魔法小猫リリカルシロン   作:カレー大好き

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第9話 襲来、超電磁魔法少女!

 シロンたちが捜し求めていた魔法少女は、顔見知りの高町なのはだった。予想もしていなかった事実にみんなで驚いてしまう。こんなに身近にいたとは、まさに燈台下暗しである。

 それはなのはも同様で、あっさり秘密がばれてしまったことに酷く慌てた。彼女はかなりの頑固者で、一度自分で決めたことは1人で解決しようとする傾向があるため、今回のような異常事態ですら誰にも話していなかった。しかし、隠していた当人たちが現場に来てしまっては意味が無い。特に、すずかには知られたくなかったのに……。

 なのはは、ルガールの一件を深刻に受け止めており、大切な親友を無闇に怖がらせたくなかったのだ。元々、心配させたくないという気持ちもあって秘密にしていたのだが、あの出来事がなのはの決意に拍車をかけていた。

 しかし、すずかはなのはが思っている以上に強かった。そして、彼女の守護者として一緒にやってきた頼もしい存在もここにいる。そう、我らがヒーロー、ケロちゃんである!

 

「ようやくワイの出番やな!」

「って、なぜそうなるっ!?」

 

 せっかくの出番を取られたシロンが、冒頭からツッコミを入れる。

 

「おいコラ、ケロちゃん! 主人公差し置いてなにやってくれちゃってんの!?」

「甘い! マックスコーヒーよりも甘いでシロン! 脇役が主人公を食ってまう展開なんざ昨今じゃ当たり前や! ちゅーわけで、この場はワイに任しとき!」

 

 ケロちゃんは、勇ましく啖呵を切ると可愛らしく胸を叩いた。どうやら本当に1匹でやる気らしいが、小さいぬいぐるみのような姿ではどう見ても勝ち目がなさそうだ。はっきり言って無謀としか思えない挑戦であり、すずかはもとより、彼と初めて会ったなのはとユーノからも危惧する声が上がる。

 

「ケロちゃん、危ないよ!」

「そ、そうだよ! あれはとっても強いんだよ?」

「なのはたちの言う通りです! ここは僕らに任せてください!」

 

 すずかたちは、ケルベロスの身を案じて真剣に説得してきた。見た目だけで考えれば正しい判断だし、その優しさには感動を覚える。しかし、ここにいるのは、只のぬいぐるみではなく封印の獣なのだ。さくらカードが全て揃っている今、彼は本来の力を発揮することができるのである。

 しかも、この世界に来てから魔力が増大していた。設定上、他の世界より魔力濃度が高いことが影響してパワーアップしているのだ。これなら、あのくらいの怪物に後れを取ることはない。

 

「あんさんたちの忠告はありがたいけど、なんも心配することはあらへん!」

「えっ!?」

「よう見とき! 今宵のワイは一味ちゃうで!」

 

 そう言うと、ケルベロスの身体が発光し、足元に見たことのない魔法陣が現れた。その直後に彼の翼が大きくなり、小さな体を包み込むと眩しい光を発した。そして、光が消えた後には、白い翼が生えたライオンのような獣となっていた。

 その姿はとても神々しくて、ぬいぐるみのようだった時の面影はほとんどなかった。確かに、今の彼ならあの怪物とも対等以上に戦えそうだ。

 変身したケルベロスは、先ほどまでの子供声とは違う、落ち着いた成人男性の声で話しかけてきた。

 

「どや、これやったら安心できるやろ?」

「は、はい……」

「なんか、独身貴族を楽しんでる間に婚期を逃しちゃったベテラン声優のような声だけどニャ」

「なにその具体的かつ嫌な想像!? よう分からんけど目から汗が出てきよるで……」

 

 妙に破壊力のあるシロンの言葉によって戦う前にダメージを受けてしまったが、今はへこんでいる場合ではない。何とか気を取り直して、戦いに集中することにする。あの怪物を颯爽と倒せば、名誉挽回もできるはずだ。

 

「よっしゃ! ほな行くでぇー!!」

 

 勇ましく叫んだケルベロスは、怪物のいる方向に向き直った。今はとてもむしゃくしゃしているのだ、こちらが変身し終わるまで律儀に待ってくれたヤツでも全力で倒してやる!

 しかし、彼が向けた視線の先に怪物はいなかった。その代わり、先ほどまで怪物がいた場所にグラハムとリニスが立っている。辺りを見回してもヤツの姿は見当たらないので、もしかしたら……。

 

「なんとたわいの無い。鎧袖一触とはこのことか」

「さすがです、グラハム!」

「って、既に終わっとるんかい!?」

 

 ツッコミを入れつつ盛大にずっこけるケルベロス。

 なんと、みんなで騒いでいるうちに怪物は倒されていた。これまでずっと襲われなかったのはそういう理由だったのか。

 

「なんちゅうことしてくれとんのや、ハム兄さん! もっと空気ってもんを読んで欲しいわ!」

「それは承服しかねる注文だな。私は空気が読めず、人の話を聞こうともしない、俗に言う嫌われ者だ。ゆえに、人に言われてどうこうできる問題ではないのだよ」

「いやいや、それはどうにかせなあかんやろ!?」

 

 我が道を爆進しているグラハムにそんなことを言っても(ぬか)に釘であった。それでも、無事に怪物退治が済んだのだから良しとすべきところだろう。

 同時に、思わぬ収穫もあったし……。

 

「王子、あの怪物を倒したらこんなものが出て来たぞ」

「ほう、アイテムを落としていったのかニャ? って、それはあの石じゃニャーか!?」

 

 グラハムが手にしていたものは、自分たちが探していたひし形の青い石だった。なるほど、やっぱり魔法少女の……なのはの目的はこれだったのか。

 シロンは、石を見た瞬間に大体の状況を理解してニヤリとする。

 基本的には怪物を倒してドロップアイテムをゲットしていくわけか。そして、それを狙う第三勢力もいるらしいので、いずれは争奪戦になると思われる。まさに、これぞ魔法少女と言うべき王道展開だ。

 杖を持った魔法少女に言葉を喋る動物のお供。そして、乗り越えるべき困難と倒すべき敵……。そう、舞台は全て整っている。パーフェクトだ、ウォルター!

 願い通りのシチュエーションに思わず内心で感動していると、なのはの肩から降りてきたイタチのようなお供が話しかけてきた。

 

「あなた方はジュエルシードをご存知なのですか?」

「いんや。ジュエルミートとかジュエルチョコなら知ってるけど、それは知らね……ってか、チミは一体何者かね? 言葉を喋るイタチと遭遇するなんて、不思議体験アンビリーバボーなんですけど?」

「それを言ったら、あなた方も同じだと思いますけど……」

 

 自分のことを棚にあげるシロンに対して、ユーノは初ツッコミを決めた。

 このファーストコンタクトが、後に戦友となる2人の運命を結びつけることになろうとは、この時誰にも分からなかった。

 

 

 怪物退治を終えた一行は、校庭にあった遊具に腰掛けながらお互いの事情を話し合うことにした。まずは、観念したなのはたちからこれまでの経緯を聞いた。その内容によると、やはりなのはたちは、あの青い石――ジュエルシードを集めているらしい。

 そこまではシロンたちの予想通りだった。ジュエルシードを追うことで目的の魔法少女にも会えたのだから、その点に文句は無い。しかし、ユーノという存在は誤算だった。

 

「なるほど、ユーノは異世界から来たんだニャ?」

「はい。僕は、ここではない世界から来ました」

「……それは虚数空間を越えてきたということかニャ?」

「いいえ、違います。僕の出身地は、次元空間に複数存在する次元世界の一つです。そこでは、別の世界に移動する魔法があって、僕はそれを使って来ました」

 

 ユーノの言う次元世界とは【平行世界】のことであり、決して交わらない全く別の世界という意味だ。そのため、因果に縛られることがなく、次元空間という同一の場所に複数存在することが可能で、技術さえあれば移動することもできる。ようするに、高次元存在がそのように解釈して創造した世界だった。

 しかし、そんな事情など知る由もないシロンは、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「次元空間? 虚数空間ではないのニャ?」

「はい、違います。世界と世界の狭間には次元空間と呼ばれる超空間があるのですが、虚数空間はその更に外側にあって、今はまだ移動する手段がありません。だから、シロンさんたちもどこかの次元世界から漂流してきたんだと思いますよ?」

「ほほぅ、そういうことか……」

 

 ユーノの話を聞いてシロンは警戒心を強めた。自分たちが異世界から来たということは、なのはの口から彼に伝わっていると思っていたが、その懸念が当たっていたからだ。

 幸いにして、幼いなのははシロンの説明を全て理解できず、虚数空間を越えて来たという話は伝わっていなかったが、それでも猫妖精という種族は新発見なのでユーノの興味を大いに惹いていた。恐らく、未知の次元世界からやって来た次元漂流者だろうと当たりをつけて、解決法を考えていたのである。

 もちろん、只の親切心なのだが、嘘をついているシロンにとっては寝耳に水のありがた迷惑だった。

 

「なのはの話だと帰れる手段があるようですけど、もし大変そうでしたら、僕が時空管理局に問い合わせてみますよ」

「なにぃ!? 不可視境界線管理局だと!?」

「いえ、時空管理局です。簡単に言えば、次元世界をまとめて管理する警察ですね」

 

 またしても厄介そうな話が出て来た。どうやら、小鳥遊六花と対立している某組織とは無関係なようだが、名称からは似たような雰囲気を感じる。

 というか、あれは中二病の妄想で実在しないものなのだが……。

 

「時空警察とか時空ジャーナリストなら聞いたことあるけど、時空管理局なんてこの世界に無いニャよ?」

「それは、ここが【管理外世界】だからです。別世界に渡る能力を持たない世界は基本的に不可侵なのですが、次元漂流者を発見したと言えば助けに来てくれますよ」

 

 なるほど、確かに警察みたいな組織だ。とはいえ、なるべくなら関わり合いにならないほうがいい。セフィの存在がバレたら絶対揉め事になるはずだから、触らぬ神に祟りなしだ。

 

「……ですので、シロンさんの出身世界についてもっと詳しく聞かせてモガッ!?」

「おい、イタチ。あんま調子にのんなよ? 俺を怒らせると、かなり切ない目に遭うぜ?」

「……ふぁい。しゅみまへん」

 

 シロンはユーノの顔を片手で掴み上げると、理不尽な脅迫をした。言葉の意味はよく分からないが、とにかく逆らってはダメだと本能が告げている。

 得体の知れない恐怖を感じたユーノは、なんで怒られたのか分からないまま首を縦に振るのだった。

 

「ところで、なのは。こんな危ないことしてるのに、なんで恭也がいないのニャ? シスコン兄貴なら絶対ついてくると思うんだけどニャ」

「えっ? え~っとぉ……実はね、家族のみんなにも内緒にしてるんだ」

「ん~? なぜに?」

「それは……私にしか出来ない事だったし、みんなに迷惑かけたくなかったから……」

 

 なのはは、シロンの質問に対して自信なさげに答えた。シロンたちが来てくれた事でほっとしている自分に気づき、1人で頑張るつもりだった決意が揺らいでしまったのだ。

 そのような事情で落ち込んでしまったなのはを見て、ユーノは弁護を始めた。

 

「待ってください! なのはは、僕のお願いを聞いてくれただけなんです!」

「ほぅ、まさかお前が口止めしてたんじゃなかろうニャ?」

「いいえ、そこまでは……。でも、魔法でなければあれを倒せませんから、他の方に知らせても危険が増えるだけです。そもそも、魔法の事を管理外世界で話すのは管理局法に違反する行為ですから」

 

 こいつはなにを言ってるんだ? この期に及んで管理局法だと? ふざけやがって!

 最後の言葉を聞いて、シロンはムカッときてしまった。自分たちの法律を守って無関係の恩人を危険に晒すとは。勝手に厄介ごとを押し付けといて、なめた言い草しやがる。

 怒り心頭になったシロンは、目線を合わせるために猫形態になると、ユーノの頬に思いっきり猫パンチを浴びせた。

 

「バッキャロウ!!」

「ぐはっ!」

「語るに落ちたな、イタチ野郎! お前は我が身可愛さに、なのはの命を軽視したのニャ!」

「えっ!? そ、そんなことは……」

「じゃあ、なんで家族にすら秘密にしていた? 怪物との戦闘でなのはが大怪我する可能性もあったのに、そいつを知らせないたぁ言語道断! 管理局法とやらには恩を仇で返せと書いてあんのか、コラッ!?」

「!? ……いいえ、違います……」

 

 自分のミスを改めて指摘されて、ユーノは真っ青になった。無我夢中であったことと、なのはの才能に目が眩んでしまったことが重なって忘れていたが、暴走体との戦いは命がけなのだ。現に自分も死にかけたのに、なのはのことを気遣ってやれなかったとは……。

 

「僕は、なんてことを……」

「メソメソするな、男だろう! 泣いてるヒマがあったら、責任とって『娘さんを僕にください』ぐらい言って来いや、ああん!?」

「は、はい! ……って、なんでそうなるんですか!?」

 

 急に話の内容が変わってユーノは取り乱した。当事者の1人であるなのはは意味が分かっておらず不思議そうな顔をしているが、彼女に対してそれなりに意識があるらしいユーノには効果抜群だ。

 そんな純情少年の様子に気をよくしたシロンは、彼の首に腕を回して顔を寄せると小声でつぶやいた。

 

「ふっ、ありとあらゆるギャルゲーを制覇してる我輩にはまるっとお見通しだぞ、お前がなのはに惚れていることをニャ!」

「えっ!? い、いや、その、あの……」

「皆まで言うな! お前の想いが本物なら、応援してやらんでもないニャ。たとえ、人間とイタチという禁断の恋だとしても!」

「いや、イタチって、あの、僕は……」

「ええい、皆まで言うなと言ってるだろーが!」

「ぶふぅ!?」

 

 2度目の猫パンチで再び吹っ飛ぶユーノ。シロンは、恋愛に関してとてもスパルタだった。

 1人置いてけぼりになっていたなのはは、なし崩し的に師弟関係を築き始めた2人を見つめながら呆然としてしまう。そこへ、隣にいたすずかが話しかけてきた。

 

「なのはちゃん。魔法のことをみんなにお話しよう?」

「すずかちゃん。でも……」

「大丈夫、誰も迷惑だなんて思わないよ。私もシロンちゃんも、全力で協力するからから、ね?」

「……うん。ありがとう、すずかちゃん!」

 

 なのはは、自分でも意外なほどにすんなりと受け入れた。彼女は頑固者だが、理知的な側面も持ち合わせているので、シロンの言葉をちゃんと理解していたのである。ただし、恋愛に関することは、まだよく分かっていないが。

 

「上手く纏まりそうですね」

「ああ。まさしく、雨降って地固まるだな。友情とは、ぶつかることで深く結びつくものだ。傷つくことは、きっと無駄ではないさ」

「まぁ、一部はすっごい一方的ですけど」

 

 年上2人は、目の前で繰り広げられる青春群像劇を穏やかな心で見つめる。色々と問題は残っているものの、確実に前進することは出来たのだから喜ぶべきところだろう。

 だが、先ほどからすっかり黙り込んでしまっている獣が1匹いた。いつの間にかぬいぐるみの姿に戻っていたケルベロスは、何故か変な汗をいっぱいかいていた。

 

「どうしたんですか、ケロちゃん?」

「……いやぁ~、ど~もせぇへんで~? ほんまに!」

「はぁ」

 

 あからさまに態度がおかしいが、それにはちゃんと訳があった。彼が木之本桜という少女にクロウカードという魔法アイテムを集めさせた経緯が、なのはたちの状況と酷似していたからだ。 確かに、あれも命にかかわるような危険が結構あったなぁ……。改めて過去の激闘を思い出して冷や汗を出すケルベロスだった。

 

「あっち帰ったら、マッサージでもしたろ……」

「?」

 

 後日、ここでの経験を受け取ったケルベロスは、事情の分からないさくらにサービスして不思議がられるのであった。

 

「ところで、ジュエルシードを封印したいのですが、渡してもらえますか?」

 

 シロンとの対話(肉体言語)をなんとか終えたユーノは、ようやく本題に入った。なんか色々と話がこじれてしまったが、ここに来た目的を忘れてはいけない。しかし、ここでも彼の思惑を超えた展開になる。

 

「あー、アレね? アレは渡せないよん」

「えっ? なぜですか?」

「だって、まだお前の物って証明できてないじゃん。名前書いてないし」

「そ、そんな! あれは危険なものなんですよ!?」

「ええい、往生際が悪いな少年! この世界には、こういう故事があるのだよ! お前の物は俺の物、俺の物も俺の物!」

「すっごい横暴ー!!?」

「しかも、アレがお前の物と認定されたら、もれなく巨額の賠償金が請求されます! やったね!」

「ぐはぁ!!」

 

 全く考えていなかった経済的なリスクにユーノは撃沈した。

 確かに、迷惑をかけたのだから償いをしなければならない。たとえ国交の無い異世界でも、無視をしてはいけない事実だ。シロンも、その点を考慮してジュエルシードの譲渡を拒否したのである。決してネコババしようとかそんなんではないのだ。

 いい笑顔を浮かべたシロンは、その辺の事情をなのはたちによ~く説明した。巧みな話術で彼女たちを篭絡……もとい、納得させたので、今後は後顧の憂い無く活動できる。

 

「よし、今日からジュエルシード獲得競争の始まりニャ。お互いにベストを尽くそうぜ!」

「って、さりげなく爽やかに纏めようとしないでください!」

 

 こうして、おかしなジュエルシード争奪戦が始まるのであった。

 

 

 シロンとすずかの説得によって全てを話すことにしたなのはとユーノは、家族とアリサがいっぺんに集まれるように予定を組んだ。丁度、次の日にシロンたちも交えてサッカー観戦をすることになっていたので、それを利用することにした。

 家族が帰ってくるまで自宅で待ち、全員が揃った所で包み隠さず話を進める。

 事実を知らなかった面子は当然のように驚いたが、真摯な気持ちで謝るユーノの姿を見て許しを与えるのだった。話を聞けば、ジュエルシードを封印する必要があることも分かるからだ。あれが複数同時に暴れだしたら被害が甚大なものになることは想像に難くない。そんな最悪の事態を食い止めるには、魔法の才能があるなのはの力が必要だった。

 

「な~に、その辺は心配無用ニャ! 我輩たちが、なのはをビシバシ鍛えてやるからニャ!」

「ふふっ、とっても頼もしいわね、シロンちゃん」

「ニャフフ~、それほどでもあるけどニャ!」

 

 シロンは、なのはの母親である桃子に抱かれてご満悦である。彼女は3児の母ながらとても若々しくて美人さんなのだ。ぶっちゃけ、シロンのストライクゾーンど真ん中だった。

 

「ふっ、人妻との危険なアバンチュールを楽しむのもまた一興。ついに我輩も大人の階段を上る時が来たニャ!」

「って、そんなことさせてたまるかっ!」

 

 桃子の熟した胸を堪能していたシロンは、怒ったアリサに掴み上げられてしまう。

 

「あーん! 女神のパイオツが遠ざかってゆくー!」

「もう、ホントにおっぱい好きなんだから……。ところで、なのはを鍛えるとか言ってたけど、競争するんじゃなかったの?」

「まぁ、なのははまだジムレベルだからニャ。ジムスナイパーレベルになるまで面倒みないと危なっかしいニャ」

「へぇ、言葉の意味はよく分からないけど、なのはのことはちゃんと考えてるのね」

「もちろんだニャ。そして、ゆくゆくはガンダムレベルになったなのはをぶっ飛ばして、名実共に主役となるのニャ!」

「褒めた傍から野望が駄々漏れ!?」

 

 突拍子もないシロンの計画にみんなで苦笑する。この数年後、ガンダムのような強さを身につけたなのはが白い悪魔と呼ばれるようになることも知らずに。

 というか、その片鱗は既に現れていた。シロンの言葉に触発されたなのはが、急激にやる気を見せ始めたのだ。いつまでも弱いままではいられないから……。

 

「シロンちゃん! 私、魔法の特訓がんばるよ! これ以上みんなに心配かけたくないもん!」

「よく言ったぁ! それでこそ、流派東方不敗の一番弟子ぞぉ!」

「へぇ、流派東方不敗か。すごく興味深いね。どんな動きをするのか、ぜひ見てみたいな」

 

 シロンの冗談を本気にして、なのはの父親である士郎が身を乗り出す。彼は元ボディガードなので、こういう話は大好きなのだ。大怪我をして引退したくせに懲りない男である。

 そのやり取りを見ていた姉の美由希と兄の恭也もそう思い、一斉に呆れた声を上げた。

 

「もう、お父さんまで調子に乗って……」

「魔法の特訓なんだから見ても意味ないだろう」

「しかも嘘だし」

「ネタばれ早いな! っていうか、嘘なのかよ!」

 

 あっさり白状したシロンに恭也がツッコミを入れる。

 まったく、この猫は片時も油断できない。いつの間にか美由希に抱っこされてるし。

 

「シロンちゃん、嘘なんてついちゃダメだよ?」

「はーい、以後気をつけまーす、美由希お姉さま!」

「きゃっ、そんなに動いたらくすぐったいよ~!」

「眼鏡っ娘に栄光あれー!」

「って、おいお前! あんまり調子にのるな!」

 

 美由希の胸に顔をうずめて動き回るシロンに恭也の怒りが炸裂する。

 やっぱりこの猫は油断できないと、シスコン魂を燃え上がらせるのであった。

 

 

 以上のように、いつものペースで高町一家を引っ掻き回すシロンだったが、すっかり打ち解けて仲良くなることに成功した。その流れで、なのはのことを頼まれることになる。魔法に関して門外漢であることを自覚しての判断だったが、シロンはその信頼に応えて見せようと決意するのであった。何といっても、そうするためにこの世界へ来たのだから。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 なのはの魔法少女発覚イベントから1週間ほど経った。

 その間にシロンは、ミッドチルダ式の魔法とデバイス――魔法を使う際の補助として用いる道具――について研究した。なのはを特訓するための前準備という理由のほかに、他の魔導師と敵対することになった場合の備えでもあった。実際に仮面の戦士と戦っているので当然の行動だ。なのはたちの話ではそのような者たちと会った事はないらしいが、備えあれば憂いなしである。

 なのはをダシにユーノの協力を取り付けて異世界の魔法を学び、なのはが使う魔法の杖・レイジングハートを解析してデバイスの仕組みを理解していく。イオリア・シュヘンベルグと同等以上の優秀な頭脳を持ったシロンは短期間の内にそれらを自分の物とし、しばらく一緒に行動していたユーノは、彼の天才っぷりを心酔するまでになっていた。

 そして本日、4月の第3日曜日に、お茶会と称した進捗会議が催されることとなった。

 月村家のだだっ広い屋敷前にテーブルとイスを持ち出して、優雅なひと時を過ごす。面子は、3人の少女たちとユーノ、それにシロン一行だ。ノエルとファリンは屋敷内で仕事をしており、忍と恭也はどっかの部屋でイチャイチャしていると思われる。

 

「爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! バニッシュメント・ディス・ワールド!!」

「なにそれ、魔法?」

「ううん、ちょっとした現実逃避」

 

 お子様にはお見せできないであろうことをしている恭也たちに嫉妬しつつも本題に入る。

 

「え~、連日にわたるユーノとレイジングハートの協力により、なのは・ガンダム化計画の準備が整いました。この場を借りてお二方には感謝を伝えたいと思います。サンキュ、お前ら!」

「こちらこそ、すごく勉強になったよ!」

<No problem (お気になさらず)>

「2人ともおつかれさま~………………ってゆーか、ガンダム化ってなに!? 嫌な予感しかしないんだけど!」

 

 おかしな単語を聞き取って、思わずノリツッコミを決めるなのは。魔法の特訓をする気はあるが、得体の知れないものにされては困る。なのはは、誤魔化すように口笛を吹くシロンに詰め寄ってガンダムとは何なのかを聞き出そうとした。

 そんな2人の様子を見つめながらアリサは考え込む。自分も魔法が使えたらと。

 1週間前、ユーノから魔法の話を聞いた際に自分も使えないか尋ねてみたら、念話が聞こえない時点で資質は無いとの答えが返ってきた。とても残念だが、そのような証拠があるのなら魔法は使えないのだろう。それでも、なのはと並んでがんばりたいという気持ちが燻っていた。

 

「ねぇ、シロン。私にも魔法が使えるようになる方法ってないのかな?」

「あるよ」

「そっか、やっぱりないよね……って、あるの!?」

 

 ダメ元で聞いてみたら超意外な返事が返ってきた。その言葉に他のみんなも驚く。

 

「本当に!?」

「本当ニャ」

「私でも使えるようになるの?」

「もちろんすずかも使えるニャ」

「でも、アリサとすずかには魔法の資質がないんだよ?」

「あ~、リンカーコアとかいうヤツね。そんなモン無くても魔力を作り出せる機関があるから平気へっちゃらさ。そいつとデバイス技術を融合すれば、【なんちゃって魔法少女】の出来上がりニャ」

 

 シロンの言っている機関とはCNドライヴのことである。リニスに使われている小型CNドライヴを解析した結果、魔法で縮小していることが分かり、再現することが可能になったのだ。小さくなっている分、出力も低下しているが、それでもSランク近いパワーを出せるので、少女1人を魔法使いにするには十分だ。

 しかし、ユーノにしてみたらとんでもない話だった。

 

「それって、ロストロギア級の大発明じゃないか!? もし、管理局に知られてしまったら、いきなり拘束されるかもしれないよ!」

「ほう、管理局とはそれほど物騒な組織なのかね?」

「はい。軍隊に近い側面もあるので多少強引な手段を用いることもあります。でも、このような場合は仕方ないかもしれません。もし、そんな技術が次元世界に広まってしまったら、世界の秩序を根底から覆してしまう可能性すらありますから」

 

 ユーノの危惧していることは強ち的外れではない。強力な魔法資質を持った人間が極端に少ないからこそ平穏が守られているのに、誰でも高ランクの魔導師になれるようになったら現在の秩序など呆気なく瓦解してしまう。

 

「まぁ、そうなるだろうね。でも、我輩だってちゃんと考えてるニャ」

 

 シロンの考えた対策はセフィの能力を使うことだった。CNドライヴを装備した物に対して【自分の常識内にある物と誤認する】ように願えば、事実を知っている者以外には認識できなくなる。もちろん、グラハムとリニス以外には内緒だが。

 

「後は、ユーノさえ黙っていてくれればいいのニャ。考えてみろ、なのはたちが管理局のロリコン野郎どもに捕まって、ちょめちょめされたら許せないだろ? 男として!」

「……う、うん! 言葉の意味はよく分からないけど、みんなに辛い思いはさせたくないよ!」

「どう見てもシロンのほうが悪役よね?」

「そうだね……」

 

 強引かつ腹黒いシロンの説得によってユーノは篭絡されてしまう。そもそも、彼自身だって、仲良くなったシロンたちに危害が及ぶことなど全く望んでいない。だからこそ、あえて否定的な意見を上げる。

 

「でも、それなら尚更アリサ用のデバイスは作らないほうがいいよ」

「なによユーノ、私の邪魔をする気?」

「そんなつもりはないけど……。ただ、君たちの安全を考えれば当然の結論だよ」

「ふむ、確かにユーノの意見は一理ある。だがしかし、アリサの決意を否定する権利は誰にも無いニャ。大好きななのはの力になってあげたいというツンデレの決意をな!」

「人の心を勝手に読むな!」

「ジオングッ!」

 

 本心を言い当てられて怒ったアリサにアイアンクローを食らうシロン。そこだけ見ればお笑い話であり、実際になのはとすずかは微笑んでいる。だが、アリサの参戦を否定しなかったため、ユーノだけは渋い顔になった。

 無論、素人の少女を容易に巻き込むべきでないことはシロンも理解している。

 ただ、ジュエルシードという脅威がある以上、対抗手段を持たせることはそれほど間違った判断でもない。街を破壊するほどの力があるらしい暴走体に襲われたら死んでしまう可能性もあるからだ。それに加えて、元々モビルアールヴを使い易くするアイデアを考案していたこともあり、シロンも乗り気になったのである。

 因みに、アリサにデバイスを作る気になった一番の理由は、ただ単純に質問をされたからだ。忍たちは特異な出自ゆえに異能の力を求めようとはせず、高町一家はユーノの言葉を鵜呑みにしてシロンに同じ質問をすることはなかった。ようするに、彼らには縁が無かったのだ。

 更に言えば、CNドライヴの数も限られており、予備の3基だけしか使えないという現実的な制限もあったため、シロンも積極的にアピールしなかった。というか、野郎の変身など見たくないので、恭也が頼んできても聞く耳持たなかったと思われる。今回、話が成立したのはアリサが美少女だったおかげでもあった。

 

「ふぅ、頭がもげるかと思った!」

「そんなことより、私のデバイスを作ってくれるのよね?」

「よ、よろこんで……と言いたいところだけど、ちゃんとデビットの許可を取ってからでないとダメニャ」

 

 デビットとは、大会社の経営をしているアリサの父親である。

 以前助けてもらったハロを気に入ったアリサが、父親の会社で作れるようにシロンと計画を進め、数日前に初顔合わせを果たしていた。その際、デビットは賢くておバカなシロンのことを大いに気に入り、今ではお互いに信頼が置けるほどの仲となっていた。

 

「パパの許可を取ればいいのね、分かったわ。許してくれなきゃ抱きつくの禁止って言えば一発でオッケーよ!」

「哀れデビット! あなたの娘さんは結構やり手ですニャ!」

 

 自分のせいだという事を棚に上げてデビットに同情する。ちょっと可哀想だから、後で愚痴でも聞いてやるニャ。

 なんてことを思っていたその時、これまで静かに話を聞いていたすずかが意を決したような表情で話しかけてきた。

 

「シロンちゃん、私のデバイスも作ってくれないかな?」

「えっ、すずかの分も?」

「本気なの? デバイスを持つってことは戦うってことなのよ?」

「うん……本音を言えば戦いたくないけど、それでもみんなを守れるような力を持ちたいの。もう怖がってるだけなのは嫌だから……」

「すずかちゃん……」

 

 俯くすずかの姿を見て、みんなはルガールの一件を思い出した。あの出来事は、予想以上に少女たちの心に影響を与えていたのである。

 ただし、マイナス方面にではない。

 自身の弱さに気づいた彼女たちは、それぞれの方法で成長する道を模索し始めたのだ。眩しいまでのひたむきさ。それこそが子供の特権であり、未来を切り開く力だ。ならば、先達として手助けしてやるべきだろう。彼女たちが選んだ魔法という道を。

 

「分かったニャ。ご両親の許可を得られたらすずかの分も作ってあげるニャ」

「うん、ありがとう!」

「な~に、注文されたから承っただけニャ。後は、ほれ、報酬さえ貰えれば万事解決ニャ」

「報酬?」

「その通~り。世の中みんなギブアンドテイク。社会ってのはそうやって動いてんの。ゆえに、お子様と言えど、甘やかすわけにはいかんのだよ!」

「見た目に似合わずリアリストね!?」

 

 シロンは、ファンシーな見た目に反して世知辛いことを言い出した。確かに、タダでやるには大きすぎる仕事だが、その代金となると一体どれほどになるか見当もつかない。普通に考えれば小学生が払える金額ではないはずだが……。

 

「とゆーことで、我輩が大好きな翠屋のシュークリーム10個で手を打とう!」

「「「「思いのほか安かったー!!?」」」」

 

 なのはたちは揃って驚きの声を上げた。特に、ユーノは信じられないといった表情を浮かべる。次元世界を揺るがしかねないものがシュークリーム10個分だなんて、いくらなんでも安すぎでしょ。

 しかし、この話はシロンの発明家としての欲求を満たすためでもあるので、報酬に関係なくギブアンドテイクの関係は成立している。シュークリームを要求したのは、只単に食べたかっただけだ。

 

「翠屋のシュークリームがあれば、我輩は後10年は戦える!」

「そんなに気に入ってるんだ」

「えへへ~、経営者の娘としてはとっても嬉しいな」

「う~ん、僕は素直に喜べないよ……」

 

 1人落ち込むユーノを除いて子供たちは笑顔になる。みんなで魔法が使えると思ったらとても嬉しくなってきた。これなら特訓も楽しいものになるだろうと期待に胸を膨らませる。

 だが、それを行う前に問題が発生した。前にも経験したことのある大きな魔力反応が感じられたのだ。割と近い場所だったので、感知できた者は警戒心を強めた。

 

「この反応、ジュエルシードが発動したのだろう、少年?」

「は、はい! 間違いありません。どうやらこの屋敷の敷地内にあるようです」

「えっ、そんな近くに?」

「それじゃあ、すぐに封印しなきゃ!」

 

 なにはは、テーブルに置いてあったレイジングハートを握り締めると、すぐに駆け出した。パートナーのユーノも彼女の後を追いかけていく。

 

「なのは!」

「アリサちゃんたちはここで待ってて!」

「でも……」

「なのはの言う通りにしておくニャ。今ついて行っても危険なだけだから」

「……分かったわ。なのはのこと頼んだわよ」

「おうともよ! リニス、2人のことを頼んだニャ!」

「はい、任せてください」

 

 給仕をしていたリニスに言葉をかけて、シロンとグラハムも現場へ向かっていく。

 まったく、こんな身近にあったのに気づかなかったとは、何たる失態。自身の迂闊さに怒りを覚えながらもなのはに追いつき、共に目的地へと向かう。

 はたして、そこにはなにが待ち構えているのだろうか。

 

 

「でっけー猫がいましたー!?」

 

 速攻でネタばらしをすると、シロンたちの目の前には頭頂高が40mほどもありそうな超大型黒猫がいた。見覚えのある猫だったが、月村家の飼い猫ではない。首に青いバンダナを巻いたあの黒猫はまさか……。

 

「また会えたな、白い小猫よ!」

「やっぱヅラかよ!」

「ヅラじゃない、桂だ!」

 

 お馴染みのセリフで分かるように、この黒猫は桂小太郎だった。

 言葉を喋るバカでかい黒猫が目の前にいるというとってもシュールな光景に、なのはとユーノは目が点になる。

 

「し、知り合いなの?」

「まぁそんなとこだけど……なんで大きくなってんだよ。非常識にも程があるだろ。せめて、地球生物の範疇には留まってくれよ」

「そう邪険にするものではない。人間が怪獣ジャミラになってしまった、あの時の悲劇を忘れたのか?」

「そんな古いネタ、子供にゃ分かんねーよ!」

「とか言いつつ、普通につっこんでいるではないか」

「ええい、そんなことはどうでもいい! それより、セットで付いてくる銀さんはどこニャ?」

「ああ、銀時なら……ここにいるぞ」

 

 桂はそう言うと、バカでかい前足を使って自分の足元を指差した。見ると確かに銀時の姿がある。肉球の形をしたでかい足跡の中心に、サイバイマンにやられたヤムチャのような格好で倒れているが。

 

「くっ、お前ほどの男が登場する前にやられてしまうなんて!」

「いやいや、どう見てもお前が踏んだろソレ!?」

「仕方がなかったのだ。これには深いわけがあるのだからな」

「深いわけニャと?」

「そう、あれは今から5分前のことだ……」

 

 以前と同様に突然召喚されてきた桂は、これまた同様に便意を催していた。

 

「回想始まって早々にソレかよ!? ってか、なんで毎回そのタイミング!?」

「俺は強運の持ち主だから、運が尽きることはないのだろう」

「上手いこと言ってるけど、内容はサイテーだよ!」

 

 思わず【うん】について揉め始めたが、続けるのもアレなので話を戻そう。

 とにもかくにも催してしまった桂は、落ち着ける場所を探して辺りを歩き回った。その時、草むらに落ちている青いひし形の石を見つけてしまう。明らかに人工的なものなので何だろうかと近づくと、それに反応するように石は神秘的な光を放って桂を魅了した。その姿はまるで……ウルトラマンのカラータイマーではないか!

 

「それを見てつい童心に帰ってしまってな、石を胸に当てて『デュワッ!』っと叫んだら、ご覧の有様になっていたのだ」

「いい年こいてなにやってんのー!?」

 

 ようするに、大きくなりたいという願いが正しく叶ってしまった訳だ。哀れな銀時は、その際に巻き添えを食らったのだろう。

 

「なんてこった! こいつは偶然ジュエルシードを拾って幼稚な願いを叶えちゃったのかよ!」

「信じられない! よほど純粋な意識でなければ願いは正しく叶わないのに……」

「あいつの思考がそれだけ単純だっただけニャ」

「失敬な! そこは『子供のように純粋な人なんだ~、素敵!』と感心するところだろう?」

「お前はもう黙ってろ!」

 

 これ以上不毛な争いをしていても埒が明かない。早いとこ、アレをぶっ飛ばしてしまおう。

 とはいえ、相手はサイコガンダム並みのでかさなので、人間サイズでは大変そうだ。それなら、アレの出番だろう。

 

「久々に暴れるぞ、グラハム!」

「望む所だと言わせてもらおう!」

 

 息を合わせたシロンとグラハムは、ビルドカードを取り出すとそれぞれの愛機を召喚した。グラハムの機体は前にも使ったフニャッグカスタムだが、シロンの機体はアルニャトーレの内部に格納されていたアルニャアロン……別名【金ジム】だった。

 

「「なんかすごいの出て来たー!!?」」

 

 あまりに世界観の違うロボットが出てきたので、なのはたちはビックリした。あれって明らかに魔法じゃないよね。っていうか、私たちの出番いらないんじゃない?

 思わず呆然となり、自分たちの存在意義について考え込んでしまう。

 そんな微妙な空気の中、人間形態となってそれぞれの愛機に乗り込んだ2人は、早速、桂に向けて攻撃を開始した。

 

『会いたかったぞ、フニャッグ! やはりお前は空が似合う!』

『行くぜ金ジム! この世界での初陣と洒落込もうぜ!』

 

 大空へと舞い上がった2機は、まず手始めにCNビームライフルを連射してチクチクと攻める。もちろん、非殺傷設定の魔法攻撃だが、狙いどころが容赦なかった。

 

『サイズの違いが勝敗を分かつ絶対条件ではない!』

『そうニャ! 急所を狙えば超大型巨人だって倒せるニャ!』

「おい、止めろ!? そんな切ないところばかり狙うんじゃないっ!!」

『大丈夫ニャ! 痛いのは最初だけってよく言うだろ?』

「それ意味違うから! 詳しく言うとR-18になっちゃうヤツだから!」

 

 いきなり襲われた桂は、とりあえず防御に徹した。意外なことに、グラハムたちの攻撃は巨大な肉球によってほとんど防がれてしまっている。日頃から真選組と追いかけっこをしている彼はでかくなってもやたらと機敏で、憎たらしいまでにしぶとかった。

 

『ええい、これでは切が無い! 私は見た目以上に性急(せっかち)な男なのだよ……!』

 

 業を煮やしたグラハムは、ライフルを捨ててCNビームサーベルを抜き放つ。接近戦で決着をつける気なのだ。

 意図を察したシロンの援護を受けて桂の背後を取ると、そのまま間髪を入れずに急下降する。そして、地面に激突する寸前に引き起こし、巨大猫の股下を強襲した。

 見事な機動で完全に死角を突いた。これには桂も対応できず、棒立ちのまま攻撃を受けるしかなかった。

 

『その巨体、私の愛で貫いてみせよう!』

 

 CNビームサーベルを構えたフニャッグカスタムは凄まじい勢いで腕を突き出し、その切っ先を桂の【尻の穴】に突き刺した。

 

「ふおおぉぉぉお~~~~~~~!!?」

『これが私のフルブラスト! この熱き想い、存分に受け取るがいい!!』

 

 そう叫ぶと同時に、全ての魔力をCNビームサーベルに回した。CNドライヴから生み出された膨大な魔力が桂の体内で暴れ回り、ジュエルシードが作り出した幻想をぶち壊してゆく。

 夢の終わりが始まると、桂の巨体が眩い光に包まれて一瞬視界がホワイトアウトする。そして、次の瞬間には元のサイズに戻った彼とジュエルシードの姿があった。

 

『ようやく終わったな……』

『ああ、トップファイターである私をここまで苦戦させるとは。賞賛と敬意に値する!』

「綺麗に纏めようとしても無理だからね!?」

 

 ユーノの言う通りだった。

 最後の決め手があまりにもお下品だったため、直視してしまったなのはの顔が真っ赤になってしまう。流石に、いたいけな少女の前であんな光景を見せてはいけなかった。

 とはいえ、大きな被害を出すことなくジュエルシードを確保できるのだから、これ以上の文句は言えない。とりあえず、今回の勝負はなのはたちの負けとなった。

 シロンとグラハムはモビルアールヴをカードに戻すと、猫形態に変身しながら戻ってきた。機動兵器まで持ち出して大人気ないとは思うが、とにかく勝ちは勝ちなので、なのはの代わりに封印作業をする。

 

「さぁて、後はジュエルシードを封印するだけ……って、なにぃ!?」

 

 目的の場所に視線を送ったシロンが驚愕の声を上げる。なんと、気絶していると思っていた銀時が、いやらしい笑みを浮かべながらジュエルシードを手にしているではないか。

 

「ちょ、おま、なにやってんの!?」

「はっ、んなモン決まってんだろ? こいつを使って、【一生遊んで暮らせる銀さん帝国】を築くんだよ!」

 

 実に彼らしいおバカな願いだった。

 

「なにそのマダオ(まるでダメな男)発言!! ってか、その石が何なのか分かってんの?」

「ああ、気絶してるフリをしながら全部聞かせてもらったぜ。主人公の俺がヤムチャのモノマネすんのはすっげぇ屈辱だったが、こいつと引き換えならその甲斐もあるってもんだ!」

「腐ってやがる! ダメすぎたんだ!」

「なんだよお前、さっきから人を長谷川さんみたいに言いやがって。ドラゴンボールが目の前にあったら誰でも夢が膨らむだろーが。今なら、世界征服を企んだピラフ一味の気持ちがよ~く分かるぜ」

「少年漫画の内容を真顔で語ってる時点でダメなんですけど!」

 

 やはり、この男とまともに会話するのは不毛だった。中学生が昼休みにジャンプ派かマガジン派かで論争してるみたいなモンだ。

 そんなことより、今はジュエルシードだ。あれが再び暴走したらまた面倒なことになる。うだつが上がらないアラサーおじさんにいつまでも付き合っている場合ではないだろう。

 

「それは危険なものニャ! さっさとこっちに返すニャ!」

「おっと、その手にゃ乗らねーよ! 先に拾ったのは俺だしぃ、こっちの国には、剛田総理が作った【お前の物は俺の物、俺の物も俺の物】っていう有名な法律があんだよ!」

「お前らの国に総理いねーだろ! ってか、法律でもねーし!」

「女性の嘘は魅力となるが、男のそれは罪となる! 恥を知れ、天パ猫!」

「って、あなたたちも同じこと言ってたよね!?」

 

 確かに言っていたが、それはそれ、これはこれである。シロンたち3匹は、まるでユーノのツッコミを無視するように激しい戦いを繰り広げ始めた。

 鋭い猫パンチの応酬で、観戦しているなのははニコッとしてしまう。だって可愛いんだもん。じっと見ているうちに、今すぐすずかたちを呼びに行きたい衝動に駆られる。

 その時だった、気持ちのいい晴天に雷鳴が轟いたのは。

 

<Thunder rage get set>

 

 どこからか機械的な男性の声が聞こえてくるのと同時に轟音が鳴り響き、喧嘩を続けているシロンたちの真上に一筋の雷光が降り注いだ。

 

「「「「あばばばばば!!?」」」」

 

 シロンたち3匹に加えて地面で伸びていた桂も巻き添えを食らい、4匹仲良く動きを止める。そして今度は、可愛らしい少女の声が聞こえた途端に、先ほどよりも激しい雷撃が炸裂した。

 

「サンダーレイジ!!」

「「「「ぐはぁ~~~~~~~!!?」」」」

 

 強力な電撃を不意打ちで食らった4匹は、プスプスと煙を出しながら悶絶してしまう。グラハムたちはもとより、流石のシロンも無防備な猫形態では耐え切れなかった。

 そんな彼らの惨劇を見てユーノは驚く。今の電撃は魔法だ。しかも、自分の知っているミッドチルダ式である。なぜそんなことが分かるのかと言えば、シロンたちの上空に見慣れた魔法陣が浮かんでいるからだ。

 

「まさか、本当に僕たちの他にも魔導師がいるのか!?」

「えっ!?」

 

 シロンから仮面を被った魔導師がいることを聞いていたユーノは身構え、それに釣られたなのはも警戒しながら上空を見上げた。しかし、彼らの視線の先にいる人物は、男性ではなく少女だった。魔法陣が消えた場所に1人の少女が浮かんでいたのだ。

 黒いバリアジャケットに身を包んだ金髪ツインテールの美少女が、涼やかな眼差しでこちらを見つめている……。

 彼女こそ、もう1人の魔法少女……後に、なのはのライバルとなるフェイト・テスタロッサだった。




やっとフェイトを出せました。
一応、彼女はヒロイン候補です。
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