わってきた場合でも、好戦的ではないという救いがあるので、上手くすれば逆に利用できるかもしれない。

 

「何にしても、【お父様】に相談しないと。話はそれからよ」

「そうだね」

 

 考えてみたら、それほど悲観すべきことではなさそうだ。彼女たちは後ろ暗い気持ちを押さえ込むように希望を抱いた。

 この程度の問題で止まるわけにはいかないのだ。たとえ時空管理局を裏切ってでも、罪の無い人々を傷つけてでも、【あの目的】だけは成し遂げなければならないのだから……。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 リニスが色々と大変な目にあった翌日の朝。猫形態のシロンと一緒に気持ちよく眠っていたすずかは、近くで人の声が聞こえた気がして目を覚ました。もしかすると、寝坊しちゃったからファリンがお起しに来てくれたのかもしれない。ぼーっとした寝起きの頭でそこまで考えた。その途端に、ぱちりと目を開ける。

 いけない、遅刻しちゃう!

 慌てたすずかは勢い良く飛び起きた。すると、彼女の視界に妙ちくりんな黄色い物体が飛び込んできた。これは一体なんだろうと一瞬考え込んだが、彼女の答えが出る前にその物体が話しかけてきた。

 

「コニャニャチワー!!」

「……ほえ?」

 

 挨拶をしてきた黄色いぬいぐるみが、すずかの目の前に浮いている。よく見ると、小さいクマに天使の翼が生えたようなデザインでとても可愛らしいが……本当にぬいぐるみなのだろうか?

 

「あ、あなたは誰なの?」

「はぁ? なにゆうとんのや知世(ともよ)。ワイや、ワイ! みんなのアイドル、ケルベロスや!」

 

 なにを言っているのかまったく分からなかった。どうやら知世という少女と間違われているらしいが、その名前に心当たりは無い。それ以前に、このぬいぐるみの正体すら不明である。いきなり意味不明な状況に陥ってしまったすずかは、頭上にたくさんの疑問符を浮かべた。

 何とも言えない微妙な空気の中、ケルベロスと名乗ったぬいぐるみは、とぼけた顔ですずかを見つめている。これが、ケルベロス……。どう見ても名前とデザインが合っていないし、大阪弁もミスマッチでしかなかったが、本人が言っている以上、認めるしかない。

 

「それで? そのゼルベリオスとやらが一体何の用だニャ?」

「って、なんでドイツ語やねん! ワイはケルベロスや! 青の騎士とちゃうっちゅーねん!」

 

 いつの間にか起きていたシロンが会話に参加してきて、早速ケルベロスと口論を始めた。いや、口論というよりは漫才か?

 

「しっかし、お前って何なの? ぬいぐるみが喋るなんてホラー以外の何者でもないんですけど!」

「それはこっちのセリフや! なんで猫が喋っとんねん? お前なんか、ニャーで十分やっちゅーねん!」

「ああん? 猫なめんなコラ!」

「ふんっ! なめとんのはお前やコラ!」

 

 水と油というか同族嫌悪というか、とにかく似た者同士な2人は仲良く喧嘩しだした。異様な気迫を漂わせながら、お互いのおでこを押し付けあう。傍から見てるとすっごいファンシーな光景だが、心の優しいすずかにとっては看過できない状況だ。

 

「ちょ、ちょっと待って! 会ったばかりなのに喧嘩なんてしちゃダメだよ!」

「むむ……すずかがそう言うなら仕方無いニャ」

「まぁ、知世に迷惑かけたら、さくらにどやされるさかいなぁ」

 

 すずかの仲裁が功を奏して2人は意外にすんなりと矛を収めた。男たるもの、美少女の言う事は素直に聞くべし、といったところか。

 しかし、本音は違うようで……。

 

「ちっ、命拾いしたな、ケルゲレン!」

「はんっ、お前もな! って、誰がザンジバル級機動巡洋艦やねん!」

 

 結局、漫才になってしまう2人であった。

 これはこれで息が合っていると言えなくもないが、ずっと聞かされているすずかとしては苦笑せざるを得ない。ただ、仲良くなれる兆しが現れた点は良い事だと思った。

 実際、その数分後に状況は一変した。お互いの事情を話し合った結果、あっという間に和解した彼らは、先ほどまでの喧騒が嘘のように和気藹々となったのである。

 

「へぇ~、封印の獣って呼ばれてるんだー。カッコイイ二つ名持ってんじゃニャーか!」

「よせやいシロ坊! そないに褒められたら照れてまうやろ~? ま、当然の賞賛やけどな!」

「さすがケロちゃん! 特に根拠の無い自信が我輩を魅了するぜ!」

 

 話しているうちにお互いの事が気に入った2人は、肩を組みながらあだ名で呼び合うほどまでに仲良くなった。まったくもって極端すぎる連中である。

 あまりにのん気な様子にすずかはポカンとしてしまうが、先刻の話し合いによって大体の事は分かった。なんでも、今のケロちゃんは省エネ状態であり、真の姿になるとネコ科の大型肉食獣のようになるらしい。つまり、セフィの能力で召喚されてきた存在だったわけだ。

 

 

 朝っぱらから一騒動あったものの、その後は平穏無事に時が過ぎていった。

 午前中はケロちゃんと一緒に遊びまわり、午後は忍の要請に答えるべく技術データの作成に勤しむ。様々な要因を考慮した結果、シロンのいた世界の技術を大幅にデチューンすることになり、かなり地味な作業を強いられることになった。発明家である彼にとっては忍耐のいる作業となるがそれも仕方ない。悲しいけどこれ、仕事なのよね。

 因みに、暇を持て余していたケロちゃんは、ノエルの作ったオヤツを食べながらお世話役のファリンと共に優雅な午後の一時を満喫していた。

 そして、更に時間が過ぎた夕食後……すっかり仲良くなったケロちゃんとファリンは、現在進行形でじゃれあっていた。

 

「えへへ~、何度触っても飽きませんねぇ~、とってもフカフカで気持ち良いです~」

「さよか~? そないに気に入ったんならごっさ抱いてもええねんで~」

「では私もよろしいですか?」

「もちろんええで、ノエル。存分に楽しんだってや~」

 

 ものすごく馴染んでいるようでなによりである。

 だが、その光景を見たシロンは、名状し難い焦燥感に駆られていた。

 

「なんということでしょう! 我輩がこつこつ地道に築き上げてきたマスコット的ポジションが、いともあっさりと奪われてしまったじゃあーりませんか!!」

「いつそんな努力してたのよ?」

 

 こっそり進行していたらしいシロンの野望に対して、すかさず忍からつっこみが入る。確かに、これまでの言動を振り返ってみると、エッチなこととアホなことしか言ってない。それでも、彼の味方はちゃんといた。

 

「我輩は、ブームの過ぎたオモチャのよーに忘れ去られていく運命ニャのか~?」

「そんなことないよ! 私はシロンちゃんが一番好きだもん!」

「す、すずか……そこまで我輩の事を好いてくれてるなんて……こんなに嬉しいことはないっ!」

「ふふっ、甘えん坊さんだね」

 

 嬉しさのあまりすずかに抱きつくと、優しく受け止めてくれた。すっかり猫扱いされているけど、そんなことはどうでもいい。だって猫だし。

 

「どう? 気持ち良い?」 

「ああんっ、そんなとこ触っちゃラメェ~!」

「誤解を招くような声出すな!」

 

 再び忍からつっこみを受けるものの、シロン自身はアットホームな雰囲気を楽しんでいた。家族の会話って、温かくていいもんだな……。

 しかし、穏やかな時間はそう長くは続かなかった。たった今、ここより大分離れた場所から強大な魔力反応を感知したのだ。発生元が魔法少女か仮面の戦士かは分からないが、確かめに行かねばならないだろう。

 

「王子!」

「ああ、すごい魔力ニャ!」

「なんや、シロ坊たちも感じたんか?」

「オフコース! ってゆーか、ケロちゃんも分かんの?」

「当然や! こう見えてもクロウカードの守護者やさかいな。しかしこの魔力、クロウカードより強力やで!」

 

 ケロちゃんは、いつになく真剣な面持ちで語った。ここまで強い魔力を発するということは、それに見合った危険が待ち構えていると理解しているからだ。

 だが、シロンたちは決して退かない。自分たちには、そういった脅威に対抗できる力と強い覚悟がある。ならば、心の赴くままに立ち向かうべきだろう。

 まぁ、本音を言えば単なる野次馬根性だったりするのだが、もし本当に危険なものだとしたら放っておくことなどできない。無視を決め込むには、この場所に大切な物が出来すぎたから。

 

「とゆーわけで、行くぜ野郎ども!」

「心得た! このグラハム・ニャーカー、地獄の果てまでお供しよう!」

「私も、女ですけど一緒に行きます!」

 

 シロンの掛け声にグラハムとリニスが答える。彼らもまたシロンと同じ意見なのだ。

 

「しゃーないなー。弟分が行くっちゅーなら、ワイもじっとはしとれへんやろ」

「ケロちゃんも一緒に来てくれるのかニャ?」

「あたり前田のグレネードや! ワイも封印の獣と呼ばれる男、やる時はやるでぇ~!」

 

 ポンと胸を叩いてやる気を見せる。頼もしいというよりは微笑ましい感じだが、仲間を思うその気持ちはとても嬉しい。

 

「よし! それじゃあケロちゃんも一緒に……」

「ちょっと待って!」

「ん~? どうしたのニャ、すずか?」

「あの、迷惑かもしれないけど、私も連れてってほしいの」

「ニャンですと?」

 

 すずかからの意外なお願いにシロンは驚いた。荒事になる可能性があるのは分かっているのに、大人しいすずかが興味を持つとは思っていなかったからだ。

 確かに、すずかは争いごとが嫌いなので、その点に興味がある訳ではない。彼女が気になっているのは魔法少女の存在だ。

 シロンたちがいると言っている魔法少女は自分と同い年ぐらいかもしれない。そんな子供が何かのために戦っていると思ったら無性に会いたくなってしまったのだ。以前ルガールに襲われた事がきっかけで彼女の心に変化が起きていたのである。いざという時に力を振るえる勇気が欲しいと……。

 

「ふむ……忍さんはどう思うニャ?」

「……いいでしょう。行ってきなさい」

「お姉ちゃん!」

 

 少しは揉めるかと思ったが、忍はすんなりと賛成してくれた。彼女たちには、普通の家庭には無い特有の事情があったからだ。

 

「あなたも夜の一族だからね。荒事に慣れておいてもいいと思うわ」

「うん……」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私が言っているのは念のための準備って意味だから。それに、貴方の事はシロンちゃんが守ってくれるわ。そうよね?」

「モチのロンよ! すずかに言い寄るロリコンは、この我輩が駆逐してやる!」

「いや、ロリコン限定じゃダメなんだけど……」

「ふふっ」

 

 シロンのおかげで緊張もほぐれた。

 そうだ、彼がいればどんなことがあっても安心できる。普段の様子からは微塵も感じられないが、すずかにはちゃんと分かっていた。なんたって、彼は自分のヒーローだから。

 

 

 話がまとまり、屋敷の外に出て来た一行は、現場まで空を飛んで行くことにした。高速を出すためにシロンとグラハムは人間形態になり、リニスも防護スーツを装着した。現場までそこそこ離れているが、人に見つからないように飛んでも数分で行けるはずだ。

 

「すずかは我輩が運んであげるニャ」

「うん!」

「それじゃあ背中におぶさるニャ」

「えっ!?……こ、こうかな?」

「もっとしっかり掴まるニャ。落っこちたら死ぬほど痛いぞ?」

「わ、わかったよ!」

 

 ヒイロの言葉を借りて危機感を煽ると、すずかはぎゅっと力を込めた。人間形態のシロンに抱きつくのは流石に恥ずかしかったようだが、これでもう大丈夫だろう。

 すずかの安全確認もしたし、記念撮影用のデジカメもちゃんと持ったので、後は飛び上がるのみである。

 

「飛ばねぇ猫は只の猫だ。ゆえに、俺は行くのさ。あの大空の果てまでな!」

「おお~、全く必要性が無いセリフやのに、やたらと心に響きよるで~!」

 

 肩に掴まったケロちゃんとおバカな会話をしながら空中に浮かび、上空500メートル辺りで一気に加速する。防御魔法によって空気抵抗や重力などの影響を緩和しているので、すずかに大きな負担はかかっていない。そのため、綺麗な夜景を存分に楽しむことができた。大都市の部類に入る海鳴市の夜景は光に溢れていて、黒いキャンバスに色とりどりの輝きを描いていた。

 

「わぁ~! すごく綺麗……」

「その意見に同意する。慎ましい女性もいいが、華美な装いもまた魅力的だ」

「なるほど……服装のバリエーションを広げないと……」

「こんな時になにメモってるのニャ」

 

 これから戦いが起こるかもしれないというのに、のん気な会話を楽しみながら飛行する。のんびりしているようでスピードは速く、あっという間に魔力反応があった場所へと到着した。

 上空に浮かびながら確かめてみると、そこは学校だった。すずかたちが通う私立聖祥大学付属小学校とは別の公立学校だ。もちろん何の変哲も無いごく普通の学校だが、今は異常な現象が起こっていた。シロンたちが見下ろす先に正体不明の怪物がいたのだ。

 

「ダークサイドに堕ちたモリゾーみたいのがいるー!?」

 

 シロンは、黒い毛玉の塊のような怪物を見て驚く。魔法少女を追っている最中にあんなものと出くわすとは思っていなかったからだ。しかし、幸運なことにお目当ての魔法少女もその場にいた。

 怪物の前方にすずかと同世代と思われる少女が駆け寄ると、いきなり桃色の光に包まれた。そして、一瞬で姿を変える。

 

「変身しおった!?」

「あの子が魔法少女……」

 

 アニメで定番の変身魔法を見て、すずかとケロちゃんは関心を持った。服装が変化する魔法は既にリニスがやって見せたが、エッチなボディースーツとは感動の方向性が違う。更に、グラハムの方向性もまた別物だった。

 

「あのカラーリング、エクシアと瓜二つではないか! よもやこのような形で再会できようとは! 想定外にも程があるぞ、ガンニャム!」

「やっぱ言うと思った!」

 

 魔法少女の服装は白を基調としたトリコロールカラーなので、そこからエクシアを連想したグラハムは興奮してしまった。実際、彼女は圧倒的とも言える可能性を秘めているので、彼が言っていることも強ち間違いではない。しかし、その力が開花するのはもう少し先の話であり、今はまだ戦いとは無縁な普通の少女にしか見えなかった。

 ならば、助太刀せねばなるまい。どのみちそのつもりだったのだから何も迷うことなど無いだろう。みんなで頷きあうと、一気に魔法少女の下へ降下した。

 とうとう待ちに待ったご対面であるが、果たして魔法少女とはどのような子なのだろうか。彼女の前に降り立ちながら興味深げに視線を送る。すると、なにやら見覚えのある顔が飛び込んできた。栗色の髪がよく似合うこの子はまさか……。

 

「さくらやないかー!?」

「って、お約束のネタをありがとよっ!」

 

 もちろん彼女はカードキャプターさくらではなく、シードキャプターなのはである。魔力を感知した彼女は、異世界からやって来たユーノ少年と一緒に一狩りしに来たのだ。

 シロンたちは、そんな彼女たちの前に空から乱入したのだが、顔を見合わせた途端、お互いに驚いてしまった。

 

「だ、誰!?……って、シロンちゃん!? それにすずかちゃんも!?」

「ええー!? なのはちゃんなの!?」

 

 噂の魔法少女はよく知っている人物だった。あまりにも意外な展開に、すずかは大きな衝撃を受けるのだった。




最後のシーンでアニメ3話の冒頭まで来ました。
次回はフェイトが登場する予定です。
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